特措法「みなし公務員」規定が五輪・万博の「民間出向者」にもたらす“贈収賄リスク”

2019年ラグビーワールドカップ大会(以下、「ラグビーW杯大会」)、2021年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、「東京2020大会」)などの国際的ビッグイベントを支えてきたのは、大会の組織委員会に、国や自治体から派遣された公務員と、民間企業からの出向者が中心の「混合チーム」だった。
東京2020大会組織委員会の理事で「みなし公務員」だった高橋治之氏にスポンサー選定をめぐって渡った金銭が賄賂とされた「五輪汚職事件」は、東京2020大会特別措置法の「みなし公務員規定」により、組織委員会の役員・職員に、一律に公務員に対する刑法の規定が適用されることが前提とされている。

その高橋氏の受託収賄罪の共犯として起訴された深見和政氏の初公判で、弁護人は、

「東京2020大会特別措置法の『みなし公務員』規定は、国の職員の待遇、服務に関して規定する「組織委員会への国の職員の派遣等」の節の末尾に規定されており、国から派遣された役職員にのみ適用され、民間の役職員には適用されない」

と主張した。

組織委員会の役員及び職員は」という「みなし公務員規定」の文言からは、組織委員会の役職員全体に適用されるように読める。しかし、仮に、そうだとすると、

組織委員会の役職員全体にみなし公務員規定が適用されるのなら、民間企業の出向元からの出向者の給与支払も贈収賄罪になるのでは?

という疑問が生じる。それが、上記の深見弁護人主張の論拠の一つとされている。

その背景には、民間人なのに公務員として裁かれる『みなし公務員』という特殊なルールが、どうして「民間主催イベント」である国際大会に関わる者「全体」に適用されるのか、それが果たして現代のスポーツビジネスの実態に即しているのか、という根本的な疑問がある。

そこで、今回、国際大会の特別措置法の「みなし公務員規定」について、1964年の東京オリンピック大会(以下、「東京1964大会」)から、2026年の愛知・名古屋アジア競技大会(以下、「2026アジア大会」)までの間の、特措法の内容・趣旨、みなし公務員規定の位置づけ、東京2020大会の出向協定書等について調べてみた。

その結果、東京1964大会から東京2020大会の特措法まで、「みなし公務員規定」は、国からの派遣職員の身分を保護・規律する規定と一体的に規定されていることがわかった。一方、直近の2026アジア大会の特措法では、国からの直接補助が規定されているものの、組織委員会への国の職員の派遣は規定されず、「みなし公務員規定」も設けられていない。このような法律の構成からすると、特措法のみなし公務員規定は、主として国からの派遣職員を対象とする趣旨だと考えられる。

そして、東京2020大会の出向協定書、組織委員会の出向元企業との関係等を確認したところ、単に、給与が出向元から支払われること、出向先の業務命令に従うことが定められているだけで、利益相反行為を禁止する規定もない。特措法の「みなし公務員規定」が組織委員会の役職員全体に適用されるとすれば、民間出向社員が出向元企業から給与を受領することが単純収賄罪に該当することを否定するのは困難だ。

それにより、組織委員会に出向し、出向元から給与の支払を受けつつ東京2020大会の準備・運営の業務に取り組んだ数千名の民間企業社員が、贈収賄リスクにさらされることになる。

しかも、昨年開催された2025年日本国際博覧会(以下、「大阪・関西万博」)の準備運営を担った2025年日本国際博覧会協会(以下、「博覧会協会」)の役職員についても、「令和七年に開催される国際博覧会の準備及び運営のために必要な特別措置に関する法律」で同様のみなし公務員規定が設けられており、博覧会協会への出向職員も、出向元企業からの給与の受領について「収賄リスク」にさらされることになる。

東京地検特捜部による五輪汚職事件の強制捜査着手から3年半、贈賄で逮捕・起訴された企業経営者の大半は「人質司法」のプレッシャーに押しつぶされて、事実や犯罪の成否を争うことを断念し、既に有罪判決が確定しているが、収賄側で起訴された高橋治之氏、深見氏、そして、人質司法と全面的に戦う角川歴彦氏の公判は、今なお続いている。

それらの贈収賄事件についての裁判所の判断は、国家プロジェクトへの貢献のために民間企業から派遣され五輪大会や博覧会の準備運営に取り組んだ数千名に上る出向社員にとっても、決して他人事ではないのである。

みなし公務員規定というのは、いったい何なのか、それが、今のスポーツの世界における「国家プロジェクト」と「民間ビジネス」の実態に即しているのか、考えてみることとしたい。

「みなし公務員規定」は、何を対象とするものなのか

みなし公務員規定は、組織の業務の公共性が高く、「公務」に近いことが明らかな組織や、従前は職員が公務員であった組織、つまりは独立行政法人、地方独立行政法人、国立大学法人、公社、公団、事業団、基金、審議会、協会、センター等の役職員について、多くの法律に設けられている。この場合は、当該組織・団体の職員「全体」に対し、業務内容を限定せず、みなし公務員規定が適用される規定となっている。

他方で、近時は行政改革の推進によって、従前公務とされていたものを指定機関、登録機関である民間企業や民間団体に委託する例が増加しており、このような場合、従来から存在する指定機関、登録機関等である民間企業や民間団体の役職員が行う職務は、それまで公務だったことからすれば、刑法の「公務」に対する規定が適用されるのは当然といえるが、この場合のみなし公務員規定は、対象となる業務内容が限定されている。

例えば「建築基準法」のみなし公務員規定は、77条の8第3項で「建築基準適合判定資格者検定事務に従事する指定建築基準適合判定資格者検定機関の役員及び職員」、77条の25第2項で「指定確認検査機関及びその職員で確認検査の業務に従事するもの」に、食品衛生法の40条2項のみなし公務員規定は、「食品衛生法製品検査の業務又は委託事務に従事する登録検査機関の役員又は職員」に限定されている。

つまり、みなし公務員規定は、組織の業務の公共性、従前は職員が公務員であった組織など、「組織自体の公共性」によってその役職員全体が対象とされるものと、本来公務であったものを民間企業や民間団体が行う場合に、その業務を行う職員に限定して適用するものとがある。

国際大会の特措法の「みなし公務員規定」が、業務を限定せず、組織委員会等の役職員全体を刑法上「公務員」と同等に扱うものであるとすれば、組織や事業の「公共性」が、それに応じたものであることが必要である。

しかし、スポーツの国際大会は、大規模なものであっても「民間主催イベント」であり、国が主催するものではない。その中で、オリンピックのような「国や自治体が多額の公的資源を投じて社会的なリターン(経済活性化や文化振興)を狙うイベント」について、「特別措置法」によって公的位置づけが与えられ、資金調達面の優遇、国の職員の派遣等の支援が図られる。

一方で、2年に一度開催される国際大会の「世界陸上競技選手権大会」などは、特措法による国の支援はなく、公務員が運営組織に直接派遣されることもない。国の関与の違いは、大会規模、開催期間の長さ、公的リソース、公的施設による支援の必要性の程度などにあるようだ。

国の支援の具体的理由として、スタジアムの改修や周辺交通網の整備には多額の公金(税金)が投じられること、開催都市が警察・消防・医療・ボランティアなどの公的リソースを大量に投入して安全・円滑な運営を支える必要があること、国際親善、スポーツ振興、地域活性化、さらには被災地の「復興のシンボル」といった公的な意義が掲げられていることなどが挙げられる。

しかし、公的支援の必要性の程度が異なっても、国際大会は、あくまで民間団体主催の「民間イベント」であることに変わりはない。大会の性格や、競技運営など主催者が行う業務の内容は、特別措置法で国が支援するか否かで基本的に異なるところはない。

スポーツ大会の「公共性」という面では、多くの人が「国の体育大会」だと思っている「国民スポーツ大会」(「国体」、今は「国スポ」)が最も顕著なものと言える。その主催者は日本スポーツ協会 (JSPO)であるが、「スポーツ基本法」の中に、国及び開催地の都道府県と共同して国民スポーツ大会を主催すること、国からの援助を受けることが明記されているが(第26条)、「みなし公務員規定」は存在しない

それとの比較から考えても、国際大会の主催団体の役職員を丸ごと公務員として扱うべきとする程、組織や事業自体に「公共性」があるとは言い難い。

国際大会の「特別措置法」の歴史と法律の内容

国際競技大会の準備・運営のための特別措置法として、東京1964大会に関する「オリンピック東京大会の準備等のために必要な特別措置に関する法律(1961年法律第138号)」(以下、「東京1964五輪特措法」)に始まり、「札幌オリンピック冬季大会の準備等のために必要な特別措置に関する法律」(以下、「札幌五輪特措法」)、「長野オリンピック冬季競技大会の準備及び運営のために必要な特別措置に関する法律(以下、「長野五輪特措法」)、「平成十四年ワールドカップサッカー大会特別措置法」(以下、「W杯サッカー特措法」)、「平成三十一年ラグビーワールドカップ大会特別措置法」(以下、「ラグビーW杯特措法」)がそれぞれ制定されてきた。

そして、東京2020大会について制定されたのが、「令和三年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法(2015年法律第33号)」(以下、「本件特措法」)であり、その後、2026アジア大会について、「愛知・名古屋アジア競技大会及び愛知・名古屋アジアパラ競技大会に関する特別措置法」(以下、「2026アジア大会特措法」)が、2025年12月に施行されている。

 特措法の内容は、

  • (1)国の組織(内閣府への推進本部など)の設置
  • (2)公的手段による資金調達(寄附金葉書による開催費用の調達など)、国有財産の使用等の大会運営の財政面での公的優遇措置
  • (3)国からの派遣について、派遣職員が不利益を受けることを防止する措置(派遣期間を通算する退職手当の特例等)
  • (4)国からの派遣職員の服務・待遇に関する規定
  • (5)みなし公務員規定

と整理できる。

「東京1964五輪特措法」では、「大会運営者の職員」について、上記(3)の退職手当の特例の条文の「3項」に上記(5)の「みなし公務員規定」が置かれている。「札幌五輪特措法」も同様である。

「長野五輪特措法」、「W杯サッカー特措法」では、(2)について寄附金葉書による開催費用の調達が定められた上、「東京1964五輪特措法」と同様に(3)と(5)が規定され、「みなし公務員規定」は、「組織委員会の職員に係る退職手当の特例等」についての「第3条」の「3項」とされている。

その後の「ラグビーW杯特措法」では、(2)について寄附金付郵便葉書等の発行の特例と電波法上の優遇を定め、(3)(4)について、「第三章 組織委員会への国の職員の派遣等」で国の派遣職員の服務・待遇に関する規定が詳細に定められている(公務員の出向に関する平成10年4月24日最高裁第二小法廷判決を受けてのものと考えられる)。そして、その章の末尾の15条で、(5)の「みなし公務員規定」が設けられている。

本件特措法では、(1)について、内閣府への推進本部の設置、(2)について、国有財産の無償使用、寄附金付郵便葉書等の発行の特例、電波法上の優遇を定めた上、(3)(4)についての「第四章 大会の円滑な準備及び運営のための支援措置等」の「第三節 組織委員会への国の職員の派遣等」で、国の職員を組織委員会に派遣する際の手続きや、公務員としての身分保障、とりわけ職員の給与保障について定めている。その節の末尾の28条で、(5)の「みなし公務員規定」を定めている。

そして、「2026アジア大会特措法」では、(2)について、国の補助と寄附金付郵便葉書等の発行の特例のみを定めており、国職員の派遣に関する(3)(4)の規定も、「みなし公務員規定」も定められていない

以上のとおり、国際大会の特措法での「みなし公務員規定」は、一貫して、国からの派遣職員が、民間である一般社団法人 (その後公益認定されるが、民間であることに変わりはない。)の役職員になる場合の給与や身分保障に関する規定と一体となって規定されてきたものであり、「本件特措法」28条のみなし公務員規定の適用対象も、もともと公務員であった者が組織委員会に派遣される場合が中心であることは否定できない。

上記のとおり、「退職手当の特例等」の規定に、みなし公務員規定を盛り込む趣旨について、総務省の「平成十四年ワールドカップサッカー大会特別措置法」の立法時の説明では、

『組織委員会に出向する公務員が退職手当等の計算上不利益を被らないよう措置(勤続期間等を通算)する。また、このような措置に伴い、組織委員会の役員及び職員は、刑法その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす。』

とされ、出向職員が退職手当の計算上、不利益を被らないようにする措置に伴って、「みなし公務員」規定が盛り込まれた趣旨が説明されている。

「本件特措法」28条の「みなし公務員規定」は、主として、もともと公務員であった者が組織委員会に派遣される場合に適用されるものであり、それ以外に、どの範囲の役職員に適用されるのかについては、問題が残されていると言わざるを得ない。

みなし公務員規定が招く「民間企業からの出向者」の重大な法的リスク

冒頭にも述べたように、特措法の「みなし公務員規定」が、組織委員会の役職員すべてに適用されるとすると、民間企業からの出向者について単純収賄罪の成立を否定できるのかという問題が生じる。

組織委員会への出向については、元の会社に籍を置いたまま組織委員会の業務に就くことを前提に、組織委員会と民間企業の間で「出向協定(契約)」が結ばれており、出向者の給与は出向元が支払うこととされている。

出向者が自分の元の会社に有利な取り計らいをすれば、「収賄」になるが、単に「組織委員会の仕事を淡々とする」だけであれば、それは職務の公正さを汚す「対価」ではないので、賄賂にはならないという考え方であろう。

しかし、それだけでは「贈収賄リスク」を否定することはできない。組織委員会が出向元企業から人件費相当額の支払を受けて出向者に給与を払うのであればともかく、給与が出向元企業から直接出向者に支払われるのであれば、組織委員会における職務と出向元企業の利益とが切り離されていることが必要なはずだ。しかし、出向協定書によれば、給与は出向元企業から直接出向者に支払われることとされており、出向協定には、出向元企業の利益を図ることの禁止の規定はない。組織委員会の就業規程を守ることとされているが、就業規程にも利益相反行為を禁止する規定はない。

刑法197条の単純収賄罪は「請託」も「不正な便宜供与」も不要であり、「職務に関連して利益を得た」だけで成立するのであるから、上記のような出向協定の内容からすれば、給与支払が単純収賄罪に該当することを否定するのは困難なのではないか。

多くの大会で「贈収賄リスク」が問題とされてこなかったのは、国や組織委員会が「出向元負担による人件費の寄付」のように考えてきたからだろう。

しかし、出向元企業が直接出向者に給与を支払うこととされ、利益相反の禁止規定すらないのであれば、出向者が無意識に出向元に有利な情報を流したり、便宜を図ったりした場合、「給与そのものが、その便宜への対価(賄賂)」と結びつけられることは避けられない。

出向元企業の「背任の責任回避」とのジレンマ

一方、出向元企業としては、数千万円単位の「給与負担(持ち出し)」をして組織委員会に社員を派遣する場合、株主や税務当局に対して、「なぜこの支出が会社の利益になるのか」を説明する責任がある。

企業側が「背任」と言われないためには、出向を「単なる寄付」ではなく、自社に利益が還流する「投資」として位置づける必要がある。「大会運営ノウハウの獲得」「社外ネットワークの構築」「ブランド価値の向上」などだけであればまだしも、実際には、電通等の広告代理店、イベント制作会社など出向元企業は、東京2020大会組織委員会から大会に関連する多額の受注を行っており、その受注獲得の目的を含めなければ、企業側からの出向の正当性は説明できない。出向元企業としては、出向者に自社への貢献を期待し、組織委員会での勤務による自社への貢献があれば、賞与の増額や昇進等での優遇を行ったりすることも自然な流れだ。

しかし、このように出向元企業の期待に応え、組織委員会内で少しでも有利な情報を流したり、発注における仕様策定での有利な対応を行ったりすれば、出向元企業からの給与は「職務に関わる利得」に当たり、組織委員会における「職務の公正」を害することになる。

みなし公務員規定が民間出向者にも適用されると、「出向元への利益(背任回避)」と「組織委員会での中立(収賄回避)」を両立するのは、論理的に極めて難しい。

民間ビジネスとしてのオリパラ大会と「みなし公務員規定」の不適合

1998年の長野五輪大会の頃までは、組織委員会へは長野県庁からの出向者が多く、重要ポストの大半は県職員で占められ、関係市町村、スポンサー企業などからも人材派遣(出向)を受けていたものの、民間企業からの出向者は少なかった。しかし、東京2020大会では、民間企業からの出向者の割合は6割を超える

かつての五輪大会は、国や自治体からの支援のほか「郵便ハガキ」の寄附など公的手段が中心だったが、東京2020大会では、国からの支援(国有財産貸与やハガキ)は全体予算の1%未満。実態は99%以上が「民間資金とノウハウ」だ(施設整備費を除く)。

資金面からも公的性格は希薄で、純粋民間主催に近い。そのような商業主義が極端に進んだ東京2020大会の実態の下では、民間企業からの出向は、出向元企業の利益と切り離すことは困難だ。

それにもかかわらず、これまでの国際大会でこのようなやり方が行われてきたのは、組織委員会と企業の双方が矛盾に「目をつぶってきた」からだ。組織委員会側は、「無償で優秀な人材が欲しい、人件費を浮かしたい」という甘え、企業側には、「給与を肩代わりする代わりに、五輪事業に食い込みたい、あわよくば情報を得たい」という下心があり、双方が矛盾の存在を無視してそのようなやり方を続けてきたのが、これまでの五輪スポーツビジネスの実態だった。そのような実態の下で、民間出向者に「みなし公務員規定」という公務員に対する刑法の網をかぶせること自体に無理がある。

民間出向者全体に波及した「贈収賄リスク」

そこに、「東京五輪の闇」の解明を求める世の中の期待に応えようと暴走気味に突っ込んだのが、東京地検特捜部の「五輪汚職捜査」だった。組織委員会の役職員全体に一律に公務員に対する刑法の網をかぶせるみなし公務員規定を無限定に適用して贈収賄罪を摘発したことで、民間企業からの出向者にまで贈収賄リスクが一気に波及することになった。 

この五輪汚職事件で、組織委員会理事であった高橋氏や企業経営者らが贈収賄で逮捕・起訴されたことを受けて、2022年11月16日衆議院内閣委員会で塩川哲也議員が、

組織委員会において、みなし公務員となっている役員及び職員というのは何人なんでしょうか。この出向元はどこなのか。国、自治体、民間の人数を明らかにされたい。

と質問したのに対して、星野剛士内閣府副大臣が以下のように答弁している。

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会公式報告書によりますと、令和3年7月時点で、同組織委員会の職員数は約7000名だったとのことでございました。同組織委員会によれば、全ての役職員がみなし公務員の規定の対象であると整理していたとのことでございます。

また、職員の出向元等につきましては、組織委員会によれば、公式報告書では、都職員に関し約1000名まで段階的に拡大、各省庁からは約百名、地方自治体からは約500名、民間企業からは約1000名の派遣又は出向を受けていた、約400の企業や団体からの協力の下、多種多様な人材で構成された組織となったとの記載があります。

つまり、 五輪汚職事件で非常勤・無報酬の理事に特措法のみなし公務員規定に基づく受託収賄罪が適用されたことを受けて、組織委員会は「全ての役職員がみなし公務員の対象である」と公言しているのである。

大阪関西万博での民間出向者にも拡大する「贈収賄リスク」

みなし公務員規定の文言が「組織委員会の役員及び職員は、」とのみ書かれていて限定がないため、規定の文言上は、組織委員会の役職員すべてが公務員に関する刑法の適用の対象となるように思える。それにより、出向元企業から出向者への給与支払に贈収賄リスクが生じることになるが、その問題は、東京2020大会の問題にとどまらない。

昨年開催された大阪・関西万博の準備運営を担った博覧会協会の役職員についても、特措法により「みなし公務員規定」が設けられている。博覧会協会への民間企業からの大量の出向職員も、出向元企業からの給与の受領について「贈収賄リスク」にさらされることになる。

「形式的に単純収賄罪が成立するとしても、捜査機関が、出向元からの給与支払を敢えて贈収賄で摘発することはないだろう」と思われるかもしれないが、民間企業間のトラブルや企業内の役職員間のトラブルが動機となって、贈収賄について刑訴法上の「告発」が行われる可能性もないとは言えない。

特措法によるみなし公務員規定を、運営する組織の役職員全体に適用するのであれば、出向元企業が人件費相当を寄附し、出向職員へは組織委員会が支払う形態とすること、出向中の自社関連受注を制限すること、利益相反規定を協定や就業規則で明文化することなどの制度設計が必要だったはずだ。しかし、それを十分に行わずに運営してきたことは厳然たる事実である。

今後の大会の制度設計を見直すということだけでは、過去に出向勤務に従事した五輪や万博の主催団体の役職員が贈収賄リスクに晒され続けることの解決にはならない。

前記のとおり特措法に基づくみなし公務員規定が、国からの派遣職員の待遇についての規定と一体となっていることを根拠に、適用対象が国からの派遣職員に限定されていると解釈するか、このような場合の贈収賄罪の成立について、出向者への給与支払では充足されない何らかの要件が追加されると解釈することで犯罪の成立範囲を限定するか、いずれかしか「贈収賄リスク」の問題解決の方法はない。

前者の解釈をとるとすれば、一連の五輪汚職事件での贈収賄罪を適用した前提が崩れることになる。それが、既に贈賄側の多くで有罪判決が確定している現状で行われる可能性は極めて低いと言わざるを得ない。

一方、贈収賄罪の成立範囲に何らかの限定を加える解釈をする場合も、今なお係属中の深見氏、高橋治之氏、角川歴彦氏ら、五輪汚職事件の公判における贈収賄罪の成否の判断に大きな影響を与えることとなる。

この場合の贈収賄罪の成立には民間出向者に対する出向元企業からの給与支払にはない「何らかの要件」(例えば、「不正の報酬」であること)を充足することが必要だということになると、スポンサー企業から高橋氏側への支払いについても、組織委員会の理事の職務に関連するだけでなく、その「何らかの要件」の根拠となる事実と、それを被告人が認識していたことが立証されなければ、有罪とは判断できないことになる。

「国家プロジェクト」と「民間ビジネス」の関係を曖昧にしたまま、国の支援に関する特措法に「みなし公務員規定」という「公務員に対する刑法の網を民間人にかぶせる規定」を漫然と設けてきたことの矛盾が、ここにきて顕在化しつつあると言えよう。

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