【第118回定例記者レク概要より抜粋 その2】
先週、総務省での年金業務監視委員会の委員長としてのブリーフィングの際にもふれたことですが、総務省から「東日本大震災に係るインターネット上の流言飛語への適切な対応に関する要請」という文書が社団法人電気通信事業者協会など、インターネット関連の通信に関わる事業者の団体に対して発せられました。
この「インターネット上の流言飛語への適切な対応」という、こういうことを求める総務省の要請文書が表現の自由という観点から問題があるのではないか、不当な情報統制にあたるのではないかというような指摘が私のところにもいろいろ寄せられております。私も総務省の顧問でコンプライアンス室長という立場があるので、いったいどういう趣旨でこういう文書を出したのかということを所管課の方から確認してみました。
この文書では、「東日本大震災後、地震等に関する不確かな情報と国民の不安をいたずらに煽る流言飛語が電子掲示板の書き込み等により流布しており、被災地等における混乱を助長することが懸念されます」と書いてあって、そして、「つきましては、インターネット上の地震等に関連する情報であって、法令や公序良俗に反すると判断するものを自主的に削除することを含め、表現の自由にも配慮しつつ、インターネット上の違法な情報への対応に関するガイドラインや約款にもとづき適切な対応をおとりいただくようにご周知いただくとともに、貴団体においても必要な措置を講じてくださいますようお願い申し上げます」と、こういう内容になっています。
素直に読むと、こういうインターネット上の流言飛語が横行していると。それによって被災地の混乱をいっそう助長することが懸念されるので、表現の自由にも配慮することが必要だけども、業者にはこういう流言飛語にあたるものを自主的に削除することも含めて適切に対応してください、ということを総務省が関係する業者の団体に対して言っているわけですから、流言飛語に対して、自主的な削除をこれまで以上に徹底してやりなさいということを、監督官庁が、業者に求めているという意味です。そうだとすると、これはやはりどう考えても表現の自由との関係で問題があるというふうに私は思ったわけです。
これを所管課の方に確認をしたところ、これはあくまで「インターネット上の違法な情報への対応に対するガイドライン」というのが去年の1月に出されている。それと、そういう利用に関する約款というのがあるわけです。その約款にもとづいて何かガイドラインに反するような書き込みみたいなことがあったら削除するというような対応をとってもらうという従前通りの対応をしてもらうことを確認的に言ったまでであって、いま大震災で流言飛語が飛び交っているから、それに対して、従来は何もしなかったものに対してまで自主的削除の範囲を拡大して、特別に措置をとってくれということを求めたものではないということを所管課の方では言っていました。
そういう趣旨であるとすると、この要請文に書いていることは誤解を招くのではないか。先ほども言いましたように、まず最初に流言飛語が流布していて、混乱を助長することが懸念されますと言った上で、それで自主的な削除を含めて適切な対応というようなことを言えば、いくらそこでガイドラインや約款にもとづきというふうに書いてあっても、従前の対応以上のものを求めているように見えるではないか。やはりそれはちょっと適切ではないのではないかというふうに思ったのです。
聞くところによると、「被災地等における安全・安心の確保対策ワーキングチーム」の設置というのがあって、こういうワーキングチームが官邸サイド……内閣官房とか警察庁、総務省、経産省というような関係省庁が集まって設けられている。ここでこういう流言飛語への対応を各省庁でもっと強化するようにというような方針が示されているために、ぎりぎりのところ、この要請文のような表現になってしまったということのようなのです。ですから、まさにここに書いていることはいちおう文書の内容としては従前通りの対応を求めているだけなのだけれども、あたかもそういう流言飛語に対する特別な対応をとっているように誤解されるような内容であることが、ある意味ではそのワーキングチームの方針に沿ったものとも言えるわけです。
まさに誤解されかねない要請文ですが、その誤解がワーキングチーム側の意図によるものとも言えるわけで、総務省の所管課の方で是正するための文書を出すというのはなかなか難しいということでした。それなら私がコンプライアンス室長の立場で誤解が生じないように、もともとこれはそういう主旨ではない、情報統制的な主旨ではない、けっして流言飛語を自主的に削除するということを、今までとはちがった措置で求めるということではない、ということを明確にするためにコメントしたほうがいいだろうと考えてお配りしている、もう1つの紙、コンプライアンス室長名義の文章を作成しました。
この総務省が出した要請文書というのはガイドラインや約款にもとづく従前通りの対応を求めただけで、それ以上のものではない。ですから、それ以上の対応を求めているような誤解をされないように留意してもらいたいということを書いたわけです。この趣旨はあくまで私のコンプライアンス室長としての個人的な見解を書いた文書ですが、これは所管課の方ともいちおうセットした上で、了解の上で出していますし、大臣にも了解を求めて、正式に総務省のホームページにも掲載する予定です。
たしかにまったく根も葉もないことをインターネット上で流布して、人々をいたずらに不安に陥れるということは、もちろん避けないといけない。
しかし、何が流言飛語なのかということ、これは非常に判断が難しいところです。その時点ではみんながぎょっとするような、あっと驚くような情報であっても、事後的には実はそれが正しかったということもあり得るし、もし政府の側で情報を十分に開示しないで、10の情報を出すべきなのに5の情報を出して、本当は危険であるのに安全だというようなことを、もし万が一言っていたとしたら、巷で言われるように、それは安全デマというふうに評価される場合もあるわけです。そういう意味では、こういう流言飛語の問題に対して、国の側が口を出す、こういうものは削除すべだと、あるいは一般的に流言飛語と考えるものを積極的に削除しろということを言うというのは、これは憲法が保障する表現の自由との関係で重大な問題があると言わざるを得ません。そういう意味で、とりわけこういう事業者に対する監督官庁である総務省としての対応には慎重さが求められると思います。
この件について片山大臣ともお話をしましたが、大臣もこれは誤解を受けかねない文章ではないかということで、相当問題意識を持たれていたようです。とりわけ大臣はこの文書の中の「表現の自由にも配慮しつつ」と書いてある部分について、「なぜ“も”が入っているのか」と言われていました。「表現の自由にも」と書いてあると、表現の自由は大事だけれども、それ以上に大事なものがあるようにも見えます。「表現の自由に配慮しつつ」と書くのが当然ではないかということもおっしゃっていました。そういう意味で、世の中がとりわけ原発事故に関する情報について非常にデリケートになっている状況において、情報に対する取扱いについては国としては極力慎重に行なっていかなければいけないということではないかと思います。