「桜を見る会」安倍首相“詰将棋”、最終盤での「決定的な一手」は

先週金曜日の夕刻、安倍首相が、官邸での「ぶら下がり会見」で、

夕食会費用については、安倍事務所職員が一人5000円を集金してホテル名義の領収書を手交。集金した現金をその場でホテル側に渡すという形で、参加者からホテル側への支払いがなされた。

と説明したことについて、土曜日(11月16日)の記事【「桜を見る会」前夜祭 安倍首相の「説明」への疑問~「ホテル名義の領収書」の“謎”】で、

「ホテル名義の領収書」が渡されたのであれば、その領収書の額面の金額に見合う支払いが、安倍事務所職員からホテル側に前もって行われたはずだ。

と指摘した。

週明け月曜日の朝、安倍首相は、再び「ぶら下がり会見」に応じた。

(毎日)「国会対応は党に任せている」桜を見る会 改めて首相釈明、主なやりとり】によると、安倍首相は、「領収書」に関して、

桜を見る会の前日の夕食パーティーについて、安倍事務所も後援会にも、一切入金、出金はございません。領収書を発行していないし、領収書を受け取ってもいない。

と答えた。

そして、その後、この点に関して、以下のようなやり取りがあった。

記者:領収書のことだが。

首相:ちょっとすみません、時間がありませんので、最後の質問にしてもらえますか。

記者:安倍事務所の方が受付で領収書を渡していたとのことだが、ホテル側から領収書をもらうためには先に支払いをしないといけないという指摘がある。先にホテル側に支払ったということは一切ないのか。

首相:それはありません。

記者:総理、一つだけ。

首相:ちょっとすみません、これ最後にしていただけますか。

 「先にホテル側に支払ったということは」という記者の質問に対して、安倍首相は「それはありません」と答えたものの、それに続く質問を、「これ最後に」で打ち切った。

 そして、この「ぶら下がり」で、安倍首相が、夕食パーティーについて、「安倍事務所も後援会にも、一切入金、出金はございません。領収書を発行していないし、領収書を受け取ってもいない」と述べた点について、私は、昨日夜の記事【「ホテル主催夕食会」なら、安倍首相・事務所関係者の会費は支払われたのか】で、以下のような指摘を行った。

ホテル側が主催する立食の夕食会であれば、安倍首相夫妻や事務所関係者、来賓も、参加者の人数に含まれる。これらの人達も、すべて自分で夕食会費を支払ったのだろうか。もし、後援会が支払っているとすれば、その分、その「桜を見る会」前夜祭に関する安倍後援会側の「支出」が発生する。支払っていなければ、安倍首相や関係者は「無銭飲食」をしたことになる。

 昨日の「ぶら下がり会見」を打ち切る直前の質問については、改めて、「本当に、支払っていないのに『ホテル名義の領収書』を受領したのか。事務所に確認したのか」という質問を受けることになるだろう。もし、安倍事務所側が本当に支払っていないとすると、ホテルニューオータニは、「支払を受けないで領収書を前渡しした」という重大なコンプライアンス上の問題を抱えることになる。

 安倍首相は、夕食パーティーが「ホテル主催」であったかのような説明を続けるのだろうか。そうなると、「ホテル主催の夕食パーティーなら安倍首相や事務所関係者の支払はどうなったのか」との新たな疑問に、どう答えるのであろうか。前日の「安倍事務所も後援会にも、一切入金、出金はございません」という答えを撤回することなく、説明をすることが可能なのだろうか。

 加計学園問題では、(安倍首相への「忖度」で利益を受けたことが疑われた)安倍首相の親友の加計孝太郎氏が、「説明」から逃げ続けた。

 森友問題では、(安倍首相の意向を「忖度」した疑いがある)財務省が、「説明」の矢面に立たされ、自殺者まで出た。「忖度」される立場だった安倍首相は、直接の「説明」から逃げることができた。

 しかし、今回の「桜を見る会」の前夜祭パーティー問題は、安倍首相と、その後援会が直接の当事者である。安倍首相は、「説明」から逃げることができない。盤面の展開が殊の外早いのはそのためだ。

 官邸で「番記者」に囲まれて、慌ただしく都合の良いことだけを述べる、ということを繰り返してきた安倍首相だが、その表情には、徐々に「余裕のなさ」が目立ってきている。それは、この問題をめぐる「詰将棋」が、“最終盤”に差し掛かっていることを示しているようにも思える。

 安倍首相や後援会が、ニューオータニ側に「値引き」や「領収書前渡し」の便宜を図ってもらったことを強調し続けると、さらに「決定的な一手」となる質問が待ち構えている。

 それは、ホテルニューオータニが、安倍首相の職務権限による「何らかの見返り」を期待する関係にあったのではないか、ということだ。

 具体的には、次のような質問だ。

ホテルニューオータニに対して、「首相官邸や内閣府からの発注」は行われていないのか。

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「ホテル側主催」であれば、安倍首相・後援会関係者は会費を支払ったのか

 安倍首相は、本日(18日)午前10時ごろ、総理大臣官邸に入る際、記者団の取材に応じ、「懇親会などについて証拠を示して説明すべきだという指摘が出ている。」と問われたのに対し、「安倍事務所にも後援会にも、一切、入金はなく出金もない。旅費や宿泊費は各参加者が直接支払いを行い、食事代についても領収書を発行していない。」と述べたとのことだ(NHK)。

 15日の「ぶら下がり会見」では、「安倍事務所職員が1人5000円を集金してホテル名義の領収書を手交した」と説明していた。そうであれば「ホテル名義の領収書」が事前に安倍事務所側にわたっていたことになる。ニューオータニのような一流ホテルが、支払いを受けてもいないのに領収書を発行して交付することはあり得ないのではないかというのが、前の記事【「桜を見る会」前夜祭 安倍首相の「説明」への疑問~「ホテル名義の領収書」の“謎”】での指摘だが、その点について安倍首相は答えていない。

 安倍首相の説明によると、夕食会は、ホテル側が主催し、ほとんどが宿泊者であることを考慮して、夕食会費を1人5000円と決め、個別にそれを集金したもので、安倍事務所側は、会費を集金して領収書を交付するという事務を手伝う以外は関与していないということになるが、懇親会に出席した参加者全員が、個別に、(安倍事務所職員を通してかもしれないが)1人5000円の飲食費をホテル側に支払ったということになると、その夕食会費を支払うべき「参加者」には、安倍首相夫妻や事務所関係者、来賓も含まれるはずだ。ホテル側が主催する立食の夕食会であれば、これらの人達も、夕食会に参加する以上、飲食をしようとしまいと、参加者の人数に含まれるのは当然だ。

 これらの人達も、すべて自分で夕食会費を支払ったのだろうか。もし、後援会が支払っているとすれば、その分、その「桜を見る会」前夜祭に関する安倍後援会側の「支出」が発生する。支払っていなければ、安倍首相や関係者は「無銭飲食」をしたことになる。

 この疑問に、安倍首相は、どう答えるのであろうか。

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“桜を見る会前夜祭”安倍首相の「ホテル名義の領収書」説明への疑問

今年の「桜を見る会」の前日にホテルニューオータニで開かれた前夜祭について、安倍首相は、昨日、「すべての費用は参加者の自己負担。旅費・宿泊費は、各参加者が旅行代理店に支払いし、夕食会費用については、安倍事務所職員が1人5000円を集金してホテル名義の領収書を手交。集金した現金をその場でホテル側に渡すという形で、参加者からホテル側への支払いがなされた。」と説明し、少なくとも2017年分までの安倍総理に関係する政治団体の収支報告書に“前夜祭”の収支について記載がないことについては「収支報告書への記載は、収支が発生して初めて記入義務が生じる。ホテルが領収書を出し、そこで入ったお金をそのままホテルに渡していれば、収支は発生しないため、政治資金規正法上の違反にはあたらない。」と述べたそうだ(テレ朝ニュース)。

この「説明」には、いくつかの疑問と問題点がある。

「ホテル名義の領収書」と代金支払いの関係

最大の問題は、安倍事務所職員が参加者から集金して「ホテル名義の領収書」を渡したとされている点だ。

少なくとも、ニューオータニほどのホテルが、実際に金銭を受領していないのに「ホテル名義の領収書」を渡すことはあり得ない。「ホテル名義の領収書」が渡されたのであれば、その領収書の額面の金額に見合う支払が、安倍事務所職員からホテル側に前もって行われたはずだ。

会の参加者の人数が予め確定しているのであれば、その確定額を安倍事務所側が「立て替え」、ホテル側に支払って、その金額に見合う領収書を受け取って参加費と引き換えに参加者に渡したということもあり得るだろう。しかし、前夜祭は、「自由参加」の立食の会であり、予め参加の申込みが行われているわけではないはずだ。そうなると、安倍事務所職員が、予め金額を確定してホテル側に支払い、その分の「ホテル名義の領収書」を受け取るということはできないのが通常だろう。

安倍首相の「説明」にある「ホテル名義の領収書」というのが、ホテルニューオータニの正式の領収書であったとすると、安倍事務所側で、「参加者数」を決めて、一人当たりの領収書の金額に「参加者数」を乗じた金額をホテル側に支払って、その人数分の「ホテル名義の領収書」を受領し、参加費の支払と引き換えに参加者に渡したということしか考えられない。

そうなると、そこで前提とされた「参加者数」が、実際の「想定参加者数」と一致していたのかどうか、ということが重大な問題となる。「ホテル名義の領収書」を受け取る際の支払いの前提となった「参加者数」よりも、実際に5000円の参加費を支払った人が少なかった場合、その差額は、安倍事務所側が負担し、安倍事務所には、その分の「ホテル名義の領収書」が残ったということになる。この場合、一人分の「ホテル名義の領収書」の金額と、1人当たり参加費の支払額は一致するが、安倍事務所のホテルへの支払額の総額と、参加者から受け取った参加費の総額は一致しない。

ホテル側に実際に支払われたパーティーの費用の総額が明らかになっていないので、「ホテル名義の領収書」が一枚5000円だったとしても、一体、何枚の領収書が安倍事務所側に渡されたのかが判断できない。

また、ホテルへの支払いが一人当たり5000円では到底足りず、その差額を安倍事務所側で補填しようと考え、「想定参加者数」を大幅に水増しし、実際に参加した人からの支払いとの差額を安倍事務所ないし安倍後援会側が負担したという可能性もある

仮に、そのようなことが行われたとすると、公選法上、政治資金規正法上、どのような問題が生じるのか。

公職選挙法上の問題

まず、公選法199条の2が禁止する「公職の候補者等の寄附の禁止」に当たるか。

確かに、前夜祭の飲食の提供について、ホテル側が、一人当たりの価格設定を「5000円」としていて、その金額と一致する5000円の会費が支払われていれば、金額が釣り合っているので「寄附」には当たらないようにも思える。

しかし、もし、その「5000円」が、実際の参加者を大幅に上回る「想定参加者」を前提に設定されたものであり、実際に提供される飲食費の一人当たりの金額が「5000円」を大幅に上回っていたとすれば、その「超過金額」の分の「寄附」をする意思があり、実際寄附が行われたことになる。

その場合、安倍事務所側が、ホテルへの参加費総額を支払って「ホテル名義の領収書」を受領した際に前提とした参加者数が、実際に想定していた参加者数に見合ったものであったかについての事実確認を行う必要がある。

政治資金規正法上の問題

政治資金規正法上は、安倍首相の「収支は発生しないため、政治資金規正法上の違反にはあたらない」との「説明」は、全く通る余地がない。

「桜を見る会」のツアーは、安倍晋三後援会名義で参加を呼び掛けていることからしても、政治団体である同後援会の活動の一環として行われていることは否定できない。その後援会の事務を行う安倍事務所側が「想定参加者数」でホテル側に支払いをしたとすれば、それ自体が、政治団体としての安倍晋三後援会の「支出」であり、その後、実際に参加者から「一人5000円」で受領した参加費の総額が「収入」となる。この「支出」と「収入」の両方を、政治資金収支報告書に記載すべきであることは言うまでもない。

この場合、安倍晋三後援会の政治資金収支報告書への不記載ないし虚偽記入の政治資金規正法違反が成立することになる。

一流ホテルのニューオータニであれば、「代金を受領しないまま、ホテル名義の領収書を安倍事務所側に大量に渡すことはあり得ないだろうし、参加者数が確定しないのに、一人当たりの参加費を「5000円」として領収書を交付し、参加者が想定より少なかった場合のリスクをホテル側が負担するということも考え難い。

安倍首相自身が「説明」に用いた「ホテル名義の領収書」が、この「桜を見る会」の前夜祭をめぐる問題の事実解明の“鍵”となるかもしれない。

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服役後5年“不屈の闘志”で司法試験合格した佐藤真言氏を阻む「不条理の壁」

2011年、東京地検特捜部に「震災復興融資詐欺事件」で逮捕・起訴され、実刑判決を受けて服役した経営コンサルタントの佐藤真言氏が、今年の司法試験に合格した。5年前には服役していた佐藤氏が、予備試験を経て司法試験合格まで5年という「超短期合格」を果たすまでの経緯が、産経新聞の記事【元受刑者のコンサルが司法試験合格 「負け犬」から奮起】で紹介されている。

産経新聞記事では、「『負け犬』からの奮起」という言葉が使われているが、決して、佐藤氏は、「負け犬」などではない。経営コンサルタントとしての役割を果たし、社会に貢献していたのに、特捜部の全くの見立て違いの捜査によって逮捕され、引き返すことをしない検察によって、起訴された、まさに“被害者”だった。

佐藤氏を「悪質経営コンサル」と誤認した特捜部

きっかけとなったのは、2010年に、元銀行員の経営コンサルタントAが国税局の査察で摘発されたことだった。Aは、銀行に在職時に、大口の融資話をまとめてはリベートを吸い上げて巨額の利益を得、しかも、その融資先会社は殆ど営業実体がないにもかかわらず虚偽の決算報告書で優良企業のように見せかけていた。東京地検特捜部がAを詐欺で逮捕し、立件された事件だけでも被害額は15億円に上った。

この巨額詐欺事件の元銀行員Aと、「元銀行員の中小企業向け経営コンサルタント」というところだけ共通していた佐藤氏を、特捜部は「粉飾決算の指南役」として捜査の対象とした。佐藤氏を、Aと同様の「悪質コンサル」と見た特捜部は、佐藤氏の自宅を捜索、捜索に赴いた係官は、佐藤氏の住まいのあまりの質素さに驚く。札束も、隠し財産も全くない。佐藤氏への取調べが始まり、その説明から、特捜部の見立てが完全に誤っていたことが明らかになっていくが、特捜部は、引き返そうとはしなかった。

佐藤氏の顧客の会社のほとんどは、リーマンショックによる不況で経営が悪化し、倒産の危険にさらされている状況で、佐藤氏の経営再建に向けての助言・指導を受けていた。売上や在庫を若干水増しして、決算内容を債務超過に至らない最低限のレベルに維持しながら、銀行融資の返済を続けている会社ばかりだった。融資する金融機関の側も、厳しい経営状況を把握しており、決算書の内容を厳密に突き詰めることなく融資継続の是非を判断しているという状況だった。

検察改革で追い込まれた特捜部の「起死回生」のための事件

特捜部は、その顧客会社のうちの一社が「東日本大震災復興緊急保証制度」に基づく保証融資を受けていたことをとらえ、「悪徳コンサルタント会社が実質破綻の中小企業を利用して震災復興の保証制度を食い物にした」という構図で組み立てて、佐藤氏とその会社の社長を逮捕した。

この事件の立件には、当時、検察不祥事を受けた検察改革で縮小されようとしていた特捜部の組織としての思惑があった。2011年4月に「検察の再生に向けての取組み」が公表され、取調べの可視化の試行など様々な施策が打ち出され、その一環として、特捜部の特殊直告班(主として政界汚職事件など特捜部の独自捜査を担当する部門)が縮小し、一班体制とされることになっていた。それに伴い、廃止されることになった「特捜部特殊直告2班」が、「起死回生の一打」を狙って手掛けたのがこの事件であった。

顧客会社は、社長の突然の逮捕で、銀行融資がストップ、会社は破産に追い込まれ、取引先の零細業者も連鎖倒産した。詐欺に問われた信用協会の保証付き融資も、結果的に、返済不能となった。

会社の倒産は、検察の強制捜査のためだった。しかし、会社が倒産し、銀行融資が結果的に返済不能となってしまったため、融資した銀行は、検察官から「粉飾決算を見過ごしたのか」と言われ被害届を出すよう求められれば、出さざるを得ない。被害弁償ができない1億円を超える詐欺事件となれば、執行猶予はつかない。佐藤氏は、懲役2年4月の実刑判決を受けて、服役した。

佐藤氏は、「貸し渋り」「貸し剥がし」が横行する中小企業金融の実態に幻滅して大手銀行を退職、経営コンサルタントとして中小企業経営者に寄り添い、経営改善の支援に懸命の努力をしていた。

普通に聞けば、「銀行から融資名目で1億円を騙し取って実刑判決を受けた」というと、「詐欺師」であったかのように思うだろう。しかし、佐藤氏が詐欺罪に問われた事実は、それとは全く異なる。

佐藤氏は、経営コンサルタントとして苦しい経営状況の中小企業が、金融機関からの融資の継続によって経営を立て直すことに尽力してきた。「粉飾」も佐藤氏が指導して始めさせたわけではなく、決して「粉飾」を指南したわけではない。

金融機関から融資を騙し取る「融資詐欺」の「詐欺師」の典型は、美濃加茂市長事件の贈賄供述者だ。会社の実体もなく、売上も全くないのに、関係機関の代表者印等を偽造、受注証明書・契約書等の公文書・私文書を偽造して、多くの地方自治体・医療機関等から浄水装置を受注しているかのように装ったり、送金元の名義を偽って代金が入金されたように見せかけたりして、事業の実体がないのにあるように偽装して、金融機関から融資金を騙し取っていた。それが、典型的な犯罪としての「融資詐欺」であり、佐藤氏の事件の発端となった経営コンサルタントAの詐欺も同様だ。

佐藤氏の行為は、融資を受けた会社の会計の「紛飾」が否定できるわけではないので、関与が否定できなければ、形式的には詐欺罪が成立することになる。しかし、検察が中小企業の金融取引の実情をわきまえていれば、凡そ、詐欺罪で立件して起訴するようなことではないことはわかったはずだ。

佐藤氏の事件を取り上げた著書・ブログ

7年前、石塚健司氏の著書【四〇〇万企業が哭いている ドキュメント検察が会社を踏み潰した日】(講談社)で初めてこの事件のことを知り、懸命に中小企業の経営改善に取り組む経営者と、それを必死に支える経営コンサルタントという、2人の「ひたむきに生きている善良な市民」が東京地検特捜部の非道な捜査・起訴に踏みつぶされたことに、衝撃と憤りを覚えて書いたのが【「正義を失った検察」の脅威にさらされる「400万中小企業」】。

その後、2人と会って、じっくり話を聞き、改めて、特捜部という権力機関が、このような普通の市民に襲い掛かることの恐ろしさを、私自身の検事時代の経験も含めて書いたのが【特捜検察が「普通の市民」に牙をむくとき】だ。

その後、控訴審でも一審の実刑判決がそのまま維持され、上告したものの、絶望的な状況に追い込まれた佐藤氏自身が、自らの著書【粉飾】(毎日新聞社)を公刊した際に書いたのが【佐藤真言氏の著書『粉飾』で明らかになった「特捜OB大物弁護士」の正体】だ。佐藤氏の著書の中で明らかにされている「特捜OB大物弁護士」は、高額の私選弁護費用を請求しながら、佐藤氏の弁護人として行うべきであった主張を全く行わないどころか、無意味に300万円もの「贖罪寄附」を行わせるなど、最低の弁護活動であり、それが、佐藤氏を「実刑判決の確定」という最悪の事態に追い込むことになった。

私の検察問題への関与を変えた“佐藤氏事件の衝撃”

佐藤氏の事件の衝撃は、その後の私の検察問題への関与の仕方を変えることになった。

私は、2006年に弁護士登録をしたものの、仕事の中心は、組織のコンプライアンスに関するもので、講演や不祥事対応、第三者調査等が中心だった。登録後の数年間は、裁判所に行ったことすらなかった。検察の在り方は、以前から厳しく批判していたが、検察の実務経験を持つ有識者としての、外側からの評論がほとんどだった。大阪地検の証拠改ざん問題等の検察不祥事からの信頼回復のために法務省に設置された「検察の在り方検討会議」に委員として加わったのも、その延長上だった。

しかし、佐藤氏の事件を知り、その巻き添えで逮捕された顧客会社の社長の控訴審の弁護を受任し(執行猶予とはならなかったが、懲役2年4月から2年に減刑)、私は、「やはり弁護人として法廷で検察と戦うべきだ」と強く思うようになった。実際の刑事裁判のフィールドで、検察官と真剣勝負をすることで、初めて、検察の在り方に具体的な影響を与え、佐藤氏のような人を出さないようにすることにも貢献できると考えた。

それ以降、弁護人として戦ってきた事件が、ブログでも紹介してきた「美濃加茂市長事件」「青梅談合事件」「国立循環器病研究センター事件」「福田多宏氏法人税法違反事件」などだ。そういう意味で、佐藤氏の事件は、私の「検察権力との戦い」の原動力になった事件だといえる。

これらの事件に共通するのが、「検察官が判断を誤り、処罰すべきではない人間を処罰する方向に暴走し、引き返すことができない構図」であった。

夢に向かって懸命の努力を続ける佐藤氏に立ちはだかる「不条理の壁」

佐藤氏は、私と最初に会った時に、「刑務所に入ることになっても、出てきて10年たったら法曹資格がとれると聞いています。私のような目に遭わされる人が出ないように、弁護士になりたい。」と話していた。その佐藤氏は、服役後、その夢に向かって、懸命の努力を続け、今年9月、司法試験合格という快挙を成し遂げた。経営コンサルタントの仕事を続けながら、予備試験を2回目で合格、1回の司法試験で、一気に最終合格にこぎつけた。

「“謂れなき刑事事件”で苦しめられる人を弁護人として救いたい」という思いが原動力となった佐藤氏の不屈の闘志と集中力が、どれほど凄まじいものであったか。

しかし、産経記事でも書かれているように、佐藤氏は、司法試験の超短期合格という快挙を成し遂げたにもかかわらず、「禁錮以上の刑を受けた」という欠格事由のため、実際に法曹資格を得るのは容易ではない。刑を受け終わって10年経過すると刑が消滅するので、佐藤氏の場合、あと5年余りで形式的には要件を充たすことになる。しかし、法曹資格取得のためには司法研修所に入所する必要があるが、その入所に関しては明確な規定がなく、裁量に委ねられている。佐藤氏が実際に入所できるのが何時になるかはわからない。法務省に、今後のことを聞き行った際、担当官から「悪知恵を付けてまた詐欺をやるのか」というようなことを言われたそうだ。産経記事のツイッターでのコメントにも、一部のそのような趣旨のものがある。

私自身も関わった「検察の在り方検討会議」等による検察改革で追い込まれた特捜部は、中小企業を倒産の危機から救う経営コンサルタントの佐藤氏を、「悪質コンサル」と誤認して逮捕し、引き返すこともなく起訴し、佐藤氏は実刑判決を受けて服役した。その経験から、「『普通の市民』に牙をむく特捜部から市民を守る弁護士になりたい」と願う佐藤氏は、懸命の努力の末、司法試験合格という快挙を遂げた。ところが、その忌まわしい「懲役前科」が、今も、佐藤氏の前に立ちはだかっている。

まさに「不条理の壁」そのものである。

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関電第三者委は、法曹キャリア「てんこ盛り」の“透明な皿”

昨日(10月9日)、関西電力は、八木誠会長と岩根茂樹社長が辞任すること及び但木敬一弁護士(元検事総長)を委員長とする第三者委員会を設置したことを発表した。

多額の金品受領について「被害者的な言い訳」に終始し、続投を表明した10月2日の記者会見の時点で、辞任を表明するのが当然であり、辞任表明は、遅きに失したものだった。この一週間で関電という企業が失った「社会からの信頼」はあまりに大きい。

問題は、この日設置が発表された第三者委員会を、どう見るかである。

一言で言うと、現時点では、肯定も否定もできない。

まず、委員会のメンバーは、委員長の但木氏をはじめ、裁判所、弁護士界という法曹の世界のキャリアという面では「申し分のない人達」である。中立性・独立性や、私が【関電経営トップ「居座り」と「関西検察OB」との深い関係】で問題にしていた「関西検察 OBの世界」との関係性という面でも問題となる人は含まれていない。

しかし、76歳の但木氏をはじめ、いずれも高齢であることに加え、少なくとも、不祥事の事実調査という面で経験がある人はいない。

検事総長にも「現場系」の人(ロッキード事件で活躍した故吉永祐介氏が筆頭、最近では、大阪地検不祥事を受けて辞任した検事総長の後任として急遽検事総長となった笠間治雄氏が現場経験の豊富な検事総長だった。)と、「法務官僚系」の人とがいる(数的にはこちらのほうが多い)が、但木氏は、典型的な法務官僚系であり、現場での捜査・公判での経験は、任官後の2、3年だけで、ほとんどないに近い人だ。

検察不祥事を受けて設置された「検察の在り方検討会議」では、検察出身者の委員が二人選ばれたが、一人が、陸山会事件などで厳しく検察を批判していた私、もう一人が但木氏だった。

但木氏は、現場経験には乏しくても、頭脳明晰で理解力に優れ、かつ包容力がある人だ。検討会議の際も、会議外でいろいろ話をする機会が多かったし、その後も何回かお会いしているが、基本的にスタンスが異なる私の意見もよく聞いてくれる。そういう意味では、但木氏は、社会的重要性が極めて大きい今回の関電問題の第三者委員会の委員長に相応しい人物と言える。

しかし、問題は、この委員会の構成からは、誰が中心となって調査を実行し、事実を解明していくのか、どのような調査を行うのかが、全く見えないことだ。

但木氏自身は検事としての捜査経験がほとんどないし、奈良道博氏は、元日弁連会長であり弁護士としてのキャリアは申し分ないが、自ら調査を行った経験があるようには思えない。元東京地裁所長の貝阿彌誠氏も、民事裁判官だった人であり、自ら証拠収集をする調査を行った経験はほとんどないと思われる。

15人の弁護士による調査チームが編成されるとのことだが、その調査を総括するのが誰なのかが明らかにされていない。

そして、何より問題なのは、第三者委員会の調査という方法によって、今回の問題の事実解明が可能なのかということだ。

金品を受領した関電幹部の側の話だけを聞く「調査」であれば、既に1年以上前に行われ、「言い訳」を並べた調査報告書は、遅ればせながら、前回の10月2日の記者会見の際に公表されている。

真相に迫るためには、多額の金品を提供した森山栄治氏や、同氏が顧問を務めていた吉田開発の関係者から話を聞くことが不可欠だが、森山氏は既に死亡しており、吉田開発関係者を第三者委員会の聴取対象にするのかどうかも不明だ。

一般的には、第三者委員会の調査での聴取対象は、設置した企業等の内部者が中心だ。私が委員長を務めた九州電力第三者委員会では、やらせメールの発端となった佐賀県知事の発言に関して、佐賀県関係者も聴取対象にしたが、この場合は、九州電力と関係の深い自治体だったからこそ、協力を得ることができたのであり、今後も、関電との取引関係が続くとは思えない吉田開発側が、聴取に応じるかどうかもわからない。

これらの聴取ができないということになると、「違法ではない」との関電側の主張を崩せるかどうかについては、関電の原発関連工事の発注に関する独禁法違反などの成否がポイントとなる。しかし、この点は公共調達法制や、独禁法の専門知識がないと、関電側の言い分を崩すことは容易ではない。この分野に関しては、検察を含め法曹関係者に精通した人材が極めて少ないことも事実だ。調査チームの弁護士が、その点について十分な能力を持っているのか、法学者の中では公共調達法制のほとんど唯一の専門家である上智大学の楠茂樹教授のブログ記事【関西電力発注の原発関連建設工事:独禁法違反の成否は?】も参考にし、必要に応じ、楠教授による専門的知見によるサポートを受けることも検討すべきであろう。

いずれにせよ、今回の問題は、最終的な法的判断がどうなるかは別として、問題の性格上「犯罪的な実体を持った行為」であり、企業等の組織の不祥事に関して、責任追及や犯罪捜査とは離れた、原因究明・再発防止策の策定を目的とする第三者委員会による調査になじむのかどうかも疑問である。

今回公表された関電の第三者委員会は、緊急のオーダーを受けて、豪華な法曹キャリア「てんこ盛り」の“無色透明の皿”を出してきたというに等しく、これだけでは、この極めて根深い問題の真相解明、違法性の有無の判断ができるのか、全くわからない。

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日本郵政鈴木副社長「NHK暴力団発言」で露呈した「放送法コンプライアンス」の“無理解”

関西電力の岩根茂樹社長と八木誠会長が、2010年2月に、関電本社の役員会での講演で、私のコンプライアンス論を聞いてくれていた人達であるのに、彼らの金品受領問題に関する記者会見での言動が、残念ながら、全く理解できない、異様なものであったことは、一昨日の【関電経営トップ「居座り」と「関西検察OB」との深い関係】で述べた。今日(10月9日)の日経朝刊で、関電の会長・社長が辞任の方向と報じられているが、当然であり、遅きに失したというべきであろう。

コンプライアンスを通じて私が、過去に関わりを持った人の中に、もう一人「残念な人」がいる。6年以上にわたって日本郵政副社長を務め、「事実上の経営トップ」とも言われる鈴木康雄氏のことだ。

鈴木氏は、かんぽ生命における「保険不適切販売」の問題に関して、NHK側の対応について、「暴力団と一緒」「ばかじゃないの」などと発言したことで批判を浴びている。

私が、2009年10月に総務省顧問・コンプライアンス室長に就任した際、事務次官として、大臣室での顧問の辞令交付にも立ち会ったのが鈴木氏。翌2010年1月、総務省が「日本郵政ガバナンス検証委員会」を設置し、私が委員長に就任した際も事務次官は鈴木氏だった。そして、2014年に、西室泰三社長時代の日本郵政の役員会でコンプライアンス講演を行った際にも、副社長として出席していた。私のコンプライアンスの活動と関わりがあった人の一人である。

先週10月3日に、国会内で開かれた野党5党による合同ヒアリングに、「日本郵政ガバナンス検証委員会」の元委員長として出席した際、日本郵政側で出席していた鈴木氏と久しぶりに顔を合わせた。

そこでは、かんぽ生命の保険の不適切販売の問題に加えて、NHKへの日本郵政側の抗議の問題も取り上げられた。昨年4月に放送されたNHKの「クローズアップ現代+」が、かんぽ生命の販売に関する問題を取り上げ、続編の放送に向けた情報提供を求める動画を公式ツイッターに掲載し、日本郵政に取材に応じるよう求めていたが、日本郵政側が削除を要求し、応じなかったので、会長宛てにそれを要求した。それに対して、NHK側が、「会長は番組の編集に関与しない」と回答したことについて、日本郵政側が「ガバナンスの問題」として、NHKの最高意思決定機関である経営委員会に抗議し、NHKは予定されていた続編の放送を延期、同11月にはNHK側が会長名の“謝罪文書”を渡し、公式ツイッター上の動画も削除された。

一連の対応が、日本郵政側からの「圧力」に屈したと批判を受けていた。このNHKへの抗議の中心となったのが、副社長の鈴木氏だ。

野党合同ヒアリングでの日本郵政鈴木副社長の発言

ヒアリングでは、ちょうど私の目の前の席に鈴木氏が座っていた。

NHK側とのバトルに加えて、野党議員からの追及を直接受ける状況に気が立っているせいか、私の顔を見ても無表情で、不愉快そうだった。

質問に答えて、鈴木氏が説明した事実経過は、以下のとおりであった。

昨年4月の放送の前に取材を受けて、執行役員が取材に答えた。その後、第二弾の放送をするにあたって、公式ツイッターのショート動画で、全く事実の適示がなくて、「元本詐欺」、「詐欺まがい」、「押売りなど」などと書いていた。貶めるようなことをいうのはやめてくれと抗議したところ、番組プロデューサーが「会長は番組内容に関知しない」と発言したので、明らかに放送法違反だと考えて、NHKの編集体制をしっかりしろと会長宛てに抗議文を送ったが、その後何の返答もないので、本来NHKの監督をするのは経営委員会なので、経営委員会に判断を求めたところ、やっとNHKの執行部から返答があった。

ヒアリング出席者のNHKの専務理事や経営委員会委員長代行の説明によると、日本郵政側の抗議に対して、番組ディレクターが「会長は番組内容に関知しない」と発言したことや、日本郵政側の抗議を長期間放置したことを理由に、経営委員会が、会長に厳重注意したとのことであった。

野党議員からは、鈴木氏に、

日本郵政の中に、これだけ強い調子でNHKに対して物を言える人はいない、明らかに元放送行政に関わり、後に事務次官を務め、指導監督をしてきた自負によるもの。一線を越えた行動ではないか。

との質問があった。

それに対して、鈴木氏は、

視聴者は、番組に対して、言われっぱなしで構わないというんじゃない。そのために訂正放送制度というのがあるんじゃないか。放送されたものがすべて正しい。放送しようとしていることがすべて正しいということじゃないと思います。

と反論していた。

日本郵政のNHKへの抗議における「主張」

鈴木氏が、ヒアリングで述べたことからすると、日本郵政側のNHKへの抗議における主張は、以下のようなもののようだ。

(1) 放送事業者は、組織として編成方針を決定し、その方針にしたがって、番組が作成されなければならない

(2) 視聴者側は、放送事業者に、真実ではない放送を行ったとして請求した場合には、放送事業者が調査し、真実ではないことが判明した場合には訂正放送をしなければならない

(3) だから、番組の編集に関して問題があると視聴者側から指摘された場合は、組織のトップの責任において対応し、是正を図らなければならない

放送法は放送事業者に(1)~(3)を義務づけているので、日本郵政の抗議に対して、NHKの番組プロデューサーが、「会長は編集に関与しない」と言ったこと、抗議を長期間放置したことが、放送法違反であり、それに対して是正措置をとらなかった会長には重大な義務の懈怠がある。

NHKの経営委員会は、上記のような日本郵政側の主張が正当だとして、会長に厳重注意を行ったということのようだ。

日本郵政の「放送法コンプライアンス」の無理解

しかし、日本郵政側の抗議の内容や、NHKとのやり取りの詳細の資料は不明だが、少なくとも、上記のように、日本郵政側が、放送法を盾にとってNHKに抗議し、公式ツイッター上の動画を削除までさせたことが、放送法の趣旨に沿うものとは思えない。鈴木氏は、「放送法コンプライアンス」をはき違えており、そこには、「根本的な無理解」があるのではないか。

第一に、組織として決定する「編成方針」というのは、どのような目的で、どのような番組を作成していくのかという基本的な番組編集方針のことであり、その方針の決定を組織として行うに当たって、NHKの経営トップである会長が関与するのは当然である。しかし、一方で、放送法3条は、「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。」と定めているのであり、個々の番組の内容について外部者から干渉されることを禁じている。組織のトップに対する外部からの働き掛けで番組内容が影響を受けることは、3条の規定に反するものであり、放送事業者としては、そのような「干渉」を受けないようにすることが求められる。

第二に、放送法9条の訂正放送に関する規定は、既に放送された番組について、その内容が真実ではないとして権利の侵害を受けた側から請求があった場合に関するものであり、番組を編集する過程で、真実ではない放送が行われようとしているとして、外部から、それを止めるように請求することを認める規定ではない。

したがって、今回の日本郵政からの抗議のように、昨年4月に放送した番組に続く「第二弾」の編集の過程で、その番組の準備としての取材に対して、取材される側が、NHKの会長に直接是正を求めた場合、個々の番組の編集のための取材の過程に会長が介入することは、放送法の趣旨に反するものであり、そこで放送法9条の訂正放送の制度を持ち出すのは的外れだ。

また、鈴木氏は、公式ツイッター上の動画の削除を求めたことも、「訂正放送制度」によって正当化されるかのように言っているが、公式ツイッター上の「動画」は、NHKが行う「放送」ではないので、そもそも放送法9条による訂正の対象ではない。

日本郵政の鈴木副社長が中心となり、放送法を盾にとってNHKへの要求を繰り返したことの方が、放送法の趣旨に反していると言うべきであろう。

鈴木氏の「NHK暴力団」発言

ところが、鈴木氏は、このヒアリングの終了直後、記者団に対して、

取材を受けてくれるなら動画を消す。そんなことを言っているやつの話を聞けるか。それじゃ暴力団と一緒でしょ。殴っておいて、これ以上殴ってほしくないならもうやめてやる、俺の言うことを聞けって。ばかじゃないの。

などと発言したと報じられている(朝日など)。

NHK側は、日本郵政側に「取材を受けてくれるなら動画を消す」と言ったことを否定しており、前提事実にも疑義があるが、それ以前の問題として、鈴木氏が放送法を盾にとってNHK側に要求していること自体が、「因縁」に近いものであり、それによって動画を削除させたことの方が、よほど「暴力団的」なやり方である。

総務省で放送法を所管する立場での職務経験が長く、「放送法コンプライアンス」をわきまえているはずの鈴木氏が、それに根本的に反する行動をとり続けていることは、由々しき問題である。

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関電経営トップはなぜ居座り続けるのか~「関西検察OB」との”深い関係”

組織の経営トップないし、それに近い立場の人間は、その組織の運営に極めて大きな影響力を持つ。そういう立場の人間が、信頼され、その地位に相応しい責任感と倫理観を持って、職務を行うことで、組織の健全な運営が可能になる。

日本社会を揺るがす極めて重大なかつ深刻な不祥事となっている関西電力幹部の金品受領問題。先週、10月2日に行われた2回目の記者会見で、目の当たりにした岩根茂樹社長と八木誠会長は、かつて私がコンプライアンス講演で直接の接点のあった人達だった。

しかし、会見で見た彼らの言動は、残念ながら、全く理解できないどころか、異様なものだった。彼らが関電の経営トップの地位にとどまっていること自体が、関電という企業にとっても、日本社会にとっても、極めて有害であり、到底許容できないものである。

しかし、岩根社長も八木会長も、それ以外に多額の金品を受領した関電幹部も、辞任する気配は全くない。

なぜ、このようなことがまかり通っているのだろうか。

その背景にある、関西経済界と関西検察OBとの「深い関係」に注目する必要がある。

「異様な空間」だった関電記者会見

10月2日、私は、福田多宏氏の法人税法違反事件の控訴審判決を一週間後に控えて、午後2時から、大阪司法クラブで記者会見に臨んだ(【福田多宏氏控訴審判決で問われる「刑事司法」「検察改革」の現状】)。ちょうど、その場に、ここのところ、インタビュー記事【郷原弁護士が読み解く「かんぽ不適切営業の本質」】など継続的にコメントをしている東洋経済のデスクが来ていた。40分程で会見が終了した後、同デスクから、「近くで行われている関電の記者会見に向かうので、同行して、関電の会見についてコメントしてもらえないか」と依頼され、関電の会見場に向かった。東洋経済のコメンテーターとして受付を済ませ、会見場に入った。

最前列では、社長・会長ら関電幹部が会見に臨んでおり、広いホールはマスコミ関係者で埋め尽くされていたが、僅かに残っていた空席をみつけて着席し、2時50分頃から約1時間半、質疑応答を聞いた。

関電金品受領問題、記者会見のポイント~「会社役員収賄罪」としての“犯罪性”に迫れるか】の末尾でも述べたように、私自身、かつては、電力会社のコンプライアンスには深く関わっており、関西電力からもコンプライアンスに関して依頼を受けることが何回かあった。社内のコンプライアンス講演も3回行い、2010年2月には、関電本社の役員会での講演も行った(その後2011年に九州電力第三者委員会の委員長を務め、報告書に九電経営幹部が反発して対立が表面化した後は、電力会社からの私への依頼は全くなくなった。)。

当時、八木氏は取締役副社長、岩根氏は常務取締役で、私が講演を行った際も、役員会に出席していた。その講演で、私は、

コンプライアンスは、「法令遵守」ではなく「社会の要請に応えること」

という一般論に加え、当時、電気事業・保険事業・放送事業等の公益的事業で相次いでいた企業不祥事に関して、

公益的事業においては、『法令遵守の範囲内で自由競争に委ねる』という単純な考え方は適合しない。多数の重要な社会的要請の実現に取り組み社会からの信頼を確保することが不可欠

ということを強調した。岩根氏と八木氏を含む役員会のメンバーは、誰しもが私の話に真剣に聞き入ってくれていた。

ところが、10月2日の関電の記者会見で目の当たりにした岩根社長、八木会長の発言は、関西財界を代表する企業の経営トップとは到底思えないものだった。

配布された会見資料の中に、昨年9月の「調査委員会報告書」が含まれていた。その委員長の名前に「小林敬弁護士」と書かれているのにも驚いたが、問題は、その中身だ。金品の受領も、

原発立地地域に強大な影響力を持つ高浜町元助役森山栄治氏の度重なる恫喝のために受領したもので、関係を損ねないように「機会をうかがいながら返還しようとしていた」

などと、関電側は、被害者のように書かれている。

そして、そのような報告書の内容についての質問に、岩根社長と八木会長が答えている。

記者から、「現金、商品券、米ドル、金貨とか、おびただしい種類の金額のものを、この人はどこかからお金を持ってきているのか、どのように認識されていたんでしょうか。」という当然の質問があった。

それに対する答えは、

そこの出資元につきましては、考えのおよびつかぬところでございます。(岩根社長)

森山氏が私どもに持ってきた金銭の出どころがどこにあるかは分からない。従って、分からないということであります。(八木会長)

というものだった。

森山氏が持ってきている夥しい額の現金や金貨の原資は「全くわからない」というのである。森山御殿の庭から、金がザックザックと湧き出てくるとでも言いたいのだろうか。

そんな言い訳が通らないことは小学生でもわかる。

さらに、記者から「還流かどうかはともかくとして、家庭向けの電気料金の値上げをして顧客から負担を強いているという状況で、関電の幹部が数千万単位の金品を、何年間にもわたって受け取っていた。国税も、預かったんではなく受け取ったという認定をしていることついての受け止めはどうでしょうか。」と聞かれると、

われわれの認識としてはお預かりしているものでございまして、別に管理をしているものでございまして、必ず返すというものと認識してございます。まだ残っている部分も含めまして、必ずご遺族のご理解を得て全額返して、こうしたことについての影響がないようにやってまいりたい。(岩根社長)

利用者に電気料金の値上げの負担をかけている一方で、多額の金が、関電幹部の下に還流してきていたという事実をどう受け止めるか、と聞かれているのである。森山氏の遺族に返したところで、関電の利益にはならないし、電気利用者にも還元されない。

岩根社長、八木会長は、そのような、まともな社会常識を備えていればあり得ないような「言い訳」を、悪びれることなく続けている。

その様子を見て、私は、眩暈がしそうだった。これが、9年前に、私のコンプライアンス講演を聞いてくれていた関電役員なのだろうか。

しかも、記者たちも、質問者も多く、質問事項も多いので、一つの質問への答が納得できなくても、さらに質問をすることはほとんどない。会見場では、あたかも、そのような答えが、まかり通っているように思える。

まさに「異様な空間」だった。こういう人たちが、関電の経営トップとして「君臨」している。そして、その会社が、福島原発事故のように地域社会を崩壊させてしまう、取り返しのつかない重大事故を起こしかねない「原発」の運営を行っている。私にとっては、想像したくもない、そして、我々の社会において決して容認することができない事実だった。

「不適切だが違法ではない」との考え方は通用しない

岩根社長は、今回の問題について、「不適切だが違法ではない」ということを強調した。確かに、森山栄治氏や吉田開発との関係も、法令や社内規則のどの規定に、どのように違反するかと言えば、今のところ、明確ではない。

しかし、原発を運営する事業者にとっての「社会的要請」との関係からは、全く容認できるものではなかった。

かつて、原発の安全神話が多くの人に信じられていた時代であれば、地元の有力者に金をばらまいて原発の建設や稼働への了解を得るというやり方も、「エネルギーの確保」という社会の要請に応えるという大義名分のために、事実上、容認されてきた。しかし、福島原発事故で「原発安全神話」が崩壊し、原発を運営する電力会社の「信頼性」が重要となる中で、原発立地地域に不透明な金をばらまくことも、社会が認めるものではなくなった。ましてや、その資金の一部が電力会社幹部に還流していたなどという今回の問題ほど、電力会社に対する信頼を崩壊させるものはない。「社会的要請に応える」というコンプライアンスの観点からは、最低・最悪の行為である。

9年前、役員会での私のコンプライアンス講演を聞いてくれていた人たちであれば、原発を運営する電力会社幹部が引き起こした今回の問題について、「不適切だが違法ではない」という「言い訳」が通用しないことがわからないはずはない。

「違法ではない」と言い切れるのはなぜか

それなのに、関電経営陣は、辞任する姿勢を全く見せない。

そこには、自分達の行為が、「司法判断」や「第三者委員会の判断」で「犯罪」や「法令違反」とされることがないという見通しがあるからだろう。

関電の取引先事業者の関係者から、多額の金銭を受領していた事実が明らかになっているのであるから、通常であれば、何らかの形で違法の判断を受け、或いは、刑事事件で逮捕・起訴される可能性を認識するはずだ。しかし、関電の経営幹部の態度からは、自分の行為が違法とされるリスクを認識しているようには思えない。

確かに、これまでのブログ記事でも述べているように、「会社役員の収賄罪」(会社法967条)には、「不正の請託を受け」という要件のハードルがある。また、山口利昭弁護士が【関西電力裏金受領事件-やっぱり「お天道様は見ている」】で指摘する、「経済関係罰則の整備に関する法律」という古い法律の収賄罪の適用については、「電気事業、瓦斯事業其ノ他其ノ性質上当然ニ独占ト為ルベキ事業ヲ営ミ」という文言との関係で、電力自由化後の電力会社役職員に適用されるのかという問題がある。

しかし、これらの罰則が、現在も法的に有効なものであることに疑いはないのであり、その適用の可否をギリギリまで判断すべく、真相解明のための捜査に速やかに着手するのが、検察官として当然の責務だ。また、関電の高浜原発関連の工事発注における競争制限行為に関連して、公取委と連携して独禁法違反による摘発を行うことを検討する余地もある。

しかし、「大阪地検特捜部」には、そのような動きは全く見られない。

そして、関電幹部の姿勢は、そのことを見通しているようにも思える。その見通しの背景にあるのは、関電を中心とする関西経済界と関西検察OBとの「深い関係」であろう。

なぜ調査委員会委員長が「(元大阪地検検事正)小林敬弁護士」なのか

今回報告書が公表された調査委員会の委員長が、元大阪地検検事正の小林敬弁護士であることが明らかになった。記者会見での岩根社長の説明によると、小林氏は、かねてから関電のコンプライアンス委員会の委員を務めているとのことだ。

10月5日放送のTBS「報道特集」で取り上げられた関電の内部事情に精通した人物によるとみられる「内部告発文書」によれば、

「コンプライアンス委員会が隠蔽のための作戦会議と化している」

とのことであり、その「隠蔽のための作戦会議」に加わっていた委員会のメンバーが小林氏ということになる。

小林氏は、大阪地検検事正として、村木事件の証拠品のFDデータの改ざん問題について、当時の大坪特捜部長らから、「過失によるデータ改変」と報告されたが、何の措置もとらなかったことの責任を問われ、減給の懲戒処分を受けて辞任した人物だ。

大坪氏・佐賀氏らが犯人隠避で逮捕・起訴され有罪判決を受けて法曹資格を失ったのに対して、小林氏は、懲戒処分を受けただけだった。それは、大坪氏らから「過失によるデータ改変」と報告されたために過失としか認識しなかった、という理由によるものだった。

しかし、2013年9月25日に大阪高裁で言い渡された大坪氏らの控訴審判決は、

小林及び玉井は、被告人両名の報告が、前田の行為により過誤による改変が生じたとの内容にとどまったとしても、大阪地検の最高幹部として、重大事件における最重要の証拠であるデータに手を加えたという重大な不祥事との認識を持って、被告人両名に対し、真相の解明を急ぐなど迅速な対応を指示するとともに、上級庁にも直ちに報告すべきであった。

と判示し、「過失によるデータ改変」を見過ごした小林検事正と玉井次席検事の責任を厳しく指摘している。

大阪高裁判決は大坪氏・佐賀氏からの報告で、少なくとも「過失によるデータ改変」との認識はあった小林検事正が、その事実を上級庁に報告しなかったことについて、重大な責任があると指摘しているのである。

しかし、小林氏の対応は、検察組織にとっては好都合だったと言える。「過失によるデータ改変」が仮に、報告されたとしても、高検・最高検が自主的にその事実を公表したとは思えない。結局のところ、組織として「隠蔽」は変わらなかったと考えられるのであるから、小林検事正が、「過失によるデータ改変」を上級庁に報告せずに「隠蔽」したことは、不正行為についての認識を大阪地検内部にとどめ、大阪高検・最高検に責任を拡散させずにとどめ、当時の高検・最高検幹部を救った功績とみることもできる。

当時、特捜部長・副部長だった大坪氏・佐賀氏は、犯人隠避罪で有罪が確定して法曹資格を失い、次席検事だった玉井氏は、大坪氏らに責任を押し付けたことで心労がたたったのか、辞任後まもなく急死した。つまり、前代未聞の検察不祥事となった「証拠改ざん」の問題について上司として責任を問われながら法曹資格を維持したのは、小林氏だけである。

小林氏は、2011年に弁護士登録し、その2年後、上記の大阪高裁判決で、厳しく「隠蔽」の責任を指摘された直後の2013年11月に、阪急阪神ホテルズの「食材偽装改ざん問題」の第三者委員会の委員長に就任した。また、その後、積水ハウスの社外監査役、山陽特殊製鋼の社外取締役等も務めた。そして、関西電力のコンプライアンス委員会の委員にも就任していたことが今回明らかになった。このようなポストへの就任は、何らかの「後ろ盾」なくして実現したとは思えない。

検察が捜査に動かないことの背景に「関西財界と関西検察OBとの深い関係」

関西では、検察の大物OBと、経済界の関係が深いと言われている。その中心に位置するのが、「関西検察のドン」と称される元検事総長土肥孝治氏だ。土肥氏は、長年にわたって関西電力の社外監査役を務め、今年6月の株主総会で退任した、その土肥氏の後任として新たに社外監査役に就任したのが、元大阪高検検事長の佐々木茂夫弁護士。今年で75歳、後期高齢者が新任社外監査役というのは、極めて異例である。

10月5日付け朝日新聞によれば、調査委員会報告書の内容は、昨年10月の時点で、監査役会に報告されていたとのことだが、その監査役には土肥元検事総長も含まれていた。また、今年の春頃から始まった「金品受領問題」の内部告発の動きは、5月頃には、表面化の危険性が高まっていた。その対応が関電経営陣にとって重大な問題であったことと、敢えて超高齢の関西検察大物OBを監査役に選任したことは無関係とは思えない。

証拠改ざん問題で引責辞任した小林氏は、社会的には、検察幹部として失格という評価を受けて然るべきだが、関西検察OBからは「評価」を受けたのであろう。小林氏は、その後、多くのポストの配分を受け、関電のコンプライアンス委員会の委員にも就任した。そして、今回の問題では、調査委員会の委員長を務め、会長・社長を含む会社幹部が3億円を超える多額の金品を受領している事実を確認しながら、ただちに公表するという、公益事業を担う電力会社として「当然のコンプライアンス対応」を行うよう意見を述べることもなく、「隠蔽」に加担した。

証拠改ざん問題の「隠蔽」にも、問題意識をもって取り組まなかった小林氏であるが故の対応とみる余地もあるが、個人の意思を超えた、関西検察OBの意向が働いていた可能性もある。

関西検察の大物OBから、関電の問題で捜査に着手しないよう強い要請を受けているとすれば、大阪高検・大阪地検等の関西検察の幹部にとって、自らの退官後の処遇に与えるリスクを考えれば、関電への捜査を容認することは困難であろう。大阪地検特捜部の現場にも、そういう上層部の意向を十分に忖度する「賢明な検事達」が集まっているのであろう。

こうなると、最高検が主導性を発揮し、東京の特捜部等が捜査に乗り出すしかないが、そもそも、検察全体が劣化し、やるべきことはやらず、余計なことに無駄な労力を費やそうとしている状況(直近では、【青梅談合事件・一審無罪判決に控訴した”過ちて改めざる”検察】)では、それも到底望めないだろう。

そうなると、今後関電が設置するとしている「第三者委員会」がどのような委員構成で行われるかが、極めて大きな意味を持つ。

しかし、岩根社長は、記者会見で、第三者委員会の委員の人選について聞かれ、

複数の先生方からの推薦を頂いて、第三者委員会で完全中立だと相当なマンパワーもいると思うので、しっかりした弁護士事務所とか経験のある人とか、そういうことを踏まえて選定する。

と答えていた。

この「先生方」が検察大物OBを含み、その推薦する弁護士を委員に選任し、所属する大手弁護士事務所が調査補助に入るということであれば、第三者委員会の調査結果にも、全く期待できないことは明らかだ。

関西電力が行う第三者委員会の委員の選任のプロセス・調査体制の構築に注目する必要がある。しがらみに影響されることなく、真相を解明し、問題の本質に迫ることができる第三者委員会が設置できるかどうか、極めて重要な局面だと言える。

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