青梅談合事件、「無罪判決」に涙

9月20日午後1時半、東京地裁立川支部の302号法廷で青梅談合事件の判決言渡しが行われた。広い傍聴席は、被告人の酒井政修氏の家族、知人、同業者の人達、マスコミ関係者などでほぼ満席だった。この事件の摘発を行った警視庁捜査2課の警察官、青梅市役所関係者などの姿もあった。

青梅談合事件、「”人質司法”の常識」を覆すことができるか~9月20日午後、東京地裁立川支部で判決~】でも書いたように、検察官の立証は完全に崩したという自信があった。検察官も、当初は、懲役刑求刑予定だったはずなのに、罰金に落とすなど、形勢不利を事実上認めている。無罪判決は間違いないという思いがある。一方、第1回公判で、被告人の酒井氏が公訴事実を全面的に認め、検察官請求証拠が全て採用された後に、私が弁護を引き受けて全面無罪を主張するという異例の展開を辿った事件だっただけに、本当に裁判長が「無罪」という言葉を発するのを聞くことができるのか、最後まで、不安な思いもあった。

有罪か無罪か、固唾をのんで1審判決言渡しを待つというのは、2015年3月の美濃加茂市長事件以来だ(【美濃加茂市長無罪判決 ~極めて当然だが決して容易ではない司法判断~】)。

定刻の少し前に、野口佳子裁判長ら3人の裁判官が入廷。野口裁判長の穏やかな表情に、少し救われる思いがした。被告人の期待に反して、厳しい判決を言い渡そうとしている人の顔つきではない。

被告人が証言台に立ち、判決が言い渡された。

期待どおり、「主文 被告人は無罪」だった。

判決言渡しを終えた野口裁判長から、「長い間、お疲れさまでした」という言葉をかけられ、酒井氏の目からは涙が溢れ、止まらなくなった。

閉廷し、起立し、野口裁判長に一礼。そして、酒井氏と固く握手。そして、最初に「藁にも縋る気持ちでメールしました」と言って私の事務所に依頼のメールをしてきた酒井氏の奥さんと抱き合って喜びを噛みしめた。

80日も、家族との接見も認められず続いた勾留に心身とも疲弊し、一度は、公判で、心ならずも罪を認めた。その酒井氏が、こうして涙を溢れさせ、家族と喜びを分かち合っている。

心に沁みる、そして、心に残るひとときだった。

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青梅談合事件、「無罪判決」に涙 への8件のフィードバック

  1. やっら より:

    「裁判所の門をくぐるものは一切の希望を捨てよ」(瀬木 比呂志 『絶望の裁判所』)
    この予言が当たらなかった稀有なる事案であった。
    だが、検察が控訴してが、再び高裁で悪夢がよみがえるのだろうか…

  2. 清水勉 より:

    江川紹子さんのレポートを読みました。この手堅さなら、検察の控訴はないでしょう。気を抜いてはいけませんが、被告人、被告人の家族の皆さん、郷原さん、お疲れ様でした。
    清水

  3. kazuyuki murata より:

    野口裁判長から、「長い間、お疲れさまでした」と。裁判官という正義の味方であれば、検察の横暴を糾弾すべきではないか。お疲れどころか、莫大な弁護士の費用を、単に無罪を証明し、自己の名誉を守るために心身をすり減らして検察と闘うことを義務ずけられたのである。これは日本の国家の恥であり、当然許されるべき制度・仕組み・習慣であってはならない。日本の文化にそぐわない、支那やロシアから輸入されたような恐ろしい全体主義国家の運営方式である。

  4. イチロウ より:

    郷原先生、おめでとうございます。 先生の緻密な弁護が無ければ、勝ち取れなかった事件です。
    また、「人質司法」に対しても風穴を開ける事件になります。 

    その意味では、ゴーン氏の事件は悪名高き「人質司法」を世界に知らしめたもの、として意義があると思われます。 

    日本の法律家は、「人質司法」の全廃を目指して立ち上がっていますし、人権を尊ぶ世界の人々も立ち上がっています。

    即ち、「『人質司法』からの脱却を求める法律家の声明」に依れば、以下のとおりです。

    「人質司法」は、裁判への出頭の確保という本来の目的を超えて、身体の自由や黙秘権、公正な裁判を受ける権利などの日本国憲法上保障された人権を侵害するものである。「否認する以上、釈放せずに取り調べを受けさせる」という運用は、長期間の身体拘束や長時間の取り調べによる苦痛を自白獲得の手段として用いるものと評価されてもやむを得ず、拷問の禁止にすら反する。無罪推定の原則や拷問の防止、弁護人立会権の保障などの様々な国際人権基準にも違反する。

    以上、出典:「人質司法」からの脱却を求める法律家の声明 (ヒューマン・ライツ・ウォッチ:東京ディレクターは、土井 香苗弁護士)

    郷原先生は、その魁に任じておられるのですね。 これからも駆け抜けられるように祈願しております。

  5. kazuyuki murata より:

    裁判とは膨大な金と時間を要する。金と時間をたっぷりともつ企業・個人・政府にとっては負担にならないが、貧乏人にとっては単に無実を勝ち取るために破産する者もいるし、健康を壊す、あるいは離婚になる、などの費用がかかる。この不均衡の問題を解決するために、裁判で負けた側が勝った方の費用を支払う、という仕組みが英国ではある。米国でもアイダホ州では同様な制度が始まった。これは、裁判では負けると分かっているが、訴訟の段階で相手を虐める、あるいは関係者に無言の圧力をかけ、見せしめになり、将来の訴訟を防ぐ事ができる。つまり、権力側、金持ちが有利な現在の仕組みを変える。
      例えば、今回の場合、負けた検察側が弁護士の費用などを払う。あるいは被告が受けた同様な被害、80日間の拘束を検察側の代表者に経験してもらう。ついでに、「自白」の経験、誰がどのような圧力をかけてきたのか、いつの段階で無実と判断したのか、なぜ強引に裁判を進めたのか、なぜ撤退できなかったのか、など組織の運営・判断の仕組み、などを公に告白させる。この「賞と罰」の仕組みがなければ、誰も反省しないし、誰も責任を取らない、永遠の現状維持。

  6. kazuyuki murata より:

    「ユーチューバー郷原が検察特捜部をぶっ壊す」 日本の裁判所と警察は不当にも国民から高い信頼性を得ている。これは司法報道が、記者クラブ制度などによって、ちょうど支那の報道が偏向しているように、司法の悪が隠蔽されているからである。テレビも新聞も悪の味方である。
      N国党の立花氏も、貴殿も稀有な貴重な勇気ある内部告発者である。共同で色々「ぶっ壊し」て頂きたい。NHKの他にいくらでも壊すべき機関はある。立花氏も喜ぶと思う。

  7. 梶原一 より:

    郷原氏にしては短めの投稿。でも、これを読んで涙が溢れ出てしばらく止まらない。これまでに鬱積した理不尽への慰めか。2009政権交代小沢一郎の件で郷原氏を知り、そうか、あれから10年か…、ずっと、郷原氏を信じ、自分なりに応援し、投稿も一言一句欠かさず読んでいる。日本は1945年に暗黒と決別したはずだが、どうしたことか、今現在、再び、暗黒が日本を覆い尽くしている。今回のことが、ほんとに信じる事ができる一条の光でありますように。郷原さん、お疲れ様でした、ありがとうございました!

  8. 常識人 より:

    素晴らしい判決(いや、郷原弁護士の素晴らしい弁護活動の結果)ですね。
    ここでも見込み捜査で犯罪要件を構成しようとする捜査当局、検察の無理が明らかになりました。裁判所が、今後、この判決に触発されてこのようなまともな裁判を行い、判決を出す流れが出てくるのであれば、より意義深い裁判になるものと思います。
    検察が公訴権を振り回すのは論外として、警視庁捜査2課も事件の情報収集するのはいいが、無理な捜査はするべきではなく、談合事件における過去の判決や解説書籍を十分理解して立件の是非を判断するべきです。
    それだけの法的専門性をもって捜査、判断をしてもらわなければ困ります。
    検察や捜査は、被告人とされた人の精神的、経済的、社会的負担、何より人権をどう考えているのでしょうか。

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