「事実を認めた」河井克行元法相の公判供述は、広島県連・安倍前首相・菅首相にとって「強烈な刃」!

河井克行元法務大臣の公選法違反事件の公判、3月23日から始まった被告人質問で、克行氏は、議員辞職の意向を示したのに加えて、それまで全面的に否認し無罪を主張してきた公選法違反の事実を「一転して」認めたかのように報じられた。そして、4月1日、克行氏の議員辞職が国会で認められた。

河井案里氏が有罪確定で当選無効になったのに加えて、克行氏も「罪を認め」議員辞職したことで、この事件は「一件落着」だと思っている人が多いかもしれないが、それは全くの誤りである。その後も続いている克行氏の公判での被告人質問では、4月8日告示の、案里氏当選無効に伴う参議院広島選挙区での再選挙に、そして、自民党本部の選挙対応にも重大な影響を与えかねない供述が行われているのに、マスコミでは、ほとんど報じられていない。

【河井元法相・公選法違反公判、いったい何を「一転認めた」のか】でも述べたように、克行氏の供述内容は、

「河井案里の当選を得たいという気持ちが全くなかったとはいえない、否定することはできないと考えている」

という、誰がどう考えても「否定する余地のない当然のこと」を認めただけで、従前の主張と実質的に異なるものではなかった。

昨年9月の初公判での克行氏の罪状認否や弁護側冒頭陳述等での主張は、

《「当選を得させる目的」はあったが、そのために「選挙運動」を依頼して金を渡したのではない。あくまで、案里の当選に向けての「党勢拡大」「地盤培養行為」のような政治活動のための費用として渡した金である》

というものだったが、先月始まった被告人質問で、個々の買収の事実について具体的に質問され、克行氏は、従来からの主張をさらに明確に述べ、その内容は、自民党広島県連や自民党本部の選挙への対応にも重大な影響を与えかねないものとなっている。

克行氏の弁護側冒頭陳述では、

広島県連では、参議院議員選挙が近づくと、衆参国会議員から立候補予定者・候補者への秘書派遣による、党勢拡大活動、地盤培養活動などの政治活動の支援、選挙運動期間中には選挙運動の応援等が行われ、県連の要請により、広島県連職員、各種支持団体の関係者なども派遣されて同様の活動を行うのが通常であったが、案里氏については、公認が大幅に遅れたため、周知のための政治活動期間・立候補のための準備期間が明らかに不足しているのに、広島県連からの人的支援が得られず、後援会の設立や組織作り、後援会員の加入勧誘、政党支部の事務所立上げなどの政治活動や選挙運動に従事することとなる人員確保など体制作り自体に苦労する状況にあり、県議、衆議院議員として長い政治家としてのキャリアを有する克行氏が、その人脈を頼って、それら案里氏のための活動を行わざるを得なかった。

と主張していた。

3月31日の第51回公判での被告人質問で、克行氏は、以下のような供述を行った(中国新聞デジタル【詳報・克行被告第51回公判】弁護側被告人質問<2>)。

実態として今回は県連が溝手先生だけ支援すると決定していました。

県連所属の県議会、市議会、各級議員のみなさんが溝手先生を通じた党勢拡大活動を実行すると考えていました。

実際には私が県議選に初当選したのは平成3年。

平成4年の参院選では広島県から宮沢洋一前県連会長の父の宮沢弘さんが立ちました。

県連から20万~30万円を参院選に向けてちょうだいしていました。

一般的に県連が交付金として党勢拡大のためのお金を所属の県議、市議に振り込むことは存じ上げていました。

交付金は溝手先生の党勢拡大にのみ使われると思っていました。

県連が果たすべき役割を果たしていない。やむを得ず役割を第3、第7支部で果たさないといけない。

市議、県議に県連に代行して党勢拡大のためのお金を差し上げないといけないと実行に移しました。

克行氏は、市議会議員、県議会議員等に配布した現金は、本来であれば、参院選の選挙資金は、自民党本部から広島県連に提供された選挙資金が、広島県内の市議・県議等の自民党政治家の支部組織に提供され、公認候補の溝手顕正氏と案里氏の両方の選挙に関連する政治活動に使われるはずなのに、19年の選挙では、県連は、溝手氏だけを支援し、案里氏の支援をすべて拒絶しており、「県連が果たすべき役割を果たしていない」ので、「やむを得ず」「市議、県議に県連に代行して党勢拡大のためのお金を差し上げ」たと言っている。

要するに、克行氏は、党本部から提供される選挙資金を県連から市議・県議に提供するという本来のルートが使えなかったので、やむを得ず「現金」で、自分が直接手渡すという方法を使ったと供述している。それを前提とすれば、克行氏が、市議・県議等に対して行った現金供与は、広島県連が市議・県議に対して行った、自民党本部からの参院選の選挙資金としての交付金を提供したのと、同じ性格のものだということになるのである。

実際に、2019年参院選当時の自民党広島県連会長だった宮沢洋一氏が代表を務める「同党県参院選挙区第六支部」が昨年11月に県議11人に交付したと政治資金収支報告書に記載している各20万円について、平本英司県議が、2020年12月24日の克行氏の公判で、自身が受け取ったのは「昨年5月ぐらい」と証言しており、政治資金規正法違反(収支報告書虚偽記入)の疑いが生じている。このことからも、克行氏が公判供述で述べているように、国政選挙の前に、現金で資金を提供するのは、克行氏だけの話ではなく、広島の自民党において、かねてから行われてきたやり方だと見ることができるのである。

今回の参議院広島選挙区の再選挙に関して、自民党広島県連会長の岸田文雄氏は、BS番組で

「河井事件という、とんでもない事件が起こって、広島の政治、あるいは自民党の政治に対する大変厳しい批判があり、そして信頼が損なわれた、大変残念な状況になっています。もういま惨憺たる状況です」

などと語っており(【参院広島選挙区再選挙、自民党は、広島県民を舐めてはならない】)、あたかも河井夫妻の事件が「とんでもない事件」で、それによって信頼が損なわれた自民党広島県連は被害者のような言い方だ。

しかし、元法相の克行氏の公判供述によれば、広島県連自身も、選挙に関する資金の提供を同様の方法で行ってきた。広島県連にとっても、選挙資金を提供する自民党本部にとっても、河井事件は、「他人事」どころか、まさに、自分自身の問題なのである。

しかも、克行氏の供述を前提にすると、安倍晋三前首相や菅首相も、克行氏が「市議・県議に県連に代行して党勢拡大のためのお金を差し上げる」という行動に及ばざるを得ないことを、認識していなかったとは考え難い。安倍前首相は、自民党が参院選の候補者として案里氏を公認した3月13日の前後の2月28日と3月20日、自民党本部が案里氏が代表を務める政党支部に1500万円を振り込んだ2日後の4月17日、自民党本部が案里氏の政党支部に3000万円を振り込んだ3日後の5月23日に克行氏と単独で面会し、6月10日に案里氏政党支部に3000万円、克行氏政党支部に4500万円が振り込まれた10日後の20日にも克行氏と、それぞれ単独で面会している。そして、菅義偉首相も、選挙期間中に、2回も広島に応援に入っている。

安倍前首相・菅首相の2人は、広島県連が案里氏の支援を拒否していることは当然に認識していたはずである。自民党本部は、克行氏・案里氏に1億5000万円の資金を提供したが、その資金が活動資金として市議・県議に提供されることはわかっていたはずだ。県連を通じてのルートが使えない克行氏にとって、克行氏自身が「県連に代行して党勢拡大のためのお金を差し上げる」という方法に寄らざるを得ないことも十分に認識していたと考えるのが合理的だ。

「事実を認めた」はずの克行氏の公判供述は、広島県連・自民党本部にとっても、安倍前首相・菅首相にとっても「強烈な刃」である。今、案里氏の当選無効を受けて行われている再選挙に、候補者を擁立して選挙戦を戦おうとしている自民党には、克行氏が公判供述で述べている事実について、重大な説明責任がある。

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何を「一転認めた」のか!河井元法相公選法違反“公判供述”

河井克行元法務大臣の公選法違反事件の公判で、昨日(3月23日)から被告人質問が始まった。

3月3日に保釈された克行氏が、その後、議員辞職の意向を固めたと報じられていたが、昨日の公判では、議員辞職の意向を示したのに加えて、それまで全面的に否認し無罪を主張してきた公選法違反の事実を「一転して」認めたかのように報じられている。

しかし、産経新聞の公判詳報(《【克行議員初の被告人質問】(1)「結婚20年」「案里の当選得たい気持ち、なかったとはいえない」》 ~(7))を見る限り、実際の河井氏の供述は、「一転して」公選法違反を認めたというようなものではない。

克行氏が公判で、起訴事実について述べた内容は、「河井案里の当選を得たいという気持ちが全くなかったとはいえない、否定することはできないと考えている」という、まさに、誰がどう考えても「否定する余地のない当然のこと」だ。

そして、それ以外の克行氏の供述は、要するに、

(1)妻の河井案里には、政治家として素晴らしい素質があり、広島県民からの支持も見込めたので、2人目の自民党公認候補として立候補しても当選するものと予想していた、という政治家・河井案里への礼賛。

(2)現金を配布してまで、案里氏を擁立し、選挙運動を行ったのは、(「当時の首相安倍晋三氏の溝手顕正氏への遺恨」や、「当時の官房長官の菅義偉氏の岸田文雄氏との総裁選に向けての確執」などという、マスコミで取り沙汰された「背景」によるものではなく)、純粋に、「自民党公認候補での2議席独占」をめざしたものだった(ベテランの溝手氏と若手で女性の案里氏とでは支持層が全然違うので、自民党支持層の投票先が溝手氏から案里氏に移ることはあり得ない、という自民党本部の対応の正当化。)

(3) 広島県連は、長年にわたって、自民党1議席、野党1議席というぬるま湯につかった選挙をしてきた。真面目に地盤培養、党勢拡大をしてきたとはとても思えない。溝手氏や、県連会長を務めていた宮沢洋一氏は、案里が出馬することで楽な選挙ができなくなるとして、案里の立候補に反対した、という自民党広島県連への批判。

の3つである。

克行氏公判供述は「自白」なのか

克行氏は、主張を変えた理由について、

「本当に、案里を参院選に当選させたいという気持ちがなかったのか。家族同然の後援会の皆さんが証言されている姿を見て、連日深く自省しました」

などと、もっともらしく「自白に至った経緯」を話しているが、「案里を当選させたい気持」があったことは、誰が考えても当然のことであり、「深く自省」しなければ供述できないことではない。

検察の主張は、領収書も受け取らず、「違法な裏金」として多額の現金を配布した、というものだ。「違法な裏金」だと認識して現金を配布したというのでなければ、「事実を認めて自白した」ということにはならない。

一方、克行氏側の従前の「無罪主張」は、

《「当選を得させる目的」はあったが、そのために「選挙運動」を依頼して金を渡したのではない。あくまで、案里の当選に向けての「党勢拡大」「地盤培養行為」のような政治活動のための費用として渡した金である》

という主張であり、「無罪主張を翻す」ということであれば、

「案里への投票と、そのための選挙運動を依頼するために金を渡したものであり、政治活動に関するものではなかった」

と認めることになるはずだ。

ところが、弁護人から、「選挙に向けた準備」について質問された克行氏は、

「党勢拡大活動と地盤培養行為を真面目にやっていくことに尽きる。」

と述べており、結局のところ、案里氏の選挙に向けての「政治活動」を行っていたという従前の主張に何ら変わりはない。

克行氏は、

「選挙人買収の目的のみではないが、事実として認める。」

と、抽象的に事実を認めるように言っているだけだ。具体的な「自白」ではなく、「公選法違反」を「結論」として「自認」しているだけに過ぎない。

広島県連に対する批判

克行氏の供述では、案里氏が立候補した参院選での広島県連(自由民主党広島県支部連合会)の対応に対する批判も、相当な時間をかけて行ったようだ。

「県連は県議が主体の組織であり、彼らの政治的な目標は、一義的には県政であることが1番大きな違いです。県政の延長線上に国政選挙がある。国政では与党と野党で政策を異にしていますが、広島では共に県政を運営してきた。彼らにとっては、これを維持することが最重要の政治課題なのです。過去21年続いていたように、県知事選挙と国政において自民と民主系の議席を仲良く分け合うことが、彼らの政治的目標なのです。」

と述べて、県連が、野党側と馴れ合っていることを批判し、参院選に向かって党の結束を訴える絶好の機会だったのに、溝手氏の隣に案里氏を並べたくないとして県連会長が県連大会の無期延期を決めたこと、県連のホームページに溝手氏の情報だけで、同じ自民党公認の案里氏の情報が一切なかったことなど県連の対応について述べた上、弁護人の質問に答えて

「本来は県連がする党勢拡大を自分や案里が主体となってしなければならなくなった」と述べた。

今後の公判の進行

克行氏は

「全てを選挙買収と断ぜられることは禍根を残す。選挙活動を萎縮させる悪影響があってはいけない。できるだけ正確に、あの春から夏にかけて、どういう現場の状況だったのか理解していただけるように説明していきたい」

と述べており、次回以降の公判審理も、従前どおりのスケジュールで被告人質問が行われ、起訴事実のすべてについて、詳細に説明・弁解をしていく方針に変わりはないようだ。

克行氏が昨日の公判で述べた内容は、第1回公判での弁護人冒頭陳述の内容とほとんど変わりはない。

克行氏が、被告人質問で「一転して」事実を認めた、と聞いた時点では、被告人質問の予定も短縮され、論告・弁論、判決までの期間も、短くなることを予測したが、実際には、公判のスケジュールには殆ど影響はなさそうだ。

克行氏の供述は量刑上評価できるか

克行氏は、従前どおり案里氏の選挙に向けての活動を「党勢拡大」「地盤培養行為」のためと供述は変えておらず、多額の現金配布も、そのような「政治活動」を目的とするものであり、それは「本来、県連側が行うべきことだった」とまで言っている。

そうなると、県連の協力が全く得られず、県連ルートで選挙に向けての政治活動の資金提供ができない中で、地元の首長・議員に、選挙に向けての政治活動の資金を提供する手段は「現金配布」しかなかったというのも、従前の主張と同様だろう。

そのような供述をするだけでは、表面的に「公選法違反の大部分を認めた」と言っても、量刑上有利な事情としての評価は限られたものでしかない。今後の被告人質問で、「違法な裏金」であることの認識を認めるとか、案里氏の参院選立候補に至る経緯や、多額の買収資金の原資と党本部からの1億5000万円の選挙資金の提供との関係などについて具体的に供述するなど、これまで明らかになっていなかった事実を自発的に供述するのでなければ、3000万円もの多額買収事件での執行猶予判決を得ることは困難であろう。

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菅原一秀議員「起訴相当」議決、「検察の正義」は崩壊、しかし、「検察審査会の正義」は、見事に示された!

検察審査会が同時に出した「2つの議決」

3月12日、菅原一秀衆議院議員の公選法違反事件の不起訴処分(起訴猶予)に関して、第4検察審査会による「2つの議決」が出された。一つは、(1)申立審査での却下の議決、もう一つは、(2)職権審査での「起訴相当」とする議決である。

申立審査の却下の議決の末尾には、「なお、被疑者に対する公選法違反被疑事件の不起訴処分の審査については、当審査会において、職権で立件し、審査した」と記載されている。

つまり、菅原氏の不起訴処分に対する申立審査は「却下」という結論になったが、それに代えて、同じ事件について、同じ検察審査会が、「職権による審査」(検察審査会法第2条2項3号)を行い、「起訴相当」の議決を出したということだ。

職権審査というのは、極めて異例である。菅原氏の不起訴処分に対して、このような異例の「起訴相当」の議決が出されたのは、菅原氏の事件に対して、東京地検特捜が、極めて不透明な経過で、不当極まりない不起訴処分を行ったことが原因だ。

「起訴相当」議決を受けて、東京地検は、再捜査をした上、刑事処分を行うことになる。再び不起訴処分を行った場合、再度、検察審査会で審査され「起訴すべき」との議決が行われると、裁判所が指定した弁護士による起訴(いわゆる「強制起訴」)が行われることになる。しかし、もともと検察は、犯罪事実は認められるが、「犯罪の情状」を考慮して、起訴を猶予するという「起訴猶予」の処分を行った。それが、市民の代表で組織される検察審査会の議決で「起訴相当」と議決されたのである。議決書には、「被疑事実の中には既に時効が完成したものもあり、順次公訴時効期間が満了するため、速やかに起訴すべきである」と書かれている。議決を受けて再捜査をすることになる検察には、再度の不起訴処分を行う余地はない。元東京高検検事長の「賭け麻雀」の事件の「起訴猶予」処分について検察審査会の議決で「起訴相当」とされたことを受け、検察が略式起訴の方針と報じられているが、菅原氏についても、速やかに起訴せざるを得ないだろう。

菅原氏不起訴処分は、明らかに不当だった

2020年6月30日の当ブログ記事【菅原前経産相・不起訴処分を“丸裸”にする~河井夫妻事件捜査は大丈夫か】で詳述したように、2019年10月の週刊文春の記事が出た直後から、私は、菅原氏の公設第一秘書のA氏と公設第二秘書のB氏の代理人として、文春側や菅原氏側への対応を行ってきた。検察は、不起訴処分になった事件について、証拠も記録も開示しないので、一般的には、不起訴処分の不当性を証拠に基づいて論じることは困難だ。しかし、今回の菅原氏の公選法違反事件については、私は、A・B両氏から事実関係を詳しく聞いており、また、文春の記事が出て以降、両氏の代理人として対応する中で、菅原氏の態度、行動なども、相当程度把握している。

菅原氏の不起訴処分については、東京地検次席検事が異例の「不起訴処分理由説明」を行い、(ⅰ)香典の代理持参はあくまでも例外であり、大半は本人が弔問した際に渡していたこと、(ⅱ)大臣を辞職して、会見で事実を認めて謝罪したこと、などを挙げ、「法を軽視する姿勢が顕著とまでは言い難かった」と説明した。

しかし、文春記事が出た直後から、菅原氏は、「A秘書が週刊文春と組んで違法行為をでっち上げて、大臣辞任に追い込んだ」などと、秘書に「濡れ衣」を着せて、自らの公選法違反行為を否定していた。経産大臣辞任後、「体調不良」を理由に国会を欠席していた間も、地元の後援者・支援者などにそのような話を広め、通常国会開会後、国会に出席するようになってからは、政界関係者などに広めるなど、一貫して自らの公選法違反を否定していた。その菅原氏は、6月16日、突然「記者会見」を開き、一部ではあるが、秘書に香典を持参させていたことを認めて「謝罪」した。しかし、それまでの言動から考えて、それが真摯に反省して事実を認めたものとは到底考えられなかった。「会見を開いて違法行為を認めて謝罪すれば起訴猶予にする」という見通しがついていたからこそ、そのような「茶番」を行ったものとしか考えられなかった。経産大臣を辞任したのも、その直後から菅原氏が、「秘書にハメられて大臣を引きずり降ろされた」と言っていることからして、公選法違反の犯罪を反省して辞任したというのではないことは明らかだった。

次席検事の不起訴理由説明の(ⅰ)が全く事実に反すること、(ⅱ)の「反省」「謝罪」も凡そ真摯なものとは言えないことは明らかだった。

不起訴処分に対しては、告発人が検察審査会に審査を申し立て、その結果、「不起訴不当」あるいは「起訴相当」の議決で検察の不起訴処分が覆されることは必至だと思われた。

検察の姑息な「検察審査会外し」の“画策”

ところが、その直後、検察が、検察審査会に審査申立ができないように、検察審査会の審査を免れるための姑息な「画策」を行っていたことがわかった。

菅原氏に対する告発状は、2019年10月下旬に、東京地検に提出され、その告発を受けた形で、同氏の公設秘書のA、B両氏らや他の関係者の取調べ等が行われ、菅原氏の起訴をめざして積極的に捜査を行っているものと思われた。ところが、検察は、翌2020年6月に、菅原氏に対して「不起訴処分」を行った。その不起訴処分が行われる直前に、告発状が、告発状の不備を指摘する文書とともに告発人のC氏本人に返戻されていた。C氏の告発を受理しなかったということだ。不起訴処分が検察審査会での審査に持ち込まれないようにする「検審外し」の画策としか思えなかった。

「告発事件」について不起訴処分を行えば、告発人は、検察審査会に審査を申し立てることができる。そこで、検察は、告発状をC氏に返戻したうえで、それと別個に、検察自らが菅原氏の公選法違反事件を独自に認知立件し、その「認知事件」を不起訴にする、という形にして、告発人が検察審査会に審査を申し立てることができないようにしたのだ。

私は、告発人のC氏の依頼を受け、検察がC氏に告発状を返戻した理由のとおり、C氏が提出した告発状に不備があり「有効な告発」とは言えないものか、について検討を行ったが、ほとんど問題にならない形式的な不備だけだった。

検察官は、告発状を受け取ったまま7ヵ月以上にわたって受理の判断をせず、被疑者の公選法違反の捜査を継続し、不起訴処分を行う直前に、告発状を返戻した。告発状に、そのままでは受理できない不備や不十分な点があるというのであれば、提出を受けた直後に返戻すればよかったはずだ。検察の告発状返戻の理由は、「言いがかり」であり、「検審外し」のための画策であることは明らかだった。

告発人の委任を受け代理人として審査申立書を提出

そこで、私は、C氏から委任を受け、申立代理人として審査申立書を作成して、2020年7月20日に東京の検察審査会事務局に提出した。申立書では、

・C氏の告発状は、公選法違反の「有権者に対する寄附」の犯罪事実を特定して処罰を求めており、告発状が返戻される理由は全くないこと、

・不起訴処分は、その告発状記載の事実を含む、「有権者に対する寄附」の犯罪事実を認定した上で、「起訴猶予」とした不起訴処分であることから、C氏は検察審査会に審査申立をすることができる「告発をした者」(検察審査会法第2条第2項)に該当すること、

・菅原氏の「起訴猶予」の不起訴処分には全く理由がなく、不当極まりないものであること

を記載した。

それに対して、7月27日、私の事務所宛てに、東京第4検察審査会から

「令和2年(申立)8号事件として受理した」

旨の通知が届いた。こうして、菅原氏の公選法違反事件の刑事処分は、東京第4審査会の11人の審査員の判断に委ねられることになったのである。

それまでの経過については、【菅原前経産相不当不起訴の検察、告発状返戻で「検審外し」を画策か】で詳細に述べた。

私は、審査申立書提出後にも、8月19日に、「審査申立補充書」を提出し、A、B両氏の陳述書と、二人が、菅原氏から指示を受けて、選挙区内の有権者に対して、香典、枕花を贈与していた状況を詳細に明らかにする資料(LINEの記録等に基づいて作成したもの)を添付し、検察が不起訴処分の際に認定した公選法違反事実が、違反全体のごく僅かに過ぎず、違反の規模はそれより遥かに大きいこと、選挙区内の有権者の訃報に接した場合には、菅原氏が葬儀に行く行かないにかかわらず、まず、秘書が香典を持参するように指示されていいたことなど、検察の不起訴理由が事実に反することを明らかにし、速やかに「起訴相当」の議決をするように求めた。

ところが、この審査申立書・補充書の提出後、半年経過しても何の動きもなかった。菅原氏の公選法違反事件の公訴時効は3年であり、古い事件から、順次公訴時効が完成していき、処罰できなくなる。

私は、検察審査会の審査に対して、検察が協力を拒否しているのではないかと思った。本来であれば、検察は、申立が受理された事件について、不起訴記録を検察審査会に提出して、審査に協力しなければならないが、検察がその協力を拒否しているのではないか。もちろん、検察のそのような対応は、検察審査会制度を否定するものであり、到底許されるものではない。しかし、もし、検察が、そのような不当な対応をしていた場合、検察審査会には、強制的に不起訴記録を提出させる権限はないのだ。

検察は不起訴記録の提出を拒否していた

昨日出された2つの議決のうち、(1)申立審査に対する「申立て却下」の議決書には、以下の記載がある。それにより、検察の対応が、私が考えていたとおりだったことがわかった。

本件審査申立てに伴い、当検察審査会は東京地方検察庁検察官に対し、本件審査に必要な不起訴処分記録の提出を求めたが、「当庁においては、審査申立人の告発を受理しておらず、したがって、提出依頼のあった不起訴処分記録は、同人の告発に基づいて行った捜査に関するものではない。」旨記載した書面のみ提出され、不起訴処分記録の提出はなかった。

本件審査申立ての経緯としては、審査申立人が、令和元年10月25日ころ、東京地方検察庁等に告発状を提出したが、令和2年6月9日ころ、東京地方検察庁は、審査申立人に対して告発状を返戻するとともに返戻理由書を送付し、同月25日、被疑者に対する公職選挙法違反被疑事件について不起訴処分をした事実が認められる。

返戻理由が形式的であるにもかかわらず、審査申立人が告発状を提出してから、東京地方検察庁が告発状を返戻するまで相当期間経過していること、告発状の返戻から約2週間後には、東京地方検察庁検察官が不起訴処分としたこと、不起訴処分記録が提出されていないことなど、一連の東京地方検察庁の対応には、疑問を抱かざるを得ない。

私が告発人の代理人として行った審査申立は、「申立事件」として受理され、審査会は、検察に対して、審査に必要な不起訴処分記録の提出を求めた。ところが、検察官は、「審査申立人の告発を受理していない」として、不起訴記録を提出しなかったということだ。検察官が「告発した者」として扱わなかったので、告発事件に対する審査を受ける筋合いはない、と言いたいのだろう。しかし、検察がそのような理由で、審査を免れることができるとすれば、検察の判断で、どのような告発も、受理しないで「返戻」することによって、検察審査会の審査の対象外とすることができてしまうことになる。

東京第4審査会の職権審査による「起訴相当」議決は画期的

検察審査会としては、(1)申立審査で上記のとおり「東京地検の対応には疑問を抱かざるを得ない」と述べているが、検察官の法解釈を否定する権限がないので、申立を却下するしかなかった。しかし、それに代えて、検察審査会法に基づく職権審査の権限を発動して、同一事件について(2)の職権審査を行ったのである。

結局、審査会は、(2)職権審査の結果、菅原氏の公選法違反事件について「起訴相当」とする議決を行ったのである。

今回の事件で、検察は、告発状を不当に返戻し、告発受理と不起訴通知を行わないで済まし、その結果、不当な不起訴処分が検察審査会に持ち込まれることを回避しようとした。そして、私が代理人として行った審査申立てが「申立事件」として検察審査会に受理されたのに、その(1)申立審査に対して、検察は、不起訴記録の提出を拒否するという審査の妨害を行った。検察審査会の審査を受ける立場である検察が、このような手段で審査を免れることができるとすれば、「公訴権の実行に関し民意を反映させてその適正を図る」(検察審査会法第1条)という検察審査会制度の目的は没却されてしまう。

東京第4検察審査会は、そのような検察の不当な対応に屈することなく、(2)職権審査によって不起訴処分を審査し、「起訴相当」議決に持ち込んだ。今回の検察審査会の対応は、まさに、検察審査会制度の目的に沿う、画期的なものと言えよう。

同時期に行われた河井夫妻公選法違反事件の刑事処分

菅原氏に対する不起訴処分が行われたのは、ちょうど、河井前法相夫妻が多額の買収の公選法違反事件で逮捕され、刑事処分が行われる直前だった。不起訴処分が不当極まりないことを指摘する【菅原前経産相・不起訴処分を“丸裸”にする~河井夫妻事件捜査は大丈夫か】では、以下のとおり、その直後に行われる予定の河井夫妻事件の処分に、以下のように言及している。

検察は、河井夫妻から現金を受領した側の現職の自治体の首長・県議会議員・市議会議員等に対する刑事処分をどうするか、という大変悩ましい問題に直面している。現職の首長・議員は、公選法違反で罰金以上の刑に処せられると失職となる可能性が高いことから、それらの刑事処分をめぐって、様々な思惑や駆け引きが行われるであろうことは想像に難くない。

検察は、これまで自民党本部側が前提としてきた「公選法適用の常識」を覆し、公選法の趣旨に沿った買収罪の適用を行って河井夫妻を逮捕した。そうである以上、現職の首長・議員に対しても、公選法の規定を、その趣旨に沿って淡々と着実に適用し、起訴不起訴の判断を行うしかない。間違っても、菅原氏の公選法違反事件の不起訴処分で見せたような姿勢で臨んではならない。

検事長定年延長、検察庁法改正等で検察に対する政治権力による介入が現実化する一方、検察の政権の中枢に斬り込む捜査も現実化するという、まさに、検察の歴史にも関わる重大な局面にある。

ここで、敢えて言いたい。

しっかりしろ、検察!

しかし、私の懸念は、現実のものとなり、7月8日の河井夫妻の勾留満期に行われた刑事処分は、両名の起訴だけで、多額の現金を受領した被買収者に対して、全く刑事処分が行われないという信じ難い事件処理となった(【河井夫妻事件、“現金受領者「不処分」”は絶対にあり得ない】)。

その後、河井夫妻の公判が始まり、被買収者の証人尋問が行われたが、その間も、刑事処分は全く行われないまま、案里氏の有罪確定による当選無効で参院広島選挙区での再選挙が4月25日に実施されることになった。

案里氏「当選無効」に伴う参議院広島再選挙、被買収者の選挙関与で「公正な選挙」と言えるか】で述べたように、本来、公選法違反の処罰に伴う公民権停止で投票も選挙運動もできないはずの多数の被買収者が、自民党公認候補の選挙運動に加わるなど、不正や不正義がまかり通る状況が「野放し」になっている。

このような絶望的な状況の中で、今回の菅原氏の不起訴処分に対する審査で、東京第4検察審査会の「11人の怒れる市民」が示した「正義」に、心から拍手を送りたい。

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検察の不当捜査・起訴が、上場企業にとって「脅威」に!すてきナイス事件判決に注目‼

すてきナイスグループ株式会社(現ナイス株式会社、東証1部)の金融商品取引法違反事件で起訴され、昨年9月から横浜地裁で行われてきた公判で、被告人の平田恒一郎元会長、元社長、被告会社は、いずれも全面無罪を主張し、一審裁判は、検察官と被告側3者弁護人との全面対決となった。

今年1月12日の論告弁論で審理は終結し、明日(3月12日)午後、判決が言い渡される。

この事件も、この種の経済事犯に対する検察の在り方の根本に問題があることを示す典型例である。私がこの事件の主任弁護人を引き受けた一昨年夏以降の経緯を振り返っておきたい。

徹底して「人質司法」にこだわった検察

私が、平田氏の弁護人を受任したのは、2019年8月15日に起訴された平田氏が、その直後に行った保釈請求が却下された後の同年9月初めだった。横浜拘置支所に勾留中だった平田氏の病状は深刻化し、拘置所で処方された薬が従前の薬と異なるためか、身体中に浮腫(むくみ)が生じていた。

しかし、捜査段階から金商法違反の事実を全面的に否認している平田氏については、検察官は弁解内容の調書すら作成していない。検察官の質問に「わかりません」「覚えていません」と言っているとの問答式の供述調書が作成されているだけだった。起訴直後の保釈請求に対して、検察官は、被告人の供述態度を強調し、勾留事実とは無関係のことも含め、家族を通して罪証隠滅を図るおそれがあるなどと言って強く反対し、保釈請求は却下されていた。その後、弁護人から、妻との接見禁止解除を求める請求を行っていたが、それも検察官が強く反対して却下されていた。

私は、何とか早期保釈を実現しなければと考え、平田氏の病状について拘置所内での診療記録を開示するよう求めた。ところが、拘置支所の回答は、「個人情報なので、弁護士会照会がなければ、回答できない。」という信じ難いものだった。刑事事件で勾留されている被告人の権利を守る立場にある弁護人が、接見時の様子からも体調が極度に悪化していることが明らかであって、本人の要請を受けて、診療記録の開示を求めるのが、なぜ、「個人情報」を理由に拒絶されなければならないのか。私は、法務省矯正局にも問合せをしたが、「個別事例には、答えない」と言って回答すらしない。

早速、弁護士会照会を行ったが、拘置所内での検査結果のデータ等の回答が届いたのは、9月末だった。10月に入り、平田氏の病状はさらに悪化し、手足も瞼も腫れ目も開け難い状態となっていった。そこで、平田氏に、拘置所の医師の診察時に、持病の悪化を強く訴えて、外部の専門の医師の診察を希望するように助言し、何とか外部の血液内科の専門医の診察を受けさせることができた。その専門医から確認した内容と、照会回答の検査結果に基づく従前の主治医の「貧血、腎機能悪化要害の程度が増強しており、心筋虚血発作を誘発しかねない状態になっている」との意見書、勾留事実についての平田氏の認否や供述内容についての陳述書などを添付して、保釈請求を行ったのが10月18日だった。

もう少しで検察官に殺されるところだった

その時点では、平田氏は、房内で座っていることも困難となり、房内で24時間横臥が許可されるほど衰弱していた。検察官は、弁護人が、「被告人には、命の危険まである」と必死に訴えているのに、病状を直接確認しようともせず、凡そ理由にもならない理由で保釈に反対した。しかし、10月18日、令状部裁判官と面談して、被告人の病状の深刻さを直接訴えたところ、検察官の強硬な反対意見を退ける保釈許可決定が出された。検察官は保釈許可の執行停止を求めるとともに、準抗告して、保釈に懸命に抵抗したが、地裁の合議体が準抗告を棄却し、平田氏は、逮捕から86日ぶりに釈放された。都内の病院に運び込まれた平田氏は肺に多量の胸水が貯留する深刻な病状であることがわかり、そのまま緊急入院となった。

あの時の、全身のむくみで、目も開けられなくなり、衰弱しきった平田氏を思い起こすと、本当に背筋が寒くなる。平田氏は、「もう少しで検察官に殺されるところだった」と述懐している。「検察の主張を受け入れない被告人は生きていなくてもよい」と言わんがごときの検察官の態度は、まさに「悪魔の所業」である。

こうして検察官が、被告人を生命の危機に晒してまで、有罪判決獲得に徹底してこだわった「金商法違反事件被告人の罪状」というのが、一体何だったのか。それが凡そ刑事事件と言えるようなものではなく、検察官の「妄想」に近いものであることが、その後の、公判前の裁判所・検察官・弁護人の打合せの中で、そして、2020年9月に始まった公判の中で、明らかになっていった。

「不適切会計」すら微妙な事案を強引に「刑事事件」にした検察

本件は、2019年5月に、横浜地検特別刑事部が、突然、被告会社本社等に強制捜査(証券取引等監視委員会と合同捜査)が行われたことを発端とする事件だった。被告会社は、それを受けて、第三者委員会を設置し、その7月下旬に報告書が公表された直後、元会長の平田氏を含む3名の会社幹部が逮捕された。

被告会社は、検察の強制捜査を受けて設置した第三者委員会報告書での指摘を受け入れ、問題とされたザナックという会社への売上が「不適切」だったと認めて、売上を取消す過年度決算訂正を行ったが(しかも、被告会社の前年度の売上が約2500億円だったのに対して、問題とされた売上は僅か約30億円)、せいぜい「不適切」というレベルの問題で、「粉飾決算の刑事事件」などでは全くなかった。

起訴状には、有価証券報告書の虚偽性について、「架空売上の計上などにより」と書かれていた。しかし、その「架空売上の計上」というのがどういう意味なのか、全くわからなかった。

公判前の争点整理で、「架空売上の計上」の主張の会計基準上の根拠を示すよう弁護側から再三にわたって要求され、起訴から4カ月近くも経って、検察がようやく明らかにした主張は、「取引の実態がなく、存在しない」「売買意思がない」というものだった。

しかし、ザナックという会社は、宅地建物取引業の登録を受け、専任の宅建主任者を配置して、中古マンションの再生・販売事業などを営む不動産業者である。問題とされた取引の大部分は、ザナックが被告会社のグループ企業から在庫マンションを買い取ったものだが、その後、ザナックからエンドユーザーである個人に全て販売されている。取引が存在しなかったというのであれば、エンドユーザーにも所有権が移転していないことになりかねない。検察官の主張は、あまりに荒唐無稽だった。

公判前打合せは、起訴後1年近くに及び、弁護側からは、検察官の主張を前提とした場合の民事上の法律関係等に対して求釈明が繰り返し行われたが、結局、検察官は、釈明を拒否し、昨年9月の初公判では、裁判所が、検察官の主張は、「取引の実態がなく、存在しない」「売買意思がない」ということであり、「検察官は会計基準に関する主張はしない」と争点を整理した。

公判で崩壊した検察主張

そして、「架空取引」に関する検察の主張は、当然のことながら、公判の過程で、次々と、その化けの皮が剥がれていった。

ザナックへの不動産売却は実態がなく、売買に見せかけただけ、被告会社グループ企業のマンション管理会社のA社からザナックへの不動産購入資金の融資は、単なる「資金移動」だというのが検察官の主張だった。しかし、この会社は、貸金業の登録を行って、マンション管理組合等への融資業務も行っている、売上が100億以上あり社員も子会社を含めると1000人を超える大きな企業である。

検察官は、その会社の実態も全く確認せず、会社関係者の供述調書も作成せず、「融資」が単なる「資金移動」だと主張していた。

会社関係者にも、「架空取引」などという認識は全くなかった。ところが、会社関係者の供述調書では、ザナックへの不動産売却について、ほとんど例外なく、「売却し」ではなく「売却したこととし」と表現され、売買代金支払については、「売買代金名目で振り込んだ」などと表現されている。

会社関係者は、取調べで、「取引の架空性」について質問されることは全くなく、「売却したこととした」などと述べたこともなかった。検察官が、勝手にそのような表現の調書を作成して署名をさせていたのである。公判廷の証人尋問では、いずれも、「取引の実態はあった」「有効な売買と認識している」、「供述調書で『売却したこととし』と書かれているのに対して異議を述べたが、検察官は聞き入れてくれなかった」と証言した。

検察官の主張は、証拠に基づかない「思い込み」「決めつけ」に近いものだった。

証人尋問と被告人質問が終わり、検察官は、「論告」で、本件各取引の架空性に関して、「ザナック側にリスクが移転していないから所有権が移転していない」「取引が経済的合理性を欠いている。」「所有権の移転及びリスクの移転という法的効果の発生が意図されておらず、効果意思を欠いていた。」というような「民事上の理屈」のようなものを唐突に持ち出してきた。

しかも、それに関して、検察官は致命的なミスを犯していた。

検察は、論告の中の3か所で、弁護人請求証拠の「監査委員会報告第27号」を引用していたが、それらで引用する記述は、弁護人が証拠請求し採用された「監査委員会報告第27号」の「本文」ではなく、付記された「解説」の部分で、証拠になっていないものだった。

「監査委員会報告第27号」は、会計基準に準じる「監査の指針」であり、本件当時被告会社の会計監査人であった公認会計士が、弁護人請求証人として公判廷において供述した際、被告会社の平成27年3月期連結決算の訂正監査に関して「監査委員会報告第27号」に言及したことから、裁判長の示唆もあって、弁護人から証拠請求したものだった。

争点について、第1回公判までの整理で「検察官は会計基準に関する主張はしない」と整理されており、弁護人としては、主張の根拠としてではなく、あくまで、弁護人請求の証人に関する「資料」として「本文」のみを証拠請求したもので、本来、架空取引が争点になっている本件とは直接関係ないものだった。

公判審理の結果に基づいて論告を行うことになった検察官は、ザナックへの不動産売却が「取引の実態がない」という主張も、A社のザナックへの融資が「単なる資金移動」だとの主張も、全く証拠上の根拠がないため、論告での主張をどうしたらよいのか思い悩んだ挙句、弁護人請求で証拠となっていた「監査委員会報告第27号」の「解説付きバージョン」がたまたま手元にあり、「解説」に、使えそうなことが書かれていたことに目を付け、「解説」は証拠とされていないことに気付かず、弁護側証拠を逆手にとったつもりで、主張の根拠にしたのであろう。

論告で、「監査委員会報告第27号」の「解説」中の記述は3か所で引用され、それを根拠とする検察官の主張は広範囲に及んでいた。

結局、検察官の主張は、全体として、「証拠に基づかない論告」だったのである。

しかも、検察官の論告での主張には、絶対に看過できない見解が含まれている。「架空取引の主張」として、「取引が経済的合理性を欠いているから、粉飾を目的とするもので、売買契約は無効」というようなことを主張しているのである。このような検察官の主張は、私的自治の原則により経済主体自らの判断が尊重されるべき経済取引に、検察官が「経済的合理性がない」として「架空取引」と認定できるというものであり、極めて危険な考え方だ。まさに、苦し紛れに、このような暴論まで持ち出して、何とか「架空取引の主張」を維持しようとしたのだろう。

公判の結果、本件での検察の主張は、完全に崩壊・消滅したのである。

公判担当検事ではなく、検察組織と証券取引等監視委員会の問題

この事件では、被告会社・元会長の平田氏・元社長とその弁護団は、「本件各取引には実態がある。架空取引などではない」という無罪主張で完全に一致し、それぞれ検察と戦った。

日産自動車の金商法違反事件で、被告会社の日産は検察とタッグを組んで(ゴーン会長追放を企て)、ゴーン氏の国外逃亡のためにケリー氏だけとなった公判でも、日産は、起訴事実を全面的に認め、検察と「二人三脚」のような関係で、ケリー氏の有罪立証に協力しているが、この事件はそれとは大きく異なる。

平田氏の弁護団は私が主任弁護人、元社長の弁護団は東京の中堅法律事務所、会社側の弁護団は、横浜市の中堅法律事務所と東京の4大法律事務所の一角という、強力な体制だったのに対して、検察側は、初公判から結審まで、一人の検事が公判に立ち会った。

明らかに「証拠に基づかない論告」のほか、論告での主張内容全体に問題があることは否定できないが、それは、決して、公判を担当した検事個人が責められるべきことではない。論告で有罪主張を行うことが、そもそも無理な事件なのであり、公判担当検察官としては、「公訴取消」を行わない検察の方針の下では、最大限の努力をしたに過ぎない。

最大の問題は、このような全く無理筋の金商法違反で被告会社への強制捜査を決断した、横浜地検幹部、それを了承した法務・検察組織であり、それに同調した証券取引等監視委員会の判断である。

金商法違反事件であること、証券取引等監視委員会と検察とが合同で捜査し、同委員会が告発した事件であることなど、ゴーン氏とケリー氏が起訴された日産の金商法違反事件と共通している。通常であれば、公判立会の体制も、捜査を担当した特別刑事部や公判部部長等が加わるなど、相応の体制がとられるはずだが、すべて1人の検事に担当させたのは、最初から公判の結果が検察に不利なものとなることを予想し、責任回避のために公判への関わりを避けたようにも思える。

企業経営者にとって他人事ではない

本件の検察の論告での「惨状」は、経済事件に対する検察の在り方、そして、それを専門機関としてサポートすべき証券取引等監視委員会の在り方に、重大な問題があることを示すものである。

本件のような事件に「日本版司法取引」が悪用されれば、社内抗争が不当な強制捜査、経営者の逮捕などに至る可能性も否定できない。強大な権限を持つ検察官が、一度過ちを犯せば、本件での平田氏のように、一方的に犯罪者扱いされて、その名誉が奪われた挙句、生命の危険にまで晒され、一方で、上場企業の経営が重大な危機にさらされることになりかねない。日本の上場企業にとって、検察の捜査・起訴が、重大な「脅威」となることを示しているのが、今回の事件なのである。

日本の多くの経営者にとって、今回の事件は、決して他人事ではない。

すてきナイスグループの事件に対して、一審裁判所がどのような判断を下すのか、注目して頂きたい。

 

 

 

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西田英範氏に、参院広島再選挙で、「不正選挙」を正す意思はあるのか?

2019年参議院選挙で河井案里氏の公選法違反事件で有罪が確定し、当選無効になったことに伴い、4月25日に実施予定の参議院広島選挙区再選挙に、自民党公認候補として立候補を表明しているのが、元経産省課長補佐の西田英範氏だ。

【参院広島選挙区再選挙、自民党は、広島県民を舐めてはならない】でも述べたように、自民党は、2019年参議院選挙で公認候補による多額の現金買収という重大な選挙不祥事を起こし、その買収原資が、党本部からの巨額選挙資金である疑いがあるのに、何の検証も総括もしない。しかも、その背景となった「広島県の地元政治家の体質や構造」を改めることなく、単に、過去の広島選挙区での与野党の圧倒的な票差からして、今回の再選挙でも勝てると見越して、公認候補者を擁立して当選を目論んでいる。そのことに激しい憤りを覚えた私は、その自民党公認候補者の対立候補として私自身が立候補することも真剣に検討した。

しかし、昨日、立候補しないことを正式に表明した。

その理由は、昨日午後、ZOOM記者会見で述べたとおりであり、要するに、今回行われようとしている再選挙が、このままでは、公選法のルールに基づく「公正な選挙」となることが全く期待できないからだ(【〝ポスト河井案里〟巡る参院広島再選挙は大混迷 「公正期待できぬ」郷原信郎元検事が不出馬!】)。

【河井夫妻買収事件、「被買収者」告発受理!「処分未了」の再選挙には重大な問題。各政党の対応は?】でも述べたように、河井克行氏・案里氏の現金買収事件については、案里氏の有罪は確定し、克行氏の現金買収についても、40人もの首長・議員らの大半が、数十万円~200万円もの現金を受け取ったこと、それが買収の金であったことを認める証言をしている。

現金の受領者側、つまり被買収者側は、いまだに、公選法違反での処罰が行われておらず、被買収者は、本来であれば、当然に、公選法違反で起訴され、少なくとも罰金刑を受けて、公民権停止、つまり、一定期間選挙権もないし、選挙運動を行うこともできない立場であるのに、彼らの選挙運動は「野放し」の状況になっている。

マスコミが報じているところでは、西田氏の選対本部の立上げの会合には、河井克行・案里夫妻から多額の現金を受け取った地方政治家が多数参加し、再選挙に向けての活動を行っていこうとしているという(【自民党が恐れる河井元法相の暴露 保釈後も薬指に指輪 郷原弁護士は出馬断念】)。

当然に行われるべき被買収者側の刑事処分が行われていないため、本来、公民権停止になって選挙に関わる資格がないはずの者が、選挙に関わってしまいかねないという「異常な状況」になっている。

これでは、「公正な選挙」など行えるわけがない。

私は、3月4日に、広島弁護士会館で、《「河井夫妻公選法違反事件」と「公正な選挙」に関する緊急レク》を開催し、広島のマスコミに対して、現状のままでは、今回の再選挙について、「公正な選挙」の前提に重大な問題があることを指摘し、広島県民への問題提起を試みた。

そして、それに先立って、立候補予定者の西田氏と同氏を公認候補として擁立する自民党広島県連会長宛てに、今回の再選挙において、被買収の事実が明らかになっている者を西田氏の選挙運動に関わらせないために、具体的にどのような措置をとられるのかを明らかにするよう質問状を送付したが、3月8日の回答期限までに回答はなかった。(「西田氏宛て質問状」http://tl.gd/n_1srk6bg は、以下のとおり、間違いなく、西田氏本人に配達されている。)

 

 

 

 

 

 

前法務大臣とその妻の候補者自身による多額現金買収という前代未聞の公選法違反事件によって「選挙の公正」が著しく阻害されたことを受けて実施されることになった「やり直しの選挙」に、自民党の公認候補として出馬を表明している西田氏は、その再選挙での「選挙の公正」に対する重大な疑問に全く回答しなかった。

西田氏は、元経産官僚であり、法律に基づく行政に携わっていた人物だ。その西田氏にとって、立候補しようとしている選挙について、その公正さに重大な疑問が生じているとの指摘に全く向き合わず、自らの見解も述べないというのは、どういうことなのだろうか。

私としては、「公正な選挙」に関する公選法のルールが無視されている状況では、その選挙に自らプレーヤーとして参加することはできないと判断した。その最大の理由は、被買収者の刑事処分が全く行われず、選挙違反者の今回の選挙への関与を野放しにする自民党広島県連や西田氏の姿勢が変わらなければ、不正選挙による当選無効を受けて「公正な選挙」をやり直すための今回の再選挙を行う意味がないと考えたからだ。

立候補表明後に開設された西田氏のツイッターのアカウント@nishita83hには、西田氏の街頭での挨拶などの活動の動画や、自民党有力議員の応援メッセージの動画がアップされている。

ちょうど2年前の今頃、河井案里氏は、自民党公認候補として立候補を表明し、「選挙に向けての街頭活動」を開始した。そして、それと時を同じくして、自民党からの多額の選挙資金の提供があり、克行氏と案里氏は、広島県内の首長・議員らに対して多額の現金配布を始めていた。

今回の再選挙に向けて、西田氏がまず行わなければならないのは、従来から自民党候補が繰り返してきた「街頭活動」ではない。広島県民の重大な政治不信の原因となった前回の不正選挙の問題にしっかり正面から向き合い、それがなぜ起きたのか、自らしっかり考え、自民党陣営において二度と不正選挙が行われなることがないとの確信をもって選挙に臨むことだ。それを行わずして、公約として掲げる「政治改革」など行えるわけもない。

西田氏には、本当に広島の不正選挙を正す意思があるのだろうか。

カテゴリー: 参議院広島再選挙, 河井夫妻公選法違反事件 | 1件のコメント

河井夫妻買収事件、「被買収者」告発受理!「処分未了」の再選挙には重大な問題。各政党の対応は?

前法務大臣の逮捕・起訴という前代未聞の事件となった河井克行・案里氏の2019年参議院選挙をめぐる多額現金買収事件の公選法違反で一審有罪判決が、2月4日の控訴期限までに控訴が行われず確定し、当選無効となったことに伴い、4月25日に参議院広島選挙区の再選挙が実施される予定だ。
しかし、この再選挙に関しては、「選挙の公正」の前提に関して重大な問題がある。
案里氏が4人の広島県内の首長・議員に現金を供与した公選法違反の事実について有罪が確定し、また、克行氏の現金買収についても、40人もの首長・議員らの大半が克行氏から現金を受領し、それが選挙買収の金であったことを認める証言をしており、本来、これらの被買収者についても公選法違反で起訴され、公民権停止となり、一定期間選挙権もないし、選挙運動を行うことが禁じられるはずであるのに、検察は、いまだに、被買収者について公選法違反での刑事処分を行っておらず、起訴も処罰も行われていない。
経産省の元課長補佐の西田英範氏が自民党公認候補として同再選挙への立候補を表明しており、2月28日に開かれた西田氏の選対本部の立上げの会合では、河井克行・案里夫妻から多額の現金を受け取ったことを認めている、本来、選挙運動を禁じられているはずの首長・議員が多数参加し、再選挙に向けての選挙活動に加わっている。
前回記事【案里氏「当選無効」に伴う参議院広島再選挙、被買収者の選挙関与で「公正な選挙」と言えるか】でも述べたように、今回の再選挙は、案里氏の現金買収という公選法違反の刑事事件の有罪が確定したことに伴うものであり、案里氏はもちろん、その公選法違反の現金買収の相手方、或いは克行氏からの現金買収を受けたことを証言で認めている多くの首長・議員等の違反者を、選挙に関与させることなく行うべき「やり直しの選挙」だ。ところが、それらの被買収者が堂々と選挙に関わろうとしており、「公正な選挙」を行う前提が充たされていない。
私は、3月4日に、広島弁護士会館で、《「河井夫妻公選法違反事件」と「公正な選挙」に関する緊急レク》を開催し、現状のままでは、今回の再選挙について、「公正な選挙」の前提に重大な問題があることを指摘した(【2021/03/04郷原弁護士による広島公選法違反に関するレクチャー】)。
また、立候補予定者の西田氏と同氏を公認候補として擁立する自民党広島県連会長宛てに、今回の再選挙において、被買収の事実が明らかになっている者には、西田氏の選挙運動に関わらせないために、具体的にどのような措置をとられるのかを明らかにするよう質問状を送付した。今日(3月8日)が回答期限だが、いまだに回答はない。上記レクに参加した記者が伝えてきたところによれば、自民党県連は回答しない方針と明言したとのことだ。
前回の参院選で河井案里氏を公認候補として擁立し、その選挙で、1億5000万円もの巨額の選挙資金を河井夫妻に提供し、その一部が現金買収事件の原資になったことが明らかになっているのに、何の検証も総括も行っていない自民党本部や自民党県連の側に、公正な選挙に向けての対応を期待するのは困難かもしれない。しかし、その自民党から公認候補として立候補することを表明し、「政治改革」を前面に掲げて活動を行っている西田氏からも、私の質問状に対して何の回答もないのは理解できない。今後も西田氏に対しては、今回の再選挙の自民党公認の立候補予定者として然るべき対応を行うことを求めていこうと考えている。

市民団体の告発は、既に東京地検で受理されているが「捜査中」

この事件については、市民団体の「『河井疑惑』をただす会」が、広島地検に、被買収者の告発を行っている。上記「緊急レク」に参加した同会の山根岩男事務局長から、告発者としてどのような対応をとるべきか質問を受けた。私は「案里氏の有罪確定を受けて、改めて、検察に、早急に被買収者の刑事処分を行うことを求めるべき」と述べた。
山根氏によると、その後、検察に確認したところ、告発状は、広島地検から東京地検に送付され、既に昨年中に告発が受理され、東京地検の事件番号も付されて捜査中とのことだ。
「河井疑惑をただす会」は、本日(3月8日)、同会の告発が東京地検ですべて受理されていること、再選挙が4月25日投票で行われるに当たって、公正な選挙が行われるために、被買収者の一日も早い起訴を求める要請書を東京地検に送付したことを公表した(【「河井疑惑をただす会」Facebook】)。

それにしても、案里氏が買収者の事件で有罪となった4件については、確定判決で公選法違反の事実が認定されたのであるから、ただちに、被買収者の刑事処分が行われるのが通常だ。案里氏の有罪確定から1か月以上を経過しても、まだ「捜査中」で刑事処分が未了というのは全く理解できない。
首長、議員への買収金額は、概ね、市議が10~30万円、県議が30万円、現職首長が、20~150万円、県議会議長が200万円というものだ。
買収者(供与者、お金を渡した者)と被買収者(受供与者、お金を受け取った者)は「必要的共犯」の関係にあり、買収の犯罪が成立するのであれば、被買収の犯罪も当然に成立する。従来の公選法違反の捜査処理の実務からすると、買収罪について有罪判決が確定している以上、被買収者側についても公選法違反が成立し、求刑処理基準にしたがって起訴されることになる。
私が現職検察官だった当時の求刑処理基準では、犯罪が認められても敢えて処罰しないで済ます「起訴猶予」は「1万円未満」であり、「1万円~20万円」が「略式請求」(罰金刑)で、「20万円を超える場合」は「公判請求」(懲役刑)というものだった。今でもこの基準には大きな変化はないはずだ。
この求刑処理基準に照らせば、河井夫妻からの被買収者の大半は「公判請求相当」、一部の少額の事例のみが「罰金刑相当」であり、いずれにしても、公民権停止で、一定期間、選挙権・被選挙権がなく、選挙運動も禁じられることになることは確実だ。

最終的には被買収者の大半が起訴されることは必至

検察は、河井夫妻を買収罪で起訴した時点で、被買収者側を起訴せず、刑事処分すら行わなかった理由に関して、検察側の「非公式な検察幹部コメント」として、「克行被告が無理やり現金を渡そうとしたことを考慮した」「現金受領を認めた者だけが起訴され、否認した者が起訴されないのは不公平」などの理由が報じられたが、全く理由になり得ないものだ。
「買収」というのは、「投票」「投票取りまとめ」を金で買おうというものなので、被買収者側には受領することに相当な心理的な抵抗があるのが普通で、無理やり現金を置いていくというケースもあり得る。その場で突き返すか、すぐに返送しなければ、「受領した」ということになる。無理やり現金を渡されたことを理由に、受供与罪の処罰を免れることができるのであれば、買収罪の摘発は成り立たない。
また、刑事事件では、自白がなければ立証できない事件で、事実を認めた者が起訴され、否認した者が起訴されないことは決して珍しいことではない。それが不公平だと言うのであれば、贈収賄事件の捜査などは成り立たない。このような凡そ理由にならない理由が「検察幹部のコメント」として報じられるのは、処罰しない理由の説明がつかないからである。
検察側が、被買収者側を起訴していないのは、被買収者側に、「本来は起訴されるべき犯罪だが、検察は起訴をしない」という恩恵を与えてきたからであろう。そのため、被買収者側は、最終的に起訴しないで済ませてもらおうと思えば、河井夫妻の公判で、検察の意向どおり、検察官調書どおりの証言をせざるを得ない状況にあったのではないか。
一部には「司法取引をしたのではないか」との見方もあるが、公選法違反は「日本版司法取引」の対象犯罪に含まれないので、正式な「司法取引」はあり得ない。そこで、被買収者に対して、検察に有利な公判証言をさせるために、明確な約束・合意はしないものの、検察の意向どおりの証言をすれば公選法による起訴を免れられるだろうと期待させる方法を考えたのであろう。実際に、被買収者側の首長・議員らの大半が、河井夫妻の公判で、「票の取りまとめを依頼された」との趣旨を認める証言をした。

今回、「河井疑惑をただす会」が東京地検に確認した結果を公表したことで、既に告発が受理され、東京地検で正式に刑事事件として立件されていることが明らかになったわけだが、それは、被買収者の首長・議員らにとって全く想定外だったのではなかろうか。
案里氏の有罪が確定したことで、少なくとも同判決で買収の事実が認定された被買収者の犯罪成立は否定できなくなった。検察は、早晩、刑事処分を行わざるを得ない。不起訴にするとしても、犯罪事実は認められるが敢えて起訴しないという「起訴猶予」しかないが、前述した求刑処理基準に照らせば、「起訴猶予」の理由が全くないことは明らかだ。告発人が不起訴処分を不服として検察審査会に審査請求すれば、「起訴相当」の議決が出ることは必至だ。検察は、その議決を受け、「検察は不起訴にしたが、市民の代表の検察審査会が『起訴すべき』との議決を出したので、起訴せざるを得ない」と言って、起訴することになるであろう。
被買収者側は、河井夫妻の公判で、検察の意向どおりに「投票の取りまとめ」の依頼の趣旨を認識して現金を受領したと証言することで、検察の判断によって起訴されることを免れることはできても、最終的には、検察審査会の議決を受けて起訴されることを免れることはできない。「検察に騙された」と気付いても時すでに遅しである。
それは、被買収者側の「自業自得」であり、同情の余地は全くない。
しかし、検察が、そのような意図で、「公選法違反事件の処理としてあり得ないやり方」を用いて今回の公選法違反事件を処理し、検察審査会の議決まで刑事処分が遅延するということになれば、本来、公選法による処罰の目的であるはずの「選挙の公正」が、逆に、根底から損なわれる事態を招くことになる。

「公正な選挙」を根底から失わせる重大な問題

公選法は、参議院議員の再選挙について、9月16日から翌年の3月15日までにこれを行うべき事由が生じた場合は当該期間の直後の4月の第四日曜日に行うと規定している(33条の2第2項)。2月4日に案里氏の公選法違反の有罪が確定し当選無効になったことから、自動的に、4月25日の日曜日に再選挙が行われることになる。選挙の実施や時期について裁量の余地はない。
しかし2019年参議院選挙における案里氏の現金買収の公選法違反の有罪が確定し当選無効となって、「公正な選挙」をやり直すために再選挙が行われるのであるから、その再選挙の告示前に、当選無効の原因となった案里氏の買収の公選法違反事件に関して、被買収者の処分も含めて、同じ公選法違反事件のすべての刑事処分が行われるのが当然だ。それによって、問題となった公選法違反の違反者を排除した「公正な選挙」が可能となるからだ。被買収者の公選法違反事件について刑事処分が行われず、被買収者が公民権停止にもならず、選挙期間中も選挙運動をやりたい放題の状況で、やり直しの再選挙を行うことなど、公選法は全く想定していない。
もし、このまま再選挙が行われるとすれば、実際に、「選挙の公正」に関して重大な不都合が発生する。

上記のとおり、被買収者の首長・議員らは、調書どおりの証言をすれば起訴されることはないと考えて公判証言したのであろうが、実際には、検察審査会での議決も含めれば、2019年参院選での公選法違反による処罰を最終的に免れることはできない。その被買収者らが、今回の再選挙でさらに公選法違反を犯しても、2019年参院選の違反と「併合罪」として一回の処罰を受けるだけで済む。つまり、今回の再選挙では、彼らは違反をやってもほとんど変わらず、選挙違反は「やり得」なのである。
「前回選挙における買収」という公選法違反の有罪確定で案里氏が当選無効となったことを受けて行われる再選挙で、その事件についての確定判決で被買収の事実が認められた者が投票もでき、選挙運動もやりたい放題というのは公選法の目的に反する「著しく不公正な選挙」である。

公選法の目的に反する検察の対応が「公正な選挙」を阻害

このような事態に至っている根本的な原因は、刑事事件についての広範な裁量権を有する検察が、その「裁量権の限界」について認識を欠いていることにある。
検察は公訴権を独占しており、事件を刑事事件として扱うか否かについての判断も、すべて検察が独占している。検察の固有の領域とも言える刑法犯であれば、検察の裁量権を制約する要素は基本的にはない。しかし、特定の目的を持つ法律の罰則適用においては、その法の目的に明白に反することは許されない。また、刑事事件の立件の要否についての検察の裁量権も、確定した裁判所の司法判断に反する対応を行うことは許されない。
選挙が公正に行われることは、民主主義の基盤であり、そのためには、公選法のルールが、公正・公平に適用されることが必要となる。買収事案に対して公選法の罰則を適用するのであれば、論理必然的に、買収・被買収の両方に犯罪が成立し、両方に公正・公平に罰則を適用するのが当然である。検察が起訴した買収事件について司法判断が確定すれば、他方の被買収事案についても罰則を適用しなければならない。それを行わないことは検察の裁量の範囲外である。
検察が自ら逮捕・起訴した案里氏の買収事件の有罪判決が確定したことに伴って「公正な選挙」のやり直しとして再選挙が行われるのである。案里氏の事件の司法判断が確定した以上、他方の被買収者の刑事処分を、その再選挙の告示までに行うのは、あまりにも当然のことである。その刑事処分を敢えて行わない「検察の不作為」は、公選法の目的を阻害する重大な義務違反と言わざるを得ない。

被買収者の処分未了のまま再選挙では「良識ある政党」にとって候補者擁立は困難

仮に、このまま被買収者の刑事処分が行われない場合、公選法上は、4月8日に再選挙が告示されることになるが、案里氏の当選無効の原因となった公選法違反事件の刑事処分が未了で、被買収者が野放しになっているという「異常な状態」での選挙となり、「公正な選挙」の前提は全く充たされない。そうである以上、公選法のルールに則った対応をする「良識ある政党」にとって、候補者を擁立して再選挙に臨むことはできないはずだ。
その結果、各政党からの立候補者がない場合、再選挙の「当選者がない」ということで、40日以内に、再度、選挙の告示が行われることになる(33条の2第1項)。そして、検察が刑事処分を行わない限り、選挙の告示が繰り返されることになる。そのような異常な事態が、検察の重大な義務違反によるものであることは言うまでもない。

90年代末の創設時に私も所属した広島地検特別刑事部の独自捜査を発端に、東京地検特捜部も加わった大規模捜査で、従来は、選挙運動期間中やその直近に、直接的に投票や選挙運動の対価として金銭等を供与する行為に概ね限定してきた公選法の買収罪の適用範囲を拡大して、河井夫妻を買収罪で逮捕した検察捜査は、公職選挙の実態を考慮して公選法の罰則適用を抑制的に行ってきた従来の「公選法適用の常識」を覆すものであり、私も、金権腐敗選挙をただす積極的な捜査の姿勢を評価してきた(【検察は“ルビコン川”を渡った~河井夫妻と自民党本部は一蓮托生】)。
ところが、河井夫妻逮捕以降の検察捜査は、事件の背景として極めて重要な事実である自民党本部からの1億5000万円の選挙資金の提供と多額の現金買収事件の原資の関係が強制捜査の対象とされず、事実解明は中途半端なまま終わり、多額の現金を受領した地元政治家ら被買収者側の公選法違反は全く刑事処分が行われず、河井夫妻の個人犯罪であるかのように矮小化されたまま、案里氏の有罪が確定したことに伴う参議院広島選挙区の再選挙の告示が迫っている。
河井夫妻から多額の現金を受領したことが有罪判決等で明白になっている被買収者側の刑事処分が全く行われないという公選法の刑事実務上異常な対応が行われ、それによって、公選法のルール違反を犯し、本来選挙に関わるべきではない彼らの選挙活動が野放しになったままの再選挙になった場合、一連の検察捜査は、公選法の目的とする「公正な選挙」を著しく損なうものとなり、検察にとって「歴史上の汚点」となりかねない。
検察は、問題の重大性を十分に認識して対応すべきだ。

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案里氏「当選無効」に伴う参議院広島再選挙、被買収者の選挙関与で「公正な選挙」と言えるか

前法務大臣の逮捕・起訴という前代未聞の事件となった河井克行・案里氏の2019年参議院選挙をめぐる多額現金買収事件で公選法違反で起訴された案里氏に対して下された一審有罪判決に対して案里氏は控訴せず、有罪確定により当選無効となった。これに伴い、参議院広島選挙区の再選挙が、4月25日に行われることが予定されている。

自民党は、経産省課長補佐だった西田秀範氏を、その再選挙の公認候補として擁立した。2月26日には、西田氏が出馬会見を行い、28日に、国会議員、首長、地方議員ら70人を集めて会合を開き、西田氏の選対本部を発足させたとのことだ。

この事件での自民党の対応については、これまでヤフーニュース【参院広島選挙区再選挙、自民党は、広島県民を舐めてはならない】、日刊ゲンダイのコラムでの【案里氏が議員辞職で再選挙に 自民党は広島県民をなめるな】などで徹底批判してきた。

自民党本部が、現職の溝手顕正氏を支持する広島県連側の強い反発を退けて強引に案里氏を参院選候補として擁立し、溝手氏の10倍もの選挙資金を提供し、少なくともその一部が買収の原資になったことは、既に克行氏の公判でも明らかになっている。それは、決して克行・案里両氏の個人犯罪だけではなく、「自民党」という組織の体質によって起きた「重大な不祥事」である。

案里氏については、既に有罪判決が確定しているのであるから、自民党は、不祥事の当事者として、外部者も入れて調査体制を構築して客観的な事実解明を行い、不祥事を検証・総括することが絶対に不可欠だ。

今回の事件に関しては、もう一つ重大な問題がある。選挙買収事件では、通常は、買収者と被買収者は同時に刑事処分される。ところが、【河井夫妻事件、“現金受領者「不処分」”は絶対にあり得ない】でも述べたように、今回の事件については、検察は、現金の受領者側、つまり被買収者側は刑事立件すらしておらず、いまだに、公選法違反での処罰が行われていない。

案里氏については、既に買収の公選法違反の有罪が確定している。克行氏の現金買収についても、40人もの首長・議員らの大半が、数十万円~200万円もの現金を受け取ったこと、それが買収の金であったことを認める証言をしている。彼らは、本来であれば、当然に、公選法違反で起訴され、少なくとも罰金刑を受けて、公民権停止、つまり、一定期間選挙権もないし、選挙運動を行うこともできない立場だ。

ところが、西田氏の選対本部の立上げの会合では、取材したマスコミ関係者によれば、河井克行・案里夫妻から多額の現金を受け取った地方政治家が多数参加し、再選挙に向けての活動を結束して行っていくことが確認されたとのことだ。

当然に行われるべき被買収者側の刑事処分が行われていないため、本来、公民権停止になって選挙に関わる資格がないはずの者が、選挙に関わってしまいかねないという、異常な状況になっている。「公正な選挙」を行う前提が、欠けている。

4月25日の参議院広島選挙区の再選挙は、案里氏の現金買収の公選法違反の刑事事件の有罪が確定したことに伴って行われる「やり直しの選挙」だ。その公選法違反の被買収者として違反が認定され、或いは違反を証言で認めている多くの政治家が、公選法のルール上、「ペナルティボックス」に入っていて選挙には関われないはずなのに、あろうことか、堂々と、その「やり直しの選挙」に加わってのろしを上げているのである。そのようなことが許されるわけがない。

このような状況で、参議院広島選挙区の再選挙を行うことはあり得ない。もし、行ったとすれば、不正選挙そのものである。本来、選挙運動を行う資格のない者が選挙に関わること自体が「不正」であるし、そのような者が関わった場合、また「不正」が繰り返されることは必至だ。

仮に、このような「選挙に関わる資格のない者」が選挙に関わり、そこで、また不正を行った場合にどうなるか。19年選挙の公選法違反と再選挙での違反は「併合罪」(確定判決を受ける前に犯した複数の犯罪は併合して処罰される)となるため、一回の処罰を受けるだけで済んでしまう。

つまり、克行氏・案里氏らから現金を受け取って買収された者にとって、今回の再選挙では、事実上、選挙違反が「やり得」となるのである。それには「不正選挙の連鎖」を招くことにほかならない。

この事件については、市民団体の「『河井疑惑』をただす会」が、広島地検に、被買収者の告発を行っている。広島地検は、ただちに、被買収者を起訴すべきだ。略式起訴であれば、ただちに罰金刑の略式命令が確定し、それに伴い、被買収者は公民権停止となり、一定期間選挙に関わることが禁止される。今回の再選挙に関わることができないのは当然だ。それによって、初めて、案里氏の当選無効に伴う参議院広島選挙区の「やり直し再選挙」を行う条件が整うことになる。

検察が、いかなる事情によって、被買収者の刑事処分を行わず、引き延ばしているのか不明だが、もし、このまま検察が、参議院選挙の告示までに刑事処分を行わない場合は、広島で公正な選挙が行われる前提条件が充たされない。

考えにくいことだが、もし、そのような異常な事態のままの選挙ということになった場合には、公選法違反事件を起こした当事者が所属していた自民党の責任で、被買収者側が選挙に関わらないようにする措置を行うことが不可欠である。少なくとも、選挙に向けての会合に、被買収者を出席させるなどということは、全く論外である。

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菅首相、山田広報官「厳重注意」は全く“意味なし” ~背景としての「特別職公務員」の問題

菅義偉首相の長男・正剛氏が勤める放送事業会社「東北新社」による接待問題で、総務省は24日、利害関係者からの違法接待であったことを認め、次官級の谷脇康彦、吉田真人両総務審議官を減給とするなど、計11人を“懲戒処分”した。

山田真貴子内閣広報官についても、2019年7月から20年7月まで務めた総務審議官時代、正剛氏らから7万4000円を超える最も高額な接待を受けていたことが問題になっていたが、菅首相が24日、「山田内閣広報官に対し、官房長官に指示して厳重に注意した」と述べた。また、山田氏は、給与を自主返納するとのことだ。

この「厳重注意」というのは、一体どういう意味なのだろうか。

一般職国家公務員には、国家公務員法96条の、「すべて職員は、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない」との服務(業務上守らなければならない最低限のルール)の根本基準や、99条の「信用失墜行為の禁止」など、根本的に守らなければならない規程が適用される。総務省の職員は、一般職国家公務員であり、違反すれば82条以下の懲戒処分の対象となる。

そして、1990年代後半、「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」に代表される、大蔵省・厚生省・通産省等の幹部公務員が、豪華な飲食や贈り物・旅行・ゴルフなど、規制対象の事業者から過剰接待を受けていた問題が多発し、社会問題化したことを受け、抽象的な服務基準・服務規程に加えて、飲食・贈答等に関する公務員倫理を立法化すべきであるとの声が高まり、「国家公務員倫理法」が制定された。

同法に基づいて制定された「国家公務員倫理規程」では「利害関係者から供応接待を受けること」などが明確に禁止されている。谷脇氏らの行為は、公務員倫理規程に違反するとして、国家公務員法による“懲戒処分”を受けたのである。

谷脇氏らが「懲戒処分」を受けたのに、7万円もの高額接待を受けていた山田氏が懲戒処分もされず、「自主返納」にとどまるのはなぜか。それは、山田氏が総務省を退職して、一般職公務員の身分ではなくなっているからだ。

退職後であっても、業務密接関連法人に任用されることを前提に退職する「退職出向」の場合には、退職前の行為について懲戒処分ができるという例外規定がある(国家公務員法82条2項)が、山田内閣広報官の場合、これには当たらない。

そのため、総務省が、山田氏を、退職前の倫理法違反の行為について懲戒処分することはできないのである。そして、内閣広報官の身分は現在「特別職の国家公務員」であり、懲戒処分の対象とはならない。

「特別職」とは、試験任用を前提とする「一般職」とは異なる公務員であり、選挙によって選出される国会議員や、政治的に自由に選出される大臣、行政でなく司法に関わる裁判官及びその他の裁判所職員、選任が一般職と異なる自衛官など、多岐にわたる。そして、「国家公務員法」はあくまで「一般職」を対象とした法律であり、「特別職」には適用されない。

そのため、「特別職」は、それぞれ個別に、職務に応じた規制を受けることになる。内閣広報官は、服務について内閣法に規定があり、国家公務員法の根本的な服務基準・服務規程が準用されている。しかし、「国家公務員倫理法」や「国家公務員倫理規程」による規制は受けないし、あくまで内閣法が準用するのは「服務」の部分だけであり、懲戒について、独自の規定も、準用の規定もない。「特別職」には対しては、倫理に違反しても、罰則が適用されない。まるで“特別待遇”である。内閣広報官に対しては、本人の“倫理観”による公正・適切な行為を期待するしかないのである。

つまり、菅首相が山田氏を「厳重注意」した、と言っても、何らの権限にも基づかないものであり、仮に“注意”が「無視」されても、内閣広報官の地位には何も影響ない。内閣広報官を継続させるのであれば、不問に付していることと変わらない。成人して堂々と飲酒できるようになった人間に対して、未成年時の飲酒が発覚して「厳重注意」しているようなものなのである。

「特別職」といっても、自衛官にも、国会議員にも、裁判官にも「懲戒規定」は存在する。懲戒規定がないのは、大臣や、大臣補佐官、大臣秘書官など、昔から政治的に自由任用が許されてきた国家公務員と、公使などの特権的な公務員などである。

内閣広報官に懲戒処分の規定がないのは、政治的に自由任用できる国家公務員なので、不適切な行為をする者がいた場合には、任命権者が政治的責任を問われることになり、その者の解任や交代が期待できるからである。

以前、同じく「特別職」で懲戒規定がない「副大臣」が、中国への情報漏洩を疑われた際、こうした特別職国家公務員に対して、懲戒処分を含めた罰則規定を設けるべきではないかとの議論があったが、政府は、そうした規定を設けることは「検討していない」と回答している。当時は二大政党制の確立が期待されていた時代であり、与野党均衡の下、政治的責任の意味合いも重いものであったため、政治的な任用を自由に円滑に行うことに比重をおくことにも合理性があったのかもしれない。

しかし、その後の安倍長期政権の中で、政府の政治的責任は軽くなり、自由任用が「濫用」され、言うことを聞く人を登用し、また、お気に入りに不適切な言動があっても放任する、といったような、「情実任用」が目立つようになってきた。こうした状況下では、政治的に自由任用する一部の「特別職」について懲戒処分の規定がないことは、合理性がなくなってきているのではないだろうか。

現在のような厳格な公務員試験による一般職公務員制度は、自由任用を原則としていた明治政府において、藩閥の情実任用が横行し、薩長による政府の私物化が批判されて、試験任用の制度に転換したことに端を発する。試験制度の例外で、なおかつ重要な権限を有する「特別職公務員」のポストが私物化されている現状は、「藩閥の情実任用」のようなものなのである。

特別職に「大甘」な制度を変えるか、国民の信頼が失墜している「政権」を変えるか、そういう時期に来ているように思う。

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「菅首相長男・『旧郵政省系官僚』違法接待の背景~「コンプライアンス顧問」の重要性 

放送事業会社に勤める菅首相の長男の菅正剛氏が、許認可権を握る総務省の幹部4人に違法な接待を重ねていた疑惑が週刊文春で報じられ、国会で厳しく追及されている。中央省庁の中核を担う存在であるはずの総務省の局長級の幹部が、利害関係者から度重なる高額接待を受け、贈答品、タクシーチケットまで受領していたという「モラルの崩壊」に、多くの国民は呆れ果てている。

私は、民主党政権時代の2009年12月~2012年11月、原口一博氏、片山善博氏ら4人の大臣の下で総務省顧問・コンプライアンス室長を務めた。この時、関わったコンプライアンス案件の多くが、今回違法接待が問題となっている「旧郵政省系」の部署の問題であった。今回、違法接待の疑惑で出てくる総務省幹部の中には、コンプライアンス室の調査対象の案件の担当課長も含まれている。

総務省でこのような問題が発生した背景について、コンプライアンスを徹底するための効果的な対策を、総務省顧問時代の経験も踏まえて考えてみたい。そして、この問題が、贈収賄等の刑事事件に発展する可能性についても考えてみたい。

菅首相長男らとの接待に関する秋本局長の「虚偽答弁」

週刊文春の記事で違法接待が報じられた後、秋本芳徳情報流通行政局長は、衆議院予算委員会で、菅義偉首相の長男との昨年12月10日の会食の際、同局が所管する放送業界の話題が出たかどうかを質問され、「記憶はない」と答弁した。ところが、昨日(2月18日)発売の週刊文春で、会食時のやりとりとされる音声が報じられ、所管業務が話題になっていたことが否定できない状況に追い込まれた。秋本氏は、その音声が自分だと認めていながら、現在も「記憶にない」と述べているようだ。

文春記事で報じられている会食の会話内容からすれば、BS放送の新規参入は、その会食のメインの話題であり、まだ2か月も経っていないのに、会食時のことについて全く記憶がなくなることはあり得ない。それを総務省局長としての国会答弁で、「記憶にない」などと堂々と虚偽答弁することは、中央省庁の局長としてあり得ないと言わざるを得ない。

どうして、このような官僚のモラルの崩壊が起こるのか。

そこには、安倍政権が長期化しそれを継承する菅政権が続く中で、行政の長たる総理大臣として安倍首相が行った答弁の姿勢が影響していると考えざるを得ない。安倍首相は、「桜を見る会」前夜祭問題に関して、「虚偽答弁」を繰り返し、検察捜査で虚偽が明らかになるや、国会で、「説明にもならない説明」をしただけであり、いまだに合理的な説明をしていない(【「桜・前夜祭問題」一層巧妙化する安倍前首相のウソ】)。

行政の長たる総理大臣が、まず「自分に都合の良いこと」を答弁し、後日、それが虚偽答弁であることが判明したら、その時点で辻褄合わせの説明をするという姿勢なのである。その配下にある官僚に、「自己に都合の悪いことでも真実を答弁しろ」と言っても無理であろう。日本政府は、丸ごと「ウソ答弁」に汚染されているということだ。

総務省でのICT補助金事業をめぐる不適切予算執行の問題

私が、総務省顧問・コンプライアンス室長として対応した案件の中に、ICT関係補助金等事業の不適切な予算執行の問題があった。「ICTふるさと元気事業」に関するコンプライアンス室への通報をきっかけにコンプライアンス室で調査を開始し、弁護士、ICTシステム専門家、公認会計士等の外部有識者で構成する「ICT補助金等調査・検討プロジェクトチーム」を組織して不適切な予算執行の実態・問題を解明し、概算払いされていた補助金についても大幅減額を行った。そして、調査結果に基づいて、制度・運営に係る改善及び職員の意識改革を提言した(総務省HP https://www.soumu.go.jp/main_content/000169927.pdf )。

この時の補助金の不適切予算執行を行った担当部局が「旧郵政省系」であり、所管課が総務省情報流通行政局地域通信振興課、その課長だったのが、今回の接待疑惑の当事者の秋本氏、現在の情報流通行政局長だ。

そして、調査の途中、人事異動で担当課長が交代し、後任となったのが、現在、内閣広報官として、総理大臣記者会見を仕切っている山田真貴子氏だった。

上記の「ICT補助金等調査・検討プロジェクトチーム」で調査したのが、民主党政権発足直後、急遽、第2次補正予算で実施した「ICTふるさと元気事業」だった。年度末までの僅かな期間に、組織の実態を把握することすら容易ではないNPO法人に、60億円もの補助金交付を適正に行うことなど土台無理だったはずだ。

しかし、当時、「官から民へ」というスローガンを掲げた民主党が、総選挙で圧勝し民主党中心の連立政権が発足したばかりだった。その最初の総務大臣の肝いりで予算化された補助金事業ということで、大臣の意向を過剰に忖度し、年度内の補正予算執行に異を唱えることなく、形だけの審査で、杜撰極まりない補助金の採択をした。

政治権力に脆弱な「旧郵政省系官僚」は、当時は、民主党連立政権の政治権力に対しておもねっていたが、その後、再び自民党政権に戻り、安倍政権が長期化し、総務省内での菅義偉官房長官の存在が一層大きなものとなっていく中で、「政治権力への脆弱さ」がさらに極端化していったということであろう。

旧郵政省系官僚の「政治権力への脆弱さ」

このような「旧郵政省系官僚」と政治権力との関係には、歴史的背景がある。

総務省は、2001年の省庁再編で、「自治省」「郵政省」「総務庁」の3省庁が統合されてできた。そのうちの郵政省は、もともとは、三公社五現業のひとつである郵政三事業を取扱う「現業官庁」であった。設置当初の本庁舎は、現在の港区麻布台に所在し、他の省庁が集まる霞が関へ行くのにバスを使わなければならなかったこともあって、「三流(もしくは四流)官庁」と揶揄され、中央省庁の中でも格下に見られていた。

その郵政省を、本庁舎を霞が関に移転させるなど、郵政省の地位向上に大きな役割を果たしたのが1964年に郵政大臣となった田中角栄氏であった。その後、1984年7月、通信政策局・電気通信局・放送行政局のテレコム三局に拡充され、電気通信・電波放送行政を担う省庁として、「現業官庁」から「政策官庁」へ脱皮してきたのも、「政治の後ろ盾」によるものだった。

そして、総務省に統合された後も、「旧郵政省系官僚」は、小泉純一郎内閣で一気に進められた郵政民営化がその後政治情勢の変化によって紆余曲折を繰り返すという、激しい環境変化にさらされた。

私は、総務省顧問就任の直後、「かんぽの宿」問題等の日本郵政をめぐる不祥事に関して設置された「日本郵政ガバナンス検証委員会」の委員長を務めた。その【報告書】でも、「西川社長時代の日本郵政は、政治情勢の激変の中、「郵政民営化を後戻りさせないように」との意図が背景あるいは誘因となって、拙速に業務執行が行われたこと」を問題発生の原因として指摘した。政治の影響をとりわけ強く受けるのは、日本郵政だけではなく、それを監督する「旧郵政省系」の部局も同様である。

このように政治情勢の変化に翻弄されてきた郵政省の歴史の中で、電波、通信、ICTなどの旧郵政省の担当分野は急拡大し、社会的重要性が増大し、所管業務に関する巨大な利権も生じるようになった。それらを適正に、公正に行っていくためには、相応の能力と、官僚としての倫理観が必要とされる。しかし、かつて「三流・四流官庁」と言われた郵政省を起源とする組織には、それらは十分ではなかった。その能力と権限のアンバランスが、「旧郵政省系官僚」が政治権力に依存し、脆弱化する傾向を一層強めることにつながり、「旧郵政省系官僚」は、政治の流れの中で「波乗り」をするような存在となっていった。

そして、安倍長期政権の下では、総務省にとっての最大の実力者の菅義偉官房長官の意向を強く意識するようになり、それが、かつて菅総務大臣秘書官を務めていた菅氏の長男との「癒着」につながっていったのであろう。

刑事事件に発展する可能性

では、今回の違法接待疑惑が、刑事事件に発展する可能性があるのか否か。

日本の刑法の贈収賄は、請託・便宜供与のない「単純収賄」も処罰の対象としているので、接待が「職務との関連性」があり、「社交的な儀礼の範囲内」と言えない限り、「賄賂」と認められ、贈収賄罪が成立することになる。

週刊文春の記事によると、菅首相の長男正剛氏が勤める東北新社は、総務省の許認可を受けて衛星放送を運営する会社であり、正剛氏と秋本局長の会話の中には、

「BSの。スター(チャンネル)がスロット(を)返して」

というようなやり取りがある。

2019年9月、総務省はBS放送の新規参入に関し、電波監理審議会へ諮問し、その結果、吉本興業等3事業者の認定を適当とする旨の答申が下り、同年11月に認定された3つのチャンネルは今年末にBSで放送開始予定となっている。それに伴いBS帯域の再編が急ピッチで進められ、昨年11月30日以降、東北新社子会社が運営する『スターチャンネル』など既存のチャンネルは『スロットを返す』、すなわちスロットの縮減が順次実施されている。

上記発言の趣旨が総務省の電波行政に関連していることは明らかであり、会食の場での会話が、総務省の所管業務に関連する話題に及んでいることは否定できないように思える。

接待の賄賂性が否定されるのは「社交的な儀礼の範囲内」のものである場合だが、その範囲内と言えるかどうかは、公務員倫理法上の報告対象の「5000円」というのが、一つの基準となるであろう。

もちろん、贈収賄罪の成立が否定できないとしても、検察が、実際に起訴するレベルの犯罪かどうかは話が別である。週刊文春の取材で詳細が明らかになっているのは12月10日の接待だけであり、他の接待の「賄賂性」は不明だ。これまで、数万円程度の1回の接待で、贈収賄罪に問われた事例は聞いたことがない。しかし、この記事に基づいて告発が行われた場合、検察捜査では、それまでも繰り返されていた接待も問題にされるであろうし、接待による賄賂の金額が増える可能性がある。また、検察実務で従来起訴の対象とならないような事例であっても、不起訴処分となれば、検察審査会に申し立てが行われ、黒川元検事長の賭け麻雀賭博事件のように、起訴猶予処分に対して「起訴相当」の議決が出ることも考えられる。

「旧郵政省系官僚」が引き起こした今回の事件では、検察の対応も、注目されることになるであろう。

中央省庁における「コンプライアンス顧問」の重要性

「政治権力への脆弱さ」が、今回のような官僚や公務員のコンプライアンス問題を生じさせる構図は、「旧郵政省系官僚」だけに限ったことではない。安倍政権の長期化、官僚人事の内閣人事局への一元化によって、官僚の世界全体が、政治に対して無力化しつつある中で、もともと政治に対して脆弱であった「旧郵政省系官僚」のところに極端な形でコンプライアンス問題が表面化したとみるべきであろう。

総務省顧問時代のことを振り返ってみると、そのような「官僚が政治に追従・迎合していく構図」の中で、コンプライアンスを守っていくためには、相応の位置づけを持つ中立的な立場の「コンプラアインス顧問」の存在が重要であったと思う。

当時の総務省での「顧問・コンプライアンス室長」という地位は、大臣から直接任命され、省内で相応の位置づけが与えられ(会議スペース付の個室も与えられていた)、大臣に対しても物が言える立場だった。コンプライアンス室には、もともと、行政監察、行政評価等の「中央省庁のコンプライアンス」を担ってきた「旧総務庁系」の職員が配置され、コンプライアンス問題への対応業務を支えてくれていた。だからこそ、当時の「顧問・コンプライアンス室長」が、コンプライアンス違反に対する中立的・客観的な監視機能を果たす「重し」としての役割を担うことができたのである。

もとより、原口総務大臣も、不適切な予算執行をしてまで年度内に「ICTふるさと元気事業」を行うことなど考えていなかった。しかし、政治権力に極めて脆弱な役人気質が、過剰に忖度して、補助金事業を拙速に執行しようとしたことが不適切執行につながった。政治に「波乗り」をする秋本氏ら「旧郵政系官僚」にとっては、原口大臣に任命された総務省顧問・コンプライアンス室長の私が、その大臣の肝いりで実施された事業に水を差すような徹底調査を行うことは想定外だったのかもしれない。しかし、組織のコンプライアンス対応というのは、組織のトップのためのものではない。あくまで中立的・客観的な立場から「コンプライアンスに忠実に」対応するのが当然である。

地方自治体における「コンプライアンス顧問」

私は、2017年から、横浜市の「コンプライアンス顧問」を務めている。それも、総務省での顧問・コンプライアンス室長と同様に、市長から直接任命され、「コンプライアンスの重し」としての役割を果たす立場である。

横浜市は、2007年、市職員が起こした重大な不祥事の発生を契機に、「コンプライアンス委員会」を設置し、私は外部評価委員として関わってきた。その活動は、設置当初は活発だったが、その後、次第に形骸化し、外部評価委員が参加する委員会の開催も、具体的な事案への関与も、ほとんどないという状態になっていた。

2017年7月、横浜市は資源循環局で発生した「産業廃棄物処理に係る通報に対する不適切な取扱い」について公表したが、この件についての横浜市の対応には、「通報者の保護」という視点が欠落しており、「法令規則上正しい対応をすること」に偏り、「社会の要請」に目を向けないコンプライアンスの典型だった。

林文子市長に、この「不祥事」への対応について問題点を指摘し、コンプライアンス委員会の活動を抜本的に改善するよう求めたところ、市長は、コンプライアンスへの取組みを抜本的に改め、強化する方針を打ち出した。私と、共に外部委員を務めていた公認会計士の大久保和孝氏の2人がコンプライアンス顧問を委嘱され、具体的なコンプライアンス問題にも直接関わることになった。

それ以降、毎年度、特定の部局ごとに、管理職に対する講義やディスカッション形式の研修を行う一方、時折発生するコンプライアンス問題についても、直接相談を受け、対応について助言している。「コンプライアンス室」も、年々、体制が強化され、コンプライアンス顧問とともに、その役割を果たしており、もともと、意識も能力も高い職員が揃っている日本最大の政令指定都市の横浜市におけるコンプライアンスへの取組みは、着実に効果を上げつつある。

政治権力と「コンプライアンス顧問」の重要性

今回の「旧郵政省系官僚」の問題がまさにそうであるように、中央省庁においては、「政治権力への脆弱さ」がコンプライアンス問題に発展する重大リスクとなる。それと同様に、地方自治体においては、首長の政治的な方針・指示が、コンプライアンスからの逸脱を生じさせることがある。それは、首長が大統領的な強大な権限を持つ日本の地方自治制度において、コンプライアンス意識の高い自治体職員にとっても不可避のコンプライアンス・リスクだと言える。

そういう面から、市長から委嘱を受けた「コンプライアンス顧問」が、コンプライアンスの「重し」になり、時には「盾」となることが、自治体をめぐる重大なコンプライアンス問題の発生や深刻化を防止する上で重要だと言えよう。

中央省庁の多くに、「コンプライアンス室」が設置され、外部弁護士が室長に委嘱されているところもある。しかし、ほとんどが、単なる内部通報窓口であって、顧問がコンプライアンスを担当している省庁というのは、聞いたことがない。

地方自治体でも、公益通報者保護法との関係で、内部通報窓口が設置されているが、首長から直接委嘱を受ける「コンプライアンス顧問」を置いている自治体というのは、あまり聞かない。

中央省庁、地方自治体における「コンプライアンス顧問」の存在に着目する必要があるのではなかろうか。

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政治家受領の「ヤミ献金」は不処罰、「ザル法」の“大穴”を塞ぐための方策

平成から令和に時代が変わっても、政治家、とりわけ国会議員の「政治とカネ」の問題は後を絶たない。

「桜を見る会問題」では、安倍首相側の地元有権者を集めた前夜祭の費用補填問題で、安倍氏の公設第一秘書が政治資金規正法違反で略式命令を受けた。河井克行前法務大臣とその妻の河井案里参議院議員が、同議員の参議院議員選挙での、多額の現金買収で逮捕・起訴されたが、その多くは、広島県内の首長・地方議員等の政治家に渡されたものだった。

そして、その事件に関連して、鶏卵業界のドンと言われるアキタフーズ会長から、いわゆる農水族の国会議員が多額の現金を受領した事件が表面化、吉川貴盛元農水大臣は、大臣在職中に、大臣室等で500万円の現金を受領していた事件で在宅起訴された。

これらの「政治とカネ」をめぐる問題の多くで、「政治資金規正法違反」が、マスコミで取り上げられるが、実際に、法違反が処罰につながる例は少なく、そのことへの違和感が、国民の政治に対する不信を高めることにつながってきた。

私自身も、現職検事だった時代に、「政治とカネ」の問題に関する捜査に積極的に取り組んできた。1990年代末には、広島地検特別刑事部長として、県政界の政治家をめぐる事件の捜査に取り組んだ。2001年から2003年にかけての長崎地検次席検事時代も、公共工事をめぐる政治資金の流れに関する事件の捜査に取り組んだ。

その際、捜査の武器として政治資金規正法を積極的に活用してきた。しかし、この法律は、法律上の概念が曖昧である上に、法の性格や違反行為の要件が世の中に正しく理解されておらず、また、法による義務付けの内容と政治家の政治資金処理の実情とに大きな乖離があることなど、罰則適用に関して、様々な問題があった。そのような構造的な問題は、世の中に正しく理解されているとは到底言えない。

私自身の検察の現場での経験に基づき、「政治とカネ」問題の背景となっている政治資金規正法の構造的な問題を指摘し、抜本的な改革案を提示することとしたい。

「ザル法」の真ん中に空いた“大穴”

「政治とカネ」の重大問題が発生する度に、政治家が世の中の批判を受け、政治家や政党自身が「その場凌ぎ」的に、議員立法で改正を繰り返してきたのが政治資金規正法だ。そのため、罰則は相当重い(最大で「禁錮5年以下」)が、実際に政治家に同法の罰則を適用して処罰することは容易ではない。それが「ザル法」と言われてきた所以である。

しかし、実は、政治資金規正法は、単に「ザル法」だというだけでなく、ザルの真ん中に「大穴」が空いているというのが現実だ。

「政治とカネ」の典型例が、政治家が、業者等から直接「ヤミ献金」を受け取る事例である。それは「水戸黄門」ドラマで、悪代官が悪徳商人から、「越後屋、おぬしも悪よのう」などと言いながら「小判」の入った菓子折りを受け取るシーンを連想させるものであり、まさに政治家の腐敗の象徴である。

しかし、国会議員の政治家の場合、「ヤミ献金」を贈収賄罪に問うのは容易ではない。そこでは、国会議員の職務権限との関係が問題となる。国会議員の法律上の権限は、国会での質問・評決、国政調査権の行使等に限られている。与党議員の場合、いわゆる族議員としての「政治的権力」を背景に、各省庁や自治体等に何らかの「口利き」をすることが多いが、その場合、「ヤミ献金」のやり取りがあっても、職務権限に関連しているとは言えず、贈収賄罪の適用は困難だ。

だからこそ政治資金規正法という法律があり、政治家が業者から直接現金で受領する「ヤミ献金」こそ、政治資金規正法の罰則で重く処罰されるのが当然と思われるであろう。しかし、実際には、そういう「ヤミ献金」の殆どは、政治資金規正法の罰則の適用対象とはならない。「ザル法」と言われる政治資金規正法の真ん中に「大穴」が空いているのである。

政治資金規正法は、政治団体や政党の会計責任者等に、政治資金収支報告書への記載等の政治資金の処理・公開に関する義務を課すことを中心としている。ヤミ献金の授受が行われた場合も、その「授受」そのものが犯罪なのではない。献金を受領しながら政治資金収支報告書に記載しないこと、つまり、そのヤミ献金受領の事実を記載しない収支報告書を作成・提出する行為が不記載罪・虚偽記入罪等の犯罪とされ、処罰の対象とされているのである。

国会議員の場合、個人の資金管理団体のほかに、代表を務める政党支部があり、そのほかにも後援会など複数の政治団体があるのが一般的だ。このような政治家が、企業側から直接、現金で政治献金を受け取ったのに、領収書も渡さず、政治資金収支報告書にもまったく記載しなかったという場合に、政治資金規正法の罰則を適用するためには、どの政治団体・政党支部宛ての献金かが特定されないと、どの「政治資金収支報告書」に記載すべきなのかがわからない。

もし、その献金が政治家「個人」に宛てた「寄附」だとすれば、「公職の候補者」本人に対する寄附は政治資金規正法で禁止されているので(21条の2)、その規定に違反して寄附をした側も、寄附を受け取った政治家本人も処罰の対象となる。しかし、国会議員たる政治家の場合、資金管理団体・政党支部等の複数の「政治資金の財布」がある。その献金がそれらに宛てた寄附だとすれば、その団体や政党支部の政治資金収支報告書に記載しないことが犯罪となる。いずれにせよ、ヤミ献金を政治資金規正法違反に問うためには、その「宛先」を特定することが不可欠なのである。

しかし、政治家が直接現金で受け取る「ヤミ献金」というのは、「裏金」でやり取りされ、領収書も交わさないものだからこそ「ヤミ献金」なのであり、受け取った側が、「・・・宛の政治資金として受け取りました」と自白しない限り、「宛先」が特定できない。「ヤミ献金」というのは、それを「表」に出すことなく、裏金として使うために受け取るのであるから、政治家個人宛のお金か、どの団体宛かなどということは、通常、考えていない。結局、どれだけ多額の現金を受け取っていても、それが「ヤミ献金」である限り、政治資金規正法違反の犯罪事実が特定できず、刑事責任が問えないことになるのだ。

「金丸5億円ヤミ献金問題」での「上申書決着」

平成に入って間もない90年代初頭、検察に対する世の中の不満が爆発したのが、1992年の東京佐川急便事件だった。この事件では、東京佐川急便から多数の政治家に巨額の金が流れたことが報道され、同社の社長が特別背任罪で逮捕されたことで大規模な疑獄事件に発展するものとの期待が高まった。しかし、いくら巨額の資金が政治家に流れていても、国会議員の職務権限に関連する金銭の授受は明らかにならず、結局、政治家の贈収賄事件の摘発は全くなかった。

そして、佐川側から5億円のヤミ献金を受領したことが報道され、衆議院議員辞職に追い込まれた自民党経世会会長の金丸信氏が政治資金規正法違反に問われたが、東京地検特捜部は、その容疑に関して金丸氏に上申書を提出させ、事情聴取すらせずに罰金20万円の略式命令で決着させた。

検察庁合同庁舎前で背広姿の中年の男が、突然、「検察庁に正義はあるのか」などと叫んで、ペンキの入った小瓶を建物に投げ、検察庁の表札が黄色く染まるという事件があったが、それは多くの国民の声を代表するものだった。東京佐川急便事件における金丸氏の事件の決着は、国民から多くの批判を浴び、「検察の危機」と言われる事態にまで発展した。

しかし、政治家本人が巨額の「ヤミ献金」を受領したという金丸氏の事件も、政治資金規正法の罰則を適用して重く処罰すること自体が、もともと困難だった。

当時は、政治家本人に対する政治資金の寄附自体が禁止されているのではなく、政治家個人への寄附の量的制限が設けられているだけだった。しかも、その法定刑は「罰金20万円以下」という極めて低いものであった。しかも、そのヤミ献金が「政治家本人に対する寄附」であることを、本人が認めないと、その罰金20万円以下の罰則すら適用できない。そのような微罪で政治家を逮捕することは到底無理であり、任意で呼び出しても出頭を拒否されたら打つ手がない。そこで、弁護人と話をつけて、金丸氏本人に、自分個人への寄附であることを認める上申書を提出させて、略式命令で法定刑の上限の罰金20万円という処分に持ち込んだのであった。

検察の行ったことは何も間違ってはいなかった。政治資金収支報告書の作成の義務がない政治家本人への献金の問題について極めて軽い罰則しか定められていなかった以上、検察が当時、法律上行えることは、その程度のものでしかなかった。しかも、それを行うことについて、本人の上申書が不可欠だったのである。

金丸ヤミ献金事件の後、政治資金規正法が改正されて、「政治家本人への寄附」が禁止され、「一年以下の禁錮」の罰則の対象となった。しかし、政治家本人が直接受領したヤミ献金については、違法な個人あての献金か、あるいは団体・政党支部宛ての献金かが特定できないと、政治資金規正法違反としての犯罪事実も特定できず、適用する罰則も特定できないという、「政治資金規正法の大穴」は解消されておらず、その後も、政治家個人が「ヤミ献金」で処罰された例はない。

2009年3月、民主党小沢一郎代表の公設第一秘書が、収支報告書に記載された「表」の献金に関する政治資金規正法違反(他人名義の寄附)の容疑で東京地検特捜部に逮捕された際に、西松建設の社長が、自民党の二階俊博議員側に「ヤミ献金」をしていたこと、そのうちの一部は二階氏に直接手渡されていたという「年間500万円の裏金供与疑惑」が報じられた。しかし、刑事事件としての立件には至らなかった。

また、吉川元農水大臣の事件でも、アキタフーズ会長から、農水大臣在任中に500万円を受領したほかに、大臣在任中以外の期間にも合計1300万円の現金を受領していた事実が報じられている。これも、政治家本人が直接受領した「ヤミ献金」のはずだが、刑事事件として立件され、起訴されたのは、大臣在任中の500万円だけであり、それ以外は刑事立件すらされていない。

それは、政治家側に直接裏金による政治献金が渡った場合に、政治資金規正法違反で立件・処罰することができないという、「政治資金規正法の大穴」によるものなのである。

「ヤミ献金」が刑事事件化された事例

一方、ヤミ献金が刑事事件として立件され処罰された事例がある。

その初の事例となったのが、私が長崎地検次席検事として捜査を指揮した2003年の「自民党長崎県連事件」(拙著【検察の正義】(ちくま新書)「最終章 長崎の奇跡」)である。

この事件では、自民党長崎県連の幹事長と事務局長が、ゼネコン各社から、県の公共工事の受注額に応じた金額の寄附を受け取っていた。そして、幹事長の判断で、一部の寄附については、領収書を交付して「表の献金」として収支報告書に記載して処理し、一部は「裏の献金」として、領収書を交付せず、政治資金収支報告書にも記載しなかった(この「裏の献金」が、幹事長が自由に使える「裏金」に回されていた)。

この事件では、正規に処理される「表の献金」と同じような形態で「裏の献金」が授受されていたので、「自民党長崎県連宛の寄附」として収支報告書に記載すべき寄附であるのに、その記載をしなかったことの立証が容易だった。「ヤミ献金」事件を、初めて政治資金収支報告書の虚偽記入罪(裏献金分、収入が過少記載されていた事実)で正式起訴することが可能だったのである。

2004年7月には、日本歯科医師会から平成研究会(橋本派)に対する1億円の政治献金に対して、橋本派側が幹部会で領収書を出さず収支報告書に記載しないことを決めた事実について、政治資金規正法違反(収支報告書の虚偽記入)の罰則を適用され、村岡兼造元官房長官と平成研の事務局長が起訴された。この事件も、平成研という政治団体に対する寄附であることが外形上明白で、それについて領収書を交付するかどうかが検討された末に、領収書を交付しないで「裏の献金」で処理することが決定されたからこそ、政治資金規正法違反の罰則適用が可能だったのである。

これらのように、「ヤミ献金」を政治資金規正法違反に問い得る事例というのは稀であり、政治家本人が直接現金を受け取るような事例には、政治資金規正法の罰則は全く歯が立たないという深刻な現実を理解する必要がある。

政治資金の逐次処理の実効性に関する問題

もう一つの問題は、政治資金についての収入・支出の透明化に関して、政治資金規正法上は、「会計帳簿の作成・備付け」と「7日以内の明細書の作成・提出」が義務付けられ、政治資金処理の迅速性が求められているが、ルールが形骸化しているということである。

政治資金規正法は、政治団体・政党等の会計責任者等に、各年分の政治資金収支報告書の作成・提出を義務付けているが、それに関して、収支報告書とほぼ同一の記載事項について、会計帳簿の作成・備付けを会計責任者等に義務付けるとともに、「政治団体の代表者若しくは会計責任者と意思を通じて当該政治団体のために寄附を受け、又は支出をした者」に対して、会計責任者への明細書の提出を義務付けている。

つまり、会計責任者は年に1回、政治資金収支報告書を作成・提出するだけでなく、その記載の根拠となる会計帳簿を、政治団体・政党等の事務所に常時備え付けている。これは、記載事項となる政治資金の収支が発生する都度、会計帳簿に記載することを前提としている。そして、会計責任者が知らないところで収支が発生することがないよう、政治団体の代表者等が、寄附を受けたり、支出をしたりした場合に、7日以内に明細書を作成して会計責任者に提出することを義務付けていて、会計責任者等が、その明細書に基づいて会計帳簿への記載をすることができるようにしている。

これは、政治資金の収支を発生の都度、逐次処理することを求める規定なのであるが、実際には、このような明細書の作成・提出の期限に関するルールは形骸化し、会計帳簿の記載、明細書の作成は、収支報告書の作成の時期にまとめて行われているようである。

逐次・迅速に収支を把握して処理する政治資金規正法のルールは、その記録化についてのルールがないために、収支報告書の作成・提出と併せてまとめて会計帳簿、明細書の処理をしても、提出する収支報告書上は証拠が残らず、明細書の提出義務違反等で処罰されることもない。それが、逐次・迅速処理のルールの形骸化につながっているのである。

安倍事務所における政治資金と個人資金の混同

安倍晋三前首相は、「桜を見る会」前夜祭での費用補填問題に関して、

私の預金からおろしたものを、例えば食費、会合費、交通費、宿泊費、私的なものですね。私だけじゃなくて妻のものもそうなんですが、公租公課等も含めてそうした支出一般について事務所に請求書がまいります。そして事務所で支払いを行いますので、そうした手持ち資金としてですね、事務所に私が合わせているものの中から、支出をしたということであります。

つまり、安倍事務所では、安倍氏の個人預金から一定金額を預かって、安倍夫妻の個人的な支出についても支払をしており、そのような個人預金から、後援会が主催する前夜祭の費用補填の資金を捻出したと説明したのである。

しかし、安倍氏の個人預金が補填の原資だと説明すると、安倍氏個人による公職選挙法の寄附の禁止に違反することになりかねない。そこで、補填は、秘書が無断で行ったと弁解するとともに、もう一つの補填の正当化事由として「専ら政治上の主義又は施策を普及するために行う講習会その他の政治教育のための集会に関し必要やむを得ない実費の補償」は、公選法が禁止する寄附に当たらないという理屈を持ち出してきたのである。

会場費の支出が寄附に当たらないとすると、「政治上の主義」や「政治教育」のためということになるので、当然、「政治資金としての支出」のはずだ。それを、安倍氏個人の資金から支出していたということは、安倍事務所においては、政治資金と安倍氏個人の資金が混同して処理されていたということなのである。

政治資金規正法の会計帳簿と明細書に関するルールから言えば、本来、政治献金や党からの交付金等の政治に関する収入と、安倍氏の個人資金とは明確に区別すべきであり、政治資金としての支出をした場合には、7日以内に会計責任者に明細書を提出し、それについて会計帳簿の記載が行われることになるはずだ。

ところが、前首相の安倍氏の事務所においてすら、政治資金の逐次・迅速処理のルールは守られず、政治資金と個人資金が混同されて処理されていた。おそらく、多くの国会議員の政治家が同様の政治資金処理を行っているのであろう。

 このようなことがまかり通るのは、政治資金規正法で、会計帳簿の備付・記載と明細書の作成・提出が義務づけられているのに、開示されるのが年に1回提出される政治資金収支報告書だけなので、法の趣旨どおりに逐次記載されているのか、収支報告書提出時にまとめて記載しているのかを、証拠上確認する手立てがないからである。

河井夫妻多額現金買収事件における政治資金と選挙資金の混同

河井夫妻が買収(公選法違反)とされて逮捕・起訴された事実の多くは、昨年4月頃、つまり、選挙の3か月前頃から、広島県内の議員や首長などの有力者に、参議院選挙での案里氏への支持を呼び掛けて多額の現金を渡していたというものだ。

従来は、公選法違反としての買収罪の適用は、選挙運動期間中やその直近に、直接的に投票や選挙運動の対価として金銭等を供与する行為が中心であり、選挙の公示・告示から離れた時期の金銭の供与が買収罪として摘発されることはあまりなかった。

このような「選挙期間から離れた時期の支持拡大に向けての活動」というのは、選挙運動というより、政治活動の性格が強く、それに関して金銭が授受されても、政治資金収支報告書に記載されていれば、それによって「政治資金の寄附」として法律上扱われ、公選法の罰則は適用しないというのが一般的な考え方であった。

しかし、公選法上は、「当選を得る(得しめる)目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対し金銭、物品その他の財産上の利益を供与する」ことで違反が成立する。県政界有力者も「選挙人」であり、「案里氏を当選させる目的」で「供与」した以上、形式的には違反が成立することは否定できないように思える。問題は、形式的には違反に該当しても、「政治資金の寄附」として合法化される余地があるかどうかだ。ここで重要なのは、河井夫妻の場合、現金で供与したから買収になるように言われているが、そうではないということだ。仮に、銀行振込であったとしても、使途を限定せずに提供するのであれば「供与」であることに違いはない。

結局、問題は、その「供与」が「政治活動」のためか、「選挙運動」のためか、ということである。事後的に、政治資金か選挙資金かが問題にならないようにするためには、政治活動とそのための政治資金の支出が、政治資金の処理を通じて明確に区別され、収支が発生した時点で、明細書や会計帳簿に政治資金として記載されることが必要だ。しかし、既に述べているように、会計帳簿の備付・記載、明細書の提出という、政治資金の逐次処理のルールは形骸化しており、年に1回の政治資金収支報告書の提出の時点までは、選挙資金と政治資金とが明確に区別されないまま処理されることがあり得る。

実際に、河井夫妻の公選法違反事件では、家宅捜索等の強制捜査が行われたのは、2020年1月であり、この時点では、2019年分の政治資金の収支については、政治資金収支報告書の提出期限の前だった。河井夫妻から現金を受領した広島県内の首長・議員の中には、家宅捜索を受けた後に提出した政治資金収支報告書に、河井夫妻からの寄附の受領を記載した者もいるようだ。

政治資金の1年分一括処理が事実上許されていることが、政治資金と選挙資金の区別を曖昧にし、それが、政治活動と選挙運動の境目が不明確になることの背景にもなっている。

「政治とカネ」問題根絶のための“2つの提言”

以上述べてきたように、現行の政治資金規正法には、政治資金透明化という法目的に著しく反する政治家個人が直接受領する「ヤミ献金」に対して罰則適用できないこと、政治資金の逐次処理のルールが形骸化していること、という二つの大きな問題があり、それが「政治とカネ」の問題が後を絶たないことの背景となっている。

そこで、このような状況を抜本的に是正する方法として、国会議員についての政治資金収支報告書の「総括化」と、会計帳簿・明細書のデジタルデータの「法的保存義務化」を導入してはどうか。

まず、政治資金規正法は、国会議員について、「国会議員関係政治団体」、すなわち、従来の資金管理団体・政党支部等の国会議員と密接な関係を有する政治団体について、1万円以上の支出の使途の公開、登録政治資金監査人による監査の義務付け、1円以上の領収書の開示が義務づけているが(19条の7)、「国会議員関係政治団体」を含めて、当該国会議員の政治活動に関連する政治資金の収支を総括する「国会議員政治資金収支総括報告書」の作成提出を、義務付けるのである。それによって、当該国会議員たる政治家が、業者から、特定の団体・政党支部への紐づけが明確になっていない献金を受領した場合も、その総括報告書には記載しなければならないことになる。

政治資金収支総括報告書の作成・提出については、当該国会議員が、「総括会計責任者」を選任し、総括報告書を作成・提出させる。国会議員が、政治資金の寄附を受けた際には、7日以内に、その旨を記載した明細書を総括会計責任者に対して提出しなければならないと規定するのである。

これにより、政治家本人が「政治資金」と認識して受領したのに、会計責任者に明細書を提出せず、総括報告書に記載しない場合であれば、政治資金収支総括報告書不記載罪の罰則が適用できることになる。それによって、国家議員たる政治家個人が直接「ヤミ献金」を受領した場合に、政治家個人宛か団体、政党支部宛てかが特定できないために処罰することができないという「政治資金規正法の大穴」は塞がれることになる。

もう一つは、政治資金規正法上の備付けを義務付けられた会計帳簿と、7日以内の作成・提出を義務付けられている明細書について、データの作成日が記録されたデジタルデータの保存と政治資金収支報告書に添付して提出することを義務づけることである。それによって、政治資金の収入、支出について、7日以内には必ず明細書を提出し、会計帳簿に記載しなければならないことになり、処理を未定にしておいて、政治資金収支報告書を作成・提出する時期に、政治資金と個人資金の振り分けや、政治資金と選挙資金等の振り分けを決める一括処理は違法となる。

もっとも、実際の政治資金の収支の中には、発生した時点では、どの団体・政党支部に帰属させるかが判然としないものも少なくないものと思われる。そこで、従来の各団体・政党支部ごとの会計帳簿とは別に、当該国会議員に関連する政治資金の収支であることは間違いないが、帰属先が定まっていない収支を含めて記載する「総括会計帳簿」の備付け・記載を会計責任者に義務付けることにする。「総括会計帳簿」に記載しておけば、収支の具体的な帰属先は、個別の政治資金収支報告書の作成・提出時までに確定させればよいことにする。それでも、政治資金としての収支であることは、収支が発生した時点で、個人の収支や、選挙に関する収支とは区別して、総括会計帳簿に明確に記載されることになる。

それによって、政治資金の処理が、迅速に収支の都度逐次行われることになり、政治資金・選挙資金・個人資金の相互の関係を明確にすることも可能となる。

真の「政治資金の透明化」を

政治資金規正法が基本理念とする「政治資金の収支の公開」は、健全な政治活動と民主主義の基盤を確保していくために不可欠なものである。しかし、法律のルールと現実の政治資金処理の実態との間に大きな乖離があって「違法行為」が恒常化している場合、その中の特定の違法行為だけが取り上げられると、「魔女狩り」的な不毛な中傷・告発合戦の常態化を招くことになる。

現実的に可能な政治資金処理のルールを構築することで、通常の政治資金の処理を行っていれば「政治とカネ」の問題で騒がれることがなく、意図的に政治資金処理のルールに反して政治資金を不透明化したり、私物化したりした事例だけが厳正な処罰の対象になるということにしていく必要がある。

まず、国会議員について、政治資金規正法における政治資金処理のルールを、現実的かつ実効性のあるものに改善する必要がある。それが「政治とカネ」の問題を根絶し、真の「政治資金の透明化」を実現することにつながるのではないだろうか。

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