「オアシス」筆頭株主浮上、KADOKAWA夏野体制の“原罪”と人質司法への加担を問う

香港のアクティビストファンド、オアシス・マネジメントがKADOKAWAの筆頭株主に躍り出た。オアシスは、投資先企業の経営陣に対して強い改善要求を行うことで知られている。今後、不採算部門の整理、株主還元の強化、そして何よりガバナンス体制の徹底的な刷新を迫る可能性が高いと考えられる。真に問われるべきは現経営体制の「ガバナンスの質」である。

夏野剛社長率いる現体制には、2022年、五輪汚職事件で検察捜査の対象とされた際に、人質司法に加担し、角川歴彦会長(当時)の人権を犠牲にするやり方で経営体制を確立した「原罪」がある。その後、2024年には子会社がフリーランスに対し最大4割の単価引き下げを強いていた下請法違反による公取委の勧告、2025年には、サイバー攻撃で大規模な情報漏洩が発生、犯罪集団への身代金提供の疑いについて説明責任も果たせず批判を浴びるなど不祥事が相次ぎ、「経営の機能不全」は年を追うごとに深刻化した。それらの根本にあるのが、夏野体制の「原罪」に由来する「ガバナンスの歪み」である。

検察の取調べ開始当初からの関係者のヒアリング、フォレンジック調査

贈賄罪で起訴された角川氏は、逮捕事実を全面的に争い、検察と徹底的に闘う姿勢を明確にしていた。一方、KADOKAWAは、検察の捜査を受けた時点から、「事実関係の正確な把握」を目的に、国廣正弁護士を中心とする「危機管理委員会」(「調査チーム」と呼ばれていた)を設置、検察捜査と並行して関係者のヒアリング、フォレンジック調査等を行った。

角川氏らが起訴された2022年10月5日、「本件に関する事実関係の調査、本件を生じさせた当社のガバナンス、内部統制を含めた根本的な原因の究明に加え、再発防止策の提言」を目的とする「ガバナンス検証委員会」を設置、中村直人弁護士が委員長となり、国廣弁護士も委員として、引き続き調査に関わった。

夏野社長とともに同日の記者会見に出席した国廣弁護士は、「(刑法上の贈賄の)犯罪になるかどうかは裁判によって決められること」としつつも、

「(コモンズ2への支払が)贈賄行為と評価されうる疑わしい行為であったことに間違いない」

「(東京五輪組織委員会の)理事側からの要求というものが、理事そのものの要求なのか側からの要求なのか、それがどれだけの証拠があり立証でき有罪になるかどうかというのは裁判を待つしかないけれども、全体的に見てそのように判断できるだけの証拠を我々は入手しており」

「(法務部からの警告が)どこまで伝わり、誰の判断でそれがその法務部の判断が覆されたのかといったところは極めて、いわゆる贈賄罪としての判断に密接に関わるところであると思いますので、現時点では我々として最後に影響が及ぶような部分もありますので、申し上げるのは難しい」

「法務部門の指摘がなされたのは2017年の2月、この指摘が会長まで行ったかどうか、その意思が伝わったかどうかはまさに裁判での争点となるところだろうと思っておりますので、現時点で伝わったとか伝わってないというようなことは、ちょっと申し上げることはできないし、これは司法の場で決められること」

などと述べた。

さらに、国廣弁護士は、調査チームで起訴された3人のヒアリングを行ったことを認めた上、

「それも含めて、裁判での証言あるいは検察での調書をということで次第に明らかにされ、最終的には裁判所が贈賄の成否について判断をすることになる。」

「調査チームと、ガバナンス検証委員会との関係は、ある種の連続性はある。」

「ガバナンスといっても抽象的にガバナンスの話を調査するのではなく、なぜ今回のようなことが、最終的に犯罪になるかどうかは裁判所で決められることではあるけれども、不適切かつガバナンス上問題がある行為が行われたことには間違いはありませんので、このようなことがなぜ起こってしまったのかというところの事実調査は当然引き継いでやっていく」

などと発言している。

角川氏「人質司法」の最中に公表されたガバナンス検証委員会報告書

角川氏の身柄拘束は起訴後も続き、心臓疾患等の持病の悪化にもかかわらず、度重なる保釈請求はことごとく却下された。その理由は、絶大な影響力を有する角川氏がKADOKAWA社員に働きかけ、口裏合わせを図る「罪証隠滅のおそれ」があるとの検察官の主張だった。角川氏の病状はさらに悪化、勾留執行が停止されるなど生命の危機に瀕していた2023年1月24日、KADOKAWAは、ガバナンス検証委員会の調査報告書を公表した。

調査報告書は、角川氏について、「権威は絶対的」と繰り返し述べ、本件の原因の筆頭に「上席者(とりわけ会長)の意向への過度の忖度」を挙げるなどしている。また角川氏に贈賄リスクも含めた詳細な報告がなされ、角川氏がそれを了承したことが認定され、具体的には、「2016年10月5日報告」や「本件打合せ(2018年12月17日)」の存否、その内容などがKADOKAWAの役職員の証言に依拠して、角川氏に贈賄の認識があり、角川氏に問題となったコンサルティング契約の締結に関する権限(事実上の決定権)があったかのような記載がなされている。

贈賄の実行行為や故意に関する事実について調査結果を記述するのであれば、同時並行している刑事裁判手続きに悪影響のないよう、慎重かつ丁寧な認定が求められるはずであるが、角川氏が勾留中で反論できない状況下で、客観的証拠もなく、特定の証言のみで認定している。

公判開始前に企業側がこのような調査結果を公表してしまうと、裁判所や世論に対して「身内ですら有罪だと認めている」という強烈な予断を与えかねない。憲法で保障された「公正な裁判を受ける権利」や「推定無罪の原則」を実質的に侵害する行為である。

角川氏弁護人の削除要請を拒絶、中村委員長の会見での発言内容

これに対して、角川氏の弁護人(主任弁護人:弘中惇一郎弁護士)は、同委員会宛てに抗議書を送付し、同報告書が、「KADOKAWAが・・7000万円を支払った行為は、贈賄に該当する可能性が高い行為」などとして、特定個人の認識・行為を離れて、抽象的に贈賄罪の成否を論じたり、「経営トップが問題を認識し、もしくはその十分な機会がありながら看過」などとして、「認識」と「看過」を同レベルに置いて故意と過失とを区別しない論じ方をしていることの問題を指摘し、KADOKAWAのホームページからの削除を求めたが、KADOKAWAは、応じなかった。

KADOKAWAは、2023年2月2日に、夏野社長とガバナンス検証委員会の委員長の中村弁護士らによる記者会見を開いた。

中村弁護士は、調査報告書について、以下のように述べている。

「報告書全体、あちこちに、会長了解済みとか、会長は了承しているのかというようなセリフがたくさん出てまいります。会長も了承済みだということになると、皆さんそれでそれ以上何も言わなくなってしまうという傾向がございます。さらに調べてまいりますと、会長案件というような言葉も社内にはございまして、会長がなさると、なかなか皆さんも物事が言えなくなる。」

「人事権もですね、実はその前会長は規定上はですね特に決裁権限分配上もですね、特に権限を持ってるわけではないんだけれども、実際上は強い人事権を持っていたというふうに思われますし、また皆社内の役職員の方々もそう思っていたとそれがそういうですね忖度を招く原因にもなった。」

「本件で2016年の10月頃に専務会という根拠のない会議体でですね、報告されて了承されて、そのままもうどんどん進んでしまったと、そういう経緯でございます。」

そして、角川会長の弁護団の抗議書での指摘について問われ、中村弁護士は、

「私どもですね、刑事事件として構成要件を満たしているかどうかとか、あるいは民事事件として善管注意義務違反かどうかとか、そういうことを認定しているわけではございませんで、ガバナンスの観点から不適切な行為は何だったかということを認定してる。ですのでご指摘自体がちょっとずれてる」

と答えている。

さらに、抗議書で調査報告書の削除を求めていることについて聞かれ、中村弁護士は、

「公表自体は会社の判断でやっておりまして、検証委員会として削除することを会社に求めるつもりはございません。検証委員会のヒアリング時間が短いという指摘については、今回のガバナンス検証委員会に先立って危機管理委員会というところがヒアリングをやっております。その当時の証拠を全部引き継いでいるという点がありますので少ないという指摘は当たらない。報告書は、事実認定に使った証拠をスクリーンショットのような形で載せている。つまり我々事実認定しているのは、ほとんど客観的な証拠がある部分なので事実認定について不備ということはない」

と述べている。

東洋経済山田雄一郎記者の核心を衝いた質問

ここで、まさに問題の核心に迫る質問をしているのが東洋経済山田雄一郎記者である。

まず、調査報告書の「黒塗り」部分について、その経緯を質問している。

それに対して、(調査担当の山田弁護士が)

「核心に迫ると考えている部分の委員会としての事実認定の経緯が事細かに書いてございます。この部分につきましては世の中に公表されてしまうとなりますと例えばヒアリングに協力してくださった従業員の皆様、そういった方にご迷惑がかかったりとか、悪影響が及ぶとそういった心配がございましたので、委員会としての判断でマスキングをいたしました。」

と答えている。

次に、山田記者が、

「刑事に強い弁護士がこの委員の中にはいないと思うんですけれども、一方で現在係争になるであろう案件ですので、刑事事件で刑事で裁判が行われようとしている案件ですので、ここは書いちゃいけないだろうとか、ここは書いていいだろうとかそういうチェックはどのような形でされたんでしょうか?」

と質問したのに対して、中村弁護士は、

「報告書の冒頭にも書いているが、誰かが特定の誰かが刑事事件として有責かどうかというような認定は全くしていない。今回ガバナンスの観点から見て、不適切な行為がどこにあったかということを見ているので、刑事とは全然次元が違うことをしてございます。なので私も実は刑事事件たまにやったりしましたけども刑事の専門家がいないといかんとかそういうふうなことは考えていませんし、むしろ今回のこの原因の究明とか改善策を見ていただくとわかるんですが会社法ガバナンス、内部統制という方のですね専門家の方がいいだろうということでこういうメンバーになっている。」

と答えた。

山田記者は、さらに、

「でも不適切な行為というのと、刑事上問題のある行為っていうのはかぶるところもあるんじゃないんですか。」

と質問した。

中村弁護士は、

「かぶるところもありますけども、刑事的に有責かどうかっていうのを判断しているわけではなくて、もっと広い不適切というのを言ってます。法令違反に限らずあるいは故意とか構成要件的に故意とかね、そういうことでもなく、さらに善管注意義務違反的な民事責任の瑕疵とかね、そういうよりももっと広い概念で捉えて言います。つまり改善すべき点というのは、法令に違反しなきゃいいだろうというわけではないので、もっと広く、これはこうした方が良かったよねっていう妥当性の問題も含めてやっているので、その妥当性かどうかというラインを判断しているので、判断する対象が違っている。」

と答えている。

山田記者は、経済誌の記者として、経済分野での刑事司法の歪みを精力的に取材・報道していたが、この記者会見の一年後の2024年2月にすい臓がんと診断され、3カ月後に逝去した。

山田記者は、調査報告書が「黒塗り」している部分と刑事事件での立証との関係、そして、事実を全面否認し人質司法による身柄拘束が続いている角川氏の刑事裁判を控えている時期に、刑事事件と重なる内容について事実認定を示し、KADOKAWAの社員と世の中に角川氏有罪の予断を与える検証委員会の調査報告書の公表について重大な疑問を持っていたことがわかる。

中村弁護士は、「刑事的に有責かどうかっていうのを判断しているのではなく、もっと広い不適切という概念で判断している」と言っているが、判断の問題ではなく、刑事事件での立証事項と重なる事項、とりわけ角川会長の関与、認識に関連する事実について調査すれば刑事裁判への影響は避けられない。山田記者の問題意識は極めて的確であった。経済と司法の接点で生じた問題を追及し続けた山田記者の冥福を、改めて心からお祈りしたい。

検証委員会報告書の「黒塗り部分」のN氏供述が角川氏一審有罪判決の根拠に

225日の身柄拘束の後、ようやく保釈された角川氏は、全面無罪を主張する刑事裁判に加え、不当な身柄拘束による人権侵害の憲法違反を訴える国家賠償請求訴訟を提起するなど、人質司法との戦いを続けている。その角川氏に対して、今年1月22日、東京地裁は、有罪判決を言い渡した。そこで有罪の根拠とされたのはKADOKAWAの社員の証言であり、そのほとんどは、ガバナンス検証委員会のヒアリング対象者と重なっていた。

上記会見では、山田弁護士が「黒塗り部分」について、「核心に迫ると考えている部分の委員会としての事実認定の経緯が事細かに書いてある」と説明していたが、実際には、N氏一人の供述を内容とするものだった。担当社員のM氏が「本件打合せ」で角川氏にコモンズ2への支払と贈賄リスクを説明した、というM氏すら述べていない事実についてのN氏の証言が、角川氏の有罪判決で決定的な証拠とされた。弁護団は、その証言の客観的証拠との齟齬などを指摘し、信用性を徹底的に争っていたが、地裁判決は、

「本件打合せの前に資料を準備した状況やその資料の内容、本件打合せ時のMと被 告人とのやり取りや被告人からの問いかけに対するMの反応等について、自身の心情も合わせて具体的に証言しており、その内容も自然かつ合理的なものであって、体験した者ならではの迫真性がある。」

として信用性を認め、角川氏の供述は、その社員供述と「矛盾している」と切り捨てて有罪とした(【角川氏一審判決「被告人供述の『矛盾』」という言葉が示す「歪んだ裁判の構図」】)。

検察の取調べと、夏野社長が設置した危機管理委員会からガバナンス検証委員会に引き継がれた調査でのヒアリングの両方に対して、繰り返し供述する中で、N氏の供述は検察の有罪立証に沿う方向に固められた。

一審判決が、

「虚偽証言をする動機はうかがわれない上、Nが、本件打合せの場に同席すらしていないのに、その場にいたとして、その状況を含めて虚偽の事実を作出したと見るのは、いかにも無理がある。」

と述べているのは、要するに、同社員が最後まで証言を維持したことを重視したからである。

このようなKADOKAWAでの調査は、まさに、「検察捜査の別動隊」として、角川氏の犯罪の証拠固めに極めて大きな役割を果たしたと言わざるを得ない。

ガバナンス検証委員会報告書の「重大な誤り」

では、その調査において、果たして、正しい事実認定が行われたと言えるのか。

上記会見での中村弁護士の「我々事実認定しているのは、ほとんど客観的な証拠がある部分」という説明が全く事実に反することはいうまでもない。N氏証言は全く客観証拠に基づかないものである上、調査報告書と刑事裁判での検察官の主張、一審判決での認定を比較すると、調査報告書には、核心部分に決定的な誤りがあることが指摘できる。

それは、中村弁護士の会見の冒頭の説明でも出てくる2016年10月26日に開かれたとされる「専務会」だ。

調査報告書では、図表化された時系列の中で、同日の「専務会」について以下のように記述されている。

  <専務会(角川氏、松原氏、井上氏、関谷氏、芳原氏)>

・芳原氏が、専務会において、本件について以下の報告を行う

・東京五輪に際して、Tier3 でスポンサードできそうであること

・スポンサードは、出版カテゴリーで、L社と2社共同となる見通しであること

・出資金額は約5億円で想定されていた予算よりも低廉な支出で済みそうであること

・L社と合わせて5億円の内1億円をコモンズ 2 にコーディネイトフィーとして支払う必要があること

・ 以上の提案は、高橋理事からの提案であること

中村弁護士が「スクリーンショット」と表現するように、いかにも議事録等客観証拠に基づく認定であるように見える。

しかし、欄外の脚注では、

「資料、議事録とも存在しない。もっとも、当委員会としては、関係者の供述及び関連する前後の経緯等を踏まえ、上記列記したとおりの説明がなされたものと判断している」

と、検証委員会の「判断」に過ぎないことが付記されている。

この10月26日の専務会という「根拠のない会議体」での「報告・了承」があったため、贈賄リスクのあるコモンズ2への支払の話がそのままどんどん進んでしまったというのが、ガバナンス検証委員会の認定だった。

しかし、この10月26日の専務会は、検察官の主張には全く出てこないし、一審判決でも認定されていない。要するに、この専務会についての供述は、「勘違い」か「捏造」だったということなのである。

角川氏の「人質司法」に加担した夏野体制のKADOKAWAの「歪んだガバナンス」

角川氏の側からの社員への接触が「罪証隠滅のおそれ」で禁じられ、それが口実とされて「人質司法」による身柄拘束が続く一方、KADOKAWA側では、ガバナンス検証委員会の調査と称して、検察の主張に沿った方向での社員の「供述固め」が行われ、検察のストーリーに沿った検証委員会報告書が公表されて社内での認識共有が図られる。あまりに不公平かつ不条理であり、ガバナンスを錦の御旗とする人質司法への加担そのものだ。

しかも、その夏野体制による「人質司法への加担」は、角川氏の一審有罪判決にも極めて大きな貢献をした。それが、夏野体制のKADOKAWAの「ガバナンスの原点」なのである。

2023年2月2日の会見で、某記者から

「KADOKAWAの社員には、今回は夏野さんによるKADOKAWAの乗っ取り劇だと思ってるという人もいる。ガバナンスを正常に機能させるためにも、夏野さんの社長退任が一番重要なことではないか」

と質問されたのに対して、夏野社長は、

「業績としても今日発表させていただきますけども、順調に業績も拡大しておりますので業績の拡大がうまくいかない場合、そういう退任も当然視野に入ってくる」

と答えている。

夏野氏は、「KADOKAWAの乗っ取り劇」との指摘を受けて、「業績の拡大がうまくいかない場合には退任」と述べていたが、その後のKADOKAWAの業績はどうであったか。

この会見の直後の、23年3月期以降、25年3月期まで、営業利益、経常利益、最終利益いずれも減少を続け、26年3月期の1株当たり利益の予想は、23年3月期3分の1にまで落ち込んでいる。

オアシスをはじめとする株主は、表面的なROEだけでなく、この「人道的な問題」を伴う不透明なガバナンスが、どれだけ会社を蝕み、将来的にも法的・レピュテーションリスクを孕んでいるかを直視すべきだ。

「グローバルスタンダード」を標榜するオアシスにとって、上場企業自らが行った「不公正」は到底是認できないはずだ。

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