黒川検事長辞職で、「定年延長」閣議決定取消しは不可避か

 東京高等検察庁の黒川弘務検事長が緊急事態宣言中に新聞社の社員らと賭けマージャンをしていたことが週刊文春で報じられたことを受け、黒川氏に対する批判が高まっており、辞任は避けられない情勢となっている。

 検事長の任命権は内閣にあるが(検察庁法15条1項)、「検察官の身分保障」があり、「その職務を執るに適しない」との検察適格審査会の議決がなければ検事長職を解任されることはない(検察庁法23条)。

 もっとも、懲戒処分による場合は、その意思に反して、その官を失うこともある(25条)。人事権者である内閣は、懲戒処分を行うことができるが、人事院の「懲戒処分の指針について」では、「賭博をした職員は、減給又は戒告とする。」「常習として賭博をした職員は、停職とする」とされているので、今回の「賭けマージャン」での懲戒免職というのは考えにくい。

 黒川氏が辞職をするとすれば、自ら辞任を申し出て、任命権者である内閣が閣議で承認するという手続きによることになる。

 現在の黒川氏の東京高検検事長の職は、今年1月31日、国家公務員法第81条の3の

任命権者は、定年に達した職員が前条第1項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して1年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。

との規定を根拠に、定年後の「勤務延長」を認める閣議決定が行われたことに基づくものだ。

 そして、森雅子法務大臣は、黒川検事長勤務延長に関して、国会で

東京高検検察庁の管内において遂行している重大かつ複雑困難事件の捜査公判に対応するため、黒川検事長の検察官としての豊富な経験知識等に基づく管内部下職員に対する指揮監督が不可欠であると判断したため

と答弁している。

 法務大臣が答弁したとおり、「黒川氏の退職により公務の運営に著しい支障が生ずる」のであれば、今回、「賭けマージャン問題」で黒川氏が辞任を申し出て、法務大臣がそれを承認した場合、退職により「公務の運営に著しい支障」が生ずることになる。東京高等検察庁検事長の「公務」というのは、国民の利害に関わる重大なものであり、その「公務に著しい支障」が生じるのは、看過できない重大な問題だ。「公務の運営への著しい支障」について、法務大臣は説明しなければならない。

 そもそも、この黒川氏の定年後の勤務延長を認める閣議決定については、【黒川検事長の定年後「勤務延長」には違法の疑い】で述べたように、検察庁法に違反し違法であることを指摘してきた。

 その後、その点について、国会で厳しい追及が行われたが、【「検事長定年延長」森法相答弁は説明になっていない】で述べたように、黒川検事長の定年延長についての森法務大臣の答弁は、法律解釈としても疑問であり、実質的な理由も全く理解できないものだ。

 黒川検事長辞任を内閣が承認するということは、現時点で、「退職による公務の運営への著しい支障」はないと判断したことになるのであるから、「著しい支障がある」と判断した閣議決定が取り消されるのは当然だ。

 閣議決定の効力については、2013年7月2日に、第二次安倍内閣で行われた閣議決定で、

閣議決定の効力は、原則としてその後の内閣にも及ぶというのが従来からの取扱いとなっているが、憲法及び法律の範囲内において、新たな閣議決定により前の閣議決定に必要な変更等を行うことは可能である。

とされている。過去に、閣議決定が取り消された例を調べてみると、民主党政権時代の2011年6月、学術や産業で功績のあった人物や団体に国から贈られる褒章をめぐり、国土交通省が推薦した会社社長の男性の受章が、14日に閣議決定されながら、「ふさわしくない事態が判明した」として3日後の閣議で取り消された例がある。

 今回も、勤務延長を認めた閣議決定を取り消すことになるだろうが、その際、閣議決定取り消しが決定時に遡及するのか、取り消すまでは有効なのかが問題となる。「公務の運営への著しい支障」による勤務延長の必要性について、当初の判断は誤っていなかったが、現時点では異なる判断をしたというのであれば、その点についての内閣の説明が必要だ。その点について、合理的な説明がなければ、黒川氏の勤務延長は、閣議決定の取り消しにより決定の時点に遡って無効とならざるを得ないだろう。それによって、黒川検事長の指揮を受けて行われた高検検察官の職務の適法性にも重大な疑問が生じることになる。

 検事長は、国務大臣と同様に、内閣が任命し、天皇が認証する「認証官」だ。これまで、大臣の失言や不祥事で総理大臣の判断による「首のすげ替え」が簡単に行われてきたが、黒川検事長については、「退職により公務の運営に著しい支障が生ずる」として閣議決定によって「勤務延長」を行ったことによって、その検事長職が根拠づけられているのであり、大臣辞任の場合のように、安倍首相が「任命責任は総理大臣の私にある」と述べただけで済まされるような問題でない。

 黒川検事長の辞任は、安倍内閣に重大な責任を生じさせることになる。

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弁護士
カテゴリー: 黒川検事長, 検察問題, 検察庁法改正 パーマリンク

黒川検事長辞職で、「定年延長」閣議決定取消しは不可避か への1件のフィードバック

  1. てっ より:

    確かにそのとおりですね。
    この期間に東京高検に起訴された被告人は黒川検事長の正統性を裁判で争点にしてみてほしい!郷原さんが受任してる案件で、ないですか?(笑)

    野党もマスコミもこのブログはよくチェックしてると思うので、是非この視点をきちんと追及してもらいたい。

    それにしても、どうしてもこの人を総長にしたくて、閣議決定で飽き足らず後付けの法改正にまで踏み込んだのに、結局実現が遠のいたとなると、法案は案外あっさり取り下げるかもしれませんね。きっと、継続審議にした時と同じように「国民の皆さまの理解が…」等と恥ずかしくもなくまた理由付けするんでしょう。

    とにかく、政権ばかり気にして自分の本分や市民からの付託を軽視するとこういう末路もあり得るってことを、心ある検察官が肝に銘じてくれれば、今回の一連の事態も全く無意味ではなかったことになりますね。

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