「桜を見る会」安倍首相“詰将棋”、最終盤での「決定的な一手」は

先週金曜日の夕刻、安倍首相が、官邸での「ぶら下がり会見」で、

夕食会費用については、安倍事務所職員が一人5000円を集金してホテル名義の領収書を手交。集金した現金をその場でホテル側に渡すという形で、参加者からホテル側への支払いがなされた。

と説明したことについて、土曜日(11月16日)の記事【「桜を見る会」前夜祭 安倍首相の「説明」への疑問~「ホテル名義の領収書」の“謎”】で、

「ホテル名義の領収書」が渡されたのであれば、その領収書の額面の金額に見合う支払いが、安倍事務所職員からホテル側に前もって行われたはずだ。

と指摘した。

週明け月曜日の朝、安倍首相は、再び「ぶら下がり会見」に応じた。

(毎日)「国会対応は党に任せている」桜を見る会 改めて首相釈明、主なやりとり】によると、安倍首相は、「領収書」に関して、

桜を見る会の前日の夕食パーティーについて、安倍事務所も後援会にも、一切入金、出金はございません。領収書を発行していないし、領収書を受け取ってもいない。

と答えた。

そして、その後、この点に関して、以下のようなやり取りがあった。

記者:領収書のことだが。

首相:ちょっとすみません、時間がありませんので、最後の質問にしてもらえますか。

記者:安倍事務所の方が受付で領収書を渡していたとのことだが、ホテル側から領収書をもらうためには先に支払いをしないといけないという指摘がある。先にホテル側に支払ったということは一切ないのか。

首相:それはありません。

記者:総理、一つだけ。

首相:ちょっとすみません、これ最後にしていただけますか。

 「先にホテル側に支払ったということは」という記者の質問に対して、安倍首相は「それはありません」と答えたものの、それに続く質問を、「これ最後に」で打ち切った。

 そして、この「ぶら下がり」で、安倍首相が、夕食パーティーについて、「安倍事務所も後援会にも、一切入金、出金はございません。領収書を発行していないし、領収書を受け取ってもいない」と述べた点について、私は、昨日夜の記事【「ホテル主催夕食会」なら、安倍首相・事務所関係者の会費は支払われたのか】で、以下のような指摘を行った。

ホテル側が主催する立食の夕食会であれば、安倍首相夫妻や事務所関係者、来賓も、参加者の人数に含まれる。これらの人達も、すべて自分で夕食会費を支払ったのだろうか。もし、後援会が支払っているとすれば、その分、その「桜を見る会」前夜祭に関する安倍後援会側の「支出」が発生する。支払っていなければ、安倍首相や関係者は「無銭飲食」をしたことになる。

 昨日の「ぶら下がり会見」を打ち切る直前の質問については、改めて、「本当に、支払っていないのに『ホテル名義の領収書』を受領したのか。事務所に確認したのか」という質問を受けることになるだろう。もし、安倍事務所側が本当に支払っていないとすると、ホテルニューオータニは、「支払を受けないで領収書を前渡しした」という重大なコンプライアンス上の問題を抱えることになる。

 安倍首相は、夕食パーティーが「ホテル主催」であったかのような説明を続けるのだろうか。そうなると、「ホテル主催の夕食パーティーなら安倍首相や事務所関係者の支払はどうなったのか」との新たな疑問に、どう答えるのであろうか。前日の「安倍事務所も後援会にも、一切入金、出金はございません」という答えを撤回することなく、説明をすることが可能なのだろうか。

 加計学園問題では、(安倍首相への「忖度」で利益を受けたことが疑われた)安倍首相の親友の加計孝太郎氏が、「説明」から逃げ続けた。

 森友問題では、(安倍首相の意向を「忖度」した疑いがある)財務省が、「説明」の矢面に立たされ、自殺者まで出た。「忖度」される立場だった安倍首相は、直接の「説明」から逃げることができた。

 しかし、今回の「桜を見る会」の前夜祭パーティー問題は、安倍首相と、その後援会が直接の当事者である。安倍首相は、「説明」から逃げることができない。盤面の展開が殊の外早いのはそのためだ。

 官邸で「番記者」に囲まれて、慌ただしく都合の良いことだけを述べる、ということを繰り返してきた安倍首相だが、その表情には、徐々に「余裕のなさ」が目立ってきている。それは、この問題をめぐる「詰将棋」が、“最終盤”に差し掛かっていることを示しているようにも思える。

 安倍首相や後援会が、ニューオータニ側に「値引き」や「領収書前渡し」の便宜を図ってもらったことを強調し続けると、さらに「決定的な一手」となる質問が待ち構えている。

 それは、ホテルニューオータニが、安倍首相の職務権限による「何らかの見返り」を期待する関係にあったのではないか、ということだ。

 具体的には、次のような質問だ。

ホテルニューオータニに対して、「首相官邸や内閣府からの発注」は行われていないのか。

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「ホテル側主催」であれば、安倍首相・後援会関係者は会費を支払ったのか

 安倍首相は、本日(18日)午前10時ごろ、総理大臣官邸に入る際、記者団の取材に応じ、「懇親会などについて証拠を示して説明すべきだという指摘が出ている。」と問われたのに対し、「安倍事務所にも後援会にも、一切、入金はなく出金もない。旅費や宿泊費は各参加者が直接支払いを行い、食事代についても領収書を発行していない。」と述べたとのことだ(NHK)。

 15日の「ぶら下がり会見」では、「安倍事務所職員が1人5000円を集金してホテル名義の領収書を手交した」と説明していた。そうであれば「ホテル名義の領収書」が事前に安倍事務所側にわたっていたことになる。ニューオータニのような一流ホテルが、支払いを受けてもいないのに領収書を発行して交付することはあり得ないのではないかというのが、前の記事【「桜を見る会」前夜祭 安倍首相の「説明」への疑問~「ホテル名義の領収書」の“謎”】での指摘だが、その点について安倍首相は答えていない。

 安倍首相の説明によると、夕食会は、ホテル側が主催し、ほとんどが宿泊者であることを考慮して、夕食会費を1人5000円と決め、個別にそれを集金したもので、安倍事務所側は、会費を集金して領収書を交付するという事務を手伝う以外は関与していないということになるが、懇親会に出席した参加者全員が、個別に、(安倍事務所職員を通してかもしれないが)1人5000円の飲食費をホテル側に支払ったということになると、その夕食会費を支払うべき「参加者」には、安倍首相夫妻や事務所関係者、来賓も含まれるはずだ。ホテル側が主催する立食の夕食会であれば、これらの人達も、夕食会に参加する以上、飲食をしようとしまいと、参加者の人数に含まれるのは当然だ。

 これらの人達も、すべて自分で夕食会費を支払ったのだろうか。もし、後援会が支払っているとすれば、その分、その「桜を見る会」前夜祭に関する安倍後援会側の「支出」が発生する。支払っていなければ、安倍首相や関係者は「無銭飲食」をしたことになる。

 この疑問に、安倍首相は、どう答えるのであろうか。

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“桜を見る会前夜祭”安倍首相の「ホテル名義の領収書」説明への疑問

今年の「桜を見る会」の前日にホテルニューオータニで開かれた前夜祭について、安倍首相は、昨日、「すべての費用は参加者の自己負担。旅費・宿泊費は、各参加者が旅行代理店に支払いし、夕食会費用については、安倍事務所職員が1人5000円を集金してホテル名義の領収書を手交。集金した現金をその場でホテル側に渡すという形で、参加者からホテル側への支払いがなされた。」と説明し、少なくとも2017年分までの安倍総理に関係する政治団体の収支報告書に“前夜祭”の収支について記載がないことについては「収支報告書への記載は、収支が発生して初めて記入義務が生じる。ホテルが領収書を出し、そこで入ったお金をそのままホテルに渡していれば、収支は発生しないため、政治資金規正法上の違反にはあたらない。」と述べたそうだ(テレ朝ニュース)。

この「説明」には、いくつかの疑問と問題点がある。

「ホテル名義の領収書」と代金支払いの関係

最大の問題は、安倍事務所職員が参加者から集金して「ホテル名義の領収書」を渡したとされている点だ。

少なくとも、ニューオータニほどのホテルが、実際に金銭を受領していないのに「ホテル名義の領収書」を渡すことはあり得ない。「ホテル名義の領収書」が渡されたのであれば、その領収書の額面の金額に見合う支払が、安倍事務所職員からホテル側に前もって行われたはずだ。

会の参加者の人数が予め確定しているのであれば、その確定額を安倍事務所側が「立て替え」、ホテル側に支払って、その金額に見合う領収書を受け取って参加費と引き換えに参加者に渡したということもあり得るだろう。しかし、前夜祭は、「自由参加」の立食の会であり、予め参加の申込みが行われているわけではないはずだ。そうなると、安倍事務所職員が、予め金額を確定してホテル側に支払い、その分の「ホテル名義の領収書」を受け取るということはできないのが通常だろう。

安倍首相の「説明」にある「ホテル名義の領収書」というのが、ホテルニューオータニの正式の領収書であったとすると、安倍事務所側で、「参加者数」を決めて、一人当たりの領収書の金額に「参加者数」を乗じた金額をホテル側に支払って、その人数分の「ホテル名義の領収書」を受領し、参加費の支払と引き換えに参加者に渡したということしか考えられない。

そうなると、そこで前提とされた「参加者数」が、実際の「想定参加者数」と一致していたのかどうか、ということが重大な問題となる。「ホテル名義の領収書」を受け取る際の支払いの前提となった「参加者数」よりも、実際に5000円の参加費を支払った人が少なかった場合、その差額は、安倍事務所側が負担し、安倍事務所には、その分の「ホテル名義の領収書」が残ったということになる。この場合、一人分の「ホテル名義の領収書」の金額と、1人当たり参加費の支払額は一致するが、安倍事務所のホテルへの支払額の総額と、参加者から受け取った参加費の総額は一致しない。

ホテル側に実際に支払われたパーティーの費用の総額が明らかになっていないので、「ホテル名義の領収書」が一枚5000円だったとしても、一体、何枚の領収書が安倍事務所側に渡されたのかが判断できない。

また、ホテルへの支払いが一人当たり5000円では到底足りず、その差額を安倍事務所側で補填しようと考え、「想定参加者数」を大幅に水増しし、実際に参加した人からの支払いとの差額を安倍事務所ないし安倍後援会側が負担したという可能性もある

仮に、そのようなことが行われたとすると、公選法上、政治資金規正法上、どのような問題が生じるのか。

公職選挙法上の問題

まず、公選法199条の2が禁止する「公職の候補者等の寄附の禁止」に当たるか。

確かに、前夜祭の飲食の提供について、ホテル側が、一人当たりの価格設定を「5000円」としていて、その金額と一致する5000円の会費が支払われていれば、金額が釣り合っているので「寄附」には当たらないようにも思える。

しかし、もし、その「5000円」が、実際の参加者を大幅に上回る「想定参加者」を前提に設定されたものであり、実際に提供される飲食費の一人当たりの金額が「5000円」を大幅に上回っていたとすれば、その「超過金額」の分の「寄附」をする意思があり、実際寄附が行われたことになる。

その場合、安倍事務所側が、ホテルへの参加費総額を支払って「ホテル名義の領収書」を受領した際に前提とした参加者数が、実際に想定していた参加者数に見合ったものであったかについての事実確認を行う必要がある。

政治資金規正法上の問題

政治資金規正法上は、安倍首相の「収支は発生しないため、政治資金規正法上の違反にはあたらない」との「説明」は、全く通る余地がない。

「桜を見る会」のツアーは、安倍晋三後援会名義で参加を呼び掛けていることからしても、政治団体である同後援会の活動の一環として行われていることは否定できない。その後援会の事務を行う安倍事務所側が「想定参加者数」でホテル側に支払いをしたとすれば、それ自体が、政治団体としての安倍晋三後援会の「支出」であり、その後、実際に参加者から「一人5000円」で受領した参加費の総額が「収入」となる。この「支出」と「収入」の両方を、政治資金収支報告書に記載すべきであることは言うまでもない。

この場合、安倍晋三後援会の政治資金収支報告書への不記載ないし虚偽記入の政治資金規正法違反が成立することになる。

一流ホテルのニューオータニであれば、「代金を受領しないまま、ホテル名義の領収書を安倍事務所側に大量に渡すことはあり得ないだろうし、参加者数が確定しないのに、一人当たりの参加費を「5000円」として領収書を交付し、参加者が想定より少なかった場合のリスクをホテル側が負担するということも考え難い。

安倍首相自身が「説明」に用いた「ホテル名義の領収書」が、この「桜を見る会」の前夜祭をめぐる問題の事実解明の“鍵”となるかもしれない。

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服役後5年“不屈の闘志”で司法試験合格した佐藤真言氏を阻む「不条理の壁」

2011年、東京地検特捜部に「震災復興融資詐欺事件」で逮捕・起訴され、実刑判決を受けて服役した経営コンサルタントの佐藤真言氏が、今年の司法試験に合格した。5年前には服役していた佐藤氏が、予備試験を経て司法試験合格まで5年という「超短期合格」を果たすまでの経緯が、産経新聞の記事【元受刑者のコンサルが司法試験合格 「負け犬」から奮起】で紹介されている。

産経新聞記事では、「『負け犬』からの奮起」という言葉が使われているが、決して、佐藤氏は、「負け犬」などではない。経営コンサルタントとしての役割を果たし、社会に貢献していたのに、特捜部の全くの見立て違いの捜査によって逮捕され、引き返すことをしない検察によって、起訴された、まさに“被害者”だった。

佐藤氏を「悪質経営コンサル」と誤認した特捜部

きっかけとなったのは、2010年に、元銀行員の経営コンサルタントAが国税局の査察で摘発されたことだった。Aは、銀行に在職時に、大口の融資話をまとめてはリベートを吸い上げて巨額の利益を得、しかも、その融資先会社は殆ど営業実体がないにもかかわらず虚偽の決算報告書で優良企業のように見せかけていた。東京地検特捜部がAを詐欺で逮捕し、立件された事件だけでも被害額は15億円に上った。

この巨額詐欺事件の元銀行員Aと、「元銀行員の中小企業向け経営コンサルタント」というところだけ共通していた佐藤氏を、特捜部は「粉飾決算の指南役」として捜査の対象とした。佐藤氏を、Aと同様の「悪質コンサル」と見た特捜部は、佐藤氏の自宅を捜索、捜索に赴いた係官は、佐藤氏の住まいのあまりの質素さに驚く。札束も、隠し財産も全くない。佐藤氏への取調べが始まり、その説明から、特捜部の見立てが完全に誤っていたことが明らかになっていくが、特捜部は、引き返そうとはしなかった。

佐藤氏の顧客の会社のほとんどは、リーマンショックによる不況で経営が悪化し、倒産の危険にさらされている状況で、佐藤氏の経営再建に向けての助言・指導を受けていた。売上や在庫を若干水増しして、決算内容を債務超過に至らない最低限のレベルに維持しながら、銀行融資の返済を続けている会社ばかりだった。融資する金融機関の側も、厳しい経営状況を把握しており、決算書の内容を厳密に突き詰めることなく融資継続の是非を判断しているという状況だった。

検察改革で追い込まれた特捜部の「起死回生」のための事件

特捜部は、その顧客会社のうちの一社が「東日本大震災復興緊急保証制度」に基づく保証融資を受けていたことをとらえ、「悪徳コンサルタント会社が実質破綻の中小企業を利用して震災復興の保証制度を食い物にした」という構図で組み立てて、佐藤氏とその会社の社長を逮捕した。

この事件の立件には、当時、検察不祥事を受けた検察改革で縮小されようとしていた特捜部の組織としての思惑があった。2011年4月に「検察の再生に向けての取組み」が公表され、取調べの可視化の試行など様々な施策が打ち出され、その一環として、特捜部の特殊直告班(主として政界汚職事件など特捜部の独自捜査を担当する部門)が縮小し、一班体制とされることになっていた。それに伴い、廃止されることになった「特捜部特殊直告2班」が、「起死回生の一打」を狙って手掛けたのがこの事件であった。

顧客会社は、社長の突然の逮捕で、銀行融資がストップ、会社は破産に追い込まれ、取引先の零細業者も連鎖倒産した。詐欺に問われた信用協会の保証付き融資も、結果的に、返済不能となった。

会社の倒産は、検察の強制捜査のためだった。しかし、会社が倒産し、銀行融資が結果的に返済不能となってしまったため、融資した銀行は、検察官から「粉飾決算を見過ごしたのか」と言われ被害届を出すよう求められれば、出さざるを得ない。被害弁償ができない1億円を超える詐欺事件となれば、執行猶予はつかない。佐藤氏は、懲役2年4月の実刑判決を受けて、服役した。

佐藤氏は、「貸し渋り」「貸し剥がし」が横行する中小企業金融の実態に幻滅して大手銀行を退職、経営コンサルタントとして中小企業経営者に寄り添い、経営改善の支援に懸命の努力をしていた。

普通に聞けば、「銀行から融資名目で1億円を騙し取って実刑判決を受けた」というと、「詐欺師」であったかのように思うだろう。しかし、佐藤氏が詐欺罪に問われた事実は、それとは全く異なる。

佐藤氏は、経営コンサルタントとして苦しい経営状況の中小企業が、金融機関からの融資の継続によって経営を立て直すことに尽力してきた。「粉飾」も佐藤氏が指導して始めさせたわけではなく、決して「粉飾」を指南したわけではない。

金融機関から融資を騙し取る「融資詐欺」の「詐欺師」の典型は、美濃加茂市長事件の贈賄供述者だ。会社の実体もなく、売上も全くないのに、関係機関の代表者印等を偽造、受注証明書・契約書等の公文書・私文書を偽造して、多くの地方自治体・医療機関等から浄水装置を受注しているかのように装ったり、送金元の名義を偽って代金が入金されたように見せかけたりして、事業の実体がないのにあるように偽装して、金融機関から融資金を騙し取っていた。それが、典型的な犯罪としての「融資詐欺」であり、佐藤氏の事件の発端となった経営コンサルタントAの詐欺も同様だ。

佐藤氏の行為は、融資を受けた会社の会計の「紛飾」が否定できるわけではないので、関与が否定できなければ、形式的には詐欺罪が成立することになる。しかし、検察が中小企業の金融取引の実情をわきまえていれば、凡そ、詐欺罪で立件して起訴するようなことではないことはわかったはずだ。

佐藤氏の事件を取り上げた著書・ブログ

7年前、石塚健司氏の著書【四〇〇万企業が哭いている ドキュメント検察が会社を踏み潰した日】(講談社)で初めてこの事件のことを知り、懸命に中小企業の経営改善に取り組む経営者と、それを必死に支える経営コンサルタントという、2人の「ひたむきに生きている善良な市民」が東京地検特捜部の非道な捜査・起訴に踏みつぶされたことに、衝撃と憤りを覚えて書いたのが【「正義を失った検察」の脅威にさらされる「400万中小企業」】。

その後、2人と会って、じっくり話を聞き、改めて、特捜部という権力機関が、このような普通の市民に襲い掛かることの恐ろしさを、私自身の検事時代の経験も含めて書いたのが【特捜検察が「普通の市民」に牙をむくとき】だ。

その後、控訴審でも一審の実刑判決がそのまま維持され、上告したものの、絶望的な状況に追い込まれた佐藤氏自身が、自らの著書【粉飾】(毎日新聞社)を公刊した際に書いたのが【佐藤真言氏の著書『粉飾』で明らかになった「特捜OB大物弁護士」の正体】だ。佐藤氏の著書の中で明らかにされている「特捜OB大物弁護士」は、高額の私選弁護費用を請求しながら、佐藤氏の弁護人として行うべきであった主張を全く行わないどころか、無意味に300万円もの「贖罪寄附」を行わせるなど、最低の弁護活動であり、それが、佐藤氏を「実刑判決の確定」という最悪の事態に追い込むことになった。

私の検察問題への関与を変えた“佐藤氏事件の衝撃”

佐藤氏の事件の衝撃は、その後の私の検察問題への関与の仕方を変えることになった。

私は、2006年に弁護士登録をしたものの、仕事の中心は、組織のコンプライアンスに関するもので、講演や不祥事対応、第三者調査等が中心だった。登録後の数年間は、裁判所に行ったことすらなかった。検察の在り方は、以前から厳しく批判していたが、検察の実務経験を持つ有識者としての、外側からの評論がほとんどだった。大阪地検の証拠改ざん問題等の検察不祥事からの信頼回復のために法務省に設置された「検察の在り方検討会議」に委員として加わったのも、その延長上だった。

しかし、佐藤氏の事件を知り、その巻き添えで逮捕された顧客会社の社長の控訴審の弁護を受任し(執行猶予とはならなかったが、懲役2年4月から2年に減刑)、私は、「やはり弁護人として法廷で検察と戦うべきだ」と強く思うようになった。実際の刑事裁判のフィールドで、検察官と真剣勝負をすることで、初めて、検察の在り方に具体的な影響を与え、佐藤氏のような人を出さないようにすることにも貢献できると考えた。

それ以降、弁護人として戦ってきた事件が、ブログでも紹介してきた「美濃加茂市長事件」「青梅談合事件」「国立循環器病研究センター事件」「福田多宏氏法人税法違反事件」などだ。そういう意味で、佐藤氏の事件は、私の「検察権力との戦い」の原動力になった事件だといえる。

これらの事件に共通するのが、「検察官が判断を誤り、処罰すべきではない人間を処罰する方向に暴走し、引き返すことができない構図」であった。

夢に向かって懸命の努力を続ける佐藤氏に立ちはだかる「不条理の壁」

佐藤氏は、私と最初に会った時に、「刑務所に入ることになっても、出てきて10年たったら法曹資格がとれると聞いています。私のような目に遭わされる人が出ないように、弁護士になりたい。」と話していた。その佐藤氏は、服役後、その夢に向かって、懸命の努力を続け、今年9月、司法試験合格という快挙を成し遂げた。経営コンサルタントの仕事を続けながら、予備試験を2回目で合格、1回の司法試験で、一気に最終合格にこぎつけた。

「“謂れなき刑事事件”で苦しめられる人を弁護人として救いたい」という思いが原動力となった佐藤氏の不屈の闘志と集中力が、どれほど凄まじいものであったか。

しかし、産経記事でも書かれているように、佐藤氏は、司法試験の超短期合格という快挙を成し遂げたにもかかわらず、「禁錮以上の刑を受けた」という欠格事由のため、実際に法曹資格を得るのは容易ではない。刑を受け終わって10年経過すると刑が消滅するので、佐藤氏の場合、あと5年余りで形式的には要件を充たすことになる。しかし、法曹資格取得のためには司法研修所に入所する必要があるが、その入所に関しては明確な規定がなく、裁量に委ねられている。佐藤氏が実際に入所できるのが何時になるかはわからない。法務省に、今後のことを聞き行った際、担当官から「悪知恵を付けてまた詐欺をやるのか」というようなことを言われたそうだ。産経記事のツイッターでのコメントにも、一部のそのような趣旨のものがある。

私自身も関わった「検察の在り方検討会議」等による検察改革で追い込まれた特捜部は、中小企業を倒産の危機から救う経営コンサルタントの佐藤氏を、「悪質コンサル」と誤認して逮捕し、引き返すこともなく起訴し、佐藤氏は実刑判決を受けて服役した。その経験から、「『普通の市民』に牙をむく特捜部から市民を守る弁護士になりたい」と願う佐藤氏は、懸命の努力の末、司法試験合格という快挙を遂げた。ところが、その忌まわしい「懲役前科」が、今も、佐藤氏の前に立ちはだかっている。

まさに「不条理の壁」そのものである。

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関電第三者委は、法曹キャリア「てんこ盛り」の“透明な皿”

昨日(10月9日)、関西電力は、八木誠会長と岩根茂樹社長が辞任すること及び但木敬一弁護士(元検事総長)を委員長とする第三者委員会を設置したことを発表した。

多額の金品受領について「被害者的な言い訳」に終始し、続投を表明した10月2日の記者会見の時点で、辞任を表明するのが当然であり、辞任表明は、遅きに失したものだった。この一週間で関電という企業が失った「社会からの信頼」はあまりに大きい。

問題は、この日設置が発表された第三者委員会を、どう見るかである。

一言で言うと、現時点では、肯定も否定もできない。

まず、委員会のメンバーは、委員長の但木氏をはじめ、裁判所、弁護士界という法曹の世界のキャリアという面では「申し分のない人達」である。中立性・独立性や、私が【関電経営トップ「居座り」と「関西検察OB」との深い関係】で問題にしていた「関西検察 OBの世界」との関係性という面でも問題となる人は含まれていない。

しかし、76歳の但木氏をはじめ、いずれも高齢であることに加え、少なくとも、不祥事の事実調査という面で経験がある人はいない。

検事総長にも「現場系」の人(ロッキード事件で活躍した故吉永祐介氏が筆頭、最近では、大阪地検不祥事を受けて辞任した検事総長の後任として急遽検事総長となった笠間治雄氏が現場経験の豊富な検事総長だった。)と、「法務官僚系」の人とがいる(数的にはこちらのほうが多い)が、但木氏は、典型的な法務官僚系であり、現場での捜査・公判での経験は、任官後の2、3年だけで、ほとんどないに近い人だ。

検察不祥事を受けて設置された「検察の在り方検討会議」では、検察出身者の委員が二人選ばれたが、一人が、陸山会事件などで厳しく検察を批判していた私、もう一人が但木氏だった。

但木氏は、現場経験には乏しくても、頭脳明晰で理解力に優れ、かつ包容力がある人だ。検討会議の際も、会議外でいろいろ話をする機会が多かったし、その後も何回かお会いしているが、基本的にスタンスが異なる私の意見もよく聞いてくれる。そういう意味では、但木氏は、社会的重要性が極めて大きい今回の関電問題の第三者委員会の委員長に相応しい人物と言える。

しかし、問題は、この委員会の構成からは、誰が中心となって調査を実行し、事実を解明していくのか、どのような調査を行うのかが、全く見えないことだ。

但木氏自身は検事としての捜査経験がほとんどないし、奈良道博氏は、元日弁連会長であり弁護士としてのキャリアは申し分ないが、自ら調査を行った経験があるようには思えない。元東京地裁所長の貝阿彌誠氏も、民事裁判官だった人であり、自ら証拠収集をする調査を行った経験はほとんどないと思われる。

15人の弁護士による調査チームが編成されるとのことだが、その調査を総括するのが誰なのかが明らかにされていない。

そして、何より問題なのは、第三者委員会の調査という方法によって、今回の問題の事実解明が可能なのかということだ。

金品を受領した関電幹部の側の話だけを聞く「調査」であれば、既に1年以上前に行われ、「言い訳」を並べた調査報告書は、遅ればせながら、前回の10月2日の記者会見の際に公表されている。

真相に迫るためには、多額の金品を提供した森山栄治氏や、同氏が顧問を務めていた吉田開発の関係者から話を聞くことが不可欠だが、森山氏は既に死亡しており、吉田開発関係者を第三者委員会の聴取対象にするのかどうかも不明だ。

一般的には、第三者委員会の調査での聴取対象は、設置した企業等の内部者が中心だ。私が委員長を務めた九州電力第三者委員会では、やらせメールの発端となった佐賀県知事の発言に関して、佐賀県関係者も聴取対象にしたが、この場合は、九州電力と関係の深い自治体だったからこそ、協力を得ることができたのであり、今後も、関電との取引関係が続くとは思えない吉田開発側が、聴取に応じるかどうかもわからない。

これらの聴取ができないということになると、「違法ではない」との関電側の主張を崩せるかどうかについては、関電の原発関連工事の発注に関する独禁法違反などの成否がポイントとなる。しかし、この点は公共調達法制や、独禁法の専門知識がないと、関電側の言い分を崩すことは容易ではない。この分野に関しては、検察を含め法曹関係者に精通した人材が極めて少ないことも事実だ。調査チームの弁護士が、その点について十分な能力を持っているのか、法学者の中では公共調達法制のほとんど唯一の専門家である上智大学の楠茂樹教授のブログ記事【関西電力発注の原発関連建設工事:独禁法違反の成否は?】も参考にし、必要に応じ、楠教授による専門的知見によるサポートを受けることも検討すべきであろう。

いずれにせよ、今回の問題は、最終的な法的判断がどうなるかは別として、問題の性格上「犯罪的な実体を持った行為」であり、企業等の組織の不祥事に関して、責任追及や犯罪捜査とは離れた、原因究明・再発防止策の策定を目的とする第三者委員会による調査になじむのかどうかも疑問である。

今回公表された関電の第三者委員会は、緊急のオーダーを受けて、豪華な法曹キャリア「てんこ盛り」の“無色透明の皿”を出してきたというに等しく、これだけでは、この極めて根深い問題の真相解明、違法性の有無の判断ができるのか、全くわからない。

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日本郵政鈴木副社長「NHK暴力団発言」で露呈した「放送法コンプライアンス」の“無理解”

関西電力の岩根茂樹社長と八木誠会長が、2010年2月に、関電本社の役員会での講演で、私のコンプライアンス論を聞いてくれていた人達であるのに、彼らの金品受領問題に関する記者会見での言動が、残念ながら、全く理解できない、異様なものであったことは、一昨日の【関電経営トップ「居座り」と「関西検察OB」との深い関係】で述べた。今日(10月9日)の日経朝刊で、関電の会長・社長が辞任の方向と報じられているが、当然であり、遅きに失したというべきであろう。

コンプライアンスを通じて私が、過去に関わりを持った人の中に、もう一人「残念な人」がいる。6年以上にわたって日本郵政副社長を務め、「事実上の経営トップ」とも言われる鈴木康雄氏のことだ。

鈴木氏は、かんぽ生命における「保険不適切販売」の問題に関して、NHK側の対応について、「暴力団と一緒」「ばかじゃないの」などと発言したことで批判を浴びている。

私が、2009年10月に総務省顧問・コンプライアンス室長に就任した際、事務次官として、大臣室での顧問の辞令交付にも立ち会ったのが鈴木氏。翌2010年1月、総務省が「日本郵政ガバナンス検証委員会」を設置し、私が委員長に就任した際も事務次官は鈴木氏だった。そして、2014年に、西室泰三社長時代の日本郵政の役員会でコンプライアンス講演を行った際にも、副社長として出席していた。私のコンプライアンスの活動と関わりがあった人の一人である。

先週10月3日に、国会内で開かれた野党5党による合同ヒアリングに、「日本郵政ガバナンス検証委員会」の元委員長として出席した際、日本郵政側で出席していた鈴木氏と久しぶりに顔を合わせた。

そこでは、かんぽ生命の保険の不適切販売の問題に加えて、NHKへの日本郵政側の抗議の問題も取り上げられた。昨年4月に放送されたNHKの「クローズアップ現代+」が、かんぽ生命の販売に関する問題を取り上げ、続編の放送に向けた情報提供を求める動画を公式ツイッターに掲載し、日本郵政に取材に応じるよう求めていたが、日本郵政側が削除を要求し、応じなかったので、会長宛てにそれを要求した。それに対して、NHK側が、「会長は番組の編集に関与しない」と回答したことについて、日本郵政側が「ガバナンスの問題」として、NHKの最高意思決定機関である経営委員会に抗議し、NHKは予定されていた続編の放送を延期、同11月にはNHK側が会長名の“謝罪文書”を渡し、公式ツイッター上の動画も削除された。

一連の対応が、日本郵政側からの「圧力」に屈したと批判を受けていた。このNHKへの抗議の中心となったのが、副社長の鈴木氏だ。

野党合同ヒアリングでの日本郵政鈴木副社長の発言

ヒアリングでは、ちょうど私の目の前の席に鈴木氏が座っていた。

NHK側とのバトルに加えて、野党議員からの追及を直接受ける状況に気が立っているせいか、私の顔を見ても無表情で、不愉快そうだった。

質問に答えて、鈴木氏が説明した事実経過は、以下のとおりであった。

昨年4月の放送の前に取材を受けて、執行役員が取材に答えた。その後、第二弾の放送をするにあたって、公式ツイッターのショート動画で、全く事実の適示がなくて、「元本詐欺」、「詐欺まがい」、「押売りなど」などと書いていた。貶めるようなことをいうのはやめてくれと抗議したところ、番組プロデューサーが「会長は番組内容に関知しない」と発言したので、明らかに放送法違反だと考えて、NHKの編集体制をしっかりしろと会長宛てに抗議文を送ったが、その後何の返答もないので、本来NHKの監督をするのは経営委員会なので、経営委員会に判断を求めたところ、やっとNHKの執行部から返答があった。

ヒアリング出席者のNHKの専務理事や経営委員会委員長代行の説明によると、日本郵政側の抗議に対して、番組ディレクターが「会長は番組内容に関知しない」と発言したことや、日本郵政側の抗議を長期間放置したことを理由に、経営委員会が、会長に厳重注意したとのことであった。

野党議員からは、鈴木氏に、

日本郵政の中に、これだけ強い調子でNHKに対して物を言える人はいない、明らかに元放送行政に関わり、後に事務次官を務め、指導監督をしてきた自負によるもの。一線を越えた行動ではないか。

との質問があった。

それに対して、鈴木氏は、

視聴者は、番組に対して、言われっぱなしで構わないというんじゃない。そのために訂正放送制度というのがあるんじゃないか。放送されたものがすべて正しい。放送しようとしていることがすべて正しいということじゃないと思います。

と反論していた。

日本郵政のNHKへの抗議における「主張」

鈴木氏が、ヒアリングで述べたことからすると、日本郵政側のNHKへの抗議における主張は、以下のようなもののようだ。

(1) 放送事業者は、組織として編成方針を決定し、その方針にしたがって、番組が作成されなければならない

(2) 視聴者側は、放送事業者に、真実ではない放送を行ったとして請求した場合には、放送事業者が調査し、真実ではないことが判明した場合には訂正放送をしなければならない

(3) だから、番組の編集に関して問題があると視聴者側から指摘された場合は、組織のトップの責任において対応し、是正を図らなければならない

放送法は放送事業者に(1)~(3)を義務づけているので、日本郵政の抗議に対して、NHKの番組プロデューサーが、「会長は編集に関与しない」と言ったこと、抗議を長期間放置したことが、放送法違反であり、それに対して是正措置をとらなかった会長には重大な義務の懈怠がある。

NHKの経営委員会は、上記のような日本郵政側の主張が正当だとして、会長に厳重注意を行ったということのようだ。

日本郵政の「放送法コンプライアンス」の無理解

しかし、日本郵政側の抗議の内容や、NHKとのやり取りの詳細の資料は不明だが、少なくとも、上記のように、日本郵政側が、放送法を盾にとってNHKに抗議し、公式ツイッター上の動画を削除までさせたことが、放送法の趣旨に沿うものとは思えない。鈴木氏は、「放送法コンプライアンス」をはき違えており、そこには、「根本的な無理解」があるのではないか。

第一に、組織として決定する「編成方針」というのは、どのような目的で、どのような番組を作成していくのかという基本的な番組編集方針のことであり、その方針の決定を組織として行うに当たって、NHKの経営トップである会長が関与するのは当然である。しかし、一方で、放送法3条は、「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。」と定めているのであり、個々の番組の内容について外部者から干渉されることを禁じている。組織のトップに対する外部からの働き掛けで番組内容が影響を受けることは、3条の規定に反するものであり、放送事業者としては、そのような「干渉」を受けないようにすることが求められる。

第二に、放送法9条の訂正放送に関する規定は、既に放送された番組について、その内容が真実ではないとして権利の侵害を受けた側から請求があった場合に関するものであり、番組を編集する過程で、真実ではない放送が行われようとしているとして、外部から、それを止めるように請求することを認める規定ではない。

したがって、今回の日本郵政からの抗議のように、昨年4月に放送した番組に続く「第二弾」の編集の過程で、その番組の準備としての取材に対して、取材される側が、NHKの会長に直接是正を求めた場合、個々の番組の編集のための取材の過程に会長が介入することは、放送法の趣旨に反するものであり、そこで放送法9条の訂正放送の制度を持ち出すのは的外れだ。

また、鈴木氏は、公式ツイッター上の動画の削除を求めたことも、「訂正放送制度」によって正当化されるかのように言っているが、公式ツイッター上の「動画」は、NHKが行う「放送」ではないので、そもそも放送法9条による訂正の対象ではない。

日本郵政の鈴木副社長が中心となり、放送法を盾にとってNHKへの要求を繰り返したことの方が、放送法の趣旨に反していると言うべきであろう。

鈴木氏の「NHK暴力団」発言

ところが、鈴木氏は、このヒアリングの終了直後、記者団に対して、

取材を受けてくれるなら動画を消す。そんなことを言っているやつの話を聞けるか。それじゃ暴力団と一緒でしょ。殴っておいて、これ以上殴ってほしくないならもうやめてやる、俺の言うことを聞けって。ばかじゃないの。

などと発言したと報じられている(朝日など)。

NHK側は、日本郵政側に「取材を受けてくれるなら動画を消す」と言ったことを否定しており、前提事実にも疑義があるが、それ以前の問題として、鈴木氏が放送法を盾にとってNHK側に要求していること自体が、「因縁」に近いものであり、それによって動画を削除させたことの方が、よほど「暴力団的」なやり方である。

総務省で放送法を所管する立場での職務経験が長く、「放送法コンプライアンス」をわきまえているはずの鈴木氏が、それに根本的に反する行動をとり続けていることは、由々しき問題である。

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関電経営トップはなぜ居座り続けるのか~「関西検察OB」との”深い関係”

組織の経営トップないし、それに近い立場の人間は、その組織の運営に極めて大きな影響力を持つ。そういう立場の人間が、信頼され、その地位に相応しい責任感と倫理観を持って、職務を行うことで、組織の健全な運営が可能になる。

日本社会を揺るがす極めて重大なかつ深刻な不祥事となっている関西電力幹部の金品受領問題。先週、10月2日に行われた2回目の記者会見で、目の当たりにした岩根茂樹社長と八木誠会長は、かつて私がコンプライアンス講演で直接の接点のあった人達だった。

しかし、会見で見た彼らの言動は、残念ながら、全く理解できないどころか、異様なものだった。彼らが関電の経営トップの地位にとどまっていること自体が、関電という企業にとっても、日本社会にとっても、極めて有害であり、到底許容できないものである。

しかし、岩根社長も八木会長も、それ以外に多額の金品を受領した関電幹部も、辞任する気配は全くない。

なぜ、このようなことがまかり通っているのだろうか。

その背景にある、関西経済界と関西検察OBとの「深い関係」に注目する必要がある。

「異様な空間」だった関電記者会見

10月2日、私は、福田多宏氏の法人税法違反事件の控訴審判決を一週間後に控えて、午後2時から、大阪司法クラブで記者会見に臨んだ(【福田多宏氏控訴審判決で問われる「刑事司法」「検察改革」の現状】)。ちょうど、その場に、ここのところ、インタビュー記事【郷原弁護士が読み解く「かんぽ不適切営業の本質」】など継続的にコメントをしている東洋経済のデスクが来ていた。40分程で会見が終了した後、同デスクから、「近くで行われている関電の記者会見に向かうので、同行して、関電の会見についてコメントしてもらえないか」と依頼され、関電の会見場に向かった。東洋経済のコメンテーターとして受付を済ませ、会見場に入った。

最前列では、社長・会長ら関電幹部が会見に臨んでおり、広いホールはマスコミ関係者で埋め尽くされていたが、僅かに残っていた空席をみつけて着席し、2時50分頃から約1時間半、質疑応答を聞いた。

関電金品受領問題、記者会見のポイント~「会社役員収賄罪」としての“犯罪性”に迫れるか】の末尾でも述べたように、私自身、かつては、電力会社のコンプライアンスには深く関わっており、関西電力からもコンプライアンスに関して依頼を受けることが何回かあった。社内のコンプライアンス講演も3回行い、2010年2月には、関電本社の役員会での講演も行った(その後2011年に九州電力第三者委員会の委員長を務め、報告書に九電経営幹部が反発して対立が表面化した後は、電力会社からの私への依頼は全くなくなった。)。

当時、八木氏は取締役副社長、岩根氏は常務取締役で、私が講演を行った際も、役員会に出席していた。その講演で、私は、

コンプライアンスは、「法令遵守」ではなく「社会の要請に応えること」

という一般論に加え、当時、電気事業・保険事業・放送事業等の公益的事業で相次いでいた企業不祥事に関して、

公益的事業においては、『法令遵守の範囲内で自由競争に委ねる』という単純な考え方は適合しない。多数の重要な社会的要請の実現に取り組み社会からの信頼を確保することが不可欠

ということを強調した。岩根氏と八木氏を含む役員会のメンバーは、誰しもが私の話に真剣に聞き入ってくれていた。

ところが、10月2日の関電の記者会見で目の当たりにした岩根社長、八木会長の発言は、関西財界を代表する企業の経営トップとは到底思えないものだった。

配布された会見資料の中に、昨年9月の「調査委員会報告書」が含まれていた。その委員長の名前に「小林敬弁護士」と書かれているのにも驚いたが、問題は、その中身だ。金品の受領も、

原発立地地域に強大な影響力を持つ高浜町元助役森山栄治氏の度重なる恫喝のために受領したもので、関係を損ねないように「機会をうかがいながら返還しようとしていた」

などと、関電側は、被害者のように書かれている。

そして、そのような報告書の内容についての質問に、岩根社長と八木会長が答えている。

記者から、「現金、商品券、米ドル、金貨とか、おびただしい種類の金額のものを、この人はどこかからお金を持ってきているのか、どのように認識されていたんでしょうか。」という当然の質問があった。

それに対する答えは、

そこの出資元につきましては、考えのおよびつかぬところでございます。(岩根社長)

森山氏が私どもに持ってきた金銭の出どころがどこにあるかは分からない。従って、分からないということであります。(八木会長)

というものだった。

森山氏が持ってきている夥しい額の現金や金貨の原資は「全くわからない」というのである。森山御殿の庭から、金がザックザックと湧き出てくるとでも言いたいのだろうか。

そんな言い訳が通らないことは小学生でもわかる。

さらに、記者から「還流かどうかはともかくとして、家庭向けの電気料金の値上げをして顧客から負担を強いているという状況で、関電の幹部が数千万単位の金品を、何年間にもわたって受け取っていた。国税も、預かったんではなく受け取ったという認定をしていることついての受け止めはどうでしょうか。」と聞かれると、

われわれの認識としてはお預かりしているものでございまして、別に管理をしているものでございまして、必ず返すというものと認識してございます。まだ残っている部分も含めまして、必ずご遺族のご理解を得て全額返して、こうしたことについての影響がないようにやってまいりたい。(岩根社長)

利用者に電気料金の値上げの負担をかけている一方で、多額の金が、関電幹部の下に還流してきていたという事実をどう受け止めるか、と聞かれているのである。森山氏の遺族に返したところで、関電の利益にはならないし、電気利用者にも還元されない。

岩根社長、八木会長は、そのような、まともな社会常識を備えていればあり得ないような「言い訳」を、悪びれることなく続けている。

その様子を見て、私は、眩暈がしそうだった。これが、9年前に、私のコンプライアンス講演を聞いてくれていた関電役員なのだろうか。

しかも、記者たちも、質問者も多く、質問事項も多いので、一つの質問への答が納得できなくても、さらに質問をすることはほとんどない。会見場では、あたかも、そのような答えが、まかり通っているように思える。

まさに「異様な空間」だった。こういう人たちが、関電の経営トップとして「君臨」している。そして、その会社が、福島原発事故のように地域社会を崩壊させてしまう、取り返しのつかない重大事故を起こしかねない「原発」の運営を行っている。私にとっては、想像したくもない、そして、我々の社会において決して容認することができない事実だった。

「不適切だが違法ではない」との考え方は通用しない

岩根社長は、今回の問題について、「不適切だが違法ではない」ということを強調した。確かに、森山栄治氏や吉田開発との関係も、法令や社内規則のどの規定に、どのように違反するかと言えば、今のところ、明確ではない。

しかし、原発を運営する事業者にとっての「社会的要請」との関係からは、全く容認できるものではなかった。

かつて、原発の安全神話が多くの人に信じられていた時代であれば、地元の有力者に金をばらまいて原発の建設や稼働への了解を得るというやり方も、「エネルギーの確保」という社会の要請に応えるという大義名分のために、事実上、容認されてきた。しかし、福島原発事故で「原発安全神話」が崩壊し、原発を運営する電力会社の「信頼性」が重要となる中で、原発立地地域に不透明な金をばらまくことも、社会が認めるものではなくなった。ましてや、その資金の一部が電力会社幹部に還流していたなどという今回の問題ほど、電力会社に対する信頼を崩壊させるものはない。「社会的要請に応える」というコンプライアンスの観点からは、最低・最悪の行為である。

9年前、役員会での私のコンプライアンス講演を聞いてくれていた人たちであれば、原発を運営する電力会社幹部が引き起こした今回の問題について、「不適切だが違法ではない」という「言い訳」が通用しないことがわからないはずはない。

「違法ではない」と言い切れるのはなぜか

それなのに、関電経営陣は、辞任する姿勢を全く見せない。

そこには、自分達の行為が、「司法判断」や「第三者委員会の判断」で「犯罪」や「法令違反」とされることがないという見通しがあるからだろう。

関電の取引先事業者の関係者から、多額の金銭を受領していた事実が明らかになっているのであるから、通常であれば、何らかの形で違法の判断を受け、或いは、刑事事件で逮捕・起訴される可能性を認識するはずだ。しかし、関電の経営幹部の態度からは、自分の行為が違法とされるリスクを認識しているようには思えない。

確かに、これまでのブログ記事でも述べているように、「会社役員の収賄罪」(会社法967条)には、「不正の請託を受け」という要件のハードルがある。また、山口利昭弁護士が【関西電力裏金受領事件-やっぱり「お天道様は見ている」】で指摘する、「経済関係罰則の整備に関する法律」という古い法律の収賄罪の適用については、「電気事業、瓦斯事業其ノ他其ノ性質上当然ニ独占ト為ルベキ事業ヲ営ミ」という文言との関係で、電力自由化後の電力会社役職員に適用されるのかという問題がある。

しかし、これらの罰則が、現在も法的に有効なものであることに疑いはないのであり、その適用の可否をギリギリまで判断すべく、真相解明のための捜査に速やかに着手するのが、検察官として当然の責務だ。また、関電の高浜原発関連の工事発注における競争制限行為に関連して、公取委と連携して独禁法違反による摘発を行うことを検討する余地もある。

しかし、「大阪地検特捜部」には、そのような動きは全く見られない。

そして、関電幹部の姿勢は、そのことを見通しているようにも思える。その見通しの背景にあるのは、関電を中心とする関西経済界と関西検察OBとの「深い関係」であろう。

なぜ調査委員会委員長が「(元大阪地検検事正)小林敬弁護士」なのか

今回報告書が公表された調査委員会の委員長が、元大阪地検検事正の小林敬弁護士であることが明らかになった。記者会見での岩根社長の説明によると、小林氏は、かねてから関電のコンプライアンス委員会の委員を務めているとのことだ。

10月5日放送のTBS「報道特集」で取り上げられた関電の内部事情に精通した人物によるとみられる「内部告発文書」によれば、

「コンプライアンス委員会が隠蔽のための作戦会議と化している」

とのことであり、その「隠蔽のための作戦会議」に加わっていた委員会のメンバーが小林氏ということになる。

小林氏は、大阪地検検事正として、村木事件の証拠品のFDデータの改ざん問題について、当時の大坪特捜部長らから、「過失によるデータ改変」と報告されたが、何の措置もとらなかったことの責任を問われ、減給の懲戒処分を受けて辞任した人物だ。

大坪氏・佐賀氏らが犯人隠避で逮捕・起訴され有罪判決を受けて法曹資格を失ったのに対して、小林氏は、懲戒処分を受けただけだった。それは、大坪氏らから「過失によるデータ改変」と報告されたために過失としか認識しなかった、という理由によるものだった。

しかし、2013年9月25日に大阪高裁で言い渡された大坪氏らの控訴審判決は、

小林及び玉井は、被告人両名の報告が、前田の行為により過誤による改変が生じたとの内容にとどまったとしても、大阪地検の最高幹部として、重大事件における最重要の証拠であるデータに手を加えたという重大な不祥事との認識を持って、被告人両名に対し、真相の解明を急ぐなど迅速な対応を指示するとともに、上級庁にも直ちに報告すべきであった。

と判示し、「過失によるデータ改変」を見過ごした小林検事正と玉井次席検事の責任を厳しく指摘している。

大阪高裁判決は大坪氏・佐賀氏からの報告で、少なくとも「過失によるデータ改変」との認識はあった小林検事正が、その事実を上級庁に報告しなかったことについて、重大な責任があると指摘しているのである。

しかし、小林氏の対応は、検察組織にとっては好都合だったと言える。「過失によるデータ改変」が仮に、報告されたとしても、高検・最高検が自主的にその事実を公表したとは思えない。結局のところ、組織として「隠蔽」は変わらなかったと考えられるのであるから、小林検事正が、「過失によるデータ改変」を上級庁に報告せずに「隠蔽」したことは、不正行為についての認識を大阪地検内部にとどめ、大阪高検・最高検に責任を拡散させずにとどめ、当時の高検・最高検幹部を救った功績とみることもできる。

当時、特捜部長・副部長だった大坪氏・佐賀氏は、犯人隠避罪で有罪が確定して法曹資格を失い、次席検事だった玉井氏は、大坪氏らに責任を押し付けたことで心労がたたったのか、辞任後まもなく急死した。つまり、前代未聞の検察不祥事となった「証拠改ざん」の問題について上司として責任を問われながら法曹資格を維持したのは、小林氏だけである。

小林氏は、2011年に弁護士登録し、その2年後、上記の大阪高裁判決で、厳しく「隠蔽」の責任を指摘された直後の2013年11月に、阪急阪神ホテルズの「食材偽装改ざん問題」の第三者委員会の委員長に就任した。また、その後、積水ハウスの社外監査役、山陽特殊製鋼の社外取締役等も務めた。そして、関西電力のコンプライアンス委員会の委員にも就任していたことが今回明らかになった。このようなポストへの就任は、何らかの「後ろ盾」なくして実現したとは思えない。

検察が捜査に動かないことの背景に「関西財界と関西検察OBとの深い関係」

関西では、検察の大物OBと、経済界の関係が深いと言われている。その中心に位置するのが、「関西検察のドン」と称される元検事総長土肥孝治氏だ。土肥氏は、長年にわたって関西電力の社外監査役を務め、今年6月の株主総会で退任した、その土肥氏の後任として新たに社外監査役に就任したのが、元大阪高検検事長の佐々木茂夫弁護士。今年で75歳、後期高齢者が新任社外監査役というのは、極めて異例である。

10月5日付け朝日新聞によれば、調査委員会報告書の内容は、昨年10月の時点で、監査役会に報告されていたとのことだが、その監査役には土肥元検事総長も含まれていた。また、今年の春頃から始まった「金品受領問題」の内部告発の動きは、5月頃には、表面化の危険性が高まっていた。その対応が関電経営陣にとって重大な問題であったことと、敢えて超高齢の関西検察大物OBを監査役に選任したことは無関係とは思えない。

証拠改ざん問題で引責辞任した小林氏は、社会的には、検察幹部として失格という評価を受けて然るべきだが、関西検察OBからは「評価」を受けたのであろう。小林氏は、その後、多くのポストの配分を受け、関電のコンプライアンス委員会の委員にも就任した。そして、今回の問題では、調査委員会の委員長を務め、会長・社長を含む会社幹部が3億円を超える多額の金品を受領している事実を確認しながら、ただちに公表するという、公益事業を担う電力会社として「当然のコンプライアンス対応」を行うよう意見を述べることもなく、「隠蔽」に加担した。

証拠改ざん問題の「隠蔽」にも、問題意識をもって取り組まなかった小林氏であるが故の対応とみる余地もあるが、個人の意思を超えた、関西検察OBの意向が働いていた可能性もある。

関西検察の大物OBから、関電の問題で捜査に着手しないよう強い要請を受けているとすれば、大阪高検・大阪地検等の関西検察の幹部にとって、自らの退官後の処遇に与えるリスクを考えれば、関電への捜査を容認することは困難であろう。大阪地検特捜部の現場にも、そういう上層部の意向を十分に忖度する「賢明な検事達」が集まっているのであろう。

こうなると、最高検が主導性を発揮し、東京の特捜部等が捜査に乗り出すしかないが、そもそも、検察全体が劣化し、やるべきことはやらず、余計なことに無駄な労力を費やそうとしている状況(直近では、【青梅談合事件・一審無罪判決に控訴した”過ちて改めざる”検察】)では、それも到底望めないだろう。

そうなると、今後関電が設置するとしている「第三者委員会」がどのような委員構成で行われるかが、極めて大きな意味を持つ。

しかし、岩根社長は、記者会見で、第三者委員会の委員の人選について聞かれ、

複数の先生方からの推薦を頂いて、第三者委員会で完全中立だと相当なマンパワーもいると思うので、しっかりした弁護士事務所とか経験のある人とか、そういうことを踏まえて選定する。

と答えていた。

この「先生方」が検察大物OBを含み、その推薦する弁護士を委員に選任し、所属する大手弁護士事務所が調査補助に入るということであれば、第三者委員会の調査結果にも、全く期待できないことは明らかだ。

関西電力が行う第三者委員会の委員の選任のプロセス・調査体制の構築に注目する必要がある。しがらみに影響されることなく、真相を解明し、問題の本質に迫ることができる第三者委員会が設置できるかどうか、極めて重要な局面だと言える。

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青梅談合事件・一審無罪判決に控訴した”過ちて改めざる”検察

9月20日、東京地裁立川支部で、酒井政修氏に対して言い渡された「青梅談合事件」の無罪判決に対して、控訴期限の昨日、検察官は控訴を行った。

マスコミから得ていた情報でも、無罪判決を覆すのは困難だとして、事件を担当していた地検立川支部を含め、現場の判断は控訴に消極とのことであり、よもや、控訴はあり得ないだろうと考えていた。検察の最終判断は、事件の内容、証拠関係、一審での公判経過を無視し、単に、一審無罪判決を確定させたくないからの控訴としか思えない。

警視庁捜査2課が、青梅市役所への捜索を含む大々的な強制捜査を行った事件で、一審で全面無罪の判決というのは、記憶にない。しかも、この事件は、第1回公判で、被告人が公訴事実を全面的に認め、検察官請求証拠が全て採用され、被告人が保釈された後に、全面無罪を主張したもので、そのような経過で全面無罪になったケースは過去には殆ど例がない。まさに「前代未聞の無罪判決」である(【青梅談合事件、「”人質司法”の常識」を覆すことができるか~9月20日午後、東京地裁立川支部で判決~】

しかし、もともと、全く「無理筋」の談合事件を、警視庁捜査二課が酒井氏を逮捕し、検察官が起訴し、「人質司法」のプレッシャーで、被告人の無罪主張を封じ込もうとした事件だったのである。

酒井氏は、採算が悪い工事で受注しようとする業者がなく、入札不調の可能性があったことから、工事遅延で発注者の青梅市に迷惑をかけることを懸念し、仕方なく工事を受注することにしたものであり、「複数の業者の受注希望を話合いで調整して絞り込んで、叩き合いで受注価格が下がらないようにする」という「犯罪としての談合」とは全く異なるものだった。

刑法は、「公正な価格を害する目的」と「不正の利益を得る目的」で談合した場合のみを談合罪として処罰の対象としている。このいずれかの目的があることが、まさに「犯罪性を根拠づける要素」であるのに、本件では、それがないのである。談合罪の刑事事件としては、全くの「無理筋」であることは明らかな事件だった。

そのような事件であったが、一審裁判所は、検察官に十分過ぎるほどの主張・立証の機会を与え、慎重な審理の末、無罪という正当な判断に至ったものである。

この事件を判決前から取材していたジャーナリストの江川紹子氏も、【無罪・青梅談合事件から見える日本の刑事司法の今】で、この事件に表れた刑事司法に関する問題を指摘するとともに、法廷で直に証言を聞いて判断しようとした今回の裁判所の姿勢を評価している。

一審無罪判決に対する検察官控訴は、日本の刑事裁判では認められているが、米国のように禁止する国も多い。憲法39条の「何人も、既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない」との規定に反し違憲だとする学説も有力であり、日本弁護士連合会も、刑事裁判の第一審で無罪判決が出た場合に「検察官の控訴」を禁止する刑事訴訟法の改正を求めている。検察の実務においても、検察官控訴は、一審判決に明らかな事実誤認がある場合など、控訴審で覆せる可能性が高い場合に限って行うという抑制的な運用が行われてきた。

本件での検察官控訴は、そのような一般的な実務からもかけ離れたものであり、検察や警察の面子を維持することを目的とする控訴権の「私物化」であり、到底許されるものではないことは、以下に述べる、警察捜査の経過、検察官の「公正な価格を害する目的」についての主張・立証の経過などから、明らかだ。

 

「警察の無理筋逮捕」を容認し、酒井氏を勾留・起訴した検察

昨年5月、この事件の捜査に着手したのは警視庁捜査二課である。汚職・経済犯罪の捜査部門としての捜査二課では、全国の都道府県警察の最上位に位置する組織だ。当初の狙いは、地元建設業者と青梅市幹部との汚職や入札不正の摘発だった。酒井氏を任意聴取して、その情報を引き出そうとしていた。捜査官は、酒井氏には「協力してくれれば悪いようにはしない」と繰り返し言っていた。

ところが、1か月以上任意聴取を続けたものの、狙い通りのネタは何も出てこなかった。酒井氏の任意聴取は中断し、何事もなく終わったものと思っていた昨年7月5日、酒井氏の自宅は、早朝から、夥しい数の報道陣に取り囲まれた。酒井氏は、一体何が起きているのかわからず、取調べ担当だった捜査官に電話した。「とにかく、車でそこから抜け出して来てくれ」と言われたので、妹の運転する車で立川署に向かい、捜査官と合流、その後、警視庁立川分室に連れていかれ、そこで逮捕された。「どうして俺が逮捕なんだ」と捜査官に食い下がると、「裁判所で令状が出た」とのこと。あたかも裁判所が逮捕すべきと判断して命令したかのような言い方だった。

そのような経過からしても、捜査の現場の判断ではなく、警察組織の上位者の判断で、酒井氏逮捕の判断が行われたものと考えられる。コストをかけて捜査した以上、当初の目論見が「見込み違い」だったとわかっても、潔く撤退しようとしないということなのであれば、「警察の独善」以外の何物でもない。

それ以上に問題なのは、無理筋の事件の捜査で逮捕された酒井氏の身柄送致を受けた東京地検立川支部の対応だ。このような事件では、逮捕前に検察に事前相談があり、東京地検の上位者まで了解した上で、警察にゴーサインを出したはずだ。

この事件は、談合罪の主観的要件であり、犯罪性の根拠と言える「公正な価格を害する目的」がない典型事例だ。その問題を指摘し、逮捕を思いとどまらせるのが検察官の役割だ。

ところが、東京地検は、酒井氏の逮捕を了承し、全面否認のまま勾留し、他の指名業者に対して、逮捕・起訴のプレッシャーをかけ、都合のよいストーリーどおりの供述調書をとって形だけ証拠を整え、酒井氏を起訴した。

 

「公正な価格を害する目的」についての検察立証の迷走

第1回公判で、被告人の酒井氏が公訴事実を全面的に認め、検察官請求証拠がすべて同意証拠として採用された後、私が弁護人を受任した。「公正な価格を害する目的」について、検察官は、冒頭陳述では、「青梅市が発注した同種工事の平均落札率(入札価格を予定価格で割った数値)は約89.79パーセントであり、本件工事の入札適正価格は約8744万6481円となるところ、酒井組による本件工事の落札率は99.6パーセントであった。」と主張していたが、その根拠となる証拠は全くなかった。

弁護人となって最初の10月10日の第2回公判で、酒井氏は、罪状認否を変更、全面無罪主張に転じた。その後、指名業者の証人尋問が行われるなどして弁護側立証に概ね目途がついたのが、12月10日の第5回公判だった。

公判後の裁判所、検察官、弁護人の3者打合せが行われ、裁判所から、「12月25日の第6回公判で検察官、弁護人双方の立証を終了し、1月の論告弁論で結審、3月中旬に判決」という予定が示された。

その時点で、検察官は、裁判所から、「公正な価格を害する目的」があったと主張する根拠と理論構成を次回期日までに明らかにするよう求められ、期日の直前に、以下のような主張を行う書面を提出した。

被告人は、本件工事の受注によって利益を得るとともに、酒井組の東京都における格付けを維持するなどの目的から、本件工事を受注したいという積極的な意思を有していた。酒井組が本件工事を受注する蓋然性を高めるためには、仮に談合をしなければ、より低い価格で応札せざるを得なかったはずであり、本件談合は、酒井組自身が高い価格で応札することを可能にするためになされたものであるから、公正な価格を害する目的があったものと思料する。

検察官は、被告人が本件工事に対して「積極的受注意思」があったことを立証することで、「談合がなかった場合の想定入札価格」が「実際の落札価格」を下回っていたことを立証しようとし、立証事項として、(1)本件工事の受注で利益を得ようしていた、(2)東京都の格付けを維持する目的があった、(3)酒井組の経営状況、工事受注状況、(4)本件工事と同種の擁壁工事の平均落札率の比較、の4項目を示してきた。そして、その立証準備のために3月末までの期間を要するというのである。

しかし、本件においては、受注の経緯からしても、入札価格決定の経緯からしても、被告人の「積極的受注意思」が立証できるとは考えられなかった。

(1)~(4)の事項の立証では、酒井氏の「積極的受注意思」も、「公正な価格を害する目的」も立証できないことは明らかであり、検察官の立証計画は、審理を不当に遅延させるものでしかなかった。

(1)については、酒井氏が本件工事で利益が見込めないことを覚悟の上で受注したことは、受注に反対した工事部長の証言等から明白だった。また、(2)の東京都の格付けについては、確かに、酒井組は、東京都の格付けが数年前までCクラスだったのがBクラスに上がっており、大型工事の受注がなければ、Cクラスに下がる可能性があった。しかし、酒井組は、完成工事高3億円程度で小規模企業で、それまでの東京都の受注工事の殆どがD等級で、B,C等級の受注はほとんどなかった。Cクラスであれば、直近の等級のD等級の工事の受注可能だが、Cクラスの格付けのままではD等級が受注できず、かえって不利だった。Bクラスを維持することは酒井組にとって何らメリットがなく、東京都の格付け維持は本件工事の受注の動機にはなりえなかった。(3)は、酒井組の業績が赤字だったことを、大型の本件工事の受注意欲に結び付けようということのようだが、酒井組の経営は概ね順調であり、本件工事を受注し赤字となったことで経営上大きなマイナスが生じたもので、検察官の主張とは真逆であった。(4)は、擁壁工事というのが、手間のかかる困難な工事で利益が見込めない工事であることは、複数の指名業者が証言しており、その平均落札率をとってみても、本件工事の酒井組の落札率を大きく下回るものになるとは思えなかった。

酒井氏が談合罪で逮捕されたため、次女が酒井組の社長を引き継いで、事業を継続していたが、青梅市から1年間の指名停止、東京都からも9か月の指名停止となっているため、公共工事の受注は全くなかった。他の業者からの下請けや民間工事受注で何とか凌いでいたが、経営はぎりぎりだった。全面無罪を争っている刑事事件の結論が少しでも早く出ることに望みを託し、何とか会社を維持するため懸命の努力を続けていた。

弁護人からは、検察官の補充立証にそのような期間をかけることは全く無駄であることを指摘し、早期結審を求めた。しかし、裁判所も、検察官が立証の意思を示している以上、機会を与えざるを得なかった。

検察官の「無責任極まりない証拠請求」に唖然

公判担当検察官は、当初は、若手のN検事一人だったが、証人尋問が始まる頃から、先輩格のT検事が加わり、二人となった。検察官は、3月25日付けで「『公正な価格を害する目的』に関する検察官の主張・立証」と題する書面を提出し、証拠請求をしてきたが、その内容は唖然とするものだった。

(1)については、酒井組の会計帳簿の分析結果の警察官の報告書、(2)については、東京都の関係部局への格付け制度の照会結果、(3)については、酒井組の取引金融機関からの照会文書、(4)については、「建通新聞」という業界紙の記事を検索しただけだった。

弁護人からは、請求書証はすべて「関連性なし」で不同意にし、検察官の証拠請求に全く意味がないことを指摘する書面を提出した。

ところが、検察官は、弁護人の書面に対して何の反論もしないまま、4月9日付けで、(1)~(4)の文書等の作成者(東京都職員、金融機関担当者、建通新聞を検索した警察官等)証人尋問請求をしてきた。

警察官以外で、検察官に証人尋問請求されている人達に、事前に検察官から話があったかどうかを確認してみたが、事情も聴かれておらず、証人尋問の話も全く聞いていないとのことだった。全く無責任極まりない証人尋問請求に抗議しようと地検立川支部に電話をかけたところ、2人の公判立会検事は4月10日付けで異動になっていた。異動先は、N検事は「弁護士職務経験」で大手法律事務所に、T検事は名古屋地検とのことだった。

通常、検察官が証人尋問を請求するのであれば、供述内容を確認し、それが立証事項にどのように関連するのかを検討した上で、請求する。ところが、「関連性がない」との弁護人の意見も無視し、何の確認も行わないまま、証人尋問請求をして、翌日には異動でいなくなったのである。まさに、「やり逃げ」である。納税者の負担で「公益の代表者」として職務を行う立場の検察官として凡そ考えられないやり方だ。

後任のK検事が公判を引き継いだが、記録を読んで事案の内容を理解するのにかなりの期間がかかる。結局、次の打合せが行われたのが4月末、公判期日が開かれたのは5月17日だった。その間も、酒井組に対しては青梅市や東京都の指名停止によって、公共工事は全く受注できず、酒井組の経営は深刻な状況が続いていた。

 

「当然の失敗」に終わった検察官立証と無罪判決

5月から6月にかけて、東京都職員、金融機関の担当者等の証人尋問が行われたが、酒井氏が「積極的受注意思」を持っていたことや「公正な価格を害する目的」など全く立証できないという結果に終わった。

しかも、一定期間で「擁壁工事」の入札状況について検索した結果は、16件中13件が「入札不調」だった。まさに酒井氏が本件で懸念していたとおりだった。残る3件のうち1件は、予定価格ぎりぎり、低落札率の2件は、一般的な「擁壁工事」とは異なるものだった。検察官の立証は、弁護人の主張を裏付けるものでしかなかった。

7月19日の論告弁論。検察官の求刑は罰金100万円だった。K検事が論告を作成するなかで、証拠関係全体を見直して、「公正な価格を害する目的」の立証ができていないことを再認識し、さすがに公訴取消というわけにもいかず、検察内部で検討した上で、求刑を罰金に変更したのであろう。

そして、9月20日、酒井氏に無罪判決が言い渡された(【青梅談合事件、「無罪判決」に涙】)。

本件では、酒井氏を逮捕した警視庁捜査二課も、勾留の上、起訴し、1年以上にもわたって公判を引き延ばし、有罪立証を断念しなかった検察も、全くデタラメだった。その数々の非道は、酒井氏とその家族に筆舌に尽くしがたい苦痛を与えた。

青梅の老舗の地元建設業者として、地域に貢献してきた酒井氏は、突然、逮捕され、がん手術後、体調も思わしくない状態で、昨年夏の異常な猛暑の中、冷房もない拘置所に80日にもわたって勾留された。家族とも面会も禁止されたままの身柄拘束で塗炭の苦しみに耐え切れず、初公判で、心にもなく、罪を認めるという屈辱を受けた。その酒井氏に代わり酒井組の社長を引継いだ次女は、他の地元業者からの工事下請や金融機関の支援を受け、社員一丸となり歯を食いしばって会社を守った。その酒井組にとって、検察官が、ほとんど意味もない補充立証と異動の引継ぎのために費やした半年もの期間は、どれだけ長い期間であったか。

起訴から1年2か月後、ようやく無罪判決が下された。罪状認否を変更した後の酒井氏の無罪主張にしっかりと向き合う一方、検察官にも、立証の機会を十分に与えて丁寧な審理をしてきた野口佳子裁判長は、判決言い渡し後、酒井氏に「長い間お疲れ様でした。」と声をかけた。その裁判長もよもや予想していなかったであろう控訴を、検察は行ったのである。

求刑を罰金に落とし、半分「白旗」を上げていながら、酒井氏をなおも「被告人」の立場に立たせ続けようというのである。

検察官は、一審無罪判決に対して、控訴審で何を主張しようというのだろうか。

被告人の「積極的受注意思」を立証することで、「公正な価格を害する目的」を立証しようとする試みが、無駄に半年以上もの期間をかけたにもかかわらず、全く箸にも棒にもかからなかった。検察官が、その前提としていた「公正な価格を害する目的」の法解釈について、全く異なった主張をするというのだろうか。弁護人は、その点の法解釈が争点になることに備えて、公共調達法制の第一人者上智大学の楠茂樹教授の意見書も提出していたが、検察官が法律論を争わず、弁護人と同じ見解を前提にして立証してきたので、裁判所も、意見書は不要と判断して証拠採用しなかったものだ。楠教授は、今回の判決について、【青梅談合事件無罪判決を読む 〜 なぜ検察は完敗したのか】で解説している。

検察が、捜査・起訴・公判の経過を全面的に検証し、反省すべき点を反省すべきであるにもかかわらず、単に、面子を守るだけでしかない無罪判決に対する控訴を行ったとすれば、「権力犯罪」そのものである。どう考えても、検察官の控訴申立ては、「検察内部での過誤」としか考えられない。

過ちて改めざる、是を過ちと謂ふ。

検察官は、ただちに控訴取下げをすべきである。

 

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「会社役員収賄罪」としての“犯罪性”に迫れるか~関電金品受領問題、記者会見のポイント

9月27日朝刊で報じられた、関西電力幹部が高浜原発の地元の有力者から長年にわたって多額の金品を受領していた問題(【関電幹部、原発地元有力者から金員受領の“衝撃”~「死文化」した“会社役員収賄罪”も問題に】)、同日午前中に、岩根茂樹社長らが記者会見したが、昨年9月に出ていた社内調査報告書の内容を公表せず、金品を受領した人物の名前も金額も明らかにしなかったことに批判が集中、本日(10月2日)午後、再び、記者会見が行われることとなった。

電力会社の原発事業の歴史上最大の不祥事と言える今回の問題に関して、本日の記者会見は、極めて重要な意味を持つ。前回の会見と、その後も報道によって明らかになった事実を踏まえ、主として、今回の問題の「犯罪性」と「コンプライアンス上の問題」を中心に、記者会見のポイントを指摘しておこうと思う。

9月27日会見での説明

まず、岩根社長の記者会見では、以下のような説明が行われた。

[1]昨年の国税局の調査により、当社の役員等が多額の金品を受領していることが確認され、各自が所得税を修正申告し、納付済み。

[2]昨年7月に調査委員会(社外弁護士3人、社内3人)を設置し、9月まで調査を行った。不適切だが違法という判断をしていないので、公表しなかった。

[3]金品の受け取りを強く拒んだが、返却困難な状況だったので、返却の機会をうかがいながら各人の管理下で保管していたことが確認された。

[4]2018年までの7年間に、物品等を渡された者が20名。金額の総額は3億2千万円(いずれも、儀礼の範囲内以外は返却)。

[5]誰がいくら受け取ったかは、回答は差し控える。

[6]本件の調査内容を受け、報酬返上を含む関係者の処分を行っている。社内的に再発防止策をまとめ、所得税を修正申告し、納付済みである。

[7]提供したのは地元の有力者、お世話になっているので、返すとか、受け取れないと言った場合、非常に厳しい態度で返還を拒んだ。

[8]森山氏が関連している企業に工事を発注していることはあるが、社内ルールに基づいて適切な対応をしている。

その後の報道によって明らかになった事実

その後、関電幹部に金品を提供した「元助役」が、高浜町の元助役の森山栄治氏(故人)であることが明らかにされた上、以下のような事実が報じられた。

(1) 森山氏から、関電幹部にわたった3億円以上の金品の原資として、原発関連工事を請け負う「吉田開発」から森山氏へ支払われた手数料3億円が用いられた疑いがある。

(2)森山氏は、関電高浜原発の警備を請け負う高浜町の会社の役員を、97年の会社設立当初から務めていた。同原発のメンテナンスを担う兵庫県高砂市の会社でも87年の助役退職の数年後から相談役をしていた。

(3) 森山氏は、関電の全額出資子会社「関電プラント」(社長は関電出身者、八木会長が監査役を務めた)と30年以上にわたって非常勤顧問の契約をし、報酬を受領していた。

(4) 20人が受け取ったのは商品券や現金が中心。一方、ゴールドや数十万円相当のスーツの仕立券などもその中に含まれていた。

(5) 幹部らが返そうとすると、森山氏から「俺の顔をつぶす気か」などと怒られ、それぞれ自宅などで保管することが多かった。

(6) 森山氏と関係が深い吉田開発は、高浜原発関連の工事を受注していたが、18年8月期の売上高は21億8700万円と、13年8月期に比べて6倍超に膨らんでいる。

(7) 金品受領の役員のうちの4人は、税務調査開始後すぐに全部や一部の返還を始め、さらに受領から相当の期間が経過し、自身の所得に当たるとみなされる可能性があったため雑所得として税務申告もした。

(8) 調査の内容、および役員への処分を1年も取締役会に報告しなかった。コンプライアンスに関する社内委員会にも通していなかった。

(9)関電は、今回の問題に関して、外部者による「第三者委員会」を設置する方針。

「犯罪性」についての検討

そこで、これらの事実を踏まえ、まず、「犯罪性」について考えてみる。

今回の問題について、犯罪が成立する可能性があるとすれば、関電の役員らが、森山氏から金品を受領した行為が会社役員の収賄罪(会社法967条)に当たりうることは、【前回記事】でも述べた。もっとも、「贈賄側」の森山氏が、今年3月に死亡しており、対向犯である贈収賄について、贈賄側の供述なしに立件することは困難なので、実際上は、この犯罪で刑事立件される可能性は低い。

しかし、最終的に、刑事立件・起訴に至らないとしても、同罪への該当性がどの程度根拠づけられるかは、今回の金品受領問題の「犯罪性」「悪質性」のメルクマールになるものであり、森山氏の供述は得られなくても、それ以外の証拠により、同罪への該当性を評価することは、コンプライアンス上の評価に関しても重要である。

同罪の成否に関しては、「財産上の利益の収受」と「不正の請託」の二つの成立要件について考えてみる必要がある。

《財産上の利益の収受》

まず、「財産上の利益の収受」があったのか否かについて、関電側は、会見で、「金品の受け取りを強く拒んだが、返却困難な状況だったので、返却の機会をうかがいながら各人の管理下で保管していた」と説明している(上記[3])。しかし、各人が個人として受領する気が全くなかったのであれば、会社に申告し、会社に保管してもらえばよかったのであり、「個人の管理下で保管していた」ことは、財産上の利益を収受する意思があったことにほかならない。だからこそ、上記[1]のとおり、個人の所得として修正申告せざるを得なかったのである。

《「不正の請託」の有無》

最大の問題は、「不正の請託」があったと言えるかである。この点については、森山氏が、関電側から、前記(1)~(3)のとおり、複数の企業への発注や子会社の顧問料支払等で森山氏側が利益を得ていたことについて、「不正」といえるものがあったか否かが問題となる。

巨額の利益が関電から森山氏側にわたっていたからこそ、その一部が、関電幹部への金品提供の原資になったと考えられる。その手段となったのが、前記(1)~(3)の顧問料や工事発注だと考えられるが、顧問料の支払は、森山氏側が当該企業に貢献していた事実があるのであれば、その金額が不相応なものでない限り「不正」とは言い難い。

問題は、原発関連の発注によって、森山氏に関連する業者に過大な利益が上がるようにするという方法がとられていた場合だ。

前記1)(2)の関電の発注は、電力会社の調達として、本来、競争性・公正性の確保というルールに則って行われなければならない。原発事業の運営への協力・貢献に対して対価を支払うのであれば、発注とは別個の「支払」として経理処理されなければならない。工事や業務発注で過大な利益を与えることは許されないはずであり、もし、発注によって、森山氏の関連企業に過大な利益が上がるような措置をとっていたとすれば、発注の「不正」があったことになる。

関電は、2014年1月に、公正取引委員会が、同社発注の架空送電工事の工事業者及び地中送電工事の工事業者に対して排除措置命令・課徴金納付命令等を出した際、

工事発注に当たり,同社の設計担当者の多数が,当該現場説明会の場等において,工事業者の営業担当者の求めに応じて,契約締結の目安となる価格を算出する基となる『予算価格』と称する設計金額又はそのおおむねの金額を,非公表情報であるにもかかわらず教示したり、工事業者の営業担当者に対し,予算価格が記載された発注予定工事件名の一覧表を,非公表情報であるにもかかわらず提供したりしていたこと、関西電力の購買担当者が,地中送電工事の発注に係る指名競争見積等の参加者の選定に当たり,各工事件名における参加者の組合せについて事前に特定の工事業者に相談していたこと、工事業者間で受注予定者を決定する話合いを行っていた者の中には関西電力の退職者が29名おり,このうち少なくとも14名は,関西電力の設計担当者から予算価格等の教示を受けていたこと

などを指摘された。公取委から、これらの事実が「独禁法違反行為を誘発し,又は助長したものと認められる」として「同様の行為が再び行われることがないよう適切な措置を講じるとともに,発注制度の競争性を改善してその効果を検証すること,同社のグループ会社において,今後,独占禁止法に違反する行為が行われないよう適切な措置を講じること」などの「申し入れ」を受けている。

この時、独禁法違反に対する「適切な措置」が関電力グループ全体で行われていれば、高浜原発の関連工事についても、発注者側が競争制限行為に加担することはなかったはずであり、ましてや、特定の業者に意図的に利益を得させることもあり得なかったはずだ。

岩根社長は、前の記者会見で、「社内ルールに基づいて適切な対応をしている」と述べたが、果たして、そう言えるのか、手続きが形式的に整っていても、実質的には独禁法違反を助長する「不正」があったのではないか、本日の記者会見で問い質すべき重要なポイントである。

コンプライアンス上の問題

コンプライアンスを「社会の要請に応えること」ととらえる立場からは、今回の最大の問題は、関電の原発への対応が、福島原発事故前、「安全神話」が定着し、原発の建設や稼働のために無制約に「地元対策」「理解活動」を行うことが許容されていた時代と、何一つ変わっていなかったことだ。

森山氏からの金品供与を拒絶できなかった理由も、返還できなかった理由も、結局のところ、「地元の有力者に頼って原発事業への賛成を確保する」というやり方において、森山氏が重要な存在だったからだ。そういう関係に頼って原発事業を進めようとすること、そのために不透明な金の流れを生じさせること自体が、コンプライアンス上許されない「時代錯誤」の考え方と言わざるを得ない。

そして、今回の関電の対応に関する「コンプライアンス上最大の問題」は、何と言っても、調査委員会による調査で関電幹部の金品受領の事実が明らかになっていたのに、1年にもわたって公表せず、隠蔽したことだ。それによって、森山氏が今年3月に死亡する前に、会社役員の収賄罪の捜査に着手することができず、「犯罪性」を刑事手続で明らかにすることが困難になった。

その点に関して、「刑事事件に発展する可能性のある重大な事実を隠蔽した」というコンプライアンス上の問題についても、徹底して事実を解明し責任追及を行う必要がある。

当然のことながら、調査委員会に「外部者」として加わった3人の弁護士には重大な責任がある。会長・社長を含む会社幹部が、原発に関連して多額の資金の還流を受けた事実が明らかになるという極めて重大な不祥事について、調査委員会に委員として加わり、報告書作成に関与した弁護士が、「不適切だが違法ではない」との理由で、公表せず隠蔽することにお墨付きを与えたとすれば、弁護士として到底許容されることではない。

記者会見での注目点

本日の記者会見で、社内調査報告書が公表され、前回の会見で回答を拒否した点についても説明を行うとされている。上記の関電幹部の金品受領の「犯罪性」と「コンプライアンス上の問題」に関する上記のポイントを踏まえて、関電から引き出すべき事項として、以下のようなものが考えられる。

《財産上の利益の収受について》

1 「返却の機会をうかがいながら」というが、どのような「機会」であれば返還可能と考えていたのか、税務調査が入る前に、実際に返還した者はいるのか。どのような機会に(拒絶されることなく)返還できたのか。

2 金品を受領していた多数の幹部は、それぞれ他の幹部も受領していることを認識していたのか。

3 個人口座に振り込まれていたケースもあるとのことだが、誰が森山氏に個人の銀行口座を教えたのか。振り込まれたお金は、そのままだったのか、引き出されたのか。

《不正の請託について》

4 森山氏の関連企業への発注について「社内ルールに基づいて適切な対応をしている」というが、競争性が確保された入札による発注だったのか。原発に関連する発注には、特別に競争性が求められていなかったのか(これらの点について、社内調査では、どのような調査が行われ、どのような結果だったのか)。

5 架空送電工事及び地中送電工事に関する公取委の排除措置命令等に伴う「申し入れ」を受けた際、原発関連工事に対してどのような措置がとられたのか。「原発関連発注」はその措置の範囲外だったのか。

6 ゼネコン等への発注の際、森山氏の関連企業に下請け発注するよう指示が行われたことがあるか。その点について社内調査で確認しているか。仮に、それがあったとすると、前記の公取委からの「申し入れ」に反する事実なのではないか。

《コンプライアンス上の問題について》

7 調査委員会の設置について、社内で、誰がどのように決定したのか。その際、取締役会、コンプライアンス委員会等への報告・了解が不要と判断したのは、どのような理由によるものか。

8 調査委員会委員の氏名、関電(グループ企業)との関係、支払われた報酬額を開示すべきである。

9 調査委員会の委員は、金品受領の事実や調査報告書の内容について、取締役会およびコンプライアンス委員会等への報告の要否、事実の公表の要否について、どのような意見だったのか。

10 「本件の調査内容を受け、報酬返上を含む関係者の処分を行っている」とのことだが、この処分は、社内でどのような手続で行われ、どのように実施されたのか。(人事部門、経理部門は関わっていないのか。)

11 今後設置する「第三者委員会」の委員長・委員はどのように選任するのか。

以上のような事項について、関電側が納得できる説明をすることで、本件についての事実関係・問題点は自ずと明らかになり、それを受けて、今後関電が何をすべきか及び金品を受領していた関電幹部に対して、どのような措置をとるべきかを検討するための材料も得られるはずだ。

九電「やらせメール問題」以来の原発に関する不祥事

福島原発事故後に、電力会社が原発に関して起こした不祥事としては、原発事故直後の2011年の九州電力「やらせメール問題」がある。私は、この問題で、第三者委員会の委員長を務め、委員会報告書で、問題の本質について、以下のように述べた。

問題の本質は、「不透明性」と「環境変化への不適応」にある。

公益を担う事業者として電力会社には、地域独占と総括原価方式による利益の保障という民間企業としての特殊な経営環境が与えられており、それに伴って、事業活動の透明性の確保が強く求められる。

しかし、これまで、電力会社は、電気の安定供給と施設の安全性の確保という面で地域社会からの信頼がベースとなってきたことから、透明性の要請が顕在化することは必ずしも多くなかった。電力会社の事業の透明性の要請は潜在化していたと言うべきであろう。

そのような電力会社をめぐる状況が徐々に変化してきたのが、21 世紀に入る前後頃からであった。電力会社をめぐる不祥事が相次ぎ、電力会社に対して社会の批判の目が注がれることが多くなり、各社は、それらの問題への対応を求められた。

また、その頃から、日本社会においても、政府や一企業のみが決めて実行するのではなく、社会の側から決めていくという、ソーシャルガバナンスの時代になりつつあり、特に公益事業においては、そのような変化に対応することが求められるようになった。

そして、その状況が、さらに激変したのが東日本大震災、福島原発事故の発生であった。同事故の発生により、日本の多くの国民は、電力会社が行う発電事業のうち原子力事業がいかに大きな危険をはらむものであり、一度事故が起きれば、多くの市民、国民の生活を破壊し、社会にも壊滅的な影響を与えるものであることを痛感し、電力会社の事業活動、とりわけ原発の運営に対して重大な関心を持つようになった。

それ以降、原発施設の安全対策が客観的に十分なものと言えるのかに加えて、原発事業を運営する電力会社が、いかなる事態が発生しても安全を確保するための万全の措置をとり得る能力を有しているのか、信頼できる存在なのかが、社会の大きな関心事となった。

そのような環境の激変に伴って、電力各社は、事業活動の透明性を、以前とは比較にならない程強く求められるに至ったのである。

今回の一連の問題は、このような原発事業をめぐる環境の激変に適応し、事業活動の透明性を格段に高めなければならなかった九州電力が、その変化に適応することができず、企業としての行動や対応が多くの面で不透明であったところに問題の本質があると言うべきである。

しかし、残念ながら、九州電力幹部は、この第三者委員会報告書で、佐賀県知事の発言が「やらせメール」の発端となった旨の指摘を行ったこと等に反発し、委員会報告書提出後も、第三者委員会側と九電側とで激しい応酬が続いた【第三者委員会は企業を変えられるか~九州電力「やらせメール問題の深層」】(毎日新聞社:2012年)。

私は、父が中国電力の社員だったこともあり、コンプライアンスの啓蒙活動の中で、電力会社のコンプライアンスには、思い入れを持って、深く関わってきた。全国の電力会社のほとんどで会社幹部に対するコンプライアンス講演を行い、関電でもコンプライアンス講演を行った。中国電力の「土用ダム問題」を受けて設置されたアドバイザリーボードの委員長も務めた。そういう私にとって、東電の福島原発事故の発生と、それに関する東電の対応の杜撰さは、衝撃であった。九州電力の第三者委員会の委員長に就任した際には、私としては、「原発事故後の電力会社のコンプライアンス」に貢献できるよう、問題の本質に迫る調査と報告書作成に全力で取り組んだ。しかし、その指摘に九電幹部が反発して対立が生じたこともあり、その後、電力会社からのコンプライアンスに関する私への依頼は、全くなくなった。

私が九州電力第三者委員会報告書で指摘した「問題の本質」が受け入れられることなく、それとは真逆の、コンプライアンス不在の状況から、今回の関電の問題が発生したとすれば、誠に残念と言うほかない。

今回、関電が設置する第三者委員会において、上記の九電第三者委員会で指摘した「原発事業の透明性の要請」という観点も含め、問題の本質に迫る調査・原因究明・再発防止策の提言が行われ、それによってコンプライアンスが抜本的に是正されることが、関電の信頼回復にとって不可欠である。

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福田多宏氏控訴審判決で問われる「刑事司法」「検察改革」の現状

私が、「権力との戦い」と位置付け、全力で取り組んできた3つの刑事事件について、この夏から秋にかけて、相次いで判決言渡しが行われている。

国立循環器病研究センターの官製談合防止法違反事件(国循事件)の桑田成規氏については7月30日に、大阪高裁で控訴審判決(一審判決破棄・量刑変更)、青梅談合事件の酒井政修氏に対しては9月20日に東京地裁立川支部で一審無罪判決が出された。そして、福田多宏税理士に対する控訴審判決は、10月9日に大阪高裁で言い渡される。

国循事件については、昨年8月、控訴趣意書提出時の【“国循事件の不正義”が社会に及ぼす重大な悪影響 ~不祥事の反省・教訓を捨て去ろうとしている検察】、弁論終結時の【正義の「抜け殻」と化した検察官~国循事件控訴審、検察「弁論放棄」が意味するもの】で事件の内容と公判の状況を詳しく述べた。青梅談合事件については、判決に先立って、それまでの経過を【青梅談合事件、「”人質司法”の常識」を覆すことができるか~9月20日午後、東京地裁立川支部で判決~】で、判決言渡し時の状況については【青梅談合事件、「無罪判決」に涙】で述べた。また、かねてから事件を取材していたジャーナリストの江川紹子氏が、この事件と刑事司法をめぐる問題について解説してくれている(【無罪・青梅談合事件から見える日本の刑事司法の今】)。

そして、福田氏の事件については、「絶望的な状況」で弁護を受任したものの、その後の控訴審で大きな展開があり、今、かなりの期待を持って控訴審判決を待つ状況であることを、前の記事【福田多宏税理士・法人税法違反事件、「大逆転判決」の可能性~10月9日大阪高裁判決への期待】で詳しく述べた。

これら3つの事件は、刑事司法にとって、そして、大阪地検不祥事以降に進められてきたはずの「検察改革」にとって、大きな意味を持つ。国循事件、青梅談合事件の経過と判決結果を踏まえ、福田氏の事件の注目点を指摘しておきたいと思う。

「違法性評価の誤り」を指摘して原判決を破棄した国循事件判決

まず、3つの事件のこれまでの経過と結果を概観しておこう。

国循事件については、昨年3月、一審で、懲役2年執行猶予4年の判決が出され、私は、7月に控訴審の弁護を受任した。

控訴趣意書では、公共調達法制の専門家上智大学楠茂樹教授の意見書を軸に、原判決の判断と検察官の主張の誤りと、それらが、公共調達の実務に重大な悪影響を及ぼしかねないことを指摘し、「起訴された2つの事実については無罪、残り一つについても、本来、刑事事件として立件されるような事件では全くなく、立件されたとしても、起訴猶予とされるのが当然であって、検察官が訴追裁量を誤り、起訴した本件に対する被告人桑田の量刑としては、少額の罰金刑が相当であることは明らか」と主張した。

検察官は、当初、答弁書を提出して、それなりの反論をしようとしていたが、途中から全く具体的な反論も主張もしない「黙秘」に転じ、最後は、弁論まで放棄した。

裁判所は、控訴審判決で、「一審判決は、表面的な事象にとらわれすぎているきらいがあり、違法性について重要な点を見落としている」とし、「官製談合を促進し、入札の仕組み自体を損なう行為ではなく、発注者の利益に適う面もあるから、その点を反映した量刑を行う必要がある」として、原判決を破棄、懲役2年を1年に落とし、執行猶予期間も4年を3年とした。

控訴審判決が判示するように「違法性の程度が低い」というのであれば、弁護人が求めているように罰金刑に落とすのが当然であるのに、ぎりぎりのところで執行猶予付き懲役刑が維持され、検察の「最低限の面子」は保たれる格好になった。これに対して、桑田氏は上告し、上告審は、刑事弁護で多くの実績を上げている気鋭の弁護士(名古屋のK弁護士)が受任し、一審判決、控訴審判決の誤りを徹底して主張することになっている。

同時期に弁護活動の最終局面を迎えた青梅談合事件と福田氏事件

青梅建設業協会会長の酒井政修氏が、警視庁捜査二課に談合罪で逮捕され、全面否認のまま東京地検に起訴された青梅談合事件では、80日に及ぶ長期勾留で心身とも疲弊した酒井氏は、2018年9月の第1回公判で、不本意ながら公訴事実を認め、検察側の請求証拠すべてが同意書証として採用され、保釈となった直後に、私が弁護人を受任したものだった。

入札関連事件については、【入札関連犯罪の理論と実務】(2006年:東京法令)など著書もあり、長年、警察大学校専門講師を務め、経済犯罪捜査について、都道府県警の幹部候補の指導に当たってきた経験もある私にとっては、この事件は、まさに専門分野の事件だった。

第2回で罪状認否を全面否認に変更、全面無罪に向けて弁護活動を行った結果、7月19日の論告求刑公判では、検察官は、求刑を「罰金100万円」に落とし、半分「白旗」を上げた。そして、9月20日に、我々の期待どおり、全面無罪判決が言い渡された。

青梅談合事件の公判が、6月30日の公判期日で、6人の証人の尋問と被告人質問が行われて証拠調べが終わり、7月19日の論告弁論期日に向け、弁論作成に忙殺されていたのと同じ時期に、福田氏の控訴審も、最終局面を迎えていた。

M氏が、一審で記憶に反する証言を行ったことを認める陳述書に署名、それを一審の証言に対する「弾劾証拠」で請求する方針を決定したのは、7月17日の最終弁論の直前だった。控訴審での事実取調べの結果、一審判決の事実認定の誤りが明白になったことを弁論で詳細に論じ、控訴審の審理は終結した。

検察には「引き返す勇気」は全くない

3つの事件に共通するのが、大阪地検不祥事を受けての検察改革で掲げられた「引き返す勇気」というのは、今の検察に全くないということだ。捜査への着手、被疑者の逮捕・起訴などの検察官の権限行使を一旦行うと、それが見込み違いによるもので、誤っていたことがわかっても、その誤りを認めて、方針を変えようとすることはない。

《国循事件》

大阪地検特捜部が、国循事件の強制捜査に着手することとなった背景に、桑田氏が国循医療情報部長に就任して以降、国循からの大型の情報システム受注を次々と失うことになったN社やその関係業者側の不満・反発があった。N社は、平成24年度にD社にネットワーク関連業務の受注を奪われた後、25年度の入札で、関係業者S社に参加を打診し、それを受けたS社は、原価を無視した過度な安値で落札して強引に受注を図ったものの、「履行能力調査」の結果、受注断念に追い込まれていた。

特捜部は、「癒着・腐敗」を炙り出そうと、桑田氏とD社との金銭的関係や飲食等を徹底的に洗ったが、桑田氏とD社との間には、刑事事件になるような「癒着・腐敗」など全くなかった。

国循事件は、検察不祥事以降に、大阪地検特捜部が初めて手掛けた「本格的検察独自捜査」である。贈収賄事件の立件を目論み、大規模な強制捜査に着手し、失敗したが、無理矢理、官製談合防止法違反の刑事事件に仕立て上げた。

不当な起訴に対して組織的なチェックが働かなかったばかりでなく、2年にもわたる審理に膨大なコストをかけた挙句、懲役2年を求刑したのである。

一審判決は、その検察の主張に盲従したが、控訴審では、楠教授の意見書を主軸とする弁護人の主張に検察官は立ち往生し、最後は、弁論も放棄して「沈黙」。結局、控訴審判決では、「官製談合を促進し、入札の仕組み自体を損なう行為ではなく、発注者の利益に適う面もある」という認定までされるに至った。「執行猶予付き懲役1年」という、特捜部の独自捜査の主犯に対する量刑としては例がないほどの軽い量刑にとどまったが、それでも罰金刑に落とさなかったのは、裁判所の検察に対する「温情」以外の何物でもない。

検察不祥事の当事者であった大阪地検特捜部ですら、今も「引き返す勇気」が全くないことは、この事件の経緯からも明らかだ。

《青梅談合事件》

青梅談合事件の根本的な問題は、東京地検が、警視庁捜査2課の「無理筋捜査」の事前相談に、ゴーサインを出してしまったことにある。警察は、青梅市の幹部の贈収賄事件等を狙って、捜査に着手し、青梅建設業協会の会長の酒井氏の任意聴取を繰り返したが、何も事件のネタは見つからなかった。そこで、警察として、引き返さなければならないのに、逆に協力者の酒井氏を談合事件で立件しようとした。東京地検は、その「無理筋捜査」にストップをかけなければならなかったのに、それを容認し、警察が逮捕して送致してきた酒井氏を勾留し、起訴したのである。

検察官は、他の指名業者を取調べて、逮捕・起訴のプレッシャーをかけて、あたかも「談合の犯罪」であるようなストーリーの供述調書をとって、「無理筋の事件」を、酒井氏が全面否認したまま強引に起訴した。その「暴挙」も、酒井氏が80日にも及んだ接見禁止のままの勾留に耐えられず、昨年9月の初公判で公訴事実を全面的に認めたことで、問題なく決着しそうに思えた。しかし、その後、私が弁護人を受任し、罪状認否を変更、全面否認に転じて弁護人の主張・立証を行い、昨年12月の時点で、検察官は、「公正な価格を害する目的」についての立証に完全に行き詰まった。しかし、「立証不能」が明白になっても、検察官は、全く引き返そうとしなかった。それどころか、検察官は、補充立証のために、半年もの期間をかけて、結審・判決を先送りしたのである。

「無理筋捜査」から引き返さなければいけなかったのに、警察の意向を容認したばかりか、自らの「無理筋立証」を諦めようとせず、最後まで、有罪立証を続けた。

この事件も、検察には、「引き返す勇気」が全くないことを示している。

《福田税理士法人税法違反事件》

そして、福田氏の法人税法違反事件は、まさに、「引き返すべきポイント」だらけの事件だったと言える。

前掲記事】で述べたように、そもそも、当初の起訴状の公訴事実では、F社の法人税法違反について、逮捕された経理部長のM氏は不起訴となり、社長も含め、F社の役職員は起訴されていなかった。起訴されたのは、社外のコンサルタントの福田氏と、実質的な経営者のU氏だけだった。M氏が福田氏との脱税の共謀を抽象的に認める自白をしたものの、M氏は、共謀の場面で書いたとされた「図」は無関係だと供述したため、M氏と福田氏の共謀を認定する証拠がなかった。当然、その時点で、起訴を諦め、福田氏を釈放すべきだった。

ところが、検察は、福田氏を、勾留のまま起訴し、270日にもわたる身柄拘束が続いた。その後、裁判所の指示を受けて、M氏を共犯関係に加える訴因変更を行ったものの、肝心な、福田氏とM氏との共謀の場面についての供述がなく、特定することができなかった。しかも、保釈された福田氏の防禦活動によって、架空経費とされた業務委託契約による業務の膨大な成果物の存在が明らかになった。

遅くとも、その時点では、検察は、絶対に、引き返さなければならなかった。

しかし、検察は、「依頼に基づいて仕事をしても、契約書が交わされていなければ代金が請求できない」という珍妙な理屈を押し通し、「業務委託契約は架空だ」という主張を維持した。

そして、その後に行われた、再度の証人尋問で、M氏は、検察官による3回の「証人テスト」での「記憶喚起」によって、「図」が福田氏との共謀の場面だったという内容の証言を行った。そして、控訴審に至り、M氏は、その証言が、記憶に反するものだったことを弁護人に認めて陳述書に署名、それが弾劾証拠として採用され、控訴審が結審したのである。

このような検察のやり方の、どこに「引き返す勇気」があるのであろうか。

「人質司法」にしがみつく検察

青梅談合事件も、福田氏の事件も、「人質司法」の悪弊が、顕著に表れた事件だ。

酒井氏は、80日にわたる勾留に耐えきれず、捜査段階で一貫して否認していた談合罪の公訴事実を、初公判で全面的に認め、何とか保釈された。それが、その後の公判で、無罪であったことが明らかになったという稀有な事件である。

日本の刑事司法の悪弊である「人質司法」により、無実を訴える被告人が長期間勾留される事例は数多いが、ほとんどは、「人質司法」が功を奏し、「有罪判決」で終わる。結局、「無実の罪で長期間拘束された」のではなく、「有罪になるべき事件で、長期間、無罪を主張していた」ということで片付けられ、批判されることもない。「人質司法」のために、一度は、全面的に罪を認めるに至った酒井氏が、無罪判決を獲得したことは、「無実の人間が、人質司法によって無罪主張を封じられていたこと」が明らかになったという点で、極めて大きな意味を持つ。

福田氏の事件でも、270日もの期間勾留され、それによって、福田氏が、有効な防禦活動を行うことを阻まれたことが、一審で、不当な有罪判決が出る大きな要因となった。控訴審で一審判決が破棄され、無罪方向への判断がなされることになれば、酒井氏の事件と同様に、「人質司法」の弊害が極端な形で露わになることとなる。

これらの事件での検察官に共通するのは、無罪を主張する被告人を、長期間拘束することによって、無罪主張を諦めさせようとする「姑息な姿勢」だ。【“人質司法の蟻地獄”に引きずり込まれた起業家】に書いたA氏の事件のように、検察官は、保釈に反対しない条件として、事実を全面的に認める上申書の提出を要求し、A氏は、身柄拘束から逃れたい一心から、上申書作成に応じた。結局、それが、事実に反する認定の唯一の根拠にされてしまい、A氏の無罪主張は封じられた。

調書中心主義の見直しや取調べの録音録画の定着で、かつてのような「脅し」「すかし」「騙し」によって自白調書をとるという手法が使えなくなった。そこで、その代わりに、検察官は、「人質司法」による「無罪主張封じ」という悪辣なやり方を常套手段にしているように思える。それは、憲法が保障する「裁判を受ける権利」(32条)を侵害するものにほかならない。

「取調べの録音録画」は刑事司法を変えたか

取調べの録音録画は、大阪地検不祥事の際に、2010年に法務省に設置され、私も委員として加わった「検察の在り方検討会議」で導入が提言され、検察官の取調べにおいて、徐々にその範囲が拡大し、昨年6月に施行された刑訴法改正案で、検察官の独自捜査の取調べに原則として義務づけられることになった。

しかし、これまでは、刑事裁判で、取調べの録音録画が十分に活用されてきたとは言い難かった。

特に、特捜部等の検察独自捜査においては、取調べ時間が膨大になり、弁護人がそれを隅々まで視聴することは極めて困難だ。

しかも、検察の側で、取調べの録音録画を「有名無実化」し、それをかいくぐって、不当な取調べを行っている事例もあった。【「録音録画停止後の脅し」を覆い隠そうとする検察と、加担する裁判所】でも述べたように、相場操縦事件で犯意を認めない被疑者に対して、録音録画を停止した後に、「認めないのであれば、こちらも考えがある」と言って逮捕のプレッシャーをかけ、翌日の取調べで、被疑者が「わかりました。すべて認めます」と言った後に、録音録画を開始したというのである。この事例については、最高検監察指導部に、調査要請をしたが、回答すら全くない。

このように、録音録画が導入されても、本来の目的は果たされていないのではないかと思える状況だったが、青梅談合事件と福田氏の事件では、取調べの録音録画の記録が重要な役割を果たすことになった。

青梅談合事件については、一貫して談合の被疑事実を否認していた酒井氏が、他社に協力を頼んで自社の利益のために受注したことを認めるかのような検察官の供述調書が一通だけ作成されている。それが、供述してもいない内容を調書に録取して署名させたものであることが、弁護人と検察官との合意書面として提出した録音録画の反訳書で明らかになった。このため、一審判決は、検察官調書の信用性を疑問視した。これについて、江川氏は、

検察官の取り調べの多くが録音録画されることになったため、弁護人が手間を惜しみさえしなければ、「言った」「言わない」の水掛け論にならず、裁判所に真相を理解してもらいやすくなった。これは、司法改革の成果が現れた一面といってよいだろう。

と評価している。

福田氏の事件では、重要証人の取調べの録音録画媒体を弁護人が精査した結果、検察官の対応に関する重大な問題が明らかになった。

M氏が、一審の2回目の証人尋問で行った証言の内容は、取調べの録音録画の記録に残された供述内容とは全く異なるものだった。検察官が、M氏の捜査段階での供述を認識しながら、その「記憶」に反する証言をするよう、証人テストで示唆したとすれば、まさに「証言の捏造」を行ったことになる。村木事件で、起訴検察官による証拠改ざんの問題が大問題となったのと同様に、公判検察官の証人テストでの示唆によって、(故意か過失かは別として)、記憶に反する証言が行われたとすれば重大な問題である。

検察改革に伴って導入された取調べの録音録画は、今回の二つの事件で、刑事事件の真実解明の手掛かりとなった。そして、それは、検察官の取調べや証人テストの手法に関する重大な問題の指摘にもつながるものである。

7月の国循事件、9月の青梅談合事件の判決に続き10月9日に福田氏の法人税法違反事件に対して言い渡される控訴審判決は、刑事司法と検察改革にとって、極めて重要な意義を持つ。

福田氏の事件については、明後日(10月2日)午後2時から、大阪司法クラブで、福田氏本人と弁護団とで記者会見を行い、注目点について解説する予定である。

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