「刑事免責」導入で文書改ざん問題の真相解明を 

日本の官僚組織の中枢で起きた決裁文書改ざんという前代未聞の不祥事で、行政に対する信頼は大きく揺らいでいる。それが、なぜ、いかなる動機で行われたかを解明すべく、中心人物と目される佐川宣寿前国税庁長官の証人喚問が行われたが、「刑事訴追を受けるおそれ」で証言を拒否したために、財務省の決裁文書改ざん問題の真相解明は全く進まなかった。事件の真相が解明されないということになると、行政のみならず、政治に対しても国民の不信がますます深まることになる。

この件に関して、先週末、土曜日のBSジャパン「日経プラス10サタデー」、AbemaPrimeの「みのもんたのよるバズ!」、日曜日のBS朝日「日曜スクープ」等で、今後の方策として、国会証人喚問における刑事免責を導入することを提案した。

英米では、議会の調査において「刑事訴追を受けるおそれ」で供述を拒否した証人に「刑事免責」を付与することで、証言させる方法が、一般的に用いられてきた。日本でも、今年6月に施行される刑事訴訟法改正で、「日本版司法取引」と併せて、「刑事裁判における証人の刑事免責制度」が導入されることとなっており、刑事免責の導入に関する立法上の問題の大部分はクリアされている。

決裁文書改ざん問題の真相解明に向かって手段が見えなくなっている現状を打開するためには、今回の問題の被害者と言える国会で、「刑事免責制度」を導入する立法を行い、供述拒否権を行使できないようにした上で佐川氏の再度の証人喚問を行うこと、そして、国会において調査委員会を設置し、刑事免責を最大限に活用して関係者の聴取を行うこと以外に方法はない。

この提案の内容について、詳しく述べておくこととしたい。

国会の証人喚問でなぜ証言拒否が認められるのか

国政調査権は、国権の最高機関である国会(憲法41条)が、立法、行政監視その他国政上の重要な事項について調査を行う権限である。その重要な手段として認められているのが、「議院証言法」に基づく「証人喚問」であり、宣誓の上で虚偽の陳述をした場合には[三月以上十年以下の懲役]、宣誓・陳述を拒んだ場合には「一年以下の禁錮又は十万円以下の罰金」に処せられることから、真実を証言することが刑事制裁によって強制されることになっている。

しかし、自分の犯罪事実に関わる事項についても罰則によって証言が強制され、その証言内容が、刑事事件の証拠として使われることになると、事実上、自白を強制されることになり、憲法38条による「黙秘権の保障」に反することになる。そこで、「証人又はその親族等が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのあるときには証言等を拒むことができる」(議院証言法4条)として、証人に「証言拒否権」が与えられている。

諸外国での議会の調査での刑事免責の活用

今回の証人喚問で、佐川氏が決裁文書改ざんに関連する質問に対して証言を拒否したのも、この「証言拒否権」に基づくものだ。

それは、「自己の犯罪事実についての供述を強要されない」という憲法の「黙秘権の保障」に基づくものであるから、黙秘権を侵害しない方法をとることで、「証言拒否権」を認めず、刑事制裁で証言を強制することも可能だ。

イギリスやアメリカでは、刑事裁判において、刑事訴追を受けるおそれがあることによる供述拒否権を行使して証言を回避しようとする証人に対して、議会の議決で「刑事免責」(immunity from prosecution)を付与して証言を強制するという手段が講じられてきた。そして、その手法は、議会での調査における証人喚問においても、重要な手段とされてきた。

アメリカでは、昨年、トランプ大統領の補佐官(国家安全保障担当)だったマイケル・フリン氏が、大統領選でロシアの干渉があったとされる疑惑について、「訴追免責」を条件に議会で証言する意向を示したが、議会側が拒否したと報じられた。

このように、英米では、議会での調査に関して、「刑事訴追を受けるおそれ」を理由とする「証言拒否」に対する有力な手段として、議会証言による刑事訴追が行われるおそれをなくすことで証言拒否の理由を失わせるという「刑事免責」が用いられてきた。

日本の国会証人喚問について刑事免責が議論されなかった理由

日本でも、国会の証人喚問で、「刑事訴追を受けるおそれがある」として「証言拒否」が行われることは過去に数多く繰り返されてきたが、「刑事免責」によって証言拒否権を失わせることが議論されたことは、全くと言っていいほどない。

その最大の理由は、英米と日本との刑事司法制度の違いである。日本では、刑事裁判においても、「証人に対する刑事免責」が認められてこなかったので、国会の証人喚問での刑事免責を議論する余地もなかった。

刑事事件において、「司法取引」による決着が一般的な英米では、刑事処分に関して、「特定の犯罪について、疑いがあっても不問に付す」という方法自体にもともと抵抗が少ない。そのため、国政に関わる重要事項について、議会の調査権の実効性確保という目的達成のため、「特定の犯罪について証人に対する訴追の可能性をなくす」という方法を用いることにも、違和感がない。

しかし、「実体的真実主義」がとられてきた日本の刑事司法においては、他の目的のために、「特定の犯罪について、疑いがあっても不問に付す」ということ自体が認められておらず、一部の犯罪を認めたり捜査公判への協力をしたりする見返りに、一部の犯罪を不問に付したり刑を軽くしたりする制度もなかった。

しかし、このような日本の刑事司法制度は、今大きく変わろうとしている。2016年の刑事訴訟法改正(2018年6月施行)で「日本版司法取引」に加えて、あまり知られていないが、「刑事裁判での証人尋問での刑事免責制度」も導入されることになった。日本の刑事司法制度も大きく変わろうとしているのであり、国政調査権に基づく証人喚問で刑事免責を導入することに関して、これまでのような制度上の問題はほとんどなくなっていると言える。

「政治ショー」に過ぎなかったこれまでの国会証人喚問 

「刑事訴追を受けるおそれ」を理由とする「証言拒否」に対する「刑事免責」という、有効な手段が全く議論されなかったもう一つの理由は、これまでの国会での証人喚問が「政治ショー」的な色彩が強く、国会議員の側で、真相解明のために証人喚問の実効性を高めてそれを活用しようとする発想が希薄だったことだ。

過去に行われた国会での証人喚問の多くは、国会議員や閣僚の政治資金問題やスキャンダル等の個人的問題で、犯罪捜査が同時並行で行われていたり、その後の刑事責任追及が必至な事例だった。「刑事訴追のおそれ」で「証言拒否」が予想される場合でも、敢えて喚問が実施される目的は、もっぱら政治的アピールであり、証人喚問によって事実解明が行われることはほとんどなかった。

今回の佐川氏証人喚問でも、与党側の質問では、丸川珠代議員の、事前に想定問答がセット済みであるような質問で、

「安倍総理からの指示はありませんでしたね。」

など誘導的な質問をしたり、

「少なくとも今回の書き換え、そして森友学園の国有地の貸し付けならび売り払いの取り引きについて、総理、総理夫人、官邸の関与がなかったということは証言を得られました。」

などと強調したりするなど、自民党にとって証人喚問の目的が「真相解明」ではなく、「安倍首相・首相夫人の関与の否定」だったことを印象づけた。

一方、野党側は、多数の質問者が「顔見世興行」的に次々と登場したため、質問が細切れとなった上、「証言拒否」が想定される事項の質問を繰り返すだけで、与党議員の質問に対する証言内容を問いただすこともせず、有効な追及はほとんどなかった。

今回の財務省の決裁文書改ざん問題は、「国有地の売却という行政上の意思決定に関する決裁文書が、事後的に改ざんされた上で提出されて国会が騙された」という、議会制民主主義を根底から揺るがす問題であり、国民とともに「被害者」の立場にある国会および与野党の国会議員は、国会での国政調査の機能を最大限に高めることに真剣に取り組むのが当然である。

しかも、刑事訴訟法改正で、刑事裁判の証人尋問に「刑事免責」の制度が導入されたことで、「刑事訴追を受けるおそれ」を理由とする証言拒否に対して、最も効果的な対抗策である「刑事免責」を導入することに、立法技術上の困難性はほとんどなくなっているのである。「国権の最高機関」である国会が行う証人喚問について、刑事裁判と同様の「刑事免責」を導入する立法を行うことを否定する理由はない。

議院証言法への刑事免責の導入

では、具体的にどのようにして、国会の証人喚問に刑事免責の制度を導入することができるのか。

まず、刑事事件の証人尋問に導入される刑事免責に関する改正刑事訴訟法の規定を見てみよう

157条の2

1 検察官は、証人が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある事項についての尋問を予定している場合であつて、当該事項についての証言の重要性、関係する犯罪の軽重及び情状その他の事情を考慮し、必要と認めるときは、あらかじめ、裁判所に対し、当該証人尋問を次に掲げる条件により行うことを請求することができる。

一 尋問に応じてした供述及びこれに基づいて得られた証拠は、証人が当該証人尋問においてした行為が第百六十一条又は刑法第百六十九条の罪に当たる場合に当該行為に係るこれらの罪に係る事件において用いるときを除き、証人の刑事事件において、これらを証人に不利益な証拠とすることができないこと。

二 第百四十六条の規定(注:証人尋問における証言拒絶権の規定)にかかわらず、自己が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある証言を拒むことができないこと。

2 裁判所は、前項の請求を受けたときは、その証人に尋問すべき事項に証人が刑事訴追を受け又は有罪判決を受けるおそれのある事項が含まれないと明らかに認められる場合を除き、当該証人尋問を同項各号に掲げる条件により行う旨の決定をするものとする。

上記の規定から明らかなように、今回の刑訴法改正で導入される「刑事免責」は、証人に対して、証人自身が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある事項についての尋問を予定している場合に、裁判所に対して、当該証人尋問を、

①尋問による供述、及びこれに基づいて得られた証拠を、証人の刑事事件において、証人に不利益な証拠とすることができない

②証人は、自己が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれがあっても、証言を拒むことができない

という条件で実施することを請求することができるというものだ。

この制度は、英米各国では使われている、証人が当該犯罪について刑事訴追自体を行えないようにするという事件免責(case immunity)ではなく、その証言が証人に不利益な証拠として使用されないようにするという使用免責(use immunity)によって、証人が供述拒否権を行使できないようにしようとする制度だ。刑事免責が行われた場合でも、当該証言やそれに基づいて得られた証拠「以外の」証拠によって起訴される可能性を完全に失わせるものではない。それによって、日本の刑事司法制度との整合性を図ったものだ。

これと同様の制度を、国会での証人喚問に導入するとすれば、議院証言法を改正し、「各議院は、証人が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある事項についての尋問を予定している場合であつて、当該事項についての証言の重要性、関係する犯罪の軽重(及び性格)その他の事情を考慮し、必要と認めるとき」に、「当該証人喚問を、刑事訴訟法が規定する上記①、②の条件で実施することができる」という規定を設けるのである。

このような「刑事免責」を行って証人喚問を実施することが相当かどうかについては、主として、当該事項についての証言の重要性と、関係する犯罪の軽重及び性格を考慮して判断することになる。もちろん、刑事処罰を優先させるべき「凶悪事件等の重大な個人犯罪」について、捜査機関が捜査を行っているのに、国会がそれに介入するような刑事免責を行って起訴を妨害するというようなことは許されない。刑事免責を付与して証人喚問を行うべき事件は、事件の性格が、国会の国政調査権による事実解明を優先するのが相当と考えられるものに限定すべきだろう。

今回の財務省の決裁文書改ざん問題は、まさに、財務省が組織的に行ったものであり、「刑事処罰」より「国会での事実解明」を優先すべきであることは明らかだ。

「刑事免責」を認めることと併せ、国会がこの問題についての特別調査委員会を設置し、そこで行う関係者の聴取についても、刑事訴追のおそれがあることを理由とする供述拒否が行われた場合に、委員会が議院に請求して、証人喚問の場合と同様の「刑事免責」を行うことができるようにする法律の制定も行うべきであろう。

刑事免責を導入した上での再度の佐川氏証人喚問

このような緊急立法によって、国会証人喚問において刑事免責を行えるようにした上で佐川氏を再度証人喚問すれば、決裁文書を見たか否か、その時期も含め、改ざんへの関与の有無に関する質問についても、「刑事訴追を受けるおそれ」を理由に拒否することができなくなる。安倍首相及び首相夫人の関与又は影響についても、「一連の書類等に基づいて勉強した範囲では、関与・影響があったとは考えていない」などという間接的な証言は許されず、関与・影響の有無、決裁文書改ざんとの関係についても、正面から答えざるを得なくなる。それによって、今回の問題の真相解明に向けて、大きく前進できることは言うまでもない。

先週土曜日の、BSジャパン「日経プラス10サタデー」に出演した際も、この刑事免責の導入について発言したが、そこで、共演していた元検事で元衆議院議員の若狭勝弁護士は、「この問題は政治的問題なので、刑事免責を導入しても、真相は明らかにならない」と発言した。

もちろん、そのような立場に立たされた時の佐川氏がどのような証言を行うのかはわからない。しかし、まずは、佐川氏が証言を拒否できない状況を作るべきである。そして、国会証人喚問で、偽証の制裁に加えて、刑事免責によって供述拒否権も失わせるという大きな武器が与えられたならば、そこで真実を語らせることに向けて最大限の努力を行うのが、質問に立つ国会議員の使命だといえる。

刑事免責を導入した上での佐川氏再喚問ということになれば、そこで質問に立つ与野党の議員が、前回証人喚問と同様の政治的パフォーマンスにとどまっているか、真実を解明するための真剣勝負に臨んでいるか、厳しい国民の評価にさらされることは言うまでもない。

政治の混迷の長期化と検察がキャスティング・ボートを握る危険

北朝鮮をめぐる情勢が、中朝首脳会談、米朝首脳会談等で急展開を見せるなど、国際情勢は緊迫の度合いを深めており、本来、国会や内閣は、外交上の問題への対応に全力を傾注すべきであることは言うまでもない。しかし、一方で、財務省の決裁文書が改ざんされた問題の方も、日本の民主主義の根幹に関わる、絶対に看過できない問題である。

今後も、その真相解明を求める国民の声は収まるとは思えないし、それを受けて野党側の政府への追及が続くという国会と政治の混迷は長引かざるを得ない。

刑事免責の導入を行わない限り、国会での真相解明は、前回の佐川喚問で手詰まりとなり、当事者の財務省の調査にも期待できず、結局、検察の捜査による真相解明に国民の期待が集中することになる。

しかし、この決裁文書改ざん問題を刑事事件化することが常識的には容易ではないことは、問題表面化直後から指摘してきたところだ(【森友文書書き換え問題、国会が調査委員会を設置すべき】)。それにもかかわらず、佐川氏が国会証人喚問で「刑事訴追の恐れがある」と繰り返したことで、刑事処罰を求める世論が高まり、検察は相当なプレッシャーを受けることになる。特捜部の現場からは、それを「追い風」に、告発されている公文書犯罪や背任罪の容疑で財務省本省への捜索などの無理筋の強制捜査に着手しようとする動きが出てくる可能性もないとは言えない。その場合、森友学園への国有地売却についての財務省の背任事件についても、本来は、「自己又は他人の利益を図る目的」という主観的要件の関係で立件は困難だと考えられるが、「森友学園」という「他人の利益を図る目的」というストーリーを無理矢理設定して刑事事件化ということも、全く考えられないことではない。その場合、「安倍昭恵名誉校長」が、「森友学園の利益を図る動機」とされることになり、そのような被疑事実による強制捜査が行われること自体が、財務省のみならず安倍政権に大打撃を与えることは必至だ。

そういう意味で、この決裁文書改竄に関する公文書犯罪と、国有地売却に関する背任という「二つの無理筋の事件」で強制捜査に着手することは、大阪地検特捜部の証拠改ざん事件で信頼を失墜し、それ以降、鳴かず飛ばすだった検察にとって、失地回復の大チャンスにもなる。それどころか、検察が、政治のキャスティング・ボートを握るという、民主主義社会として極めて不健全な状況を招来することになりかねない。

中央官庁のトップに位置する財務省が、国会に提出する決裁文書を組織的に改ざんしたという前代未聞の行政不祥事に対して、「証人喚問への刑事免責制度の導入」という新たな武器を導入して、国会自らが事実解明を行うことができるかどうか、それとも、当事者の財務省の調査と司法判断に全てを丸投げするという無責任な対応で終わるのか、日本の議会制民主主義は、大きな岐路に立たされている。

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佐川氏、首相・首相夫人の影響を否定する証言の矛盾

3月27日、森友学園に対する国有地売却の決裁文書改ざん問題に関して、当時の理財局長の佐川宣寿氏の証人喚問が、衆参両院で行われた。

佐川氏は、決裁文書の改ざんについての質問だけでなく、国会答弁の際に改ざん前の決裁文書を見たかどうかの質問についても、「刑事訴追を受けるおそれ」を理由に証言を拒絶した。その一方で、財務省・安倍首相・首相夫人・首相官邸等の関与については、「国会からの資料要求に対しては、理財局の国有財産部局における個別案件なので理財局の中だけ対応をした。財務省の官房部局、総理官邸は関わっていない。国有地の貸付・売却について、安倍首相、首相夫人からも官邸からも指示はないし、影響も受けていない。」という趣旨の証言をした。

佐川氏の証言内容、証言拒否した事項は、次のように整理できる。

①決裁文書の改ざんへの関与については証言拒否

②改ざん前の決裁文書を見たか否か、その時期についても証言拒否

③財務省、財務大臣、首相官邸等の「改ざん」に関する指示については、「個別案件についての資料要求への対応などの国会対応は理財局内部で行うのが通例」という「一般論」で答える。

④自分自身への「指示」があったかどうかについては否定

⑤国有地の貸付・売却に関する政治家などからの「不当な働き掛け」の有無については「国会答弁中勉強して経緯を見た範囲」で否定

⑥国有地の貸付・売却に対する総理及び総理夫人の「影響」については、「勉強してずっと一連の書類を読んで、国会で相談した範囲」で否定

⑦「国会答弁が虚偽であったこと」は認めず、「財務省の文書管理規則」に基づいて答弁したことが「丁寧さを欠いた」として、謝罪するにとどめる

⑧答弁が「誤解を与えるものだったこと」について、その理由は、理財局が国会対応で多忙を極め、混乱し、余裕がなかったために「気付かなかった」で通す

⑨国有地の売却価格が適正だったか否かについては、「不動産鑑定に基づいて価格を決めているので適正と考えていた」で通す。

佐川氏は、与党議員の質問に対しても、野党議員の質問に対しても、終始、徹底して、①~⑨の方針での証言を貫いた。

このうち、①は、刑事訴追の対象となる可能性のある事実そのものであり、②も、それを認めれば、決裁文書改ざんへの関与を否定できなくなる可能性が高い。⑦の国会での虚偽答弁の否定は、それを認めれば、改ざんの動機を認めることにつながる。⑧、⑨も、虚偽答弁を否定するための証言と言える。これらは、刑事責任追及につながる事項についての証言拒否と言える。

一方、③、④、⑤、⑥は、いずれも、理財局以外の財務省、財務大臣、首相・首相夫人、首相官邸などの関与を否定する証言である。①、②で改ざんそのものに対する証言を拒否しているのであるから、普通に考えれば、それと矛盾しかねない証言になるが、それを敢えて積極的に行おうとしていることがわかる。

そのことが端的に表れているのが、⑥の証言をした最初の局面だ。

午前の参議院での最初の質問者の自民党丸川珠代議員が、

「安倍総理あるいは総理夫人から森友学園との国有地の貸し付け、売り払いについて何らかの指示がありましたか。」

と質問した。前任者の時代に指示があったか否か、佐川氏自身は直接知らないのだから、その旨答えるだけでよかったはずだ。ところが、佐川氏は、「当時、理財局にはおりません」と答えた後に、

「昨年の国会答弁を通じ」、「公的取得要望から始まって貸付契約で売り払い契約の経緯について勉強し」「局内でもいろいろ聞いて」「その過去のものを見て」、「その中では一切、総理や総理の夫人の影響というのがあったということは、まったく考えておりません」

と、「影響の有無」について、敢えて付け加えている。

その後、丸川議員は、「官邸関係者から指示の有無」「明確な指示ではなくても従わざるをえない何らかの圧力」に関して質問し、佐川氏は、「勉強した範囲」では「一切なかった」と答え、最後に、丸川議員が、

「森友学園への国有地の貸し付けならびに売り払いの取り引きに、総理そして総理夫人が関わったことはないと断言できるか」

と質問したのに対して、

「昨年勉強してずっと一連の書類を読んで、国会で相談させていただいた中で言えば」

とした上で、

「総理も総理夫人の影響もございませんでした」

と明確に影響を否定する証言をしている。

佐川氏は、丸川議員の質問の範囲を超えて、「首相・首相夫人の影響の有無」を先回りして証言し、その後に、実際に、丸川議員は、「影響の有無」について質問し、佐川氏が、同じ趣旨の答えを繰り返している。

佐川氏が、丸川議員から、「総理・総理夫人の影響の有無」について質問されることを想定し、あるいは質問事項が事前に提供されるなどして、証言内容を準備していたことは明らかだ。⑥の「総理・総理夫人の影響」を否定する証言について、佐川氏の強い意志が窺われる。

しかし、この⑥の証言で、「総理・総理夫人の影響」を否定する根拠について「昨年勉強してずっと一連の書類を読んで」と言っている点は、②の証言拒否と整合性がとれず、無理がある。

現時点で、土地の貸付や売却への「総理・総理夫人の影響」を疑う最大の根拠は、改ざん前の決裁文書に、安倍首相や昭恵夫人についての記載があり、それが削除されていることだ。佐川氏にとっては前任者時代のことで、直接経験していないのであるから、影響の有無を判断するためには、改ざん前の決裁文書から削除された記載について、それがどのようなことを意味するのかを「読んで勉強する」することは、最低限必要なはずだ。ところが、②の証言で、この改ざん前の決裁文書については、読んだか否かについても証言を拒否しているのである。結局、「総理・総理夫人の影響」を否定する⑥の証言は、実質的にほとんど根拠がないと言わざるを得ない。

質問者の丸川議員や、自民党二階俊博幹事長などが言うように、「今回の佐川氏の証人喚問で、総理はじめ政治家の関わりがなかったことが明らかになった」とすれば、「総理・総理夫人の影響」を否定する⑥の証言に何らかの根拠があるということだが、だとすると、改ざん前の決裁文書を含む「一連の文書」を「勉強」した結果、「総理・総理夫人の影響」がなかったと判断したということにならざるを得ない。そうなると一方で、②の改ざん前の決裁文書を見たかどうかについての証言拒絶をすることは許されないはずだ。

このように、佐川氏は、自己の刑事責任に関わる質問を広範囲に証言拒否する一方、理財局以外の財務省、財務大臣、首相・首相夫人、首相官邸などの関与を否定する証言は、本来なら証言できないようなことまで積極的に行うというものだった。

証人喚問の前日に出したブログ記事【佐川氏は、証言拒否で身を守れるのか】では、

佐川氏が、ほとんどの質問に対して証言を拒否すれば、世の中の批判が佐川氏に集中することになるのは必至だ。「刑事訴追のおそれ」を理由として証言を拒絶することで、その「刑事訴追」が現実化することを求める社会的なプレッシャーが高まることになる。それを受けて、検察当局が、常識的には無理筋とも思える、決裁文書に関する文書犯罪で強制捜査に着手し、場合によっては佐川氏を任意聴取した上逮捕することも考えられないではない。

と述べたが、実際の証人喚問で佐川氏がとった姿勢は、それ以上のものだった。「刑事訴追のおそれ」を理由に、決裁文書の改ざんに関連する質問に対して証言を拒絶する一方、安倍首相・昭恵夫人の関わりなどを、根拠もなく無理に否定することで、政権側に媚を売る姿勢が、佐川氏に対する批判をさらに高めることになる。検察が、佐川氏を含め、決裁文書改ざん問題を丸ごと刑事事件化していく方向での追い風になることは否定できない。

決裁文書改ざんに関して、もし、検察が、組織として、虚偽公文書作成罪などの犯罪が成立すると判断し、マスコミや世論を味方につけて、本格的捜査に着手すれば、裁判所が、それを否定する方向で判断を行うことは困難だ。

決裁文書改ざん問題について、証人喚問において国民の前で真相を語ることと、取調べという密室で検察官に供述するという二つの選択肢の中で、後者を選び、検察の判断に委ねる姿勢をとったことは、佐川氏個人にとって禍根を残すことになりかねない。それは、日本の社会にとっても、決して良い結果にはつながらないように思う。

佐川氏には、証人喚問で、国民に対して真実を語ってもらいたかったが、それが果たされなかった現状においては、決裁文書改ざんの「直接の被害者」である国会が主導して、公正に、かつ効率的に真相解明を行っていくことが何より重要である。

決裁文書改ざん問題表面化直後から主張しているように(【森友文書書き換え問題、国会が調査委員会を設置すべき】)、財務省で行われている調査とは別に、国会が、独立かつ中立的な調査委員会を設置し、徹底調査を行っていくべきである。

 

 

 

 

 

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佐川氏は、証言拒否で身を守れるのか

森友学園に対する国有地売却の決裁文書改ざん問題に関して、明日(3月27日)行われる、当時の理財局長の佐川宣寿氏の証人喚問に注目が集まっている。

証人喚問で予想される展開について、複数のメディアから取材を受けたが、

補佐人の弁護士が喚問に立ち会った場合は、決裁文書に関する質問に対しては、刑事訴追を受けるおそれがあるという理由で、証言を拒否するだろう。国会答弁に関する質問も、改ざんに関連するとの理由で拒否するかもしれない。そうなると答えられるのは、答弁内容の決定の流れの一般論ぐらいになる。

との趣旨のコメントをした。

補佐人の弁護士が立ち会った場合は、佐川氏は、質問の一つひとつについて助言を求めるであろうし、補佐人の弁護士としては、万が一、自らの助言にしたがった証言が証拠となって刑事訴追を受けたり、その証言が偽証とされた場合、弁護士として過誤の責任を問われることになるので、些かなりともリスクがあれば、証言を拒否するように助言することにならざるを得ない。

しかし、佐川氏が、ほとんどの質問に対して証言を拒否すれば、世の中の批判が佐川氏に集中することになるのは必至だ。「刑事訴追のおそれ」を理由として証言を拒絶することで、その「刑事訴追」が現実化することを求める社会的なプレッシャーが高まることになる。それを受けて、検察当局が、常識的には無理筋とも思える、決裁文書に関する文書犯罪で強制捜査に着手し、場合によっては佐川氏を任意聴取した上逮捕することも考えられないではない。

「刑事訴追を受けるおそれ」があるとして証言を拒絶することは、佐川氏にとって、法的権利行使として許されることである。しかし、それが、本当に、佐川氏自身にとって、最終的に自らの正当な権利を守ることにつながるのだろうか。

佐川氏は、国会証人喚問の場で「刑事訴追を受けるおそれ」を理由に証言を拒否し、その後の検察での取調べに対しても、聴取を拒否したり、黙秘権を行使したりすることは可能だ。しかし、その場合、「罪障隠滅のおそれ」があるとされ、強制捜査や、逮捕・勾留の理由にされる可能性がある。常識的に考えれば、国会での証人喚問では証言を拒否しても、検察での取り調べでは供述するということになるだろう。結局、供述は、すべて捜査機関である検察に対して行い、刑事処分についての判断を委ねることになる。

佐川氏が国会で証言を拒絶し、検察の任意聴取に応じるということになれば、国会での真相解明には限界があることが認識され、非公式リークでしか情報が出てこない検察の密室での取り調べに社会の関心が集中することになる。

しかし、現在の検察は、佐川氏にとって、すべてを供述し、その適切な処分に全面的に委ねることができる信頼できる存在なのだろうか。

今回の決裁文書書き換え問題の表面化に関しても、検察側のリークによるものではないかとの疑いが指摘されている。佐川氏の証人喚問の決定の前後に、検察が証人喚問後に佐川氏の任意聴取を検討していることが報じられた。検察側への取材によらなければ書けない記事だが、それによって、佐川氏が証人喚問で証言拒否をする流れを作っているように見えなくもない。

また、野党議員と籠池氏との接見が認められたことについても、弁護人以外の者の請求で接見禁止一部解除が認められることは稀であり(野党議員が話を聞こうとしている「籠池氏と財務省側とのやり取り」は、検察捜査の対象となっている財務省側の「背任罪」に関して籠池氏の共犯の成否にもつながりかねない点なので、弁護人側から接見禁止一部解除の請求をすることは考えにくい。)、検察が接見禁止の一部解除に強く反対しなかったとすれば、異例の対応だ。「検察関係者」が、今回の財務省の決裁文書改ざん問題に対する社会の批判を煽ろうとしているように見えなくもない。

最近の特捜検察の動きは、リニア談合に対する東京地検特捜部の捜査に典型的に表れているように(【リニア談合捜査「特捜・関東軍の暴走」が止まらない】【“逆らう者は逮捕する”「権力ヤクザ」の特捜部】)、率直に言って全くデタラメであり、適正な判断を行うことを期待できる組織とは思えない。

佐川氏にとっては、むしろ、国会の場で、記憶していることをすべて証言し、その評価を、国会や国民に委ねるという態度をとることが、自らの正当な利益を守ることになるのではないか。真摯にありのままに証言する姿勢をとれば、それは、国民の共感を呼ぶであろうし、検察も、偽証の制裁の下で佐川氏が行った証言の内容を前提に、刑事責任追及の可否を検討することになるであろう。【森友文書書き換え問題、国会が調査委員会を設置すべき】でも述べたように、決裁文書書き換えで刑事責任が問われる可能性は、常識的に考えれば決して高くはない。

佐川氏が、拒否することなく証言すれば、喚問すべき証人を喚問することに加えて、私が決裁文書の書き換えが明らかになった時点から上記ブログなどで主張してきたように、今回の問題の被害者とも言える「国会」が独立・中立な「調査委員会」を設置し、真相を解明していくことについて真剣な議論を行うことも可能になるだろう。

財務省のキャリア官僚として活躍してきた佐川氏であれば、法的知識・素養も十分にあるはずであり、弁護士に相談することなく、被疑者になり得る立場と国会での証人という立場から、自らどのような法的な権利・義務があるかを判断することも可能なはずだ。

国会の証人喚問に弁護士の補佐人を立ち会わせることなく、証言拒否は一切行わず、記憶していることをありのままに証言することを期待したい。

 

 

 

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「リニア談合」告発、検察の“下僕”になった公取委

3月23日、東京地検特捜部は、リニア中央新幹線の工事をめぐる談合事件で、大林組、鹿島、清水建設、大成建設のゼネコン4社と、逮捕された大成建設、鹿島両社の担当者2人を独占禁止法違反(不当な取引制限)で起訴した。

大成建設、鹿島2社の担当者については、逮捕した以上、起訴しないことは考えられず、不当に起訴されるであろうとは思っていたが、驚いたのは、大林組、清水建設の2社の担当者が起訴されず、法人だけの起訴になったことだ。

しかも、起訴事実は、逮捕事実と実質的に変わっておらず、品川駅・名古屋駅の合計3工区の工事に関する合意だとのこと。それらの工事を受注したのは、担当者が起訴されなかった大林組と清水建設であり、逮捕・起訴された大成と鹿島の2社は、全く受注もしていない。

大林組、清水建設の2社の担当者の不起訴の理由については、「公正取引委員会に談合を自主申告し、捜査に協力したことなどを考慮したとみられる」などとされている。

逆らう者は逮捕する「権力ヤクザ」の特捜部】でも述べたように、検察は、そもそも、独禁法違反の事実を否認している2社の担当者だけを逮捕するという「権力ヤクザ」のようなことをしているのだから、その流れで、検察が、2社を不起訴にするのは想定できないわけではない。問題は、公正取引委員会(公取委)までもが、その検察の方針に沿う形で告発を行ったことだ。

公取委は、独禁法違反の犯罪について「専属告発権」を有しており、公取委の告発がなければ、検察は起訴することができない(96条1項)。そして、公取委が告発した事件について不起訴処分を行った場合、検察官は、法務大臣を通して内閣総理大臣に不起訴理由を報告しなければならない(74条3項)。独禁法違反の犯罪について、他の犯罪とは比較にならないほど、公取委に強い権限が与えられているのである。ところが、今回、公取委は、4社と2者の告発をすることで、検察捜査に刃向かう会社とその担当者を徹底して不利に取り扱うという検察の極めて不当なやり方を、丸ごと追認した。

もし4社間で「競争を制限する合意」があったとしても、それによって工事を受注して利益を得た会社の担当者と、受注せず協力しただけの会社の担当者と、どちらが独禁法違反として悪質・重大かは、明らかなはずだ。検察の取調べに対して犯罪事実を否認している2社の担当者だけを起訴し、認めている2社は起訴しないというのは、検察の都合による、検察の方針であり、公取委にとって、担当者の告発に差を設ける理由は全くないはずである。公取委は、記者会見でその理由について質問され「調査の内容に関わる」などと意味不明の理由で説明を拒んだようだ。

しかも、昨年12月の時点で当ブログ【リニア談合、独禁法での起訴には重大な問題 ~全論点徹底解説~】で詳細に述べたように、リニア工事は、JR東海という民間企業の発注であり、極めて高度な技術が要求される大規模工事で、発注方式も、受注者選定の方式も、そのような工事の特性に応じたものとなっているのだから、そもそも、今回のリニア工事をめぐる問題は、独禁法違反の犯罪で処罰すべき問題ではない。

日経Bizgate「郷原弁護士のコンプライアンス指南塾」【「リニア談合」の本質と独禁法コンプライアンス】でも述べたように、「独禁法違反の犯罪」の成否以前の問題として、独禁法コンプライアンスの基本的視点から考えれば、そもそも独禁法で問題にすべき案件ではないことは明らかだ。

ところが、公取委は、「『4社の法人に対する告発状』と『2社担当者だけの告発状』を持ってこい」という検察の「御用命」に、 “下僕”のように従った。

そのような告発に至るまでの経過は、産経ネット記事【大成・鹿島「最高裁まで争う」 検察主導、司法取引“先取り”…異例ずくめの捜査】によれば、

特捜部は昨年12月8、9日、リニアの非常口新設工事の入札で不正があったとして偽計業務妨害容疑で大林組を家宅捜索。同18、19日には独禁法違反容疑で公取委とともに4社を捜索したが、別の公取委幹部は「事件のスタートからして異例だった」と振り返る。

談合事件は、公取委が数カ月かけて調査を進めた上で特捜部が本格捜査に乗り出すのが一般的だが、今回は当初から特捜部が主導し、家宅捜索からわずか2カ月余りで大成と鹿島の幹部を逮捕。起訴に至るまで3カ月という“スピード捜査”だった。「市場の番人」といわれる公取委がゼネコン側の聴取にもあまり携わっておらず、最後まで“置き去り”にされた。

ということのようだ。「本来は公正取引委員会の調査が先行する談合事件で、特捜部が終始捜査を主導する、異例ずくめの捜査」だった。

ゼネコン談合に対する独禁法の適用、それを悪質・重大として告発することの是非というのは、独禁法の運用強化が図られてきた90年代以降、公取委にとっても重要なテーマであった。私が公取委出向時1992年に関わった埼玉土曜会事件以降、公取委と検察との間には様々な確執があった。(埼玉土曜会事件は、大手ゼネコンによる談合事件の告発をめざして、公取委として可能な限りの調査を行ったが、検察の幹部や現場からの強烈な消極的対応のため、告発断念に追い込まれた事件。その経過については、【告発の正義】(ちくま新書:2015年)第3章で詳しく述べている。)告発見送りを正式に決定した公取委と検察との協議の場で、当時の最高検財政経済係検事が述べた次のような言葉(同書97頁)が、当時の検察側の考え方を象徴するものだった。

そもそも66社もの談合の事件を告発などしようと考えるのがおかしい。そんな事件を告発されたら、検察がどれだけの検事を動員してやらなければならなくなるか。公取委には、排除勧告とか課徴金とか、自分でやれることがあるんだから、それでやっていればよい。

このような独禁法の問題に対する検察の基本的なスタンスは、当時から全く変わっていない。「独禁法という法律が、経済社会にとって極めて重要な法律であり、その法律の実効性を高めていくためには、課徴金等の行政処分に加えて、悪質・重大な事案には刑事罰を科す必要がある」というのが、独禁法的視点からの刑事罰適用の理由だが、検察には、そのような視点は全くない。「検察の捜査は検察のためにやるのであり、特捜部としてリソースを投入して行う捜査は、特捜部として社会的注目を集め、評価される事件をやるためのもの」ということなのだ。

今回は、逆に、「公共調達をめぐる競争政策」という、独禁法運用においても極めて重要なテーマに、検察が、検察の都合で土足で踏み込んできて、ほとんど公取委に独自に判断させることもなく、勝手に捜査をして、独禁法の解釈についても、告発の要否についても、検察の方針を公取委に押し付け、公取委は、それに唯々諾々と従ったのである。

今回の「リニア談合事件」での公取委の告発は、独禁法運用を担ってきた公取委の歴史に重大な汚点を残したと言わざるを得ない。

 

 

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美濃加茂市長事件の真相解明に向け、民事訴訟提訴

受託収賄等の事件で有罪判決を受け、市長辞任に至った前美濃加茂市長藤井浩人氏が、虚偽の贈賄供述を行った人物と、控訴審での証人尋問を妨害する行為を行った弁護士に対して損害賠償を求める民事訴訟を提起したことについて、昨日(3月22日)、原告の藤井氏と弁護団による記者会見が、東京司法クラブで行われた。

記者会見の冒頭、藤井氏は、提訴に至った理由、その思いについて、以下のようにコメントした。

 2013年6月から、昨年12月まで、岐阜県美濃加茂市長を務めておりました藤井浩人です。

全く身に覚えのない収賄の罪で逮捕起訴され、名古屋地裁では、贈賄証言が虚偽だと判断され、無罪を言い渡して頂きました。ところが、二審名古屋高裁では、私には一言も発言の機会が与えられないまま、全く理由もなく逆転有罪が言い渡されました。そして、昨年12月、上告理由に当たらないとして上告は棄却され、それを受けて、私は市長を辞任しました。

こうして刑事裁判では、私は賄賂の現金を受け取ったとされましたが、真実は一つです。裁判でずっと訴えてきたとおり、私は、現金を受け取った事実は全くありません。私に現金を渡したという証言は、全くの嘘です。

その真実を、民事裁判の場で明らかにするため、嘘の贈賄証言をした人物と、刑事裁判で真実が明らかになることを妨害した弁護士の二人に対する損害賠償請求訴訟を提訴しました。

一審判決では、多くの証人尋問や私の被告人質問が行われ、贈賄供述者が、自分の刑事処分を軽くするために虚偽の贈賄供述をしたと指摘して頂きました。

控訴審でも、贈賄供述をした動機について一審と同様の判断が示され、新たに明らかになった事実は何一つなかったのに、なぜか結論は逆転有罪でした。

上告審では、贈賄供述の信用性について全く判断をしてもらえませんでした。

刑事裁判の経過の中で絶対に許せないのは、証人尋問の前に私の事件の一審判決書が受刑中の贈賄供述者に差し入れられたことで、控訴審の証人尋問が台無しにされてしまったことです。控訴審判決でも、「証人尋問の目的が達せられなかった」と認めています。この贈賄供述者の証人尋問は、資料の提示もせず、検察官との打合せもさせないで、記憶していることを確かめるために証人尋問が行われたものでした。私は、その証人尋問で、現金を渡したという話が全くの嘘だという真実が明らかになるものと期待していました。そのような証人尋問の妨害を、贈賄供述者の弁護人だった弁護士が行ったことは絶対に許せません。今回、その弁護士に対しても訴訟を提起したのは、なぜそのような証人尋問の妨害を行ったのか、真相を明らかにするためです。

原告訴訟代理人には、郷原先生を中心とする一審からの弁護団のコアメンバーと、上告審で弁護に加わって頂いた喜田村先生、それに、新たに、元裁判官の森炎先生にも加わって頂き、大変心強い弁護団にお願いすることができました。

この度の訴訟の目的は、真実は一つであり、「現金の授受が全くないこと」「贈賄供述が嘘であること」を明らかにするためです。そのためにも、二人の被告に、事の重大さをしっかり認識し、民事裁判を真剣に受け止めてもらうため、私が被った損害の全額を請求額としました。

民事裁判は、東京地裁民事44部の3人の裁判官に担当して頂くことになりました。刑事裁判の中で明らかになったことを、改めて公正に判断して頂ければ、現金授受の事実は全くなく、贈賄証言が嘘だという真実が明らかになるものと確信しています。

藤井浩人美濃加茂市長 冤罪 日本の刑事司法は‟真っ暗闇”だった!】で述べたように、最高裁から、昨年12月11日付けの「三行半の例文」の上告棄却決定が届き、藤井氏は、市長辞任の意向を表明したが、我々弁護団に対して、

「市長は辞任しますが、私が現金を受け取った事実はないという真実を明らかにするため、今後も戦い続けます。とれる手段があるのならば、あらゆることをやっていきたい。」

と述べて、自らの潔白、無実を明らかにするために戦い続けていくことを明確に宣言していた。今回の提訴は、このような藤井氏の意向を受けて行ったものだった。

一般の刑事事件であれば、「有罪判決が確定したのだから、裁判所の判断は、『贈賄供述は信用できる』『現金授受の事実があった』ということだ。それを民事訴訟で蒸し返しても仕方がないではないか」と思われるだろう。

しかし、そのような一般論は、藤井氏の刑事裁判には通用しない。

この事件では、贈賄証言の信用性について、贈賄供述者の証人尋問や被告人質問を自ら直接行ったうえで、「贈賄証言は信用できない」として無罪を言い渡した一審裁判所と、書面だけで「贈賄供述は信用できる」と判断した控訴審裁判所との間で判断が分かれた。そして、上告審は、「上告理由に当たらない」として上告を棄却し、収賄の事実の有無についても、贈賄証言の信用性についても判断は示さなかった。

このような裁判の経過や、各裁判所が示した判断を踏まえて、民事裁判で、主張立証が尽くされ、公正な審理が行われれば、贈賄証言が虚偽だという真実が明らかになる可能性は十分にある。

刑事裁判での真相解明の最大のポイントは、控訴審裁判所が、職権で、贈賄供述者の証人尋問を直接行って信用性を確かめようとした場面だったが、「裁判所も予測しなかった事態」によって尋問の目的が達成できず、一審での贈賄証言を書面だけで判断するしかなくなった。その判断が、信じ難いことに、一審判決の判断を覆し、贈賄証言の信用性を肯定するというものだったのである。

その「裁判所も予測しなかった事態」というのが、証人尋問の前に、藤井氏の事件の一審判決書が受刑中の贈賄供述者に差し入れられたことだった。それが、いかなる経緯で、いかなる目的で行われたのか、その点の真相解明も、今回の民事訴訟の重要な目的だ。

贈賄供述者は、一審証人尋問の前に、検察官と1か月以上にわたって朝から晩まで打合せを行っていたことを証言している。控訴審裁判所は、そのような検察官との打合せを行わせず、事前に資料も見せず、記憶していることをそのまま証言させたいとして控訴審での職権証人尋問を行う方針を示した。検察官は「記憶が減退している」と言って、証人尋問に強く反対したが、その反対を押し切って尋問が決定された。そのままの状態で証人尋問が行われたら、贈賄供述が記憶とは無関係の「作り話」だったことが明白になってしまう。検察は確実に追い詰められていた(【検察にとって「泥沼」と化した美濃加茂市長事件控訴審】)

そこに、検察にとって、まさに「神風」のような出来事が起きた。一審での贈賄供述者の証言が詳細に書かれている藤井氏の一審判決のほぼ全文に近い「判決要旨」が、贈賄供述者の弁護人だった弁護士によって、受刑中の贈賄供述者に差し入れられたのだ。この弁護士と、贈収賄事件の主任検察官との関係について、贈賄供述者は「私の弁護士と検事は知り合いです。いろいろと交渉してくれてる様です。」と自筆の手紙に書いていた。

その判決要旨差入れから約1か月後に行われた証人尋問で、贈賄供述者は、一審とほとんど同じ証言を行った。判決要旨を熟読して証言内容を用意してきたことは明らかだった。

この控訴審での証人尋問について、控訴審判決は、

受刑中の贈賄供述者が、当審証言に先立ち、原判決の判決要旨に目を通したという裁判所としても予測しなかった事態が生じたために目論見を達成できなかった面がある。

と判示して、証人尋問の目的が阻害されたことを認めている。

上告棄却決定の直前に公刊した【青年市長は“司法の闇”と闘った  美濃加茂市長事件における驚愕の展開】を読んでくれた方々が、不当極まりない警察の捜査、検察の起訴・公判立証、逆転有罪を言い渡した控訴審判決に憤り、藤井氏に対して励ましの声をかけてくれた。その思いを受け止め、民事訴訟を通して事件の真相を明らかにできるよう、全力を尽くしていきたい。

 

 

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“人質司法の蟻地獄”に引きずり込まれた起業家

「人質司法」とは

詐欺で逮捕されてから8か月以上も勾留されたままになっている森友学園の前理事長の籠池泰典氏夫妻などに関して、「人質司法」の問題が注目を集めている。

日本では、犯罪事実を認めた者は身柄を拘束されないか、拘束されても早期に釈放されるが、犯罪事実を否認する者、無罪主張をする者は、勾留が長期化し、保釈も認められず、長期間にわたって身柄拘束が続くという「人質司法」が、当然のようにまかり通ってきた。

日本が欧米に比べ犯罪の検挙率、有罪率が極端に高いことの背景に、罪を犯した者が、警察、検察に犯罪事実を自白する率「自白率」が高いということがある。犯罪者は「確実に」検挙・処罰され、しかも、自らの罪を認めて悔い改めることで、日本社会の治安の良さが維持されてきた、というような見方が一般的であった。

それが「人質司法」が肯定されてきたことの背景とも言えるだろう。

警察や検察に逮捕された者は、通常、潔く自白し、裁判でも罪を認める。被疑事実を争ったり、裁判で無罪主張したりする人間は、世間の常識をわきまえない異端者・逸脱者であり、そういう人間の身柄拘束が長引くのは致し方ない、という考え方だ。

確かに、警察、検察の捜査が「常に」適正に公正に行われ、逮捕・起訴も正当な判断によって行われているのであれば、「人質司法」も特に大きな問題ではない。しかし、もし、警察、検察が判断を誤り、不当に逮捕されたり、起訴されたりした場合、「人質司法」は、恐ろしい「凶器」となる。無実、潔白を主張する者、逮捕、起訴が不当だと訴える者は、長期間にわたる身柄拘束を覚悟しないといけないということになる。起訴されたら、検察官の主張を丸ごと認めない限り、自由の身にはなれない。そのため、意に反して自白し、事実を認めざるを得ない、無罪主張を行うこともできない、ということになり、それが、多くの冤罪事件を生んできた。

こういう「人質司法」は、もともと、反社会的なことをしている人間、犯罪者、犯罪と密接な関わりを持っている人間や、国会で安倍首相や昭恵夫人と対立する証言を行った籠池氏のように、社会的には注目を集めることをやった人に起きることであり、一般の市民には無縁の世界だと思われているかもしれない。

しかし、決してそうではない。普通に生活し、普通に仕事をしていた一般市民も、「人質司法」の脅威にさらされることがある。突然、犯罪の疑いを受け、逮捕、起訴され、その疑いを晴らそうとすると、「人質司法」の“蟻地獄”に引きずり込まれ、何とか身柄拘束から逃れようとして、検察官の主張を全面的に受け入れて身に覚えのない罪を認め、裁判では自分の言い分を述べることもできない。そういう悲惨な事態に追い込まれることも起こり得るのだ。

私が、上告審になって弁護人を受任し、先週、上告趣意書を提出した唐澤誠章氏の詐欺、脱税幇助の事件は、真面目に懸命に仕事に取り組んでいた一人の起業家に、「人質司法」が容赦なく襲い掛かり、“蟻地獄”に取り込まれた事例だ。

 

中小企業支援事業の起業家が刑事事件に巻き込まれるまで

唐澤氏は、大学卒業後、人材コンサルティング会社を経て、24歳で起業した。

目指したのは「中小企業の雇用を創出すること」だった。当時は、まだ従業員数が100名以下のいわゆる中小企業に新卒大学生が就職することは珍しく、中小企業で新卒大学生を募集する手段もノウハウも確立されていなかった。多くの中小企業の社長は、新卒大学生の採用は中小企業にとっては無理だという社会通念が根深かった。しかし、日本の企業の97%以上は中小企業だというデータがある中、中小企業における雇用拡大、創出は大きなテーマになると考え、中小企業の新卒大学生の採用支援・代行を成功報酬型で行う日本初のビジネスモデルを考案し、活力ある中小企業の新規雇用創出に貢献したいとの志を抱いて起業したものだった。

そして、中小企業が大手企業に負けないように採用活動を進めていくためのノウハウを次々に考え、将来性があっても、学生に知られていない中小企業で優秀な新卒大学生を採用するための「採用支援・代行事業」を行った。その結果、起業して約20年間で約500社もの企業の採用支援・代行を行い、約5万人の新卒大学生の就職支援を行った。

会社は、最盛期には従業員170人、経常利益6億円まで成長し、上場も目前だったが、2008年のリーマンショックで危機的状況になり、事実上倒産。しかし、何とか事業を立て直し、従業員数40名に回復するところまで漕ぎつけた。

ところが、2014年2月20日、突然、唐澤氏の会社に、東京国税局査察部の強制調査が入った。唐澤氏の会社は、ようやく採算ラインに届いた程度で、法人税の問題など起きようがない。その査察調査は、主要取引先だったM氏が経営する企業グループに対して行われた国税局査察部の一斉強制調査だった。

M氏は査察部の一斉強制調査でも脱税を全面的に否認していたようで、査察調査は長期化し、取引先に過ぎない唐澤氏にも、M氏の脱税に関与している疑いが向けられた。

問題とされたのは、M氏の経営する会社との間の月額150万円の業務委託契約だった。

M氏から、「妻名義にした自宅不動産を担保に銀行から住宅ローンを借りるため、妻に安定収入があるように銀行に見せる目的」と説明され、唐澤氏が経営する会社で、その不動産を賃借し、その賃料に見合う業務委託契約を締結して、M氏から唐澤氏の方に賃料相当額を支払うことになったものだった。

業務委託契約書は唐澤氏が以前からM氏の会社に対して行っていた採用支援業務の延長上のような業務内容で、実体がある契約だった。また賃貸借契約書は、確かに、住宅ローンの関係で銀行に提出することが目的の契約であり、実際に、唐澤氏側がその不動産を使ったことはほとんどなかったが、自宅の一部を、唐澤氏の会社で会議用等に使えるように提供してもらっており、いつでも使えるように、自宅を開錠する暗証番号も教えてもらっていた。

M氏の経営する会社からは、唐澤氏が起業して間もない頃から、新卒採用の支援業務の大口の発注を受けており、唐澤氏は、M氏に恩義を感じていた。M氏の値引きや支払いの時期・方法などについての要望にはほとんど従っていたこともあり、M氏の「架空ではないから問題はない」との言葉を信じて契約に応じた。

その業務委託費が架空経費の疑いを受け、国税局の査察調査では、M氏が経営する会社の法人税の脱税の手段とされたようだった。そして、賃貸借契約と業務委託契約が架空契約であり、M氏の脱税に加担するためのものだとして、唐澤氏も「脱税幇助」の疑いをかけられたのである。

唐澤氏は、M氏の脱税容疑について何度も任意で呼び出されて聴取を受けたが、M氏の企業グループの幹部などではなく、取引先に過ぎない唐澤氏にとって、M氏が経営するどの会社でどのような税務申告を行っているのか、そこで脱税しているかなどということは全く与り知らないことだった。唐澤氏は、「M氏の脱税のことは一切知らない。」と脱税への関与を明確に否定した。

 

全額返還を妨害した助成金詐欺での強引な逮捕

国税局査察部の調査も長期化し、強制捜査から2年半が経過した。M氏への査察調査は終了したのかと思っていた矢先の2016年7月、M氏の会社が受けていた中小企業雇用安定助成金の不正受給に関する東京地検特捜部の捜査が始まり、会社の従業員が事情聴取を受けた。

その助成金に関する手続は、唐澤氏の会社が受託して行ったものだった。社員に休業させて研修を受けさせた場合に支払われるものだったが、当初、行う予定だった研修が実際にはほとんど行われていないものがあり、結果的に不正に受給したことになっていることは否定できなかった。

特捜部が、国税局査察部が強制捜査で押収したM氏の会社の全データ・書類の中から助成金関係の書類の不備を見つけ、M氏の脱税の容疑を固め、助成金詐欺としてM氏と唐澤氏を立件しようとしていることがわかった。

唐澤氏は、東京労働局に問い合わせをし、受給していた助成金で不正や不備があった場合の対処について聞いたところ、「東京労働局として調査をし、不正であることが確認できれば、取消決定通知を出すので、取消決定通知を受けて全額返納してくれれば良い」という回答だった。また、「全額返納した場合、刑事告発は行う理由がない上、過去に刑事告発をした事例は1件もない」との回答だった。

そこで、唐澤氏は、自らが受け取っていた報酬分を全額、M氏側に返還し、その数日後には、M氏の会社が受給した助成金について東京労働局へ全額返済しようとしたが、東京労働局から、「独自の調査で不正受給であると正式に認定し取消決定通知を出してからでないと受け取れない」と言われたため、やむなく、東京労働局の調査が終了するまで、東京労働局にも伝えたうえで、2016年9月15日に全額を供託した。東京地検特捜部の取り調べでも、法務局への供託書のコピーを提出した。しかし、唐澤氏は、27日に、M氏とともに、助成金不正受給の詐欺罪で逮捕されることとなった。

唐澤氏が、逮捕され、接見禁止のまま勾留されたために、東京労働局の調査に応じることができなくなり、助成金を全額返還するため供託までしていたのに、被害弁償も完了できなかった。120日にも及ぶ勾留がなければ、東京労働局の調査を受けて、速やかに取消決定を受けて、全額返済し、それで100%終了していたことは確実だった。

逮捕された9月27日は午前10時から東京地検特捜部で任意の取り調べ予定があったが、前日から、心臓の痛みなど極度の体調不良となったため、検察官に、体調を壊し、病院で受診することと病院名を連絡した上で、病院で入院のための検査を受けていた。そこに、特捜部の検事がやってきて、検査を中断させられて逮捕され、そのまま拘置所に収容された。

逮捕、勾留は、助成金の全額返還を妨害するために強引に行われたものだった。

 

「人質司法」の“蟻地獄”

以上が、唐澤氏が逮捕されるまでの経過だ。

極度の体調不良の状態で逮捕された唐澤氏にとって、拘置所での身柄拘禁は、まさに地獄だった。彼は、幼い頃から、極度の閉所恐怖症で、遊園地の観覧車にも乗れず、会社を経営するようになって以降も、商談であっても狭い会議室には入ることもできない程だった。

そのような唐澤氏は、拘置所の独房に入れられ、不安と恐怖のため一睡もすることができず、拘置所の医師に、不安障害、パニック障害と診断され、睡眠薬、数種類の抗精神薬等を処方され、朝、昼、晩、寝る前と4回も大量に服用せざるを得ない状態となった。意識が朦朧とした状態となり、検察官の取調べに対しても、まともに受け答えすらできず、取り調べは、平均して1日30分程度しか行われなかった。

唐澤氏は、助成金詐欺容疑での勾留満期に起訴されると同時に、M氏に対する法人税法違反幇助で再逮捕された。「M氏との間で架空の業務委託契約を行って脱税を幇助した」という被疑事実だった。唐澤氏には、「脱税を幇助した」という認識は全くなかった。M氏の自宅不動産の賃貸借契約も、住宅ローンの関係で銀行に提出することが目的の契約で、実際に自宅の一部は、唐澤氏の会社で会議用等にいつでも使える状態だった。業務委託契約も、実際に、起業当初から、M氏の会社からは様々な業務委託を受けており、その業務量をそれまでより増やしてくれるものと思っており、実態がないわけではなかった。しかも、唐澤氏は、M氏の会社の経営状況も税務申告の内容も全く知らない。黒字か赤字かも知らなかった。仮に、M氏が脱税をして、それに業務委託契約書が使われたとしても、それを唐澤氏が知る由もなかった。

唐澤氏は、取調べでそのように説明しようとしたが、その点について具体的に質問されることはほとんどなく、「M氏の脱税について他に私が知っていることはないか?」という趣旨のことを何度も何度も聞かれるだけだった。「会社を経営していたのだから、架空の業務委託契約に応じることが、脱税に利用される可能性があることは、わかっていただろう」というようなことを繰り返し質問され、朦朧とした意識の中で、それを認めたような内容の調書に署名させられた。

 

意見書で検察官が書いた「保釈すべきでない理由」

助成金詐欺に加えて、脱税幇助で起訴された唐澤氏の保釈請求は、3回にわたって却下された。裁判官からの保釈請求への求意見に対して、検察官は、「不相当であり却下すべき」として、強く保釈に反対した。

唐澤氏は、助成金を全額返還するために供託までしていたのであり、詐欺について裁判で無罪主張をするつもりはなかったが、助成金の不正受給は計画的なものではなく、不正の利益を得る目的ではなかったということを、取調べで朦朧とした状況の中でも訴えていた。検察官は、それについて「詐欺の犯意を否認している。無罪を争おうとしている」とした。また、脱税幇助については、保釈に反対する理由を次のように述べていた。

法人税法違反幇助事件について、被告人は、捜査段階の取調べにおいて、業務委託手数料の架空性を一応認めているものの、送金する名目となっていたMの居宅の建物賃貸借契約については、実際にMの居宅を打合せに使ったことがあったなどと供述している上、幇助の故意についても、業務委託手数料の計上が脱税を目的にしたものであると明確に認識していたわけではない旨曖昧な供述をしている(被告人の反省文にも「私自身の税に関する知識をしっかり見直し」、「過ち」などと記載しており、無罪を争う事案と考えていることが判明する。)。

検察官が言っているのは、「幇助の故意について曖昧な供述をしている」「無罪を争おうとしている」ということだ。

もともと、唐澤氏は、M氏の脱税について全く認識がなかったのだから、「全く知らなかった」と言って無罪主張をするのは当然だ。認識がなかったのだから、「曖昧な供述」になるのも当然だ。ところが、検察官は、それを「罪証隠滅のおそれがある」として保釈に強く反対する理由にしたのだ。

しかし、保釈請求を受けた裁判官は、このような全く不当極まりない検察官の意見を受け入れて、保釈請求を却下した。そして、唐澤氏の勾留は100日を超えた。保釈請求についての検察官の反対意見をそのまま受け入れてしまう裁判所の姿勢が、「人質司法」の悪弊につながっているのだ。

 

検察官が要求した事実を全面的に認める「上申書」提出

長期間にわたって勾留が続いたため、唐澤氏の睡眠障害、不安障害、パニック障害の症状はさらに深刻な状況となり、精神は崩壊寸前の状態だった。どんなことをしてでも、すぐに保釈をとってもらいたいと切望したことを受け、唐澤氏の一審弁護人は、検察官と交渉した。

検察官は、保釈に反対しない条件として、「第1回公判期日で公訴事実を全面的に認めること」、「検察官請求書証すべてに同意すること」のみならず、「事実を全面的にかつ具体的に認める旨の被告人の上申書を提出すること」を要求してきた。

弁護人から検察官の要求を伝えられた唐澤氏は、一刻も早く保釈されたいという思いから、「どのような上申書でも署名する」、「内容は弁護人に任せる」と答えた。弁護人は、検察官の要求に合わせ、脱税幇助を含めて事実を全面的に認める上申書を作成して唐澤氏に署名させ、検察官に提出した。

第1回公判期日では、被告人の罪状認否の際に、その上申書が、弁護人から裁判所に提出され、公判調書には、「公訴事実は間違いありません。その余については、上申書のとおりです」と記載されて上申書が公判調書に添付された。

第1回公判後の保釈請求に対して、検察官は、上申書が裁判所に提出され、罪状認否での被告人供述の内容とされたことから、保釈に反対せず、保釈がようやく許可された。

 

執行猶予獲得のため検察官主張への反論・主張を全て控える

こうして、唐澤氏は、120日にわたる勾留の末、ようやく保釈され、身柄拘束を解かれた。

第1回公判では、検察官請求証拠がすべて同意書証として取調べられたが、その内容には、唐澤氏には納得できない点が多々あった。脱税を幇助することなど全く考えていなかったのに、脱税幇助とされたことに加えて、絶対に納得できなかったのは、唐澤氏の会社でやってきたことが「助成金詐欺ビジネス」であるかのように検察官の冒頭陳述で書かれていて、関係者の調書もそういう内容になっていたことだった。唐澤氏が、中小企業緊急雇用安定助成金の書面作成代行業務の仕事を始めたのも、新卒採用支援・代行で取引してもらっていた企業から付随するサービスとして、助成金の書類の作成を依頼されたからだった。中小企業の役に立ちたいという気持ちから、助成金の書類作成について調査し、助成金の申請にかかわったもので、決して、詐欺ビジネスをやっていたわけではなかった。

しかし、保釈後、供託していた助成金の全額返還が完了したこともあり、一審弁護人からは、「起訴事実を全面的に認めて検察官の主張を争わなければ、執行猶予の可能性が高い」と言われていた。そこで、公判では、唐澤氏は、検察官の主張には全く異を唱えず、被告人質問でも、ひたすら「反省の弁」を述べ続けた。

ところが、検察官の論告求刑は「4年6月 罰金400万円」、懲役刑の求刑は主犯のM氏と同じだった。3年以下の刑でなければ執行猶予が認められないので、その求刑が「実刑相当」を意味することは明らかだった。しかし、助成金詐欺については全額返還済み、しかも、逮捕前に、返還のために全額供託までしている。脱税幇助についても、実際には、脱税についての認識もなく、もちろん、報酬も全く受け取っていない。そのような唐澤氏が実刑になる可能性は低いとの弁護人の言葉を信じ、執行猶予を期待していた。

しかし、一審判決は「懲役2年6月 罰金300万円」の「実刑判決」だった。

全く納得できない逮捕、勾留、起訴だったが、弁解したいことも弁解せず、主張したいことも主張せず、ひたすら「反省の弁」を述べて執行猶予を望んだが、結果は「実刑」だった。

控訴審では、新たな弁護人を依頼し、何とか執行猶予判決になるように弁護活動を依頼した。

一審判決後、M氏が脱税した税金を全額納付したこともあり、控訴審では情状が評価されて執行猶予になる可能性が相応にあるとの判断から、控訴審でも、事実は争わず、反省・悔悟を強調し、執行猶予付き判決を求めた。脱税幇助についても、一審判決の事実誤認や無罪の主張を敢えて行わず、「脱税の全体像を知らず、脱税を容易にする意図・目的を有していなかった」という情状面の主張にとどめた。唐澤氏の会社との取引先の中小企業主等1259人が、「20年にわたり、経営者として企業の採用代行、雇用創出という価値ある仕事に従事してきたという実績もあり」「今後も社会に貢献してほしいと強く願います。」「何卒、執行猶予を付した判決を強く嘆願いたします。」という内容の嘆願書を書いてくれたので、それも、裁判所に提出した。それは、彼の事業が決して助成金詐欺ビジネスなどではなく、採用支援・代行によって中小企業に貢献していることを示すものでもあった。

しかし、結局、控訴審でも、「懲役1年8月 罰金300万円」と、若干軽減されただけで、やはり「実刑」だった。

結局、一審でも、控訴審でも、唐澤氏に不利な認定の最大の根拠となったのが、第1回公判の罪状認否に添付された、具体的かつ詳細に事実を認める内容の上申書だった。

唐澤氏は、長期間の身柄拘束に耐えられず、精神も崩壊に近い状態に追い込まれて、検察官の意のままに作成された上申書に署名せざるを得なかった。それが、結局、極度の閉所恐怖症の唐澤氏が最も恐れていた実刑いう身柄拘束に追い込まれることにつながってしまったのである。

控訴審判決後に、弁護人を受任した私は、脱税幇助の事実について最高裁判例違反・事実誤認の無罪主張を行い、詐欺についても執行猶予が当然の事案であることを主張する上告趣意書を作成・提出した。

唐澤氏は、捜査段階での被告人の取調べ状況及び供述調書の作成状況について、検察官は被告人の述べることに耳を貸さず、検察官の設定したストーリーを押し付け、供述していないことを含めて強引に調書を作成して署名をさせようとする取調べだったと訴えた。その状況は録画に残された唐澤氏の様子を見れば一目瞭然だと思われた。

そこで、唐澤氏の主張を裏付けるべく、それまで開示されていなかった取調べの録音録画媒体の開示を検察官に求めたが、「応じられない」との通知があり、上告審裁判所に、証拠開示を命じる訴訟指揮権の発動を求めたが、証拠開示命令は行われなかった。

 

これが刑事裁判と言えるのか

以上が、唐澤氏が、査察部の強制調査を受け、東京地検特捜部に逮捕・起訴され、一審、二審で実刑判決を受けて上告審に至るまでの経過だ。

彼は、全面無罪を勝ち取ろうと考えていたわけではない。ただ、絶対に納得できないのは、M氏の経営状況も、納税のことも全く知らず、脱税幇助の意思など全くなかったのに、脱税幇助で有罪とされたことだ。それが認められるのであれば、他人に頼まれて架空の契約書や領収書の作成に応じたというだけで、脱税幇助の犯罪にされてしまうことになる。また、彼は、決して、助成金詐欺をビジネスでやっていたわけではないし、そこから不正の利益を得ようとしたわけではなかった。しかし、そういう彼の言い分は、全く述べる機会が与えられず、主張もできないまま、裁判では一方的に「反省の弁」だけを述べさせられるだけだった。これが、果たして刑事裁判と言えるのだろうか。

彼の事件の場合、「人質司法」は、単に、否認する被疑者・被告人の身柄拘束の長期化というだけでない。検察官が、保釈に反対しない条件として、事実を全面的に認める上申書の提出を要求し、身柄拘束から逃れたい一心から、それに応じたことで、その上申書が、事実に反する認定の唯一の根拠にされ、実刑に追い込まれるという、まさに「人質司法の蟻地獄」の世界そのものだった。

逮捕前に全額返還のために供託まで行っていた助成金詐欺についても、M氏の脱税のことは全く知らなかったと述べている脱税幇助についても、「罪証隠滅のおそれ」など全くないことは明らかであろう。検察官が保釈に反対する理由は、要するに「検察官が望むとおりに自白していない」というだけである。それは、人質司法によって、「罪証隠滅のおそれ」ではなく、「無罪主張のおそれ」を抑え込んでいるに過ぎない。

そして、何より許し難いのは、保釈に反対しない条件として事実を認める上申書を提出させるという検察官のやり方と、そして、その上申書を、罪状認否で被告人が述べたことのように公判調書に添付するという裁判所の姿勢だ。罪状認否というのは、公訴事実について、被告人が認めているのかどうか、認められない点があるとすればどの点かを被告人の口から直接聞いて確認するための手続であり、被告人を詳細に自白させるための手続ではない。

大阪地検不祥事を契機とする検察改革の流れの中で、検察官の取調べの可視化が進められ、法律上義務化されるに至った。しかし、その一方で、取調べで無理な自白をさせるのではなく、「人質司法」のプレッシャー、検察官の主張を丸ごと認めさせるという姑息な手段が使われ、裁判所までもがそれに加担している。

一般の市民であっても、このような「人質司法の蟻地獄」に取り込まれてしまう恐れがあるという恐ろしい現実を直視する必要がある。

 

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森友文書書き換え問題、国会が調査委員会を設置すべき

学校法人「森友学園」との国有地取引の際、財務省近畿財務局の管財部門が作成した決裁文書について、「契約当時の文書」と、「国有地売却問題の発覚後に国会議員らに開示した文書」の内容が違っていたと朝日新聞が報じた問題、3月7日に、国有地取引を担当していた近畿財務局職員が自殺し、9日に、国会議員に決裁文書を開示した当時の財務省理財局長佐川宣寿氏が国税庁長官を辞任した。

そして、昨日(3月12日) 財務省は、合わせて14の決裁文書に書き換えがあったこと、それらは、当時の財務省理財局の指示で、近畿財務局が書き換えを行っていたことを認める調査結果を公表した。

この問題に関しては、3月8日に出したブログ記事【「森友決裁文書書き換え問題」は“2つの可能性”を区別することが必要】で、国会議員に開示された決裁文書とは異なった内容の決裁文書が財務省内に存在していたとすると、「決裁文書原本の写しとして国会議員に開示された資料が、開示に当たって書き換えられた可能性」と「公文書として財務省が管理しておくべき決裁文書原本そのものが、最終的に現在の内容になるまでの間に書き換えられた可能性」の二つ可能性があることを指摘した。

今日の財務省の調査結果の公表によると、上記の二つの可能性のうち前者の「国会議員への提出用の決裁文書の写しの書き換えが行われた」ということのようだ。

 

朝日新聞が指摘していた「特例的な内容となる」「本件の特殊性」「学園の提案に応じて鑑定評価を行い」「価格提示を行う」など森友学園に対する「特例的な扱い」を示す言葉のほか、「安倍昭恵夫人」、籠池氏と「日本会議大阪」の関係などの記載が削除された「決裁文書の写し」が作成され、それが真正な決裁文書の写しであるように装って国会議員に開示されていた。まさに、国会での審議或いは国政調査権の行使等に関して重要な事実を隠蔽したということであり、行政権の行使について内閣が国会に対して責任を負う議院内閣制の根幹を揺るがしかねない許すべからざる行為だ。

しかし、それについて、公文書偽造罪等の刑法上の「文書犯罪」が成立する可能性は高くないように思える。

問題は、第1に、国会議員に提出した「決裁文書の写し」が偽造・変造等の対象となる「公文書」に当たるか、第2に公文書偽造・変造罪の成否、第3に虚偽公文書作成罪の成否だ。

第1の点は、「原本の写であっても、原本と同一の意識内容を保有し、証明文書としてこれと同様の社会的機能と信用性を有するものと認められる限り、公文書偽造罪の客体となる」との判例(最判昭和51年4月30日)もあるので、書き換えた「決裁文書の写し」を国会議員に提出し、決裁文書の原本が同一の内容だと信じさせた本件において、「写し」であることが公文書偽造・変造等が成立の妨げにはなることはない。

第2に、公文書偽造・変造罪の成否だが、それらが成立するのは、決裁文書の作成権限者以外の者が、その了解なく、作成権限者の名義で勝手に公文書を作成した場合だ。作成権限者の了解の下に作成したのであれば偽造・変造罪は成立しない。決裁当時の作成権限者が既に異動している場合は、職務権限規程の内容によるが、書き換えた時の作成権限者が書き換えを了解できると解し得る場合が多いであろう。決裁文書の書き換えについて、公文書偽造・変造罪が成立する可能性は低い。

最大の問題は、第3の虚偽公文書作成罪の成否だ。

今回の「書き換え」は基本的に「一部記述の削除」に過ぎない。一部の文言や交渉経緯等が削除されたことによって、国有地売却に関する決裁文書が事実に反する内容の文書になったと認められなければ「虚偽公文書の作成」とは言えない。「特例的な扱い」を示す記述の削除は、それによって、実際には、国有地売却が「特例的な扱い」であったのに、特例的ではない「一般的な扱い」による売却として決裁されたという内容の決裁文書になったと認められれば、「虚偽公文書」に当たることになる。財務省側は、交渉経緯や「安倍昭恵夫人」「日本会議大阪」に関する記載が削除された点は、決裁文書において決裁の根拠となった「本質的な内容」ではなく、「虚偽公文書」には当たらないと主張するであろうし、その点は、まさに疑惑の核心とされてきた、森友学園と安倍昭恵氏との関係、日本会議大阪と籠池氏との関係等が、国有地売却の決裁において重要な影響を及ぼしたかどうかに関連する。その影響があったと認められなければ、これらの記載を削除した決裁文書の写しの作成が「虚偽公文書作成」に当たるとは言えない。

なお、国会での議論において重要となる記載を意図的に削除した決裁文書の写しを「真正な決裁文書の写し」であるかのように装ったからといって、文書の内容自体が虚偽でなければ、「虚偽公文書の作成」には当たらない。「決裁文書の写し」の行使目的が「国会に対する騙し」だったということとは、別の問題である。

このように考えると、今回の書き換えについて、公文書の偽造・変造、虚偽公文書作成などの「文書犯罪」が成立する可能性はかなり低いように思える。むしろ、国会議員の調査や国会での審議に対する妨害であることからすると、元検事の住田裕子弁護士がテレビ番組等で主張しているように、むしろ、「国会議員の調査や国会での審議に対する妨害」として「偽計業務妨害罪」ととらえる方が、実態には即していると言うべきであろう。しかし、国勢調査による真相解明を妨げる行為については、国会での虚偽答弁自体が処罰されないのに、それに合わせる形で行った文書の書き換えが、国政調査権の行使を妨げる「偽計業務妨害罪」と言いうるかが問題となる。

 

国会での議論において重要なポイントとなる記載を削除した「決裁文書の写し」を真正な決裁文書と内容が同一であるように装って提出するということは、議会制民主主義の根幹を損なう行政機関の国会及び国民に対する裏切りであり、到底許容できないものだ。しかし、そのような行為は、法の想定を超えたものであり、犯罪として処罰することには、もともと限界がある。

 

この問題に関しては、客観的な立場から、事案の経緯・背景を解明し、行為者を特定し、なぜ、このようなことが行われたのかについて、詳細に事実を解明することが不可欠であり、犯罪捜査や刑事処罰は中心とされるべきではない。その調査を、今回の問題で著しく信頼を失墜した財務省自身が行っても、調査結果が信頼されることはないだろう。独立かつ中立の立場から信頼できる調査を行い得る「第三者による調査」の体制を早急に構築することが必要である。そして、その調査体制の構築も、当事者の財務省に行わせるべきではない。今回の問題の性格・重大性に鑑みると、「書き換えられた決裁文書」の提出を受けた「被害者」とも言える「国会」が主導的な立場で調査を行うべきであり、福島原発事故の際に国会に設置された「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」のような、国会での国政調査の一環と位置付けるべきだ。

今回の書き換えが犯罪に当たる可能性は全くないとは言えないが、国会主導の調査が行われ真相が解明された後に、その結果を踏まえて、「被害者」である国会が告発を行うかどうかを検討すべきであろう。

重要なことは、犯罪に該当する可能性が低いのに「検察の捜査に協力する」などということを、「調査を十分に行わないことの口実」に使われることがないようにすることだ。

今回の問題の重大性、悪質性からすると、「公務員犯罪として処罰すべきだ」という声が高まり、野党やマスコミの追及においても、「犯罪捜査、関係者の逮捕、刑事処罰」等を強く意識したものになる可能性がある。しかし、これまで述べてきたように、今回の問題が刑事事件として起訴に至る可能性は低い。検察当局も、犯罪に当たる可能性が低いことは当然認識しているはずであり、告発でも行われない限り、正式に「捜査中」とコメントすることはないはずだ。

今回の問題について、犯罪処罰を追求し、告発等を行うことは、重要な事実について調査回避の口実を与え、真相が解明されることを免れようとする側を、かえって利することになりかねない。

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