SMBC日興・副社長逮捕、「検察幹部」は“プーチン”化していないか!?

3月24日、大手証券会社、SMBC日興証券(以下、「SMBC日興」)の幹部らによる相場操縦事件で、東京地検特捜部は、佐藤俊弘副社長を金融商品取引法違反(違法安定操作)の相場操縦の疑いで逮捕した。また、同日、既に逮捕されていた幹部4人に新たに一人を加えた5人と、法人としてのSMBC日興の6者を起訴した。

これらの事態を受けて、同日夜、同社の近藤雄一郎社長が記者会見を行い、

「証券会社という立場にありながら、金融商品取引法違反で起訴、逮捕という市場の信頼を著しく揺るがす重大な事態を引き起こしたことを重く受け止め、深く反省している」

と述べた。

しかし、近藤社長は、自らの現時点での引責辞任は否定し、金商法違反で法人としてのSMBC日興が起訴されたことについて、

「内部管理態勢に不備があったことは否定できず、法人としての責任は免れないものと考えている」

と述べたが、逮捕・起訴された幹部についての犯罪の成否については、

「送達される起訴状、開示される証拠を見て判断したい」

と述べるにとどめた。

逮捕された4人は、「通常の業務の範囲内」と述べて違法性を否定していると報じられており、犯罪の容疑をかけられた役職員らが、「無罪主張」をしていることを踏まえて、会社としては、金商法違反事実の違法性についてはコメントしないという姿勢で一貫している。「推定無罪の原則」からすれば、当事者企業の経営者として当然の対応と言えるだろう。

しかし、証券取引等監視委員会(以下、「監視委員会」)と、その強制調査を受けて同社の幹部社員を逮捕した検察当局にとっては、このようなSMBC日興側の態度は、幹部を起訴し、副社長まで逮捕した検察当局の「有罪判断」に対する「挑戦」に思えるだろう。

この事件で強制調査が開始されたのは昨年6月、その後の調査に対して、SMBC日興側は、一貫して違法性を否定し、徹底抗戦をしてきた。

9か月後の今年3月4日、検察は、外国人2人を含む会社幹部4人の逮捕という「強硬手段」に出た。しかし、それでも、会社幹部4人は違法性を認めず、なおも「無罪主張」の構えを崩していないようだ。佐藤副社長も、特捜部の逮捕前の調べに対して「取り引きの報告は受けていたが、違法という認識はなかった」などと説明していたようだ。逮捕後も、「買い支え自体は聞いていたが、手口までは聞いていない」と容疑を否認しているとのことであり、供述内容はほとんど変わらないということだろう。

「軍門」に下ろうとしないSMBC日興という大手証券会社に対して、検察は、4人の会社幹部を起訴するのと同時に、同社副社長を逮捕するという異例の対応に及んだ。

「検察・監視委員会」と「SMBC日興」との全面対決に至っている相場操縦事件について、何が問題となるのか、それに対して検察はどう対応しようとしているのか、事件は今後、どう展開していくのか、報道等に基づいて考えてみることにしたい。

犯意・共謀の問題

この事件は、大株主が大量の株を売る際、市場での値崩れを防ぐために、市場時間外に証券会社が一度買い取った上で投資家らに転売する「ブロックオファー」という取引に関して、株式の買取り・転売が行われる日の取引終了の直前に、SMBC日興が、対象銘柄で大量の買い注文を出していたことが、「不正な買い支え」であり、「違法安定操作取引」(「相場を安定させる目的をもつて、一連の有価証券売買等を行うこと」金商法159条3項)に当たるとされているようだ。

この事件に関して、第1に問題となるのは、ブロックオファーの対象銘柄について、SMBC日興の取引日の「終値」近辺での「大量の買い注文」が、逮捕・起訴された4人の幹部の指示によって行われたものなのか、ブロックオファーの対象銘柄の株価を維持する目的で行われたのか、という「犯意」と「共謀」だ。

「相場を安定させる目的をもつて、一連の有価証券売買等を行う」ことについての「犯意」と「共謀」なのであるから、どの銘柄について、どのような「目的」で相場を安定させるのか、価格をどのような範囲に安定させるのか、について認識を共有することが必要であり、「買い支えを行うことについて漠然と認識していた」という程度では、「犯意」「共謀」があったとは言えないだろう。

「終値」近辺での「大量の買い注文」が、自己売買部門の担当者の独自の判断で行われたもので、逮捕・起訴された幹部の指示によるものでなければ、そもそも、「不正の買い支え」とは言えない。

この点について、逮捕・起訴された幹部が所属していたエクイティ本部内で、ブロックオファー取引と自己売買の両方が行われており、両者の間に「ファイアーウォールの設置」(情報の遮断)が行われていなかったこと、同社の売買審査部門から、摘発対象となった大量の株の買い注文に関し、社内の売買監視部門のシステムで不審と警告されていたのに問題視されず必要な対応も取られていなかったことなどが報じられている。これらの報道は、いずれも、監視委員会・検察側からのリークによるものと思われる。

検察側の「見立て」は、

ファイアーウォールがなく、情報が筒抜けだから、ブロックオファー取引に関する判断と自己売買部門の買い注文とは直結していた。しかも、自己売買部門で、警告を受けた「不正な買い注文」を、何の動機もなくやるわけはない。それは逮捕・起訴された幹部らの指示によるものに違いない。

というものであろう。

しかし、そのような「ストーリー」で、SMBC日興の金商法違反を立証するためには、逮捕・起訴された幹部と、大量の買い注文を出した自己売買部門の担当者が、検察のストーリーに沿う供述を行うことが必要だ。何とか、そのような供述を行わせようとして4人を逮捕した上で、自己売買の担当者などの取調べも行ったはずだ。強制捜査によって収集された社内メールも徹底して調べられているはずだが、その中に「犯意」「共謀」を裏付けるものがあるのであれば、会社幹部ら4人が揃って否認を通すことは容易ではないはずだ。当初検察が意図したとおりのの供述や証拠が得られていない可能性が高いように思える。

「検察の見立て」を否定する事実

また、そのような「検察の見立て」を否定する方向に働く事実もある。

証券会社の自己売買部門も、基本的には、自らの判断で投資を行う「プロの投資家」である。「安ければ買い、高ければ売る」という原則に基づいて株式の売買を行っている。

ブロックオファーの対象とされた銘柄も、報道によれば、いずれも、相応に企業価値の高い企業であり、その株価が想定価格より低いと判断して買い注文を出すというのは、投資家としては当然の判断である。

マスコミ関係者から得た情報によれば、昨日起訴されたSMBC日興の幹部らの起訴状では、安定操作の方法は、「指値X円の買い注文を大量に入れる」というものだった。この「X円」という株価が、企業価値や相場の動きからして割安であり、「買い」が当然との判断によって買ったということもあり得る。

しかも、SMBC日興のブロックオファーは、投資家による「空売り」を誘発しやすい制度設計であったなどと報じられており、大株主からの買取と転売が行われる日に「空売り」によって株価を下落させようとする動きがあったことは間違いないようだ。「空売り」によって不自然に株価が下落したのであれば、自己売買部門が純粋な投資判断として「買い注文」を入れることも十分にあり得る。

そういう意味では、自己売買の担当者が、それなりの合理性のある理由をもって「独自の判断で買い注文を入れた」と供述した場合、それが虚偽だと断ずる根拠はあるのだろうか。

「絶対的な安値水準と判断されるレベルにまとまった買い指値注文を入れていたところ、不自然な空売りによって、その買い注文が約定してしまった」という場合であっても、結果的に、終値近辺でのSMBC日興の買いによる売買の割合が、売買全体に対して一定の数字を超えていれば、売買審査部から「終値関与の疑い」ということでアラートが出ることになる。しかし、「安値に予め出していた指値注文が大量に約定しただけ」と説明されれば、売買審査部門も「特に問題ない」という判断になるだろう。

一部の記事では、「金商法が禁止している『終値関与』があった」などと書かれていたが、明らかな誤解だ。「終値関与」というのは、「相場操縦等の不公正取引を疑う一要素」であって、それ自体が金商法で禁止されているわけではない。

要するに、逮捕・起訴された幹部らが自己売買部門の担当者に、「大量の買い注文」の指示をした事実があり、幹部らの意思で「意図的に買い支えた」と言えることが、一連の売買について犯罪が成立する大前提であり、その点について供述が得られないと、「相場を安定させる目的で一連の有価証券売買等を行った」という犯罪事実の立証は著しく困難なのである。

相場操縦の典型例は、仮装・馴合売買、見せ玉(約定する意思のない注文)などであり、取引としての合理性のない行為による相場操縦を個人が行った場合は、売買注文や株価の動きなどで、相当程度客観的に立証することも可能だ。しかし、本件のような、売買の当事者にとって相応に合理的な説明が可能な場合には、売買を行う意図・目的などの主観的要素についての供述が不可欠となる。昨年6月に監視委員会が着手した強制調査が、膠着状態に陥っていたのは、この点の供述が得られなかったからなのではないか。

株式購入者側「空売り」をどう見るか

第一の「共謀」についての証拠が得られ、幹部らの意思に基づいて大量の「指値買い注文」が出されていたことが認められるとして、第二に問題となるのが、【SMBC日興証券事件、「空売り」と「買い支え」の対立が背景か~「違法安定操作」での摘発への疑問】で述べたように、特定の銘柄について株価の値下がりにつながる『空売り』があったとされていることとの関係だ。

ブロックオファーでの購入者側が、買値の基準となる取引日の終値を意図的に下げようとして、買い取った株式で決済する前提で買い取り前に「空売り」を行ったとすれば、それ自体が「証券市場の公正」を害する行為であり、金商法157条の「有価証券の売買その他の取引又はデリバティブ取引等について、不正の手段、計画又は技巧をすること」の一般条項を適用して処罰すべきではないか、ということを述べた。

 産経新聞(3月24日付)は

SMBC日興は、投資家による「空売り」を誘発しやすい制度設計を武器に、業績を伸ばしたとされる。

関係者によると、他社は空売り防止の意味もあって同種取引をする際は取引日を明示せずに投資家に打診していたが、SMBC日興では取引日をほぼ明示しており、空売りする日付を限定しやすかったという。

検察幹部は「空売りでもうけさせるのが前提だった」と指摘し、制度設計の経緯なども捜査している。

などと、「検察幹部の見方」に基づいて記事を書いている。

しかし、このように、SMBC日興が、意図的に「空売り」を誘発する仕組みを作って、その「空売り」に「不当な買い支え」で対抗することが、SMBC日興にとってどのような意味があるのか。しかも、上記のように、購入者側が、買値の基準となる取引日の終値を意図的に下げようとして行う「空売り」は違法と考える余地もあるのである。そのようなことを企んでいたとすれば、それは、当事者の幹部らに説明してもらわなければわからない。

 

検察幹部の見方は、それを認めるSMBC日興側の供述がなければ、「妄想」に過ぎない。それを立証する証拠がなければ、違法・不当な「空売り」に対して、下落を防止する「買い支え」は、「相場が自然な需給関係に基づいて形成される」という本来の証券市場における株価形成に資するものとも言えるのである。

SMBC日興側の供述が不可欠な事案

検察が、上記の2つの点について、立証上の問題をクリアするためには、兎にも角にも、SMBC日興側の供述が不可欠だ。

大阪地検特捜部の村木厚子氏の事件で、検察官の不当な取調べが問題となる以前の特捜検察であれば、取調べで様々な手段を弄してストーリーどおりの供述調書に無理やり署名させ、それが採用されて立証されることになっていたであろう。しかし、村木氏の事件と証拠改ざん問題で世の中の厳しい批判を受けた検察は、その後、取調べの録音録画が導入されるなどしたことから、検察官の脅し・騙しの取調べで「ストーリーに沿った供述調書」に署名させるということが難しくなった。今回も、外国人2人を含む会社幹部4名を逮捕して取調べを行ったものの、SMBC日興側の供述は殆ど変わらなかったのではないか。

昨日、この4名の勾留満期を控え、最高検も含めて検察の処分方針が最終的に決定されたわけだが、「この証拠関係で公判立証ができるのか」との疑問が指摘されたのではないか。

そこで、検察が決定した方針は、「SMBC日興副社長逮捕」だったということが考えられる。

副社長逮捕でSMBC日興への世の中の批判を一層大きくし、それを受けて、金融庁も行政処分を行わざるを得なくなる、それによって同社を屈服せざるを得ない状況に追い込み、弁解・反論や公判での無罪主張を押し潰してしまおう、という意図で行われたのだとすると、恐ろしい話である。

しかし、4人の勾留満期の日に副社長を逮捕するというのは、通常の捜査の進め方ではない。捜査の最終段階で4人の幹部の中から副社長との共謀も含めて「自白」がとれた、ということなら話は別だが、これまでの経過からすると、それは考えにくい。

東京地検特捜部の捜査方針に大きな影響を持つ東京地検次席検事は、カルロス・ゴーン氏の事件の際に特捜部長だった森本宏氏だ。

私は、【深層カルロス・ゴーンとの対話 起訴されれば99%が有罪となる国で】(小学館:2020年)の中で、森本氏の特捜部長時代の捜査の進め方について、以下のように述べた。

森本特捜部長の下で手掛けた事件については、私も、その都度、いかにそのやり方が常識を逸脱しており、法的にいかに「無理筋」であるかを指摘してきた。しかし、森本特捜部は、終始、強気一辺倒で捜査を進めてきた。マスコミ、世の中の論調、裁判所の判断などの日本の検察、特捜部をめぐる構図の下では、「思い切ってやってしまえば、結果はついてくる」ということを、森本氏は、経験上認識しており、それが、特捜部が成果を挙げる上で、極めて合理的な発想だったことは間違いない。

森本氏は、そのような考え方で、国際的カリスマ経営者のカルロス・ゴーン氏を、突如逮捕して世界に衝撃を与え、私がその都度、指摘してきたように、多くの重大な問題があった同氏の事件を、「検察が始めた捜査は、引き返すことなく、めげることなく、とことんやり切る。それによって、結果は必ずついてくる」という方針でやり抜き、ゴーン氏は、「公正な裁判が期待できない」として海外に逃亡した。

今回の検察の捜査方針が次席検事の森本氏の判断にかかっているとすれば「SMBC日興副社長逮捕」が、上記のような目論見で行われた可能性も十分にあるように思える。

しかし、さすがに、今回の事件は、森本特捜部時代の事件のように、「結果オーライ」で済むとは限らない。

昨日起訴された4人の幹部の起訴事実が5銘柄に関するものだったのに、佐藤副社長の逮捕事実は、たった1銘柄に関するものだけだ。その1銘柄については、取引の内容についての佐藤副社長の認識に関する証拠が何らかの形で存在するということであろう。

森本次席検事が指揮する東京地検特捜部は、外国人2人を含む経営幹部の逮捕でSMBC日興に「侵攻」したが、かなりの苦戦を強いられているようだ。起死回生を狙って、佐藤副社長を逮捕し、全面自白に追い込み、SMBC日興を屈服させようというのだろうが、果たして目論見どおり行くのだろうかだろうか。起訴された4人も、SMBC日興側も、徹底抗戦の構えを崩していないようだし、4人の起訴と副社長の逮捕を受けての近藤社長の会見でのコメントも、「起訴された個人が有罪なのであれば、法人としても刑事責任を免れない」と述べているに過ぎないと思われる。今後、検察から開示される証拠を見て、会社としてどのような判断を下すのだろうか。

強大な権力で押し切ろうとするやり方は、“ウクライナに侵攻したプーチン”をも彷彿とさせる。ロシア軍のように「想定外の苦戦を強いられる」ということになる可能性もないとは言えない。

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「横浜市大不当要求問題」刑事告発、神奈川新聞の取材・報道に重大な問題

3月9日に、神奈川新聞が、紙面、ネット有料記事、ヤフーニュースに掲載した【横浜市長、大学在職・退職後の強要告発に「コメントは控える」】と題する記事に関する取材と記事化の過程に重大な問題があるとして、同社社長に厳重に抗議し、対応を求める書面を送付した。その件について、これまでの経過と問題の所在について述べることとしたい。

横浜市大現職教職員らからの山中竹春氏に関する問題の指摘

発端は、昨年7月26日、横浜市大理事長・学長名で発出された学内文書(請願審査における「7.26文書」➡【横浜市会議員らによる横浜市大への「不当圧力」問題の請願書・添付資料を公開】参照)について、現職教職員らが、「大学の自治」「政治的中立性」を侵害する重大な問題だとして私の事務所に連絡してきたことだった。それまでにも、医療情報分野の研究者、医療ジャーナリスト、神奈川県内の医師などから山中氏の能力・資質についての多くの情報が寄せられていたことに加え、山中氏の人間性、研究者としての基本的能力の欠如、市大での悪質なパワハラなどの具体的な話と、山中氏は「絶対に市長にしてはならない人物」であるとの訴えを聞いたことが、私が市長選挙で、山中氏の落選運動(【「小此木・山中候補落選運動」で “菅支配の完成”と“パワハラ市長”を阻止する!】)を行う決意につながった。

選挙期間中には、「コロナの専門家」であることの疑問、パワハラ疑惑、経歴詐称疑惑などの指摘、市大の取引業者への「恫喝音声」の公開などの様々な方法で展開したが、それにもかかわらず、山中氏は市長選挙で当選し、市長に就任した。しかし、私は、その後も、上記取引業者に対する強要未遂での山中市長の告発等に関わるなど、山中氏の市長としての適格性を問う活動を続けた。

「横浜市大への不当圧力問題」の調査を求める請願

9月には、横浜市会に「横浜市大への不当圧力問題」の調査を求める請願を行った。請願は、政策・総務・財務委員会に付託され、9月24日に続き、12月15日に行われた請願審査では、花上喜代治、今野典人議員、横浜市大の小山内いづ美理事長、相原道子学長が出席し、山中竹春市長も、市長としては18年ぶりに「説明員」として出席して、請願審査が行われた。しかし、そこでの山中氏の答弁は、ウソ・ごまかしだらけで、市大側の説明とも大きく乖離し、不当圧力問題の事実解明が十分に行えたとは到底言えないまま終わった【山中竹春横浜市長、請願審査委員会での追及に「虚言」連発。市長の存在自体が「横浜市民にとっての”災難”」】。

この請願は、当初、市会議員2名による市大への不当圧力を問題にし、その後、山中氏が市会の本会議で自ら関与を認めたことから、請願の対象を市長の不当圧力に拡大したものであり、山中氏自身にとっては、「市大教授を退職し、市長に就任する前、一私人であった時の問題」であり、「横浜市の事務」に関する問題とは言い難いことなどから、地方自治法100条に基づく調査の対象とすべき案件とは言い難かった。

山中氏の行為については、請願書でも、

「市民にSNSやインターネット上で不誠実を知ってもらった方がよいとも考える」

「コンプライアンス違反で訴え厳正に対処することも考えている」

などという発言によって、「名誉に対する害悪」を加えることを告知して市大理事長らに「義務のないこと」を行わせようとした刑法の「強要罪」に該当する可能性があると指摘していたが、請願審査の結果、それらの発言が、山中氏が小山内理事長に対して行ったものであること、しかも、6月16日の学内文書が事実無根だとして訂正・謝罪することが「義務なきこと」であったことが明らかになった。

このような請願審査の結果を受けて、私が横浜市役所で行った記者会見では、「不当圧力問題について山中氏を刑事告発することについての相談が市大関係者等から寄せられており、請願審査の結果に基づいて刑事事件として真相解明していくべき案件と考えられるので、刑事告発についての検討を進めていきたい」と述べた。

同月21日の本会議で請願についての採決が行われ、請願は不採択となったが、それに先立つ討論で、最大会派の自民党を代表して伊波俊之助議員が意見を述べ、

委員会審査の過程で、面会時のメール訂正の要求は殆ど山中市長が行ったということも明らかになっております。山中市長は「圧力という認識は一切ありません」という発言をしておりますけれども、記憶にないとか、あるいは質問に対して言い逃れ、直接答えないという場面もありました。「市民に誠実」というキャッチフレーズとは程遠い答弁でした。

強制力のない常任委員会の審査となると、これ以上審査をしたところでこの食い違いを埋めることができないと判断し、請願は不採択といたしました。あとは司法の場で判断されると思います。

と締めくくった。

同議員が言う「司法の場」で念頭に置かれているのが、請願審査の過程で明らかになった強要罪の疑いについての告発・刑事事件化であることは明らかであった。

山中市長を被告発人とする強要罪による告発状の作成・提出

このような横浜市議会での請願審査の結果を受けて、横浜市大の現職教職員と退職者数名から、山中氏の強要罪による告発についての検討と、告発状の作成を依頼され、その作業に着手した。

彼らの告発の重要な動機として、「市大在職時の山中氏が、教授・研究科長としての職責を全く果たしておらず、市長選に立候補を表明して職務を放棄したこと、悪質なパワハラを恒常的に行っていたこと、それらの事実を否定するために辞職後にとった行動」などがあった。それらも、告発に至った経緯として記載し、告発状案を完成させた。

その告発状案を、横浜地検特別刑事部に持ち込み、担当検察官との調整も終わった1月末には、現職教職員数名が横浜地検を訪れて担当検察官と面談し、告発に至った経緯を説明し、真相解明・刑事処分を求める意思を示した。

かかる経緯を経て、3月1日に、横浜市大の現職教職員及び退職者合計9名が告発人となった告発状が正式に受理された。

神奈川新聞への告発受理についての情報提供

問題は、山中市長に対する告発が受理されたことを、どのようにして公表するかだった。

今回の山中市長に対する告発は、横浜市会での調査を求める請願が常任委員会で審査され、相当程度事実関係が明らかになったことを受け、市議会からも、「司法の場」での真相解明が期待されたことを踏まえて行ったものだった。しかも、請願審査そのものに否定的だった立憲民主党・日本共産党の議員は、

「市大側は山中氏からの圧力と受け止めておらず、市大内部では問題にされてもいない」

などと述べていたのであり、多数の市大内部者が告発人となって刑事告発に及んだことは、それらの党の主張に対する反対事実でもあった。

そのような告発が、地検での審査を経て正式に受理されたことについて、情報提供するメディアとして考えたのが地元紙の「神奈川新聞」であった。同紙は、三木崇記者の署名記事で横浜市会での請願審査の内容や結果についても報じており、請願審査の結果を受けて私が市役所で会見し、山中市長の強要罪での告発の検討を行っていると述べたことにも、記事中で触れていた。そういう意味では、地元メディアとして、その告発の件を「市政にとって重要な問題」として報じるのに相応しいと思われた。告発人側も、匿名での記事化を条件に取材に応じる意向だった。

三木記者に、横浜市大の現職教職員らを告発人とする告発状が横浜地検に提出され数日内に受理の見通しであることを伝え、匿名を条件に告発人の直接取材も可能と伝えたところ、「告発状の内容と、それが受理された事実を報じたい」とのことだったので、告発状の内容を資料として送付した。

3月2日に、横浜地検から、1日付けで告発が受理されたとの連絡があったので、すぐに連絡したところ、三木記者は、告発人代表者に電話取材して確認をした上、告発受理についての記事が、3月3日付け朝刊で掲載された。

しかし、いわゆる「ベタ記事」で、同じページに、真鶴町長が選挙人名簿の不正使用の地方公務員法の守秘義務違反の事実で告発されたことが大きな見出し付きの記事で報じられているのと比較しても、異常に小さな扱いだった。

告発人代表者のインタビューとその記事化

その後、三木記者から、

「告発受理を報じた記事は小さな扱いとなり、いろいろ意見もあったので、告発人側のインタビューを行った上で、中身のある記事を出して、ガツンとやりたい」

との申入れがあった。告発人代表者にそれを伝えたところ、インタビューに応じることになり、3月6日の日曜日の午後、横浜市内で、2時間にわたってインタビューが行われた。

その記事を3月8日の朝刊に掲載する予定ということで、7日の昼頃には記事の「予定原稿」がメールで私宛に送られてきた。山中氏の行為が「大学の自治」に対する重大な侵害だと考え告発に至った経緯、市大でのパワハラの事実などを内容とするもので、インタビューに応じた趣旨にも沿う内容の約90行の大型記事だった。告発人代表者側に確認し、いくつか修正意見を送付したところ、同日夕刻には、それを反映させた「予定原稿」が送られてきた。その際、「記事に告発状の現物のイメージを掲載したい」とのことだったので、告発代表者の了解を得た上、告発人の署名入りの告発状を、当事務所からファックス送付した。

ところが、同日夕刻になって、三木記者が、

「デスクが掲載に難色を示している。市大関係者が告発を決意する理由となった山中氏のパワハラについて、もっと具体的な話を聞きたい」

と言ってきた。そこで、告発人の一人で、最もひどいパワハラの被害を受けた市大退職者に連絡をとり、三木記者の取材に応じてもらうよう要請したところ、何とか了承が得られ、ただちに電話で取材が行われた。このパワハラ被害者は、パワハラによってメンタル面面の不調を来たし、退職を余儀なくされたもので、取材に応じることには心理的抵抗があったが、神奈川新聞が告発の事実を大きく報道するのであれば、ということで取材に応じてくれたものだった。

午後8時頃、三木記者から

「やはりデスクが通してくれなかったので、明日の掲載は見送りとなった。引き続き記事の内容を充実させて、明後日の朝刊で掲載するようにしたい」

との連絡が私と告発人代表者にあった。

翌8日の午後7時過ぎに、三木記者からメールで、記事の原稿が送られてきた。

信じ難いことに、それは、同日午後に行われた山中市長の定例会見での発言についての記事で、前日に送付された予定原稿とは全く異なり、末尾に、告発人代表者のコメントが、3行ほど「カウンターコメント」のように載せられているだけで、パワハラにも全く触れておらず、インタビューに応じた趣旨に反するものだった。

その後、三木記者と電話で話したが、「デスクの判断で削られた」と繰り返すのみだった。こちらが、

「告発人代表者も、パワハラ被害の退職者も、相当に無理をして取材に応じてくれた。その趣旨に全く反する記事にされることには納得できない」

と言うと、

「それならボツにするしかない」

とのことだった。

告発人代表者の意向を確認した上、

「送付された内容であれば記事掲載には了承できない」

と伝え、告発人側で取材に応じた結果は記事には出さないということで話が終わった。

翌9日、「カナロコ」に、強要罪での告発についての山中市長の定例会見でのコメント中心のネット記事が出ていて、それがヤフーニュースに転載されていた。その記事は、前日の予定原稿の内容から告発人代表者のコメントが削除したものだったが、あろうことか、告発人のインタビューの内容を記事化する前提で送付した告発状の現物の写真が掲載されていた。

また、神奈川新聞の紙面や、カナロコの「有料記事」には、ボツにするはずであった告発人代表者のコメント入りの記事がそのまま掲載されていた。

告発人としては、告発人側のインタビューの内容を記事化するということで取材に応じたのである。「告発状」の現物も、インタビューの内容とする記事が掲載される前提で送付したものだ。山中市長の定例会見でのコメントを中心とする記事は、全く前提を異にする。そのような記事に、告発状の写真を使用することを了承したことなどなく、まさに流用そのものだった。

神奈川新聞社長宛の抗議、措置の要求

ネット記事を確認した時点から、三木記者に連絡し、「告発状の現物の掲載は了承していない」として記事の削除等を求めたが、真摯な回答は得られず、編集責任者に電話させるように求めたが、全く連絡はなかった。

そこで、同日、神奈川新聞の須藤浩之社長宛てに、「無責任な取材・報道の姿勢及び取材協力者側への不誠実な対応に厳重に抗議し、ネット記事から、告発状の現物の写真を削除すること、紙面で、取材・報道において不当な対応を行い告発人に迷惑をかけたことについての謝罪文を掲載すること」を要求する書面を送付した。

同書面は、10日に神奈川新聞に配達されたが、本日(3月16日)現在、何らの返答もない。告発人代表者にも、パワハラ被害者の退職者にも、9日の、上記「山中会見コメント」中心の記事掲載後、何の連絡もない。ただし、11日には、問題の記事の告発状の現物の写真は削除され、横浜市のイメージ写真に差し替えられている。私からの書面を受け、同写真の掲載に問題があったことについては非を認めているものと思われるが、それにしても、告発人側から提供を受けた写真を勝手に記事に掲載し、それを一方的に削除し、取材協力者側に何の連絡もしないという神奈川新聞の対応は、あまりに常識を欠くものだ。

マスコミの取材・報道に関する重大な問題

このような神奈川新聞の対応には、メディアとして極めて重大な問題がある。

第一に、今回の告発とその受理の事実の重要性についての認識の問題である。

一般的には、告発というのは、一つの捜査の端緒に過ぎない。しかも、告発自体は、「何人も」可能なのであり、、一般市民が、マスコミ報道で犯罪に当たるとされた事実について、それだけを基に検察庁に告発を行うというケースも少なくない。そのような告発の多くは、「犯罪事実不特定」、「犯罪の嫌疑の根拠不十分」等の理由で告発状が返戻される。特に、2008年の検察審査会法の改正で、不起訴処分に対する検察審査会への申立てが行われ「起訴相当議決」の議決が出ると法的拘束力が生じるようになってからは、検察の「告発受理」に対する慎重な姿勢が顕著になった。

最近では、「検察庁への告発」は相当ハードルが高く、告発人側に、告発事実について、捜査を遂げ真相を明らかにした上処罰を求めるという意思が明確に示され、犯罪事実が起訴状の公訴事実に近い程度に十分に特定されていなければ、告発状は受理されない場合が多い。

今回の告発は、現職の横浜市長を被告発人とし、市が設置者である市立大学の現職教職員らが行ったものであり、しかも、検察庁での慎重な審査手続を経て、正式に受理されたのであって、その事実は極めて重い。もちろん、その告発事件に関して、最終的にどのような刑事処分が行われるかは、検察の捜査が行われた上でなければわからない。しかし、横浜市会での請願審査の経緯をも踏まえれば、今回の告発とその受理の事実は、それ自体が、地元紙として大きく取り上げるべき案件だと考えられた。

そういう意味で、「告発人側のインタビューを行った上で大きな記事にして、ガツンとやりたい」と言って、インタビューを申し入れてきた三木記者の姿勢は真っ当なものだった。しかし、そのインタビューが記事化され、原稿が出来上がった後の神奈川新聞社側の対応は、信じ難いものであった。

神奈川新聞は、今回の問題についての「告発受理」の意味を過少評価しているとしか思えない。

「告発者」の取材・報道をめぐる問題

そこで第二の問題となるのが、取材・報道における「告発者」への対応である。

「権力との対峙」「権力者の追及」は、マスコミの重要な役割である。

しかし、「権力」「権力者」に関する情報をつかみ、具体的な事実を把握することは、外部者のマスコミにとって容易なことではない。その貴重な情報源となるのが「告発者」である。

横浜市大における「絶大な権力者」であった山中氏が、市長選に立候補して横浜市の最高権力者になろうとしたことに対して、山中氏の実像を知る市大関係者等から、パワハラ・経歴詐称・不当圧力等の様々な問題が指摘され、それが、最終的に、横浜地検への告発という形になった。そして、それらの問題指摘の主体の「告発者」が、インタビュー取材に応じ、記事化される過程で起きたのが、今回の問題だ。

この場合、告発者は、その氏名が公表されたり、権力者側に知られたりすることで、いかなる不利益が生じるかわからない。取材・報道する側には、格段の配慮が求められることは言うまでもない。

三木記者は、告発状に関する資料提供を受け、当初は、告発に至る経緯と動機、告発人が訴えたいことなどを内容とする記事を書く前提で、長時間の面談のインタビュー取材を行い、告発人からありとあらゆる情報を得て、実際、社内の所定の形式で予定原稿を作成して、告発人側に送付して確認を求め、さらに、パワハラ被害者の追加取材まで行った。ところが、その後の神奈川新聞の記事掲載に至る対応は、三木記者とは全く異なるものだった。

三木記者の説明によれば、「デスクが難色を示している」ということだが、インタビューを行い、予定原稿を取材対象者に送付して確認まで求めているのである。しかも、その記事のために、告発人の署名の入った告発状の現物まで送付している。それなのに、その時点で、そのような趣旨の記事を掲載すること自体について、新聞社内部での了承がとれていないということが、果たしてあり得るのであろうか。

告発人代表者は、三木記者は大変熱心に問題意識を持ってインタビューをしてくれたと言っていた。予定原稿も、その趣旨に沿うものだった。告発人側からすれば、当初掲載予定であった記事が事後的な事情によって変更されたのではないか、例えば、山中氏側やそれと近い社内関係者の横やりがあったのではないか、と疑いたくなるのも致し方ない。告発人の氏名も含む極めてデリケートな情報まで提供している告発人側としては、そのような神奈川新聞社側の対応に重大な不信感を持ち、告発人側の秘密が守られるのか、山中氏側に情報が洩れることはないのかと不安になるのも当然であろう。

告発人の現職教職員らが、山中氏による横浜市大への不当要求の問題に、ここまで徹底してこだわり、強要罪による刑事告発にまで及んだのは、それが、横浜市大のガバナンス・教育体制等に重大な悪影響を与えた「山中竹春氏をめぐる問題」を象徴する問題だからである。彼らの懸命の訴えが、少しでも多くの横浜市民に届くよう、私なりに最大限の努力をしてきたが、残念ながら、市長選の前後から現在に至るまで、横浜のメディアは、そのような「山中問題」を殆ど取り上げて来なかった。

そのようなメディアの姿勢が端的に表れたのが、今回の山中市長告発問題についての神奈川新聞の取材・報道のように思える。

神奈川新聞は、疑念を晴らすべく、今回の取材・報道の経過について、納得できる説明を行うべきである。

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SMBC日興証券事件、「空売り」と「買い支え」の対立が背景か~「違法安定操作」での摘発への疑問

3月4日夜、SMBC日興証券エクイティ本部の本部長ら4人が、金融商品取引法違反の相場操縦の疑いで東京地検特捜部に逮捕された。

日経新聞(3月5日付け)では、以下のように報じている。

相場操縦の疑いがあるのは、企業の株式を大口で一括で取引する「ブロックオファー」と呼ばれる取引。大株主から株式売却の意向を受け、ほかの投資家に売り渡す。市場で大量の株式を売り出すと需給が崩れ、株価は下がりやすい。これを避けようと大株主が証券会社に依頼し、新たな株主を探してもらう取引だ。

4人は金融商品取引法が禁じる「終値関与」の疑いが持たれて逮捕された。取引時間が終わる「大引け」間際に買い注文を出す行為で、SMBC日興では引き受けた取引の成立を確実にしようと、市場で様々な株式を売買している部門に買い支えを依頼した疑いがある。ブロックオファーの取引価格は終値を基準とするため、終値が高くなるように特定の銘柄を買い支えたとみられる。

証券取引等監視委員会が、金融商品取引法違反(相場操縦)容疑の関係先として同社本社を強制調査し、東京地検への告発も視野に調べていると報じられた昨年11月4日に、【SMBC日興証券事件、相場操縦として刑事立件できるのか?】と題する記事で、報じられている範囲では、一般的な相場操縦である「取引を誘引する目的」で行う「変動操作」(159条2項)の成立には疑問があると述べた。

この「取引を誘引する目的」については、

「人為的な操作を加えて相場を変動させるにもかかわらず、投資者にその相場が自然の需給関係により形成されるものであると誤認させて有価証券市場における有価証券の売買取引に誘い込む目的」

と解するのが最高裁判例だ。

注文の出し方や株価の動きで、株価が上昇するように見せかけて、他の投資家を引きずり込み、株価を上昇させて、自分は売り抜けて儲けようというのが、一般的な相場操縦である「変動操作」の犯罪だ。

SMBC日興証券の社員が、ブロックオファーの取引価格の基準となる終値が下落しないように、特定の銘柄を買い支えたというだけでは、「取引を誘引する目的」の変動操作に該当するとは思えなかった。

むしろ、その時点で報じられているような事案であれば、有価証券の「相場をくぎ付けし、固定し、又は安定させる目的をもって」する「安定操作取引」(159条3項)で立件される可能性があることを指摘した。

安定操作取引は、有価証券の募集や売り出しを円滑に行うため、相場の安定を目的として行う市場での売買取引である。特に、それが必要であり、かつ、合理性が認められるのは、有価証券の募集・売り出しを円滑に行うために、株価の急激な変動を回避し、一定の範囲に収まるようにすることを目的とする場合であり、届出・報告等の所定の手続によって行われる場合には適法とされる。そのような手続を経ることなく、株価が、上限価格と下限価格の間の「一定の範囲」から逸脱しないようにするための安定操作取引が行われた場合には違法となる。

安定操作取引は、有価証券の募集・売り出しの場合であれば、事前に届出を行うことで適法に行うことができる。しかし、単に、大株主から立会時間外で売買の仲介を依頼されたというだけであれば、適法に安定操作を行うことはできない。

本日のSMBC日興証券の社長の記者会見では、同社幹部の逮捕容疑は違法安定操作取引(159条3項)ということであり、上記のような理由で「取引を誘引する目的」が認められないので、159条2項の変動操作取引ではなく、3項の違法安定操作取引で刑事立件されたものと考えられる。

しかし、【前記記事】で、安定操作取引で立件された具体例の「H氏の相場操縦事件」について書いたように、「違法安定操作取引」に関しては、「上限価格」と「下限価格」を定めて、株価がその間に収まるようにした場合に成立するものであり、単に、一定の価格を下回らないように買い支えていたというだけでは犯罪は成立しない。

SMBC日興証券の側は、終値近辺で買い注文を出して株価を買い支えただけであれば、株価の上昇を抑える必要はない。「上限価格」を設定したと言えるのか、疑問だ。

そして、もう一つ注目すべき事実は、以下のNHKの記事で報じられた事実だ。

大手証券会社SMBC日興証券の幹部ら4人が相場操縦の疑いで逮捕された事件で、4人は特定の銘柄について株価の値下がりにつながる「空売り」が行われたため、それに対抗して株価を維持しようと不正に大量の株を買い付けていた疑いがあることが関係者への取材で分かりました。

単に、SMBC側の「不正な買い支え」の動機になったのが、「空売り」だったことを報じているに過ぎないように見えるが、実は、その「空売り」こそが本件の発端となった重大な問題であるように思える。

上記のH氏は、「夢の街創造委員会」の創業者の花蜜伸行氏(その後「幸伸」と改名)である。創業者花蜜氏が、同社の株価が割安に放置されていたことから、僅かな資金を元に、信用取引で上場会社の15%もの株式を保有しようとし、その過程で行った取引について、証券取引等監視委員会に摘発されたのが「H氏の相場操縦事件」だった。

最近、花蜜氏は、自身の著書【僕は夢のような街をみんなで創ると決め、世界初の出前サイト「出前館」を起業した。】で、「夢の街株の買い支え」を行っていた最中に、花蜜氏の持ち株をまとまって購入してくれることになったファンドに、契約締結直後から大量の「空売り」をかけて夢の街株を売り崩されたことについて書いている。

花蜜氏の刑事裁判の少し前の日経ビジネス2016/09/05号の記事【敗軍の将、兵を語る「外資ファンドに相場で負けた」】の該当部分を引用する。

買い付け資金を何とか確保したいと考えていた矢先、ある外資系ファンドが、私の10万株を買うと手を挙げたのです。買い取り価格の条件は、契約日の終値の7%ディスカウント。資金が確保できるのならばと、私は承諾し、5月30日に、その外資系ファンドと10万株の売買契約書を締結しました。

すると、その瞬間から今までにはないような猛烈な売り浴びせが始まったのです。およそ1200円だった株価は急落し、終値は1085円。外資ファンドにはその7%引きで、私の保有していた10万株が渡りました。

私は膨大な追い証を支払わなくてはならなくなりました。その現金の捻出に困っていると、先の外資系ファンドがさらに10万株を買うと申し入れてきたのです。現金を作るにはそれ以外に方法がない。そう判断し、6月2日に私は、そのファンドにさらに10万株を売ることを決断しました。すると、また契約書を締結した直後から猛烈な売り浴びが始まった。株価はついに1028円まで下落しました。もう追い証さえ払えず、信用取引で買った250万株はすべて強制決済されました。そして私は10億円の債務を負いました。

さらに追い打ちをかけたのが証券取引等監視委員会の特別調査です。株価を上げたのが「相場操縦」、株価下落を食い止めたのが「株価固定」だとして、私は東京地検に刑事告発されたのです。

取り調べの中で取引データを見ると衝撃的な事実が判明しました。私が例の外資ファンドに10万株を売却する契約をした瞬間から、その外資系ファンドは、夢の街の10万株を空売りしていたのです。

彼らの売り崩しで私は持ち株を強制売却せねばならず、膨大な損害を受けました。取り調べではその外資系ファンドの売り崩しこそ違法だと訴えましたが、相手にされませんでした。

「夢の街」株を買い進めて資金不足になっていた花蜜氏は、自分の持ち株を、市場外でまとめて買い取ってくれるという外資系ファンドに、その契約日の終値の7%ディスカウントした価格で、売却する契約をしたところ、契約をした途端に、大量の「空売り」で売り崩され、大幅に下落した価格で売却を余儀無くされ、膨大な損失を被った。

「ブロックオファー」と呼ばれる取引も、上記日経記事に書かれているように、市場で大量の株式を売り出すと需給が崩れ、株価は下がりやすいので、これを避けようと大株主が証券会社に依頼し、買い取り先を探してもらうものだ。そこでの売買価格は、特定の日の終値を基準に、その何%かディスカウントした価格だ。もし、この終値が下がれば、買い取り先は、それだけ安く株式を買えることになる。

前記のNHKの記事の「株価の値下がりにつながる『空売り』」というのは、ブロックオファーで買い取る株式で決済するということで、買い取る前に購入者側が「空売り」をかけたのではなかろうか。そうだとすると、「夢の街」株で花蜜氏に「売り崩し」を仕掛けた外資ファンドと同様のことが、今回のSMBC日興証券のブロックオファーの株式購入者側によって行われたということになる。

売買価格の基準となる終値の下落を食い止めるための「買い支え」が問題なのであれば、それを下落させ、自分の買値を意図的に下げようとする「売り崩し」も問題ではないか。

上記の日経ビジネスの花蜜氏が「取り調べではその外資系ファンドの売り崩しこそ違法だと訴えた」というのは無理もないことだ。このように、自分が市場外で安く株式を取得するために、市場での終値を下落させる行為は、「証券市場の公正」を害する行為であり、金商法157条の

「有価証券の売買その他の取引又はデリバティブ取引等について、不正の手段、計画又は技巧をすること」

の一般条項を適用すべきなのではないだろうか。

「空売り」によって、株価を下落させようとする動きがあって、それに対抗した「買い支え」であったこと自体が、犯罪の成立を否定する理由にはならないが、そのような「空売り」が横行しているとすれば、そもそもブロックオファーという手法自体が成り立たないように思える。監視委員会の「違法安定操作」による摘発が、市場の実態に即した金商法の運用という面でバランスを欠いたものであることが、SMBC日興証券幹部が違法性を否定していることの背景にあるのではないだろうか。

今日の記者会見でも、同社の社長が「まず真相解明」と繰り返し、捜査による事実解明に委ねるだけでなく、外部弁護士による調査委員会を立ち上げたことからしても、同社側は、証券取引等監視委員会による摘発、検察による同社幹部の逮捕に、必ずしも納得していないようにも見受けられた。

「前代未聞の大手証券会社幹部の相場操縦による逮捕」が、果たして、金商法の罰則適用として適切なものだったと言えるのか、まだまだ予断を許さない面があるように思う。

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相次ぐ「選挙とカネ」問題表面化、抜本解決のための公選法改正を提案する

『文藝春秋』3月号で、京都における国政選挙の際に、自民党候補者が選挙区内の府議・市議に50万円を配っていた「自民党京都府連の選挙買収問題」が報じられた。

「衆議院選挙、参議院選挙とも候補者からの資金を原資として活動費(交付金)を交付しております。これは府連から交付することによる資金洗浄(マネーロンダリング)をすることにあります。」(原文ママ)

とする内部文書に基づいて、国政選挙の候補者から、府連を通して、地方議員に多額の金が渡る「選挙買収の構図」を報じたものだった。

 2月10日、参院京都府選出参議院議員で前府連会長の二之湯智・国家公安委員長が、立憲民主党の城井崇、階猛議員からこの問題について質問され、地元議員に金を配っていたことを認めた上、

「選挙活動の目的ではなく、党勢拡大のためで、適正に処理している」

と買収疑惑を否定した。

 同日、松野官房長官は、この問題について、二之湯国家公安委員長から報告を受けたとした上、

「法令に則して、適正に処理をしているということでございます。私の方としては、その説明を了といたしております」

と述べて、法的な問題はないとの認識を示した。

 2月14日の衆院予算委員会では、立憲民主党の階猛議員が、二之湯氏が参院選候補者だった2016年に同氏が代表を務める選挙区支部から府連に960万円を寄附したことについて、配布金額の根拠を質問した。

「いろいろな費用がいるだろうということで、私の思いで寄付をさせていただいた」

などと繰り返し、審議は一時中断した。

 様々な公職選挙で、買収も含めた公選法違反の摘発を行っている全国の警察組織のトップの国家公安委員長が自身の選挙買収疑惑について問い質され、このような不確かな答弁しかできない状況で、果たして、警察の選挙違反摘発に対する信頼を維持することができるのだろうか。

 13日には、府連会長の西田昌司参院議員が「政治資金の流れは全て適法」、報じられている内部文書について「私自身見たことも聞いたこともない。存在は確認されなかった」「党勢拡大のための広報紙の配布や政党の演説会などの活動の費用として、府会議員や市会議員ではなく、政党支部などへ支給されたもの、その資金の使い道は、各団体が適正かつ公正明大に収支報告をしている。」と反論する動画をYouTubeで公開している。

 西田氏は、府連から県議・市議への金の流れについて「配下の支部などへの活動費の支給」と説明しているが、候補者個人から府連に寄附させる理由についての説明はない。同氏は文藝春秋が報じた「内部文書」によるマネーロンダリング疑惑を否定しているが、外形的に見て、それを疑われても致し方ない金の流れがあることは否定できない。しかし、当事者は、「法令に則して、適正に処理をしている」、「政治資金の流れは全て適法」と主張し、官房長官までがそれを了承している。一般人・有権者には、到底理解できることではない。 

「公職選挙の公正」が根底か揺るぎかねない深刻な事態

 このような問題が表面化する契機となったのは、2019年の参議院広島選挙区をめぐる河井元法務大臣夫妻の多額現金買収事件だった。

 そして、新潟でも、泉田裕彦衆院議員が星野伊佐夫県議会議員から、衆議院選挙で当選するためには選挙区内の有力者に対して金を撒くしかないと言って裏金を要求されたことを公表し、星野氏を公選法違反で刑事告発している。この問題への泉田議員の厳正な対応に、広島での河井事件の影響があったことは、公表された星野氏とのやり取りからも明らかだ。

 広島での河井事件が、その後、新潟、京都と、「国政選挙における国会議員候補者から地元政治家へのばら撒き」の問題の相次ぐ表面化につながっているのは、このような行為が、全国で相当広範囲に行われている実態を表しているものと考えられる。

 この問題に関して、自民党茂木敏充幹事長は、2月15日の定例会見で、

「自分なりに調べてみたが、立憲民主党の県連などでも同様のケースは散見される。収支報告書を見ればわかることで、同じようなケースが出てくる」

と述べた。茂木氏が指摘しているように、野党議員の側でも、同様の行為が一部にあるとすると、問題は国会全体に及ぶものということになる。

 「政治資金」を隠れ蓑にして、多額の金銭が地方政治家にばら撒かれ、それが買収罪に当たるかどうかについて、当事者が合理的な説明すらできないというような状況が続けば、国民の公職選挙に対する信頼が著しく損なわれ、近年高まっている政治不信を一層助長することになりかねない。

 買収罪の成立要件との関係で、河井事件への買収罪適用の特異性と、それが及ぼした影響などを整理し、京都府連の問題と比較するなどした上、「買収まがいの政治資金のやり取り」を抑止するための公職選挙法の運用・法改正などの方策について考えてみたい。

買収罪の成立要件と従来の摘発対象

 公選法上の「買収罪」というのは、

「当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対し金銭、物品その他の財産上の利益若しくは公私の職務の供与、その供与の申込み若しくは約束をし又は供応接待、その申込み若しくは約束」(221条1項1号)

をすることである。

 「当選を得る目的」「当選を得しめる目的」で、選挙人又は選挙運動者に対して「金銭の供与」を行えば、形式上は、「買収罪」の要件を充たすことになる。

 「供与」というのは、「自由に使ってよいお金として差し上げること」だ。

 「選挙運動者」との間で、「案里氏を当選させる目的」で「自由に使ってよい金」として、金銭のやり取りが行われれば、買収罪が成立することになる。

 従来の公選法違反の摘発の実務では、「買収罪」が適用されるのは、選挙運動期間中などに、有権者に直接投票を依頼して金銭を渡したり、選挙運動員に、法定の限度を超えて対価を支払ったりする行為に限られ、選挙の公示から離れた時期の地元政治家や地元有力者等との金銭のやり取りが買収罪で摘発されることは殆んどなかった。

 公職の候補者が、地方政治家や有力者に対して行う金銭の提供は、「選挙に向けての支持拡大のための政治活動」という性格もあり、公示日から離れた時期であればあるほど、「選挙運動」ではなく「立候補予定者が所属する政党の党勢拡大、地盤培養のための政治活動」を目的とする「政治活動のための寄附」との弁解が行われやすい。その主張を通されると、「選挙運動」の報酬であることの立証は容易ではない。ということから、これまで、候補者から政治家への金銭の提供については、警察は買収罪による摘発を行わず、検察も起訴を敢えて行ってこなかったのが実情であった。

 そのような捜査機関側の買収罪の摘発の姿勢もあって、国政選挙の度に、地方政治家に「選挙に向けて支持拡大のための活動」を依頼して金銭が提供されることは、恒常化し、半ば慣行化していった。

河井夫妻事件で異例の「買収罪」適用に踏み切った検察

 ところが、検察は、2019年の参院選の広島選挙区に立候補し当選した河井元法相の妻案里氏に関して、選挙の3か月前頃からの、首長・県議・市議ら地元政治家への金銭供与の「買収罪」による摘発に踏み切った。当時、黒川弘務東京高検検事長の定年延長問題、検事総長人事等をめぐって、検察と安倍政権が対立していたことが背景になった可能性もある(【河井前法相“本格捜査”で、安倍政権「倒壊」か】)。

 検察は、2020年6月、現職国会議員の河井夫妻を買収罪で逮捕したが、検察には、この事件で、乗り越えなければならない「壁」が2つあった。

 第一に、買収者(供与者、お金を渡した者)の河井夫妻側も、被買収者(受供与者、お金を受け取った者)の地元政治家も、「河井案里氏が立候補する参議院選挙に関する金である」ことを否定し続ければ、買収罪の立証は容易ではないということだ。

 第二に、河井夫妻の買収罪が立証できた場合には、その金を受領した被買収者側の処罰が問題になる。買収者と被買収者は「必要的共犯」の関係にあり、買収の犯罪が成立すれば、被買収者の犯罪も当然に成立する。従来の公選法違反の摘発・処罰の実務では、両者はセットで立件され、処罰されてきた。河井夫妻事件の被買収者の大半は公民権停止になり一定期間、選挙権・被選挙権を失うことになる。

 河井夫妻事件の摘発については、上記の2つの問題があったが、それらを丸ごとクリアする方法として検察がとったのが、処罰の対象を河井夫妻に限定し、被買収者には処罰されないと期待させて「案里氏の選挙に関する金」であることを認めさせるという方法だった。

 検察の取調べで、被買収者らは、明確に「不起訴の約束」まではされなくても、検察官の言葉によって、処罰されることはないだろうとの期待を抱き、「案里氏の参院選のための金と思った」と認める検察官調書に署名した。

 河井夫妻の起訴状には被買収者の氏名がすべて記載されたが、100人全員について、刑事処分どころか、刑事立件すらされず、河井夫妻事件の捜査は終結した。これを受け、市民団体が、被買収者の公選法違反の告発状を提出したが、告発は受理すらされず、検察庁で「預かり」になったまま、河井夫妻の公判を迎えた。

公判で克行氏が供述した「地方政治家へのばら撒き」の実態

 買収罪で逮捕・起訴された克行氏は、初公判では「起訴事実は買収には当たらない」として全面無罪を主張し、被買収者ほぼ全員の証人尋問が行われることになった。被買収者は「処罰されることはないだろうとの期待」を持ったまま証人尋問に臨み、ほとんどが、「案里氏の参院選のための金と思った」と証言した。

 検察官立証が終了し、被告人質問の初回の公判で、克行氏は、罪状認否を変更し、首長・議員らへの現金供与も含め、殆どの起訴事実について、「事実を争わない」とした。その後の被告人質問では、「自民党の党勢拡大、地盤培養活動のための政治活動のための資金」を「案里氏に当選を得させるために配った」と詳細に供述した。案里氏に当選を得させる目的での金銭の授受であることを認めた上で、「国政選挙における国会議員候補者から地元政治家へのばら撒き」の実態について赤裸々に供述したのである。

 この事件では、元法相で現職国会議員の克行氏自身が、案里氏の選挙のために多額の現金を県議・市議・首長等に配ったことで厳しい社会的批判を浴びたが、「克行氏自らが」「現金で」配らなければならなかった事情について、被告人質問で、克行氏は以下のように説明した。

一般的に、県連が、交付金として党勢拡大のためのお金を所属の県議・市議に振り込むが、県連からの交付金は溝手先生の党勢拡大にのみ使われ、県連が果たすべき役割を果たしていないので、やむを得ず、その役割を第3支部(克行支部長)、第7支部(案里支部長)で果たさないといけないと思い、県議・市議に、県連に代行して党勢拡大のためのお金を差し上げた(【第51回公判】)

 要するに、「県連ルート」が使えなかったために、やむを得ず、「克行→県議・市議」というルートで、参院選に向けての「党勢拡大のための金」を直接配った、というのである。それは、方法は異なっても、「国政選挙における国会議員候補者から地元政治家へのばら撒き」が従来から恒常化していたことを意味するものであった。

被買収者の地方政治家の起訴は、もともと不可避だった

 克行氏の被告人質問が行われていた頃に、検察に提出されていた市民団体の告発状が、既に受理されていることが明らかになった。検察にとっては、不起訴にするとしても、犯罪事実は認められるが敢えて起訴しない「起訴猶予」しかない。しかし、もともと求刑処理基準に照らせば、「起訴猶予」の余地はあり得なかった。告発人が不起訴処分を不服として検察審査会に審査を申立てれば、「起訴相当」の議決が出ることは必至だ。検察は、その議決を受けて起訴することになる。その際、被買収者側には、「検察は不起訴にしたが、市民の代表の検察審査会が『起訴すべき』との議決を出したので、起訴せざるを得ない」と言われれば、被買収者側も文句は言えないのである(【河井夫妻買収事件「被買収者」告発受理!処分未了では「公正な再選挙」は実施できない】)。

 6月18日、克行氏に対しては、計100人に1約2900万円を供与した公選法違反の買収罪で「懲役3年」の実刑判決が言い渡された。

 それから半月余り経った7月6日、検察は、被買収者100人について、被買収罪の成立を認定した上で99人を起訴猶予、1人を被疑者死亡で不起訴にしたことを公表した。

 この不起訴処分に対して、告発人が検察審査会に審査申立てを行い、検察審査会は、広島県議・広島市議・後援会員ら35人(現職県議13名、現職市議13名)については、「起訴相当」、既に辞職した市町議や後援会員ら46人については「不起訴不当」の議決を行った。

 議決を受け、検察は、「起訴相当」と「不起訴不当」とされた被買収者について事件を再起(不起訴にした事件を、もう一度刑事事件として取り上げること)して再捜査を行っている。「起訴相当」については、起訴することになる可能性が高い。「起訴相当」議決を受けた現職県議・市議が次々と議員辞職するなど、広島県政界の混乱が続いている。

 検察としても、河井夫妻の現金買収の原資と党本部からの「1億5000万円」との関係が明らかにされず「依然として政権に弱腰」の印象を与え、一方で、被買収者側については、公選法違反での立件・刑事処分が大幅に遅延し、案里氏の公選法違反での有罪確定を受けて行われた再選挙の際も被買収側の地方政治家が公民権停止にもならず「野放し」になり選挙の公正が著しく害されたことなど、河井事件で「かなりの痛手」を受けたことは確かである。

 しかし、検察が従来は買収罪を適用して来なかった「国政選挙における国会議員候補者から地元政治家へのばら撒き」を買収罪で摘発したことでその実態が明らかになり、公職選挙をめぐる状況に大きな影響を与えたことは紛れもない事実である。

「政治資金規正法上の合法性」で買収罪の成立は否定できるか

 河井事件は、「国会議員個人→地方議員個人」というルートの国政選挙に関する金銭の提供が行われた事案だった。

 一方、「京都府連の選挙買収問題」では、「国会議員個人→都道府県連→地方議員個人」というルートで、買収罪の成否が問題になっている。

 「国会議員個人→地方議員個人」という直接のルートと、「国会議員個人→都道府県連→地方議員個人」という「迂回ルート」で違いがあるとすれば、県連を経由することで政治資金収支報告書に記載されるという「政治資金の処理の確実性」の点であろう。

 克行氏の場合、「国会議員個人→地方議員個人」のルートで、「自民党の党勢拡大、地盤培養活動の一環としての地元政治家らへの寄附」と称する「政治資金の寄附」を行ったと供述しだが、領収書の交付は殆ど行われておらず、政治資金としての処理自体が適法なものではなかった。

 その点、「国会議員個人→都道府県連→地方議員個人」のルートは、都道府県連という政治資金処理が確実な組織を通しており、「政治資金規正法上の合法性」が確実に担保されている点が河井事件とは異なると言える。

 しかし、判例上「選挙運動」は「特定の公職選挙の特定の候補者の当選のため直接・又は間接に必要かつ有利な一切の行為」とされているので、特定の選挙のための活動を行うのであれば、「党勢拡大、地盤培養のための政治活動」という性格があっても、「選挙運動者」に当たることは否定できない。「政治資金規正法」上は適法であっても、「当選を得させる目的」で、「選挙運動者」に金銭を「供与」すれば、「公選法」上の「買収罪」が成立することに変わりはないのである。

 もっとも、「特定の候補者を当選させる目的」は主観的なものなので、買収者も被買収者も、あくまで、その目的を否定し続けた場合、しかも、それが、「党勢拡大、地盤培養のための政治活動のための資金」という一応の理屈を伴うものである場合、その立証は容易ではない。

 河井事件では、被買収者側が、「処罰されることはないだろうとの期待」を抱き、「案里氏の参院選のための金と思った」と認める供述をしたからこそ、河井夫妻を買収罪で起訴することが可能になり、河井夫妻の有罪判決が確定したことで、被買収者側も、結局処罰を免れられなくなった。その供述がなければ、そもそも、買収事件の立証は困難だった。

 このような河井事件の経過からも明らかなように、結局、「選挙買収」と実質的に殆ど変わらない行為が、当事者が「選挙の目的」を認めるかどうかで違法になったり、ならなかったりすることにならざるを得ないのである。

 

「政治資金」を隠れ蓑にした選挙買収を抑止するための法改正

 では、広島、新潟、京都と相次いで表面化している「政治資金を隠れ蓑にした選挙買収」をなくし、公職選挙に対する国民の信頼を維持していくためにはどうしたらよいか。

 公選法の「買収罪」の成立は、「政治資金の寄附」であることで否定されるわけではない。現行法のままでも買収罪の適用は可能である。ということは、買収罪を積極的に適用していくとするのであれば、立法の問題というより、むしろ、運用の問題だと言える。しかし、既に述べたように、「当選を得又は得させる目的」があった否か、「選挙運動者」か「政治活動者」か、という当事者の認識・主観的要素で犯罪の成否が決まる買収罪については、捜査機関の側の対応には限界がある。

 そこで、「買収まがいの政治家間の資金のやり取り」に対する効果的な抑止措置として考えられるのは、公選法上に、「買収罪」の規定とは別に、「国政選挙に近い時期に行われる、候補者から政党支部及び地方政治家への金銭の供与(寄附)を禁止するための規定」を設けることである。 

 現行の公選法では、199条の2の「公職の候補者等の寄附の禁止」の規定の1項で、

公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。以下この条において「公職の候補者等」という。)は、当該選挙区内にある者に対し、いかなる名義をもってするを問わず、寄附をしてはならない。

とされた上、「ただし、政党その他の政治団体若しくはその支部に対してする場合」は、「この限りではない」として、政党及び支部に対する寄附が禁止から除外されている。

 そして、199条の5の2項で

公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)は、第百九十九条の二第一項の規定にかかわらず、次項各号の区分による当該選挙ごとに一定期間、当該公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者に係る後援団体に対し、寄附をしてはならない。

とされ、同条4項で、

この条において「一定期間」とは、次の各号に定める期間とする。

として、衆議院議員の総選挙については

衆議院議員の任期満了の日前九十日に当たる日から当該総選挙の期日までの間又は衆議院の解散の日の翌日から当該総選挙の期日までの間

参議院議員の通常選挙については、

参議院議員の任期満了の日前九十日に当たる日から当該通常選挙の期日までの間

などと規定され、この期間が、「後援団体に対する寄附の禁止期間」とされている。

 この199条の5に、「政党その他の政治団体若しくはその支部に対する一定期間内の寄附禁止」の以下の規定を追加し、公職選挙の前の一定期間は、公職の候補者から政党・政治団体・支部に対しての寄附も禁止してはどうか。

公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)は、第百九十九条の二第一項の規定にかかわらず、次項各号の区分による当該選挙ごとに一定期間、政党その他の政治団体若しくはその支部に対して、寄附をしてはならない。ただし、当該政党等に定期的に低額を納付する場合はこの限りではない。

 この場合、「公職選挙の前の一定期間」は、広島の河井事件、京都府連の今回の問題等で公職の候補者の側からの寄附が行われている時期が、任期満了の90日前頃であることからすると、180日程度に拡大しないと実効性は期待できないであろう。

 もっとも、政党所属の議員が公職の候補者である場合、それ以前から、定期的に定額の会費を納入しているものまで禁止する必要はないと考えられ、それらを除外する但し書きを入れることは必要であろう。

「買収まがい政治資金」をなくすため実効性のある禁止規定と関連する措置を

 政党その他の政治団体若しくはその支部に対する寄附は、政治活動の目的を実現するために必要であり、それ自体は禁止されるべきものではない。しかし、199条の2の「公職の候補者等の寄附の禁止」の規定が、いかなる目的のものであっても、当該選挙区内にある者に対する寄附を一律に禁止するものであることに照らせば、「政党その他の政治団体若しくはその支部に対する寄附」も、選挙との関連が疑われる期間に限定して、定期的に支払われる会費等を除いて、目的を問わず禁止することにも十分に合理性がある。

 それによって、「公職の候補者の政党に対する寄附」も、選挙の前の一定期間禁止され、京都府連の問題のような、「選挙前の候補者→都道府県連」の資金提供は禁止されることになる。そもそも、公職の候補者と政党等の関係というのは、本来、候補者が、政党から公認や推薦を受け、選挙運動の支援を受ける立場である。資金の流れとして、「政党→候補者」は考えられるが、「候補者→政党」という逆の流れは、公認・推薦の対価の支払とも解し得るものであり、正当とは言い難い。選挙前の一定期間、そのような資金の流れが禁止されることは合理的だと考えられる。

 もっとも、ここで考えなければならないのは、1990年代以降、「政治とカネ」の問題が表面化する度に、政治資金規正法が改正されるなどして、政治資金の透明化が図られる中でも、「国政選挙における国会議員候補者から地元政治家へのばら撒き」の慣行が続いてきたことの背景としての「地方議員の収入の問題」である。

 かつては「政務調査費」の流用によって資金を確保していたのが、全国の地方自治体で議員の政務調査費の不正流用が発覚し、刑事事件化したことで、そのような方法での資金確保はできなくなった。もともと、多くの自治体の議員の給与は低く抑えられており、生活費を賄うのが精一杯で、活動費はとても捻出できない。それが、歳費が高額な上に文書交通費の支給などで優遇されている国会議員から地方政治家へ資金の流れを生む背景になっていることは否定できない。

 「国政選挙における国会議員候補者から地元政治家へのばら撒き」をなくしていくのであれば、地方議員の収入の問題についても、地方自治の在り方に関する問題として議論していくことが必要であろう。

 方向として二つが考えられる。一つは、多くの政令指定市のように、自治体議員に相応の報酬を維持し、その分、議員としての相応の活動が行われるよう、住民が日常的に監視し、選挙の度に検証していくこと、もう一つは、地方議員の収入は低額に抑え、兼業で行えるよう、議会の開催の時間、方法などを抜本的に改めることである。

 そもそも、全国の都道府県、市町村が全て同じ「二元代表制」の首長と議会の関係であることが必要なのか、もっと機能的な民主主義の制度を創設することも認めるべきではないか、という点についての地方自治法の改正の議論を行っていく必要もあるであろう。

 前法務大臣の衆議院議員とその妻の現職参議院議員の公選法違反による同時逮捕という「憲政史上前代未聞の大事件」は、両氏の有罪判決の確定によって、「政治資金を隠れ蓑とする選挙資金の供与」を白日の下にさらけ出すことになり、それに派生して新潟・京都などでの「選挙とカネ」問題の相次ぐ表面化につながっている。これを機に公職選挙の公正への国民の信頼を回復するための法改正を行うことは、全国会議員の責務である。

 多くの日本国民に政治や選挙に対する絶望を生じさせつつある現況を大きく変えるため、速やかに、法改正の議論を始めるべきである。

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河井元法相事件被買収者、当然の「起訴相当議決」、混乱を長期化させた検察に重大な責任

2019年の参議院選挙広島選挙区での河井克行元法務大臣の多額現金買収事件で、河井夫妻の起訴状で被買収者(買収金を受け取った者)とされたのに刑事処分が行われず、その後、公選法違反で告発されて不起訴になっていた100人について、検察審査会は、広島県議や広島市議、後援会員ら35人(現職県議13名、現職市議13名)については、「起訴相当」議決、既に辞職した市町議や後援会員ら46人について「不起訴不当」、検察が捜査に着手する前に現金を自ら返却していた県議や後援会員ら19人については、「不起訴相当」議決を行った。

公選法の買収罪については、従来は、買収者と被買収者の両方の刑事処分を行うのが通常であった。ところが、2020年7月に河井夫妻が起訴された時点での記事【河井夫妻事件、“現金受領者「不処分」”は絶対にあり得ない】でも述べたように、河井夫妻の買収事件の被買収者については、勾留満期の2~3日前から、「検察は現職議員ら現金受領者側をすべて不問にする方針」と報じられ、起訴の時点の次席検事レクで、「少なくとも今、起訴するという判断はしていない。起訴すべきと考えた者を起訴している」とされ、結局、被買収者側は刑事立件すらされなかった。このような検察の対応は、従来の公選法違反事件の実務からはあり得ないものだ。

検察側が、現金受領者側の起訴を「現時点では予定していない」というのは、供述者側に、「本来は起訴されるべき自らの犯罪について起訴が見送られている」という恩恵を与えることを意味する。その恩恵が継続し、最終的に、起訴されないで済ませてもらおうと思えば、供述者は、河井夫妻の公判で検察官調書どおりの証言をせざるを得ない。現職の首長・議員等の現金受領者に「投票の取りまとめの依頼の趣旨と認識して現金を受領した」ことを公判でも証言させるために、現金受領者側に、「検察の意向に沿った証言をすれば、自らの処罰を免れることができる」との期待を持たせようとしたのではないか、と疑われても致し方ない状況だった。

河井夫妻から現金を受領したことが公選法違反に当たり、有罪となると、公民権停止となり、首長・議員を失職することになるだけに、公選法違反で起訴を免れることができるかどうかは死活問題だ。そこで、検察は、「案里氏を当選させるため、票の取りまとめの依頼と認識して現金を受領した」という内容の供述調書を録取し、河井夫妻の公判で、供述調書どおりの証言をすれば起訴を免れることができるとの期待を持たせ、公判証言で検察に協力させようと考えたのではないかと推測された。

このように検察が被買収者の刑事処分すら行わなかったこと受け、同年9月、広島市内の市民団体「河井疑惑をただす会」などが、河井夫妻の起訴状で被買収者とされた100人を公選法違反で告発したが、検察は、告発状を受け取っただけで、受理すらしなかった。

同年秋に、河井夫妻の公判が始まった。河井夫妻の公判では、被買収者のほとんどが証人として出廷したが、大半が、「案里氏を当選させるための金と認識して受領した」という検察官調書の内容に沿う証言を行い、選挙買収の金であったことを認めた。この時点では、検察は、被買収者に対す市民団体の告発状を預かったまま、告発を受理したか否かも不明な状態だった

そして、克行氏が全弁護人を解任することで公判審理の進め方に抵抗したこともあって、案里氏の公判が克行氏の公判と分離され、2021年1月21日に案里氏に一審有罪判決が出され、2月4日の控訴期限までに控訴が行われず確定し、案里氏の当選は無効となった。それに伴い、4月25日に参議院広島選挙区の再選挙が実施されることになったが、それでも、検察が告発を受理したという話はなかった。

本来、被買収者も公選法違反で公民権停止となり、一定期間選挙権もないし、選挙運動を行うことも禁じられるはずであるのに、検察が被買収者について刑事処分を行わず、起訴も処罰も行われていない状況で、参議院広島選挙区の再選挙が行われることとなった。経産省の元課長補佐の西田英範氏が自民党公認候補として再選挙への立候補を表明し、同氏の選対本部の立上げの会合では、証人尋問で河井克行氏から買収の趣旨の多額の現金を受け取ったことを認めている首長・議員が多数参加し、再選挙に向けての選挙活動に加わるなどしていた。

私は、【案里氏「当選無効」に伴う参議院広島再選挙、被買収者の選挙関与で「公正な選挙」と言えるか】で、

当然に行われるべき被買収者側の刑事処分が行われていないため、本来、公民権停止になって選挙に関わる資格がないはずの者が、選挙に関わってしまいかねないという、異常な状況になっており、検察が再選挙の告示までに刑事処分を行わない場合は、広島で公正な選挙が行われる前提条件が充たされない

と、検察の対応を厳しく批判した。

この記事などを受け、市民団体「河井疑惑をただす会」の事務局長が検察に確認したところ、告発は2020年中に受理され、東京地検の事件番号も付されて捜査中であるとの回答だった。ようやく、検察が被買収者の公選法違反事件を刑事立件したことが明らかになったのである。

私は、3月8日に出した記事【河井夫妻買収事件「被買収者」告発受理!処分未了では「公正な再選挙」は実施できない】で、被買収者の刑事処分について、以下のように指摘した。

検察は、早晩、刑事処分を行わざるを得ない。不起訴にするとしても、犯罪事実は認められるが敢えて起訴しないという「起訴猶予」しかないが、前述した求刑処理基準に照らせば、「起訴猶予」の理由が全くないことは明らかだ。告発人が不起訴処分を不服として検察審査会に審査請求すれば、「起訴相当」の議決が出ることは必至だ。検察は、その議決を受け、「検察は不起訴にしたが、市民の代表の検察審査会が『起訴すべき』との議決を出したので、起訴せざるを得ない」と言って、起訴することになるであろう。

被買収者側は、河井夫妻の公判で、検察の意向どおりに「投票の取りまとめ」の依頼の趣旨を認識して現金を受領したと証言することで、検察の判断によって起訴されることを免れることはできても、最終的には、検察審査会の議決を受けて起訴されることを免れることはできない。「検察に騙された」と気付いても時すでに遅しである。それは、被買収者側の「自業自得」であり、同情の余地は全くない。

しかし、検察が、そのような意図で、「公選法違反事件の処理としてあり得ないやり方」を用いて今回の公選法違反事件を処理し、検察審査会の議決まで刑事処分が遅延するということになれば、本来、公選法による処罰の目的であるはずの「選挙の公正」が、逆に、根底から損なわれる事態を招くことになる。

しかし、実際には、その後も、被買収者の刑事処分が行われることがないまま、4月25日の参議院広島選挙区の再選挙を迎え、河井夫妻の多額現金買収事件での自民党への批判も大きく影響し、自民党公認の西田候補は、野党統一候補の宮口治子氏に敗れた。

そして、6月18日、克行氏に対して、広島県内の地方議員や後援会員ら計100人に1約2900万円を供与した公選法違反の買収罪で「懲役3年」の実刑判決が言い渡された。

被買収者に対する刑事処分が行われたのは、克行氏の有罪判決からさらに半月余り経った7月6日だった。

東京地検の山元裕史次席検事が記者会見し、100人の被買収罪の成立を認定した上で99人を起訴猶予で不起訴、1人を被疑者死亡で不起訴にしたと明らかにした。

不起訴の理由についての「克行被告から強引に現金を渡されたり、返金したりしたケースがあった。いずれも受動的な立場にあった。」などの山元次席検事の説明が、全く支離滅裂で到底合理的な説明になっていないことは、【河井夫妻事件被買収者“全員不起訴”で「検察の正義」は崩壊】で詳述したとおりだ。

通常、選挙買収事件は、候補者側が、票や選挙運動をお金で買おうとして積極的にお金を渡そうとするのが大部分であり、被買収者側から、投票や選挙運動をしてやるからと言って金を要求する事案というのはむしろ少ない。「選挙の買収金を渡そうとしているとわかって、何回も押し返そうとしたが、結局、そのまま受け取ってしまって、返すに返せず、そのまま自宅で保管していた」などというのはよくある話だが、だからと言って、被買収が不起訴になるなどという話は聞いたことがない。そのような理由で被買収者側が処罰を免れることができるのであれば、買収罪の摘発は成り立たない。

その不起訴処分に対して、告発人の市民団体は検察審査会に審査を申し立て、それに対して、審査会が、今回、「起訴相当」、「不起訴不当」などの議決を行ったのは、あまりに当然のことであり、検察も、十分に予想していたはずだ。

検察が告発を受理していることが判明した2021年3月以降の展開は、まさに上記【河井夫妻買収事件「被買収者」告発受理!処分未了では「公正な再選挙」は実施できない】で予想したとおりになったと言えよう。

今回の議決を受け、検察は、起訴相当とされた首長・議員35人については、事件を再起(不起訴にした事件を、もう一度刑事事件として取り上げること)して全て起訴するだろう。従来の公選法違反の求刑処理基準によれば、「1万円~20万円が略式請求(罰金刑)」で、「20万円を超える場合は公判請求(懲役刑)」である。執行猶予付き懲役刑であれば執行猶予期間、罰金刑であれば原則5年間(情状により短縮可)公民権停止となるので、現職議員等は失職、公民権停止期間中は公職の選挙に立候補できない。

法律上は、検察が再度不起訴にすることも可能だが、その場合は、検察審査会で再び「起訴すべき」とする議決が行われれば、裁判所が指定した弁護士によって起訴手続がとられることになる。起訴猶予の不起訴処分について検察審査会で「起訴相当」議決が出された例として、黒川弘務東京高検検事長の「賭け麻雀」の賭博事件、菅原一秀衆議院議員の公選法違反事件(【菅原一秀議員「起訴相当」議決、「検察の正義」は崩壊、しかし、「検察審査会の正義」は、見事に示された!】)があるが、いずれも、検察は、1回目の議決を受け入れて起訴している。

「不起訴不当」の46人については、検察としては、再度不起訴にすれば、それで事件は終結するが、今後の同種事件への影響を考慮し、再検討の上、起訴する例が出てくる可能性もある。

河井夫妻の起訴の時点で被買収者も同時に起訴するという、通常の刑事処分を行っていれば、多くの被買収者に対して、昨年4月の参議院広島選挙区の再選挙の前に判決が出て、事件は終結していたはずだ。

検察の「公選法違反の実務の常識からはあり得ない対応」が行われた結果、被買収者の公民権停止を含む刑事事件の終結が2年近く遅れることになった。買収事件があった参議院選で当選した案里氏は、有罪が確定して当選無効となり、事件の中心人物の克行氏は一審で実刑判決を受け、控訴するも、昨年10月21日に取下げて有罪が確定、既に服役している。ところが、被買収者のうち現職議員26人は、来年4月の統一地方選挙まで1年余りとなった時期に、検察に起訴され、これから裁判を受けることになるのである。河井夫妻現金買収事件が広島県政界と広島の社会にもたらす混乱が、さらに長引くことは避けられない。

黒川東京高検検事長定年延長問題などをめぐる安倍政権と検察最高幹部との対立が続く中で、河井夫妻による選挙買収事件という、過去に例のない大型買収事件の摘発に執念を燃やした検察の姿勢は評価できよう。しかし、それに伴って被買収者の刑事処分を行うことが必然であるのに、それを回避し続けてきた検察は、公選法違反の捜査処分に関して汚点を残し、その信頼を大きく傷つけることになった。当然の刑事処分から逃げ続けた検察の責任はあまりに重い。

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名護市長選・渡具知氏「落選運動」は名護市民に届いたか~辺野古軟弱地盤埋立工事の是非は国民全体の関心事

沖縄県名護市長選挙が、今日(1月23日)、投開票日を迎える。

名護市長選挙については、私個人として、現職の渡具知武豊氏の落選運動を宣言し、告示前の1月7日には、私の事務所のホームページに「落選運動チラシ」をアップし、自由に印刷配布してもらっている。(ダウンロードは➡https://gohara-compliance.com/information

 

 

 

 

 

 

 

1月上旬に、現地で講演会や街頭演説を行う予定だったが、沖縄のコロナ感染爆発で断念、オンラインに変更し、YouTubeで公開している(郷原信郎の「日本の権力を斬る!」第117回 【名護市長選挙「落選運動学習会」講演〜渡具知氏の落選運動を行う理由】第119回 名護市長選挙「落選運動」演説!<前編>第120回 名護市長選挙「落選運動」演説!<後編>)。

チラシは、「夕刊紙風」にして、有権者の関心を引きやすい外観にしているが、既にブログ、Yahoo!ニュース記事等で取り上げた内容や公表資料から作成したものであり、十分な根拠に基づくものだ。このチラシで是非名護市民の皆さんに知ってもらいたいのは、前回市長選で、辺野古新基地問題について「国と県との訴訟を見守る」として争点から外して当選し、実際には、基地建設・埋立て工事を容認してきた渡具知氏には、旧消防庁舎跡地の売却に関して重大な疑惑があるということだ。

名護市の一等地に所在する貴重な市有地を、自分の近親・支援者が経営に関与する企業に売却しようしていることを隠して、議会承認をとり、他企業より1億3000万円も低い価格で売却した。しかも、渡具知氏が喧伝する「渡具知市政の4年間の実績」はいずれも表面的なもので、実質的には名護市の財政は良くなっていないし、市民の暮らしも改善されていない。辺野古の埋立て予定海域に、広範囲に軟弱地盤が存在していることが明らかになっており、それでも基地建設を容認するのか、名護市民の民意が問われているのに、今回の市長選でも、またしても「国と県の係争を見守る」などと無責任なことを言って誤魔化そうとしている。

米軍基地内でのコロナ感染急増が名護市民に拡大することにも、何一つ対策をとらずに放置し、年明けからのオミクロン株感染爆発につながり、市民の命と健康にも重大な危険を生じさせた。それは、米軍基地問題にかかわろうとしない渡具知氏の姿勢によるものだ。このような市長を再選させ、今後、さらに4年間市政を担わせることは、名護市民にとっても禍根を残すことになる。それによって、膨大な費用を投じ、貴重な自然を破壊して辺野古埋立て工事が強行され、取返しがつかない結果をもたらすことになりかねない。それは、日本の社会全体にも重大な影響を与えることになる。

チラシには、発行人である私の名前、電話番号も記載している。自由に印刷してもらうほか、落選運動への寄付で集まった資金で名護市内の世帯数の半分近くにポスティングを行った。私の事務所に、「新聞と一緒に入っていたチラシを読んだが、ここに書いてあるのは本当のことか。本当だったら大変なことだ」との電話も入った。渡具知氏個人のことや、名護市政について、名護市民が全く真実を知らされていない、ということだろう。

12月に名護を訪れた際は、現職の渡具知氏がかなり優位とのことだったが、最新の情勢調査では「互角」か「大接戦」とされている。

私が「渡具知氏落選運動」で訴えていることを、少しでも多くの名護市の有権者が認識・理解し、今日の市長選挙で正しい選択を行うことを期待している。そして、その結果は、全国の多くの国民が注目している。

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名護市感染者数、市HPのグラフで減少?、渡具知市長が問われる「市民への適切な情報提供」

オミクロン株による新型コロナの急速な感染拡大が、社会の最大の関心事となる中で、地方自治体のコンプライアンス(地域社会・住民の要請に応えること)として極めて重要なことの一つが、住民に、居住地域の感染状況を、正確に迅速に情報提供することである。感染が拡大しているのか収束しつつあるのか、感染者数が、他の地域と比較してどの程度のレベルなのかについての情報が的確に提供されることは、その地域の感染の深刻さを踏まえ、個人の行動をどこまで自制するかを考えたり、事業の見通しを立てたりする上でも不可欠である。

感染者数とその推移、他地域との比較等は、新聞・テレビ等では都道府県単位で示されることが多いので、それ以上にきめ細かな情報は、市町村の公式ウェブサイト等による公表資料によって情報を得ることになる。

オミクロン株による新型コロナ感染者が、全国に先駆けて急増し、蔓延等防止措置が講じられている沖縄県の中でも、特に感染拡大が深刻なのが名護市である。しかし、そのウェブサイトの記載が極めて不適切で、感染者数の推移やそのレベルついて市民に誤った認識を与えかねない内容となっている。

名護市のウェブサイトには、「【まとめページ】新型コロナ感染症について」という特設ページがある。

そこで、「名護市における新規感染者の推移」として、1週間ごとの新規感染者数の推移がグラフで示されている。

名護市ウエブサイトより
名護市ウエブサイトより

このグラフの最新の部分を見ると、1月1~7日 337人、1月8~14日 297人と、若干だが感染者が減少しているように見える。

しかし、よく見ると、1月1~7日は7日間の合計であるのに対して、1月8~14日は8~10日の3日間の合計で、11~14日のデータが含まれていない(グラフには「令和4年1月11日現在」と記載されている)。

サイト内の記述で、13日の新規感染者は85人と書かれているが、11日と12日の感染者数は、名護市のウェブサイト上にはどこにも数字の記載がない。しかし、その上にある「名護市新型コロナウイルス感染症陽性者(1月13日現在)」のPDFファイルの中の新規感染者の表に、各感染者の感染確定日が書かれているので、それを合計すると、11日の新規感染者は97人、12日の新規感染者は146人だとわかる。

現時点では14日の新規感染者は公表されていないようであり、「直近7日間」となる7~13日の感染者合計は、7日の140人を加えて765人になる。

この7日間の感染者765人を名護市の人口6万4021人で割って10万人をかけると、「7日間の10万人あたりの新規感染者数」は、「1194人」という驚くべき数字となる。

都道府県で見ると、最高の沖縄県が681人、2番目が広島県で174人、3番目の大阪府が112人だ。(NHK特設サイト新型コロナウイルス【直近1週間の人口10万人あたりの感染者数】)それらと比較しても、名護市の1194人というのが、いかに突出して深刻な感染状況かがわかる。

名護市長としては、市民に、この最新の数字を知らせ、名護市が感染大爆発の状況にあることの認識と危機感を持ってもらい、不急不要の外出や会食等の自制を強く求めるべきだろう。

しかし、渡具知武豊市長の言動を見ると、極めて深刻な感染状況を名護市民に伝えようとする姿勢が見受けられない。

1月12日の【「緊急記者会見」】でも、名護市の感染が特に深刻であることやその具体的な状況には全く触れず、「沖縄県本島北部地域で感染者が急増している。特に年末年始の会食や人流等が原因と考えられている中、若年層の感染が急増している状況にある」という程度のことしか言っていない。

米軍基地内でクラスターが発生していることは、昨年12月中旬には明らかになっていた。基地関係者がマスクも付けずに基地外でパーティーを行ったりしていることも報じられていた(【「ことさらに沖縄を恐れないでほしい」「外交ルートからもアメリカ政府に訴えを」在日米軍基地内の感染急増に県参与の高山医師】)。米軍基地内での感染がオミクロン株である可能性が高く、そのような感染の恐れのある基地関係者が野放図な外出を繰り返していることは、米軍基地を抱える名護市の市長として認識していたはずであり、それを放置すれば、基地外での感染拡大につながることは当然に予想できたはずだ。「年末年始の会食や人流の増加が感染拡大の原因」だと言うのであれば、「米軍基地内から感染が基地外に拡大する恐れがあるので、年末年始も外出や会食を控えてほしい」と、なぜ市民に警鐘を鳴らさなかったのだろうか。

このような渡具知市長の言動に加え、感染状況を正確に市民に知らせるために開設されているはずの名護市の特設サイトでの感染者数の推移のグラフが、実際には直近7日間の新規感染者数が765人に上っているのに、一見すると300人弱になっていて前週より若干減少しているようになっているのである。しかも、1月13日の感染者は85人とウェブサイトにも記載されているが、それ以前の11日、12日の感染者数が表示されておらず、直近1週間の感染者がすぐには把握できないようになっている。

グラフについては、1月11日までの数字を反映したまま、その後更新が行われていないだけということかもしれない。しかし、「7日間の合計」のグラフの数字が、週の半ばまでの3日間合計の数字のまま週末に至るまで放置されていることの説明にはならない。全国の都道府県の中で突出して高い沖縄県の2倍近くもの驚くべき数字に上っているのに、名護市の特設サイトを見た市民は、「名護市の感染者は、先週急激に増加したが直近では減少傾向にある」と誤解しかねないのである。

名護市の感染状況が沖縄県内でも特に深刻であることが市民に認識されると、米軍基地が感染の原因になったとの推測が強まり、基地を容認する姿勢の渡具知氏への支持の低下につながる。渡具知市長が、再選に向けて立候補を表明している名護市長選挙(16日告示、23日投開票)に影響することを懸念して、感染の深刻さを表す数字を市民に知らせないようにしているのではないか、担当の市職員が市長の意向を忖度して、そういうウェブサイトの内容を放置しているのではないか、と疑われても致し方ないであろう。

前記のように、名護市は全国でも突出して厳しい感染状況にある。再選に向けての市長選の最中であっても、市長としての職務に最善を尽くすのが当然である。感染状況とその推移を正確かつ迅速に市民に伝えるという基本的な義務を決して疎かにしてはならない。

特設ページの冒頭には、次のような市民への注意が記載されている。

新型コロナウイルス感染症に関連する、様々な情報がインターネットやSNS上で流れていますが、その中には事実とは異なる情報が混ざっています。

そのような情報をむやみに拡散せず、国や沖縄県、市など公的機関の情報確認に基づき、冷静な対応を心掛け、根拠のない情報に惑わされることのないようにご注意ください。

書かれていることは、極めて当然のことである。しかし、「市などの公的機関の情報確認に基づき冷静な対応」を呼びかけるのであれば、市自らが、正確な情報を、わかりやすく迅速に提供することが大前提である。渡具知市長に、その「当然のこと」を呼びかける資格があるのだろうか。

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「事前運動」規制をめぐる問題と、公明党石井幹事長の「応援メッセージ」

選挙運動を行えるのは、告示日から投票日の前日までである。告示前に選挙運動を行うことは、「事前運動」として公選法で禁止されており、違反すれば「1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金」に処せられる(129条、239条1項1号)。選挙運動が選挙期間内に限定され、その期間外の選挙運動が禁止されるのは、候補者間で選挙運動における対等・公平な条件を確保するための重要なルールである。

しかし、公職選挙の立候補者の多くは、告示前に「立候補表明」を行い、それ以降、選挙における自らへの支持を高めるため様々な活動を行う。このような活動も、実質的には、選挙での当選をめざして行うものだが、それが、「政治活動」に過ぎないのか、「選挙運動」に当たるのか、その線引きは微妙だ。

選挙運動とは、判例上、

特定の公職の選挙につき、特定の立候補者又は立候補予定者のため投票を得又は得させる目的をもつて、直接又は間接に必要かつ有利な周旋、勧誘その他諸般の行為をすることをいう

とされている。

「直接又は間接に必要かつ有利な周旋、勧誘その他諸般の行為」には、選挙に関連するほとんどの行為が該当する。判例の見解を前提にすれば、「特定の公職の選挙」について「特定の候補者の当選」を目的として行う行為は、大半が「選挙運動」に該当し、告示前に行えば、事前運動の禁止規定に抵触することになる。例えば、特定の公職選への立候補の意志を明確に表明する記者会見も、「選挙運動」に当たることが否定できず、告示前に行えば形式上は「事前運動」に該当することになるが、実際に出馬会見が事前運動に問われた例は聞かない。

一般的には、事前運動の違反だけで、警察に摘発される例はほとんどなく、他陣営や有権者からの通報等によって選挙管理委員会や警察から警告を受けるのがせいぜいだ。

「選挙運動」としての性格の濃淡は、「特定の公職選挙における特定の候補の当選を得る目的」の明確さ、当選を得る目的の直接性の程度によるといえる。実際には、候補者や陣営側の状況や考え方によって、どのレベルまでの行為を告示前に行うのかが判断されることになる。かかる意味において、事前運動の規制をどこまで意識し、厳格な姿勢で臨むのかに、候補者自身やその支援者・支援組織の良識や品格が表われると言える。

名護市長選挙に関するオンライン応援メッセージ

1月16日告示、23日投開票の沖縄県名護市長選挙に向け、立候補を表明している現職市長の渡具知武豊氏と、対立候補の岸本洋平氏との争いも、告示が近づくにつれ、激しさを増している。

渡具知氏は、オミクロン株感染急拡大を受けて、1月12日午後6時半からの「とぐち武豊総決起大会」をオンラインに変更し、YouTubeで配信した。その冒頭で、公明党の石井啓一幹事長、自民党の茂木敏充幹事長が、渡具知氏応援メッセージを寄せている。

一方、対立候補の岸本氏の方も、同日、ツイッターで、玉城デニー沖縄県知事の応援メッセージをアップしている。

この3者の応援メッセージを比較すると、「事前運動」に対する姿勢が端的に表れていることがわかる。以下が、その応援メッセージだ。

【石井幹事長の渡具知氏応援メッセージ(以下「石井メッセージ」)】

名護市民の皆様、沖縄県民の皆様、こんばんは。公明党幹事長の石井啓一でございます。現在、沖縄県ではオミクロン株による感染拡大で蔓延防止と重点措置が適用されていますが、公明党といたしましても、感染収束に向けて全力で支援をして参ります。

さて、このたびの名護市長選挙は全国注目の大変重要な選挙となっております。名護市は渡具知市長のリーダーシップによりこの4年間で大きく変わりました。

(中略・・・渡具知市長の1期目の実績の評価)

これら渡具知武豊市長の実績の前には相手候補も批判をすることができず、「子供政策など私も継続します」としかないのであります。

その相手候補は、例えば財源について、「行政改革で無駄を省き、予算を捻出します」とか、「子供基金を創設します」など抽象的なことしか言えず、まったく説得力がありません。

これでは4年前まで基地反対のほかに政策が無かった革新市政に逆戻りです。市民生活はほったらかされ、活気のない名護に後戻りさせてはなりません。さらなる名護の発展と市民生活の向上のためには、実績抜群の渡具知武豊の手腕が不可欠です。

しかし、現実の選挙は大変厳しい状況にあります。相手陣営はオール沖縄が全県から支援体制を敷き、総力戦で戦いに臨んでいると聞いております。

4年前に渡具知武豊市長が大逆転で勝利を果たすことができたのは、最後の最後まで渡具知陣営が市内全域をくまなく回り、一票一票を丁寧に積み上げてきたからであります。

今回もコロナ感染防止対策を徹底をしながら、一票に執念を燃やし頑張って参りましょう。公明党も渡具知武豊勝利のために全力で取り組んで参ります。共々に最後の最後まで戦い切って、二期目の勝利を勝ち取りましょう。頑張りましょう。

【茂木幹事長の渡具知氏応援メッセージ(以下「茂木メッセージ」)】

オンライン総決起大会にご参加の皆さん、こんばんは。自民党幹事長の茂木敏充です。いよいよ4日後、1月16日から名護市長選挙が始まります。本来であれば、私もこの総決起大会の会場に駆け付ける予定でしたが、新型コロナの影響でオンライン開催となりましたので、私も画面越しにエールを送ります。

(中略・・・渡具知氏の1期目の実績の評価)

市議会議員を5期、市長を4年務め、誰よりも名護を熟知している渡具知武豊さんには、引き続き市長として新しい振興計画の策定と実行に協力してもらいたいと期待しています。

昨年10月の衆議院総選挙も大接戦でしたが、島尻あい子さんが名護市で1,500票リードし、沖縄3区での勝利に繋げることができました。

今回の名護市長選は、更に接戦、デッドヒートになると思います。しかし、皆さんの力があれば、最後はこの市長選に勝利し、名護市に再び賑わいを取り戻すことができると確信しています。

お集りの皆さんに、渡具知武豊さんへの一層のご支援とご協力をお願いし、私の激励のメッセージといたします。どうぞよろしくお願いします。

【玉城知事の岸本氏応援メッセージ(以下「玉城メッセージ」)】

ハイサイグスーヨー。沖縄県知事の玉城デニーです。みなさん、こんにちは。

名護市長選挙に立候補の用意を進めている岸本洋平さんは、市民の7割が反対する辺野古新基地建設についても市民の思いに寄り添い、反対の意思をはっきりと示しています。

今回の新型コロナウイルスの感染の再拡大については、米軍基地由来と言わざるを得ません。これまで沖縄県が指摘をし続けていた、日米地位協定の不備であることは明らかとなっています。県民がどれだけ努力をし、我慢してきても、このような形で社会が止まることは断じて許されることではありません。

米軍基地が沖縄県経済の発展の最大の阻害要因となっていることも、改めて示されたものと思います。これ以上の過重な基地負担は認めることはできません。

ぜひ10代20代の皆さんも参加した未来への豊かな街づくり、岸本建男元市長の遺志と稲嶺進前市長の名護への思いをしっかりと受け継ぐのは岸本洋平さんです。

ぜひ来る市長選挙には、岸本洋平さんが準備を進めている未来に向けた大きな未来都市構想に皆さんも参加してください。

平和で豊かな名護市づくりに、あなたの参加をお待ちしています。

茂木メッセージの評価

石井メッセージは「このたびの名護市長選挙は全国注目の大変重要な選挙となっております。」、茂木メッセージは、「いよいよ4日後、1月16日から名護市長選挙が始まります」と述べており、いずれも、1月16日告示、23日投票の名護市長選挙という特定の公職選挙に関するメッセージであることは明らかだが、その特定の選挙において、特定の立候補表明者の当選を直接の目的としているものかどうかには、大きな差がある。

茂木メッセージは、「誰よりも名護を熟知している渡具知武豊さんには、引き続き市長として新しい振興計画の策定と実行に協力してもらいたい」と述べて、現職市長である渡具知氏による市政の継続の必要性を訴えている。

そして、昨年秋の衆院選挙小選挙区での名護市の投票結果で、自民党候補が野党候補を1500票上回っていたことを理由に、「最後はこの市長選に勝利」することで、「名護市に再び賑わいを取り戻すことができると確信している」と述べて、「渡具知市政継続」となる選挙結果を「予想」している。最後に、「渡具知武豊さんへの一層のご支援とご協力をお願いし」と述べて、「一般的な協力」の呼びかけで終わっている。

茂木メッセージは、全体として、「今回の市長選での渡具知氏の応援」を呼びかけるものではあるが、基本的には「渡具知市政の継続」の重要性を訴え、今回の選挙後も渡具知市政が継続することを「確信」していると述べるだけで、選挙での投票や、投票に向けての活動に直接言及することは避けている。そういう意味で、「選挙運動」的性格はかなり希薄化されていると評価できる。

石井メッセージの評価

一方、石井メッセージで「公明党も渡具知武豊勝利のために全力で取り組んで参ります。共々に最後の最後まで戦い切って、二期目の勝利を勝ち取りましょう。」と述べているのは、まさに、「今回の市長選挙における勝利」をめざすことへの直接の言及であり、まさに特定の選挙での当選を得させる目的による発言だ。

しかも、その「市長選挙における勝利」に関して、「相手候補」の政策が抽象的でまったく説得力がないとか、相手候補が当選した場合に、「4年前まで基地反対のほかに政策が無かった革新市政に逆戻り」「市民生活はほったらかされ、活気のない名護に後戻り」などと、渡具知氏の対立候補の批判を繰り返し述べている。この部分は、渡具知氏と相手候補との一騎打ちの予想の下に、相手候補に投票しないように呼び掛ける趣旨とも解し得るものであり、市長選での投票行動にも関連する発言だといえる。

そして、「現実の選挙は大変厳しい状況にあります。」と選挙情勢の話に転じ、「相手陣営はオール沖縄が全県から支援体制を敷き、総力戦で戦いに臨んでいると聞いております。」と述べて、相手候補側の「支援体制」に言及した上、今回の市長選挙での渡具知陣営の「戦い方」について述べている。

4年前の市長選での渡具知氏の「大逆転勝利」が、「最後の最後まで渡具知陣営が市内全域をくまなく回り、一票一票を丁寧に積み上げてきた」という「戦い方」によるものだとし、「一票に執念を燃やし頑張って参りましょう」「共々に最後の最後まで戦い切って、二期目の勝利を勝ち取りましょう。頑張りましょう。」と言って、今回の選挙でも、「市内全域で渡具知氏への投票を呼びかけて、一票一票を丁寧に積み上げる」という方法で選挙運動を行っていくよう要請している。

そして、そういう方法で「戦い切って」「頑張りましょう」と言って、今回の選挙での渡具知氏の当選をめざすことを強く求めるメッセージで締めくくっている。

石井メッセージは、今回の市長選という「特定の選挙」での、渡具知氏という「立候補表明者」について具体的に選挙運動を呼びかけるものであり、「事前運動」であることを否定しようがない内容だと言うべきである。

玉城メッセージの評価

玉城メッセージは、今回の市長選挙における岸本氏の位置づけについて「名護市長選挙に立候補の用意を進めている岸本洋平さん」と述べている。あえて「立候補の用意を進めている」として、立候補の予定や表明についての直接的な言及を避けている。

そして、辺野古新基地建設についての「反対の意思を表明している」という岸本氏の基本的な姿勢を評価し、現在の「新型コロナウイルスの感染の再拡大」が「米軍基地由来」であること、それが、「日米地位協定の不備」によるものであることを指摘し、県民の「努力」「我慢」だけでは感染が防止できないことを厳しく批判している。

そのような事態について、「米軍基地が沖縄県経済の発展の最大の阻害要因となっている」「これ以上の過重な基地負担は認めることはできません」と述べて、10代20代の若者達が参加した「未来への豊かな街づくり」として、「岸本洋平さんが準備を進めている未来に向けた大きな未来都市構想」への参加を呼びかけるメッセージで締めくくっている。

市長選挙への立候補を表明している岸本氏への応援メッセージでありながら、岸本氏を「選挙に向けて準備している人物」と位置付けた上、選挙での投票や選挙運動には直接言及せず、岸本氏がめざす「構想」への「参加」を呼びかけるものだ。「選挙運動」としての性格を最大限に排除したもので、告示直前のメッセージとして適切なものといえよう。

3者のメッセージの評価とその背景

上記のとおり、玉城メッセージは、告示直前の時期の立候補予定者への応援メッセージに当たって、公選法上「事前運動」に該当しないよう十分な検討が行われたものと思われ、極めて適切なものである。

茂木メッセージは、全く問題がないとまではいえないが、概ね穏当で無難な内容であり、「事前運動」との批判を招かないよう十分に配慮されたものである。

一方、石井メッセージは、告示前に公党幹事長が公然と発するメッセージとしてあり得ない「露骨な選挙運動の要請」であり、「事前運動」としての公選法上の違法性は明白である。

3つの応援メッセージは、現職市長の渡具知氏側の支持政党の自民党、公明党の幹事長、対立候補の岸本氏側の有力支援者である玉城知事が、いずれも、今回の名護市長選挙を極めて重要な選挙と位置づけ、選挙情勢については「大接戦」と認識した上で送った告示直前の応援メッセージだが、その内容が三者三様であることには、それなりの背景があると考えられる。

まず、玉城知事であるが、今回の応援メッセージが公選法の事前運動の規制を十分に意識した適切なものになっていることの背景に、2018年の名護市長選挙や自らの沖縄知事選挙で、「違法な事前運動」で厳しい批判を受けた経験があるものと思われる。玉城知事は現職知事として、今回の名護市長選挙で公選法上の違法性を指摘されることがないよう、慎重な検討を行った上で岸本氏の応援に臨んでいるのであろう。

茂木幹事長の応援メッセージについては、もともとの茂木氏の法的センス、公選法に対する問題認識もあるだろうが、選挙情勢への危機感の一方でかなり慎重な対応を行っている背景に、広島での河井夫妻の多額買収事件で自民党が厳しい批判を受けたこと、自らの自民党幹事長就任が、前任者の甘利明氏が「政治とカネ」問題の説明責任を問われ衆院選小選挙区で落選したことが契機となっていることなどから、特定の選挙に関する発言においても慎重な姿勢をとっているのではないだろうか。

公明党石井幹事長の「違法な事前運動メッセージ」の背景と今後への影響

では、公明党幹事長の石井氏が、今回の名護市長選挙で、違法な事前運動となる応援メッセージを送ってまで渡具知氏を応援しようとすることの背景に、何があるのだろうか。

前回の2018年名護市長選で、現地での公明党の沖縄方面本部長として選挙活動の中心となっていたのが、コロナ感染拡大の下での銀座クラブ通いの不祥事で議員辞職した遠山清彦元衆院議員だった。その遠山氏は、昨年末、日本政策金融公庫をめぐる無登録の融資紹介問題で在宅起訴され公明党を除名されたばかりだ。

もともと公明党沖縄県本部は、党中央とは違って、辺野古基地建設には反対の立場だった。前回名護市長選では公明党は渡具知氏を支援し、県外から大量の学会員を動員し人海戦術をとって渡具知氏の勝利の立役者となったが、内心“苦渋の選択”を迫られた学会員も多かったと言われている。前回市長選での渡具知陣営の「辺野古争点外し」は、公明党支持者の反発を和らげるための苦肉の策だったと言われているが、埋立て海域での軟弱地盤問題など、辺野古基地建設強行への批判が一層強まる中で、今回の市長選も「辺野古争点外し」で臨むことへの反発が強まるのも当然だ(【名護市長選での辺野古移設問題への「民意」、横浜市IR誘致問題と共通する構図】)。

このようなことに加え、今回の市長選では、米軍基地由来のオミクロン株感染爆発により、県外からの学会員の動員は困難な状況となり、石井幹事長自らも現地に入れないことへの焦りが、露骨な「違法事前運動メッセージ」につながったのではなかろうか。

しかし、今回の渡具知氏応援メッセージにも表れている石井幹事長の、違法行為も厭わない「前のめり」の姿勢が、公明党にとってプラスになるとは思えない。

昨秋の衆院選神奈川13区で自民党甘利幹事長が小選挙区で落選した原因の一つとなったのが、「政治とカネ」の問題で説明責任を果たさない甘利氏に対する、創価学会婦人部の反発が公明党票の離反を招いたことだったと言われている。今回も、党本部の幹事長が、渡具知氏の応援メッセージで違法な事前運動の批判を受けたりすることが、支援する渡具知氏にとって有利に働くとは思えない。

「露骨な事前運動」というと、記憶に新しいのは、昨年夏の横浜市長選挙で山中竹春氏を擁立した立憲民主党が行った告示前の街頭活動だ。山中氏は、出馬会見を行った6月30日の翌日から、連日、横浜市内で、衆議院議員や立候補予定者らとともに、「8月22日 横浜市長選挙」と明示し、ノボリや横断幕を使った街頭活動を繰り返し、SNSなどで、街頭活動の写真がアップされ「露骨な事前運動」と批判されていた。山中氏は、当選後、選挙期間は告示から投票日までの14日間であるのにもかかわらず、「54日間の選挙運動を戦い抜いた」などと発言しており、そもそも「事前運動の禁止」を理解してなかったようにも思える。

横浜市長選は、当時の菅首相が全面支援した小此木氏が、コロナ感染急拡大の猛烈な逆風を受けたことから、野党統一候補の山中氏の圧勝に終わったが、当選後に山中氏のパワハラ、不当圧力、経歴詐称等の問題が噴出し、立憲民主党の「製造物責任」を問う声が高まる中で衆院選を迎え、横浜市内の小選挙区のほとんどで落選するという、衆院選での立憲民主党敗北を象徴する選挙結果となった。

名護市長選で公明党に問われていること

公明党が推薦している渡具知市長については、旧消防庁舎跡地売却に関して、親族関連企業への不透明な経過での市有地売却について、説明責任が問われる疑惑が表面化している(【注目の“2つの市長選” 藤井前美濃加茂市長、渡具知現名護市長が問われる「究極の信任」】)。

公明党公式HPのコラム「北斗七星」に、

公明党の党名は、公明正大、清潔な政治を標榜したもの。この名の下に腐敗政治と闘い、大衆のための政治実現に走り抜いてきた。この名に込められた精神が公明党と支持者との心を結ぶ原点だ。

と書かれているように、「公明正大」は公明党の基本姿勢のはずだ。

名護市長選挙において、違法な事前運動になることも厭わぬ姿勢や、説明責任を軽視する姿勢は、「公明正大」を標榜する公明党にはそぐわないように思える。公明党としての名護市長選挙への対応を、今一度、見直してみるべきではなかろうか。

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「コロナ禍での成人式」という、自治体にとって複雑・困難なコンプライアンス問題

1月7日、私の事務所宛てに、横浜市民のA氏から電話があった。

「1月10日に予定されている、全国的に見ても最大規模の横浜市の成人式は、オミクロン株感染の急拡大の状況下で、十分な感染対策がとれているとは言えず、感染拡大を招く危険性があり、中止すべきだと、市当局や関連する団体や市議会等に繰り返し意見を述べてきたが取り合ってもらえず、市当局は全く聞く耳すら持たない」という話だった。

昨年7月までコンプライアンス顧問を務め、山中竹春市長を様々な問題で批判してきた私に、横浜市のコンプライアンス問題だとして情報を提供してきたものだった。

A氏によると、横浜市の成人式に於ける感染症対策は、所管課によると、「ワクチンの接種証明提示で抗原検査は免除となり、会場でも検温をしていて万全なので大丈夫。しかも、国のガイドラインにも従っている」との説明だったとのことだ。

しかし、オミクロン株に既存のワクチンは有効性が低く、また、2回目の接種から期間が経過し抗体価が減少しているので接種証明は役に立たないこと、抗原検査は精度も低く、特に若年層の無症状の感染者では精度が著しく低下し、検体採取は自分で行うので適切な採取が出来ず、検査結果が不正確になること、検査キットを事前に配られ自宅で自分で行うもので、結果は自己申告制なので、虚偽の申告が出来ること、会場での検温は、無症状感染者や解熱剤を服用している患者は発見できないことをA氏は懸念していた。

オミクロン株が出現して約2週間後には性質が判明し、現在の状態になるであろう事は専門家なら予測出来たはずなのに、「コロナの専門家」を自称する現在の横浜市長が予測出来ないはずはないと言って、山中市長の対応を手厳しく批判していた。

横浜市のホームページの市長定例会見の記録によると、昨年12月23日の年内最後の定例会見で、山中市長は、成人式の感染対策について、以下のように説明している。

基本的なコロナ感染対策防止というのはしっかり行いたいと思います。ソーシャルディスタンスは当然確保いたしますし、それから式典各階の座席あるいは共用部の消毒は人海戦術でしっかりと行います。

またですね、独自の感染防止対策といたしまして、ワクチン未接種の方を対象に、抗原検査キットを無料でお配りするということにいたしました。これ少し詳しくお話しますと、市内在住の全新成人に通知発送しているんですが、この中にですね、ワクチン未接種の方については式典の前日ないし、当日朝にですね、抗原検査をご自身でやっていただいて、陰性を確認してからご来場をお願いするというスキームにしています。

成人の日を祝うつどいはですね、万全の感染防止対策を講じて、新成人になられる皆様を我々お迎えしたいと考えております。

と発言している。

しかし、コロナウイルス種の中でも、これまでで最も感染力の強いオミクロン株の感染が急速に拡大しつつある状況で、全国でも最大規模の参加者、しかも、新成人が飲酒の上で暴れたりして騒乱状態になることが多い横浜市の成人式を開催することは、コロナ感染拡大の危険という面でかなりのリスクを伴うことは否定できない。

山中市長が説明している程度の感染対策では不十分であり、オミクロン株感染急拡大の現状に鑑みれば、感染対策上は中止・延期かオンライン開催にすべきというのは、確かに「正論」だ。

しかし、「地域社会と市民の要請に応える」という地方自治体のコンプライアンスの視点から考えると、この成人式の開催をめぐる問題というのは、決して単純なものではない。

成人式は、新成人の門出を祝う、一生に一度のハレの場であり、そのために晴れ着を準備したり、着付けの手配をしたりするなどの準備が早くから始められる。そういう意味で、成人式を中止・延期する、或いはオンライン開催にする、というのは、主催する自治体にとっても大変重い判断だ。

昨年(2021年)の横浜市の成人式も緊急事態宣言下で開催されたが、そこに至るまでには紆余曲折があった。

約半年前の2020年7月、新型コロナ感染の第2波で緊急事態宣言が出ている最中に、横浜市は2021年の成人式の会場での開催を中止しオンラインで開催すると発表したが、そのわずか1週間後の7月15日に、当時の林文子市長が、従来どおり横浜アリーナの大規模会場を行う考えを示し、方針を変更した。市の決定が僅か1週間で市長の判断で覆されたことの背景に、何らかの政治的な力や、成人式の開催に重大な利害関係のある業界からの要望があったことが想像できる。

当時、横浜市のコンプライアンス顧問を務めていた私は、7月28日、市長以下局部長等の幹部が出席して開催されたコンプライアンス委員会の場で、「市民の関心の高い成人式の開催形式について、横浜市としての方針が僅か1週間で変更されたことは、市の重要事項の決定に関する信頼性にも関わる問題でもあり、方針公表の前に、市長も含めた十分な検討の上での開催形式の公表が必要だったのではないか」と意見を述べた。

実際の2021年1月11日に開催された横浜市の成人式は、ちょうど、第3波の感染で緊急事態宣言が出される中、神奈川県では9日に新規感染者が999人に達するなど急増する中での開催となった。

横浜市は3万6000人を対象にした成人式を、横浜アリーナとパシフィコ横浜の2会場に分散して開催し、各開催時間も15分に制限したが、会場周辺で酒を飲んで暴れる新成人もいるなど、平穏な成人式とは言い難い状況だった。

感染者は、その後も増加を続け、ちょうど、成人式から10日後にピークを迎えた。まさに成人式強行の影響が感染者増加につながった可能性があるが、その後、感染者は急激に減少。結局、成人式開催が、コロナ感染者増加をもたらしたとして批判される事態にはならなかった。

成人式に向けての晴れ着の調達、着付けの手配などは、前年の春頃から予約が始まり、業者が準備を進めていくと言われている。開催中止や開催形式の変更が直前になって決定さされた場合、関連業界に重大な影響が生じる。2020年7月、成人式の半年も前に、横浜市が、一旦オンライン開催の方針を公表したのも、遅くともその時期までには開催形式を決定する必要があるとの配慮からであろう。

このような2021年成人式の前例がある以上、横浜市の担当部局としては、余程のことがない限り成人式開催の中止やオンライン化という決断はしにくくなったと言えるだろう。

今年2022年の成人式に向けての状況は、8月まではデルタ株の感染拡大で大変な状況になっていたが、その後、ワクチン接種の効果もあって感染は収束、年末には、一日の感染確認者が一桁という状況にまでなっていた。年明けからオミクロン株の感染が急拡大しているとは言っても、緊急事態宣言は出されておらず、コロナ蔓延防止措置の対象となったのは沖縄、山口、広島の3県のみで、イベントの開催制限も行われていないという状況だ。直前になって成人式の開催を中止したり、開催形式をオンラインに変更したりすることは考えにくい。

しかし、前述したように、オミクロン株の拡大に伴い、神奈川県の新規感染者が、昨日(1月9日)には443人と、前週比21倍に急増している現状において、成人式を通常どおり開催することによる感染拡大のリスクが相当程度高まっていることは否定できない。諸外国ではかなりの程度進んでいるワクチンのブースター接種が日本では殆ど行われていない中、感染力が極めて強いオミクロン株の感染が急拡大すれば、医療体制に甚大な影響を与え、市民の医療に深刻な影響を与える可能性もある。デルタ株などと比較すると重症化しにくいと言われているが、日本では実際の重症化の程度は未知数であり、感染が高齢者に拡大すれば、その中から一定数の重傷者・死亡者が出る可能性も否定できない。

横浜市として重要なことは、感染対策には限界があり、オミクロン株の感染リスクが相当程度あることを認めた上で、敢えて、予定どおりの開催を決断した市長が、新成人に、感染拡大防止に向けての行動自粛を求めるメッセージを発するべきであろう。

昨年末の定例会見では、「万全の感染防止対策を講じて、新成人になられる皆様を我々お迎えしたい」などと言っているが、「万全の感染防止対策」で新成人を迎えられるような状況ではないことは明らかだ。医学部教授だったとは言え、医師ではない「統計の専門家」であり、コロナ感染症の専門性もなく、本来「コロナの専門家」とはいえないのに昨年8月の市長選で「コロナの専門家」とアピールして市長選に当選したことが、市長就任後に批判されてきた。山中氏にとっては、それが一つの「負い目」になっていることは否定できない。しかし、それを意識する余り、「コロナの専門家」たる市長として開催を決断した以上、「感染対策は万全」などと見せかけようとする気負いは禁物だ。それは、今回の成人式での感染対策に限らず、横浜市のコロナ感染対策全般について言えることだ。

地方自治体が市民の提供する重要なサービスが、一方で、コロナ感染拡大の重大なリスクにつながりかねないという、成人式をめぐる複雑かつ困難な要請に応えていくため、状況に応じ、バランスのとれた判断と対応をしていくことが必要である。

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注目の“2つの市長選” 藤井前美濃加茂市長、渡具知現名護市長が問われる「究極の信任」

新型コロナ感染に明け暮れた2021年が終わり、新たな年を迎えた。

その年明け早々、1月16日告示、23日投開票の同じ日程で、沖縄県名護市と岐阜県美濃加茂市で市長選挙が行われる。性格は全く異なるが、いずれも極めて重要な争点について市民の審判が行われる注目の選挙だ。

日本の地方自治体では、首長と議会の議員をともに住民が直接選挙で選ぶという「二元代表制」がとられているが、予算の提出権が首長側にしかなく、議会はそれを議決する権限しかないことなど、首長に権限が集中しているところに特色がある。市長は、市の運営全般について強大な権限が与えられるため、市民にとって、4年の任期の間、市政を全面的に委ねるに相応しい人物を選択する重要な機会が市長選挙だ。

 

冤罪と戦う藤井前美濃加茂市長が市民に問う「究極の信任」

美濃加茂市では、全国最年少で市長に就任した藤井浩人氏が、就任1年後の2014年6月、市議時代の30万円の収賄の容疑で突然、逮捕された。起訴され、一審では無罪判決を得たものの、控訴審でまさかの逆転有罪判決、そして上告。一貫して無実を訴える藤井氏は、潔白を信じる市民の圧倒的支持に支えられて市長職を続けたが、最終的に有罪判決が確定し、3年間の執行猶予期間は公民権停止となるため、2017年12月に失職した(拙著【青年市長は司法の闇と闘った】)。

公民権停止期間が明けた藤井氏は、有力な新証拠を得て、2021年11月に再審請求を行った。そして、市長職への復帰をめざし、2022年1月の市長選への立候補を表明した。

一方で、その藤井市長の潔白を誰よりも信じ支えてきた副市長が、藤井氏の後任の市長となり、4年間市政を担ってきたが、今回の市長選で再選をめざし立候補を表明、前市長と現市長が選挙で激突することとなった。

冤罪と戦いつつ美濃加茂市政奪還を目指す藤井浩人氏と、再選出馬表明伊藤市長の「刑事再審」への誤解】で述べたように、執行猶予期間満了で、刑の言渡しは効力が失われており、藤井氏が公職の候補者として、市長として活動する上で何の制約もない。とはいえ、今回の市長選で美濃加茂市民が藤井氏に再び市政を委ねる選択をするかどうかは、藤井氏“冤罪”を信じるかどうかが大きく左右することは間違いない。

藤井氏が、これまでの冤罪との闘いを綴った新著(【冤罪と闘う】)を上梓した直後、12月29日に放映されたTBSの人気ドラマ《「99.9刑事専門弁護士」完全新作SP新たな出会い篇》でも、地方政治家の収賄冤罪事件が描かれた。そのストーリーは、「多額の融資詐欺を犯した業者と検察官とのヤミ取引で『贈賄の虚偽供述』」、「贈賄供述者の有罪確定で収賄側の無罪判決を阻む」、「対質尋問」など、藤井浩人氏の事件と多くの点で酷似していた。藤井氏の冤罪事件は、今や国民の間に広く認識されつつあるということだろう。

こうした中で、冤罪と闘う前市長を美濃加茂市民が再び市長として選ぶかどうか、まさに司法判断を超えた“究極の信任”が問われるのが、今回の美濃加茂市長選挙だ。

 

「辺野古移設争点外し」の渡具知名護市長が市民に問われる「究極の信任」

一方の名護市長選挙では、米軍基地の移設に伴う名護市辺野古海域の埋立て工事の続行の是非が問われる。埋立て海域に広範囲に広がる軟弱地盤の改良工事を含む工事の変更申請を沖縄県が不承認としたことで、辺野古移設問題は新たな局面を迎えているが、再選に向けての立候補を表明している現職の渡具知武豊(とぐち・たけとよ)市長は、前回市長選と同様、辺野古移設問題を争点から外して選挙に臨もうとしている。

市民にとって極めて重要な問題について、敢えて「民意」を問わずに市長選に臨むことは、地方自治体のコンプライアンスの観点からも重大な問題がある。私がコンプライアンス顧問を務めていた横浜市のIR誘致問題では、それが極端な形で表れ、昨年夏の横浜市長選挙で誘致断念に追い込まれた(【名護市長選での辺野古移設問題への「民意」、横浜市IR誘致問題と共通する構図】)。

そのような「争点外し」を、今回の市長選挙で敢えて繰り返そうとしているのが現市長の渡具知氏である。名護市民が渡具知氏を信任するとすれば、辺野古移設問題を超越する「絶対的信頼」があるということであり、渡具知市長は、「究極の信任」が問われることになる。

しかし、「4年の任期の間、市政を全面的に委ねるに相応しい人物であるかどうか」、市民の審判を仰ぐ渡具知氏には、「旧消防庁舎跡地等売却事業」をめぐって重大な疑惑が表面化している。

市有地売却先の選定において、渡具知市長の親族が常務執行役員となっている企業の利益を図ったのではないかという疑惑が表面化し、市議会に地方自治法100条に基づく調査委員会が設置されるなど追及を受けている。市有財産の処分において、市長が市民の利益を最大限に追求したのか、私的利益を図ろうとした可能性はないのか、という点に疑念が生じている。再選をめざす市長選挙では、この問題について説明責任を果たすかどうかが、渡具知市長が問われる「究極の信任」に関して重要な判断材料となることは間違いない。

 

旧消防庁舎跡地売却の経緯

100条委員会が、市長派議員の意見により「非公開」という異例の措置がとられているため、そこでの議事や資料は明らかになっておらず、報道がほとんど行われていないため、名護市民は、この疑惑について具体的に知ることができなかった。

これまで、名護市が公表した資料や、市議会での答弁等から明らかになっている市有地売却の経緯は、以下のようなものだ。

 

渡具知市長が2018年1月の市長選挙で当選し、その年の11月、旧消防庁舎跡地を公募型プロポーザルで売却・事業化することが正式に決定され、実施要項が公表された。

今後のまちづくりの推進や中心市街地の活性化において重要な役割を担う空間であることから、新たなにぎわい・活力・魅力の創出に有効な利活用を行うための事業者の提案を募集し、選定に当たっては、「消防跡地の公募売却に係る評価委員会」(以下、「評価委員会」)が「事業の提案内容」と「買受希望価格」から総合的に判断し、最も優れた提案を行った事業者に売却するというものだった。

事業計画の評価項目として「コンセプト及びまちづくりとの関係性」等の提案趣旨、施設計画、事業執行体制、資金計画等の事業計画などに80点が配点され、買受希望価格は20点の合計100点満点で評価された。

2019年1月の期限までにプロポーザルに応募したのは、東京の大手住宅メーカー大和ハウス工業(以下、「大和ハウス」)と神戸のホテル不動産業者アベストコーポレーションからなる共同企業体(以下、「大和ハウスJV」)と、沖縄県内でホテル事業を営む単独企業(X社)、沖縄県内の建築会社を中心とするJV(Y社JV)の3者だった。

同年4月にプレゼンテーションと質疑が行われ、審査結果が通知された。土地の買受価格が最も高かったのはX社だった。しかし、事業計画評価との総合評価で、X社より1億3000万円低い買受価格を提示した大和ハウスJVが最高得点を獲得し、優先交渉権者となった。

優先交渉権を得た大和ハウスJVと名護市の間で土地売買仮契約書が締結され、2019年7月26日に、地方自治法96条1項8号に基づく承認を得るため、名護市議会に、「土地の処分について(旧消防庁舎跡地)」の議案が提出された。

その際、売却の相手方は「大和ハウスJV」とされ、議案の説明資料では、土地・建物の所有主体は「名護市を所在とする新設法人」とされていた。

議会承認の後、大和ハウスJVから、「有限会社サーバント」(以下、「サーバント」)という会社を「名護市を所在とする新設法人」としたい旨の提案があった。

9月24日に、サーバント、大和ハウス、アベスト、名護市の4社で、サーバントに土地売買契約の権利を継承することを承認する協議書が締結され、2019年11月、サーバントが名護市に売買代金を納入し、土地の所有権が名護市から同社に移転した。

しかし、その後の新型コロナ感染の影響を理由に、建物建築が遅れており、同土地は「ぺんぺん草状態」のままとなっている。

また、有限会社サーバントの名護市内の本店は、民家に看板だけがかかった状態であり、現時点では、事業の実態があるようには見えない。

2020年12月に至り、上記のような経緯で市有地の所有権を取得した「サーバント」が、市長の親族が常務執行役員を務める金武町所在の建設会社「丸政工務店」と役員構成が同一であり、同社の子会社だと判明したことから、市議会での追及が始まり、2021年5月に、100条委員会が設置された。

 

最大の疑問点

上記の経緯の中の最大の疑問点は、大和ハウスJVの買受希望価格が、X社より1億3000万円も低かったにもかかわらず(20点満点の価格点で5点の差)、それを提案趣旨、施設計画、事業執行体制、資金計画等の評価(80点満点)で、沖縄県内で相当数のホテルの建設・経営の実績があるX社に逆転するためには、相応に高い評価を獲得する必要があり、土地買受主体について、単に「名護市を所在とする新設法人」という説明だけだったとは思えないことだ。

「新設法人」について、出資者、事業運営体制が具体的に明らかにされ、資金計画等についても説明されなければ、その点に問題がないと思えるX社との間で相当な差がつくことになり、「提案趣旨」などがいくら評価されたとしても、逆転は不可能だと考えられる。大和ハウスJVがこの点についてどのような説明を行ったのか、プレゼンや質疑応答の中身が非公表なので、その点は不明だ。

この点の解明の一つの手掛かりとなるのが、現地で取材に入っているジャーナリスト横田一氏が、YouTube番組「横田一現場突撃」#142で、関連企業として、「丸政工務店」、「サーバント」とともに、「ホクセイ」という社名を出していることだ。この「ホクセイ」というのは、どういう会社なのか、消防庁舎跡地売却にどのように関わっているのか。横田氏に聞いてみたところ、「株式会社ホクセイ(以下、「ホクセイ」)は、金武町所在で不動産賃貸、建設業を営む会社。有限会社サーバントと同様に、丸政工務店と全く同じ役員構成で、いずれも丸政工務店の子会社と考えられる。プロポーザルでの大和ハウスJVのプレゼンの配布資料では、株式会社ホクセイが名護市と契約して土地買受主体になるというスキーム図が示されていた。」と説明してくれた。

私が、現地の知人に聞いたところでは、「ホクセイ」は、過去に名護市内で土地を取得して量販店ドン・キホーテの誘致を行った実績がある会社とのことである。ホクセイが、プロポーザルの時点で土地買受主体になる会社として特定されていたのだとすれば、大和ハウスJVが事業執行体制等で相応の評点を得たことも、理解できないではない。

つまり、「ホクセイ」が、名護市との土地売買契約の当事者となり、土地・建物を所有し、大和ハウスJVが企画・テナント誘致や建物の設計・建設を担い事業全体をサポートする、というのがプロポーザルの際の大和ハウスJVの説明だったと考えられるのである。

しかし、そうなると、プロポーザルの際のスキームと、その後、議会承認の際に、「名護市を所在とする新設法人」を土地の買受主体にするというスキームとの間には、大きな相違があるということになる。

 

問題の整理

上記のような事実関係を前提にして、名護市旧消防庁舎跡地売却をめぐる問題を整理してみたい。

第1の問題は、土地買受主体を「ホクセイ」と説明していたのに実際には「サーバント」だったことから、公募型プロポーザルによる大和ハウスJVの選定が有効と言えるのか、である。もし、それが否定されれば、同JVが取得した土地売買契約の権利のサーバントへの継承も否定されることになる。

第2は、「名護市を所在とする新設法人」を土地買受主体として行われた旧消防庁舎跡地の処分について、名護市議会における承認手続が適法だったといえるのか、という問題である。

第3に、本件公募型プロポーザルに応募し、売買契約を締結し、その後、その権利を「有限会社サーバント」に継承させたことについての大和ハウスJVを構成する企業のコンプライアンスの問題である。

そして、第4に、一連の手続における、名護市の地方自治体としてのコンプライアンス問題である。この点は、仮に、上記の第1及び第2の問題について、名護市の対応に法的な問題点があるとまでは言えないとしても、地方自治体としての市有地売却に関する公正さ、説明や情報開示の不足などのコンプライアンス上の問題が生じるかどうかは別個の問題である。その点に問題があるとすると、市の行政のトップである市長の信頼性にも関わることになる。 

 

公募型プロポーザルによる大和ハウスJVの選定の有効性

上記のとおり、横田氏の取材結果のとおりであれば、プロポーザルのプレゼンの際、「ホクセイ」を土地買受主体とすると説明していたが、実際には、事業計画で土地・建物の所有主体になったのは、「ホクセイ」ではなく、「有限会社サーバント」という、プロポーザルの手続では全く出てこなかった会社だった。

プロポーザルでは、X社が大和ハウスJVより1億3000万円も高い買受希望価格を提示し、その価格の点数では大きく差を付けていた。それが、提案趣旨・施設計画・事業計画の評価点で逆転し、総合点では大和ハウスJVが1位となった。ホクセイが土地を買い受ける話が、サーバント単独で土地買受主体になったことで、少なくとも、事業計画の「事業執行体制」が、土地建物の所有主体に関して大きな変更があったことになる。それに加え、「事業スケジュール」「資金計画」の評価点(合計20点満点)も影響を受けた可能性がある。

会社登記簿を調査したところ、ホクセイの資本金は4900万円であるのに対して、サーバントは、公募型プロポーザルの時点では300万円、2019年6月に4500万円に変更している。また、同年9月24日に大和ハウスJVが取得した土地売買契約の権利をサーバントが継承した直後に、実施計画書の提出時期と代金の支払時期を9月末日から12月末日に変更するよう申入れている。このことからも、土地建物の所有主体がホクセイからサーバントに変更になったことは、スケジュール面、資金調達面で相応の影響があったと考えられる。

サーバントが土地建物の所有主体になるとの前提で、プロポーザルの手続が行われていた場合には、大和ハウスJVではなく2番手のX社が優先交渉権を得ていた可能性がある。

 

土地売却についての名護市議会の承認の適法性

議会承認を経ずに自治体発注工事を分割して請負契約を締結した事例について、

「公共事業に係る工事の実施方法等の決定が当該工事に係る請負契約の締結につき地方自治法96条1項5号を潜脱する目的でされたものと認められる場合には当該長の決定は違法」

とする判例がある(最判平成16.6.1)。この趣旨に照らせば、本件のような96条1項8号に基づく財産の処分についても、市議会の議決を要するとする法の趣旨を「潜脱する」目的で行われた場合には議会承認が違法となる可能性がある。

本件では、土地売買の議会承認議案では「名護市を所在とする新設法人」とされていたので、市議会議員の多くは、大和ハウスJVの構成2社が出資して「名護市に所在する新設法人」を設立して土地・建物の所有主体になるものと思い、その点が特に問題となることもなく、土地売買の承認議案が可決された。ところが、大和ハウスJVは、市議会での承認後に、土地買受主体を、名護市に隣接する金武町に本店が所在する「既設法人」で、本店を名護市に移転した「有限会社サーバント」にしたいと提案し、名護市がそれを認めた。

プロポーザルのプレゼンでは、名護市から市有地の売却を受け、建物の所有主体にもなる会社は、「ホクセイ」だった。そのように土地の買受主体がほぼ特定されていたのであれば、議会承認の資料の元になる大和ハウスJVの実施計画書に、なぜ、そのように記載しなかったのか、なぜ、単に「名護市を所在とする新設法人」とだけ記載してホクセイの社名を除外したのか。

ホクセイは、名護市内で不動産賃貸業・建設業などを営む会社であり、市長の親族が常務執行役員を務める丸政工務店の子会社であることも知られていた。もし、ホクセイを土地売却先にすることが明らかになっていれば、市議会での承認議案の審議で、問題が指摘されていた可能性が高い。そのため、議会承認の際には、「名護市を所在とする新設法人」としか記載しなかったのではないか。議会承認の直後から、土地を買い受ける「新設法人」はホクセイではなくサーバントとされたが、それは、同じ丸政工務店の子会社でも、サーバントなら無名であり、市議会でただちに問題にされる可能性が低いと考えたからではないか。

それらが、市議会での承認の際に土地取得の主体を秘匿する意図で行われたのだとすれば、土地売却の常務相手方を明示して議会の承認を求める手続を「潜脱する目的」があったことになり、議会承認なく財産処分を行ったものとして違法となる可能性がある。

この議会承認については、市議会で、「大和ハウスJVからサーバントに権利が継承されることについて、再度議会承認が必要だったのではないか」と問われたのに対して、市当局は、

「共同企業体を相手方として有効な土地売買契約を締結しており、本件契約の権利の継承の承認はこの有効に成立した契約に基づいて行ったものであること。土地等の所有主体が現地法人となる旨は当初より予定されており、議員にも説明がなされていることに鑑みると、権利の継承の承認は売却の相手方を変更するものではなく、また、別の新たな売買契約を本市が締結したものでもないため、再度の議決は必要なかったものと考えております」

と答弁している(2021年12月9日市議会、企画部長答弁)。

しかし、この議会承認は、旧消防庁舎跡地という市有財産の「財産処分」に関して行われたものであり、そこで承認を受ける対象となるのは、「土地の売却先」と「売却価格」である。

大和ハウスJVは、売却後の事業において、運営や建物の設計・建築・テナント誘致を行う立場であり、土地所有の主体は別の法人だというのであるから、大和ハウスJVは、本来、「財産処分」の対象ではない。「共同企業体を相手方として有効な土地売買契約を締結し」と答弁しているが、大和ハウスJVとの「売買契約」の形だけのものであり、実態とは必ずしも一致しない。「名護市を所在とする新設法人」を土地所有主体として、4億2000万円の価格で市有地を売却するというのが、本来、議会承認の対象とされるべき事項である。

ところが、「名護市を所在とする新設法人」は、実際には、「名護市の隣接町を所在とする既設法人が、名護市に本店を移転した法人」にすり替えられ、最終的な売却先になったのである。「新設」であれば、承認の時点で会社名を示せないのも致し方ないが、既設法人が、本店移転で「名護市所在の法人」になるのであれば、その社名を特定することが可能なはずだ。サーバントが、「名護市を所在とする新設法人」だというのには、明らかに無理がある。

企画部長答弁では、「土地等の所有主体が現地法人となる旨は当初より予定されており」と説明しているが、「言葉のすり替え」によるゴマカシである。議会承認時の資料では「新設法人」とされていたのであり、「現地法人」とされていたのではない。企画部長の答弁は全く合理性がなく、議会承認が適法であることの説明にはなっていない。

これらからすると、「潜脱目的」は否定できず、議会承認手続の違法性は否定できないように思える。

 

大和ハウスJV側のコンプライアンス上の問題

本件における大和ハウスJVの対応には、不可解な点が多々ある。そこには、企業としてのコンプライアンス上の問題が生じる可能性がある。

そもそも、市有地を売却して事業化する公募型プロポーザルに応募するJVにとって、そのJVの構成に関して、土地を買受ける企業がどの企業なのかは極めて重要な要素のはずだ。それが不確定のままプロポーザルに応募すること自体が不可解な対応だ。

しかも、その土地買受主体が、プロポーザルのプレゼンの際、「ホクセイ」が名護市と契約を行うようなスキーム図を用いて説明された。それが、優先交渉権を得た後の実施計画書では「名護市に所在する新設法人」となり、議会承認の直後からは、「有限会社サーバント」とされて、同社が所有権を取得することになった。

大和ハウスJV側が、意図的に、土地建物の買受主体についての説明を変遷させ、市議会の承認の際にも、土地所有主体がわからないような工作を行ったのだとすると、企業としてのコンプライアンス上の問題が生じることになる。

しかし、大和ハウス工業は東証1部上場の日本でも有数の住宅メーカーである。その会社が、独断で、上記のようなコンプライアンス上問題がある露骨な対応を自ら主導して行ったとは考えにくい。名護市側からの何らかの働きかけがあったからこそ、上記のような対応を行った可能性がある。そうだとすると、後述する、名護市側の自治体としてのコンプライアンス問題が生じることになる。この点については、大和ハウスの側が、コンプライアンス問題として、事実解明を行う必要があると言えよう。

 

名護市の地方自治体としてのコンプライアンス問題

旧消防庁舎跡地は、商業施設・宿泊施設などが集積し、中心市街地の観光施設にも近い立地で、極めて価値の高い市有地であり、その売却・事業化によって市民の利益、地域経済の活性化を図ることは地域社会の要請に応えるものであるが、そのような市有地売却・事業化が適切に行われていることについて、市民の理解・納得が重要となる。

かかる観点から言えば、既に判明している同市有地売却・事業化をめぐる問題は、公募型プロポーザルで大和ハウスJVを事業者として選定したことや、サーバントを土地売却先としたことが、仮に、契約に関する市の裁量の範囲内であり、議会承認の手続も違法とまではいえないとしても、自治体のコンプライアンスの観点から問題があることは否定できない。

しかも、プロポーザルのプレゼンの際に、土地買受の新設法人の中心となると説明されたホクセイも、その後、土地買受主体とされたサーバントも、いずれも金武町に本店が所在し、その親会社は市長の親族が常務執行役員を務める「丸政工務店」である。つまり、ホクセイも、サーバントも、市長の親族が経営に関わる「丸政工務店」グループの企業なのである。

この旧消防庁舎跡地の土地を買受け、ホテル等の事業で建物の所有者つまりオーナーになることで、相当な利益が見込めるだろう。そのような利益を誰が享受するのか、その対価がどのように設定されるか、市議会にも十分に情報開示した上、公正・公平に決定されることが求められる。

ところが、名護市の重要な財産を処分し、市長の親族が経営に関与する企業の子会社に売却後の事業による利益を享受させることについて、その情報を市議会に、そして市民に開示することなく、その手続が進められた。それ自体が、名護市にとって重大なコンプライアンス問題であることは否定できない。

 

旧消防庁舎跡地売却問題についての渡具知市長の説明責任と今後の展開

これまで指摘してきた問題のうち、公募型プロポーザルによる大和ハウスJVの選定の有効性の問題、土地売却についての名護市議会の承認の適法性の問題は、法的瑕疵に関するものであり、最終的には司法判断に委ねられる。

しかし、大和ハウスJV側の「企業コンプライアンス問題」、名護市の「自治体コンプライアンス問題」は、司法判断の問題ではなく、企業として、自治体として、社会に対する説明責任が問われる問題であり、名護市の重要な財産処分によって市長の親族が経営に関与する企業の子会社の利益が図られる可能性があることについて、市民や議会への情報開示・説明責任が問われる「自治体コンプライアンス問題」は、最終的には、市長自身の政治責任の問題である。それを問う場は、その市長を信任するか否かが問われる市長選挙以外にはあり得ないのである。

 

旧消防庁舎跡地の利活用は、2018年の市長選挙で渡具知氏が当選して市長に就任した直後から、市有地の売却・事業化について公募型プロポーザルを実施する方向で話が進められた。市政にとって重要な事業だった旧消防庁舎跡地の売却の経緯や事業者の選定等の手続について、市長が認識していなかったとは思えない。

渡具知氏が市長選挙に立候補し、再選をめざすのであれば、この問題について十分な説明責任を果たし、市民の疑念を払拭することが不可欠だ。それを果たさない、或いは果たせないとすれば、「辺野古移設」という名護市にとって最重要の問題を争点から外して市長選に臨もうとしている渡具知市長に対する名護市民の「究極の信任」はあり得ないということになる。

では、渡具知市長が落選した場合、旧消防庁舎跡地問題は、どうなるのか。

渡具知市政を批判する対立候補が当選すれば、公募型プロポーザルでの大和ハウスJVの選定及びサーバントへの売却の違法性の検討など、契約は全面的に見直されることになるだろう。

その結果、名護市は、契約の違法性を主張し、契約を破棄してサーバントに所有権返還を求めることになるだろう。サーバントが応じなければ訴訟を提起することになる。事業者側は、提案どおりの事業計画を進めるとすれば、市との良好な関係が不可欠なはずであり、名護市と対立したまま、無理やり跡地での事業を行うことは相当なリスクを抱えることになる。

市長が交代したことで、市が、それまでの方針を覆した場合に、大和ハウスJV側から、損害賠償請求を行うことがあり得るか。既に述べたように、今回の公募型プロポーザルでの大和ハウスJVの対応にはコンプライアンス上も多くの疑問があり、それが訴訟手続きで問題にされることを覚悟の上で損害賠償請求訴訟を起こすとは考えにくい。また、まだ、事業化に向けての工事には着手していないのであるから、損害があるとしても、僅少だ。

今回の名護市長選は、渡具知市政の4年間に具体化し、土地売却先が決定された旧消防庁舎跡地等売却事業の問題に決着をつける選挙ともいえるのである。

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