甘利氏の「説明責任」は不起訴処分で否定されるものではない ~注目される衆院選神奈川13区

岸田文雄氏が新総裁に就任し、10月1日に発足した自民党新体制で幹事長に就任したのは、「政治とカネ」問題、あっせん利得罪の嫌疑を受けて、説明責任を果たしていないと批判されてきた甘利明氏だった。

 同月3日の記事【問われる「甘利幹事長」の説明責任、なぜ「特捜OB弁護士名」を明らかにしないのか】では、5年前に、週刊文春で疑惑が報じられて以降の経過、甘利氏の対応、あっせん利得罪の成否に関する問題点、刑事事件の捜査経過・処分の経過などを、改めて振り返り、自民党の政治資金、政党助成金等の配分権限を有する幹事長に就任した甘利氏が説明責任を問われていることを指摘した。

 立憲民主党・共産党・国民民主党の野党3党は、「甘利幹事長あっせん利得疑惑追及チーム」を発足させ、上記記事で私が指摘する、甘利氏の問題について調査を担当した弁護士の氏名、調査報告書を明らかにするよう公開質問状を送付したが(10月5日【第1回公開ヒアリング】)、甘利氏側の回答は「私自身が事実関係を把握するために元検事の弁護士に第三者的立場から客観な調査を行わせたもので、公表を前提にしていない」として回答を拒否したとのことだ(10月6日【第2回公開ヒアリング】)。

 甘利氏側は、幹事長会見やテレビ出演等で、「説明責任は果たした。検察が不起訴処分にしたことで既に決着している」として説明責任を否定する姿勢をとり続けている。

 この問題は、企業不祥事などについての「組織の説明責任」ではなく、「個人の説明責任」の問題である。そもそも、「説明責任」は、どのような立場の人物について、どのような問題について生じるものなのか、「説明責任を果たす」とは、どういうことなのか、説明責任は刑事責任の存否やそれについての検察の起訴不起訴の処分とどういう関係にあるのか、「第三者の弁護士による調査」というのは、どういう意味を持ち、どのように扱われるものなのか。

 これらの点について、根本的に考えて直してみる必要がある。

個人の説明責任とはどういうものなのか

 「個人の説明責任」は、社会的影響力のある地位に就き、権限を有する人物が、政治家であれば有権者たる国民から、企業経営者であればステークホルダーから、その地位・立場にあることに疑問を持たれるような事象が明らかになった時に、その疑問を解消するために十分な説明を行い、理解・納得を得ることについての責任である。その説明責任が果たせず、批判に堪えられなくなった時には、「辞任」に追い込まれることになる。

 内閣総理大臣(首相)は、行政の最高意思決定者として、行政全般にわたり強大な権限を有し、国民生活に対して重大な影響を生じさせる地位であることは言うまでもない。森友・加計学園問題、桜を見る会問題などの様々な疑惑で説明責任を問われながら、「突然の辞任表明」に至るまで、それを果たしていないと批判されてきたのが安倍晋三元首相である。

 企業経営者も、企業不祥事が表面化した際、不祥事自体やその対応について経営者としての説明責任が問われるほか、経営者自身の個人的な非違行為についても説明責任を問われ辞任に追い込まれることもある。個人的問題であっても、その事業活動が国民生活や経済に大きな影響を及ぼす大企業であれば、非違行為について説明責任を果たせない人物が経営者の地位にとどまることにより、当該企業自体が、消費者・取引先等のステークホルダーからの信頼を失うからである。

 与党自民党の幹事長の甘利氏にとって、URをめぐる「あっせん利得疑惑」についての「説明責任」についても同様のことが言える。「政党内の人事の問題なので、外部から批判される筋合いはない」というような声もあるが、論外だ。自民党の政治資金のみならず、国民の税金を原資とする170億円に及ぶ政党助成金の配分の権限を握る与党自民党の幹事長がどういう人物なのかは、国民にとっても重大な関心事だ。しかも、総理大臣となる与党自民党総裁が国会議員・党員による「選挙」で選出されるのと異なり、自民党幹事長は、総裁が「指名」するだけであり、民主的な手続を経て選出されたものではない。その権限の適正な行使を期待できる人物か否かに疑念が生じた場合は、説明責任を果たすことが求められるのは当然だ。

説明責任と刑事責任の一般的関係

 甘利氏は、URをめぐる「あっせん利得疑惑」について刑事事件が不起訴で終わっていることを、説明責任を否定する理由にしている。しかし、【前記記事】でも述べたように、検察の不起訴処分というのは、公訴権を独占する検察官が、収集した証拠に基づき有罪判決が確実に得られるかどうかを検討した結果、その権限の行使には至らなかったということに過ぎない。政治家或いは当該政治家の事務所の行為が違法ではなかったことが明らかにされたわけではないのである。一般的に、不起訴処分は「説明責任」を否定する理由とはならない。

 企業不祥事の例で言えば、ある企業で「品質データの偽装」が問題となり、「企業ぐるみの偽装」だとして経営者が告発され、捜査の対象とされたが、末端で行われていた行為で、経営者には認識がなかったとして不起訴になったという場合、刑事責任は問われないとしても、「品質データ偽装」問題がそれで決着するわけではない。企業として第三者委員会を設置するなどして事実解明を行い、ステークホルダーの信頼を回復することが必要となる場合も多い。この場合、刑事責任が問われないことは「説明責任」の否定にはつながらない。

 政治家の例でいえば、安倍元首相にとっての「桜を見る会」問題が典型例だといえる。本来、各界で功労・功績があった人達を慰労することを目的としている公的行事であるのに、安倍後援会関係者が開場時刻前に何台ものバスで乗り付けて、ふんだんな飲食やお土産までふるまわれるなど、安倍後援会側の意向で「地元有権者歓待行事」と化し、公的行事が私物化されていたことがまず問題となり、それに加えて、安倍氏側が、その前日にホテルで開かれた夕食会で自ら費用を負担して選挙区内の有権者に利益供与をした公選法違反の疑いが生じた。

 それに対する安倍首相の説明を、私は「詰んでいる」としたが(【「桜を見る会」前夜祭、安倍首相説明の「詰み」を盤面解説】)、それは、安倍首相が、政治資金規正法、公選法との関係で、「違法ではない」と説明しようとして苦しい言い逃れを重ねた末に、窮地に陥り、どうにも説明がつかない状況に追い込まれていた状況を表現したものだった。

 しかし、「違法ではない」との説明が困難だからといって、必ずしも、安倍氏自身が違法行為あるいは犯罪に関与したとして刑事責任を追及されることになるわけではない。政治資金規正法違反・公選法違反で刑事責任を問うためには、それについて、特定の個人の行為と犯意が証拠によって立証されることが必要だ。

 安倍氏が首相を辞任した後、検察捜査により、安倍首相の国会答弁が虚偽だったことが明らかになり、安倍氏の「説明責任」がさらに厳しく問われることになった。一方で、刑事責任については、秘書が政治資金規正法違反で起訴されただけで、安倍氏については不起訴となり、検察審査会で「不起訴不当」の議決が出され、検察が再捜査を行っているが、仮に、安倍氏自身が不起訴で終わったとしても、「説明責任」という面で、重大な問題があったことに変わりはない。

 この問題については、刑事責任の問題は、問題全体の中の一部に過ぎない。刑事責任が問われないからと言って「説明責任」が否定されるわけではないのである。

甘利氏についての「説明責任」と刑事責任

 では、甘利氏の問題では、刑事責任が問われないことで説明責任が否定されると言えるのか。

 背景にあるのは、国会議員や秘書による行政庁等への「口利き」の問題だ。

行政庁等に不当な影響力を及ぼし、依頼者の個人的利益を図り、国会議員等も利益を図る行為が社会的批判を浴びたことから、そのような行為を処罰するために、2000年に議員立法で成立したのが「あっせん利得処罰法」だ。

 しかし、国会議員等の政治家が、支持者・支援者等の国民から依頼され、裁量の範囲内の行政行為について行政庁等に働きかけて依頼に応えようとすることは、国民の声・要望を行政行為に反映させるための政治活動として必要なものでもある。  

 そこで、あっせん利得処罰法では、そのような政治活動全般を委縮させることがないよう、あっせんの対象を、「行政処分」と「契約」に関するものに限定し、国会議員等が「権限に基づく影響力を行使」した場合に処罰の対象を限定することで、「二重の絞り」をかけ、看過できない重大な事案だけが処罰の対象とした。

 しかしそれは、そのように極めて狭い範囲に限定された「処罰の対象」に当たらない場合には何も問題がないことを意味するものではない。当該行為によって行政が捻じ曲げられ、国会議員や秘書の側が利益を得た事実はあるが、犯罪には該当しないこともあり得る。その場合は、「不当な口利き」への批判に対して、政治家としての説明責任が問われることになる。

 甘利氏の問題については、秘書が、依頼者とURとの補償交渉に介入したこと、秘書と甘利氏本人が現金を受領した事実があったことが客観的に明らかになっている。

 補償は「補償契約」によって決着するので、「契約」に関する「あっせん」であることは明らかである。また、「国会議員の権限に基づく影響力」についても、現職閣僚で有力な与党議員であるうえ、2008年に麻生内閣で行革担当大臣に就任した甘利氏は、2012年に自民党が政権に復帰して以降、組織の在り方や理事長の同意人事など、URをめぐる問題が与党内で議論される場合には相当大きな発言力を持っていたものと考えられ、「議員としての影響力の行使」も十分可能な立場だったといえる。

 そういう意味で、甘利氏をめぐる問題は、二重の絞りがかけられ、ストライクゾーンが狭く設定されたあっせん利得処罰法の処罰の対象の、まさに「ど真ん中のストライクに近い事案」であった。

 しかし、そのような事案であっても、甘利氏や秘書が、あっせん利得処罰法によって起訴され処罰されるためには、多くの立証上のハードルをクリアしなければならない。とりわけ問題になるのは、「議員としての影響力の行使」だ。それが可能な立場であっても、実際に「行使した証拠」がなければ、あっせん利得罪は立証できない。また、実際にUR側との交渉を行っていたのは秘書なので、秘書から、「交渉の事実を甘利氏に報告していた」との供述が得られなければ、甘利氏本人についての犯罪は立証できない。

 一般的には検察の不起訴処分の理由は公表されないが、この件については、検察審査会が公表した「不起訴不当」を含む議決書を入手することができた。少なくとも、検察の一回目の不起訴の理由は推察することができ、議決書では、その不起訴が不当であることについて、具体的な事実に基づき、かなり踏み込んだ判断が示されている。

検察審査会「不起訴不当」議決の内容

 あっせんの対象とされた案件には、

・2013年5月に、A社側の依頼を受けた甘利事務所が介入した後に、同年8月に約2億2000万円の補償金が支払われた案件(Ⅰ案件)と、

・URの工事によってS社所有の土地のコンクリートに亀裂が入ったことに関して、A社がURに産廃処理費用として数十億円の補償を要求した案件(Ⅱ案件)の二つがあった。

 いずれも、当初の検察官の秘書についての不起訴理由は、「権限に基づく影響力」を「行使した」と認める証拠が十分ではないというものだったようだ。しかし、検察審査会は、

《あっせん利得処罰法違反における「その権限に基づく影響力を行使」したと認められるためには、あっせんを受けた公務員等の判断に影響を与えるような態様でのあっせんであれば足りる。当該議員の立場や地位、口利きや働きかけの態様や背景その他の個別具体的事案における事情によっては、公務員等の判断に影響を与えるような態様の行為と認め得る》

との前提に立って、両案件について検討している。

 Ⅰ案件については、D秘書が、事前の約束もなしに独立行政法人C本社を訪れてその職員と面談して、本件補償交渉に関する内容証明郵便への対応を確認したことを重視し、

《D秘書は、衆議院議員で、有力な国務大臣の一人である被疑者甘利の秘書であるからこそ、応接室に通され、独立行政法人C本社の職員らと面談し、前記の確認をできたとみるのが自然》

《そういった行動が独立行政法人Cの判断に影響を与え得るものと判断しているからと考えるのが自然》

《独立行政法人C本社職員がわざわざ自らの業務時間を割いて、D秘書を面談し、補償交渉1に関する説明をしたのも、それをしないと不利益を受けるおそれがあるからと判断したとみるのが自然》

などとして、「権限に基づく影響力を行使」したと認める余地があると判断し

《検察官の判断は、納得できるものではなく、改めて捜査が必要であり、不当である》

としている。

 また、Ⅱ案件についても、

《Bが継続して相談していたのはA社と独立行政法人Cとの道路建設工事の実施に伴う損傷修復等に関する補償交渉であること、多額の現金供与に経済的に見合う事柄は補償交渉2であることを考慮すると、この継続する現金供与の主要な目的は、A社と独立行政法人Cとの補償交渉2に関し、被疑者清島や被疑者鈴木においてあっせん行為をすることの報酬、謝礼であるとみるのが自然である》

《(Ⅰ案件の)補償金額が増額したことの対価としてBから被疑者清島に対し500万円もの現金が渡されたことも踏まえると、Bが、A社と独立行政法人Cとの補償交渉2について、甘利事務所によって独立行政法人C担当者の判断に影響を与えるような働きかけを求めていたことは容易に認めることができる。》

《被疑者Hも、Bにおいて、(Ⅰ案件と)同様に、甘利事務所による働きかけによってA社が主張する額の補償金が支払われるようあっせんすることを求めていることを知っていたからこそ、その対価として多数回に渡り現金の供与を受けていたと認めるのが自然である。》

として、受領した金銭等が、補償金の支払のあっせんの対価であったことの認識を認め、

《検察官の判断は、納得できるものではなく、改めて捜査が必要であり、不当である》

とした。

 いずれにせよ、甘利氏のURをめぐるあっせん利得疑惑は、刑事事件の不起訴も、市民の代表である検察審査員の多くが納得できるものではなかった。この不起訴不当議決を受けて検察は再捜査し、再度不起訴にしたものの、まさに紙一重の判断であったと言える。「国会議員の権限に基づく影響力」を有すること、しかも、少なくとも秘書が受領した現金が、あっせんの報酬であったことは議決書で認められており、まさに、悪質な「口利き」であることは否定できない。甘利氏の政治家としての説明責任が否定されるものではないことは明らかだ。

 

第三者の弁護士による調査

 そこで問題になるのが、甘利氏が言うところの「第三者の弁護士による調査」と説明責任の関係だ。

 政治家個人について何らかの問題が表面化し、説明責任を問われた場合、事実関係を明らかにして説明することが求められる。そのためには、事実関係を調査することが必要となる。その説明内容が合理的で信用できるものでなければ、国民の納得が得られない。そこで、当事者の政治家本人に代わって、第三者の弁護士に調査を依頼するという方法が用いられることがある。

 企業不祥事によって失墜してしまった社会的信頼を回復するため、企業等から独立した委員のみをもって構成され、事実関係を調査し原因を分析し、再発防止策等を提言するのが、「第三者委員会」であり、多くの企業不祥事で、日弁連の第三者委員会ガイドラインに準拠した形で設置されてきた。この場合、委員の構成、調査報告書を公表することは必要不可欠となる。

 政治家個人が自らの問題について第三者の弁護士に調査を依頼した場合、弁護士名、報告書の公表が必須とまでは言えない。甘利氏が幹事長就任後に言っているように、弁護士調査は本人が事実を把握するためのもので、その結果は政治家本人が説明するというのも、それ自体が否定されるわけではない。

 しかし、この問題は、甘利氏本人が説明するだけで済むものではない。特に問題なのは、甘利氏が自身も現金を受領したことを認めているものの、秘書とURとの交渉については全く認識しておらず、週刊文春の記事は「寝耳に水」だったと述べていることだ。その経緯について、週刊文春の記事では、依頼者は、

「現金を渡した甘利氏との面談の際に依頼内容を説明した」

と証言したとされており、秘書とURとの交渉の録音記録にも

「代議士にも報告している」

との秘書の発言が残っている。第三者の弁護士による調査が行われたのであれば、甘利氏への報告の有無・内容について秘書から聴取しているはずであり、その際、秘書とUR側との会話内容や週刊文春記事での依頼者の証言も参考にされているはずだ。

 このような場合に、当事者である甘利氏が自らに有利な結論を述べただけでは、そのまま受け入れることができないのは当然だ。弁護士調査の結果に基づいて、秘書がどのように供述しているのかを示すことが不可欠だと言える。

 しかも、「調査を担当した第三者の弁護士」について、甘利氏は、「特捜OBの弁護士」であると述べ、単なる弁護士以上の「信頼性」「真相解明能力」を強調している。そうであれば、その「特捜OB弁護士」というのが誰であるかを明らかにしなければ、そのレッテルに偽りがあるかどうかを判断できない。

「説明責任を果たす」とはどういうことなのか

 以上述べたとおり、URをめぐるあっせん利得疑惑について、自民党幹事長に就任した甘利氏には、重大な説明責任があることは否定できないし、これまでの甘利氏の対応で説明責任を果たしているとは到底言えない。

 では、甘利氏にとって、「説明責任を果たす」とは具体的にどういうことなのか。

 それは、疑問を持たれていることについて、合理的で納得できる説明を行うことである。弁護士名や報告書を公表するのが最も端的な方法だ。それができない事情があるとすれば、考えられるのは、第一に、「特捜OBの弁護士」が行った十分な内容の調査報告書が存在するが、公表について弁護士の了解が得られない、という「弁護士の了解」の問題、第二に、調査をまともに行っていない、或いは、一応調査はやったが公表に堪えうる内容ではない、という「調査の内容」の問題である。 

 第一だとすると、調査報告書自体は公表しなくても、その内容を公表するなり、甘利氏自らが詳細に説明することはできる。十分な内容の調査報告書が存在するのであれば、そこには、そもそも、どのような経緯で、甘利事務所の秘書が依頼者側からURとの補償交渉を依頼されたのか、そのような依頼者を、なぜ、大臣室で甘利氏と会わせることになったのか、大臣室で現金を受領した際のやり取り、その後の現金の処理、URとの交渉についての甘利氏への報告の有無などについて、秘書の供述内容が具体的に記載されているはずだ。それについて、調査報告書の内容を、甘利氏が自ら説明すればよいのである。それが、甘利氏にとって「説明責任を果たす」ということである。

 そのような、調査報告書に当然記載されているはずの事項について甘利氏が説明できないとすると、弁護士名・調査報告書を公表できない理由は上記第二だと判断されることになる。第二の理由だとすると、甘利氏は、説明責任を果たすことは不可能だということであり、自ら非を認めない限り、説明責任から逃げ続けるしかない。それが、自民党幹事長にあるまじき行動であることは明らかだ。

野党の「疑惑追及チーム」による「説明責任」追及の限界

 甘利氏が自民党幹事長に就任したことを受け、疑惑追及のために急遽設置された、「甘利幹事長あっせん利得疑惑追及チーム」は、連日のように国会内で、関係省庁、URの担当者等を呼んでヒアリングを行い、その中で、甘利氏への公開質問状への回答内容を紹介したりしている。しかし、このような野党側の追及で甘利氏に説明責任を果たさせることができるかと言えば、ほとんど期待できないと言わざるを得ない。

 最大の問題は、甘利氏の説明責任がいかなる根拠で生じているのか、「説明責任を果たす」というのがどういうことなのかということが理解されないまま、かなり的外れな質問が繰り返されていることである。

 私は、2016年1月21日発売の週刊文春が、当時、経済財政担当大臣だった甘利氏のUR都市機構の土地売却への「口利き」をめぐる金銭授受疑惑を最初に報じた際、同誌の取材に、「あっせん利得罪が成立する可能性がある」とコメントし、それ以降、甘利氏の疑惑追及の中心となってきた。野党側の甘利氏の疑惑追及にも全面協力してきた。

 これまでであれば、野党が甘利氏の疑惑追及を行うのであれば、法律面や、事実認定上の問題等について、まず私に助言を求めてくるはずだが、今回は、それは全くない。その一方で、疑惑追及チームのヒアリングの場では、私の名前や、「あっせん利得処罰法の処罰の対象の、まさにど真ん中のストライク」という5年前の私の発言を勝手に引用したり、私が指摘していることを「受け売り」したりしている。

 そのヒアリングの内容を確認したが、率直に言って、残念としか言いようがない。

 本件の問題の当時、甘利氏は経済再生担当大臣だったのに、「行革担当大臣」という過去の地位と取り違えたり、甘利氏が幹事長として判断すべき事項に関連づけて「参院選での自民党本部から河井夫妻への1億5000万円の資金提供」の問題も取り上げているが、「買収の共謀」と「買収目的交付罪」との区別もつかないまま、「決裁権者が買収の共犯に該当する可能性」について法務省担当者に執拗に質問して困惑させている。

 なぜ、私に連絡をとらないのか、それは、疑惑追及チームの中心になっている立憲民主党が、8月に行われた横浜市長選挙で当選した山中竹春氏について「説明責任を全く果たしていない」として、私から批判されているからだ(【横浜市長選、山中候補の説明責任「無視」の立憲民主党に、安倍・菅政権を批判する資格があるのか】)。山中氏が市長選挙で当選し、市長に就任して以降も、私が選挙期間中から指摘していた問題はますます深刻化し、横浜市大の理事長・学長への不当要求問題、強要未遂事件の告発受理、経歴詐称問題に関する決定的な事実の報道などが続いているが、相変わらず、山中氏は質問にまともに答えない姿勢を続けており、立憲民主党側も、何ら対応している気配はない。

 他党の政治家の説明責任を追及するのであれば、まず自ら「説明責任を果たす」ということを実践すべきであろう。

甘利氏「説明責任」は衆院神奈川13区有権者に対して果たすべき

 前記のとおり、自民党幹事長は、党の政治資金、政党助成金の配分の権限を握る重要なポストだが、選挙によって選任されるわけではない。甘利氏が、唯一、選挙の洗礼を受ける場は、目前に迫った衆議院神奈川13区の小選挙区選挙だけだ。

 自民党幹事長に就任した後も、「説明責任を果たした」と言い続けている甘利氏が、このまま何事もなく衆議院選挙を乗りきることができれば、それによって、甘利氏のこれまでの対応について、選挙を通して国民の了解が得られたことになる。それは、第二次安倍政権から長年にわたって続く、説明責任軽視、虚言で批判を交わす政治が、岸田政権下においても継続することを意味する。

 甘利氏の「説明責任」への対応如何で「NO!」を突き付けることができるのは、衆院神奈川13区の有権者だ。大和市・海老名市・座間市・綾瀬市の人たちは、今後の日本の政治を左右する重責を担っている。

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日大背任事件「水増し」の有無が、犯罪成否のポイント

東京地検特捜部が、9月8日、日本大学本部や関連会社、日大事業部などを背任容疑で家宅捜索した事件で、昨日になって、各紙が「特捜部が詰めの捜査」「理事を背任で立件へ」などと報じていたが、今日(10月7日)、井ノ口忠男理事らが逮捕された。

 背任(会社の役員の場合は、会社法の「特別背任」)は、財産犯の中でも、最も立証が難しい犯罪だ。「他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えた」ときに成立するが(刑法247条)、「自己若しくは第三者の利益を図り」(=図利目的)、「任務に背く行為をし」(=任務違背)、「本人に財産上の損害を加えた」(=財産上の損害)のそれぞれに立証上の問題が生じる。

 会社や法人の役職員の場合、「自己の利益を図る目的」があったと言えるか、任務違背が客観的に裏付けられるかが問題となる場合が多いが、本人に「財産上の損害」が発生したといえるかが問題になる場合もある。

 今回の日大の事件の場合も、日大に「財産上の損害」が発生したといえるか、という点は、かならずしも単純ではない。

 昨日(10月6日)の朝日の記事【日大理事に2500万円、流出資金「還流」か 東京地検が本格捜査へ】では、以下のように報じている。

 日大は2019年12月、医学部付属板橋病院の建て替え工事をめぐり、設計・監理業者を選ぶ「プロポーザル」(提案型の審査)業務を完全子会社「日本大学事業部」に委託した。日大理事は同社取締役として業務に関わった。

 プロポーザルには4社が参加し、日大事業部は都内の設計事務所を選定。金額は24億4千万円と決定し、これをもとに日大は20年4月に同額で契約した。契約金は3回に分けて支払う予定で、同年7月に1回目として3割の約7億3千万円を支払った。

 翌8月、理事の指示に基づき、このうち2億2千万円が設計事務所から都内の会社に送金された。この会社は、大阪市の医療法人グループの前理事長が全額出資した実体のないペーパー会社で、送金は「コンサルタント料」名目だったという。特捜部は、理事が本来は不要な2億2千万円を含む契約を日大に結ばせ、大学に損害を与えたとみている。

 翌9月には、この医療法人グループの関連会社から、理事の知人側が所有する都内のコンサル会社に対し6600万円の送金があった。11月には、このうち3千万円が知人側の都内の別会社に移った。

 毎日の記事【日大背任 病院設計監理の予定価格数億円つり上げか 理事を追及へ】では、設計会社との契約額や「水増し」について、以下のように報じている。

 都内の設計会社の提案書は当初、業務の総額を20億円前後としていたが、男性理事が数億円上方修正して約26億円にするよう設計会社側に指示し、金額が差し替えられた疑いがあるという。事業部は国土交通省の基準などから事前に上限を約26億円と見積もっており、これに近づける意図があったとみられる。

日大幹部ら7人が設計内容や価格などを考慮して各社の提案書を採点。最高点は都内の設計会社ではなかったが、男性理事の指示で評価点が水増しされ、都内の設計会社が1位になったという。

 事業部は設計会社と金額交渉して約2億円値下げし、日大は同年4月に設計会社と約24億円で契約。同年夏に設計会社に前払い金約7億円が支払われた。このうち2億2000万円が男性理事の指示で、大阪市の医療法人グループの前理事長が株式を100%保有する都内のコンサルタント会社に送金された疑いがある。コンサル会社は実体がないペーパーカンパニーだったとみられる。

 その後、医療法人グループ側から複数の会社を通じて男性理事に2500万円が渡っているといい、特捜部は医療法人グループの前理事長を任意で事情聴取し、男性理事側との金銭のやり取りの趣旨を確認している模様だ。

 これらの記事を前提にすると、「任務違背」については、設計内容や価格などを考慮して各社の提案書を採点した際に、「男性理事の指示で評価点が水増しされた」という点で、要件を充たすものと思われ、また、「医療法人グループ側から複数の会社を通じて男性理事に2500万円が渡っている」ということであれば、「図利目的」も認められると思われる。

 問題は、「財産上の損害」が立証できるかどうかだ。

 朝日記事で、「本来は不要な2億2千万円を含む契約を日大に結ばせ、大学に損害を与えた」とされているが、日大が設計会社との契約で支払う金額が、本来の契約額に2億2000万円上乗せされて、24億円で契約し、その差額分が、コンサルタント会社に支払われ、それが理事側に「還流」したと言えるのであれば、2億2000万円は、日大の損害だと言える。

 しかし、仮に、24億円という契約価格は、それなりの合理的な根拠に基づいて算定された価格で、設計会社が、理事側に要求されて、その契約代金の中から、2億2000万円を理事側に支払ったということになると、設計会社の負担で、リベートが理事側に支払われたことになり、財産上の損害はなかったことになる。

 この点は、この種の背任事件において、しばしば問題となる点だ。日産自動車の元会長のカルロス・ゴーン氏のオマーンルートの特別背任事件についても、同様の問題があった。

【ゴーン氏「オマーン・ルート」特別背任に“重大な疑問”】でも述べたように、検察は、ゴーン氏が、オマーンの販売代理店SBAへの支払のうち500万ドル(同約5億6300万円)を自らに還流させたと主張し、その資金がゴーン氏のキャロル夫人の会社に還流し、“社長号”なる愛称がつけられたクルーザーの購入代金に充てられているとしきりに報じられていた。確かに、正規に支払が予定されていた販売奨励金の金額に、ゴーン氏側への還流分を上乗せして支払ったということであれば、その分、日産に損害が発生したことになる。しかし、その点の立証のためには、SBA側から、「当初から、日産が支払うべき販売奨励金に上乗せした支払を受け、それをゴーン氏側に還流させた」との供述が得られるか、それが客観的に立証できるかどうかが特別背任罪の成否のポイントだった。

 「水増し請求」による背任罪での刑事立件が可能な典型例として、私が、長崎地検次席検事の時代に検察独自捜査で手掛けた「自民党長崎県連事件」(【検察の正義】ちくま新書、最終章「長崎の奇跡」)で、入り口事件となったF建設の背任事件というのがあった。

 この事件では、F建設側がY興産という海砂販売会社との契約で、購入する海砂の量を実際より多く計上させて水増し請求させ、裏金としてバックさせた事実を背任罪で立件した。この事件では、海砂の実際の販売数量と、契約書上の販売数量とが大幅に異なることが、伝票等の客観的な資料によって裏付けられていたので、その分がF建設に「財産上の損害」が生じたことの立証が容易だった。

 しかし、今回の日大の事件のように「設計業務」というのは、客観的な根拠で契約額が決まるものではないので、「水増し」を客観的に立証することは難しい。どうしても、関係者の供述に頼らざるを得ない。

 上記の毎日の記事に書かれていることとの関連で言えば、「設計会社の提案書は当初、業務の総額を20億円前後としていたが、男性理事が数億円上方修正して約26億円にするよう設計会社側に指示」という事実について、設計会社側から

もともと「適正価格」を20億円程度と考えていたが、理事から、26億円の予算があるので、もっと引き上げてくれて構わない、ただ、その引き上げた分のうち2億2000万円は私の方にバックしてほしい、と言われていたので、それにしたがって、20億円より高い金額で、日大側と交渉した

というような供述が得られていることが、「財産上の損害」の立証ができるかどうかのポイントになるだろう。

 この種の事件では、ゴーン氏のオマーン・ルートがまさにそうであったように、契約の相手方から代金の一部が「還流」していることに注目が集まる。今回の件も「還流」が、そもまま「日大側の財産上の損害」であるかのように捉える記事が多いが、「還流」だけでは、本人について「財産上の損害」が発生したとはいえない。本人が、本来支払うべき金額を超えた支払をさせられていることが客観的に明らかになることが必要だ。

 もちろん、特捜部の方でも、その点の問題点は十分に認識して、捜査を行っているだろうが、今後の捜査や公判の展開を予想する上でも、大きなポイントであることは間違いない。

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問われる「甘利幹事長」の説明責任、なぜ「特捜OB弁護士名」を明らかにしないのか

自民党総裁選挙で、河野太郎氏らを破って当選し、総裁に就任した岸田文雄氏が、幹事長に選んだのは、甘利明氏だった。

「生まれ変わった自民党を、国民に示す」と宣言した岸田氏が、カネと人事を握る党の要の幹事長に、「政治とカネ」問題、あっせん利得の嫌疑を受けて、説明責任を果たしていないと批判されている甘利氏を就任させたことが、大きな波紋を呼んでいる。

これに対して野党側は強く反発し、野党3党の合同調査チームを来週設置する方針を明らかにしている。近く開かれる臨時国会でも、甘利氏の参考人招致や政治倫理審査会開催などを求めていくとのことだ。

私は、2016年1月21日発売の週刊文春が、当時、経済財政担当大臣だった甘利氏のUR都市機構の土地売却への「口利き」をめぐる金銭授受疑惑を最初に報じた際、同誌の取材に、「あっせん利得罪が成立する可能性がある」とコメントし、記事で事案の詳細を確認した時点で、「絵に描いたようなあっせん利得」と表現した(【甘利大臣、「絵に描いたようなあっせん利得」をどう説明するのか】)。

 「あっせん利得罪」というのは、政治とカネ問題を報じる週刊誌が飛びつきやすい罪名であり、その犯罪の成否についてコメントを求められたことは多数あるが、構成要件に絞りがかけられており、刑事事立件のハードルはかなり高い。殆どの件では、私は消極コメントをし、記事にならなかったか、記事に別の識者コメントが掲載されている。あっせん利得罪について私が「成立の可能性」をコメントしたのは、この甘利氏の件の一回だけだ。

2016年2月24日、衆議院予算委員会の中央公聴会で公述人として、「独立行政法人のコンプライアンス」を中心に意見を述べた際にも、甘利氏の事件に言及し、「この問題が、大臣辞任ということだけで、何ら真相解明が行われず、うやむやにされるとするとすれば、国会議員の政治活動に関する倫理感の弛緩を招くことになりかねない。」と述べた(【独法URのコンプライアンスの視点から見た甘利問題】)。

その後も、甘利氏の問題について動きがある度にブログ等で取り上げ、刑事事件としての立件の可能性について積極的に解説してきた。

今回、甘利氏が自民党の幹事長に就任したことで、5年前の同氏の「政治とカネ」問題が改めて注目されることになった。

この問題が、どのような問題であり、刑事事件がどのような経緯をたどり、「説明責任」への甘利氏の対応にどういう問題があったのかを、改めて解説しておきたいと思う。

報道等で明らかになった事実と甘利氏の大臣辞任、その後の国会欠席

当初、週刊文春で報じられたのは、当時経済再生相だった甘利氏の秘書が、道路用地買収をめぐって独立行政法人都市再生機構(UR)と建設会社(S社)との補償交渉に介入し、秘書が建設会社側から多額の報酬を受け取ったり接待を受けたりしたほか、甘利氏自身も大臣室等で合計100万円の現金を受領したという疑惑だった。

甘利氏は、2016年1月28日に行った記者会見で、大臣室でS社側と面談し、その場で現金50万円、その後地元事務所で50万円を受領し、合計100万円の現金を受領したこと、秘書がS社からURとの補償交渉についての相談や依頼を受け、500万円を受領したことを認めた上、大臣辞任を表明した。

同会見において、甘利氏は、「特捜OBの第三者の弁護士」が秘書や経理担当者などの関係者から直接聴取し、関連資料等を確認した結果というものにもとづいて、URへの「口利き」や現金授受の疑惑についての説明を行った。

「URへの口利き」も「金額交渉への介入」もないとした上で、秘書が、S社側から政治献金として現金を受領しながら一部を使い込んでしまったり、多数回にわたって現金を受領したり、飲食の接待を受けていたことなどについて、「秘書が疑惑を招いていることについての監督責任をとって辞任する」という説明だった。

甘利氏が、記者会見で最大の拠り所としたのが、この「特捜OBの第三者の弁護士による調査」だったが、その弁護士が、どこの誰なのであるのかは、一切明らかにしなかった。

そして甘利氏は、大臣辞任の記者会見以降、公の場には一切姿を見せず、「睡眠障害で1カ月間の自宅療養が必要」との診断書を提出して、同年6月1日の通常国会閉会まで4ヵ月にわたって国会を欠席し続けた。

「権限に基づく影響力」についての法解釈

この事件については、甘利氏本人や秘書に多額の現金が渡ったこと、少なくとも秘書がUR側と多数回接触していたことは明らかで、甘利氏自身もそれを認めている。そこで、あっせん利得罪成立のポイントとなったのが、「甘利氏にURに対する“国会議員としての権限に基づく影響力”が認められるかどうか」だった。

この点について、私は、当初から、国会議員の「権限」とは、議院における議案発議権・評決権・委員会における質疑権等であり、国会議員の「権限に基づく影響力」とは、権限に直接又は間接に由来する影響力、すなわち職務権限から生ずる影響力のみならず、法令に基づく職務権限の遂行に当たって当然に随伴する事実上の職務行為から生ずる影響力をも含み、「他の国会議員への働きかけ」も、国会議員としての職務権限に密接に関連するもので、そのような行為を行い得ることによる影響力も、「権限に基づく影響力」に含まれるとの解釈を繰り返し強調してきた。

このような解釈は、立法当時の国会答弁や立法者の解説書などでも示されているものであり、否定される余地はないものだ。事件当時、有力閣僚の地位にあった甘利氏の場合、与党内でのURに関する議論にも大きな影響力を及ぼし得る有力議員であり、「権限に基づく影響力」を及ぼし得る立場であった。

ところが、この点に関して、甘利問題が表面化した当初から、この点について異なった解釈を示し、あっせん利得罪の成立に否定的な見方を示していた特捜OBの弁護士がいた。特に、元東京地検特捜部長・名古屋高検検事長の宗像紀夫弁護士は、検察がURに対して強制捜査に入った後も、あっせん利得罪の要件である「権限に基づく影響力の行使」について、全く的外れな解釈を示し、犯罪が成立する余地が乏しいかのようなコメントを行っていた。以下は、4月13日付け日経新聞社会面記事だ。

元東京地検特捜部長の宗像紀夫弁護士によると、同法違反罪の成立には「議員の権限に基づく影響力の行使」が必要という。金銭授受のあった当時、甘利氏は経済財政・再生担当相だった。宗像弁護士は「分かりやすい例は『言うことを聞かないと議会で質問して追及する』といった場合だが、甘利氏は当時閣僚で、議会で質問する立場にはなかった」と指摘。URを所管する国土交通相でもなく、「URとのトラブルに関連して職務上の権限があるとは考えにくい」としている。

当時閣僚で、議会で質問する立場にはなく、URを所管する国土交通相でもなかった甘利氏には、「議員の権限に基づく影響力の行使」が認められる余地がないというのであれば、今回の問題について、あっせん利得罪が成立する余地はないことになる。

「あっせん利得罪」は、刑法の「あっせん収賄」と同様に、公務員が他の公務員(URの役職員は、法律で「みなし公務員」とされている。)に一定の職務行為を行うこと、或いは行わないことを働きかける「あっせん」を行って対価を受け取る行為を処罰の対象としている。

国会議員のような「政治的公務員」の場合、政策実現のための政治活動として、官僚等の公務員に職務行為に関して働きかけを行うこともあり、その対価を「政治献金」として受領する行為を広く処罰の対象にすると、正当な政治活動の委縮を招きかねないとの理由から、あっせんの対象とされる公務員の職務行為は、「あっせん収賄」では「不正行為」に限定され、「あっせん利得処罰法」では「契約」や「行政処分」に関するあっせんに限定された上、「権限に基づく影響力を行使して」あっせんを行った場合に限られている。

そのため、一般的には、国会議員やその秘書に対する適用のハードルはかなり高い。しかし、前記の予算委員会の公述人陳述でも述べたように、「甘利問題」は、狭く設定されたあっせん利得処罰法の処罰対象のストライクゾーンの「ど真ん中」の事案だったのである。

宗像氏の日経新聞記事でのコメントは、全く誤ったものであることは明らかだったが、同氏は、特捜部長経験者の大物検察OBである一方、安倍内閣の「内閣官房参与」という地位にもあった。今回の甘利問題についての発言は、特捜検察OBという立場で言っているのか、それとも、内閣官房参与として、安部内閣の擁護者の立場で言っているのか、という点にも疑問があった。当時、以上の私の見解と疑問を書いたブログ記事が【甘利問題、今なお消極見解を述べる宗像紀夫弁護士・内閣官房参与】だった。

あっせん利得罪の成立の可能性

この問題で、あっせん利得罪の成否が問題となる案件が二つあった。一つは、2013年5月に、S社側の依頼を受けた甘利事務所が介入した後に、同年8月に約2億2000万円の補償金が支払われた案件(A案件)、もう一つは、URの工事によってS社所有の土地のコンクリートに亀裂が入ったことに関して、S社がURに産廃処理費用として数十億円の補償を要求した案件(B案件)であった。

私は、当時、報道されていた事実関係を前提に、「口利き」の対象となったA案件、B案件、それぞれについてあっせん利得罪の成否を論じ、B案件については、刑法のあっせん収賄罪の成立の可能性もあることを指摘した(【甘利問題、検察捜査のポイントと見通し①(あっせん利得処罰法違反)】【甘利問題、「あっせん利得罪」より、むしろ「あっせん収賄罪」に注目 ~検察捜査のポイントと見通し②】)。

URの予算等を承認する直接の所管官庁は国土交通省だが、かつては公団だったURが独立行政法人となった後、その組織の在り方については、完全民営化を含めた様々な議論が行われ、最終的には、都市再生機構法という法律改正の是非という立法問題となった。しかも、URの理事長等は国会の同意人事だ。第一次安倍内閣で行政改革担当大臣を経験している甘利氏は、国会での多数を占める与党内でのURの在り方や人事等に影響力を及ぼし得る有力な国会議員と認識されていたはずだ。それが、UR側から押収した資料や、それに基づくUR側の供述によって裏付けられれば、「国会議員の権限に基づく影響力」があったことの立証が可能となる。

A案件で、それまで進んでいなかった補償交渉が甘利事務所の介入後に一気に進展し、約2億2000万円の補償金が支払われることで決着した事実は、補償金が支払われたA案件についてあっせん利得罪の成否に関する重要事実であるだけでなく、結果的には補償金が支払われなかったB案件についてのあっせん利得罪における「権限に基づく影響力」の有無を判断する上で重要な事実だ。

元行革担当大臣としての甘利氏のURに関連する問題への関与と、与党内での有力国会議員としての地位に加え、甘利事務所介入直後からA案件の補償交渉が進展した経緯は、A・B両案件について、「国会議員の権限に基づく影響力」を認める根拠になり得ると考えられた。

「権限に基づく影響力の行使」の有無

しかし、甘利氏がURに対して、「国会議員の権限に基づく影響力」があり、それがUR側の補償交渉に現実的な影響を及ぼし、甘利氏側がその報酬を受け取ったとしても、それだけで犯罪が成立するわけしない。その「影響力」を、議員やその秘書が「行使」した場合でなければ犯罪とはならない。

URとの補償交渉に介入した甘利氏の元秘書が、甘利氏が、与党の有力政治家であり、URの在り方に関する立法等を通してURに影響を及ぼし得る国会議員であることを、暗にほのめかしたり、それを前提にしていると思われる発言をした、というような事実があれば、「行使した」と認められる余地がある。

しかし、その「行使」の事実は、個人の行為として具体的に特定されなければならない。問題は、その「行使」の場面があったか否かである。

週刊文春の記事によると、S社の総務担当者のI氏が、URとの補償交渉(A案件)について最初に依頼したのが2013年5月9日、対応したのが秘書(当時甘利氏の秘書で地元事務所の所長)、UR側に内容証明を送ることを提案し、甘利氏の別の秘書が、UR本社に赴いて交渉した結果、同年8月に、URから約2億 2000万円の補償金が支払われることになった。I氏は、8月20日、その謝礼として500万円をK秘書に渡したとのことである。

A案件について、甘利事務所側が直接UR側と接触したのは、この秘書がUR本社に行った際の一回だけのようだ。それ以外に、電話などでUR側と話す機会があった可能性もあるが、それらのURとの接触において、「影響力を行使した」と認められるような言動があったことを立証する証拠を得ることは容易ではないと考えられた。

一方、B案件については、2014年1月に面談を申し入れて以降、2015年11月ころに至るまで、I氏から金銭や飲食の提供を繰り返されていた甘利氏の秘書が、UR側に多数回にわたって執拗に接触を繰り返し、その中で、2015年10月にURが「逆にこれ以上関与しないほうが良いように思う。現在の提示額は基準上の限度一杯であり工夫の余地が全くなく、要望を聞いてしまうと甘利事務所もURも厳しくなるだけ。」とコメントするような場面まで出てきた(UR折衝記録)。同年11月には、甘利氏の地元事務所にて秘書とUR総務部長・国会担当職員が面談した際、大臣名を出して圧力をかけたとのことだった。影響力の「行使」の要件は、A案件よりB案件の方が認められる可能性が高いと考えられた。

検察の不起訴処分、検察審査会の議決と甘利氏の政治活動再開

ところが、弁護士団体の告発を受けて東京地検特捜部はUR側への家宅捜索を行ったが、肝心の甘利氏の事務所への強制捜査も、秘書の逮捕等の本格的な捜査は行われることなく、国会の会期終了の前日の5月31日、甘利氏と元秘書2人を不起訴処分(嫌疑不十分)とした。

その後、検察審査会への審査申立の結果、「不起訴不当」の議決が出された。

「国民の目」からも検察の処分は到底納得できないものだったことは明らかだったが、検察は再捜査の結果、再度、「不起訴」とした。

この事件で、大臣室で業者から現金を受け取ったことを認めて大臣を辞任した後、「睡眠障害」の診断書を提出して、4ヵ月にもわたって国会を欠席していた甘利氏は、不起訴処分を受けて、「不起訴という判断をいただき、私の件はこれで決着した」と記者団に述べ、政治活動を本格的に再開する意向を示した。

そして、甘利氏は、2016年6月6日、政治活動再開を宣言し、地元である神奈川県大和市の事務所の前で、記者の質問に、以下のように述べた。

 大臣会見の時にご覧になったと思うが、私に関する調査は丁寧に弁護士さんにやっていただいたわけであります。それは発表させていただきました。それ以降についても調査を再開してほしいと。調査というのは私が直接やるわけではないです。客観性のために第三者がやりますので、それを続けていただきました。これは、捜査の支障をきたすおそれがあるということで一時中断をしましたと、私に連絡がありました。これは私にはどうしようもありません。捜査当局の判断が出ましたので、続けて再開していただきたいとお願いした次第であります。

どういう形で説明をしようか、それは今後国会関係者、弁護士と相談して、必ず責任は果たしていきたいと思っています。

そして、甘利氏は、同年9月14日、自民党本部で、突然、予告もなく「記者会見」を開き、「事務所の口利きと現金授受問題について、弁護士による独自調査の結果、捜査機関と異なる結論を導く事実は見当たらなかった」と説明しただけで、元秘書2人や事務所関係者から聴取したという、調査担当弁護士名も明らかにせず、調査報告書も公表せず、「会見」は僅か10分で終了した。

これに対しては、【甘利氏の説明 不誠実な態度に驚く】(朝日)【甘利氏の政治責任 調査報告書の公表が欠かせない】(愛媛新聞)、【現金授受問題甘利氏会見 「不誠実」「幕引き」か】などと多くの新聞の社説で批判の声が上がった。

しかし、結局、甘利氏は、それ以降、説明の場は全く設けず、「国会の場での説明」も行われていない。

甘利氏は説明責任を果たしたと言えるのか

甘利氏側が、上記の対応の中で繰り返してきたのは、「検察によって全面的に不起訴になったので、違法ではなかったことが明らかになった、それによって説明責任は尽くされている」ということだった。

しかし、【特捜検察にとって”屈辱的敗北”に終わった甘利事件】で述べたように、検察審査会への審査申立の結果「不起訴不当」の議決が出されるなど、「国民の目」からは到底納得できないものだった。しかも、国会閉会の前日に、公訴時効までまだ十分に期間がある容疑事実についても、丸ごと不起訴にしてしまうなど、方針は最初から決まっていて、不起訴のスケジュールについて政治的に配慮したようにも思えた。

検察の不起訴処分というのは、公訴権を独占する検察官が、その権限を行使しなかったということであり、政治家、或いは当該政治家の事務所の行為に違法行為がなかったことが明らかになったということではない。ましてや、問題がなかったことを意味するものではない。

日本の検察は、基本的に有罪判決が得られる確証がなければ起訴はしない。国会議員等の政治家の事件であれば、起訴して万が一無罪となれば、重大な責任を負うことになるので、なおさら慎重な判断が行われる。

少なくとも、甘利氏の秘書が、道路用地買収をめぐるURとS社との補償交渉に介入し、秘書が建設会社側から多額の報酬を受け取ったり接待を受けたりしたほか、甘利氏自身も大臣室等で合計100万円の現金を受領した事実があることは、紛れもない事実なのである。その事実が報じられて、大臣たる政治家の「政治とカネ」に対する不信を招き、URの事業の公正さにも疑念を生じさせたのである。

第三者の弁護士が調査した結果により、それが、どのような経緯で発生した、どのような問題であったのか事実関係を可能な限り明らかにし、それについての自身の考え方を示すことは、政治家として当然の義務であり、ましてや、自民党幹事長という、政治とカネに最も責任と権限がある役職に就く政治家であれば、必須であろう。

大臣辞任会見の際は、短期間で、第三者の弁護士が聞き取り調査をした結果を聞いたとして、甘利氏自身が説明を行ったが、その際も、「調査の途中であり、調査が終了し次第、調査の結果を公表する」と述べていた。そのような第三者調査に基づく説明が、検察の不起訴処分で刑事事件が決着した後も、全く行われなかったことが、「説明責任を果たしていない」との批判を受けてきたのである。

甘利氏が大臣を辞任したのと同じ2016年の6月に、同様に「政治とカネ」の問題を追及され、都知事辞任に追い込まれたのが、舛添要一氏だった。

舛添氏は、「特捜経験のある弁護士」に調査を依頼し、報告書を公表し、弁護士(特捜OBの佐々木善三弁護士)が記者会見を行ったが、批判が収まらず、辞任に追い込まれた。一方、甘利氏は、大臣辞任会見の際も、政治活動再開会見の際も、「弁護士による調査」を振りかざして「問題はなかった」との結論だけを説明したが、弁護士名も調査報告書も公表することはなかった。

弁護士は、自らの判断で職務を行う法律専門家であり、責任の所在を明らかにするため弁護士名を示すのが原則だ。佐々木弁護士も、都知事の進退に関わる極めて重要な判断であったからこそ、調査結果に理解を得ることが容易ではないことを覚悟した上で記者会見に臨んだはずだ。

ところが、甘利氏の調査を担当したとされる弁護士は、国政にも影響を及ぼす重要な調査であるのに、いまだに、自らの氏名を明らかにせず、調査結果の説明も行っていない。

甘利氏が自民党幹事長に就任することの意味

甘利氏が、政治家としてどのように素晴らしい実績を上げてきたとしても、URの土地買収をめぐる問題に対して行ってきたことは、全く評価できない。

甘利氏は、第一次安倍政権からの安倍首相の「盟友」であるだけでなく、財務省の決裁文書改ざんという前代未聞の不祥事でも辞職させられなかった麻生氏ともかねてから関係が深い。重大な疑惑で大臣辞任した後、国会を欠席して姿を隠し、ろくに説明責任すら果たさないまま政治の表舞台に復帰することができたのも、「安倍一強体制」の中でも「権力に極めて近い立場にある政治家」だったからこそであろう。

そして、岸田氏の総裁選の党員票での「圧勝」が、安倍氏、甘利氏などが河野氏に投票する可能性のあった国会議員に強く働きかけた「成果」とも言われている。その論功行賞として甘利氏が「幹事長」という自民党の権力中枢のポストを獲得したのだとすると、岸田政権が発足しても、結局、岸田政権は、「安倍一強政権」の膿を、そのまま引き継ぐことになりかねない。

自民党内で政治資金・選挙資金を配分する権限を持つのが幹事長である。本来であれば、今回就任した幹事長として、まずやらなければならないのは、多くの国民が疑念を持つ、2019年参議院選挙での河井案里氏への1億5000万円の選挙資金提供についての事実解明、その背景と動機を明らかにすることである。甘利幹事長に、それを期待することができるだろうか。

自民党幹事長が、その差配の権限を持つ党の政治資金には、国民の税金を原資とする政党助成金も含まれている。資金配分に当たって、政治倫理、政治資金の透明性に対する真摯な姿勢が必要であることは言うまでもない。そのポストに就いたのが、自らの説明責任を全く果たして来なかった甘利氏であることは、岸田氏が標榜する「生まれ変わった自民党」にとって、最大のリスク要因であることは否定できない。

幹事長就任後の甘利氏の「説明」

こうした批判にもかかわらず自民党幹事長に就任した甘利氏は、10月1日に党新四役の就任会見に臨み、そこで、5年前に大臣辞任の理由になった現金授受問題に関して質問された。その答の主たる内容は、以下のようなものだった。

(1)あの事件は、私の地元の秘書が事業者から陳情を受けて、URと接触をしていたことが斡旋利得処罰罪に抵触するのではないか、という疑惑でありました。捜査の最終的な結論は、私が不起訴、秘書も不起訴でありました。

(2)秘書がURと接触していた事自体を知らされていないんです。だから私は“寝耳に水”と。事件がどういうものであったのか、何しにURに行ったのか分からないところから始まったわけであります。

(3)私の説明責任についてでありますけれども、辞任会見の時までの間に、総力を尽くして特捜のOBの弁護士さんにお願いしまして、2週間くらいでしたでしょうか。徹底的に調査しました。それを元に、辞任会見で質問が出尽くすまでお答えをいたしました。

甘利氏は、疑惑の核心部分をすべて除外して、自分の都合のよいところだけ抜き出して説明したことにしている、というほかない。

 そもそも、秘書がURと接触しただけであれば、何の疑惑も生じない。そこで金銭の授受があったから、しかも、その一部は、甘利氏が直接受領した事実があるからこそ「重大な疑惑」に発展したのである。(1)では、それを、「URとの接触」だけが問題であったかのように、話をすり替えている。

 (2)については、S社側は、甘利氏に直接URとの交渉を頼んだと証言しているのであり、甘利氏の言い分とは食い違っている。しかし、大臣室で面談して現金50万円を受領し、さらに地元事務所で50万円を受領した相手方が、どのような人物で、何を求めているのか、甘利氏が全く知らなかったというのは、考えられない。

 (3)で、弁護士の調査を振りかざしているのも、5年前と同じである。しかし、それなら、今からでも遅くない。幹事長職に就任したのであるから、自身と秘書への疑いを払拭するために、「潔白」だとする調査報告書と弁護士名を公表すべきだ。そして、舛添氏の時のように、弁護士に記者会見で質問に答えさせるべきだ(甘利氏は、「調査結果は文書で公表している」とも言っているが、会見の場での説明内容をペーパーで配布したに過ぎない)。ここまで一貫して調査を担当した弁護士名を公表しなかったことには余程の事情があるのかもしれない。そうであれば、その「事情」を明らかにすべきだ。

 

このような姿勢が容認されるのであれば、今後、自民党国会議員の間では、「政治とカネ」の問題を追及されたら、「弁護士に調査を依頼したと称して、その結論だけを説明し、弁護士名も、調査報告書も公表しないというやり方」がスタンダードになりかねない。

このような、凡そ説明にならない「説明」しかしない人物が、幹事長に就任した自民党に対して、衆院選挙で、国民はどのような判断を下すのであろうか。

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首長交代と自治体の大規模事業への対応~旧市庁舎売却問題への市長としての対応を考える

日本の地方自治体では、首長と議会議員を、ともに住民が直接選挙で選ぶという二元代表制がとられており、自治体の運営と意思決定は、首長と議会に委ねられている。

予算の提出権が首長側にしかなく、議会は、それを議決する権限しかないなど、首長に権限が集中しているところに特色がある。

首長に権限が集中し、その権限行使を議会でチェックする二元代表制の枠組みの下では、議会で議案が否決されない限り、首長の判断がそのまま自治体の決定となる。

そのように強大な権限を持つ首長が選挙で交代した場合、当該自治体にとって大規模で住民の関心が高く、事業の実施の是非について意見対立があった事業への新首長の対応が注目を集めることになる。それは、二元代表制の「一翼」である首長に対して「民主主義」が大きく作用する場面であるが、それと同時に、前任の首長が行った決定を覆すことの法的問題、それが当該自治体に及ぼす影響などから、「行政の継続性」の要請も受けざるを得ず、そこには、もう一方の二元代表制の「一翼」を担う議会との関係も重要な要素となる。

大きな混乱と損失を招いた小池都知事の「豊洲市場移転延期」

最近の事例では、東京都の豊洲市場への移転問題に対する都知事就任直後の小池百合子知事の対応が、その典型と言えよう。

築地市場の豊洲への移転の構想に対しては、2000年頃、その話が持ち上がったときから、土壌汚染の問題がある工場跡地に生鮮食品の市場を整備することに対する反対論が根強かったが、石原慎太郎氏が移転を決定し、その後、猪瀬直樹氏、舛添要一氏まで、歴代の知事は、一貫して豊洲への市場移転を推進してきた。

2016年7月、舛添氏の辞任を受けて行われた都知事選挙で当選し、小池氏が都知事に就任した時点では、豊洲市場の施設はほとんど完成し、11月7日の移転を待つのみであったが、8月31日、小池都知事は、都議会に全く諮ることなく、突然、豊洲への移転延期を発表した。そして、その10日後に、豊洲市場の施設の下に「盛り土」がされていなかった問題を公表し、「専門家会議」の提言に反しているので、「土壌汚染対策の安全性についてオーソライズされていない」などとして問題視した。そのため、その後の報道において、移転を進めてきた(小池知事就任前の)東京都を批判する報道が過熱し、「土壌汚染対策は十分なのか」「食の安全は確保できるのか」といった世の中の懸念が一気に高まることになった。

小池氏の方針転換で、追加対策工事の計画も進められ、空洞内の床設置や地下水管理システムの強化、換気機能の追加などが行われるなどしたが、土壌汚染の問題は、「都民の安心」の問題に過ぎず、豊洲市場の安全性の問題ではないことは、小池氏自身も認めていた。延期決定から築地市場解体決定までに1年4ヶ月弱を要し、その間に小池百合子が度々姿勢を転換させたことによる混乱が繰り返され、都の財政的負担は膨大なものとなり、市場関係者にも大きな損失を生じさせた。

就任直後の首長の大規模事業についての一方的な決定が、当該自治体に大きな混乱と損失を生じさせた事例の一つと言える。

反発・混乱が回避できた横浜IR誘致撤回

横浜市では、カジノを含む統合型リゾート(IR)誘致の是非について、激しい議論が行われ、今年8月に実施された横浜市長選挙の争点となり、山中竹春氏が当選して市長に就任直後に、誘致を白紙撤回して、横浜市としての方針が確定した。

このIR誘致の問題については、林文子前市長は、当初、「市の将来の経済成長に有効な手段で、導入に非常に前向き」との見解を示してきたが、2017年7月の市長選の半年前に「白紙」と立場を変えて選挙に臨み三選を果たした後、2年後の2018年7月に、統合型リゾート施設整備法が成立し、2019年8月に、山下ふ頭でのIR整備に取り組んでいく方針を公表した。これに対して、IRに反対する市民運動が活発化し、住民投票を求める署名が法定数を超える19万筆も集まり、市に提出されたが、住民投票条例案は、市の反対意見が付されて市議会に提出され、市議会は条例案を否決した。

横浜市は、今年1月にIR整備基本計画が公表され、開発・運営する事業者の公募を行い、海外のIR事業者等による2グループから事業計画の提案を受け、事業予定者の選定を進めていたが、IR誘致に反対の市民運動に立憲民主党・共産党などの野党も加わり、IR反対派の動きが強まっていた。市長選挙では、8名の候補者のうち6名の候補者がIR反対を公約に掲げ、「IR白紙撤回」を前面に打ち出して当選した山中竹春氏が、市長就任後、市議会でIR誘致撤回を宣言し、それまでIR誘致に賛成してきた自民公明両党も目立った反発はしなかったため、横浜へのIR誘致の中止の方針が確定した。

前任の林市長が進めてきたIR誘致の方針が、市長選挙で市長が交代した直後に新市長によって覆されたが、さしたる混乱も、市議会の反発もなく確定する見通しとなっているのは、市としては基本計画を公表していただけで区域整備計画策定には至っておらず、事業者選定も、公募に2者が応募しただけの段階で、契約には至っておらず、IR誘致の方針について法律上の効果は生じていなかったこと、それまでIR誘致の中心となってきた自民党も、市長選で多くの市議が応援した小此木八郎候補も、「IR誘致取り止め」を公約に掲げていたため、市長選の結果に基づくIR誘致撤回を批判しづらかったこと、などによるものであり、そこに、東京都の小池知事の豊洲市場移転延期決定との大きな違いがある。

山中新市長就任時、期限が迫っていた「旧市庁舎売却契約」

しかし、市長選挙の時点で、横浜市が実施を予定している、或いは検討している大規模事業は、IRだけではなかった。就任直後に市長としての判断が求められる重大な案件となったのが、新庁舎建設に伴う、旧横浜市庁舎の売却と周辺地域の再開発計画についての横浜市としての方針決定だった。

林前市長の下、横浜市は2019年、「国際的な産学連携」と「観光・集客」の二つを条件に再開発の提案を公募し、三井不動産を代表とする8社のグループが事業予定者に選ばれ、市長選で当選した山中氏の就任直後の9月末に、事業者との契約が予定されていた。

この計画は、自民党・公明党のほか、立憲民主党も賛成して進められていたが、それに対して、特に、旧市庁舎の売却価格が7700万円と安価であることなどを理由に、開発計画に反対する一部の市民などから、住民監査請求、建設差し止めの訴訟が起こされており、市長選の最中も、旧市庁舎の売却計画に対する立候補者の意見が、一つの注目点となっていた。

市長選挙で当選して市長に就任した山中氏は、9月16日の市議会の一般質問で、旧横浜市庁舎の売却の事業者との契約の期限が9月30日に迫っていることについて無所属の井上さくら議員からの質問に対し

「決裁を止めて、可及的速やかに価格の算定の仕方の妥当性を検証したい」

と答弁。さらに

「鑑定評価の中身が問題という点に関しては、まさに私もそのように捉えている」

と踏み込んだ。妥当性が認められない場合には「代替プラン」を検討することにも言及した。そして、17日の定例記者会見で、旧市庁舎の建物の売却額算定について第三者で検証するよう指示を出したことを明らかにした。

これを受け、市民の間からは、ネット上で、「旧市庁舎の建物売却および敷地の定期借地の本契約を一旦停止し、市民との対話を図ることを求める署名運動」が起こされるなど、反対運動が拡がりを見せた。

それまで、この計画への反対の動きをほとんど取り上げることはなかったマスコミも、この問題を取り上げられるようになり、にわかに市民の関心を集めることになった。

「豊洲市場移転問題」「横浜IR誘致問題」との比較

この問題は、小池都知事就任直後の東京都の豊洲市場移転問題と、山中市長就任直後のIR誘致の問題の中間に位置するものと言える。

契約と事業実施の段階から言えば、契約どころか巨額の費用をかけた建設工事も終了し、移転を待つばかりになっていた豊洲市場の移転問題とは大きく異なり、契約締結の寸前の状態であり、まだ工事も始まっていない。しかし、IR誘致が、事業者の選定前であり、事業の具体的な中身も決まっていなかったのに対して、旧市庁舎周辺再開発は、既に事業者が決定され、事業計画は確定している。事業者側は、契約締結を前提に準備を始めている。この段階で、契約を白紙撤回することになれば、事業者側からも相当な反発を受け、場合によっては損害賠償請求を受けることになる。

また、市議会との関係では、就任直後の小池知事が、都議会の与党自民党を徹底批判して都知事選に圧勝した直後で、圧倒的な支持率を誇っていたこともあり、都議会との関係を完全に無視して豊洲市場移転の延期を発表したことに対しても、都議会側からの反発はほとんどなかった。山中市長就任直後の市議会は、小池知事就任直後の状況とは異なり、多数を占める自公両党は、山中市長に対して「是々非々」の姿勢で臨むとしているが、少なくとも、旧市庁舎周辺再開発は、自公両党のみならず、山中氏を推薦し、選挙運動の中心となった立憲民主党も含め、共産党と一部無所属議員を除く市議会の圧倒的多数が賛成して進めてきた事業であり、合理的な理由もなく事業の実施を大幅に見直すことは、市議会との関係で深刻な対立を招くことになる。

一方で、山中氏は、市長選挙の最中から、「住民自治」を前面に掲げ、旧市庁舎売却問題についても、市民からの「7700万円は安過ぎる」との批判に同調し、立憲民主党の国会議員の応援演説での「モリカケ問題と同じ」などの批判にもうなずいていたことなどから、新市長就任後に、何もしないで9月末に事業者との契約を締結するというのでは、反対派市民から厳しい批判を受けかねない状況にあった。

そのような市長選挙の際の言動が、山中氏が、市議会での答弁で、旧市庁舎売却問題についてかなり踏み込んだ答弁をして反対派市民の期待を高める状況になったことの背景になったと考えられる。

山中市長が下した判断と市民への説明前の契約締結

こうして、9月30日までに市長として下す判断が注目されたが、同日午後の記者会見で、山中氏は、新たに2社に、費用を合計130万円かけて委託して検証を行った結果、当初の2社の鑑定評価が妥当と判断して既に契約を締結したことを明らかにした。

山中氏の説明は、建物売却価格の妥当性について、従前の市の説明を繰り返しているに過ぎなかった。2社の検証の中身は「当初の2社の不動産鑑定が国の不動産鑑定評価基準に沿ったものであること、旧市庁舎建物に、物理的、機能的、経済的に需要は乏しいと考えられること、他の自治体での同種事例としての豊島区庁舎活用事業で建物が無償譲渡されていること」などであったが、言わば「常識の範囲」にとどまる内容だった。

市議会で、鑑定評価に疑問があるとして「決裁を止めて、価格の算定の仕方の妥当性を検証したい」とまで言って、再検証を行う方針を打ち出した山中市長に対する期待が高まっていたことからすると、市民への説明もないまま契約を締結し、上記の程度の検証の説明で済ましたことに対して、SNSなど、ネット上では失望と批判の声が上がっている。

「地方自治体のコンプライアンス」の観点から考える

この問題について、「社会の要請に応える」という意味の「地方自治体のコンプライアンス」の観点からは、どのように考えたらよいのであろうか。

この問題をめぐっては、様々な社会的要請が交錯しており、それを一つひとつ整理して考え、それをわかりやすく市民に説明する姿勢で臨まなければ、市民の理解と納得を得ることができない。

この計画について問題となるのは、次の3点である。

第一に、旧市庁舎周辺の再開発計画自体の是非、第二に、再開発の方法について歴史的文化的建造物としての旧市庁舎の保存などの制約を課すことの是非、第三に、旧市庁舎の建物と土地を一体で売却するのか、建物を売却して土地は定期借地とするのか、という点である。

この3点について、横浜市民や地域社会の要請に最も良く応えられる判断を、市長として行うべきであり、その判断について市長として丁寧に説明を行うことが必要となる。

まず、第一については、再開発自体を否定し、歴史的建造物である旧市庁舎は維持コストを負担してもそのまま保存する、という選択肢もあったであろう。しかし、林前市長時代に再開発計画が決定され、事業計画が公募され、事業者も決定されて、後は契約をするだけという段階に至っている。それを、市長選挙の結果、市長が交代したことに伴って、白紙に戻すことが可能かどうか、それが可能だとして、それによって、どのような損失・デメリットが生じるのか。市がそのような損失を負うことになっても、契約を白紙に戻すという選択肢があり得るのかという問題である。

そのような再開発の是非についての横浜市の決定に、「住民自治」の観点から問題がなかったとは言い難い。そういう意味では、根本的に再開発の是非を問い直すことが必要という考え方もあるだろうが、その場合は、これまで前市長時代の横浜市が長期間にわたって進めてきた再開発計画について市としての責任が問題となる。その責任の程度が、小池知事が、都知事就任後、突然、延期を決定した築地市場の豊洲市場への移転のように、都にそして都民や関係者に重大な負担を生じさせることになるのか、横浜IRの撤回のように、横浜市民に大きな不利益を生じさせることなく、撤回することができるのか、その点の見極めと判断が必要であり、その点について市民への十分な説明が重要となるのである。

第二については、再開発を実施するとして、市の財源確保と文化的施設の保存のいずれを重視するのかという問題である。前者を重視するのであれば、得られる収入を可能な限り多くして、市民が必要としている他の事業の経費に充てるべきということになる。林前市長時代の横浜市では、いくつかの事業計画の中から、歴史的建造物として旧市庁舎行政棟を保存するという案が採用されたのであるが、市長交代によって、それを見直し、変更する方向で事業者側と交渉することは不可能ではないと考えられる。少なくとも、契約をすべて白紙撤回するのと比較すればハードルが低いであろう。

第三の点は、第二の点の判断と関連する。旧市庁舎の建物と土地を一括して売却すれば200億円近くの市の収入が得られることになるが、旧市庁舎の歴史的文化的建造物としての保存を重視するのであれば、建物を売却し、土地は定期借地として、市と事業者との契約関係を残しておくべきということになる。そうなると、利用条件の制約を受ける建物の売却価値は極めて安価なものとなり、定期借地の賃料もその分低いものとならざるを得ない。

「7700万円」の売却価格に問題を単純化することの誤り

要するに、「7700万円」という旧市庁舎建物の売却価格は、上記の3点についての判断が積み重なった結果であり、表面的に売却価格だけを取り出して、それが「安過ぎる」という話ではないのである。ところが、市長就任後の、市議会での答弁で、山中氏は「建価格の算定の仕方の妥当性を検証」という点を強調した。何が問題なのかという点について整理ができないまま、「建物の売却価格」の問題に絞る形で踏み込んだ答弁を行ったところに、この問題をめぐって一層混乱が拡大した原因がある。

そもそも、上記第一で再開発を是認し、第二で、文化的施設の保存の方針をとるということで事業計画を選定している以上、旧市庁舎の建物は、事業者側にとっては「負担」にしかならない。建物がほとんどゼロに近い経済的価値しかないというのは、ある意味では当然であり、不動産鑑定をいくらやっても結果が変わることはない。

会見で紹介された2者検証の内容は、課される条件を前提にすれば「常識の範囲内の意見」に過ぎず、市長自身がそう説明すればよい話だった。それにかかった費用130万円は、全く無駄な支出だと言わざるを得ない。

市長として何を行うべきか

市長として行うべきことは、第一、第二、第三についての市長としての考え方と判断を述べ、方針の変更が可能で、それが必要だと判断するのであれば、そのために最大限の努力を行うことであり、それについて市民に理解納得してもらえるよう、説明を尽くすことだった。

横浜市には、これだけでなく、米軍瀬谷通信基地跡地での2027年の国際園芸博覧会(花博)の開催、テーマパーク開発に伴う相鉄線瀬谷駅付近と跡地を結ぶ新交通システムの建設の是非など、市長としての判断が求められる大規模事業が他にもある。

旧市庁舎売却問題は、選挙中、「住民自治」を前面に掲げて当選した山中氏にとって、市長就任直後に、いきなり「真価」が問われる事態となった。市民への説明の前に契約を完了したことで、この問題は、横浜市にとって形式上は「既定の案件」になったと言えるだろう。しかし、それに至る前市長時代からのプロセスを改めて振り返り、今回の市長としての対応について反省すべき点は反省し、市民との対話を図らなければ、市長と市民との距離は一層離れてしまうことになりかねない。

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「市長選問題」から「横浜市政の重大問題」となった“山中竹春氏のウソと恫喝”

横浜市長選挙に出馬表明していた山中竹春氏の「市長としての適格性」に根本的な疑問を持つことになったのは、山中氏に対抗する形で立候補の意志を一旦表明していた私の下に、直接、間接に山中氏を知る人達から、彼の専門性、パワハラ体質、経歴詐称の疑いなどの様々な問題についての情報提供があり、「絶対に横浜市長にしてはならない人物」であるとの真剣な訴えがあったからだった。医療情報学、データサイエンスの専門家、医師など様々な立場の人達からも、山中氏に関して公表されている資料から、その能力・資質等に対する根本的な疑問の声が寄せられていた。

コンプライアンス顧問等として、長く横浜市のコンプライアンスに携わってきた私の最大の関心事は、市長選挙によって、市民や地域社会の要請に応えられる横浜市政を担う市長が選ばれることだった。立憲民主党推薦の山中氏が有力候補となったことで、横浜市のコンプライアンスに重大な支障が生じることが懸念された。それを阻止するめの最も効果的な方法は、自分自身が立候補することではなく、特定候補の当選阻止をめざす「落選運動」(公職選挙法が規定する「当選を得しめない目的で行う活動」(142条の5等)を行うことだと考えた。

そこで、立候補意志を撤回して落選運動に転じることを、8月5日の記者会見で明らかにし、その後、ブログ、YouTubeでの発信、インターネット上でのチラシのアップ、インターネット広告などの手段で、山中竹春氏と小此木八郎氏の当選を阻止する活動を行ってきた。

新型コロナ感染爆発の影響で「反菅政権」の世論の高まりの中で、選挙戦が進むにつれ、山中氏優位の情勢が強まる中、山中氏の落選運動に特に注力した。しかし、8月22日に実施された選挙は、山中氏が他候補を大きく引き離して当選という結果に終わった。

落選運動での山中氏に関する指摘は、大別すると、経歴や専門性に関するウソと、自己の要求に応じさせるための恫喝の疑惑に関するものだった。山中氏側が説明責任を全く果たさず、黙殺し続けてきたこともあって、それらに関する指摘は、残念ながら、多くの横浜市民には届かなかった。

それだけに、市長に就任した山中氏が、就任後に、ウソ恫喝の疑惑にどう向き合い、どう説明するのかは、「山中市長」の信頼性の根本から問うものとなった。

しかし、市長に就任してから約3週間が経過した今も、山中氏がウソ恫喝の疑惑に真剣に向き合っているとは到底言えない姿勢をとり続けている。そのことを、新聞、テレビの大手メディアは、ほとんど報じようとしない。

本稿では、まず山中氏のウソについて、経歴詐称の全体像を明らかにし、それに関する市長会見での説明の「さらなるウソ」を指摘する。山中氏の恫喝については、「横浜市大理事長らへの不当圧力問題」の事実解明を求める横浜市会への請願審査が9月24日の常任委員会(政策・総務・財務委員会)で行われる予定となっているほか、山中氏自身を被告発人とする強要未遂罪の告発状が横浜地検に提出され、受理に向けて審査中だが、これらについての市長会見での質問への対応についても述べることとしたい。

山中氏の正確な学歴・経歴と、「詐称」の中身

現在までに判明している山中氏の横浜市大教授に就任するまでの正確な学歴・経歴は、以下のとおりである。

1991年4月 早稲田大学政治経済学部入学

1996年3月 早稲田大学政治経済学部卒業

1998年3月 早稲田大学理工学部数学科卒業

2000年3月 早稲田大学理工学研究科(修士課程)修了

2000年4月 九州大学医学部助手

2002年7月~2003年9月 アメリカ国立衛生研究所(NIH)に留学

2003年11月~2004年6月 アメリカ国立衛生研究所(NIH)ビジティングフェロー2004年7月 財団法人先端医療振興財団 研究員

2005年1月 国立病院機構九州がんセンター 臨床研究部腫瘍統計学研究室 室長2012年3月 国立がん研究センター東病院臨床開発センター先端医療開発支援室長2013年4月 国立がん研究センター 生物統計部門 部門長

2014年4月 横浜市立大学医学部 教授

一方、山中氏が、横浜市大教授就任後に、研究者の経歴・業績等を紹介する外部サイトであるresearchmap(リサーチマップ)や大学の研究室ホームページの個人ページに掲載した学歴・経歴は以下のとおりである。山中氏は、横浜市のプロジェクト学外での講演、シンポジウム等の学歴・経歴でも、ほぼ同様の記載をしている。(太字は上記と異なる部分)

1995年 早稲田大学 政治経済学部 経済学科

2000年 早稲田大学大学院 理工学研究科 数理科学専攻

2000年 九州大学医学部附属病院 医療情報部 助手

2002年-2004年 米国国立衛生研究所 NIH/NIEHS リサーチフェロー

2004年-2005年 先端医療振興財団 臨床研究情報センター 研究員

2006年-2012年 国立病院機構九州がんセンター 臨床研究部 室長

2012年-2013年 国立がん研究センター東病院 臨床開発センター 室長

2013年-2014年 国立がん研究センター 生物統計部門 部長

2014年 横浜市立大学 医学部 教授

山中氏が学内・学外に表示していた「学歴・経歴」と、正確な学歴・経歴との相違点は、(1)早稲田大学政治経済学部の卒業年次が、正しくは1996年なのに、リサーチマップでは、1995年と1年繰上げられている、(2)1998年早稲田大学理工学部数学科卒業の記載が欠落している、(3)早稲田大学大学院 理工学研究科の(修士課程)の記載が欠落している、(4)2002年~2004年のアメリカ国立衛生研究所(NIH)への留学期間全体が、「米国国立衛生研究所 NIH/NIEHS リサーチフェロー」とされている、の4点である。

「学歴・経歴詐称」と「博士号取得」の関係

これらの詐称は、いずれも、山中氏の「博士号取得」に関連すると考えられる。

多くの理学系研究者の学歴は、学部卒業後修士課程2年、博士課程3年在籍し、博士号を取得するというものだ。しかし、山中氏の学歴は、上記のとおり、それとは異なる。政治経済学部を(1年留年して)5年で卒業した後、学士入学で理工学部数学科に2年間在籍し、その後理工学大学院の修士課程を修了したというものだ。九州大学医学部の助手となった時点では博士号は取得しておらず、その後、米国NIH留学中の2003年10月に、早稲田大学で「博士論文」の認定を受け博士号を取得した。大学院博士課程で取得する「課程博士」ではなく、「論文博士」だ。

ところが、山中氏は、学部卒業年次を1年遡らせて「1995年 早稲田政経学部卒」とし、「1998年 数学科卒」を除外し、「2000年 大学院修了」と表示して「修士課程」を除外することで、「学部卒業後、大学院に5年在籍」という、一般的な理学系研究者と同じ外形の学歴になっている。それに加え、博士号「取得後」に、正式な連邦職員として採用される「NIH リサーチフェロー」として勤務していたように詐称することで、「大学院博士課程を修了し、博士号を取得して、米国NIHに正式職員として採用された」という輝かしい経歴を装ってきた。

このような学歴・経歴の偽装に関連するのが、横浜市大の医学部臨床統計学教室のホームページの教員の経歴の記載の経緯だ。

研究者が学歴を記載する場合、

「△年 〇〇大学院〇〇研究科 博士課程修了 博士(〇〇学)」

と記載するのが一般的だ。横浜市大データサイエンス学部の教員も、ほとんどが、「博士課程修了」と記載した学歴を、ホームページ用の記載用として提出したはずだ。ところが、実際の同学部ホームページでは、同学部の教員の学歴の記載は、すべて、

「△年 〇〇大学〇〇学部卒業 ◇年 〇〇大学大学院〇〇研究科〇〇専攻修了」

と、学部卒の年次と大学院修了の年次のみの記載に単純化されている。

このような記載の単純化は、教授就任後の山中氏の指示によるもののようだ。山中氏は、上記(1)の「政経学部の卒業年次の1年繰上げ」を行い、(2)の「理工学部数学科卒」を記載せずに、「学部卒業の5年後に大学院を修了」であるかのように装うことによって、学歴を他の「博士課程修了者」と全く同じ外形にしているのである。

「NIHリサーチフェロー」を詐称することの意味

そして、そのような「博士課程修了・課程博士の偽装」を、一層補強することとなるのが、大学院終了の2年後の2002年からの「NIH リサーチフェロー」の詐称だ。

米国国立衛生研究所NIHにおけるリサーチフェローというのは、「博士号を取得し、期間限定で更新可能な任命を受けているNIHの職員」であり、博士号取得が必須のポストだ。2002年の時点では、山中氏は、博士号を取得しておらず、実際には、2002年の渡米時は、単なる留学生(NIHリサーチャー)であったのだから、「2002年 NIH リサーチフェロー」は全くのウソである。しかし、「リサーチフェロー」と詐称することによって、その時点で、博士号を取得していたこととNIHの正規職員であったことを装える。実際に、山中氏は、横浜市大内部でも、「博士課程で博士号を取得し、NIH リサーチフェローとして雇用されていた」と認識されていた。

山中氏にとっては、「1995年 早稲田大学 政治経済学部卒」として卒業年次を1年遡らせ、「1998年 理工学部数学科卒」を記載せず「2000年 早稲田大学大学院 理工学研究科 修了」とすることで、1年留年していたこと、博士課程を経ていないことを隠し、「2002年-2004年 NIH リサーチフェロー」の詐称で、他の研究者と同等以上の経歴を装うことができたのである。

市長選出馬に当たっての「学歴・経歴詐称」への対応

しかし、山中氏が2014年に横浜市大教授に採用される際に提出した履歴書(市会議員に開示済)では、早稲田政経学部の卒業年次も、数学科の学部卒業も、正確に記載されており、学歴・経歴に詐称はない(「NIH 研究員」が雇用契約のある研究員を意味するとすれば、厳密には正確な記載ではないが)。また、市長選に出馬することになった後の学歴・経歴の記載は、選挙公報の記載も含め、明白な虚偽の記載はない。

つまり、山中氏の経歴詐称は、法的には問題にならないように配慮しつつ、大学内の同僚、部下、学会・シンポジウム関係者、研究協力企業等に対して、自己のキャリアを過大に装うためのものだったと考えられる。

そうであれば、市長選挙に出馬することにした時点で、それまでの経歴詐称をすべて明らかにし、それとは異なる「正確な学歴・経歴」を明確にして、選挙に臨むべきだった。

ところが、出馬表明して横浜市大を退職した時点で、山中氏が行ったのは、経歴を詐称していたリサーチマップのサイトの情報をすべて削除して、経歴詐称を「隠蔽」することだった。そして、私が、NIHリサーチフェローをめぐる経歴詐称疑惑を、ブログ、落選運動チラシ等で指摘したのに対しても、全く説明も反論も行わず、選挙期間中を通してその点の説明から逃げ続けた。多くの横浜市民は、そのような問題があることを知らされることもなく、山中氏は、選挙で「圧勝」し、市長に就任した。

もっとも、山中氏の経歴詐称は、大学内の同僚、部下、学会・シンポジウム関係者、研究協力企業等に対して、自己のキャリアを過大に装うためのものであり、就職の際に提出する履歴書や、選挙公報などでは経歴詐称は行っておらず、法的には問題にならないようにしていたが、唯一、法的な問題が免れられないのが、公的研究費の申請書における「研究代表者」の経歴の記載だ。

山中氏は、横浜市大に億単位の多額の研究費が交付される研究で「研究代表者」となっている。同僚や部下との共同研究なので、学内で同僚・部下が認識している経歴が、そのまま研究費の申請書に記載され、「NIH リサーチフェロー」も含まれることになる。上記のように、文科省等では「NIH リサーチフェロー」が、博士号取得者に限定された格付けの高い連邦職員であることは明確に認識されており、それに関して、公的研究費の申請書で研究代表者の経歴に詐称があるのであれば、「応募書類に虚偽の記載を行った」ということで、それだけで不正受給の問題が発生することになる。

また、山中氏が多数のテレビ番組等に出演して「コロナ専門家」をアピールした、「新型コロナウイルス感染から約1年後における 抗ウイルス抗体および中和抗体の保有状況に関する調査」は、ほぼ唯一といっていい山中氏のコロナ関係の研究であり、総額10億円もの研究費が交付されたとされているが、その記者会見で配布した資料でも「2002年 米国国立衛生研究所( National Institutes of Health)リサーチフェロー」と明らかな虚偽記載をしている。

山中氏にとって、「NIH リサーチフェロー」の経歴詐称は、研究費の申請に関して、致命的な事態を招きかねないものなのである。

「経歴詐称」についての記者会見での説明

就任直後の8月30日の記者会見で、フリーランスの記者から経歴詐称について問い質された山中氏は、

「2002年から2004年まで、NIHの研究員だったことに詐称はない」

「リサーチフェローは研究員を意味する言葉として使うことがあった」

と説明した。

9月17日の定例会見では、その点についてさらに問われ、次のようなやり取りが行われた(畠山理仁氏「記者会見・全文起こし」の該当部分を、「まあ」、「あのー」、「えー」を除外するなどし、一部要約)。

 

西谷記者:これまでNIH、アメリカの研究所で2年間リサーチ・フェローをされていたと公表されてきたと思うんですが、私が取材したところ、NIHの附属機関の方から回答を得まして。ヤマナカタケハルさんがNIEHS、NIHの附属機関に在籍していたのは2003年の11月から2004年6月の8カ月間で、肩書きについては「リサーチ・フェロー」ではなくて「ビジティング・フェロー」というものであったと回答を得たんですが。これは山中さんは経歴について、何か嘘をついていたとか、詐称していたとか、そういうことになるんでしょうか?

山中市長:まず、事実として、2002年の7月から2004年の6月まで、NIHで研究者として在職しており、その事実に違いはございません。2002年の7月から、九州大学教員の身分を保持したまま、九州大学からの在外研究員という形で、NIHの研究者として赴任をしておりました。その際には、アメリカで働くということで、アメリカでの就労ビザ。具体的にはJ1ビザを取り、NIHに在職しておりました。呼称に関しては、講演や研究発表などで、日本語で、日本語で研究員としたり、あるいは研究員を示す英語としてリサーチ・フェローといった用語を使っておりました。あるいは、リサーチャーなどと言っていたこともあります。

西谷記者:では、なぜ、このNIHには、2003年以降の記録しか。なぜ、「ビジティング・フェロー」ということは使ってこなかったんですか。NIHのリサーチ・フェローとなれば、ビジティング・フェローとは全く別の役職になりますので、詐称と、嘘をついていたという疑いを持たれてしまうと思うんですが。

山中市長:これまで、呼称に関しては、講演や研究発表などで、研究員と表記してきたこともありますし、研究をしているフェローということで、リサーチ・フェローっていう言葉を使っていたこともありますし。いろいろとそういった言葉を、適切な用語だと思われるものを使ってまいりました。いわゆる研究員として赴任しておりましたので。研究員に相当する日本語や、あるいは、英語を使ってまいりました。

西谷記者:その時は現地ではどういう役職だったんですか?英語で何という肩書きでしたか?

山中市長:研究員に相当する言葉だったと思います。さまざま、機関ごとに定義が異なる。同じ用語であっても、機関ごとに定義異なる場合もありますので。

西谷記者:NIHのリサーチ・フェローと答えたのは不適切だったとは考えないですか。

山中市長:考えておりません。研究員を表す用語として、研究員。リサーチ・フェロー、リサーチャー等を使っておりました。2002年の7月から2004年の6月だと思いますが、その時点で勤務していた。研究者として在職していたというのは事実です。

西谷記者:ビジティング・フェローという役職であったことも事実ですか。ビジティング・フェローであったことは事実ですか。

山中市長:ビジティング・フェローであったことは、ちょっと確認をいたします。でもNIHの方からご回答っていうのが、ビジティング・フェローという回答があったんですか。

西谷記者:はい。そうですね。

山中市長:NIHの回答部分についてはその通りだろうと思います。

「J-1ビザ」言及で掘った墓穴

このやり取りの中で、山中氏は、経歴詐称疑惑について、合理的な説明をして疑いを解消するどころか、新たに、多くのウソを連発している。

山中氏は、「2002年の7月から2004年の6月まで、NIHで研究者として在職していた」と述べ、「アメリカで働くということで、アメリカでの就労ビザ、具体的にはJ-1ビザを取り、NIHに在職していた」などと言って、米国での「就労」を強調している。

しかし、山中氏が取得したと言っている「J-1ビザ」は、「交流訪問者ビザ」であり、交流プログラムへの参加を目的として渡米する外国人向けのビザだ。米国で就労することを希望する外国人のための「就労ビザ」とは異なる。「J-1研修プログラムは、通常、正規従業員が携わる生産的仕事の一部を含むこともありますが、研修や技術の向上がそのプログラムの主目的でなければなりません。本来正規従業員が就くはずの業務を研修生が代行することはできません。」(一般社団法人日本国際実務研修協会HP)とされており、山中氏が「J-1ビザ」を取得してNIHに在籍していたことは、逆に、山中氏が強調する「在職」「就労」目的の渡米であることが否定され、彼が「留学生」の立場でしかなかったことを意味する。

文科省科学技術政策研究所が、2005年3月に出した【「米国 NIH 在籍日本人研究者の現状について」】と題するレポートによれば、J-1ビザは「交換留学生用」であり、「NIH で Visiting scientist として在籍している日本人は H-1B もしくは O-1 ビザを、Visiting fellow として在籍している日本人は、主に J-1 ビザで滞在していると思われる」とされている。このVisiting scientist というのがResearch Fellow(リサーチフェロー)を含む「NIH職員」であり、山中氏が「J-1ビザ」であったことは、「NIH職員ではなかった」ことを示すものである。

また、経歴にリサーチフェローと記載していたことについて、

「講演や研究発表などで、研究員と表記してきたこともありますし、研究をしているフェローということで、リサーチフェローっていう言葉を使っていたこともあります」

と言って、リサーチフェローを「研究員」と同じ意味の言葉として使っていたかのように言っている。しかし、山中氏は、英語でNational Institute Health Research Fellow と経歴を表示していた例も多数ある。この英語表記は、明らかに、「米国国立衛生研究所のリサーチフェロー」という「役職」を示すものであり、「研究員」と同じ意味だとする山中氏の弁解は通る余地はない。

NIHでの「在職」を強調する山中氏は、その「役職名」を聞かれて「研究員に相当する言葉」としか答えられず、最後は、「NIHがビジティングフェローと回答した」と言われて、ようやく、「それが正しい」と認めた。山中氏は、最終的に、NIHでは、リサーチフェローではなく、ビジティングフェローであったことを認めたのであるが、それまでの質疑応答は、経歴詐称について、ウソにウソを重ねていく山中氏の姿勢を如実に表わすものだった。

「パラハラ音声」に関する質問を「かわす」山中氏

選挙期間中に、落選運動の一環として、私が、YouTube、ブログで公開した「パワハラ音声」については、8月30日の就任会見の際に、フリーの畠山理仁記者との間で、以下のようなやり取りがあった。

畠山:郷原さんが、インターネットで、山中さんのものとされる音声を公開されておりますけれども、山中さんご自身はこれをお聞きになりましたでしょうか。

山中:存在は、聞いているんですが、内容に関しては、全部はちょっと。途中まで聞いたんですけれども、全部はあのーまだ聞いてません。

畠山:音声の声は山中さんご自身のものということで宜しいんですか。

山中:はい。そうです。そうです。はい。

その続きとして、9月17日の定例会見では、同じ畠山氏との間で、次のようなやり取りがあった。

畠山記者:前回、会見が途中で終わってしまったので、前回からの続きということでうかがいます。8月30日の就任記者会見の場で、山中さんはですね、郷原信郎さんが、インターネット上で公開した音声をご自身のものだとお認めになりました。で、この音声が「パワハラだ」という指摘をされていることについて、山中さんご自身は反論をなさらないのか。パワハラだと言われても仕方がないとお認めになるのか。法的措置などはお考えなのかということをまずうかがいたいと思います。

山中市長:そのようなブログ等がネット上に情報があることは聞き及んでおりますが、過去にですね。前回も申し上げましたが、横浜市大学などからハラスメント行為やその疑いを指摘されたことはございませんし。現在、私がすべきことは、選挙を通じて選んでいただいた皆様に対して、横浜市政に集中を、横浜市の市政に集中することだと考えております。

畠山記者:ということは、法的措置とか、これは違うという反論はされずに、そのまま捨て置くということなんでしょうか。

山中市長:私が行うべきことは、横浜市の市政に集中すべきだと考えております。

 

畠山記者は、前回会見で、山中氏がネットで公開された音声が自身のものだと認めたことを受けて、その「自分の音声」がパワハラだと認めるのか、反論して法的措置をとることを考えるのか、について質問した。ところが、山中氏は、「自分の音声」を「ブログ等がネット上に情報がある」という話にすり替えている。

しかも、そこで、「横浜市大でハラスメントやその疑いを指摘されたことはない」などと言ってフラッシュの記事で報じられた横浜市大内部でのパワハラを否定している。しかし、組織内の上位者が権限を不当に行使して被害者にダメージを与える陰湿な方法によるパワハラは、告発をしても握りつぶされたり、報復を受けたりする懸念から、告発自体が行われにくく、被害者が退職し泣き寝入りすることも多い。「大学内で疑いを指摘されたことがない」、つまり「告発がゼロ」というのは、山中氏のパワハラ疑惑を否定する根拠には全くならない(【立憲民主党は、「パワハラ音声」を聞いても、山中氏推薦を維持するのか ~問われる候補者「品質保証責任」】)。

山中氏の横浜市大内部でのパワハラについては、フラッシュの記事に掲載された部下を「干す」とするメールや、同記事中の統計解析責任者のCさんを「SUNRISE-DI試験」の論文から名前を外したことを、私が公開した「パワハラ音声」への「反論書」の中で半ば認めていることなど(【音声公開への「反論書」で一層明白になった、横浜市長選山中竹春候補の「パワハラ体質」】)、山中氏の横浜市大でのパワハラを裏付ける根拠が多数ある。「ハラスメントやその疑いを指摘されたことはない」だけでは、ハラスメントの疑惑に対する説明にも反論にもならない。

私がYouTubeで公開した山中氏の音声は、「君は、そうやってかわすじゃないか」という言葉から始まっており、相手の「かわす態度」に憤激し、「最後の手段に出る」「潰れるよ」「終わりだ。終わりだ」と言い放って終わっている。

山中氏にとって「かわすこと」はそれほど許容できない態度のはずだ。しかし、定例会見の場で、畠山記者の質問に対してとった山中氏の態度こそ、「かわす」「はぐらかす」そのものなのである。

「横浜市大への不当圧力問題」についての説明

そして、9月24日に常任委員会で請願の審査が行われる予定の「横浜市大への不当圧力問題」についても、畠山記者から質問があり、以下のような問答が行われた。

畠山記者 昨日の本会議で、6月16日に横浜市大が出した、「連絡が取れない状況が続いている」というメールの内容について、「連絡が取れないということはなかった」と山中さん明言をされました。その上でうかがいたいんですけれども。辞職の意思を伝えたのは、どなたにお伝えになられたのか。で、6月16日の文書に「連絡が取れない状況が続いている」と書かれていたということは、つまり、学長、または理事長のいずれかが嘘をついていたと主張をされるということでよろしいんでしょうか。

山中市長:6月29日だったと思うんですけど、そこの時の発言に関して、1週間、2週間、「2週間ぐらい前」と言ったんですかね。日にちは明示しなかったと思うんですけれども、えー。私が辞意を表明したのは6月18日の金曜日の夕方です。夕方から夜にかけてです。それは理事長に対して、ご連絡を差し上げました。6月16日に、このようなメールを一斉に出され。その時はですね。まだ、調整中という段階ではありましたが、こういったメールもあり。まだ立候補前ではございましたが、6月18日に、辞意を伝えざるを得なくなったというのが現状、実態でございます。

畠山記者:報道自体はもう6月16日の段階でされていたわけですよね。

山中市長:16日の朝だったと思いますね。その日の朝刊で、何社かちょっと忘れましたけど、新聞報道をなされていたと思います。6月16日水曜日です。16日水曜日の朝に新聞報道なされていたと思います。

畠山記者:でも山中さんご自身が出るっていうことを言わないとさすがに書かないと思うんですけれども。

山中市長:いえいえ。それは新聞記者さんですので、さまざまなところから、そういった情報を集められて、私に関わらずこの情報が正しいと判断されれば、新聞に掲載するということがメディアとしての進め方だと。それは各社の考え方によると思うんですが。そこで3社か4社か忘れましたけど、されていたようです。私自身はその時点では、理事長や学長と一切コンタクトは取っておりません。

畠山記者:なるほど。そうなると、6月16日にそのようなメールを出した横浜市大っていうのは、重大な問題を抱えているとは思われませんか。

山中市長:なぜ、ああいったメールが出されたのかに関しては、存じ上げません。ただ、私としては事実の方を申し上げさせていただきました。

畠山記者:じゃあ、この点について最後、もう1問だけお願いします。あの、メールの文書は内容がですね、また新たなメールが出るわけですけれども、それまでの間、打ち合わせの場に山中さんご自身が同席されていたということも昨日の本会議でお認めになりました。資料では黒塗りになっていた部分が山中さんだということをお認めになったんですけれども。その過程で、面談の機会が複数回持たれていたと思います。で、文書の内容というのが、当初とは大きく変わって、山中さんの研究実績は素晴らしいものがあってというような、称賛するような内容になった。変更されたということについて、ご自身や市議の方も同席されていたと思いますけれども、その働きかけが圧力になったという疑念を招くとはお考えにならないでしょうか。

山中市長:まず、大学との会談につきましては、事実に反する内容。それは先ほど畠山さんがおっしゃった、その内容に関して申し入れをいたしました。で、その結果、最後の最終的にですね、文章で、しかるべく訂正をしていただいたと考えております。また、文章は、大学内部の決裁を経て、複数の方々の。まあ役所なので。複数の方々の決裁を経て出されているものですので、そのプロセスに関して、何かこちらの方から働き掛けた、圧力をかけたとか、そういった事実はございません。

山中氏は、市長選への出馬について自分からはマスコミに何もコメントしていないのに、6月16日朝刊で3、4社が出馬を報じ、同日、理事長・学長名で「連絡がとれない状態が続いている」と書かれたメールを出されたために、辞意を表明せざるを得なくなり、18日夕方に理事長に連絡して辞意を表明した、と言いたいようである。

しかし、【「横浜市大への不当圧力」が、山中市長にとっても重大問題である理由】でも述べたように、16日に東京新聞の取材を受け、その翌日の17日には東京新聞の記事が出ており、18日にも、神奈川新聞に、「立憲民主党などの野党勢力の推薦や支持を得られれば出馬する意向」との山中氏自身のコメントを含む記事が出ている。山中氏が、東京新聞には16日に、神奈川新聞には17日に、取材に応じて出馬の意向をコメントしていたことは明らかだ。ところが、山中氏は、「6月16日の時点で、理事長や学長と一切コンタクトは取って」おらず、18日になってようやく理事長と連絡をとって、辞意を伝えたと言っている。

そうだとすると、山中氏が自ら出馬意志を認めるコメントを含む記事が続々と出る中、理事長・学長と山中氏とは全く連絡がとれない状況が続いていたことになる。16日から18日までの間、横浜市大では、学長補佐・データサイエンス研究科長の市長選出馬をめぐって「異常な状況」が続いていたということだ。そのような事態を招いた責任が山中氏の側にあることは明らかである。

このような山中氏の会見での発言からも、立憲民主党の市会議員らとともに、理事長らと面談し、6.16付け学内文書の「連絡がつかない状況が続いている」との記載が事実に反すると言って、訂正・謝罪を要求したこと自体は、全くの「言いがかり」である(【「小此木・山中候補落選運動」で “菅支配の完成”と“パワハラ市長”を阻止する!】)「素晴らしい研究業績」などと自分を称賛する文書が発出されたことが不当要求によるものであったことは、記者会見の問答で一層明白になったと言える。

信じ難いことに、畠山氏が、「6月16日にそのようなメールを出した横浜市大っていうのは、重大な問題を抱えているとは思われませんか」と言っているのが、「マスコミが一斉に山中氏の出馬を報じているのに、市大側で山中氏の出馬意向の確認すらできない状態」にあったことを「重大な問題」だという趣旨であることは明らかなのに、山中氏は、それを、6月16日に理事長・学長名でメールを送信したことが「重大な問題」だという意味に都合よく理解したらしく、

「事実に反する内容。それは先ほど畠山さんがおっしゃった、その内容に関して申し入れをいたしました」

などと述べている。

そして、「大学内部の決裁を経て、複数の方々の決裁を経て出されている」ことを理由に、「こちらの方から働き掛けた、圧力をかけた事実はない」などと自己の行動の正当性を主張している。

しかし、横浜市が正式に市会議員に提出した請願書添付の面談記録によれば、山中氏と市会議員が市大理事長らに対して、

「市民にSNSやインターネット上で、理事長、学長の不誠実を知ってもらった方がよいとも考える」

「コンプライアンス違反で訴え厳正に対処することも考えている」

などという恫喝的発言を行って文書発出を要求したことは明らかだ。そのような「圧力」がなければ、大学の経営トップの理事長がそのような不当要求に応じるわけがない。大学内部の決裁手続で、文書発出の問題点が指摘されなかったことは、大学当局のコンプライアンス問題であることは確かだ。しかし、それによって、山中氏らが行った要求自体が正当化されるものではない。

就任後の「山中市長」の対応こそが、今後の横浜市政にとって重大な問題

山中氏のウソ恫喝は、市長選の選挙期間中までは、山中氏という人物の「市長としての適格性」についての市民の判断の材料であった。それらが多くの市民に認識されないまま市長選挙が行われ、山中氏が当選したことが、市民の「正しい選択」だったのかにも疑問がある。しかし、それ以上に問題なのは、山中氏が当選して市長に就任した後、記者会見等で、ウソを認めず、さらにウソを重ね、恫喝についても全く非を認めず自己を正当化しようとしていることである。そのような人物が横浜市長として、市会での健全な議論、市民との対話が行えるとは到底思えない。

自らのウソ恫喝について、山中氏がどのように説明責任を果たすのか、それは今後の横浜市政の健全性、信頼性に関わる重大な問題だ。しかし、新聞、テレビ等の大手メディアは、市長会見でも、それらの問題に触れることはなく、報じようともしない。そのような姿勢で、横浜の地域社会に対するメディアの責務を果たしていると言えるのだろうか。

山中氏の恫喝の典型例である「横浜市大理事長らへの不当圧力問題」の事実解明を求める横浜市会への請願は、当初は、立憲民主党市議2名に関する調査を求めるものだったが、9月16日の横浜市会での答弁で山中市長が、面談記録上の「黒塗りの人物」が自分であることを認めたことに伴い、山中市長本人も調査対象に加える請願書の提出願いを、本日(9月22日)、横浜市会に提出する。

山中市長のウソ恫喝の追及は、これからが本番である。

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「横浜市大への不当圧力」が、山中市長にとっても重大問題である理由

私が請願者、3人の市会議員が紹介議員となって横浜市会に提出した「横浜市大への不当圧力問題」の件、9月24日の常任委員会(政策・総務・財務委員会)で審議されることとなった。同委員会の草間剛委員長も、ツイッターで、常任委員会での請願書審査の予定を明らかにするとともに、審査に先立って当事者が説明責任を果たすことへの期待を示されている。 

請願書に添付した市大当局と市議らとの面談記録についても、横浜市が、市会議員に正式に開示し、市が作成した公式文書であることが明らかになったので、一昨日(9月12日)、請願書・添付資料全体をブログで公開した(【横浜市会議員らによる横浜市大への「不当圧力」問題の請願書・添付資料を公開】

「複数の市会議員による、横浜市が設置する公立大学トップへの不当要求」という、看過できない重大なコンプライアンス問題であり、二元代表制の一翼を担う市議会としての自浄作用の発揮が強く求められる。

それだけではない。そもそも、この問題は、市大の現職教授であった山中竹春氏の市長選出馬が報じられた時点で、理事長・学長名で発出された学内文書に反発した山中氏が、理事長らに訂正・謝罪を求めたことに端を発するものだ(請願書添付資料では「黒塗り」とされているが、その人物が山中氏であることは、私が、独自の情報に基づいて、8月5日のブログ記事【「小此木・山中候補落選運動」で “菅支配の完成”と“パワハラ市長”を阻止する!】で明らかにしている)。その経緯に関して、請願書に記載していること以外にも、独自に情報を得ている。常任委員会における請願書審査の前提事項にも関連するので、ここで明らかにしておきたい。

市大理事長・学長の「山中教授、市長選出馬」報道への対応

6月10日前後、横浜のマスコミ各社は、「山中教授、市長選出馬へ」の情報を得て、山中氏本人や大学側に取材をかけていた。理事長(学長)は、それを受けて、山中氏に出馬の意向があるのか否かを確認したが、山中氏は否定した。しかし、その後も、「山中教授出馬」に関する取材の動きは収まらなかったので、理事長(学長)は、再度、山中氏の意志を確認しようとしたが、山中氏は、電話に全く出なかった。

そのような状況にあった6月16日に、新聞、テレビ各社が「山中教授、市長選出馬」を一斉に報じた。このような報道が一斉に行われるのは、本人が出馬意志についてコメントをしたからと考えられる。一方で、学長補佐・データサイエンス研究科長の要職にある山中教授が市長選への出馬が突然報じられたことで、教職員は動揺し、市大内部の混乱が拡大しかねない状況であった。理事長(学長)は、山中氏の市長選挙への出馬、退職意思を確認しようと必死に連絡をとろうとしたが、理事長・学長からの電話に山中氏は全く出ないので、本人の意向を確認しようがない。

大学当局として、山中教授の市長選出馬や、退職について本人の意向を把握しているのか問われ、「わからない」というわけにもいかない。学内の動揺を抑えるために、教職員に向けての学内文書(6.16文書)を発出し、「ご本人と連絡がとれない状況が続いていますが、現在も連絡をとり続けており、意思確認に務めております。」と述べたのは、その時点における理事長・学長側の認識そのものであり、何ら事実と異なるものではない。

また、学長補佐・研究科長の職にある山中氏が仮に市長選に出馬するとしても、横浜市が設置する公立大学としては、選挙活動・政治活動に一切関わることはなく、「中立の立場を貫く」というのも、公立大学として極めて重要なことであり、その旨学内文書に付記するのも当然だ。

同学内文書の発出は、その時点での理事長・学長として当然の極めて正当な対応だったと言える。

山中氏側の反発と訂正・謝罪要求の不当性

 ところが、山中氏は、市大の理事長・学長名義で、このような当然の学内文書が発出されたことに強く反発し、立憲民主党の花上喜代治、今野典人市会議員とともに、大学当局と面談し、6.16付け学内文書の「『連絡がつかない状況が続いている』との記載は事実に反する、林市長の意向を忖度し、対立候補の活動を妨害するもの」などと言って、理事長らに訂正・謝罪を要求した。

そして、何回も面談を重ねた上、最終的には、訂正・謝罪に加えて、「設置主体の林市長に配慮した内容」などの記載や、山中氏について「素晴らしい研究業績」などの山中氏への称賛を含む7月26日付け学内文書(7.26文書)を発出させた。

 これについて、山中氏側の反論があるとすれば、「6.16文書発出の時点で、学内の特定の人物と連絡がとっていた事実があり、そのことを、理事長・学長が知らなかったとすれば学内問題なので、同文書の『連絡がつかない状況が続いている』との記載は事実に反する。だから訂正・謝罪を求めた」というような主張であろう。

しかし、これは、全くの「詭弁」に過ぎない。

山中氏は、市長選への出馬が報じられた時点で、現職の市大教授であり、学長補佐・研究科長という立場にもあった者である。公立大学法人横浜市立大学職員就業規則23条によれば、「退職を申し出て、理事長から承認された場合に、退職によって職員としての身分を失う」とされており、「理事長の承認」が退職の要件となっている。また、教員の場合は、退職する日の6か月前までに文書をもって理事長に申し出ることとされている(24条)。

その時点で出馬を本気で考えていたのであれば、自ら理事長・学長に連絡をとり、市長選への出馬の意志があり、市大教授の退職する意向であることを伝えるのが当然だ。自分と親しい学内者だけと連絡をとっていたとしても、理事長・学長からの電話に出なかった以上、実質的にみても「連絡がとれない状況」にあったことは否定できない。しかも、その学内文書が発出された16日の翌日の17日には、東京新聞(【横浜市長選、IR反対派の横浜市大・山中教授が出馬意向】)、18日には神奈川新聞の取材に応じて「立憲民主党などの野党勢力の推薦や支持を得られれば出馬する意向」を明らかにしている。理事長・学長が、連絡がとろうとしても電話がつながらずに焦っていたのと殆ど同じタイミングで、山中氏は、東京新聞の取材に答えて出馬の意志があるとコメントしていたのである。その山中氏が、学内文書の「連絡がつかない状況が続いている」と記載が事実に反するとして訂正・謝罪を求めること自体、正当化する余地はないように思える。

しかも、山中氏側は、理事長・学長名義の文書で「連絡がつかない状況が続いている」と記載したことを「事実に反する記載」だとした上、それが「設置主体である横浜市の林市長に対して配慮した内容」だとして、「コンプライアンス違反」(請願書添付資料3)などと非難している。しかし、林文子市長は最終的には市長選に出馬したが、6月16日当時は、高齢・多選などを理由に、自民党横浜市連が市長選では支援しない方針を明らかにして、他の候補を模索していた状況であり、横浜市役所内部でも林市長が市長選に出馬すると予想されていたわけではなかった。「林市長に忖度して事実に反する学内文書を発出して山中氏の選挙・政治活動を妨害しようとした」などというのは、全くの「言いがかり」である。

 上記の経過については、横浜市会の常任委員会での審議で、或いは、その前提事実として確認されることになるであろう。

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横浜市会議員らによる横浜市大への「不当圧力」問題の請願書・添付資料を公開

 9月6日、複数の市会議員が横浜市立大当局に不当な圧力をかけた問題について事実解明と再発防止を求める請願書を、3名の市会議員を紹介議員として、横浜市会に提出しました。

 同日、請願書提出について、市政クラブで記者会見を行いましたが、請願書の添付資料とした「面談記録」については、入手先を秘匿する必要があり、出所を明らかにできなかったため、請願書・添付資料そのものの公開は差し控えてきました。

 紹介者の市会議員からの連絡によれば、請願書の添付資料とした面談記録が、市から正式に、横浜市大当局の面談記録として市会議員に開示されたとのことですので、請願書・添付資料全文を以下に公開します。

 なお、本請願書については、政策・総務・財務委員会で審議されることになり、9月24日の同委員会で審査されることを、同委員会委員長のくさま剛市会議員(@kusamatsuyoshi)がツイッターで明らかにされています。

 以下の資料では、立憲民主党の花上喜代治議員、今野典人議員が、市大への不当圧力の当事者として面談記録に記載されていますが、問題は、面談記録上「黒塗り」とされている人物です。市長選挙告示前の8月5日のブログ記事【「小此木・山中候補落選運動」で “菅支配の完成”と“パワハラ市長”を阻止する!】で述べたように、私が入手した独自情報によれば、この市大への不当圧力を主導したのは、山中竹春氏だと聞いています。

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リコール署名妨害「書類送検」で「犯罪の嫌疑」を印象づける“中京テレビネット記事”

本日(9月9日)深夜の零時過ぎ、中京テレビの以下のようなネット記事がアップされ、Yahoo!ニュースに転載されるなどして、広く読まれている(Yahoo!ニュースは、その後削除されている。)。

【知事リコール署名めぐりジャーナリスト津田氏、香山氏ら4人書類送検 愛知県警】

愛知県知事のリコールを求めた署名運動をめぐり、うその情報をツイッターに載せて運動を妨害したとして、ジャーナリストの津田大介氏ら4人が書類送検されていたことがわかりました。

 地方自治法違反の疑いで書類送検されたのは、ジャーナリストの津田大介氏や、精神科医の香山リカ氏ら4人です。関係者によりますと、4人は、愛知県の大村秀章知事のリコールを求めた署名運動をめぐり、ツイッターに「県知事リコールに参加した人たち、愛知県公報で本名と住所が県民に告知されるんですね」などと、うその情報を載せて、署名することをとどまらせて運動を妨害した疑いがもたれています。

 運動を主導した「高須クリニック」の高須克弥院長が、去年、刑事告発をしていて、愛知県警が受理していました。

津田氏は中京テレビの取材に「これまで通り聴取に協力します」とコメントしています。

この記事を読んだ人の多くは、津田大介氏らに地方自治法違反の犯罪の嫌疑があって「書類送検」されたような印象を持ったであろう。実際に、Yahoo!ニュースのコメントの多くが、そのような前提で書かれている。

しかし、このような「警察に告発された事件」については、「捜査後速やかに、これに関する書類及び証拠物を検察官に送付(書類送検)しなければならない」のであり(刑訴法242条)、告訴・告発については、刑事訴訟法上は、受理する義務は定められていないが、犯罪捜査規範63条で「告訴・告発は、受理しなければならない」と定められていることからすると、告発が行われた場合の「書類送検」は必然であり、それ自体は、犯罪の嫌疑の存在を示すものでも、起訴の可能性も示すものでもない。

 

この記事の直後に出された共同通信のネット記事【香山リカ氏ら書類送付 愛知知事リコール妨害容疑】で、タイトルも「書類送付」とした上、

《起訴を求める意見は付けなかったとみられる。香山氏は代理人弁護士を通じて「(告発された案件は)全件送致されるので、手続き的なことだと理解している。捜査には協力している」とコメント。》

と、犯罪の嫌疑の印象を薄める記述をしているのと比較すると、中京テレビの記事は、津田氏らの犯罪の嫌疑を印象づけようとした疑いがある。

(津田氏がツイートしているように、津田氏が、中京テレビに「書類送致、一般的には書類送検と言われますが、これは警察から検察に捜査が移ったというだけの意味ですので」とコメントしたのに、そのコメントをカットして「聴取に協力」だけにしたとすれば、そこにも「犯罪の嫌疑」を印象づける意図が疑われる。)

高須克弥氏が告発したのは、おそらく、「署名者の個人情報は県広報で公開される」と虚偽の情報をツイートしたことについて、地方自治法74条の4第1項2号の署名運動妨害の「偽計詐術等不正の方法をもつて署名の自由を妨害したとき」に当たると考えたのであろう。

しかし、上記の犯罪が成立するために、「虚偽」であることの認識・犯意が必要であるのは当然である。

毎日新聞のファクトチェック記事【ミスリード 愛知県知事リコール運動、香山氏「受任者公開される」 本当は請求代表者のみ】によると、当初のツイートは、香山氏が

「すでに署名の受任者を引き受けた方の住所氏名は、早速、県の公報で公開されてるようです。署名した人の名前や住所も、提出されたら縦覧できるみたい」

と投稿したものだが、県の公報で公開されたのは「受任者」ではなく「請求代表者」であり、署名した人の名前や住所を縦覧(閲覧)できるのも、同じ市町村の有権者に限られることから、ミスリードとなるツイートであったことは確かだ。

香山氏は、投稿の当日に

「失礼しました。住所氏名が公報に出ているのは代表者の方々なのですね」

と訂正、2日後にも

「公報に載るのは代表者の住所氏名だけなんですね。その点は誤解してました」

と投稿していることからして、香山氏が、虚偽だと認識した上で当初ツイートをしたものとは考えられない。

香山氏のツイートを受けて、町山智浩氏が、

「リコールに参加した人たち、愛知県広報(原文まま)で本名と住所が県民に告知されるんですね」

と投稿(後に削除)、津田氏が町山氏の投稿をリツイートしたことが、同様に、署名運動妨害として告発されている。これらの投稿やリツイートも、虚偽と認識した上で行ったとは思えない。少なくとも、これらの投稿等が虚偽だと認識した上で行われたとする根拠があるとは思えない。

一方、上記ファクトチェック記事によると、告発人の高須氏のツイートでは、香山氏のツイートについて

「リコールのための署名をすると署名した人の個人情報が漏洩(ろうえい)する」というデマ」

と表現しているが、香山氏は「提出されたら縦覧できる」と述べているだけで、「個人情報が漏洩する」とは言っていない。同記事が指摘するように、高須氏のツイートも、事実を歪曲するものとも言える。リコール署名に係る地方自治法上の手続を正確に表現することは容易ではない。

これらのことを踏まえると、書類送付された告発事件が起訴される可能性は極めて低いと言えるだろう。共同通信が報じるように、警察が「起訴すべき」との意見を付さなかったのも当然である。

中京テレビの記事には問題があると言わざるを得ない。

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就任会見で早くも露呈した山中氏「市長不適格」~「辞任カウントダウン」の始まりか?

8月8日告示・22日投開票の横浜市長選挙は、市民と地域社会の要請に応える横浜市政を実現する新市長を選ぶための極めて重要な選挙であった。

史上最多の合計8人が立候補して行われた市長選挙で当選したのは、横浜市立大学の元教授、立憲民主党推薦の山中竹春氏だった。

山中陣営は、首都圏を中心とする感染爆発で、菅政権の新型コロナ対策への批判が高まる中、告示前から「街宣カー」に「医学部教授」「コロナの専門家」と大きな文字で書き、「山中竹春」「コロナの専門家」「横浜からコロナを封じ込めます」を連呼する「選挙運動」を、組織を挙げて展開していた。それが、現職大臣を辞任して出馬した小此木八郎氏と、現職市長の林文子に「圧勝」する要因となった。多くの横浜市民は、山中氏が医師・医学者の「コロナの専門家」だと思っただろう。

しかし、山中氏は、コロナ対策の専門家であることの疑義や、学歴・経歴への疑問、パワハラ疑惑など、様々な問題が指摘されていた。

まず、8月3日発売の週刊誌フラッシュのネット記事【横浜市長選「野党統一候補」がパワハラメール…学内から告発「この数年で15人以上辞めている」】で山中氏のパワハラ疑惑が報じられた。

また、山中氏の市長選出馬に関して理事長・学長名で出された学内文書に因縁をつけて、山中氏の評価を含む文書を発出するよう強く求め、『素晴らしい研究業績』などの文言を含む文書の発出を強要し、大学の自治に対する、政治的権力による侵害行為を行った疑いがある(【「小此木・山中候補落選運動」で “菅支配の完成”と“パワハラ市長”を阻止する!】)。

さらに、大学院で修士課程しか修了していないのに博士課程修了のように見せかけていた疑いがあること、また、「NIH リサーチフェロー」が経歴詐称ではないかという疑いがある(【横浜市長選、山中竹春氏は「NIH リサーチフェロー」の経歴への疑問にどう答えるのか】)。

私も、山中氏については、「コロナの専門家」であることの疑問、パワハラ疑惑・経歴詐称疑惑などを追及する「夕刊紙風」落選運動チラシを作成して公開したり、パワハラ(正確には、横浜市大の取引先業者への経営介入の強要)音声を公開するなどの様々な方法で、落選運動を展開してきた。

しかし、山中氏は、上記の問題や疑問点ついて説明を求める声から逃げ続けた。街頭演説の際に、市民から「説明してほしい」と言われても、「広報に、広報に聞いてくださいっ」と言い残して去ったり、「それはちょっと・・・」と言って逃げたという。

そうした山中氏にとって、市長就任会見は、説明責任に直面する初めての場となった。

就任会見での山中氏の発言・質疑応答は、既に、YouTube等で公開され、その全文起こしもインターネットに掲載されている(➡【山中竹春 横浜市長就任記者会見・全文文字起こし】)。

その内容は、私がかねてから述べてきたように、山中氏が「市長に相応しくない人物」、「絶対に市長にしてはならない人物」であることを早くも露呈するものであった。

山中氏が「馬脚」を現した、というより、その「馬体」そのものが露わになったと言えよう。

山中氏は、ほとんどの質問に対して、「検討する」、「当局と議論する・相談する・連携する・調整する」というような答弁に終始し、実質的に意味のある回答は何一つなかった。

「コロナの専門家」を連呼したことが当選に大きく寄与したと思える山中氏に対して、そのコロナ対策について質問されて、

ワクチンの接種、検査体制の拡大、医療体制の確保。こういったことは従前から申し上げておりますので、それぞれの項目に対して、効果的な施策をですね、現状を踏まえた上で、現状をよく把握した上で、対策を打ち出したい

と答えた。専門家どころか「全くの素人」でも言えるレベルでしかない。

山中氏の発言の中で目立ったのは「当局」という言葉だ。通常、「当局」というのは、「ある仕事や任務を処理する立場にある機関」という意味であり、その「当局」の外部の人間が使う表現だ。市長が、市役所の担当部局のことを「当局」と表現するというのは聞いたことがない。しかも、その「当局」と「相談」とか「連携」などという、不可解な表現も出てくる。

山中氏は、最初の質問で、「初登庁した際の感想」を聞かれ、「横浜市政を預かる責任の重さ、それを改めて痛感して身の引き締まる思い」と答えているが、本当に、自分が横浜市役所のトップとして市政を担う立場になったという認識があるのか否かすら疑わしい。

会見での発言では、新市長に就任した山中氏としての見解・考え方が問われているのに、それを示す姿勢も、説明しようとする姿勢も全くなかった。

このような会見での発言を聞いて、私は、パワハラ音声を提供してくれたA氏が、山中氏について言っていたことを思い出した。A氏によると、「山中氏との話の中で、横浜市の市政について話をしたことは一度たりとも無い」とのことだった。野心家で、政府の委員であることや副学長であることを喧伝し、洗練されたオフィスや、タワーマンションを好む「セレブ志向」の山中氏にとって、横浜市長に当選し、横浜市新庁舎に初登庁し、市長室に入り、市長の椅子に座る、ということで、山中氏にとって市長選挙に立候補した目的の大半は果たされたのかもしれない。

一方で、フリーランスの記者から

郷原さんが選挙ドットコムのブログで、山中さんの経歴の問題、それからパワハラの疑惑、それから強要未遂の問題などを取り上げてですね、あの山中さんご自身が市長としてふさわしくないのではないかという疑義呈されておりますけれども、これに対して選挙戦を通じて、山中さんの方から反論が全くなかったんですけれども、これはなぜなのか。

質問されたのに対して、正面から答えず、

市民の方にですね、しっかりと自分の取り組みを理解してもらう。その努力がもっとも重要なのではないか。

と答えた。

しかし、市民に理解してもらえるよう、一体どのような「取組み」をしていくのかは全く示していない。

さらに、同じ記者から、

郷原さんがインターネットで山中さんのものとされる音声を公開されておりますけれども、山中さんご自身はこれをお聞きになりましたでしょうか。

と問われて、

存在は聞いているんですが、内容に関しては、全部はちょっと。途中までは聞いたんですけれども、全部はまだ聞いてません。

と答えた後、自分の声であることは認めた。全体でも僅か2分の音声を「途中まで聞いた」というのは考え難い。この音声記録で行っている「恫喝」について全く弁解の余地がないということであろう。

そして、別の記者の

2002年から2004年まで、アメリカの国立衛生研究所というところでリサーチフェローをされていたということなんですが、これは事実なのかどうか。

 という質問に対しては、

NIHで研究員をやっていたことに関して、詐称はございません。

研究員を表す一般的な用語として、リサーチフェローという言葉を使ったことはございます。ただ、リサーチフェローに関しても、様々ですね、定義がございます。さまざまというか、あの、機関ごとに、定義が違う場合もあるんですが、研究員を表す用語として、リサーチフェローと使っております。

と述べ、「NIH 研究員」であったとして、リサーチフェローは研究員という意味だとの説明で押し通した。

「NIHリサーチフェロー」というのは、博士号取得後3年経過後に得られる連邦政府職員の有給の正式ポストであり、単なる「研究員」とは異なる。山中氏が、「NIHリサーチフェロー」という経歴を、国や公的機関の研究費の申請書類に記載していたとすると、重大な問題に発展する可能性がある。

8月30日の会見を見た横浜市民は、8人が立候補した激戦の市長選を圧勝した「新市長」の姿やその発言を、どう受け止めたであろうか。横浜市会の各会派も、いくら「市長選で圧勝した市長」とは言え、就任会見で、まともに自らの見解や考え方を述べることもできず、疑惑や問題について何一つ説明責任を果たせない新市長に対して、市議会での質問を通じて、説明責任を果たさせるのは当然だと言えよう。

少なくとも、山中氏のような人物が市長でいる限り、横浜市の市政の混乱は避けられない。

就任会見での言動は、山中氏は「セレブ志向」の延長上で市長選挙に出馬したとの見方を裏付けるものと見ることもできるが、そうだとすると、市長として職責を果たし続けることに、どれだけの熱意があるのかも不明だ。

「山中市長辞任」に向けてのカウントダウンは、既に始まっていると言えよう。

 

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【横浜市長選挙】山中竹春候補「圧勝」が立憲民主にもたらす“最悪の結果”

本日(8月22日)。横浜市長選挙は、投開票日を迎えた。

私は、8月5日の記者会見で、立候補の意志を撤回し、小此木・山中両候補の落選運動に転じる旨表明し、それ以降、横浜市における「菅支配の闇」を一層盤石化することになる小此木氏の当選を絶対に阻止すべきであることを訴えるとともに、山中氏については、「コロナの専門家」であることの疑問に加え、パワハラ疑惑、経歴詐称疑惑などを、「夕刊紙風」落選運動チラシを公開、パワハラ音声の公開などの様々な方法で展開してきた。(もう一人の自民系の林文子現市長も支持するものではないが、前回選挙以降のIR誘致への姿勢への市民の批判もあり、当初から当選の可能性は極めて低いものと考えており、落選運動の対象とはして来なかった。)

投票日直前の各社の情勢調査の結果によると、山中竹春氏がリードしており、最新の期日前投票の出口調査の結果でも、同様の傾向が見られるという情報もある。

菅政権は、東京五輪優先で、感染拡大のための抜本的な対策を何一つ講ずることができず、神奈川県の一日の新型コロナ新規感染者数が3000人に迫るという感染爆発を引き起こし、提供されるべき医療も提供されない膨大な数の「自宅放置」を生じさせている。国民の命を危険に晒している菅政権への批判が、自民党、そして、菅首相が全面支援する小此木八郎候補に「強烈な逆風」となっており、小此木陣営は、開票を待つまでもなく、選挙での勝利をほとんど諦めざるを得ない状況に追い込まれている。

一方で、山中陣営は、山中氏が横浜市立大学医学部教授であったこと、新型コロナの中和抗体の研究成果の発表を行ったことから、「コロナの専門家」であるとして前面に打ち出す選挙戦略で臨んでおり(正確には、山中氏は医師ではなく、臨床研究等の統計処理の専門家であって、コロナ医療あるいは感染症の専門家でもない。)、新型コロナ感染急拡大による自民党・菅政権への「逆風」が、そのまま山中氏への「追い風」につながる現状となっている。

しかし、山中氏がこのまま市長選で勝利して横浜市長に就任した場合、その後に訪れると予想される事態が、山中氏にとっても、立憲民主党など野党にとっても、最悪のものとなることは、これまでもブログ・ツイッター等で繰り返し訴えてきたところだ。

公選法上、落選運動には、選挙運動と異なり、期間の制限はなく、投票日当日も行うことが可能なので、これまでの落選運動で訴えてきたことを、取りまとめて述べておくこととしたい。

パワハラ・不当要求問題

山中氏が市長選挙で当選したら、その直後から直面するのが「パワハラ・不当要求問題」である。私は、落選運動の中で、これに関して多くの問題を指摘してきた(【「小此木・山中候補落選運動」で “菅支配の完成”と“パワハラ市長”を阻止する!】)が、山中氏も、山中陣営も、立憲民主党も、すべて無視・沈黙している。

  1. 横浜市立大学内部における山中氏のパワハラ問題
  2. 同大学の取引先に対する「経営介入」の不当要求・脅迫問題
  3. 山中氏の市長選出馬報道に際して、同大学学長・理事長で発出された学内文書について、訂正・謝罪と自己を称賛する新たな文書発出を強要した問題

これらのうち、2. の大学の取引先企業の役員に対する不当要求については、既に音声をYouTubeで公開している(【山中竹春氏パワハラ発言音声&文字起こし】【山中竹春氏パワハラ発言音声&文字起こし<第2弾>】)。2019年12月8日に、山中氏がA氏への電話で発言したものである。

ここで「英語の文章にしてー、出せって言ってる」「それを君ははいって言ったけどー、やらない」「昨日中にそんな文面を送ってくる予定だった」という山中氏の発言は、取引先のA氏に山中氏が不当要求していた会社の役員人事への介入を許すことにつながる「英語の文書」を書くように要求している。これがA氏にとって「義務なきこと」であることは明らかだ。(学生や部下の研究者に対して英文のレポートを書くように「指導」しているのではない。)

「日本の大学病院に多く入れられなくなる」「僕は最後の行動に出る」「君がわからない知らないような」、「ほんと潰れるよ」と言って、自分の行動によって会社が潰れると「害悪の告知」を行っているのであり、強要未遂罪(刑法223条3項)に該当する可能性が高い

名誉棄損罪等と異なり、強要罪は被害者の告訴が要件となる「親告罪」ではない。市長選に当選した人物の犯罪の嫌疑について捜査し、犯罪が成立するのなら処罰してもらいたいという「告発」は、何人でも、犯罪があると思うときは行うことができる(刑訴法239条1項)。

また、3. についても、当初の学内文書では、「市長選には関わらない」として政治的中立を宣言していたのが、山中氏の要求によって山中氏の研究成果を絶賛する文書になっていることからしても、理事長・学長の意思に反して発出させられたことは明らかであり、また、その経過については、不当要求に加わった市議会議員 花上喜代治氏が、周囲に言いふらしているほか、対応した大学当局にも記録が残ってものと考えられ、事実の立証は容易なはずだ。もし、山中氏が、2. と同様に、何らかの「害悪の告知」をして不当要求していれば、強要罪が成立することになる。

1. の横浜市大内部の教職員、学生等に対するパワハラは、市長選挙に当選し、強大な権限を持つことになる山中氏の問題であるだけに、被害者の協力を得ることは容易ではないが、外部弁護士によって、被害者の保護、匿名化を図りつつ調査を行えば、事実を明らかにすることは十分に可能である。 

「コロナの専門家」、経歴詐称問題

山中氏が、医師でも医学者でもない、医療に関する「統計」の専門家なのに、選挙公報で「コロナの専門家」と記載していることについて、虚偽事項公表罪(公選法235条1項)に該当するのではないかとの指摘がある。「コロナの専門家」というのは、多くの人が「感染症医学の専門家」という意味で理解している(立憲民主党の蓮舫氏も「感染症の専門家」とツイートしている)。山中氏本人に「虚偽の事実」という認識がなければ犯罪は成立しないが、有権者に重大な誤解を与えていることは確かである。

また、研究者用の業績公表サイトのリサーチマップ等に記載していた「NIH(米国国立衛生研究所)リサーチフェロー」と記載していたことの「経歴詐称」問題は、今回の選挙においては「研究員」と記載しているので、虚偽事項公表罪の問題は生じない。しかし、出馬表明に際して自己のリサーチマップを削除していることの説明も含め、自らの経歴についての説明責任が生じていることは明らかである。(【横浜市長選、山中竹春氏は「NIH リサーチフェロー」の経歴への疑問にどう答えるのか】

「IR即時撤回」で予想される事態

横浜市では、林市長が、2年前にIR誘致の方針を打ち出して以降、市議会で多数を占める自民公明両党に支持されて、誘致に向けての作業が着々と進められてきた。それに対して市民からは反対意見が多く、住民投票を求める19万筆を超える署名が提出されたが、直接請求による住民投票条例は自公両党の反対で否決され、既に、事業者の公募、事業提案の提出が行われ、今年夏から秋に予定されている事業者選定が目前に迫っている。

山中氏は、出馬表明の時点から「IR即時撤回」を公約に掲げてきた。当選すれば、その時点で、IR撤回の方針を明確にすることになるであろう。

ここで問題となるのは、これまで、市議会で積み重ねられてきたIR誘致に関する議論が、山中新市長の「即時撤回」方針の表明でどうなるか、ということだ。

山中氏が、出馬表明の会見や、選挙戦の中で訴えてきた「IR即時撤回」の理由は、カジノによる「ギャンブル依存症の増加」と「治安の悪化」であった。いずれも、従来の横浜市の担当部局が、それらを否定する根拠を用意してきたものだ。市議会自民党も、そのようなIRの負の要素を否定する一方で、将来の横浜市の財政事情から、IRによる税収が不可欠だと述べてきた。そのような議論を、今後、根底から覆すというのである。私が、重点政策の筆頭に挙げていた「市長選後の住民投票」によって、民意を理由にIR誘致を撤回するということでなければ、理由付けは相当に難しいのではないか。

「IR即時撤回」を宣言するだけではなく、市議会と力を合わせて、IR撤回を実現していくためには、市議会の市長に対する信頼が不可欠である。上記のようにパワハラ・不当要求疑惑、経歴詐称問題などの多くの問題を抱える山中氏が、市議会側と信頼関係を築くことができるか甚だ疑問である。

「落選運動」に対する山中陣営・野党側の姿勢

当初、7月7日に私が「解除条件付き」で立候補意志を表明したのも、立憲民主党に山中氏の推薦決定の再考を求めることが主目的であり、それ以降、山中氏の市長としての適格性について様々な情報を入手し、立憲民主党に再検討を求めてきた。ところが、それらは全く受け入れられなかったため、落選運動に転じ、自らの資金を投じて、山中氏に説明責任を問い、その責任を果たさないままの当選を阻止するために最大限の活動をしてきた。

しかし、ブログ、YouTube、チラシ等で行ってきた私の指摘に対して、立憲民主党側は、全く説明を行おうとせず、無視している。ブログ【横浜市長選、山中候補の説明責任「無視」の立憲民主党に、安倍・菅政権を批判する資格があるのか】を、枝野幸男代表、福山哲郎幹事長、平野博文選対委員長に送付したが、何の反応もない。

このような立憲民主党の姿勢を見て、私が思い出したのが、4年前の東京都議選の応援演説で、当時の安倍晋三首相が、森友・加計学園問題等についての説明責任を全く果たさないことで「安倍やめろ」と声を上げていた人達に対して、

「“こんな人たち”に負けるわけにはいかない」

と言い放ったシーンである。山中竹春氏についての説明を求める私は、立憲民主党にとって、都合の悪いことを声高に言う「負けるわけにはいかない“こんな人(達)”」なのであろうか。そうだとすると、立憲民主党が説明責任を強く求め、退陣を迫っていた安倍氏と、現在の立憲民主党幹部は、全く変わらないことになる。

先週、警視庁麻布警察署から私に電話があった。警察庁の公開アドレスに、「横浜市長選 郷原」と書いた殺害予告メールが届いたとのことで、私の事務所、自宅、横浜事務所の警備を強化するとの連絡だった。私としては、横浜市のため、市民のために、市長選の有力候補の山中氏の適格性を問い、説明を求めてきた。山中支持者側は、山中氏に説明を求めるのではなく、「誹謗中傷」などと私を非難しているようだ。そのような姿勢が、卑劣なメールにつながったのかと思うと、何ともやるせない思いだ。

横浜市長選での野党共闘候補山中竹春氏が「圧勝」しても、早々に「市長不適格」が明らかになれば、コロナ禍に立ち向かうべき横浜市政の混乱を招き、立憲民主党への国民の期待を急速に失わせる。それによって、野党第一党の同党が、自公政権に替わる「政権の受け皿」にはなり得ないことが露呈するという「最悪の結果」に終わることになりかねない。

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