「政策」と「政争」の関係

階猛議員の小沢グループからの離脱に関して、「政策」と「政争」を対比する見方をしたことに関して、何人かの方々からご意見を頂いた。 私なりに、政治活動における「政策」と「政争」の関係について整理してみたいと思う。

「政策」と「政争」は、相互に、手段と目的の関係にある。

政治家や政党が掲げる「政策」を実現するための手段が「政争」である。それによって政権を獲得することで初めて「政策」を実現することが可能となる。いくら立派な「政策」を掲げていても、「政争」による権力奪取がなければ「絵に描いた餅」である。

一方、民主主義国家においては、「政争」は基本的に選挙を通して行われることになる。選挙における国民の選択において、「政策」は「政争」の重要な手段となる。国民に支持される「政策」を提示できるかどうかが、「政争」に勝ち抜き政権を獲得するための鍵を握ることになる。また、そもそも、「政争」による権力の奪取は、何らかの「政策」の実現という目的があって初めて正当化される。それがなければ、単なる権力欲実現のための「闘争」に過ぎないということになる。

このように、「政策」と「政争」は相互に補完関係にあり、どちらが欠けても完全なものとはならない。

「政策」に関して問題となるのは、それをどの程度具体化し、その優劣の判断を、誰がどのように行うのか、ということだが、最近では、国政に関してはマニュフェストが重視され、政党が掲げるマニュフェストを有権者が選択するという形で選挙が行われるようになっている。

問題は、マニュフェストで示された政策にどの程度の実現可能性があるのか、それをどう評価するかだが、それは、結局のところ、政党への期待と信頼の程度によることになる。

「政策」という面で言えば、最大の政策集団は官僚組織だ。有能な官僚が、合理的で緻密な政策立案とそのための立法作業を行い、政府与党の「政策」を支えてきた。政治は、官僚組織に政策面で依存してきたのである。

そのような官僚依存から全面的に脱却することをスローガンに、具体的なマニュフェストを掲げた民主党が圧勝し、我が国で初の選挙による政権交代が実現したのが2009年の総選挙であった。この時、国民の多くは、民主党という政党の「政策」実現を期待した。

しかし、現在の民主党野田内閣は、総選挙でのマニュフェストには掲げていなかった、というよりむしろ、否定していたに近い「消費税増税」という「政策」を、“政治生命をかけて”行おうとしている。

それに対して、小沢一郎氏を中心とするグループは、そのマニュフェストに反する「政策」に徹底して反対し、民主党を離党して新党を立ち上げた。消費税増税に反対に国民の声を、支持拡大につなげようとしている。

こうした小沢氏の政治手法には、常に、「政策」ではなく、「政争」「政局」中心という評価がつきまとう。「消費増税の前にやることがある」という主張が「具体的に何をやるのか」と批判されるのも、その一つである。

それは、官僚主導の国の在り方を根本的に覆そうとする政治勢力にとって、ある意味では不可避なのかもしれない。

「政争」による政権奪取は、本来、政策実現の手段のはずである。しかし、「政策」のプロでもある官僚に対抗して、独自の政策を立案し、その「政策」を掲げて「政争」に勝利することは容易ではない。そのため、「民主主義」「官僚主導の打破」というスローガンを全面に掲げて、まずは官僚側と結託した政治勢力との「政争」に勝つこと、「政策」の具体化は政権をとった後で、という考え方になる。勢力や支持の拡大には多額の政治資金が必要となり、「政策の具体化より権力の拡大」という姿勢とあいまって「金権腐敗」の批判につながる。

このような勢力による政権獲得が現実化すると、官僚組織にとっては大きな脅威となり、官僚組織側の権力機関である検察や、記者クラブの存在などで基本的に官僚と近いマスコミからも様々な攻撃を受けることになる。これに対抗して、政治活動は、ますます「政争」、「政局」中心となり、その分、「政争」によって政権を獲得した後の政策の具体性が希薄になっていく。

一方、民主党主流派は、仙谷氏など、野党時代、「政策」中心の政治を指向してきた政治家が中心だが、政権交代後、マニュフェストで掲げていた政策で実現したものや、具体的な成果ほとんどない。結局、その「政策」は、従来の官僚の発想から抜け出せず、めぼしい成果も挙げられないまま、民主党政権は終わりを迎えようとしている。

もともとは官僚組織と一線を画した「政策」の実現を標榜していたはずだが、小沢グループとの「政争」に明け暮れたためか、官僚組織と急速に接近し、「政策」においても官僚主導とほとんど変わらないものになった。「検察の暴走」に対して何ら有効な手立てが得られなかった原因も、根本的には官僚組織との距離感にあると言えよう。

小沢新党は、マニュフェスト違反の消費増税への世の中の根強い反発・不信を追い風に支持の拡大を図ろうとしているが、独自の政党として、民主、自民、公明の各党に対抗するためには、多くの政策課題に関するそれなりの具体的な政策を立案することが必要となる。小沢グループの中では「政策」中心の政治家だった階猛議員の離脱もあって、「政策」面の貧弱さは否めない。

「政策」と「政争」の複雑で微妙な関係は、既存の政治、社会システムの改革をめざす政治活動における永遠のジレンマだと言えよう。

nobuogohara について

弁護士
カテゴリー: 政治 パーマリンク

「政策」と「政争」の関係 への7件のフィードバック

  1. 岩畑 政行 より:

    郷原氏の『政治活動における「政策」と「政争」の関係について整理』は、一般的な説明としてはよいが、具体的な「時代、政治を斬る」解説にはなっていない。郷原氏の立ち位置を明確にした「政争」に関する、即ち、「小沢新党」に対する展望論を述べて頂きたい。

    端的に、『「政策」と「政争」の複雑で微妙な関係は、既存の政治、社会システムの改革をめざす政治活動における永遠のジレンマだと言えよう。』でくくると、国民は永遠に政治不信を増幅させるだけになってしまう。

    • nobuogohara より:

      確かに、その通りだと思います。しかし、小沢グループの中で「政策」面での一つの光明のように思って期待していた階議員の離脱、一方で、野党時代、「政策」面で協力してきた仙谷氏とその周辺の政治家の人達はあのような状況です、私自身、政治に一層失望してしまったというのが偽らざるところです。今後、政治による社会システム変革にどのような展望を持ったらよいのか、私自身、よくわからないというのが実際のところです。

  2. m.harima より:

    階さんのことはどうでもいいが、ほかの問題でツイッターを追いかけたら郷原さんが出てきました。「国民の生活が第一」という政党の歩みの一歩は非常に感動しました。党議拘束なし、それぞれ集った議員さんたちが自立した政治活動をする。むかーしいた会社の理念が、学び、成長し、自己管理できる、創造的な仕事ができる人材になれと。それと同じような、小沢さんは険しい道しるべを議員たちに示した。そして自ら先頭に立っている。
    かつていた会社はグループごとに利益、バランスシート、先の利益の展望を見据えて、自分で給料を決められる会社でした。就業規則は9時出勤だけ。誰にも管理されず、状況を十分考えて仕事の段取りを決め、自己決定し一か月空けられるなら海外旅行もできた。
    フリーだが、自分の行動、仕事に全責任を負う。やっと世界に通じる政治家を育てられる環境を整備できた小沢さん。喜びが一入なのではないか。

    かつての会社の社長は(社長と呼んだことはない)米国の経営発想法を導入した方でした。「会社を辞めたい」と、有能な同僚が社長に相談がてらのつもりで言うと「分かりました」。トップに言い訳はいらないです、階さん、郷原さん。
    小沢さんの国策捜査を検察がやるまで小沢一郎さんは好きでも、知りたいとも思わなかったので、私には検察さま様です。管理社会になりあがっていった果てが、日本の社会の縮図のような大津皇子山中学事件。野田政権と全く同じ構造です。子どもたちのために少しでも日本の社会に風穴を開けてほしいという願いを込めて「国民の生活が第一」を希求します。

  3. nobuogohara より:

    「国民の生活が第一」小沢新党が、そういう組織になったら、いいですね。「政策」面などに関して、多くの人達による支援の輪が広がり、支えられることで、組織が進化していくことができるかどうかが鍵なのではないかと思います。

    • m.harima より:

      コメントありがとうございます。かつての会社社長は、自分が会社を去るにあたって、会社を分断し「オリーブの木」にしました。
      中園氏が言われるように、政策集団のトップは官僚組織だと私も考えます。「クラーク」になるなが社長の口癖でした。事務官、事務職です。法律の専門家は法律を逸脱できない体制の中の発想しかできないという意味で事務職です。先を見据えて国民の生活を考えるクリエイティブな国家経営集団になり立法府を築いてほしいものです。

  4. 中園房夫 より:

    検察の暴走に対して徹底的に正論で持って論破される郷原さんの信奉者では有りますが、今回の投稿記事にはいくつかの疑問点が有ります。
    1)「政策」という面で言えば、最大の政策集団は官僚組織だ。: と官僚組織が政策を作ると現在形で肯定されている様にとれる。
    基本政策は政治家や政党が作りその政策を具体化する為に官僚組織を使って合理的で機密な政策立案とその為の立法作業を行わせるべきであるが,これまでの政党は政策そのものからして官僚組織に全面的に依存して来た。
    そのような官僚依存から全面的に脱却する事をスローガンに。。。とつずくので有れば納得します。
    2)それに対して、小沢一郎氏。。。。。。マニュフェスとに反する「政策」に徹底して反対し,民主党を離党して新党を立ち上げた。消費増税に反対に(の)国民の声を,支持拡大につなげようとしている。
    こうした小沢氏の政治手法には、常に,「政策」ではなく、「政争」「政局」中心という評価がつきまとう。: の文章がつずいている。
    これを読むと小沢氏は国民が消費増税に反対の風潮だからそれに迎合したポプラリスト的な行動として消費増税に反対していると言わんばかりとれる。典型的な反小沢の言い回しではないか。
    3)「政策」のプロである官僚 : 民主主義にもとずいた国民主権の政治が日本の近代史の中で実質的に行われておらず、官僚が国民を統治するという歴史的な結果、官僚が「政策」のプロとなったので、これは俗にいう先進国ではあり得ない事です。
    官僚はあくまでpublic servantであるという基本的な意識を持って論議しないと、官僚の民を統治するという横柄な意識は断ち切れません。
    4)階猛議員が己の政治理念に基ついて如何なる「政策」を立てられたのか知りませんが,その政策をことごとく反故にした現執行部の民主党を離党するのは理にかなっていると思います。しかし、彼が積極的に関与した「政策」は己の政治理念によるのではなく作文家として関与されたのであれば反故にされても別に気にする事もないでしょう。わざわざいばらの道を選ぶ事もないと判断したのでしょう。
    離党されると回りに思わせて寸前で民主党内に留まった行為は反小沢側に取っては棚からぼた餅と大喜び。階猛議員はその反応を計算した上の政治家なのか,政治的行為の結果も判断出来ない自負心のない政治家なのか?
    階猛氏が政治家としての行動であったのであれば政争に身を投げ出して自己満足ですか。

  5. 小坂康雄 より:

    私は60年安保世代、40年の企業勤務後10年の自営業、現在小さな会社の経営者ですが、狭い自分の経験からこの件についてコメントさせて下さい。いつもながらの郷原さんの緻密な分析に敬意を表しますが、大局的な、東洋的な見方も必要かと存じます。政策と政局は紙の表裏、一体で同じもの、分けると無理がありジレンマも生まれる。階さんと小沢さんの違いは人間性の深いところのものです。自分の身を捨ててでも目的に向かうか、保身自己愛に傾くか、の相違です。今回のような大事な局面での行動は、「目的は同じだが手段が違う」という技術的・枝葉的レベルではなく、当事者の本質が現れるものです。その人の人生観が現れます。大きな敵を相手に戦いを挑むこの時点では意気に感じた同志の結束が優先され、政策や目先の方法論の違いは二の次です。階さんの行動は「裏切り」と見られても仕方ないでしょう。失敗から学ぶのが人生です。今回の経験でまだ若い階さんが大きく成長されることを祈るばかりです。政治も商売も日本の伝統文化の流れの中でするしかない、欧米の分析的合理的思考では理解できないところがある。小沢さんの合理的な政治行動ですら皮相的情緒的見方をする多くの人から「壊し屋」「嫌いな人間を排除する」と言われる。現在の政局は、国の将来を決める権限を官僚機構から国民の手に、つまり政治家に移そうとする一局面であり、これを理解できる国民もまだ少ない。決してコップの中の嵐でもないし権力争いの政治ゲームでもない。国民の一部は本能的にこのことを感じているのではないか。多くの国民は、311以降生命に対する不安を感じている。政治もマスコミも頼れないという不安。官邸前に誰に頼まれたわけでもないのに、雨の中、老若男女、子供連れも含め十万人・二十万人の普通の市民が抗議に集まるほどの異常な現況である。60年安保の時は憲法改正、徴兵制、アメリカの戦争に使われるという不安でデモに参加したものです。この大きな目に見えない社会の流れの変化を感じるレセプターを持ち合わせない政治家、ジャーナリストも多い。郷原さんの追及している検察問題もこの流れに影響を与えていると思います。失礼なことを書いたかも知れませんがどうぞお許し下さい。

nobuogohara にコメントする コメントをキャンセル

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中