福田多宏税理士・法人税法違反事件、「大逆転判決」の可能性~10月9日大阪高裁判決への期待

最近、権力集中の政治状況もあって、世の中全体は、権力におもねる傾向が強まっているように思える。これまでも、「長いものには巻かれない」という生き方を通してきた私だが、「権力との戦い」に注ぐエネルギーは、一層大きくなっている。

その「戦い」の一つの東京地裁立川支部の青梅談合事件(【青梅談合事件、「”人質司法”の常識」を覆すことができるか~9月20日午後、東京地裁立川支部で判決~】)は、初公判で、公訴事実を全面的に認めて検察官請求証拠すべてが同意採用という「絶望的な状況」から弁護を受任した、全面無罪を主張した事件だったが、【青梅談合事件、「無罪判決」に涙】という結末に至った。

7月は、その談合事件の論告弁論期日(7月19日)に向け、弁論作成に忙殺されていたのと同時並行で、最終局面を迎えていた(7月17日の弁論期日で結審)のが、税理士福田多宏氏の法人税法違反事件の控訴審の審理だった。

これも、事務所の公開アドレスへの弁護の依頼メールから始まった事件で、その時点では、あまりに「絶望的な状況」で、さすがの私も受任を躊躇した。しかし、その後、弁護を受任し、全面無罪を主張して戦ってきた。

その事件の控訴審判決が10月9日に言い渡される。

 

「絶望的な状況」から弁護を受任した「もう一つの事件」

この事件は、税理士で経営コンサルタントを営む福田多宏氏が、F社など不動産関連会社2社の実質的経営者と、両社の経理部門統括者と3名で共謀の上、架空の支払手数料を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、法人税を免れたとして、大阪地検特捜部に逮捕・起訴された脱税事件だった。

福田氏は、捜査・公判で脱税の事実を全面否認、270日にわたって勾留された。昨年(2018年)3月に一審で有罪判決。一審弁護人がそのまま控訴審を担当し、控訴趣意書は、昨年8月に提出済みだった。私の事務所公開アドレスに、控訴審の弁護を依頼するメールがあったのは昨年の12月だった。

刑事裁判では「一審中心主義」がとられ、控訴審での新たな証拠請求は「一審で請求できなかったことにやむを得ない事由があった場合」でなければ認められない。しかも、控訴趣意書を送付してもらったところ、なぜか論理式や演算式等が並んでおり、事件の内容も弁護人の主張も、なかなか理解できない。正直なところ、私が弁護を受任しても、できることは何もないように思えた。がん治療で言えば、全身にがんが転移して、手の施しようがなく、余命数か月という状況、野球で言えば、9回裏二死無走者で0-10という戦況に等しかった。

しかし、脱税への関与を全面否認した福田氏の勾留が270日もの長期に及んだ一方で、脱税の主犯であるはずの会社社長(U氏)は逮捕すらされず、在宅起訴。福田氏と同時に逮捕された経理部長(M氏)は、福田氏に不利な供述に転じた後に釈放され、起訴もされていない。典型的な「人質司法」であり、「ヤミ司法取引」も疑われる事件だった。しかも、「業務委託契約は架空ではなく、実際に膨大な仕事を行い、成果物も残っている」と主張する福田氏自身が、長期にわたって身柄拘束されていたことで、仕事の成果物の存在が長期間明らかにならず、一審での弁護活動の支障になったことも否定できない。福田氏は、権力に虐げられ、救いが必要な人であることは間違いなかった。

とは言え、控訴趣意書も提出済みの控訴審で、弁護人として一体何ができるのか見通しがつかず受任する決断ができないでいたところ、今年の2月に、一審を担当した弁護人2人が、体調の問題で相次いで辞任し、弁護人が不在となったという連絡を受けた。

「結果が変わらないことは覚悟しています。最後に郷原先生に弁護を担当してもらって、それでもダメなら諦めがつきます。そうでなければ一生悔いが残ります」と福田氏から切望され、「誰かが新たな弁護人にならざるを得ないのであれば、私がやるしかない」と考え、弁護人を受任することにした。

 

新たな弁護団で控訴審弁護活動を開始

控訴趣意書が提出済みである以上、弁護人として行えることは、何とかして、控訴審での新証拠の請求を行い、それに関連してする主張を組み立て、控訴趣意補充書を提出することだった。

もちろん、一審で2年にもわたって審理した事件であり、記録も膨大だった。弁護団として、相当な人的パワーが必要になる。私が主任弁護人となり、東京で3名(東京チーム)、大阪で2名(大阪チーム)の弁護団を結成した。

まず、何とか反撃の糸口をつかみたいと考え、元経理部長のM氏に、弁護人の一人から「控訴審弁護人の聴取に応じてほしい」というメールを送信した。しかし、全く返答はなかった。

昨年8月に控訴趣意書が提出された後、12月に裁判長が異動で交代した関係で、公判期日の指定が遅れていたが、今年2月に、第1回公判が4月12日と指定されていた。弁護人全員が交代したことを理由に、期日変更を請求した。少しでも準備期間を長くとりたかったが、控訴審が係属してからすでに1年を超えていることもあり、裁判所は、「5月中には期日を入れたい」との意向だった。5月24日に第1回公判期日が指定された。

そうなると、遅くとも、連休明け、5月10日頃までには、一審判決を覆せる主張を組み立てて控訴趣意補充書を提出しなければならない。しかし、主任弁護人の私は、4月16日の桑田氏の国循事件の最終弁論に向け、最後のバトルで忙殺されていた。

残された期間は僅かしかなかった。

 

「確定日付」のある文書という「新証拠」を入手

そこに、「神風」が吹いた。

弁護団側に、「重要な新証拠」が提供されたのだ。

福田氏は、「業務委託契約は架空ではなく、実際に膨大なIT関係の仕事を行い、成果物も残っている。委託契約に基づく支払は正当なもので、所得を隠す手段ではない。それが、F社側に還流していたが、F社側の資金繰りのために必要と言われ、貸付けていたもので、返済を受けて業者に支払う予定だった。」と主張していた。その仕事に従事していたIT業者は、捜査段階で、「会社の依頼を受けて実際に膨大な量の仕事をした。」と供述したが、検察官は、「契約書がない以上、仕事とは認められない。」という「珍妙な理屈」で、その供述を抑え込み、「正当に支払が受けられる仕事はありませんでした。」という内容の供述調書になっていた。

その零細IT業者のうちの一人(T氏)から、次のような話が、福田氏を通じて、弁護団の大阪チームにもたらされた。

検察官の取調べの際、「経理部長のM氏が、一緒に食事をした際に『引き上げているお金は払うから、仕事を頑張ってください。』と言っていた」と供述をしたところ、検察官は、15分間離席した後に、返ってきて、「調書だけ終わらせたらTさんの話を聞くから」と言って、その話を除外したまま供述調書を作成し、その調書に署名させられた。

結局、その点は調書にとってくれなかった。

自分が一生懸命やっていた仕事がすべて否定されたことに我慢がならず、そのような検察官の取調べの状況を文書にまとめ、公証役場に行って確定日付をもらった。

ところが、その確定日付のある文書を持って自宅に帰ったところ、自宅に国税局の査察調査が入っていて、その文書は押収されてしまった。

その後、取調べ検察官が交代したので、その検事にも、「M氏からお金は返すと言われていた」と同じことを訴えたが、全く調書にはとってくれなかった。最近になって、その確定日付のある文書が還付された。

T氏が弁護団に持参したのは「説明書」と題する文書だった。確定日付のある文書であれば、その日に存在していた文書であることが明らかであるし、押収されていたのが最近還付されたのだから、「控訴審での新証拠」として請求できる。T氏の話のとおりであれば、T氏らIT業者がF社のために行っていた仕事に対して、F社の経理部長のM氏が、「仕事の対価は払う」という約束をしていたということになる。F社の経理部長自身が、T氏らに支払義務があることを認めていたことになり、「契約書が交わされていないから対価の支払義務はない」という検察の主張は否定されることになるのである。

取調べの経過が、本当にT氏が説明する通りだったのかを確認するため、検察官T氏の取調べの際の録音録画媒体(ディスク)の開示を求めた。ディスクを確認したところ、T氏の供述内容も、検察官が15分間席を外した状況も、T氏の「説明書」の記載のとおりだった。その後取調べ担当検察官が交代し、T氏が繰り返し同様の供述をしているのに、供述調書に録取しなかったことも確認できた。

我々弁護人は、その取調べのディスクの反訳書とT氏の「説明書」を証拠請求し、T氏の供述に基づき、控訴趣意補充書で、「業務委託契約は実体を伴うもので、架空経費の計上ではない」と主張した。

5月24日の第1回公判で、控訴審裁判所は、「本件証拠を原審で請求できなかったことにやむを得ない事由がある」として、T氏の証人尋問を行うことを決定、6月12日に実施されることになった。弁護人控訴事件の多くは、一回の公判で結審し、短期間で判決が言い渡される。事実取調べが行われること自体が異例だった。

 

M氏の取調べの録音録画ディスクを弁護団で手分けして見分

T氏の証人尋問が決定されたことを受け、T氏が供述する「M氏発言」についてのM氏の取調べの録音録画媒体も確認することにし、検察官にディスクの証拠開示を請求した。

M氏は、長期間在宅で取調べを受け、その後、逮捕・勾留され、勾留延長されて取り調べられており、取調べの時間は膨大だった。弁護団で手分けをして録音録画媒体を視聴した。

M氏は、逮捕前までは、「業務委託契約には実体があった。脱税の共謀はしていない」という、福田氏の弁解に沿う供述をしていたが、逮捕・勾留後に、供述を翻して、福田氏との脱税の共謀を認め、釈放され、不起訴になっていた。その過程で、検察官とM氏との間で、「ヤミ取引」が行われたのではないか、という疑いをもってディスクを視聴したが、実際には、M氏は、自発的に「これまで福田先生に言われるとおりに嘘をついていました。本当のことをお話しします」と言って、業務委託契約が架空であることを認め、福田氏との脱税の共謀も認める供述をしていた。少なくとも、ディスクを見る限り、「ヤミ司法取引」を疑う状況は全くなかった。

しかし、一方で、重要なことがいくつかわかった。

一つは、T氏が「説明書」で述べているように、M氏が「引き上げているお金は支払う」と発言をした事実があったのか否かについては、M氏の取調べの中では、検察官は全く質問をしていないということだった。

T氏が、「M氏から、『引き上げているお金は支払う』と言われた」と供述したのに、供述調書に録取しなかったことに正当な理由があるとすれば、M氏にも聞いてみないと真偽がわからず、M氏に確認する必要がある、ということだ。しかし、検察官のその後の取調べでそのような質問が行われた形跡は全くなかった。

 

取調べの中の「決定的な場面」を発見

もう一つは、私が見ていたディスクの中に、M氏が、福田氏との脱税の共謀を認めた後の取調べの中に、「決定的な場面」があるのを発見したことだ。

その事件の証拠の中には、国税局の査察調査の段階から、福田氏とM氏との「脱税の謀議の場面」とされていた「図」があった。F社などの利益を圧縮するために業務委託を行うことについて、経費の金額まで具体的に書かれたものだった。

その「図」がF社から押収され、国税局は、「福田氏とM氏との脱税の共謀の場面」の証拠だとしていた。M氏が、福田氏に不利な方向に供述を翻し、脱税の共謀を認めた直後のM氏の取調べで、検察官は、その「図」を示して、それが福田氏との共謀の場面で作成されたものではないかと質問していた。

ところが、録音録画によると、ここでM氏は、その図の記載内容を隅から隅まで確かめた上で、「この図は、脱税について話をしたものではなく、福田先生が、F社の株式移動の計画や利益の見通しなど他のことを話した場面です」と供述している。そう考えざるを得ない理由も詳しく説明している。M氏は、その理由として、「図」の記載の中に脱税について話した場面だったとは考えられない記載があることを指摘していた。

そのようなM氏の供述に対して、検察官は、様々な可能性を提示して、「やはり脱税の共謀の場面ではないか」と繰り返し質問をしていた。しかし、M氏は、一つひとつ根拠を示して否定し続け、結局、検察官も納得し、「この図については、福田さんの字だということ以外は何もわからないということだね」と言って、取調べが終わっていた。

 

M氏は、福田氏の当初の起訴状では、「共犯者」に含まれていなかった

検察官の取調べでのこの供述は、M氏の一審での証言に重大な疑いを生じさせるものだった。

この事件では、「福田氏とM氏との共犯関係」について、検察官の主張が起訴後に変更されていた。M氏は、福田氏との脱税の共謀を認める自白をして、釈放され不起訴になっていたが、当初の起訴状では、「共犯者」とされておらず、福田氏は、F社の実質的経営者のU氏との2人の共謀で起訴されていた。その後、裁判所の要請もあって、検察官が訴因変更し、「M氏との共謀」を追加していた。なぜ、当初の起訴状に「M氏との共謀」がなかったのか、そこは、当初から、弁護人にとって不可解な点だった。

福田氏は、第1回公判の時点でも保釈が認められず、勾留が続いていた。検察官立証にとって最重要の証人であるM氏の証人尋問が終わるまでは、「被告人を釈放するとM氏に働きかけて罪証隠滅を行うおそれがある」という理由で保釈が認められていなかったので、第1審では、第1回公判後、まず、M氏とU氏の証人尋問が行われ、その後に、福田氏は保釈された。

裁判所の強い要請を受けて、検察官が、M氏を共犯者に加える「訴因変更」(起訴状の公訴事実の変更)を行ったのは、その後だった。

なぜ、当初の起訴状で、M氏が共犯者に加えられていなかったのか。その理由が、M氏の検察官の取調べの録音録画から明らかになった。国税局は、「図」が福田氏とM氏との共謀の場面だとしていたが、M氏が福田氏との共謀を抽象的に認めたものの、その「図」が共謀の場面であることを明確に否定し、それ以外に共謀の場面が特定できなかったので、M氏との脱税の共謀の証拠が十分ではないと判断して、検察官が共謀関係から外したのだ。

一審で最初に行われたM氏の証人尋問の時点では、M氏は、「当初は、福田氏の指示どおりに嘘の供述をしていたが、検察官の取調べで真実を話すようになった」と、福田氏の指示による虚偽供述を強調する証言をしたが、M氏が証言する「真実」の中に、福田氏との共謀の「具体的な場面」はなかった。「業務委託契約はすべて架空で、それを経費としてF社の税務申告したのは脱税だった」と「抽象的」に認めているだけだった。

しかし、検察官は、訴因変更し、M氏を共犯に加えざるを得なくなった。福田氏とM氏との共謀について立証しなければならないが、それを特定する証拠がない。そこで行われたのが、M氏の「2回目の証人尋問」だった。

 

2回目の証人尋問でのM氏の「偽証」

2回目の証人尋問で、M氏は、検察官の主尋問で、上記の「図」を示され、福田氏が、M氏に脱税の方法について説明した場面で作成されたものであるかのように証言した。それについて、「すみませんが,私自身がほとんど記憶がないもんで」「呼び起こしてもらったというのが正直なとこです」と述べて、尋問の前に検察官の証人テストが行われ、記憶を喚起されたものであることも認めている。

その証言は、検察官の取調べで、M氏が、その「図」が、福田氏と脱税の話をしたときのものではなく、別の場面のものだと明確に供述していることと相反する。2回目の証人尋問でのM氏の証言が、記憶とは異なるものであり、「偽証」である疑い、そして、そのような記憶に反する証言が、証人尋問に先立って行われた検察官の証人テストでの検察官からの誘導によるものである疑いが濃厚となった。

弁護人からは、録音録画ディスクの反訳書を作成して証拠請求するとともに、M氏の証人尋問も請求する書面を、第2回公判の前に提出した。

検察官は、「原審にて請求できなかったことに、やむを得ない事由がない」との理由で、証拠採用と証人尋問の採用に強く反対した。

 

第2回公判での控訴審裁判所の判断

6月12日の第2回公判では、まずT氏の証人尋問が行われた。

T氏は、M氏らと会食した際に「引き上げているお金は返します」旨発言したこと、T氏が、F社の依頼により、膨大な量の作業を行っていたこと、一審の証人尋問では、検察官の証人テストでの指導によって、証言の範囲が制約され、検察官の判断を押し付けられたために、M氏の発言について証言することができなかったことなどを証言した。

このT氏証言も、業務委託契約が架空だったという一審の事実認定を否定する重要な証言だったが、それだけで一審判決が覆すのは困難なように思えた。最大の注目点は、M氏の証人尋問請求に対して、裁判所がどう判断するかだ。M氏の証人尋問が実現できれば、一審で記憶と異なる証言をした経過を含めて真実を明らかにし、検察官の立証を一気に崩せる。それにとどまらず、検察官が不当な証人テストを行ったことも明らかにできる。

しかし、裁判所の判断は、「弁護人の証拠請求、証人尋問請求をすべて却下する」というものだった。「一審で請求できなかったことにやむを得ない事由がない」というのが、その理由だった。

全身の力が抜けそうだった。

確かに、取調べの録音録画媒体は、一審で弁護人が開示請求すれば、検察官はすべて開示したはずであり、控訴審弁護人が行ったように、そのディスクを丁寧に見ていけば、M氏の証言が記憶に反するものであることは、一審で明らかにすることが可能だった。しかし、いくら一審で請求することが可能だったと言っても、一審弁護人はそれを行わなかったその結果、こうして、控訴審になって初めて、M氏の証言の信用性に関わる重要な事実が初めて明らかになった。それを見過ごしてよいのか。

控訴審での事実取調べは、それで終了し、次回の7月17日の第3回公判で最終弁論を行って結審ということになった。

公判終了後、福田氏と弁護団は、うつむきながら、裁判所に近い、大阪チームの法律事務所に移動した。

膨大な録音録画媒体を分担して視聴、M氏の偽証の疑いを指摘し、証人尋問の必要性を強く訴えたが、その訴えは裁判所には届かなかった。

福田氏も「よく、ここまで頑張ってもらった。悔いはない。」と言ってはいたが、残念そうだった。

その時、私の頭に一つの考えが浮かんだ。

裁判所がM氏の証人尋問をやってくれないのであれば、こっちでやるしかないではないか。

大阪チームの弁護士2人からは、今年の3月に、1回だけ、M氏と接触したことがあるという話を聞いていた。全く別件で相談を持ち掛けてきた人が、たまたまM氏で、その際、二人の弁護士が、福田氏の控訴審の弁護人を受任していることを明らかにした上で、事件についての話を聞いたところ、「一審で話したことがすべて事実」と言っていたとのことだった。

私は、そのことを思い出し、「『重要な事実がわかったので、一度話を聞きたい』と言ってM氏に面談に応じさせることはできないだろうか」「最後まであきらめないで、やれることは最後までやってみよう」と言って、解散した。

 

4時間にわたるM氏の「取調べ」

その後、大阪チームから、「6月20日にM氏が事務所に来てくれることになった」と連絡があった。私は、何とかスケジュールを調整し、大阪に向かった。

M氏との面談は、予め、ビデオカメラをセットし、すべて録音録画しておくことにした。検察官として最後に取調べをしたのは、2002年、長崎地検次席検事時代に、佐世保重工の助成金詐欺事件で逮捕され、完全黙秘をしていた同社社長を、取調べ担当検事に代わって次席検事自ら取調べたときだった。社長は、私の説得で、黙秘から供述に転じ、その後自白した。取調べの録音録画が導入されたのは2011年頃からなので、もちろん、私にはその経験はない。録音録画の下でのヒアリングというのも初めての経験だった。

大阪チームの2人の弁護士との面談を想定していたM氏は、いきなり私が現れたことで、当惑しているようだった。

まず、「図」を示して行われた検察官取調べの録音録画を再生し、M氏に視てもらう。

検察官は、非常に丁寧に、かつ慎重に、「図」が、脱税の共謀の場面ではないかを聞いているが、M氏は、「記載内容から、それは考えられない」と述べ、その理由を説明している。

映像を視聴したM氏は、「図」については、この取調べにおいて供述したことが記憶している全てであり、それ以外に記憶に基づいて話せることはない、ということを認めた。

それでは、一審での「2回目の証人尋問」の際の証言は、どういうことなのか。

この点については、M氏は言葉を濁し、ほとんどまともに答えられない。

4時間にわたって、説得を重ねたところ、M氏は、最終的に、一審での証言が自分の記憶していることとは違うものだったことを認め、その旨の陳述書に署名した。

 

「M氏陳述書」をどう使うか

「M氏陳述書」は、M氏の一審証言の信用性に関する決定的な証拠だった。

問題は、それを福田氏の控訴審でどう活用するかという点だった。

陳述書が得られたことを必要性の根拠として、再度、M氏の証人尋問を請求することも考えた。しかし、前の請求と同様に、「一審で請求できなかったことにやむを得ない事由がない」との理由で却下される可能性がある。

そこで、陳述書を、M氏の公判証言の「弾劾証拠」として請求することにした。同じ供述者が、公判証言と相反する内容の供述をしている場合、その証拠は、刑訴法328条に基づいて、証言の「証明力を争う証拠」、つまり「弾劾証拠」として証拠請求することができる。

陳述書が何とか証拠として採用されれば、それだけで、一審の有罪判決で福田氏とM氏の共謀の唯一の根拠となった「図」についてのM証言の信用性が否定される。それは、一審判決の事実認定に重大な疑問を生じさせることになる。

検察官にM氏の陳述書を開示して「弾劾証拠」としての請求を行ったところ、検察官は、ほとんど理由にならない理由で強く反対した。7月17日の第3回公判で、裁判所は、陳述書を弾劾証拠として採用し、その後、弁護人と検察官の弁論が行われて結審した。検察官の弁論は、「弾劾証拠」の採用を想定しておらず、その場で簡単に主張を述べただけだった。

こうして、福田氏の控訴審での弁護団の「戦い」は終わった。業務委託が実体を伴うもので委託費の支払が架空経費ではないことは、膨大な成果物に基づく主張と、T氏の証言から明らかになった。検察官が訴因変更で追加した「福田氏とM氏との共謀」は、M氏の陳述書で、完全に砕け散った。唯一残るのが、F社から福田氏への業務委託費の支払いの多くが現金でU氏側に還流している事実だが、その点も、当時の同社の企業グループの経営状況から、合理的な理由があったことを論証できた。

もはや、一審判決の事実認定を維持する根拠は、何も残されていない。弁護団は、無罪、或いは、一審への差戻しの判決を期待している。

9回2死0-10の状況から始まった戦いだったが、その後、打者一巡の猛攻で僅差まで追い上げ、一打同点(差戻し)か長打で逆転(無罪)が期待できるところまできた。

注目の控訴審判決は、10月9日午後3時から、大阪高裁1001号法廷で言い渡される。

 

 

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福田多宏税理士・法人税法違反事件、「大逆転判決」の可能性~10月9日大阪高裁判決への期待 への3件のフィードバック

  1. イチロウ より:

    良質の推理小説を読むように思えます。 しかも、弁護士のみでは無く、私立探偵(事務所)の役割をも果たされたかのように合理的推理を交えての公判には唸ります。

    もっとも、ペリー・メイスンものの一連の作品には、優れた私立探偵・ポール・ドレイクとその部下が居ましたし、彼等の活躍が無ければ、メイスンも弁護が不可能でした。

    この国でも、現実を踏まえて弁護士事務所と協働出来得る探偵事務所が要るのかも知れません。

    それはさて置き、今回も人質司法の問題点が浮かび上がります。 公正で衡平な刑事司法手続が望まれる、と言わねばならない現実が何時になれば改善するのでしょうか。

  2. kazuyuki murata より:

    郷原氏の努力にはいつもながら感激して拝見しておりますが、常に疑問に思い悲しく感じることは、日本人とは清く正しく正義感のある善の味方では無かったのだろうか、という認識である。検察特捜部に属する人間も妻や大学生や家のローンをもつ普通の人間であるが、それを理由に無実の被疑者を自白するまでイジメ倒す、という腐敗した内部環境を易々と容認している。それはかつてのナチスが上からの命令に従ってユダヤ人を組織的に合理的に能率的に「有罪」とし運営してきた精神心理構造と変わりはない。
      それは検察特捜部だけの問題ではなくそれを扱う司法報道も、弁護士団体も、大学の法学部の教授も、政治家も全て無視、容認しているという全国的な劣化である。その上、これらの無言有害な団体は全て高学歴、高所得者の極めて優遇され、その国から与えられた教育、権限、影響力を使わず、利己の小さな利益の為に「困ったものだ、と内輪で自棄酒を飲んで誤魔化している」。高卒の立花氏が、東大卒の「NHKをぶっ壊す」と奇声をあげておられる。米国、英国、イタリア、フランス、などの国でも近年ほぼ同時に生まれた「外部」の野蛮人が既得権益を攻撃し始め、大きく時代が変わろうとしている、と期待したい。

  3. 常識人 より:

    大逆転の判決が出ればいいですね。しかし、高等裁判所が一審で弁護士が気付かなかった証拠の請求について、「一審で請求できなかったことにやむを得ない事由がない」として却下するということは、判例になっているのかもしれないが、被告人の権利を著しく損なう決定ですね。確定していない裁判について、事実よりも弁護士の能力の差を判決に反映させることであり、人権感覚がずれていると感じます。

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