【第83回定例記者レク概要より抜粋】
今日が石川議員ほか2名の、小沢一郎氏の秘書の拘留満期で、通常であれば4時の次席の定例会見で処分が発表になると思っていましたが、ずいぶん時間が遅れて、先ほどようやく処分が行われたことが発表されたようです。地検の側の今日の処分についての公表の内容、説明の内容などの情報をまったく得ていませんので、とにかく3人が起訴されて、小沢氏は不起訴になったということだけを前提にコメントをしたいと思います。
まず、最初にお断りしておきますが、私がこういう発言をする目的、意図は、決して特定の政治家、政党を擁護しようということではありません。今回はたまたま検察対小沢という対立構図になっているので、私が検察捜査を批判する立場で発言することが、あたかも小沢擁護であるように受け取られがちですが、私はそういうつもりはまったくありません。恐らく、検察捜査の対象が小沢氏ではなく、ほかの政治であっても、自民党であっても、公明党であっても、私は検察の捜査に問題があれば、必ずその問題を指摘すると思います。
そういう意味で、今回の事件がどういう事件なのか、そこにどういう問題があるのか、それが検察の捜査のあり方、処分のあり方として正しいのかということを、長年検察の組織にお世話になった人間として言わざるを得ないという思いで発言しているものです。
そこでまず、今回の民主党小沢幹事長の資金管理団体、陸山会の土地取得をめぐる政治資金規正法違反事件がどういう問題であったのかということを考え、今日の処分についてコメントする前に、そもそも政治資金規正法とはどういう趣旨・目的で作られた法律で、政治資金規正法の罰則適用はどのように行われるべきなのか。まず、その一般論を十分理解した上でこの問題を考える必要があると思います。
ご存じのように、政治資金規正法は、政治資金の収支の公開を行うことを通して、健全な民主主義の発展を図るという法律だと思います。要するに、政治資金を国民が自主的に提供するということ自体は政治資金規正法は、決して悪いことではない。それは、政治資金規正法の浄財という表現にも表れていると思います。それ自体は悪いことではないけれども、それをどういうような政治資金、どういうような政治家、政党の政治資金が、どういう個人、団体、企業によってまかなわれているのかをきちんと国民に明らかにして、そして、そういう政治資金によってどういう活動を行っているのか、政治資金をどのように使っているのかも明らかにして、それによって、政治家や政党の政治活動を評価していって、最終的には国民が、有権者が、政治選択を行っていくことを目的にしているわけです。
そういう面で考えると、政治資金規正法が国民に対して公開を求めている、その政治資金に関する情報の最もコアの部分は、その政治家、政党の政治資金がまずどのような個人、団体、企業によってまかなわれているのかという部分です。そして、どのように使われているのかという部分です。政治団体の収支を一つ一つ、できる限り会計帳簿に記載したり、収支報告書に記載していくことも必要なことではあります。でも、目的はそういう資金の出所と使い道を明らかにすることであって、そういう面で虚偽の記載が行われていたり、重要な事実が隠されていれば、政治資金規正法の趣旨・目的に照らして重大な違反行為と評価される、ということになると思います。
ですから、これまで検察の政治資金規正法違反の摘発において、最も重要な処罰の対象となってきたのは裏献金、ヤミ献金でした。これは、そういう献金が行われたこと自体が、収支報告書に記載されていないわけですから、悪質重大な政治資金規正法違反に該当することは疑いのないところだろうと思います。
そういう観点から、政治資金規正法に形式上違反するかどうかだけではなくて、実質的に悪性、重大性を持った政治資金規正法違反かどうかをしっかり見極めて、刑事罰の対象にするかどうかを判断することが検察の重要な役割だというべきだと思います。そういう観点から、今回の処分を考えてみたいと思います。
まず、石川議員ら3名の起訴のうち、特に現職の国会議員である石川議員の起訴は非常に重大な問題だと思いますので、この問題についてまず考えてみたいと思います。
容疑事実は収入総額と支出総額の過少記入です。問題は、収入総額、支出総額の過少記入によって、一体、何が隠されていたのか。犯罪の実質は何なのかということです。ここで、非常に重要な事実が、前から私はいろいろな場で指摘していますが、2004年の陸山会の収支報告書に小沢一郎氏からの借入金4億円という記載があるということです。
この事実は、石川氏の処分だけではなく、小沢氏の処分も含めて、非常に重要な事実です。
問題は、これまで2004年の収支報告書に4億円の借入金の記載があっても、しかし、4億円について不記載の事実が、実質的には収入金額の過少記入ということですが、実質的には4億円分が記載されていなかったと言われてきた理由は何なのかというと、4億円の小沢氏からの借入の記載というのは、銀行からの融資……小沢氏名義で銀行から借り入れたお金、それを小沢氏から陸山会が借りた。それが4億円の借入金と記載されているだけで、現金で小沢氏から4億円入ってきたとされている部分については、収支報告書には記載されていない、というのが、どうも検察の見方のようですし、今日もそういう考え方で起訴が行われたと思います。
問題は、それが意図的な不記載、意図的にそこの部分の収入を収支報告書に書かなかった、と言えるかどうかということです。それに関しては、私は、お配りしている今週出した『日経ビジネスオンライン』の論考の「上」の方にも書きましたように、問題は、現金の借り入れとは別に行われた、現金の提供とは別に行われた銀行からの借り入れが定期預金担保、4億円の定期預金を担保に行われたという、この4億円の定期預金の部分です。この4億円の定期預金が、陸山会の名義になっているので、結局、支出した金額が小沢氏からの現金で不動産の購入代金を支払った分に加えて定期預金の4億円という資産もある。だから、合わせておおむね8億円くらいの支出に見合う収入がなければいけない。ところが、現金の借り入れの分が書いていない、そこが違反だということになっているわけです。
しかし、本当に石川氏が自白しているというふうに言われているように、意図的に、小沢氏から現金が入ってきたことを隠したかった、それを書きたくなかったから書かなかったと言うのであれば、もっと簡単なやり方があったはずです。
それは、小沢氏から現金で借り入れたお金で不動産の購入代金を払った。その分、陸山会のお金で設定した定期預金の名義を、小沢氏名義にしていればいいわけです。それだったら小沢氏にとってはプラスマイナスゼロですから、何も借入なんて書く必要はないです。
小沢氏の入ってきたお金が小沢氏名義の定期預金になった。その定期預金を担保にして銀行から借りましたということであれば、小沢一郎氏名義での銀行からの借入金について借入金4億円という記載をするだけで、それで済んでいるわけです。小沢氏からの現金の提供のことを表に出したくないのであれば、そういう取扱をすれば十分だったわけで、なぜそういうやり方をしないで、金融機関からの借入の4億円は記載したが現金の借り入れは記載しなかったと言えるのか。そういうことを前提に考えると、事務上のミスではなく、意図的な不記載だとは思えません。
これについて、石川氏は早くから自白をしている、記載しなかったことを認めている、というんですが、その自白の内容が、今のようなことも前提にして、定期預金を小沢氏名義にするということは、例えば、何かこういう問題があるとか、それは考えたけれどもやらなかった、こういうふうにして現金の部分を書かないで隠しましたというような自白でなければ、自白として意味がないということではないかと思います。
足利事件でも、自白が客観的に虚偽であった、客観的な事実と符合しなかったということがあれだけ問題になっているわけです。ですから、自白は単に「認めた」という情報だけではなく、本当にその自白が客観的に真実なのかということの検証が必要だと思います。私には、今のこの部分がどうしても納得できないし、それについての報道がまったくない。それについて疑問を解消できる情報がまったくない。ですから、本当に石川氏の自白が、自白たり得るのか疑問です。
もう1つは、前から指摘していますが、要するに、実質的に考えてみると、この4億円の借入に見合うものは、4億円弱の土地購入代金です。
あくまで、支出は、実質的に見ると、4億円にしか過ぎないわけです。いろいろ新聞でも書かれているように、だから、定期預金担保の銀行からの借り入れはいらなかった、必要なかった。それをあえてやったのは、お金を隠すためだった。現金で入ってきたお金を隠すためだった、ということが報道されていますけれども、隠すためだったという話であれば、そこの部分が偽装であれば、それは、政治資金収支報告書に書くべき事実としても、本当に書かないといけない事実と言えるのだろうか。
偽装のスキームは、むしろ実質的には書かない方が正直な記載と言えるのではないだろうか。もし、それがゼネコンからのヤミ献金を隠すための偽装だったなら、そのゼネコンからのヤミ献金の方が犯罪事実として重要になるわけですが、それがはっきり出てこない限り、今回の政治資金規正法違反の事実は、犯罪性がどこにあるのかがさっぱりわからない。
最初に言いましたように、政治資金規正法の趣旨・目的からすると、すべての収入支出を記載しないといけないと言っても、結局、一番重要なことはその政治団体の政治資金が誰からの、どういう企業、団体からの拠出によってまかなわれているのかということです。そこのところについての問題が全然出てこない。結局、今報じられているところによると、身内のお金がぐるぐるっと回っただけだという意味で、石川議員の起訴されたとされる事実は、私はまったく犯罪としての重大性、悪質性についてぴんと来ません。ですから、起訴がずいぶん遅れていると聞いたときに、ひょっとすると石川議員の起訴にはまだまだ問題があるということで、検察庁の内部でまだもめているのかなと思っていたところです。まさに、こういう政治資金規正法違反で現職の国会議員が起訴されたということが、今回の事件の、一連の事件の最大の問題であって、これから石川議員が民主党を離党するという話もありますが、石川議員が起訴されたのであれば、今後の公判に、マスコミも、国民も、最大の注目をしていかなければいけないと思います。