宗像紀夫弁護士の見解に対する反論

昨年12月7日、朝日新聞オピニオン面の「耕論―不祥事と第三者委員会」に、以下のような、私の第三者委員会委員長としての行動を批判する宗像紀夫弁護士(元名古屋高検検事長・東京地検特捜部長)の見解が掲載された。

私は過去に何件か第三者委員会の委員長などを引き受けましたが、その時に留意したのは、予断や偏見、その他政治的な思惑などを一切持たずになるべく多くの関係者に話を聞くこと。そして、契約上守秘義務が課されているか否かに関わらず、調査で知り得た事実を勝手に公表しないということでした。大きい企業の不祥事ですから、新聞記者などが調査内容を聞こうと接触してきましたが、途中経過は一切話しませんでした。
昨年日弁連が策定した「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」でも、「独立した立場で中立・公正で客観的な調査を」「調査報告書提出前にその全部または一部を企業等に開示しない」と定めています。
こうした観点から見て、問題となるものもあります。九州電力の「やらせメール」問題に関する第三者委員会の郷原信郎委員長の行動です。
まずは、郷原氏が、委員長内定後、就任直前に古川康・佐賀県知事と面会して、「早期に辞任した方が政治的ダメージは少ない」と辞任を促したことです。最も重要な調査対象である古川知事に辞任を求めるという行動を見ると、郷原氏が何らかの予断を持って調査に臨んでおり、中立・公正な立場ではなかったと言われても仕方ないのではないでしょうか。
その後7月30日、古川知事が記者会見でやらせメールへの関与を否定するや、郷原氏も委員長として会見し、「知事の発言は結果的にやらせメールの引き金になった」と反論しました。まだ本格的な調査も始まっていない段階でのこのような発言は、委員会に対する信頼性を失わせるものであり、越権行為と言えます。

この中には明らかに事実に反する前提で書かれている部分があり、しかも、日弁連第三者委員会ガイドラインについても、その趣旨を誤解して、私への批判に引用している。
このような宗像弁護士の「見解」は、コンプライアンスを専門とする活動を行ってきた立場としては到底容認できないものであり、その直後に出された朝日新聞のWebジャーナルの「法と経済のジャーナル」のインタビュー記事の末尾でも[追録]の形で反論した。

本日付け朝日新聞オピニオン面「私の視点」の「第三者委員会 対話型と独立型を柔軟に」と題する記事の中でも、宗像弁護士の「見解」への反論を述べている。ただ、字数の制約もあり、同記事では第三者委員会に関する一般論に基づいて「まったくの的はずれである」と切り捨てるにとどめている。
そこで、同氏の見解の誤りを詳細に述べることとするが、その前に、このような宗像弁護士の見解が新聞に掲載されたこと自体に対する疑問について述べておきたい。

そもそも、上記「耕論」の中で、宗像弁護士が「第三者委員会の専門家」と位置付けられていること自体が不可解である。私の知る限りでは、宗像弁護士が第三者委員会の委員長を務められたという話は、横浜市立大学の学位謝礼問題の調査委員会ぐらいしか知らない。企業等の不祥事に関する事実関係等を社会に対して明らかにすることが重要な目的なのであるから、委員会報告書が公表されていなければ意味がないと思われるが、インターネットで検索しても、宗像弁護士が委員長を務めた第三者委員会報告書は見当たらない。少なくとも、新聞報道されるような大きな企業不祥事の第三者委員会の委員長を務められた経験はほとんどないものと思われる。
それにもかかわらず、「第三者委員会特集」に宗像弁護士が専門家として登場し、私を名指しで批判してきた理由は何なのか、その背景には何があるのであろうか。

次に、宗像弁護士の「見解」の内容について述べる。
まず、前提となる事実関係を誤っているのが、7月30日に、古川知事が記者会見したことを受けて、私が記者会見を開いて発言したことについて、宗像弁護士が「知事の発言がやらせメールの引き金になったと言って古川知事の発言に反論したことは『越権行為』だ」と批判している点である。

そもそもこの日の私の会見は、古川知事と事前に打ち合わせた上、古川知事の関与について誤解が生じないように「支店長作成メモでは、九電社員に投稿を要請したように見えるが、古川知事の説明は異なっており、今後、知事発言がどのような影響を与えたのか第三者委員会の調査で明らかにしたい」と述べたものであり、古川知事の発言への「反論」ではない。
7月30日の記者会見では、一部の記者から、「知事会見の火消しではないか」という質問が出たぐらいであり、私の発言が、決して「古川知事の発言への反論」ではないことは、朝日新聞の記者も含めて、会見に出席した記者から聞けば容易にわかることだったはずだ。

また、この日の会見は『越権行為』でもない。
会見まで6月21日の知事公舎での面談という重要な事実が公表されていなかったが、古川知事は、九州電力の「やらせメール」が表面化した時点では同社を批判しており、その発端とされていた九電副社長以下の佐賀市内での会談の直前に、古川知事と会談した事実があり、そこで知事が「やらせメール」の舞台となった6月26日の国主催の説明番組について発言した事実があるということになると、知事が厳しい批判を受け、一方で、九電側もその事実の隠ぺいを批判されかねない。
古川知事にとっても、その事実が、マスコミ報道や第三者委員会報告書の公表という形で表に出るより、自ら記者会見で明らかにし、それを受けて私が会見を行って説明する方が得策だということを、私から古川知事に提案し、九電側とも事前に調整した上で、このようなやり方をとったものであり、全く「越権行為」ではない。
7月30日の古川知事側の記者会見とそれを受けての私の会見に対するマスコミ側の反応は、概ね事前に想定した範囲だった。少なくとも、知事公舎での会談という重大な事実が、それまで隠していたことに対する批判がほとんどなく表に出せたことは、古川知事にとっても九電にとっても大きなメリットだったと言えよう。

宗像弁護士は、日弁連第三者委員会ガイドラインの「調査報告書提出前にその全部又は一部を開示しない」という文言を引用して、調査途中での事実公表を問題にしているが、この文言は、「報告書の起案権は委員会側にあり、会社に事前に開示することで会社側の意向で内容の修正を求められることがあってはならない」という趣旨であり、重要な事実が委員会の活動の途中で明らかになった場合の公表の是非とは別の問題だ。

オリンパスの第三者委員会も、反社会的勢力に資金が流れた疑いが報道されたのに対して、委員会として「そのような事実は認められていない」とのコメントをしたと報じられている。このように、第三者委員会の活動の途中経過であっても、重要な事項を公表すべき場合がある。とりわけ、公益企業の典型である電力会社の第三者委員会には、露骨な証拠廃棄や重要事実の隠蔽などに関して情報開示が必要となることも十分にあり得る。宗像弁護士が引用するガイドラインの条項は、そのこととは無関係である。
宗像弁護士は、私にとって検察の大先輩で元上司、特捜部に所属していた当時の特捜部長である。しかし、大変僭越ながら、今回の「御指導」は、専門外で、余りに的外れだったと言わざるを得ない。
そういう専門外のことより、むしろ、私が由良秀之著「司法記者」の中で描いている「特捜検察の暴走」と重ね合わせて、御自分の特捜部長時代のこととを思い起こして頂くことの方が重要なのではないかと思う。

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宗像紀夫弁護士の見解に対する反論 への2件のフィードバック

  1. ピンバック: 昨年1月の記事だが今読み返しても面白い。「専門外のことより、御自分の特捜部長時代のこととを思い起こして頂くことの方が重要なのではないかと思う」と強烈な皮肉で締めくくってい

  2. 高見沢 功 より:

    宗像紀夫弁護士は、2006年10月に東京地検に収賄容疑で逮捕された、元福島県知事佐藤栄作久の主任弁護士です。佐藤元知事は、縫製会社を営んでいた実弟(2006年9月に競売入札妨害で逮捕)の会社で、1着30万円のスーツを複数購入した業者にしか県の仕事を発注しませんでした。宗像弁護士も、2000年の「うつくしま未来博」で、県民参加プロデューサーを元知事から委嘱され、多額の報酬を受け取っています。

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