本年1月9日付けの当ブログ【Abalance「第三者委員会」検証委員会設置について】でお知らせしたように、Abalance「第三者委員会」の検証を行ってきたが、予定どおり、2月20日に検証報告書を同社に提出し、昨日(2月26日)、同社ホームページで公表された。
今回、上場企業が設置した第三者委員会報告書について、正式に検証委員会が設置され、その検証報告書が公表された。そして、第三者委員会報告書には重大な問題があることを指摘し、第三者委員会報告書公表後、その結論等に基づいて行われてきたAbalance及び関係機関、関係者の対応は全面的に見直されるべきと結論づけている。それは、今後の企業不祥事についての実務にも大きな影響を及ぼす可能性がある。
第三者委員会報告書に対する検証委員会の設置の経緯とその意義
第三者委員会は、組織の不祥事(犯罪行為、法令違反、不正・不適切な行為等)について、当該組織から独立した委員により構成され、専門家としての知見と経験に基づいて原因分析、再発防止策等の提言を行うことを目的として設置される。
日本弁護士連合会は、2010年に「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」を公表しており、その中で、
《監督官庁をはじめ自主規制機関等が、不祥事を起こした企業等に対し第三者委員会による調査を要求する場合、公的機関等の側からも、本ガイドラインに依拠することが推奨されるようになるものと予想される。これまでも、監督官庁による業務改善命令の一環として第三者委員会の設置が命じられる場合も見受けられたが、将来的には、単に第三者委員会の設置を命ずるにとどまらず、本ガイドラインに依拠した第三者委員会の調査を求めるようお願いしたい。》
と述べているが、実際に、不祥事を起こした企業が監督官庁等から第三者委員会の設置を要請される場合も多く、それが、同ガイドラインに準拠した第三者委員会として設置された場合には、関係当局や取引所等は、その報告書の内容と結論を前提にその後の対応を求めることになり、本来、第三者委員会にもその報告書にも法的根拠はないのに、極めて重いものとして扱われ、委員会の調査の結果示された認定・判断を受け入れてそれを前提に対応することが強く求められることになる。
今回のAbalanceの第三者委員会のように、「不適切な会計処理」について過年度決算訂正に至った場合に、第三者委員会で「不正(粉飾)」などと断定されたら、それにより企業は大きな打撃を受け、上場廃止を含む致命的事態に至ることになる。
第三者委員会の判断が、あらゆる場合にすべてにおいて正しいとは限らず、設置した組織の側からの反発・反論に相応の合理性がある場合もあり得るが、事実認定は第三者委員会の専権のように扱われ、刑事裁判の判決等とは異なり根拠となる証拠の呈示もないので、反論を行うことすらできないのが通常である。
今回の「Abalance第三者委員会」も、日弁連ガイドラインに準拠して設置されたことを明記したものであったが、会社に提出され公表せざるを得なかった第三者委員会報告書が、会社にとって絶対に納得できない内容であったことから、検証委員会を設置して第三者委員会報告書の全面的な検証を行うことになった。
通常、このような第三者委員会報告書に対する設置企業側の異議・反論の動きに対しては、取引所や当局等から疑問視され抑制が働くことが多いが、今回は、Abalanceによる「第三者委員会報告書の検証委員会」設置について、上場企業による正式の開示が行われ、調査を開始することになった。
私は、「第三者委員会」の草分け的なものと言える、消費期限切れ原料使用問題を受けての「不二家信頼回復対策会議」で議長を務めたのをはじめ、キリンHDのメルシャン問題第三者委員会、田辺三菱製薬メドウェイ問題第三者委員会、九州電力やらせメール問題第三者委員会等、数多くの第三者委員会に関わり、委員長として調査を総括し、報告書をとりまとめてきた。
近年、弁護士業界にとって「第三者委員会ビジネス」が収益源となる一方で、その調査の質に問題が生じていること、調査のマネジメントが適切に行われていないことなど第三者委員会をめぐって様々な問題が発生しているとの認識を、企業コンプライアンスに関連する論稿でも指摘してきた(日経BizGate「郷原弁護士のコンプライアンス指南塾」【企業の不祥事対応における第三者委員会の活用(1)第三者委設置の判断と人選】【企業の不祥事対応における第三者委員会の活用(2)調査事項、調査手法、報告書確定のプロセス】【企業の不祥事対応における第三者委員会の活用(3)費用・報酬額、全体総括】等)。
第三者委員会を設置した会社側や調査対象者側から、調査及び報告書の内容に納得できないとして検討や対応を依頼され、報告書の問題を指摘し、対応を求める活動を行った事例も多数あったが、これまでは、調査対象者個人からの依頼にとどまる場合が多く、第三者委員会を設置し、報告書を受領した会社から、正式に、その報告書の検証を依頼され、会社としての開示を経て調査を行ったのは、今回が初めてである。
検証委員会として、独自調査も含めて検証を行った結果、同報告書には、看過できない問題が多数あることがわかり、検証報告書においてそれらを厳しく指摘した。第三者委員会ガイドラインに準拠して設置された「第三者委員会」の報告書がこのような内容であることは、現在の第三者委員会の在り方自体にも重大な懸念を生じさせるものである。
以下に、検証報告書で指摘したAbalance第三者委員会報告書の問題について、その概要を述べる。
冒頭の「明白かつ重大な誤り」及び調査報告書としての根本的な欠陥
第一の問題は、Abalance第三者委員会報告書では、調査の対象とされた複数の問題について、本来、客観的な調査報告書の事実記載において不可欠な時系列の整理が適切に行われていないことである。
報告書冒頭の第三者委員会の設置の経緯に関する記述においても、有償支給取引の会計処理に関する監査等委員会報告書の公表を受けて2024年3月14日に過年度決算訂正が行われた旨の記載に続いて、《この訂正等の原因となった不適切な会計処理がなされた経緯・理由等についてさらに疑義が生じたことから、改めて調査・検証をすべく、第三者委員会の設置が検討された。》とされ、「同年8月12日」に「第三者委員会の設置」が決定されたように記載されているが、正しくは第三者委員会の設置の決定は「2025年8月」である。単に、第三者委員会の設置時期が1年ズレているだけでなく、2024年3月14日の過年度決算訂正の時点からの約1年半の期間の経緯が完全に欠落している。
第二に、「誤謬ではなく不正会計(粉飾)」との結論が示されているが、この「不正」が、「誰」の「どのような行為」を指しているのかが判然としないことである。Abalanceの経営者の不正なのか、従業員の不正なのか、或いは、その子会社であるWWB株式会社(以下「WWB」という。)の経営者の不正なのかについての認定は全くなされていない。「不正」の認定について、「重過失=不正と認定し得る」という考え方が示されているが、その「重過失」も、誰について、どのようなことを認識していたのに、どのような行為をおこなったことが「重過失」なのかが述べられていない。
また、企業不祥事にかかる第三者委員会の報告書では、公表について、氏名が公開されている上場企業の経営者については実名で記載し、それ以外の役職員は匿名化するのが一般的であるものの、第三者委員会を設置し調査を依頼した会社に対しては、実名版を提出するのが通常の方法だが、Abalanceの第三者委報告書は、同社に提出した調査報告書も含め、すべて匿名化されたものであり、当委員会も、第三者委員会委員長に「第三者委報告書完成稿(実名版)」の提供を求めたが拒絶された。すべての関係者名が匿名化されているため、報告書の記述について根拠が確認できないものも多数ある。結局のところ、Abalanceの第三者委報告書は、同社に「不正」「粉飾」というレッテルを貼っているだけで、その根拠はほとんど示していないといわざるを得ない。
第三に、同社において第三者委員会の設置に先立って行われた監査等委員会の調査報告書との関係に関する問題である。第三者委報告書の記述内容は、調査対象事項についての「事実認定」とそれに基づく「評価」よりも、監査等委員会の調査報告書に対する「批判」を通して「誤謬ではなく不正」との結論を導くことに主眼が置かれている。しかも、その点に関する記述の多くは、監査等委員会側が当初から第三者委員会の設置を回避しようとしていたことなど、監査等委員会側の「意図」に関するものが中心である。
不適切会計についての第三者委員会であれば、当該会計処理の経緯、関係者の対応・判断の理由などの調査結果と、それらについての法的・会計的評価を客観的に記述するのが通常であるが、それとは大きく異なっている。しかも、第三者委報告書で、監査等委員会の調査は当初から「誤謬の結論ありき」で「誤った前提」で行われたとの批判の根拠とされているのは、「重過失=不正と認定し得る」が「会計上の慣行」だとする見解であるが、当委員会が行った監査基準、過去の第三者委員会報告書の認定等の調査の結果からは、そのような「会計上の慣行」の根拠は全く見いだせない。第三者委報告書においては、上記のとおり、監査等委員会報告書の結論を否定する意図から、本件調査対象とされた有償支給取引の会計処理が「不正か誤謬か」という点が中心的な争点とされているが、後述するとおり、そもそも、第三者委員会の調査において、「不正か誤謬か」が論点とされること自体ほとんど例がなく、そのような立論自体に問題があるといわざるを得ない。
「第三者委員会設置の経緯」に関する記述の欠落
第三者委報告書では、メールのやり取りから、Abalance 経営陣が、意図的な不正会計(粉飾)の存在が顕在化することなどを恐れて、第三者委員会や特別調査委員会の設置を何としても回避しようとしていたことを、「不正の認識」の根拠であるかのように述べている。
そうであるとすれば、監査等委員会の調査によって過年度決算訂正を行い、問題は一応決着していたのに、その後、1年以上経過した後に第三者委員会を設置するに至ったことには、Abalance 経営陣にそうせざるを得ない事情があったはずである。
この点について、2025年8月12日付けの第三者委員会設置の決定についてのリリースでは、「外部機関による指摘を受けたことから、下記項目について、第三者委員会を設置し、詳細に調査をするべきと判断いたしました。」などと記載されており、「外部機関からの指摘」が第三者委員会の設置の契機となったことが明記されている(Abalance担当者に問い合わせたところ、2025年5月27日に、本件有償支給取引の会計処理に関して証券取引等監視委員会開示検査課による立入検査が行われ、2025年8月6日からは、事情聴取が開始されたとのことである。)
しかしながら、第三者委報告書は、「訂正等の原因となった不適切な会計処理がなされた経緯・理由等についてさらに疑義が生じたことから」とだけ記載し、その間の経緯について具体的に記載しておらず、「外部機関からの指摘」についても全く言及していない。しかも、過年度決算の訂正から第三者委員会設置の決定までの期間が実際には1年半であったのに半年足らずであるように誤って記載している。そこには、Abalance 経営陣が過年度決算訂正後1年以上経過した後に第三者委員会設置を決定する契機となった「外部機関からの指摘」について言及を避けようとする意図が働いているように思える。
「不正」の意味の不正確な把握と誤った評価
また、第三者委報告書は、監査等委員会による調査を行うことになった経緯について、《WWB(Abalance子会社)が、A社と進めていた宮城県大和・大衡太陽光発電所プロジェクトにおいて、2023年末から2024年初にかけて追加工事費用の請求が発生したことを契機として、当該プロジェクトの取引内容の妥当性が社内外で問題視されるに至ったことが、調査開始の端緒となったとのことである。また、同時期にA社会長からアスカ監査法人等に提供された通報文書の存在が明らかになり、同文書には循環取引を疑わせる内容が含まれていたことから、WWB における不正取引やAbalanceのガバナンス体制、不正会計に対する懸念が社内外で顕在化していた》(「A社」とは、「大和町太陽光発電所・大衡村太陽光発電所」案件におけるフルターンキー契約の受注施工業者である。)としており、それを受けて、内部調査委員会による調査、さらに監査等委員会による調査が行われたと述べている。
つまり、本件の一連の会計処理の問題の表面化の発端となったのは、「A社会長による通報」であり、そこで問題にされていた「不正」というのは、「循環取引」などだったのであり、それについて調査を行う過程で有償支給取引の会計処理の問題が把握されたものである。
そのため、内部調査委員会の調査から監査等委員会の調査への移行前後において、関係者間のやり取りで「不正」と表現されていたのは、有償支給取引についての「不正」のことではなく、循環取引とそれに関連して問題が指摘されていた契約書、請求書の偽造等の問題(第三者委報告書【第5 金融機関からの融資に関する請求書の偽造等】)を念頭に置いて発言していることも多く、監査等委員会の調査開始時における「不正か誤謬か」という論点設定における「不正」も同様であったと考えられる。
その後、監査等委員会の調査においては、循環取引などについては会計処理上の問題ではないことが確認され(上記の【第5】においても会計処理上の問題はないことが前提にされている。)、過年度決算訂正の対象となった有償支給取引の問題に焦点が絞られた。
ところが、第三者委報告書では、監査等委員会の調査を開始するまでの間の関係者間のメール、発言などで循環取引や契約書、請求書の偽造等の問題を念頭に置いて使われていた「不正」という言葉を、本件の有償支給取引についての「不正の認識」を示す証拠として扱っており、Abalance経営陣や関係者に、有償支給取引の会計処理について「不正の認識」があったことを示す証拠であるかのように引用されている。
それに加え、「重過失=不正と認定し得る」が「会計上の慣行」であるとの「独自の見解」を当然の前提として、有償支給取引の会計処理が「不正」であること、監査等委員会の調査が誤りであることの根拠としていることからすると、第三者委員会には、当初から「誤謬ではなく不正(粉飾)」の結論を導こうとする強い意図があったと考えざるを得ない。
上場企業にとっての「第三者委員会問題」のリスク
以上のとおり、Abalance第三者委員会報告書には、多くの問題があり、設置企業として到底納得できないとして、その検証のための第三者による委員会を設置して独自の調査を依頼したことは適切な対応だったというべきであろう。
これまでは、多くの不祥事事例、とりわけ会計不祥事の事例において、企業側は、関係当局や会計監査人の監査法人等からの要請で設置した第三者員会の報告書で、「納得できない批判」をされ、それに対する異議を述べることもできず「泣き寝入り」をせざるを得ない状況だった。
「第三者委員会問題」は、上場企業、とりわけ比較的小規模の上場企業にとって重大なリスクであり、決して他人事ではない、ということを認識すべきである。