ビール4社カルテル犯則調査、ビール会社経営陣の対応、テレビ局の「報じるが、論じない」構造の行方

10月9日に公開した記事【「公取委、ビール4社価格カルテル犯則調査、民放テレビ、エンタメ、スポーツ業界に『壊滅的打撃』も」】で指摘したように、今回のカルテル摘発によって「価格は横並び、競争は広告」というビール業界の構造が揺らげば、広告費と協賛費が真っ先に削られ、テレビ、芸能、スポーツの各業界に甚大な影響が及ぶ可能性がある。

このような指摘を受け、影響を受ける側は、この事態をどう受け止め、今後、どう動くのか。本稿では、テレビ局、広告会社、そしてスポンサーであるビール会社の三者に分けて考えてみたい。

以下は、報道されている事実と業界の構造を踏まえた筆者の見立てである。各社の内部で実際にどのような検討が行われているかを確認したものではない。

強制調査後の状況

まず、強制調査後の報道を確認しておく。

4社の営業担当者らは、少なくとも数年前から価格などを示し合わせていた疑いがあり、公取委は協議の内容が経営陣と共有されていたかも調べているとみられる。「価格一覧表を見ながら協議していた」ことも分かり、公取委は8日、一部の会社の支店や社員の自宅にも強制調査に入った(テレビ朝日)。さらに、業界団体の公式な会議の後に「裏会」を開いて調整していたとみられ、複数の社の担当者が、公取委の聞き取りに対して価格調整を認めていると報じられている(産経新聞)。チューハイについても価格調整があったと、ビール大手の複数社が説明しているとの報道もある(朝日新聞等)。

報道を前提とすれば、この事件は、「刑事告発」と「巨額の課徴金」に向けて進む可能性が高い。前回記事で述べたように、刑事罰の適用に関しては、犯罪の実行行為者として処罰される個人の特定には問題があるものの、違反行為者を特定したうえで法人事業者のみ告発という方法をとるのであれば、刑事罰適用のハードルもそれ程高くはない。行政処分で行われてきた「事業者主体の違反認定」であれば、過去の裁判例と比較しても立証は比較的容易だと考えられる。課徴金は、算定期間は調査開始日から最長10年遡ることができ、対象商品の範囲や違反期間によっては、納付命令が数千億円規模に達する可能性もある。

テレビ局と広告会社――「報じるが、論じない」

テレビ局の反応は、部門によって異なると考えられる。

報道局は、事件そのものはすでに大きく報じている。上記のとおり、テレビ朝日をはじめとする各局は、一覧表の作成や「裏会」の存在など、独自の取材による続報を伝えている。「物価高の中で公取委が悪質と判断したとみられる」との解説も行われるなど、大口スポンサーの不祥事であっても、テレビ各社は積極的に報じていると言える。

しかし、筆者が確認した範囲では、なぜビール業界で価格競争が起きにくかったのか、その分の利益が何に使われてきたのか、という構造にまで踏み込んだテレビの報道は見当たらない。その背景に国税当局の酒税行政との関係があること、価格横並びで生じる利益による膨大な広告費の行き先がテレビ局自身であることに触れた報道はないようだ。事件は「報じる」が、構造は「論じない」。これが現時点のテレビ報道の姿である。

一方、最も敏感に反応していると思われるのが営業局である。10月の酒税一本化に合わせて、各社は主力ビールのリニューアルと大型CMを始めたばかりだ。営業局にとっての当面の関心は、これらのCMが予定どおり流れるか、来期の提供契約がどうなるかにあるだろう。スポーツ中継やゴールデンタイムの提供番組を抱える編成・スポーツ部門も、ビール会社が抜けた場合の代わりのスポンサーを内々に検討せざるを得ない。

経営や広報の立場では、表向きは「影響は限定的」と説明する可能性が高い。酒類を含む「飲料・嗜好品」の広告費は、マスコミ四媒体全体の7.8%にとどまるからである(電通)。しかし、ビールの広告は特定の番組、大会、時間帯に集中していることから、その影響度は、形式上の数字以上に大きいのではないか。

より深刻なのは地方のローカル局である。地域のスポット広告や中継の協賛で、ビール会社は大口の、しかも代わりを見つけにくいスポンサーである。キー局が「限定的」と言える影響でも、ローカル局の経営には直接響きかねない。

広告会社内部では、得意先のリスク管理の検討が始まっていると考えられる。

刑事事件に発展すれば、ビール会社が目立つ冠協賛や大型CMを自粛する可能性がある。アサヒは2025年のシステム障害で業績が悪化した際、広告販促費を抑え、広告のキャンセル費用まで計上した(アサヒグループHD決算説明会)。業績に打撃を受ければ、広告はすぐに削られる。テレビ枠のキャンセルが出た場合に代わりの出稿者をどう探すか、サッカー日本代表、箱根駅伝、侍ジャパンなどの協賛契約を更新時にどう扱うかは、広告会社にとって、重大な「現実の課題」になっているはずだ。

ビール会社――表面的には「調査に全面協力」だが

10月11日付の日本経済新聞に、アサヒグループホールディングスの勝木敦志社長のインタビュー記事が掲載されている。

同記事によると、勝木社長は、営業現場がどのような認識のもとで業界団体の活動や同業他社との接触をしていたのか、経営陣と現場の間に「マインドの乖離」がなかったかについては、調査中を理由に明言を避けたという。その一方で、記事は次のように伝えている。

「ここ数年は国内事業だけで累計で約1000億円規模のコスト増に直面した」と明かす。「値上げしていなければ利益が全部吹き飛んでいた」と振り返り、企業努力だけでは収益基盤を維持するのは難しく、価格転嫁は避けられなかったとの見方を示した。

このように値上げの正当性を強調する一方で、

「消費者や取引先に商品やサービスを安定的に届ける責任は果たしていく」と話し、通常の営業活動は継続する方針を示した。商品の広告やCMなどのマーケティング活動も維持していくという。「消費者や取引先に正しい情報を伝えることや販売促進活動は必要だ。コミュニケーションをやめることはない」と話した。

とされている。

勝木社長は、カルテル摘発による営業活動や商品広告への影響を否定しているようだが、課徴金の規模が見えてくるだけでも、そのようなことは言っていられなくなるはずだ。課徴金は対象売上の10%で、算定期間は最大10年に及ぶ。巨額の負担を前にすれば、広告販促費、とりわけテレビ広告費は、最も削りやすい費用として、真っ先に見直しの対象となる。

上記の勝木社長のインタビュー記事での発言には、各社の広報部門中心のマスコミ対応が、調査への全面協力を表明する一方で、カルテル摘発を受けたことによる会社イメージへの負の影響を可能な限り抑えていこうとする姿勢が表れているとみるべきであろう。

各社経営陣が刑事責任追及の対象となる可能性

他方で、今後の犯則調査の中で、刑事罰の適用に発展する場合の対象となる個人がどのレベルとなるかは各社経営陣にとって最大の関心事となっているはずだ。その点について、法務部門を中心に、専門弁護士との間で、想定される措置・処分と、違反認定・刑事処罰に関する問題点についての検討が始まっているものと考えられる。

【前回記事】でも述べたように、公取委の行政処分においては、価格カルテルにおける意思の連絡について、東芝ケミカル事件の東京高裁判決(平成7年9月25日)の判断枠組みが確立しており、①値上げに関する情報交換があり、②各社が同一またはこれに準ずる行動をとった、との事実があれば、③その行動が各社の独自の判断によるものであることを示す特段の事情がない限り、意思の連絡が推認される。

「4社間の価格情報交換」を踏まえた価格引き上げの幅、時期の決定という構図が長年にわたって継続してきたとすれば、独禁法違反(不当な取引制限)の成立が認められる可能性が高い。

刑事罰の対象となる「違反行為」は、「価格に関する情報交換に基づき、他社と同一またはこれに準ずる行動をとる」という認識の下で、「価格引き上げ等の決定を行ったこと」ととらえられることになるであろう。

そのような「価格の決定」は、各社のビール事業のトップによって、少なくとも抽象的にはその他社との価格設定の横並びの構図を認識した上で行われたと考えるのが合理的だ。

「一部の社では協議内容が経営陣に報告されていた」との報道もあり(時事【協議内容、経営トップに報告か 公取委、組織的関与の有無調査 担当者、価格調整認める・ビールカルテル】)、今後の公取委の犯則調査の進展如何では、各社の経営陣が刑事処罰の対象となる可能性もある。

法人事業者のみの告発にとどまるか、行為者個人も告発されるか、それが経営陣個人にまで及ぶかは、犯則調査で個人の関与がどこまで解明されるかにかかっている。いずれにせよ、公取委の犯則調査への対応は、各社の経営トップにとって最重要の関心事項とならざるを得ない。

海外のビール業界はどうか

「価格は横並び、競争は広告」という構造は、日本に特有のものなのか、海外ではどうなのか。

寡占のメーカーが価格では競わず、広告とブランドで競うという構図そのものは、海外にも共通して見られる。

米国では、司法省が2013年、ABI(アンハイザー・ブッシュ・インベブ)によるメキシコのモデロ買収を差し止めようとした際の訴状で、上位2社のABIとMillerCoorsが全米販売の約65%を占めていると指摘した。MillerCoorsは、2008年に、ミラーを傘下に持つSABMillerとクアーズを傘下に持つMolson Coorsが、米国事業を統合して設立した合弁会社である。司法省は、ABIが毎年の値上げを主導し、MillerCoorsが追随していると主張している(米司法省資料)。ABIの価格戦略文書(Conduct Plan)は、目標として「追随の最大化」まで掲げていた。経済学の実証研究は、この合弁の直後にMillerCoorsとABIの両社の小売価格が急に上がったことについて、通常の競争のもとでの価格の変化としては説明できないことを示し、合弁が両社の価格協調を促した可能性を指摘している(Miller & Weinberg, Econometrica 2017)。推計では、合弁後の価格は、各社が独自に価格を決めていた場合より6〜8%高いとされる。米国でも、露骨な情報交換などから合意が推認されれば、明示の合意がなくともカルテルとして処罰され得る。しかし、寡占の構造のもとで各社が互いの価格を意識して追随する「意識的並行行為」それ自体は、違法とはされない。そのため司法省は、合併審査によって協調を起こしにくくする方法をとってきた。

欧州では、明示のカルテルが繰り返し摘発されている。とりわけ興味深いのはドイツの事件である。連邦カルテル庁は、2006年と2008年のビールの値上げを合意したとして、2014年1月13日(5社、1億650万ユーロ)と2014年4月2日(6社、2億3120万ユーロ)11社と14人の個人に、総額約3億3800万ユーロの制裁金を科した。樽生ビールは1ヘクトリットル当たり5〜7ユーロ、瓶ビールは20本入りのケースで1ユーロという値上げ幅が合意されていた(連邦カルテル庁)。業界団体の会合や見本市の機会に値上げが話し合われ、合意の多くは個人的な接触や電話だけで成り立っていたという。秘密の電話や非公開の会合で値上げが合意されたことは、海外メディアも報じている(NBCニュース)。この事件は、テレビ広告で知られる全国ブランドの醸造会社が中心だったことから、「Fernsehbiere(テレビビール)」事件と呼ばれている。テレビ広告で競うブランドの間で、価格が裏で調整されていたというのは、業界団体の会合の前後に各社の担当者が「一木会」と称する会合で価格の情報交換を行っていたとされる今回の日本のビール各社間のカルテルでの構図とも重なる。

オランダでも、欧州委員会が2007年、ハイネケン、グロールシュ、ババリアの3社に総額2億7378万ユーロの制裁金を科している。この3社にInBev(現AB InBev)を加えた4社は、1996年から1999年にかけて、ホテルやレストランで、隠語を使った非公式の会合を重ね、価格と値上げを調整していた。InBevは、カルテルについて決定的な情報を提供したため、制裁金を免れた(欧州委員会)。ドイツの事件も、InBevのドイツ法人が制裁金の減免を申請したことが摘発のきっかけであり、同社はここでも制裁金を免れている。今回の日本の事件でも、どの社が最初に申請したかが、各社の命運を分けることになるだろう。

日本の「ビール価格問題」の特殊性

こうして見ると、日本の特殊性は、構造そのものではなく、それを支えてきた条件にあることが分かる。

第一に、行政の関与である。酒税を量に応じて課す国は多く、税がそのまま価格に乗ることは日本だけの現象ではない。諸外国でも、ビールの税額はほぼ価格に転嫁されているようだ。しかし、税務当局が業界団体に宛てて一律の転嫁を文書で求め、法律に価格カルテルの適用除外の規定まで残している国は、確認した範囲ではほかに見当たらない。海外では、価格の協調は企業同士の問題として扱われる。日本では、行政がその土台を作ってきたのである。

第二に、テレビ広告の規制との関係である。フランスは、1991年のエヴァン法によって、テレビでの酒類広告を禁じている(Osborne Clarke)。EUの視聴覚メディアサービス指令も、未成年者を狙った広告や、飲酒が運動能力を高めると結びつける表現などを禁じている(EU指令22条)。これに対し日本は、業界の自主基準にとどまる。テレビ広告を流さない時間帯を5時から18時と定めるほかは、表現の規制が中心である(国税庁掲載の自主基準)。有名タレントを起用した大量のテレビCMによるブランド競争は、フランスでは制度上成り立たない。日本でそれが可能だったからこそ、ビールの広告費はテレビ局、芸能界、スポーツ界の大きな収入源となったのである。

第三に、競争当局の姿勢である。欧州はビールの価格カルテルを繰り返し摘発し、米国は合併審査によって寡占企業間の協調を起こしにくくしてきた。日本では、公取委が同調的な値上げの理由を報告させる制度を2005年に廃止した後、今回まで本格的な摘発はなかった。

寡占のもとで価格が協調され、広告で競争が行われるという構図は、どこにでもある。日本で問われているのは、税務行政がその構図を支え、テレビ広告の規制が緩く、競争当局が長く手を出してこなかったという、三つの条件が重なってきたことである。

三者をつなぐ「沈黙の構造」

【前回記事】で指摘したように、ビール業界では、価格競争が行われない代わりに、膨大な広告費を投じてブランドイメージを高める競争が続けられてきた。そして、その費用は横並びの値上げを通じて価格に上乗せされ、最終的には消費者の負担となってきた可能性がある。その広告費の最大の受け手が、事件を報じる側のテレビ局である。

公取委の強制調査着手以降、テレビ局が事件の事実を詳しく報じていることは評価できる。しかし、構造に踏み込まない報道は、視聴者に「一部の担当者が裏会で価格を相談していた」という、「古典的な価格カルテルの犯罪」が暴かれた、という単純な「勧善懲悪の構図」だけの印象を与えかねない。

問われているのは、酒税行政が作ってきた価格協調の土壌と、その上に成り立ってきた広告中心の競争であり、テレビ局自身もその構造の中にいる。その事実を自ら報じることができるかどうかは、テレビ報道の信頼性に関わる問題である。

今後の注目点

今後、この問題がどう展開するかを見るうえで、外から確認できる兆しがいくつかある。

第一に、民放各局の中間決算説明でスポット広告の業種別の動向に触れるかどうか、第二に、ビール4社の新CMの放送回数が来月以降に減少するかどうか、第三に、ビール会社が冠協賛を務めるスポーツ大会で来季のスポンサー発表が遅れるかどうか、そして第四に、公取委が刑事告発に踏み切った時点でテレビ報道の量と論調がどう変わるかである。

ビール4社のカルテル疑惑は、独禁法違反の事件であると同時に、日本のメディアと広告をめぐる構造が問われる事件でもある。その行方を引き続き注視していきたい。

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