“憲政史上最低・最悪の解散”を行おうとする「愚」~河野外相、野田総務相は閣議で賛成するのか

安倍晋三首相が、9月28日の臨時国会冒頭にも衆院を解散する方針を固めたと報じられている。国会審議で、森友問題、加計問題で厳しい追及を受けるのが必至であり、民進党に離党者が相次ぐなど混乱が続いている状況で、小池百合子東京都知事の側近らによる新党結成の動きや選挙準備が進まないうちに解散するのが得策と判断したとのことだ。

2014年11月の解散の際にも、ブログ【現時点での衆議院解散は憲法上重大な問題】で、以下のように指摘した。

①憲法45条が衆議院の任期は4年と定め、69条がその例外としての内閣不信任案可決に対抗する衆議院解散を認めているのであるから、解散は69条の場合に限定され、7条の国事行為としての衆議院解散は、単に、解散の手続を定めているだけというのが素直な解釈である。

②1952年の第2回目の衆議院解散が、初めて69条によらず天皇の国事行為を定めた7条によって行われ、解散の違憲性が争われた苫米地訴訟では、最高裁判所は、いわゆる「統治行為論」を採用して、違憲審査を回避した。

③先進諸外国では、内閣に無制約の解散権を認めている国はほとんどなく、日本と同じ議院内閣制のドイツでも、内閣による解散は、議会で不信任案が可決された場合に限られている。法制度上は内閣に自由な解散権が認められているイギリスにおいても、2011年に「議会任期固定法」が成立し、「下院の3分の2以上の多数の賛成」が必要とされ、首相による解散権の行使が制約されている(イギリスで今年4月にメイ首相が行った下院の解散は、首相の判断はほとんど全会一致(賛成522票、反対13票)で承認された。)。

④議院内閣制の下では、「内閣」は「議会(国会)」の信任によって存立しているのであるから、自らの信任の根拠である「議会」を、内閣不信任の意思を表明していないのに解散させるのは、自らの存在基盤を失わせる行為に等しい。

⑤69条の場合以外に、憲法7条に基づく衆議院解散が認められる理由とされたのは、重大な政治的課題が新たに生じた場合や、政府・与党が基本政策を根本的に変更しようとする場合など、民意を問う特別の必要がある場合があり得るということであり、内閣による無制限の解散が認められると解されてきたわけではない。

このような、現行憲法上の内閣の解散権の解釈と従来の運用からすると、安倍首相が、「臨時国会冒頭解散」を行うことは、憲法が内閣に認めている解散権を大きく逸脱したものと言わざるを得ない。

それに加え、安倍首相は、通常国会閉会時に、加計学園問題で「丁寧に説明する」と約束したにもかかわらず、憲法53条の「衆参いずれかの4分の1以上の議員から臨時国会召集の要求があれば内閣はその召集を決定しなければならない」との規定に基づく野党の臨時国会の召集要求を無視し、8月3日に内閣を改造し、第3次安倍内閣を発足させた。これも、憲法の趣旨に著しく反するものである。

その内閣改造では、「仕事人内閣」と称して、河野太郎氏の外相、野田聖子氏の総務大臣など、自民党内では安倍首相には批判的とも思える議員を起用したことで、内閣支持率は何とか回復基調に転じたのである。それらの閣僚に、ほとんど「仕事」をさせることもなく、北朝鮮が核実験やミサイル発射を繰り返して軍事的緊張が高まっている時期に、敢えて衆議院解散・総選挙を行って「政治的空白」を生じさせるというのである。

安倍首相は、「集団的自衛権」を認める安全保障関連法を強引な国会審議で成立させたが、まさに、北朝鮮情勢が緊迫化し、同法制に基づく自衛権行使の是非を議論すべき状況になる現実的危険が生じている中で、自衛隊派遣を承認する国会を無機能化させるというのは、「国民に対する裏切り」以外の何物でもない。

解散には「大義」が必要だと言われるが、今回、もし、解散が行われるとすれば、「大義」が存在しないどころか、国会での疑惑追及を回避し、野党側の選挙準備の遅れを衝いて国民の政治選択の機会を奪い、それによって、北朝鮮情勢緊迫化の下での政治的空白を生じさせるなど、まさに「不義のかたまり」というべき解散である。

政府は、北朝鮮のミサイル発射のたびに、日本の領空の遥か上空を通過することがわかっていても、早朝からJアラートを発動し、国民の警戒心を煽っているが、安倍首相が衆議院を解散して政治的空白を生じさせた場合、これに乗じて、北朝鮮が、領空ぎりぎりにミサイルを飛ばして、日本政府の対応を試すような事態も考えられないわけではない。

総選挙態勢に突入した政府・官邸が、果たして北朝鮮の巧みな戦術に適切に対応できるのであろうか。

国連の北朝鮮制裁決議等で外交努力を懸命に行っているはずの日本の安倍政権が、このような状況で、先進国では殆ど考えられない国会解散を行ったということになると、国際社会の日本政府を見る目も変わってきてしまうのではなかろうか。

一部では、麻生副総理が、安倍首相に、「解散は首相の専権」だと言って解散を勧めたことが早期解散の決断につながったなどと報じられているが、誤解してはならないのは、解散は「内閣」の権限であって、「首相の専権」ではないということだ。「憲法7条の天皇の国事行為による解散」が許されるとしても、その「助言と承認」を行うのは「内閣」であり、「内閣総理大臣」ではない。閣僚全員による「閣議決定」があって初めて、「国事行為としての解散」を天皇に助言・承認することが可能となる。

小泉純一郎首相が、突然の解散を表明した2005年の「郵政解散」においても、解散を決定する閣議で、島村宜伸農水相、麻生太郎総務相、中川昭一経産相、村上誠一郎行政改革担当相の4閣僚が解散に反対する意見を述べ、小泉首相が個別に説得をしたが、島村農水相だけは最後まで解散詔書に関する閣議決定文書への署名を拒否して辞表を提出。小泉首相は辞表を受理せず、島村農水相を罷免、首相自身が農水相を兼務して解散詔書を閣議決定した。この郵政解散には、「国民に郵政民営化の是非を問う」という「大義」はあり、閣議での対立も、郵政民営化の是非をめぐる「政治的意見の相違」だったので、最後まで抵抗した島村農水相の罷免による強行突破が可能だった。

今回、もし、安倍首相が臨時国会冒頭の解散を強行しようとした場合、閣僚全員が賛成するとは到底思えない。特に、安倍首相ともともと距離があった河野外相、野田総務相は、このまま解散ということになれば、安倍内閣支持率回復のための「客寄せパンダ」に使われただけで、大臣としての仕事をまともに行う前に使い捨てられることになる。ましてや、その解散には全く「大義」はない。少なくとも、この二人の閣僚は、解散詔書の閣議決定に賛成するとは思えないし、説得の余地もないはずだ。

もし、河野、野田両大臣が妥協して安倍首相に従い、違憲の疑いすらある、「大義」の全くない解散に、閣僚として賛成したとすれば、二人の「政治家としての将来」にも重大なマイナスになる。

安倍首相としては、反対を押し切って解散を閣議決定するには、郵政解散における島村農水相と同様に、「閣僚の罷免」しかない。しかし、農水相であれば、総選挙までの期間、総理大臣兼任というのも不可能ではないが、現在の緊迫化する北朝鮮情勢の下で、総理大臣が外相を兼任することはあり得ない。どう考えても、今回の解散は「無理筋」である。

もし、安倍首相が解散を強行すれば、“憲政史上最低・最悪の解散”を行った首相として歴史に名を残すことになるだろう。このような時期の解散でしか、政権を維持できないとすると、それ自体が安倍政権が完全に行き詰まっていることを示していると言えよう。

安倍首相が行うべきことは、解散の強行ではなく、潔く自らその職を辞することである。

 

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都民ファーストの会は「秘密結社」か

小池百合子知事による「小池都政」に対しては、昨年来、【「小池劇場」で演じられる「コンプライアンス都政」の危うさ】【「拙速で無理な懲戒処分」に表れた「小池劇場」の“行き詰まり”】【「小池劇場」の”暴走”が招く「地方自治の危機」】などで徹底的に批判を続けてきた。

その小池氏が「都民ファーストの会」の代表に就任して臨んだ東京都議会議員選挙で圧勝した直後に、代表を辞任し、議員でもない小池氏の元秘書の野田数氏が代表に就任したことについては、【“自民歴史的惨敗”の副産物「小池王国」の重大な危険 ~代表辞任は「都民への裏切り」】で厳しく批判した。選挙後に代表を辞任する予定であったのに、敢えてその事実を秘し、選挙後も自らが代表を務める都民ファーストの公認候補ないし推薦候補であるように偽っていたとすると、その「公認・推薦」というのは、実質的には事実ではなかったに等しく、「候補者に対する人・政党その他の団体の推薦・支持に関し虚偽の事項を公にする行為」を「虚偽事項公表罪」として罰する公職選挙法の趣旨にも反する許し難い行為である。

そして、何と、その野田数氏は、9月11日に、就任後僅か2ヶ月余で代表を辞任し、後任には、同じ小池氏の元秘書の荒木千陽氏が就任したとのことだ。

荒木氏の代表選任は、「代表は選考委員会で選ぶ」と定める党規約に基づいて、幹事長、政調会長と特別顧問の小池知事の3人からなる「選考委員会」で決定したとのことだが、その「党規約」は公開されておらず、党員である都議会議員も内容を知ることはできないという。

小池知事に関しても、都民ファーストに関しても、全く評価していないので、多少のことでは驚かないが、都議会議員選挙で公認候補として当選した55人の議員を擁する「公党」でありながら、党の組織にとって最も重要な代表選任の方法、代表の権限等を定める規約が公開されていないというのは、一体どういうことなのだろうか。政党として届けられているのであれば、選挙管理委員会には党規約が提出されているはずだ。党員は議員であっても、情報公開請求で選管に開示を求めないと、その内容を知ることができない、ということなのであろうか。「都民ファーストの会」というのは、小池都知事のための「秘密結社」なのか。

我々都民は、その「秘密結社」のような組織が最大会派である都議会と、それを背後で操る都知事の小池氏に、二元代表制の都政を委ねている。しかも、そのような「政治勢力」が、「第三極」などとマスコミに囃し立てられ、民進党の崩壊寸前の惨状の間隙を縫って、国政への進出を目論んでいるのである。民主主義への重大な脅威にもなりかねない事態に対して、我々は、最大の警戒を持って臨むべきであろう。

 

 

 

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WDの東芝半導体子会社売却への介入・株式取得は独禁法違反の疑い

迷走に次ぐ迷走を重ねてきた東芝の半導体メモリー事業の売却をめぐって、協業先の米ウェスタンデジタル(WD)の陣営に独占交渉権を与える方向で調整に入ったと、8月30日の日経新聞一面で大きく報じられた。そして、このような動きについて、世耕弘成経済産業大臣は、29日の閣議後の記者会見で、「東芝とWDが前向きな形でコミュニケーションを取っているとすれば、一定の評価はしたい」と述べ、歓迎する意向を示したとのことだ。

東芝は、6月に、韓国の半導体大手SKハイニックスや米ファンドからなる「日米韓連合」を優先交渉先に選んだが、WDが反発して法的措置に出たことから、交渉が行き詰まっていた。東芝の方針が二転三転し混乱を重ねている原因について、経産省の意向に振り回されているとの指摘もある(【経産省に振り回される東芝…再建の命綱・半導体事業売却が頓挫の可能性、国のいいなり経営】)。

今回、東芝が、WDの陣営に独占交渉権を与える方向で調整に入ったと報じられた途端、経産大臣が、すぐ様、その動きに対して「一定の評価」を明言したことは、経産省が、自らの意向で東芝を「振り回してきたこと」を、大臣が図らずも自白したということだ。

しかし、東芝がWDの陣営に独占交渉権を与えるなどということは、全く論外である。

そもそも、WDは、半導体メモリー事業に関して東芝と競争関係にある。そのような競争業者が、東芝がその事業に関して行おうとしている決定に介入してくること自体が、日本の独占禁止法に違反する。

独占禁止法2条9項で、「この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう」とされ、6号で、

六 前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの。

ヘ 自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害し、又は当該事業者が会社である場合において、その会社の株主若しくは役員をその会社の不利益となる行為をするように、不当に誘引し、唆し、若しくは強制すること

と規定されている。

そして、公正取引委員会告示(一般指定)15項では、「競争会社に対する内部干渉」について

自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある会社の株主又は役員に対し、株主権の行使、株式の譲渡、秘密の漏えいその他いかなる方法をもつてするかを問わずその会社の不利益となる行為をするように、不当に誘引し、そそのかし、又は強制すること

と定めている。

WDは、フラッシュメモリーをめぐって、東芝と競争関係にある。そのWDが、東芝との契約に基づいて、半導体子会社を他社に売却しないように要求することは、「その会社の不利益となる行為」を「強制すること」に該当し、しかも、それによって、東芝の事業に著しい支障が生じかねない状況になっているのであるから、「競争会社に対する不当な内部干渉」に該当し、公正な競争を阻害する恐れがある。

東芝は、WD社の行為が「不公正な取引方法」に該当し、違法だとして、公正取引委員会に申告を行い、併せて、それによって著しい損害を受け,又は受けるおそれがあるとして、裁判所に,WDの行為の差止めを請求することも可能だ。

そもそも、WDが、競争関係にある東芝の事業の意思決定に「横やり」を入れてくることが、「公正な競争」という観点から問題があるということは、独禁法の規定を具体的に知っていなくても、まともな法的センスがあればわかる問題だ。

ところが、世耕経産大臣は、そのような違法な介入を行ってくるWDに東芝独占交渉権を与えようとしていることを「評価する」というのだ。

しかも、上記の日経新聞の記事によれば、

WDは、議決権のない新株予約権付社債(CB)や優先株の引き受けにより約1500億円を拠出する。CBの転換後に約15%の株式を持つ見通し

とのことだ。

もし、東芝とWDとの間で、そのような内容を含む合意が行われたとしたら、新たな独禁法違反の問題が生じる。「不公正な取引方法により他の会社の株式を取得し、又は所有してはならない」との規定(独禁法10条)に違反する疑いだ。

フラッシュメモリーをめぐって、東芝と競争関係にあるWDが、半導体子会社を他社に売却しないように要求していることは「競争会社に対する不当な内部干渉」であり、「不公正な取引方法」に該当するので、それによって東芝の株式を取得することは、独禁法10条に違反する疑いがある。

この問題は、東芝が半導体子会社の売却先の決定を急いでいる最大の理由とされている「(中国等)の独禁法当局の審査」に時間がかかるという「手続上の問題」とは異なる。日本の独禁法に「違反する疑い」という問題だ。もちろん、もし、東芝がWD陣営と合意した場合には、そのよう独禁法違反の疑いが、日本の公正取引委員会の審査においても、重大な問題とされることになる。

「東芝と競争関係にあるWDが、半導体子会社を他社に売却しないように要求しているのは日本の独禁法に違反するので、それを主張して法的措置をとるべき」との指摘は、定時株主総会直前の今年の6月末、知人を通じて(東芝を徹底批判してきた私の名前は伏せて)、東芝の社外取締役の一人に伝えている。「貴重なご提言を頂戴し、是非参考にさせていただきます」との反応だったと聞いているが、その後の東芝はWDに対して法的措置をもって対抗するどころか、WDとの妥協を図り、独占交渉権まで与えようとしているというのは全く不可解だ。

経産省が、東芝に対して、WDと合意する方向での解決を強く求め、東芝はそれに従わざるを得ない状況になっているということなのかしれない。

いずれにしても、東芝は、WD陣営に半導体子会社を売却する方向で交渉すべきではない。むしろ、最近になって、アップルも加わったスキームを提示したと報じられている「日米韓連合」との交渉を優先すべきである。

日本の法律に違反する疑いのある東芝・WD間の交渉を「評価する」などと公言する経産大臣には、東芝の問題に口を出してもらいたくない。

 

 

 

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検察は籠池氏を詐欺罪で起訴してはならない

大阪地検特捜部が籠池氏夫妻を逮捕した翌日に出した8月1日のブログ記事【検察はなぜ”常識外れの籠池夫妻逮捕”に至ったのか】は、その逮捕事実が、今年3月下旬に大阪地検が告発を受理した「補助金適正化法違反」の事実と同じで、森友学園が受給していた国土交通省の「サスティナブル建築物先導事業に対する補助金」の不正受給であったこと、大阪地検は、国の補助金の不正受給の事実を、「詐欺罪」に当たるとして逮捕したのだということを知り、それがいかに「検察実務の常識」に反するかを書いたものだった。

詐欺罪と補助金適正化法29条1項の「偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受ける罪」(以下、「不正受交付罪」)は「一般法と特別法」の関係にあり、補助金適正化法が適用される事案について詐欺罪は適用されないというのが、従来の検察実務の常識であった。また、逮捕に至る経過からして、実質的に「罪証隠滅のおそれ」があるとも思えず、いずれの面からも、籠池夫妻の逮捕は、検察実務からすると「常識外れ」と思えた。

逮捕直後だったこともあり、このブログ記事に対しては大きな反応があった。ツイッター、ブログの閲覧数等のネットを通しての反響も非常に大きく、また、週刊誌メディアを中心に多数の取材・問合せを受け、可能な限り対応した。

こうした籠池夫妻逮捕について「検察実務の常識に反する」とする私のブログに対して、ツイッター等で、判例や学説を挙げて、「詐欺罪の適用もあり得るのではないか」との反論もあった。また、新聞記事には、「詐欺罪で逮捕した理由」についての検察サイドの説明も出ている。

こうした指摘を踏まえ、補助金適正化法の立法の経緯、裁判例、学説等も可能な限り調べた上で、国の補助金の不正受給の事案に詐欺罪を適用することの当否について再検討してみたが、国の補助金の不正受給に対して詐欺罪を適用することは、検察実務としてあり得ない、という結論に全く変わりはない。

籠池夫妻は、その後、逮捕事実と同じ事実で勾留され、勾留期間が延長されて、8月21日が勾留満期と報じられている。

2010年に、村木厚子氏の事件をめぐる大阪地検の不祥事等を受けて法務省に設置された「検察の在り方検討会議」に委員として加わって以降、検察改革の問題に私なりに関わり、国会の場も含め、様々な形で意見も述べてきた。しかし、検察の抜本改革は遅々として進んでおらず、社会的信頼が回復されたとは到底言えない状況にある。

籠池氏が理事長を務めていた森友学園の事件に関しては、近畿財務局側も森友学園に対する国有地売却をめぐる背任罪で告発されており、その捜査・処分の結果如何では、籠池夫妻逮捕・起訴に対して、重大かつ深刻な検察批判が起こりかねない。そのような状況において、その籠池氏に対して、敢えて、「検察の常識に反する起訴」を行うことは、致命的な事態になりかねない。検察にとって、本当の正念場である。

 

補助金適正化法の立法経緯と検察の実務

補助金適正化法(以下、「適化法」)は、昭和30年に制定されたものだが、国会審議でも、詐欺罪と同法29条1項違反の罪との関係についての質問に対して、政府委員の村上孝太郎大蔵省主計局法規課長は、

偽わりの手段によって相手を欺罔するということになると、刑法に規定してございます詐欺の要件と同じ要件を具備する場合があるかと存じます。しかしながら、この補助金に関して偽わりの手段によって相手を欺罔したという場合には、この29条が特別法になりまして、これが適用される結果になります。

と答弁しており、同氏が著した解説書でも、同法違反の「予定する犯罪定型は、補助金等に関して刑法詐欺罪の予定する定型を完全に包摂しており、又本条第1項において刑法詐欺罪より拡大された部分も、国家の財産的法益を主として保護法益とする意味において、詐欺罪の構成要件を量的に拡大したものであって、本条は補助金等の特殊性に鑑み刑法詐欺罪の特別規定を設けたものである」(同村上「補助金適正化法違反の解説」)とされるなど、立法経緯からは、適正化法違反が詐欺罪の特別規定で、同法違反が成立する場合には、詐欺罪は適用されないという趣旨であることは明らかだ。

同法制定後の検察の実務でも、国の補助金の不正受給の事案に対しては、詐欺罪は適用せず、適化法違反で起訴するという実務が定着してきた(一方、地方公共団体が交付する補助金には、「間接補助金」に該当しない限り補助金適正化法の適用はないので、詐欺罪が適用される。)。

私も、検事時代、検察の現場で補助金不正受給の事件を相当数担当した。特に、1990年代は、不況で民間建築をめぐる競争が激化し実勢単価が値下がりして、公共工事単価と同レベルに維持されていた補助金単価とは大きくかい離していたため、社会福祉施設の建設に対する補助金で、実勢価格に基づく安い代金で契約する一方で、補助金単価で算定した代金に水増しした虚偽の契約書を作成して国に提出し、補助金を不正受給する事件が多発していた。施設の建設費の大部分が補助の対象となる社会福祉施設をめぐる事件では不正受給額が数億円に上っていた。社会福祉法人の経営者が不正受給した補助金を私物化していたケースもあった。しかし、それでも、補助金の不正受給の事案に対しては、詐欺罪ではなく、適化法を適用するというのが、法律上当然との前提で捜査・処分を行っていた。国の補助金に関する事件であれば、詐欺罪を適用することはなかった。

 

大阪地検は、なぜ籠池夫妻を詐欺罪で逮捕したのか

このように、検察の実務では、国の補助金の不正受給は、適化法違反で捜査・処分するのが当然とされてきたのに、大阪地検が、今回の籠池夫妻の逮捕において詐欺罪を適用したのはなぜなのか、

籠池夫妻逮捕直後の朝日新聞の記事【籠池氏、告発より重い詐欺容疑 特捜部「もろもろ検討」】では、

逮捕後の7月31日夜、取材に応じた大阪地検の山本真千子特捜部長は、両容疑者の行為について「詐欺、適化法違反の両方が該当するが、もろもろを検討し、詐欺容疑が適切と考えた」と述べた。

とされており、特捜部長が籠池夫妻の行為について、「詐欺、適化法違反の両方に該当する」と明確に述べているようである。

 

昭和41年最高裁決定は詐欺罪適用の「根拠」にはならない

学説においても、ほとんどが不正受交付罪は詐欺罪の特別規定だとする「特別規定説」を支持しており、通説となっている。一方で、国の補助金の不正受給についても、適化法の不正受交付罪ではなく詐欺罪を適用できるとする少数説が一部にはある。佐伯仁志氏「補助金の不正受給と詐欺罪の関係について」(「研修」七〇〇号)、星周一郎氏「詐欺罪と『詐欺隣接罰則』の罪数関係」(法学会雑誌53巻2号)である。それらの学説が重視しているのが、昭和41年2月3日の最高裁決定(判時438号6頁)の中で、両罪の関係について、「犯人側の為した行為自体は同一であり、相手方のこれに対応する態度の如何を構成要件の中に包含する罪とこれを構成要件としない罪とがある場合、検察官は立証の有無難易等の点を考慮し或は訴因を前者とし或はこれを後者の罪として起訴することあるべく」と判示していることだ。これを根拠に、国の補助金の不正受給に関して、検察官は、詐欺罪と不正受交付罪のいずれで起訴することも判例上許容されているとしているようだ。

しかし、この最高裁決定は、適化法が施行される直前の昭和30年に、被告人ら3名が国庫補助金を不正に受給しようと「共謀」し、同31年に施行された後に、それを実行して不正受給を行った事実を、検察官が適化法違反で起訴したことが「刑罰の不遡及」を定める憲法39条に違反するのではないかが争われた事案であり 国の補助金の不正受給に対して詐欺罪を適用した事案に対して判断を示したものではない。

同決定でも判示しているように「偽りの手段により国庫補助金の交付を受けようという詐欺の共謀をなし、その共謀に基づきそのうちの二名がその後右目的達成のため必要な行為を実行し所期の目的を達した」というのであるから、適化法が施行されることがなければ、詐欺罪で起訴され有罪になっていたと考えられる事案だ。共謀の時点と実行の時点の中間に「適化法の施行」があったために、検察官は、詐欺罪ではなく同法違反で起訴したのである。もし、詐欺罪と適化法違反とが「一般法・特別法」の関係ではなく、同法違反が成立する場合でも、検察官の裁量で詐欺罪での起訴が可能だというのであれば、検察官は躊躇することなく、詐欺罪で起訴したであろう。それを行わず、不正受交付罪で起訴したのは、検察官が、適化法が施行され、それに該当すると判断される以上、詐欺罪での起訴はできないと判断したからだと考えられる。

しかも、上記最高裁決定の判示は、当該事件についての判断の根拠とされたものではない、単なる「傍論」に過ぎず、一般的な検察官の訴追裁量権をここで確認的に判示した程度の意味しかないと見るべきだろう。

 

「間接補助金」に関する主張に対する裁判所の判断

実際に、既に述べたように、その後の検察の実務では、一貫して、国の補助金の不正受給については、詐欺罪ではなく適化法違反を適用してきたのであり、両罪の関係について、不正受交付罪が成立する場合には詐欺罪は適用できないことを大前提にしてきたと考えられる。また、最高裁も含め、裁判所も、同様の見解をとってきたと考えられる。

その根拠となるのは、国以外の団体が交付し、国が一部その資金を負担している金員を不正に受給した事例で、検察官が詐欺罪で起訴したが、弁護人が「適化法の『間接補助金』に該当するので詐欺罪は成立しない」と主張したのに対して、裁判所が、「『間接補助金』には該当しない」との判断を示して弁護人の主張を排斥した「ハンナン食肉偽装事件」(大阪地判平成17年5月11日)がある。最近、上告審判決が出て確定した「小豆島バス事件」【補助金を不正受給 小豆島バスの元社長の実刑判決確定へ】)でも同様の弁護人の主張に対して裁判所は「間接補助金に該当しない」との判断を示している。

「間接補助金」というのは「国以外の者が相当の反対給付を受けないで交付する給付金で、補助金等を直接又は間接にその財源の全部又は一部とし、かつ、当該補助金等の交付の目的に従つて交付するもの」であり、補助金適化法29条1項の罰則は、間接補助金の不正受給に対しても適用される。そこで、弁護人は、詐欺罪と補助金不正受給罪とが「一般法・特別法」の関係にあるとの前提で、「騙し取ったとされるのが『間接補助金』に該当するので、詐欺罪ではなく補助金適化法違反となる」という主張をしたのである。

もし、適化法違反の成否とは無関係に詐欺罪が成立するのであれば、弁護人の主張するように「間接補助金」に該当したとても、詐欺罪の成立が否定されることはない。裁判所は、そう判示して弁護人の主張を排斥すればよいはずである。しかし、これらの事例においても、裁判所は、当該補助金が「間接補助金」に該当しない(「相当の反対給付を受けないで交付する給付金」ではないので、詐欺罪が適用される。)と認定・判示を行って弁護人の主張を退けており、上告審の最高裁でも支持されている。

このことからも、裁判所が、最高裁も含め、詐欺罪と補助金不正受給罪との関係について、補助金不正受給罪が成立する場合には、詐欺罪は成立しないと判断していることは明らかである。昭和41年2月3日の最高裁決定の「傍論」を持ち出して、判例上、国の補助金の不正受給についても詐欺罪が適用できるとされているというのは、全くの筋違いだ。

 

補助金適正化法の「立法事実」とその後の状況変化

昭和30年に、補助金適正化法が制定され、それまでであれば詐欺罪に当たるような補助金不正受給を、詐欺罪の「10年以下の懲役」より軽い「5年以下の懲役又は罰金」の法定刑を定めた理由は何だったのか。同法案の国会審議で、前記村上政府委員は、

ともすれば何か村のため、県のためであれば、補助⾦を多少ごまかしてもそれは許さるべき⾏為であるという、ような⾵潮の多い点にかんがみまして、税⾦その他の貴重な資⾦でまかなわれておりますこの補助⾦というものが、正しく使われなければならないという⼀つの社会道義と申しますか、そういう観念を植えつけていく

と述べている。その当時、地方自治体の財政が窮乏する中、少しでも多く国の補助金の交付を受けて、自治体の事業を実施しようとして、虚偽の書類を提出したりする行為が横行し、それは、個人的利得を得ようとするものではなく、やむを得ない事情がある場合もあるので、「詐欺罪としての処罰」を行うような行為ではない、という評価が一般的だったため、処罰はほとんど行われず、言わば「野放し」の状態になっていたのであろう。そうした中で、刑法犯としての処罰ではなく、国の補助金の不正受給に対しては、法定刑を軽くした特別の罰則を設け、実態に即した制裁を科して、補助金の交付の適正化を図っていこうとするのが、立法者の意図だったものと考えられる。

そのような「立法事実」は、現在の状況には適合しなくなっているということは少なからず言えるであろう。当時のような、虚偽の書面を提出して国から補助金の交付を受けるような行為は、その主体が地方自治体であれ公的団体であれ、詐欺罪と同程度に厳しく処罰すべきというのが、現在の一般的な認識であるように思える。また、【前記朝日記事】でも書かれているように、「国でなく自治体の補助金を不正受給した方がより罪が重くなる」という処罰の不均衡があることも事実である。

 

検察は、法に則った権限行使をしなければならない

私も、現職検事時代に、社会福祉法人の経営者が、施設の建設代金を水増しして補助金を不正受給し、それを私物化するというような事案を多数捜査・処理した経験から、国の補助金の不正受給事案に対して詐欺罪と同程度に重く処罰すべきであるという意見について、決して否定はしない。

しかし、それを行うのであれば、適化法違反の罰則の法定刑を引き上げるか、詐欺罪の適用を明文で認める立法が必要である。検察が、従来の罰則の運用の前提となっている解釈を勝手に変えて、厳しく処罰することなど許されない。それが、法治国家における刑罰の運用である。

実際、同じように詐欺罪との関係が問題になる所得税、法人税等の逋脱犯(脱税)については、もともと法定刑が「3年以下の懲役」だったのが、段階的に「5年以下の懲役」、そして詐欺罪と同じ「10年以下の懲役」に引き上げられている。

今回の籠池氏の事件が、過去の国の補助金不正受給事案と比較して著しく悪質であり、適化法違反による処罰では軽すぎるというのであれば、検察として、何とかして重く処罰しようとすることも理解できないではない。ところが、今回の森友学園の事件で不正受給が問題とされた国の補助金は総額でも約5640万円、正当な金額との差額の「不正受給額」は、そのうち3分の2程度と考えられるので2000万円にも達しておらず、しかも、全額返還済みである。

籠池氏の事件は、むしろ、適化法違反としての処罰にすら値しない程度の事案であるとしか考えられない。そうであれば、むしろ、「適化法違反で、罰金刑ないし起訴猶予」というのが、本来行われるべき適正な処分である。

「日本版司法取引」の導入、盗聴の範囲の拡大等を内容とする刑訴法改正、共謀罪の制定など、捜査機関や検察の権限が大幅に強化される中、検察には、法に則った権限行使がこれまで以上に厳格に求められる。

籠池氏に対して、「けしからん奴だ」「悪質だ」などという理由で、本来、適化法しか適用できない事案を、詐欺罪で起訴するなどということが行われるとすれば、「厳正中立・不偏不党」を旨としてきた検察の史上に重大な汚点となるものだと言わざるを得ない。

 

 

 

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東芝監査をめぐる混乱は、受任したPwCに重大な責任~「真の第三者委員会」で“東芝をめぐる闇”の解明を

会社と監査法人が対立したままの有報提出という「異常な結末」

8月10日、東芝は、2017年3月期の有価証券報告書を関東財務局に提出した。同報告書には、会計監査人のPwCあらた監査法人の監査報告書が添付され、そこには、17年3月期の財務諸表について「限定付き適正」、内部統制に関する監査には「不適正」とする監査人意見が、それぞれ表明されている。

4月11日に、2016年度第3四半期レビューについて、PwCが「意見不表明」として以来、東芝の2017年3月期の決算報告をめぐって、PwCと東芝執行部、それに、前任監査人の新日本監査法人(以下、「新日本」)まで巻き込んだ「泥沼の争い」が繰り広げられ、注目を集めてきたが、PwCは、「限定付き適正意見」で、一部とは言え「適正な決算ではない」との評価を押し通し、一方、東芝側は、それを受けても決算を全く修正せず、会社と会計監査人との意見が対立したまま有価証券報告書を提出するという異常な結末となった。

「原発子会社のウェスティングハウスエレクトロニクス(WEC)社がCB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)社を買収したことによって最終的に生じた工事契約にかかる損失を、東芝が認識すべきだった時期」について、PwCは、2016年3月以前の段階であった可能性を指摘し、「意見不表明」のまま調査を継続してきた。PwCの指摘どおりだとすると、東芝の16年3月期決算は訂正が必要となる可能性がある。それに対して、東芝執行部は2017年3月末時点までは認識できなかったと主張し、16年3月まで会計監査人だった新日本も、16年3月期決算には問題はないとしてきた。

今回、有価証券報告書に添付した監査報告書で、PwCは、

工事損失引当金652,267百万円のうちの相当程度ないしすべての金額は、2016年3月31日現在の連結貸借対照表の非継続事業流動負債に計上する必要があった

としているが、その根拠についての記述は、「工事原価の発生実績が将来の工事原価の見積もりに反映されていなかった」などの抽象的なもので、損失計上すべきであった時期も特定されず、金額も「相当程度ないしすべての金額」と曖昧な表現とにとどまっている。2016年3月以前の段階で損失を認識すべきだったとする根拠として十分なものであるのか疑問がある。

 

東芝が損失を隠ぺいした「疑い」を持って調査を行ったPwC

S&W社の買収によって生じた巨額損失でWECは法的整理に追い込まれ、東芝に、最終的には7,166億円もの損失が生じたことは客観的事実である。その買収自体が、WECの原発事業で大きな損失が生じていることを隠ぺいする目的だったのではないかとの指摘もある(【NBO 東芝、原発事業で陥った新たな泥沼】)。PwCが、東芝への「不信」を募らせ、東芝側が2016年3月末時点で損失を認識しながら隠ぺいしたのではないかと疑うのは致し方ない面がある。2016年3月期以前に損失が認識できたとの疑いをもって必要な調査を行うのは会計監査人としては当然だと言えよう。

しかし、結果的に、6ヶ月も「意見不表明」を続け、上場企業では前例のない事態で証券市場の混乱を生じさせたが、東芝の会計報告を具体的に是正させるだけの根拠を示すことはできなかったといえる。東芝が損失を認識していた、或いは、認識すべきだったとする具体的な「証拠」は発見できなかったが、監査報告書の意見は、「適正」ではなく「限定付き適正」とされた。

 

監査受任の段階でPwCは東芝を「信頼」できたのか

そのような異例の事態に至った最大の原因は、東芝が一連の会計不正に関して監査法人に対して行ってきた対応や、その後のWECの巨額損失の表面化の経緯等から、東芝とPwCとの間に、本来、顧客企業と会計監査人の監査法人との間に存在していることが不可欠の「最低限の信頼関係」すらなくなっていることであろう。

しかし、PwCが東芝の会計監査を受任した2016年3月末の時点で、「最低限の信頼関係」が作れる見込みはあったのか。PwCはなぜ東芝の会計監査を受任したのか。

その時点においても、東芝には、一連の会計不祥事に関して、監査法人に対して悪質な「隠ぺい」を行った疑いが指摘されていた。東芝は、会計不正の疑いが表面化したことを受け、「第三者委員会」を設置し、その報告書公表を受けて「責任調査委員会」を設置して歴代経営者への責任追及について検討したが、それらの一連の「第三者委員会スキーム」では、調査の対象は、原発関連ではなく、調査対象とされた事業の範囲も責任追及の範囲も極めて限定的で、当時の室町正志社長は、責任追及の調査の対象にすらされず、問題の幕引きが図られた。そして、2015年9月末の臨時株主総会では、社外取締役に財界のオールスターメンバーと法曹界の重鎮等を揃えた新体制が選任され、「東芝の再生に向けて万全の体制」がアピールされた。

しかし、その直後の2015年11月に日経ビジネスが、【スクープ 東芝、米原発赤字も隠蔽 内部資料で判明した米ウエスチングハウスの巨額減損】【スクープ 東芝 減損隠し 第三者委と謀議 室町社長にもメール】という二つの衝撃的なスクープを報じたことで、状況は激変した。

これらの記事から、WECが2012年度と2013年度に巨額の減損処理を行なった事実を東芝が公表せずに隠していたこと、第三者委員会発足前に、当時の田中久雄社長、室町正志会長(現社長)、法務部長(現執行役員)等の東芝執行部が、米国原発子会社の減損問題を委員会への調査委嘱事項から外すことを画策し、その東芝執行部の意向が、東芝の顧問法律事務所である森・濱田松本法律事務所から、第三者委員会の委員の松井秀樹弁護士に伝えられ、原発事業をめぐる問題が第三者委員会の調査対象から除外されたことが明らかになった。

また、東芝が、一連の会計不正を行っていた間に、会計監査人であった新日本に対して悪質な隠ぺい・虚偽説明を繰り返していたことは、第三者委員会報告書でも極めて不十分ながら指摘されていたが、2016年3月初めに発売された文芸春秋2016年4月号の【スクープ・東芝「不正謀議メール」を公開する】と題する記事では、東芝が、大手監査法人の子会社であるデロイト・トーマツ・コンサルティング(以下、「デロイト」)に「監査法人対策」の指導を依頼し、損失を隠ぺいした財務諸表を新日本が認めざるを得ないような「巧妙な説明」を行ってきたことが指摘された【最終局面を迎えた東芝会計不祥事を巡る「崖っぷち」】。

このように、会計監査人の監査法人に対して不誠実極まりない対応を繰り返してきたことが相当程度明らかになっていた東芝の会計監査を、PwCは、敢えて受任したのである。しかも、受任する際には、その時点での東芝の財務諸表や内部統制に問題がないか、事前調査も行ったはずである。その段階で、東芝の監査法人への対応に問題があることに気づかなかったのであろうか。

 

新日本の立場

一方、PwCに東芝の会計監査を引き継いだ、それまでの会計監査人の新日本は、東芝側の虚偽の資料や説明で騙され、会計不正を見抜けなかったことで、金融庁から課徴金や一部業務停止などの厳しい行政処分を受け、東芝を担当していた複数の公認会計士が業務停止処分を受け、新日本を退職することを余儀なくされた。

新日本がそのような事態に至った最大の原因は、東芝の監査についての問題について、新日本の当時の執行部が、「東芝との契約上の守秘義務」を強調し、独自の対社会的対応をほとんど行わなかったことにある。(【年明け早々から重大な危機に直面している新日本監査法人】)

そのような新日本の対応にも、新日本の顧問法律事務所が、東芝の顧問法律事務所であり、前記の「第三者委員会スキーム」にも関わったとされる森・濱田松本法律事務所と同じであったことが影響している可能性がある。

2016年3月末で会計監査人がPwCに交代することが決まっており、それまでさんざん東芝に騙されてきた新日本としては、その時点で、東芝にたいして、甘い監査で「お目こぼし」などする動機は全くなかった。2016年3月末の段階で、その前年末にS&Wを買収したことによる損失発生の可能性についても、徹底して厳しい目で監査を行ったはずだ。その新日本ですら損失発生の可能性を認識する根拠は見出せなかった。

 

PwCにとって東芝監査受任が重大な誤り

ところが、PwCは、東芝の会計監査を受任した後、2017年度の第1四半期、第2四半期はいずれも、東芝の決算を「適正」と評価しておきながら、2016年12月に、S&W買収による巨額損失が表面化するや、一転して、東芝に対する「不信」を露わにし、2017年3月期の会計報告について「意見不表明」を続ける一方、前任会計監査人の新日本が、2016年3月末の時点で東芝が損失発生の可能性を認識すべきだったのに、見過ごしたかのような主張を始めたのである。

少なくとも、東芝のS&W買収による巨額損失が表面化して以降の東芝監査へのPwCの対応には、監査法人の世界の常識からすると、かなり疑問がある。しかし、PwCは、現在のところ、大きな批判を受けてはいない。それは、現時点においては、東芝という企業や執行部に対する「不誠実で信頼できない」という認識において、PwCと社会一般の認識とが共通しているからである。東芝の会計監査で徹底して厳しい対応をとることは、基本的に社会的要請に沿うものなので、PwCを批判する声があまり上がらないのである

しかし、一連の会計不正への対応を見る限り、東芝執行部の監査法人への対応が不誠実で信頼できないことは、監査受任の段階で十分に認識できたはずだ。PwCは、それでも、敢えて東芝の監査を自ら受任したのである。もし、PwCが受任していなければ、他に受任できる大手監査法人はなく、東芝は上場廃止に追い込まれていた可能性が高い。東芝監査をあえて受任したPwCには重大な責任があることを忘れてはならない。

 

「真の第三者委員会」設置によって「東芝をめぐる闇」の解明を

東芝とPwCの関係は「限定付き適正意見」を東芝側が無視し、何も措置をとらないという「異常な関係」となっている。今後もPwCが東芝の会計監査人にとどまるのであれば、その条件として、「不誠実で信頼できない」状況を解消するための抜本的な是正措置を求めるべきである。そのための重要な手段が、「東芝不祥事」の全容を解明するための、東芝執行部からの独立性・中立性が確保された「真の第三者委員会」の設置である。それが受け入れられないということであれば、PwCは会計監査人を辞任すべきである。

東芝の一連の会計不祥事の発端が、WECの買収による海外の原発事業によって大きな損失を生じたことにあったのは、もはや疑う余地がない。その失敗の根本原因がどこにあったのか。海外原発事業の損失が、東芝社内でどのように認識され、どのような対策が講じられてきたのか、それに関して、デロイトを使った監査法人対策がどのように行われ、そこにどのような問題があったのか。海外の原発事業をめぐる問題が、「4事業」の会計不正にどのようにつながったのか。会計不正が表面化した後の「偽りの第三者委員会」の設置等による問題の本質の隠ぺい工作は、誰が主導し、誰が関わって行われたのかなど、東芝の会計不祥事をめぐって起きたあらゆる問題を徹底解明すべきである。

PwCがこだわり続けた、「S&W社買収による損失を東芝が認識した時期」というのは、「東芝をめぐる闇」の一コマに過ぎない。今、重要なことは、来年3月までに債務超過を解消し上場を維持することではない。「東芝不祥事」の全容を解明し、「日本を代表する伝統企業」が「最も不誠実で信頼できない企業」に転落していった原因を明らかにすることである。そのうえで、経営体制の刷新、組織の抜本改革を行うのでなければ、東芝に対する社会の信頼を回復することはできない。

東芝監査に関わった以上、PwCには、それを徹底して追求する社会的責任がある。

 

 

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検察はなぜ”常識外れの籠池夫妻逮捕”に至ったのか

昨日、籠池泰典氏夫妻が、大阪地検特捜部に、「詐欺」の容疑で逮捕された。

驚くべきことに、この「詐欺」の容疑は、今年3月下旬に大阪地検が告発を受理した「補助金適正化法違反」の事実と同じ、森友学園が受給していた国土交通省の「サスティナブル建築物先導事業に対する補助金」の不正受給であり、「補助金適正化法違反」を、「詐欺罪」の事実に構成して逮捕したということなのである。

詐欺罪と補助金適正化法違反の関係は、「一般法と特別法の関係」というのが常識的な理解だ。一つの事象に対して一般的に適用される法律があるのに、適用範囲が狭い特別の法律が定められている場合は、法の趣旨として、その特別法が適用され、一般法の適用が排除されるというのが「一般法と特別法」の関係だ。

補助金を騙し取る行為は、形式上は詐欺罪が成立する。しかし、国の補助金は本来、当局による十分な審査を経て支給されるものであり、不正な補助金交付を行ったとすると、国の側にも問題がなかったとは言えないこと、国からの補助金の不正は地方自治体等の公的な機関でも行われることなどから、補助金適正化法は、不正受給の法定刑を、詐欺罪の「10年以下の懲役」より軽い「5年以下の懲役・罰金」とし、「未遂罪」が設けられている詐欺罪と異なり、未遂を処罰の対象外としたものだ。つまり、あえて「詐欺罪」より罪が軽い「補助金適正化法違反」という犯罪を定めたものだといえる。

このような法律の趣旨からすると、国の補助金の不正受給である限り、詐欺罪が適用される余地はない。

しかし、それなのに、なぜ、大阪地検特捜部は、「小学生レベル」とも思える誤った逮捕を行ったのか。

3月29日に、NHKを始めとするマスコミが「大阪地検が、籠池氏に対する補助金適正化法違反での告発を受理した」と大々的に報じた。その経過からして、その報道が、明らかに検察サイドの情報を基に行われたこと、そしてその情報は、何らかの政治的な意図があって、東京の法務・検察の側が流したもので、それによって「籠池氏の告発受理」が大々的に報道されることになったとしか考えられないことを【籠池氏「告発」をめぐる“二つの重大な謎”】で指摘した。

しかも、私自身が、その補助金適正化法違反の告発に関して、3月中旬に、マスコミ関係者を通じて事前に相談を受け、告発状案にも目を通したうえで、その後の報道で「請負契約書が虚偽だったとしても、国の側で審査した結果、適正な補助金を交付した」と報じられており、偽りその他不正は行われたものの、それによって補助金が不正に交付されたのではないと考えられること、「森友学園は既に補助金を全額返還したこと」と報じられており、過去の事例を見ても、よほど多額の補助金不正受給でなければ、全額返還済みの事案で起訴された例はないことなどから、「籠池氏の補助金適正化法違反による起訴の可能性はゼロに等しい」と明言した。

そのような、起訴の可能性のほとんどない事件の「告発受理」が、法務・検察幹部のリークと思える経過で大々的に報道された時点で、「この件で、検察は、大変な事態に追い込まれることになるのではないか」という予感がしていた。

本来、詐欺罪が適用されるはずのない「国の補助金の不正受給」に対して、詐欺の被疑事実で逮捕したのは、余程の事情があるからであろう。上記のとおり、国交省側の審査の結果、適正な金額を算定したので、結果的には「不正な補助金支給」が認められず「未遂」にとどまっていて、補助金適正化法違反では不可罰であること、同法違反では不正受給額が「正規に受給できる金額と実際に受給した金額」の差額になるが、詐欺であれば支給された全額が形式上の被害額となるので、マスコミ向けに金額をアピールできること、の2つがその「事情」として考えられる。そこで、逮捕事実を「水増し」するために、敢えて詐欺罪を適用した可能性が指摘できる。

しかも、籠池氏夫妻に逮捕の要件である「逃亡のおそれ」「罪証隠滅のおそれ」が認められるのか。前者がないことは明らかだし、この国交省の補助金受給をめぐる事実関係については主要な物証は大部分が押収され、関係者の取調べも実質的に終わっているはずだ。敢えて罪証隠滅の可能性があるとすれば、籠池氏の「夫婦間の口裏合わせ」だが、それなら、先週木曜日(7月27日)に初めて任意聴取した段階で逮捕すればよかったはずだ。その時点で「罪証隠滅のおそれ」がないと判断して帰宅させたのに、なぜ、その4日後に「逮捕」ということになるのか。

法務・検察の幹部が関わっているとしか考えられない「告発受理」の大々的な報道の後始末として、何らかの形で事件を立件して籠池夫妻を逮捕せざるを得なくなったとすると、「検察が追い込まれた末」の籠池夫妻逮捕だということになる。それは、法務検察幹部が政治的意図で告発受理を大々的に報じさせたことが発端となって、自ら招いた事態だと言わざるを得ない。

それは、検察の常識として凡そあり得ない逮捕であり、過去に繰り返してきた数々の検察不祥事にも匹敵する「暴挙」だと言わざるを得ない。このような無茶苦茶な捜査からは直ちに撤退すべきである。

 

 

 

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加計問題、「総理のご意向」を仕組んだ“真犯人”は誰か ~恐るべき18歳の推理

安倍晋三首相も出席して行われた衆参両院の閉会中審査での「加計学園が今治市に獣医学部を新設する話は今年1月20日まで知らなかった」との答弁が、野党の集中砲火を浴び、マスコミでも厳しい批判を受けたことで、加計学園問題に関する安倍首相の疑惑は解消されるどころか、ますます深まっており、一向に沈静化する兆しはない。急速に下落し「危険水域」に入ったと言われている内閣支持率の回復も見込めず、安倍内閣は危機的な状況に陥っている。

こうした中で、まだほとんど注目されていないが、 Tomoaki Kitaguch(北口)氏による【 加計問題の真相?(フィクションとしてお楽しみください)】との注目すべき記事が、フェイスブック上に登場している。ご本人も、「より多くの方に、この考察を読んでいただきたい」と了解してくれたので、以下に全文を引用する。

新たな報道を見聞きして、「加計問題の真相」は、巷で議論・想定されている内容とは違うところにあるのではないか、と考えるようになりました。

以下、報道されている情報を基に、国家戦略特区ワーキンググループ(以下、特区WG)の視点から構成した「フィクション」(少なくとも、現時点では)を掲載します。

信じるか信じないかは、あなた次第です。

*   *   *

『獣医学部新設の制限は、株式会社による農地保有の禁止などと並んで有名な岩盤規制だ。だから特区WGは、2013年の特区制度設立時から、「国家戦略特区がこれらの岩盤に穴を開けなかったら、国家戦略特区の存在意義を問われる」と考えていた。』(特区WGについて、WG座長・八田氏)

安倍首相のビッグスポンサーであるが故に「籠池氏の二の舞」とならないだけで、加計学園は「利用された」のだ。渦中の人となっている、安倍首相・萩生田氏といった政界の大物たちも「利用された」のだ。誰に? そう、「規制緩和ありき」で獣医学部新設を推進してきた、特区WGに、だ。

現在の疑惑の中心は、安倍首相・萩生田氏を始めとする官邸関係者だが、獣医学部新設の実働部隊は、特区WG・内閣府。実働部隊が共有する行動理念は「何がなんでも、獣医学部を新設し、岩盤規制を打破する」というもの。つまり、当初は「加計ありき」というより「規制緩和ありき」だった。悩みの種は「どうすれば、文科省と獣医師会をねじ伏せられるか」ということ。彼らにとっては、岩盤規制にドリルで穴を開けることさえできれば、特区の指定先はどこだって良かった。

獣医学部新設は、特区WGの「実績づくり」のために、致命的に重要だ。「日本の検疫行政の未来」や「石破四条件との適合性」といった観点から、慎重に政策の妥当性を検討する暇などない。最速で規制緩和をしなければならない。しかし、文科省と獣医師会の抵抗は、想定以上に強力だ。「特区が実現しさえすれば、メリットのエビデンスは腐るほど付いてくるはず…。そうなれば、文科省や獣医師会はぐうの音も出なくなるのに…」。市場原理を妄信する特区WGは、皮算用を始めていた。

16年3月時点で公募に応じたのは、加計学園と京都産業大学の2校。「平成30年開学」というゴールから逆算して考えると、京都産業大学では間に合わない。長年申請を続けてきた(程度が低かったのか、15回却下されているが)加計学園の方が、準備も進んでいるはずだ。

8月に地方創生相が、石破氏から山本氏に代わった。これを「官邸からのメッセージ」と捉えた特区WGは、ついに加計学園に白羽の矢を立てる。「規制緩和ありき」が「加計ありき」に変わった瞬間だった。「加計学園で、ほぼ確定」と内定を伝え、開学への準備を急いでもらう。一般公開されていない裏情報を渡したり、申請書の内容にアドバイスしたりして、認可のハードルを下げるといった工作もした。

文科省・獣医師会の同意を未だ取り付けられていない中で、「見切り発車」を一私大に求めることには、懸念もあった。交渉が上手くいかなかった場合、莫大な損失を与えながらも、政府として責任を取ることは不可能、という事態に陥りかねないのだ。しかし、特区WG内部では、「加計学園なら、大丈夫だろう」という打算があった。加計学園の、圧倒的な「政治的コネクション」に賭けたのだ。

パートナーの愛媛県知事・加戸氏は、言わずと知れた「アベ友」。「愛媛県への大学誘致」(獣医学部新設ではない)を悲願とする彼は、獣医学部新設に並々ならぬ情熱を注いでいる。しかも、文科省のOB。加戸元知事だけではない。加計学園サイドは、政界に強い影響を持つ人物を、多数擁している。安倍首相と加計理事長は、自他ともに認める「腹心の友」の間柄。千葉科学大学客員教授を務める萩生田氏は、内閣官房副長官。加計学園で理事を務める木曽氏は、元内閣官房参与で、文科省OBだ。

「加計学園で行きます。でも、文科省と獣医師会がうるさくて…」。こう伝えれば、特区WGの感知しない部分で、憎き文科省・獣医師会に「政治的な圧力」をかけてくれるのではないか。「獣医学部新設のためなら、どんな手段でも使う」、そう胸に誓った特区WGにとって、「加計ありき」路線の選択に迷いは無かった。この判断を端緒として、単なる「規制緩和ありき」の段階では考えられなかった速さで、事態は進展していくことになる。

果たして、先述の面々は、様々な形で「政治的な」折衝を行った。16年9月~12月のことである。文科省の前川事務次官には、あの手この手で揺さぶりをかける。獣医師会には、山本大臣が直々に馳せ参じる。この時点では「加計ありき」は隠さなければならないのだが、山本大臣は「加計で行きます」と口を滑らせてしまった。根が正直で、政治工作に向かないのだろう。何はともあれ、各員の努力が奏功して、文科省・獣医師会の抵抗も徐々に収束してきた。

「加計ありき」路線に同調する権力者が、各所で「総理の意向」をちらつかせたのは、大きかった。内閣人事局と国民の支持率に由来する「絶大な権力」を有する安倍晋三に盾突く者は、もはや日本の政界にはいない。また、案件が「獣医学部新設」であるだけに、「総理の意向」の中身についての「ミスリーディング」が期待でき、実質的な圧力は二倍。というのも、「スピード感を持って規制緩和する」という「総理の意向」を、それとなくボカして伝えるだけで、「加計学園で何としても獣医学部新設を実現する」とのメッセージとして解釈してくれるのだから、扱いやすい。どうせ、オトモダチの加計理事長から色々頼まれているのだろうから、罪悪感など欠片も無い。規制緩和のために、有効に活用させてもらうまでだ。

交渉の過程で飛び出した、「獣医学部の空白地帯に限る」や「一校・一地域に限る」といった後付けの条件は、最終的には「全国展開」を見据える特区WGとしては不本意なものだが、「加計ありき」で動いてくれている人々にそれを言っても仕方のないことだ。「1つの区域で規制改革が認められれば、他の区域でも認められる」という「特区ルール」を発動させることができれば、「事情が変わった」などと言い訳して、ちゃぶ台返しすれば良い。加計学園で実現すれば、後はどうとでもなる。後付けの条件で京都産業大学も手を下してくれたし、向かうところ敵なし。8月の文科省設置審で不認可にでもしようものなら、「総理の意向」で文科省解体しまっせ…(脅迫)。

規制緩和バンザイ! 自由競争バンザイ! 安倍首相バンザイ!

*   *   *

…以上、北口の妄想でした。安倍首相・萩生田官房副長官・前川前次官・加計理事長・加戸前知事…などと、役者揃いの「加計問題」ですが、どうも彼らは「何者かの手玉に取られている」感が、半端ない。では、この問題に「黒幕」がいるといたら、誰か。「規制緩和ありき」で突き進んできた特区WGなのではないか。「獣医学部新設」という彼らの目標を実現するために、安倍首相も「加計ありき」の人々も、利用されたのではないか。このような直感と、「疑惑は確かに存在しているのでは」という素直な実感に従って、ストーリーを描いてみました。

あくまでフィクションですが、既存の報道と不整合な部分があれば、ご指摘願いたいです。僕が知っている範囲の情報とは、整合性が取れるように組み立てているつもりですが…。現時点では、きちんと突っ込み始めたらキリがないくらいのミスはある気がします。

最後に、もう一度。「「信じるか信じないかは、あなた次第です。」」

 

北口氏は、「妄想」、「フィクション」(少なくとも、現時点では)などと言っているが、加計学園をめぐる問題全体に対する極めて鋭い推理・分析に基づく、リアリティ溢れる「迫真のストーリー」であある。

しかも、驚くべきことに、これを書いた北口氏は、フェイスブックに掲げられている「ディベート甲子園」、「地学五輪」、「数学理科甲子園」等での輝かしい成績から、“灘高校3年在学中の高校生”と特定できる。

 

特区WGの主体的かつ積極的な動きへの着目

この「北口ストーリー」の特筆すべき点は、「加計ありき」の獣医学部新設の動きに関して、野党での国会での追及、マスコミ報道などが「安倍首相と加計孝太郎氏との『腹心の友』の関係」に偏り、そこに、世の中の関心も集中している中で、国家戦略特区特区ワーキンググループ(以下、「特区WG」)の動きに着目し、それを中心軸に関係者の動きをとらえるという「視点」、そして、安倍首相などの政権首脳と文科省の前川前次官らが、まるごと「何者かに手玉に取られている」のではないか、「真犯人」は特区WGではないかとの「推理」を行っていることである。

前者の「視点」は、加計学園問題全体を分析・整理した私のブログ記事【加計学園問題のあらゆる論点を徹底検証する ~安倍政権側の“自滅”と野党側の“無策”が招いた「二極化」】を参考にしてくれたものだと思うが、特区WGを「中心軸」としてとらえるという「視点」は、私にはなかった。そして、後者の「推理」は、私には考えも及ばなかった奇想天外な「ストーリー」であるが、そこには、かなりのリアリティがある。

この「特区WG真犯人ストーリー」のリアリティの最大の根拠となるのが、特区WGの民間議員らが、今回の加計学園問題に関して、異常なまでに「主体的かつ積極的に」動いていることである。

6月13日には、国家戦略特区諮問会議の有識者議員(民間議員)及びWG民間議員が記者会見を行い、今治市に獣医学部の新設を認めた手続にも経過にも全く問題はない、

一点の曇りもない

と断言した。そこで根拠とされた《2016年3月末までに文科省が挙証責任を果たせなかったので、勝負はそこで終わっている。延長戦で9月16日にワーキンググループをやったが、そこで議論して、もう「勝負あり」》とする「挙証責任」「議論終了」論を、特区WGの民間議員の八田達夫氏や原英史氏が、国会の参考人質疑で滔滔と述べている。

また、原氏と同じ株式会社政策工房の会長の高橋洋一氏は、前川喜平氏が加計学園問題で「行政が捻じ曲げられた」と公言した頃から、「挙証責任」「議論終了」論をネット記事やテレビ出演で繰り返し主張し続けている。

この特区WGの主張は、「4条件」の閣議決定の文言・趣旨とも、実際のWGでの議論の経過とも一致しておらず、凡そ通る余地はない。それは、7月8日放映のBS朝日「激論!クロスファイア」での高橋氏と私との「激論」からも、私のブログ記事(【加計問題での”防衛線”「挙証責任」「議論終了」論の崩壊】【加計学園問題のあらゆる論点を徹底検証する ~安倍政権側の“自滅”と野党側の“無策”が招いた「二極化」】)などからも明らかだ。

ところが、その後も、特区WGの民間議員達は、「挙証責任」「議論終了」論によって加計学園の獣医学部新設を認めたことを正当化する主張を、今なお続けている。

特区担当の山本幸三大臣は、特区WGで獣医学部新設に関する議論が続いていた2016年11月には、大臣自らが獣医師会に乗り込んで、獣医学部新設を認めるように説得したり、国会答弁では「挙証責任」「議論終了」論をそのまま「受け売り」するなど、その答弁は、安倍首相や松野博一文部科学大臣の答弁などからも遊離し(7月24日の参院予算委員会閉会中審査での日本維新の会浅田均議員の質問等に対する答弁)、「閣内不一致」ともいえる状況になっている。

しかも、24日の国会での山本氏の「加計学園と同様に獣医学部新設を検討していた京都産業大とも連絡をとっていた」との答弁について、内閣府は、26日に、「大臣が答えた中身について確認できていない」とする見解を明らかにしており、山本氏の対応は、内閣府の担当部署とも乖離しているように思える。

これらから見えてくるのは、加計学園問題をめぐって、野党・マスコミの追及に対抗する側が、安倍首相を中心とする内閣・政府の組織と、特区WGの民間議員達と彼らに担がれた山本担当大臣に「二分化」しているという異常な構図なのである。

北口氏は、そこから、「特区WGが、主体的に『加計ありき』の獣医学部新設に向かって動き、それが問題とされるや、『挙証責任』『議論終了論』によって正当化する主張を積極的に行っている」という「特区WG主導のストーリー」を想定したのであろう。

 

特区WGが「安倍首相の意向への忖度」を利用したとの“大胆な推理”

そして、そのような「特区WG主導のストーリー」から、北口氏は、次のような「大胆な推理」を行うのである。

和泉洋人首相補佐官が、前川前文科次官に対して「総理が言えないから、私が言う」と言って、獣医学部新設を認める方向での文科省の対応を促したこと、萩生田光一官房副長官が、文科省の高等教育局長に「総理は『平成30年4月開学』とおしりを切っていた」という趣旨の発言をしたこと、そして、それらから、文科省側は「総理のご意向」を感じ取り、前川氏も総理の意向で文科省の行政が捻じ曲げられたと考えたことなどは、ほぼ事実である。それらは、これまで、「『腹心の友』の加計氏の便宜を図ろうとする安倍首相の意向」に結び付けられてきたが、実は、安倍首相の「お友達」が経営する加計学園の獣医学部新設を俎上に載せれば、関係者に当然に「安倍首相の意向への忖度」が生じて、学部新設を早期に実現しようとすることを熟知していた特区WGの民間議員達が、それらを、丸ごと利用したのではないか。

北口氏は、「安倍一強」体制の下で、首相本人の意向が明確に示されなくても、それを確認することなく、「忖度」するのが当然の状況にあり、その構図をうまく利用すれば、「加計ありき」の獣医学部新設が「総理のご意向」によって進められているかのように認識し、猛烈な勢いでその実現に向かって邁進させることも可能だったのではないかと考えたのである。選挙で選ばれたわけでもない特区WGの民間議員達は、「忖度」の構図を巧みに操って、「獣医学部新設」で岩盤規制を打破するという彼らの目標を実現したのではないかと「推理」するのである。

この推理の下では、関係者の証言の多くが、矛盾なく整合していく。安倍首相は、加計氏から今治市での獣医学部新設について何の依頼も受けておらず、その認識すらなかったとの、「にわかには信じ難い弁解」が仮に真実であったとしても、「文科省の行政が捻じ曲げられた」との前川氏の主張と相反することもない。特区WGの仕掛けによって、官邸・内閣府側と文科省側という対立する両者が、いずれも「安倍首相の意向」のように信じ込んだということで、事実として両立するのである。

 

国家戦略特区という制度の歪みの現実化

唯一、リアリティに疑問の余地があるとすれば、特区WG民間議員達に、そこまでのことをする「動機」がどこにあるのか、という点であろう。しかし今回の加計学園問題は、国家戦略特区という制度の歪みが現実化したものと考えれば、特区WG民間議員達が、北口氏の「推理」どおりの動きをすることも決してあり得ないことではない。

国家戦略特区という制度の歪みと重大な問題を指摘する著書【国家戦略特区の正体】(集英社新書)を、加計学園問題が表面化する前の今年2月に公刊した郭洋春立教大学教授は、加計学園問題表面化後のインタビュー記事【疑惑は加計学園だけじゃない? デタラメすぎた「国家戦略特区」の“歪んだ行政”】で、次のように述べている。

そもそもの制度設計に重大な欠陥があります。その問題点が日本経済全体に長期的な悪影響を与えるよりも先に、加計学園問題で噴出してしまったと言えるでしょう。運用面も含めたそのデタラメぶりは私が想像していた以上かもしれません。

今治市の分科会に出席したメンバーを見ると、八田達夫という名前が出てきます。「民間有識者」という立場での出席ですが、アジア成長研究所所長・大阪大学名誉教授である八田氏は、実は国家戦略特区構想の制度で重要な位置を占める「ワーキンググループ」の委員でもある。この点は見逃すことができません。

ワーキンググループというのは、国家戦略特区に指定された各地域から上がってくる事業提案を審査する立場にある機関です。その立場にある人物が、各地域がどの事業を提案するかを考える分科会にワーキンググループの委員という肩書きではなく「民間有識者」という立場で出席しているのです。

郭教授は、特区WGの座長の八田氏の「利益相反的な立場」を指摘しているが、同氏とともに、特区WGで獣医学部新設に向けて中心的な役割を果たし、国会でも何回も参考人として「挙証責任」「議論終了」論を述べている原英史氏については、一層妥当する。

原氏は、「株式会社政策工房」の社長であり、同社の会長が高橋洋一氏である。同社の経営実態は不明だが、高橋氏は、以前、ラジオ番組で共演した際に、「政策や法律案を作ることに関する業務」と説明していた。国家戦略特区という制度に関して、原氏がどのような立ち位置にあるのか、規制緩和や特区の政策や運用について国からの委託を受ける一方で、規制緩和策によって利益を受ける事業者の側からも業務を受託していることも考えられる。

そのような立場の特区WG民間議員なのであるから、「岩盤規制の撤廃」で実績を上げることを至上命題とし、それに関する重要な案件である「獣医学部の新設」に、手段を選ばすに邁進したとの北口氏の推理も、あながち不合理とは言えないのである。

 

ストーリーは加計問題の「疑惑」を否定するものではない

北口氏の「加計問題の真実」で書かれている「特区WG真犯人ストーリー」にはリアリティがあり、それが真実であった可能性は十分にある。

そして、仮に、ストーリー通りであったとしても、国家戦略特区で加計学園の獣医学部の新設を認める決定を行ったことが、行政を捻じ曲げる不当ものであることに何ら変わりはない。特に、京都産業大学が応募を断念せざるを得なくなった「平成30年4月開学」の条件設定の合理的な説明は困難であり(【京産大記者会見への反応に見る”更なる「二極化」”】)、獣医学部の新設が、何らかの不当な力が作用する中で行われた可能性が否定されるものではない。

特区WGと文科省側との最大の対立点になっている「獣医師をめぐる需給」の問題について、最近出された記事【加計学園問題に関する単純な疑問「日本では獣医師が不足しているのか?」】において、特区WGが「錦の御旗」にした「獣医師の不足」という主張も、客観的な数字に基づいて比較すれば、その論拠は極めて薄弱であることが示されている。

 

安倍首相自らが招いた「冤罪的要素」の可能性

仮に、特区WGが「真犯人」で、「総理のご意向」の“忖度”は彼らに仕組まれたものだったとすると、加計氏に便宜を図ったと疑われたことについて、安倍首相にとっては「冤罪」的な要素があったことになる。

しかし、仮にそうであったとしても、「冤罪」的な要素は、すべて安倍首相自身が招いたものである。

まず、「安倍一強」体制の下で、官邸、内閣府等において、安倍首相本人の意向を確認することなく、それを「忖度」するのが当然のような雰囲気が作られていたことに根本的な問題がある。

加計学園問題のあらゆる論点を徹底検証する ~安倍政権側の“自滅”と野党側の“無策”が招いた「二極化」】でも述べたように、安倍首相にとって、加計学園に関して問題を追及された際に不可欠だったのが、《国家戦略特区に関する権限を有する総理大臣と、加計学園理事長とが「腹心の友」であることの「利益相反」の問題》と《諮問会議とWGの民間議員のメンバーに国家戦略特区に関する「判断」を行わせることの公正・中立性に関する問題》を認識することだった。そして、それらについて反省すべき点は反省し、改善の検討をする旨言及していれば、加計問題が大きな問題になることはなかったはずだ。

しかし、そのような認識を欠いたまま、当初の野党の質問に対して、「全く問題ない」と言い切ったために、従来の文科省の方針に反して獣医学部の設置認可を迫られた文科省側の反発を招き、その後、「総理のご意向」などと書かれた内部文書の存在が指摘され、前川氏が記者会見で「文書は確かに存在した」「文科省の行政が捻じ曲げられた」と発言するという事態に至った。

もし仮に、安倍首相側に本当に何もやましいことがなく、官邸・内閣府に対する指示・意向も全くなく、安倍首相と加計氏との親密な関係は、国家戦略特区での加計学園の獣医学部新設を認めることに全く無関係だったとすれば、それにもかかわらずここまで深刻な事態に追い込まれたことは、すべて安倍政権側の対応の誤りのためだったということになる。そうだとすると、安倍政権の危機対応能力の欠如は、ほとんど病気に近いものと言わざるを得ない。

しかも、安倍内閣の支持率が大きく下落し、「国民に丁寧に説明する」と自ら明言した後も、安倍首相は、疑惑を一層深める対応を繰り返している。閉会中審査の段階で、「加計学園の獣医学部新設の話を1月20日に初めて知った」などと、誰にも信じてもらえない内容の答弁を行い、翌日の質疑で過去の答弁の訂正に追い込まれるという大失態を演じた。

そもそも国家戦略特区という枠組みを作り、アベノミクスの成長戦略の「第三の矢」に位置付けたのは安倍首相自身である。その枠組みが、特区WGの暴走につながり、それに安倍首相の意向への「忖度の構図」が利用されたとすれば、それも、すべて安倍首相の責任である。

安倍首相に、今、必要なことは、北口氏の「特区WG真犯人ストーリー」を十分に念頭に置いて、国家戦略特区で獣医学部新設を認めるに至った経緯と判断の是非を、加計学園の大学経営の実態、今治市側の特区申請に至る経緯等も含めて全面的に検証すること、それも、独立かつ中立の第三者による調査に委ねることであろう。

 

驚異の18歳!

それにしても、恐るべき18歳である。「大人の世界」が不毛な追及と弁解に終始して全く事態の収拾が見通せない状況において、加計学園問題全体を俯瞰し、「特区WGの主導性」に着目し、「総理の意向」が利用されたかという問題の本質を見抜く推理・分析力と、それをストーリー展開させていく能力は、常識を遥かに超えている。検事時代に様々な検察独自捜査に関わった経験や、特捜検察と司法マスコミの癒着を主題とする推理小説【司法記者】(講談社文庫)も書いた経験もあり、推理・分析力、ストーリー展開力にはそれなりの自負を持っている私だが、北口氏のストーリーには、完全に脱帽である。「将棋の世界での藤井聡太四段」に匹敵すると言っても過言ではない。

国の権力の中枢である首相官邸が、首相の国会答弁の混乱を回避することすらできず、事態を一層深刻化させてしまう惨憺たる状況にあり、危機対応能力の欠如と人材不足が絶望的にも思える中、我々は、北口氏のような十代の若者達がこの国を救ってくれる時代がくることに望みを託すほかないのであろうか。

 

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