斎藤元彦氏公選法違反事件、代理人説明の不合理性と71万5000円支払いの買収罪該当性

【斎藤元彦氏公選法違反事件、折田氏note記事の内容と裏付け証拠を徹底分析する】で詳細に解説したように、折田氏のnote記事は、極めて信用性が高く、その内容によれば、折田氏やmerchu社が、兵庫県知事選挙で、斎藤氏のためのSNS広報戦略を主体的裁量的に実行していたことは明らかです。

このようなnote記事が2024年11月20日に公開され、その後、公選法違反の疑いが各所で指摘されたことから、11月27日の斎藤氏による兵庫県知事定例会見において、本件note記事に関する質問がなされました。

しかし斎藤氏は、

「公職選挙法には抵触しないと認識している。弁護士に説明させる」

と述べ、同会見終了後に、被告発人斎藤の代理人の奥見司弁護士による会見がおこなわれました。

その後も、警察の捜査等について報じられた際に、公選法違反について質問があっても、

「代理人弁護士に任せています。公職選挙法に抵触するようなことをしていないという認識でいます」

と繰り返し述べ、具体的な回答を拒絶しています。

一方、県議会では、2024年12月11日の総務常任委員会で、山本敏信委員が

本年11月末に、ひょうご仕事と生活のバランス企業表彰があった。これは、全議員がメールで報告をいただき、一覧表ももらっている。今回は15社が表彰された。その資料の一覧の中に、現在、知事選挙で問題になっているPR会社のmerchuも含まれている。知事は、弁護士を通して公職選挙法違反ではないということを明言されており、知事は何も発言していないことも不思議な状況である。このmerchuの代表者が表彰式には出られていない。公職選挙法の問題が生じた後に表彰を持って行かれたのか、merchuの方が辞退されたのか、状況を伺う

と質問しましたが、その場では具体的な回答は行われず、その後の県議会の質問で、斎藤知事の公選法違反の問題への言及はあっても、斎藤知事に対して公選法違反自体についての質問は行われていません。

世の中では大きな関心を集め、警察の強制捜査等も行われている事件について、斎藤知事も買収側の当事者として告発されているのですから、通常は、斎藤知事に対して県議会でもその疑惑について質問が行われ、それに対して斉藤知事が何がしかの答弁を行うか、捜査中であることを理由に答弁を差し控えるか、ということになるのが通常だと思いますが、兵庫県議会では、知事に対する質問すら行われていません。

それだけに、この斎藤知事とmerchu社、折田氏との公選法違反の問題については、斎藤氏の代理人奥見弁護士の説明がすべてと言うことになるわけです。

本稿では奥見弁護士の説明に合理性があるのか、信用性があるいのかという点について徹底検証します。

斎藤知事の説明責任と政治責任

まず、前提として重要なことは、斎藤氏は兵庫県知事として強大な権力を持つ地方自治体の首長であり、その権力の座に選ばれた知事選挙において、自らの公選法違反の疑いが生じているわけですから、斎藤氏には県民に対して説明責任があるということです。それは、merchu社への71万5000円の支払いが公選法の買収罪に当たるかどうかという刑事責任の問題だけにはとどまりません。政治的にも重大な説明責任があるということです。

同社はSNS運用や広報戦略を専門とし、兵庫県を含む、自治体における行政関連業務を得意とし、兵庫県との関係性は強いものがありました。

例えば選挙前、merchu社は斎藤県政下の兵庫県から「ひょうご・こうべ女性活躍推進企業」や「ひょうご仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)推進企業」として表彰を受けていました。また、正社員わずか数名の小規模企業ながら、県の公報誌などで折田氏の活躍が度々紹介され、県HPトップページで「優良企業」としてPRされていました(2024年11月下旬に削除)。

さらには、折田氏個人も、「兵庫県地域創生戦略会議」の委員、「兵庫県eスポーツ推進検討会」の構成員、「次世代空モビリティひょうご会議」の有識者(構成員)に任命されており、県の政策立案に関与していました。

そのうえ、広島県、高知県、広島市、藤沢市、神戸市など、複数自治体のSNS運用やイベントプロモーションでmerchu社が業務を受注しており、兵庫県とは直接の契約関係はないものの、県が運営する地域情報アプリ『ひょうごe-県民アプリ』のリニューアルについて、再委託という形で関与しています。

このように県知事の職務上、公務で一定の関係性があり、また、業務上(特に将来的に)関係がないとはいえないmerchu社に、斎藤氏が知事選挙での選挙関連業務を発注すること、自ら社長の折田氏を訪ねた上、選挙の応援を受けること、それは、仮に無償のボランティアであったとすれば、なおさら重大な問題があると言えます。その点に関して、斎藤氏には、刑事責任とは別個に、知事としての説明責任、政治責任があります。

斉藤知事から、このような重大な説明責任をすべて丸投げされたのが奥見弁護士ということになるわけですから、その説明の合理性、信用性が厳しく問われることになるのは当然です。

斎藤氏代理人弁護士による「請求書」公表と事実経過の説明

会見で奥見弁護士は、斎藤氏側からmerchu社に支払ったのは、以下の5項目であることを明らかにし、請求書を公表しました。

●公約のスライド制作 30万円

●チラシのデザイン制作 15万円

●メインビジュアルの企画・制作 10万円

●ポスターデザイン制作 5万円

●選挙公報デザイン制作 5万円

会見で奥見弁護士は以下のような事実経過の説明を行っています。

(1)斎藤氏は、本年9月末頃、支援者から、社長夫妻(折田氏夫妻)に会ってみるよう勧められた。その支援者から、「ボランティアで協力してくれる方を探している中で、社長夫妻が賛同して手を挙げてくださった」との説明を受けている。なお、社長が以前から兵庫県の委員を務めている関係で、以前から斎藤氏と社長との間に面識はあった。

(2)斎藤氏が、PR会社(merchu社)を訪れたのは、2024年9月29日で、滞在時間は17時30分から約1時間。訪問前に、斎藤氏からPR会社に事前準備について依頼したことはない。この席で社長から、斎藤氏が選挙に出るとした場合に協力しうることの説明を受けている。説明の中には、後に、実際に依頼することになったポスターデザインの制作、チラシデザインの制作、などのほか、SNSの利用についての話もあった。29日の話し合いは、斎藤氏がPR会社を訪問し、説明を聞いただけで終了している。

(3)翌日以降、PR会社から、いくつかのプランと、その見積もりが出されたと聞き及んでいる。現時点で私の手元にはないが、見積書には、今回実際注文するに至ったポスターデザイン制作などのほかに、YouTube用動画撮影などの項目があったとのこと。しかし、noteに記載されているような、広報全般をPR会社に依頼するとか、SNS戦略の策定などの項目はなく、いずれも制作物の提案であった。

(4)PR会社からの提案に対して斎藤氏サイドが依頼したのが、請求書記載の5項目。なぜこの5項目に絞ったかについては、「斎藤氏は、県民の皆様に伝えたかったことを発表する方法としての公約スライドの制作、選挙に最低限必要と考えられた選挙ポスター、チラシ、選挙公報の依頼に絞って依頼することにした」とのこと。当時は、政治活動、選挙運動を行う資金の目途も立っていない状況であったこともその理由であったことも聞いている。

(5)社長がnoteで記載されているようなSNS戦略を依頼したということや、広報全般を任せた、ということは事実ではない。

(6)個別に依頼したので、契約書は作成していない。注文は10月3日から10月9日ころにかけて、個別で依頼している。個別というのは、「チラシデザインの制作をお願いします」「わかりました」というような関係。

(7)PR会社側からの請求は、発行日が10月31日のものであり、1通のみ。内容を確認後、本件支払をしたのが11月4日。

(8)社長ご夫妻は、斎藤氏がPR会社を訪れた日以降、斎藤氏の考えに賛同し、斎藤氏の応援活動をしている。社長の活動としてこれまで確認できているのは、

・公式応援アカウントの取得

・公式応援アカウントの記載事項のチェック

・街頭演説会場などにおける動画の撮影、アップロード

など。

これらは、社長、社長の夫、斎藤氏の同級生、そのほか選挙スタッフといえるメンバーと話し合って行われている。社長はSNSのことに詳しい方なので、他のスタッフからの質問に答えたり、社長から助言などがあったことも確認している。

(9)これらはいずれもPR会社としての活動ではなく、選挙のボランティアの一員としてなされたものであり、かつ、社長が主体的裁量的に行ったというものでもない。社長個人とは何の契約もない、報酬支払の事実も、その約束もない。

つまり、斎藤氏側の説明は、斎藤氏が「merchuオフィス」を訪問し、その際に、ポスターデザイン、チラシデザインの制作、SNSの利用について「説明」を受けたが、SNS広報戦略策定についての「提案」は受けていない、その後、同社から送付された見積書の中の上記デザイン制作業務だけを依頼し、広報戦略、SNS戦略などは同社には依頼していない、さらにその後のSNS運用などは、折田氏が個人としてボランティアで行ったものであり、しかも斎藤氏側の陣営が主体的に行ったもので、折田氏が主体的に行ったものではない、というものです。

note記事の内容についての言及

そして、折田氏が投稿したnote記事について、奥見弁護士は、

「投稿には事実でない部分が記載されており、盛っていると認識している」

と述べ、具体的には、以下の点が事実と異なるとしています。

  • ◎請求書の5項目以外のものはPR会社が行った事実はない。社長個人が行った。
  • ◎プロフィール撮影は社長個人が行った。
  • ◎アカウントの立ち上げも行われているが、あくまで個人。セキュリティや公式アカウントとしての信頼感の担保も個人で行ったもの。契約内容には入っていない。
  • ◎ハッシュタグは10月に数人で決めた。
  • ◎SNS運用は社長もかかわっていたと思うが、選挙スタッフと一緒あるいはスタッフのみのこともあった。
  • ◎広報全般を任せた事実はない。

選挙運動費用収支報告書の記載

斎藤氏側は、上記のような主張にもとづき、12月2日に、兵庫県選挙管理委員会に提出した選挙運動費用収支報告書において、関連する記載を行っています。

具体的には、2024年11月4日に斎藤側からmerchu社に支払われた71万5000円のうち、「メインビジュアル企画制作 11万円」「チラシデザイン制作16万5000円」「ボスターデザイン制作5万5000円」「選挙広報デザイン 5万5000円」については、「支出の部」に、「選挙運動」の「区分」で、「さいとう元彦後援会」宛ての支払として記載されています。

一方、「公約スライド制作 30万円(税別)」については、同収支報告書に記載されていません。

この点につき、奥見弁護士はメディアの取材に対し

「公約のスライド制作は政治活動にあたり、選挙運動には含まれないため除いた。問題はないと考えている」

と説明しています。

奥見弁護士の説明は不合理、信用性なし

奥見弁護士の説明は、公選法違反ではないとする斎藤氏の見解にできるだけ沿う主張を一方的に述べ、それに反するnote記事の内容を、事実と異なると主張するだけで、その根拠は何も示していません。証拠として提示しているのは、事後的な請求書のみで、契約書や見積書など、契約時の当事者の意思表示の内容を客観的に示す証拠は何も提示されていません。

【前記ブログ】で述べたように、折田氏のnote記事については、周囲の言動など、note記事と整合し、奥見弁護士の説明に反する客観的な証拠が見られることと比較しても、斎藤氏側の主張の信用性は低いと言わざるを得ません。

斎藤氏側は、斎藤氏が9月29日に「merchuオフィス」を訪問し、その際に、ポスターデザイン、チラシデザインの制作、SNSの利用について「説明」を受けたが、SNS広報戦略についての「提案」は受けておらず、その後、同社から送付された見積書の中の5項目のデザイン制作業務だけを依頼し、広報戦略、SNS戦略などは同社には依頼していないと主張しています。

しかし、以下の点を考えればその説明の信用性はほとんどないと言えます。

9月29日の「merchuオフィス」での打ち合わせでは、安野氏の都知事選の選挙総括noteも使いながら、「広報戦略のご提案」の提案を斎藤氏本人に向けて行っていたことが、客観的なnote記事掲載写真からも明らかです。したがって、当日の話題の中心が個々のポスター、チラシなどの制作の話ではなく、確固たる「SNS運用方針」と、その方針が「SNS運用フェーズ」に従い投開票日まで貫かれること、などの広報戦略の説明にあったことも明らかで、個々の制作の話は、そうした戦略の下で一新され、統一されたコピー・メインビジュアル等をいかに制作物に落とし込むか、という、広報戦略に附随する話に過ぎず、制作だけ切り離せる話ではないことになります。

そうであれば、9月29日の打ち合わせを受けて、後日、個々のデザイン制作だけを個別に依頼したとの斎藤氏側の説明は、不自然、不合理です。また、斎藤氏側は、斎藤氏側の説明に符号する、個別の見積書すら示すことができていません

しかも、前に述べたように、K氏と神戸市議とのLINEのやりとりなどから、10月5日に、斎藤陣営で「選対会議」が開催され、merchu社に対し「SNS監修」を依頼することが決定したことは明らかです。

5項目のデザイン制作業務だけを依頼し、広報戦略、SNS戦略などは同社には依頼していないとの斎藤氏側の主張は、客観的にみておよそ根拠のない主張であり、認められないものと考えます。

「SNS運用はボランティア」との主張の不合理性

斎藤氏側は、9月29日の打ち合わせにおいてSNSの利用についての話し、すなわち「SNS運用についての提案」があったことは認めていますが、それは、merchu社に依頼した業務には含まれず、実際に折田氏が行ったSNSアカウントの立ち上げ、ハッシュタグの決定、記載事項のチェック、動画のアップロードなどのSNS運用は「個人としてのボランティア」だったと説明しています。しかも、折田氏が主体的・裁量的に行っていたものではなく、斎藤氏や斎藤陣営が主体的に運用していたとも主張していますが、以下の(a)~(d)で述べる理由により、そのような斉藤氏側の主張の不合理性は明らかです。

(a)「公式応援アカウント」の設置と「本人アカウント」との連携という発想

「応援アカウント」の設置や運用は、明らかに一連の広報戦略の下で、折田氏の発想で設置され、折田氏の考え方にもとづき運用されており、merchu社に依頼した業務には含まれないとか、斎藤氏や斎藤陣営が主体的に運用していたなどという主張に根拠はありません。

例えば、そのことは、公式の「応援アカウント」の設置、運用に如実に現れています。

通常、選挙における「応援アカウント」は勝手連的なものであり、候補者側が主体的に管理するものではない、と考えられます。実際、斎藤氏側も、2021年の前回選挙では、「応援アカウント」こそ存在するものの、公式を打ち出しているわけでもなく、「本人アカウント」との連携も行われていないように見えます。

しかし今回は、「公式」の「応援アカウント」が設置されており、その投稿内容も、「本人アカウント」との連携、連動を強く意識したものとなっています。このようなアカウントの設置や、本人アカウントとの連動などのアイデアが折田氏のものであることは、令和6年に受注した「高知県SNS公式アカウント分析等委託業務」の企画提案書で同様の「アカウント相互連携」「相乗効果」を謳っていることからも明らかであり、note記事記載の通り、折田氏の提案した「戦略」だと考えられます。

(b)「公式応援アカウント」と「本人アカウント」との相乗効果ということの意味

「応援アカウント」を候補者側が公式に設置する、ということは、「応援アカウント」が単に斎藤氏の動向・予定を告知する目的だけで設置されていたのではないことを意味します。それだけが目的なら、公式本人アカウントから淡々と情報発信すればよいためです。

より重要なのは、「本人アカウント」と「応援アカウント」を通じて発信した情報がどのように拡散し、受容されたかを分析し、次の広報戦略のアップデートに活用することです。それが「相乗効果」の意味であり、merchu社および折田氏の広報戦略なのです。

実際折田氏は、設置した「応援アカウント」の管理権限のみならず、「本人アカウント」の管理権限も有していたことが、前記の通り、折田氏note記事に掲載されている画像から推認されます。管理権限者としてXのAnalytics情報(投稿やアカウントのパフォーマンスを分析するための情報)を参照し、投稿活動を分析・可視化して、広報戦略を日々見直し、次の投稿内容の精査を行っていたものと思われ、それは業務として広報戦略を行っているプロの仕事であり、実際にnote記事記載の通りに十分な成果を上げているのであって、そのようなことを斎藤氏や斎藤陣営が成功裡に行えるとは思えません。

(c)統一的なハッシュタグによる運用

また、「ハッシュタグ」は選挙前から「#さいとう元知事がんばれ」に統一され、投開票日までその通りに運用され、当選とともに「#さいとう元彦知事がんばれ」に変化するというストーリー性まで持たせています。

「ハッシュタグ」は、note記事記載の通り、応援の流れに方向性を提供し、アルゴリズムを有利にし、また、投稿の追跡、分析も容易にするため、一本化することが非常に重要です。また、斎藤氏の「斎」の字は様々な字体がありますが、表記のゆれは投票の有効無効にも直結する極めて重大な問題です。

この「ハッシュタグ」に関しての折田氏のnote記事の記載は、その考え方、設計方法など、熟考した様が極めて具体的に書かれ、しかも当初の記事には、斎藤氏に提案した際の斎藤氏のリアクションまで書かれていて、その内容からは、折田氏が「#さいとう元知事がんばれ」との「ハッシュタグ」を考え、これへの統一を提案したものと考えるのが自然です。

しかも実際、2021年の前回選挙を含め、それまではバラバラであった「ハッシュタグ」が、10月5日に、斎藤陣営で「選対会議」が開催され、merchu社に対し「SNS監修」を依頼することが決定した直後から、「#さいとう元知事がんばれ」に変わっています。

例えば斎藤陣営の森けんと氏は、10月4日までは「#斉藤元彦がんばれ」と投稿していますが、10月5日には、

「本日も選対会議です #さいとう元知事がんばれ 皆様、このタグを覚えてて下さい」

と投稿しているのです。

こうしたことから、広報戦略上重要である「ハッシュタグ」について、折田氏が自ら考え、提案したといえ、統一的な「ハッシュタグ」による運用について、斎藤氏や斎藤陣営が主体であり、主導したとは到底いえないものと思われます。

(d)その他の運用

その他、「応援アカウント」のフォローを「本人アカウント」のみとし、偽アカウントを排除する仕組みは、素人では思いが至らない点ですが、note記事記載の通り、投開票日まで「本人アカウント」のみのフォローとなっています。

また、「応援アカウント」や「本人アカウント」に次々と投稿される、視認性の高いデザイン、綺麗なビジュアルによる演説会等の告知画像などは、必要に応じて即時に作成する必要のあるものですが、活字のバランスや配置、配色等々、全体のスタイルが統一されているものとなっており、プロの関与が強く推認される制作物です。

こうしたことからも、note記事記載の通り、折田氏が「ブランドイメージの統一」、「政策を分かりやすいビジュアルや表現で県民に届けること」や、「各SNSに適したレイアウトや内容に最適化して届けること」などの戦略の下で、折田氏が「監修者として」「責任を持って」SNS運用していたと考えるより他ありません。

結局、これらの点を総合的に考えれば、SNS運用をmerchu社および折田氏が一貫した広報戦略の下で投開票日まで行っていたことは明らかであり、折田氏がSNS運用は折田氏が主体的・裁量的に行っていないとの斎藤氏側の主張には、合理的根拠がないといえます。

斎藤氏側の主張を前提としても、公選法違反を否定できないこと

「5項目のデザイン制作業務だけを依頼した」との斎藤氏側の主張には根拠がなく、事実とは考えにくいのですが、仮に、5項目のデザイン制作業務だけを依頼したとしても、斎藤氏側の主張には不合理な点があります。

前記の通り、対価の支払いが原則として許されない「選挙運動」かどうかは、主として個々の行為が「主体的・裁量的」かどうかによって決まるのであり、それが選挙運動の「内部的準備行為」に過ぎないものかどうかや、「告示前」の行為かどうかとは無関係です。ところが、斎藤氏側は、告示前の選挙の準備である制作業務だけを切り離し、それに対して対価を支払っているのだから違法ではない、と考えているように思われます。

実際に、それぞれの制作業務の具体的な内容を見ていくと、「機械的労務」とはいえず、「主体的・裁量的」な部分があり、「選挙運動」と評価されるため、そうした制作業務に対する報酬の支払いは違法と考えられます。

「公約スライド制作」 

まずは「公約スライド制作」を「政治活動」としている点です。

斎藤氏は、10月23日に、知事選への出馬表明を行い、その際に、その記者会見で公約スライドを配布し、その後、自らの公式ホームページに、選挙期間中も掲載しています。この「知事選候補としての政策」のスライド化を折田に依頼し、note記事によれば、その内容については、斎藤氏側がワードファイルで提供したとされています。

これに対し奥見弁護士は、

「スライドは告示前の記者会見で使ったため、選挙運動ではなく、政治活動の費用として後援会が支払った」

「公約の中身ではなく、あくまでデザインの委託費だ」

と述べ、

「公選法に違反する支払いはない」

と説明したとされています。

しかし、斎藤氏は、9月19日に不信任決議案が可決されて失職した前知事であり、スライド制作を折田氏に依頼したとされる10月上旬の時点では、無所属で立候補する意思を表明していたものの、選挙では圧倒的に不利とされ、当時、当選の可能性は極めて低いと考えられていました。

公約スライドは、斎藤の公式ホームページに掲載され、斎藤が知事選挙で当選して再度知事の職に就いた後も、斎藤の政治活動にも継続して使われていることは事実ですが、少なくとも、上記10月上旬の時点では、知事選に当選しなければ、斎藤氏が公約スライドを政治活動に使用する余地はほとんどありませんでした。だからこそ、選挙運動に使用するために、少しでも効果的な公約のスライド化を、PR会社社長の折田氏というプロに頼み、30万円という費用を支出したものと考えられるのです。

このような依頼時の状況からして、斎藤氏が、ただ政治活動のためにスライドを作成しようと思ったのではなく、知事選挙で当選する目的をもって、「政策スライド作成の依頼」を行ったものと考えられます。

「スライドデザイン」の構成における有権者への訴求力の追求

スライド制作の依頼を受けた折田氏は、note記事において、

「ワードファイルの内容を読み解き、どのような方でも見やすいデザインを意識したスライドに仕上げるため、記者会見の直前まで手直しをし、何とか間に合わせた」

と述べています。そして、そのような目的に沿うよう、公約スライド全体が構造化されており、細部に至るまで様々な工夫が加えられています。

例えば1枚目(表紙)では、「兵庫の躍動を止めない!」という最重要メッセージを提示し、すべての公約内容を一文でまとめています。公約内容というよりは、政治宣伝文となっていて、最低限これだけが伝わればもう十分だという内容が簡潔に記されています。

一般的に、公約スライドを手に取って詳細に目を通す者は少ないため、この表紙が一番重要であり、これだけで万単位の人々に宣伝文が到達するものでなければなりません。表紙も、末尾の写真入りスライドも、テレビ番組の制作会社が絵を使いやすいように作られています。

また、スライド3枚目(2頁目)は、「実績」の記述です。少なくともmerchu社としてはSNS戦略上、ネット上で拡散している「98.8%」という数字の訴求力は魅力であり、強調したいところです。そして単に98.8%というだけでなく、「既得権益」「しがらみ」を頭に置いています。98.8%という数字(赤字、特大サイズの文字)。それに円グラフ(さいとうブルー)で一目見て把握できるようにする工夫しており、前半は「98.8%」、それに「127億円を超え」という2か所だけ(文字サイズも特大)、しかも、今回の赤は暗めの臙脂色。目がチカチカしない。それでいて一番重要な数字は目に飛び込んでくるようになっています。

以降のスライドにも、

  • 選挙戦を通じて一貫して用いられた「さいとうブルー」によるスライドの着色
  • 特に若年層に届きやすい未来志向の政策の掲示
  • 文字だらけにならないようイラストを交えたわかりやすいスライド構成
  • 「既得権益」「しがらみ」「兵庫の躍動を止めない!」などの重要なキーワードの反復
  • 写真を使い、極力文字を省き、「兵庫の躍動を止めない!」の文字を浮かび上がらせるとともに、それぞれの文字サイズを大きくし、文字位置をずらすことで文字通り「踊る」ような印象を与えるデザイン

等々、様々な創意工夫が見受けられます。

「ワードファイル」からこのようなスライドを制作する作業は、到底「機械的労務」とは言い難く、折田氏の主体的・裁量的な作業であったことは明らかです。

「公約達成率98.8%」が選挙運動で強調されるに至った経緯

上記のスライド全体の構成のうち、重要な事項のひとつが「公約達成率98.8%」です。

斎藤氏は、2024年8月1日に知事就任から3年を迎えるに際し、前回知事選挙での173項目の公約のうち171項目を達成か着手しており、着手・達成率は「98.8%」だと誇っていたのですが、実は、そもそも公約数自体が173ではなく、137しかなかったことを(何かの過程で137を173に取り違えたと思われる)、日本ファクトチェックセンター(JFC)や子守康範元毎日放送アナウンサーのYouTubeチャンネル等で指摘され、その点を効果的に攻撃されると命取りになってしまいかねないと考えたのか、公式ホームページから、前回公約を削除しています。

このような状況下で、斎藤氏が「公約達成率98.8%」を自ら主体的に選挙のアピール材料に使おうとしたとは思われず、実際に、10月20日に行われた「公開討論会」でも、斎藤は、「公約達成率98.8%」を自分からは持ち出していません。

一方で、ネット上では98.8%という数字が独り歩きし、驚異的に拡散していました(2024年9月21日、Xの「ツイッター速報」で「【悲報】兵庫県斎藤知事の公約実現率、脅威の98.8%」という言説が拡散し、9月25日の時点で、996万回以上の閲覧回数と6100件以上のリポストを獲得しています。)。

そして、10月20日に行われた「公開討論会」の3日後に完成した公約スライドでは、98.8%を公約の筆頭に掲げ前面に打ち出しているのです。

このような斎藤氏の態度の変遷は、SNS上での98.8%という数字の影響力に鑑み、SNS戦略を専門とする折田氏の発案で、この数字を強調しようとしたものである可能性が高く、少なくとも、斎藤氏が主体的に判断したものとは考えにくいものです。

以上のことから、スライド制作は「公約の中身ではなく、あくまでデザインの委託費」との説明に合理性はなく、実態としては、その「デザインの委託」というのは、斎藤氏が提供した公約内容のワードファイルを基に、公約スライドを作成することを折田氏に全面的に委ねたものであり、折田氏は、その構成、文字の大きさ、色使いなどにより有権者への訴求力を高めるために、様々な創意工夫を行い、また、98.8%という数字を目立たせるなどして公約スライドを完成させたのであり、同スライド制作に斎藤を当選させるための活動としての主体性・裁量性があったといえ、「選挙運動」であったといえます。

「メインビジュアルの企画・制作」

メインビジュアルとは、「ファーストビュー(最初に表示される画面領域)に含まれる大きな画像」です。

一般的には、こうした画像の撮影、制作については、候補者本人のこだわりや意向もあり、候補者の指示、もしくは候補者主導の下で協議して作成している分には「機械的労務」といえます。

しかしながら、本件では、note記事によれば、折田氏側が「コピー・メインビジュアルの一新」を提案し、実際、9月29日の折田氏側の提案資料通りのコピー・メインビジュアルの一新が行われ、斎藤氏は現在まで、その一新されたコピー、メインビジュアルを使い続けていることになります。

また、メインビジュアルを採用した理由について、折田氏は

「斎藤さんの持つ、真の強さと柔らかさをカラーで演出」

「グラフィックエレメントは須磨の海・斎藤さんご自身の人生をイメージした波線を採用」

「右斜め上に向かわせることで斎藤さんの率いる改革が進み、兵庫が躍動していく様子を表している」

などと述べており、折田氏側が考え抜いて提案しているメインビジュアルであることは明らかです。

さらに、こうしてできあがったメインビジュアルについて、折田氏は「デザインガイドブック」を作成して、全ての制作物を、それに準拠する形で制作し、選挙カーや看板を制作する業者にも配布し、折田氏により統一を図ったとの趣旨の記述もあります。

note記事を前提とすれば、折田氏の「メインビジュアルの企画・制作」業務は、「主体的・裁量的」であることは明らかであり、「選挙運動」となるため、報酬の支払いは認められないことになります。

「チラシデザイン制作」「ポスターデザイン制作」

選挙運動費用収支報告書では、「チラシデザイン制作」に16万5000円、「ポスターデザイン制作」に5万5000円の支出が計上され(支出先は「さいとう元彦後援会」)、「チラシ作成費」「ポスター作成費」については、いずれも、公費負担で「セイコープロセス株式会社」に、98万5500円、150万2550円が支払われています。

しかし、セイコープロセス株式会社同社のHPには、「チラシのデザインについて」と題して、以下の記載があります(https://www.seikoprocess.co.jp/printing/flyer/)。

《掲載したい内容がリストアップできたら、何を一番知らせたいか、の順番を決めてください。その上で、イメージしているものに近い資料や色柄、雰囲気などお伝えいただければ、弊社デザイナーが効果的なデザインに仕上げさせていただきます。》

つまり、同社にはデザイナーがいて、「弊社デザイナーが効果的なデザインに仕上げる」というのですから、斎藤氏側はポスター・選挙ビラの「デザイン」を同社に委ねることもできたはずなのです。しかも、その費用を一括して選管に請求し公費負担とすることも可能だったはずです。上記のとおりメインビジュアルが既に出来上がっており、実際に、ポスターと選挙ビラは、そのメインビジュアル画像を全面的に使用しているのであり、セイコープロセスにメインビジュアル画像を送って、あとは、同社に任せることが可能だったということになります。

note記事に書かれているように、

「紙媒体も既存の型にははめず、斎藤さんのことを分かりやすく様々な年代の県民の皆さまに届けるためにはどうしたら良いのか、仕様やサイズの異なるそれぞれの媒体でのベストをデザインチームと日夜追求した」

のであれば、セイコープロセス社に「機械的労務としてのデザイン」を含めて公費で頼むことが可能であったのに、敢えてそれを行わず、印刷だけを発注し、「ポスター」「選挙ビラ」のデザインを、別途merche社に依頼し、有権者に届ける効果的なデザインを追求したということになります。

この場合は、これらのデザインを「当選を得させる目的」をもって主体的・裁量的に行った可能性が極めて高いことになります。

斎藤氏自身の「説明」「供述」は

これまで述べきたとおり、斎藤氏の代理人奥見弁護士の説明は、公選法違反ではないとする斎藤氏の見解にできるだけ沿う主張を一方的に述べ、それに反するnote記事の内容を、事実と異なると主張するだけで、全く不合理極まりないものです。

このような代理人説明だけで、定例記者会見で質問されても、「代理人に任せている」と言って一切の説明を拒絶している斎藤氏が、被告発人として警察、検察の取調べを受けた際に、どのような供述をしているかが重要となります。

この点について、誠に不可解なのが、今年6月28日放映のTBS報道特集【問われるSNSを使った選挙運動 公職選挙法違反の分かれ目は? 斎藤氏側の説明に矛盾も…】でのTBSの取材に応じた奥見弁護士が、「知事からは全く事情を聴いていない」ことを認めていることです。

前記のとおり、昨年9月29日に、斎藤氏らがメルチュ社を訪問した際の「SNS戦略のご提案」と読める画面がスクリーンに出されているだけでなく、安野氏の都知事選の選挙総括noteも使いながら、「広報戦略のご提案」の提案が斎藤氏本人に向けて行っていたことが、客観的なnote記事掲載写真からも明らかなのですから、奥見弁護士が斎藤氏に代わって説明するのであれば、この点を含め、斎藤氏に詳しく事情を聴いた上で記者会見での説明を行うのが当然のはずです。

それらの点について斎藤氏自身は警察や検察でどのような供述を行ったのか、その点が、兵庫県知事斎藤元彦氏をめぐる公選法違反の問題の最大の焦点ということになります。

おわりに

これまで、【斎藤元彦氏公選法違反事件、「追加告発」を含め、改めて解説する】において、これまでの経緯と全体総括を行った上、【斎藤元彦氏公選法違反事件、折田氏note記事の内容と裏付け証拠を徹底分析する】で、本件の発端となった折田氏のnote記事について分析、そして、本稿で、斎藤氏側の説明・弁解を徹底分析しました。

私が7月から体調を崩し、入院中だったにもかかわらず、現時点で、今回の公選法違反の告発事件についてこのような詳細な分析記事を完成させることができたのは、冒頭の記事でも紹介したように、私の事務所の法務コンプライアンス調査室長の佐藤督が、本件に関する資料情報の取りまとめ、判例文献の収集を行い、記事の原案作成も含めて、入院中の私の活動を全面的にサポートしてくれたことによるものです。

こうして私の発信に貢献してくれている佐藤のほか、2か月にわたって代表弁護士が不在の事務所を支えてきてくれた事務所所属の弁護士である私の妻と事務所スタッフ全員に、ここで改めて謝意を述べたいと思います。

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斎藤元彦氏公選法違反事件、折田氏note記事の内容と裏付け証拠を徹底分析する

斎藤知事、merchu社の公選法違反事件の発端となった折田氏note記事

今回の告発の発端となったのは、折田氏が11月20日に公開したnote記事です(現在公開されている記事は修正されていますので、公開当時の記事をもとに、適宜修正点について言及します。なお、修正箇所についてはまとめ記事が複数存在し、また、当時の記事も魚拓サイトなどで確認できます。)。

note記事では、斎藤氏の選挙戦において、merchu社に斎藤氏が訪問し、

「ご本人は私の提案を真剣に聞いてくださり、広報全般を任せていただくことになりました。」

と、依頼があったことを明かし、その詳細な手法まで記されていました。

人の供述として何に証拠価値があり、何が信用性があると評価されるかといえば、何と言っても、自分自身の意志で書いた文章です。その内容が本人の認識・記憶と違うとすれば何らかの原因によって記憶に誤りが生じたか、或いは記憶と異なることを誰かから強制されて書かされたか、いずれかです。そういう事情がない限り、自分自身で書いた文章というのは刑事事件の証拠としては極めて証拠価値が高いものと言えます。

一方で、警察官や検察官が作成する供述調書というのは、捜査機関側の意図を持って作成され、時として本人の言ってることと全く異なったことが供述調書に書かれ、何らかの心理的な圧迫を受けて署名してしまうということが、過去には枚挙にいとまがありません。

そういう意味で、今回の公選法違反事件の発端となった折田氏のnote記事の内容を詳細に分析するとともに、折田氏が別途行っている言動や、選挙期間中に関わりがあった関係者の人たちの言動などから、note記事の信用性、証拠価値を明らかにして行きたいと思います。

まず、前提として重要なことは、一般的な公選法の理解からすれば、選挙コンサルタントや選挙広報などについて、「業務として報酬を得て関わることは原則として許されない」ということです。

有償でも許されるのは、政治活動に関する業務か、機械的労務に限られます。選挙運動に対して主体的・裁量的に企画立案を行った場合、報酬を受ければ買収罪となり、ボランティアで行うよりほかありません。(※詳しくはこちらの記事【斎藤元彦氏ら告発事件に関する公職選挙法解釈の基本的事項】をご覧ください)

しかし、政治活動と選挙運動はそう簡単に切り離せるものではなく、ここまでが業務で、ここからがボランティア、などと単純に割り切れるものではありません。そのため、選挙コンサルタントや選挙広報などを行う業者は、いままで、対価を得るのであれば、政治活動の段階にとどめ、選挙運動には加わらないことにしたり、選挙運動にも関与するとしても、グレーな面があるため、ボランティアであることをできるだけ徹底し、表に出ない形で関与して黒子に徹することが鉄則であると理解されてきました。

しかし、このnote記事は、選挙に関与し候補者を当選に導いたことを公言し、その業務内容の詳細を自ら明かすという、通常ではあり得ない、かなり異例な形となっています。

以下、note記事の内容を見ていきます。

merchu社および折田氏が斎藤氏の選挙戦に関わるきっかけ

note記事では、merchu社および折田氏が斎藤氏の選挙戦に関わるきっかけについて、

「とある日、株式会社merchuのオフィスに現れたのは、斎藤元彦さん。

それが全ての始まりでした。

ご本人が何度も口にしている通り、政党や支持母体などの支援ゼロで本当にお一人から始められた今回の知事選では、新たな広報戦略の策定、中でも、SNSなどのデジタルツールの戦略的な活用が必須でした。

兵庫県庁での複数の会議に広報PRの有識者として出席しているため、元々斎藤さんとは面識がありましたが、まさか本当に弊社オフィスにお越しくださるとは思っていなかったので、とても嬉しかったです。」

と述べられていて、自身のSNS戦略が今回の選挙で重要であること、斎藤氏からの往訪がきっかけであること、などが記載されていましたが、上記の文はその後すべて削除されています。なお、9月29日に、merchu社に斎藤氏が訪れたことについては、当事者に争いはなく、間違いのない事実です。

さらに、斎藤氏が会社往訪の際、斎藤氏にプレゼンした状況の写真も、

merchuオフィスで「#さいとう元知事がんばれ」大作戦を提案中

という説明文とともに掲載され、その説明資料である、

兵庫県知事選挙に向けた広報戦略のご提案 #さいとう元知事がんばれ

との資料表紙の画像も掲載されています。

このプレゼン状況の写真では、上記の「広報戦略のご提案」の提案資料がメイン画面に映し出されているほか、折田氏側のノートパソコン画面に、SNSの活用によって下馬評より多くの得票に成功した都知事選候補・安野貴博氏の選挙総括noteも映っており、安野氏の選挙におけるSNS戦略も補助的にプレゼンに使われ、参考にされていたことも伺えます。

なお、後日、上記画像の説明文は、

オフィスで「#さいとう元知事がんばれ」を説明中

に変更されています。

SNSにおける広報戦略の方針

note記事では「SNS運用方針」と題したスライド画像が掲載されており、

SNSを活用して「斎藤知事を応援したい」「兵庫県をよくしたい」という想いをプラットフォーム化し、ムーブメントを起こす!!!

との方針の下、Xなどの「本人アカウント」と、公式の「応援アカウント」を「県民にメッセージを投げかけ、今回の選挙を自分ごと化、さらには応援してもらう」という狙いの下で連動させ、相乗効果を目指す旨が記載されています。

さらに、選挙戦を3つに分けた「SNS運用フェーズ」というスライドも投稿されており、そこには、

10月1日~13日 フェーズ1:種まき

 立ち上げ:運用体制の整備

10月14日~31日 フェーズ2:育成

 コンテンツ強化(質)

11月1日~17日 フェーズ3:収穫

 コンテンツ強化(量)

と記載されていて、11月17日の投開票日まで、上記のSNS運用方針にもとづき、戦略的にSNS運用を行っていくことを、折田氏側が提案したことが明示されています。

 さらに、こうしたスライドによる提案に対し、

ご本人は私の提案を真剣に聞いてくださり、広報全般を任せていただくことになりました。」

と述べています。

なお、後日、「SNS運用フェーズ」のスライド画像と、「ご本人は私の提案を真剣に聞いてくださり、広報全般を任せていただくことになりました。」との一文は削除されています。

選挙戦を通じたイメージ戦略

note記事では、「まず、プロフィール写真の撮り直しからスタート」したと記載されています。

「3年前の兵庫県知事選挙の時のイメージは、今の斎藤さんのイメージと異なるため、撮り直しのご提案をしました。大阪にプライベートスタジオをお持ちの信頼できるカメラマンさんと、友人に紹介してもらったヘアメイクさんに急遽ご依頼をしました。」

とし、

「全ての告知物に使われる重要な写真なので全員で念入りにチェック」

したとも記載されています。

さらに、折田氏側が「コピー・メインビジュアルの一新」を提案し、実際、9月29日の折田氏側の提案資料通りのコピー・メインビジュアルの一新が行われ、斎藤氏は現在まで、その一新されたコピー、メインビジュアルを使い続けています

なお、折田氏側は、このコピー・メインビジュアルの理由について、

「カラーは、兵庫県旗の色を意識した「兵庫ブルー」をベースとした斎藤さんオリジナルの「さいとうブルー」に一新しました。斎藤さんの持つ、芯の強さと柔らかさを、グラデーションカラーで演出しています。グラフィックエレメントは、ご本人の出身地である須磨の海をイメージした波を採用しました。右斜め上に向かわせることで、 今回の選挙戦を突破し、斎藤さんの率いる改革が進み、兵庫が躍動していく様子を表しています。また、斎藤さんご自身の「人生」をも表しているのです。」

などと詳細に説明もしています。

さらに、

「メインビジュアルの統一を徹底するため「デザインガイドブック」の作成も合わせて行いました。選挙カーや看板を制作してくださる業者に配布し、統一したデザインで素敵に仕上げていただきました。」

とも述べており、選挙運動全般について、このコピー・メインビジュアルで統一されるような仕組みを作ったことも明記されています。

SNSアカウントの立ち上げの戦略

X公式「応援アカウント」については、note記事で

「プロフィール撮影やコピー・メインビジュアルの作成が完了したタイミングで、【公式】さいとう元彦応援アカウントを立ち上げ、ご本人のSNSアカウントとは別に、応援したい人が集えるハブとして運用を開始しました。」

と述べています。なお、「応援アカウント」としての運用開始は2024年10月7日です。

そして「セキュリティ」について

「全てのアカウントで、認証アプリを活用した2段階認証の設定を徹底し、乗っ取りやアカウントバンなどへの対策を行いました。」

と記載しています。

さらに、「公式アカウントとしての信頼感の担保」の方法として、

X本人アカウントが、この公式応援アカウントをフォローし、フォロー数を1としたことで、本人公認の公式アカウントであることが明示され、ユーザーが偽アカウントなどと混乱しないような対策を施しました

と述べています。

そのうえで、折田氏側が運用面でこだわったのが「ハッシュタグ」だと記載しています。

「斎藤さんへの世の中の見方を変えていく上で重要だったのが、ハッシュタグ「#さいとう元知事がんばれ」です。

当時、様々なアカウントで多種多様なハッシュタグが使用されており、公式としてタグを一本化して発信することで、応援の流れに方向性を提供する必要があると考えました。また、タグが統一されてポスト数が増えていくことで、アルゴリズムにも有利に働くため、急速な支援の輪の広がりも期待できます。

「#さいとう元彦がんばれ」ではなく、あえて「知事」を入れることで、「さいとうさん=知事」という視覚的な印象づけを狙いました。さらに、「元彦」さんと「元知事」を掛け合わせて、「前知事がんばれ」ではなく「元知事がんばれ」としたのも、こだわったポイントです。ここは、ご本人も気に入っていました

ハッシュタグというシンプルで簡単に見えるワードでも、それをどのように拡散してもらいたいのか、表記揺れなどを最小限にできるか、入力しやすいかなど様々な視点を考慮して設計することが大切です。」

と述べ、ハッシュタグの統一が、拡散にとっていかに重要か、また、ハッシュタグの視覚的効果などを詳細に語り、こうした緻密な戦略について、とくに「元彦」さんと「元知事」を掛け合わせた点を、斎藤氏も気に入っていたことも明記していました。

こうした戦略があって、

「2024年10月7日のX公式応援アカウント公開の翌日には、約2万件の投稿に付与されトレンド入りしました」

と、自身の広報戦略の成果を誇っていました。

なお、後日「ここは、ご本人も気に入っていました!」の一文は削除されています。

既存の選挙媒体の戦略

note記事では、ポスター・チラシ・選挙公報・政策スライドといった、既存の選挙媒体についても、折田氏側が関与していたと記載されています。具体的には、

「今回、既存のやり方は通用しないと考えていたため、紙媒体も既存の型にははめず、斎藤さんのことを分かりやすく様々な年代の県民の皆さまに届けるためにはどうしたら良いのか、仕様やサイズの異なるそれぞれの媒体でのベストをデザインチームと日夜追求しました。斎藤さんの今回の選挙におけるブランドイメージを統一すべく、全ての制作物は先述のデザインガイドブックに準拠する形で制作しています。

中でも最も作成に時間を要したのが、こちらの公約スライドです。ご本人から上がってくる文字のみのワードファイルを読み解き、どのような方でも見やすいデザインを意識したスライドに仕上げるため、2024年10月23日に行われた記者発表のギリギリまで手直しをしていました。」

「当日の発表では、公約スライドをパネルとして印刷していただき、多くの媒体に掲載されました。選挙期間中には事務所の壁にも掲示されており、県民の方に斎藤さんの政策や想いを届けることができました。

ご本人から、「1番最初に政策発表記者会見ができて良かった」という言葉を頂き、大手では出せないスピード感や小回りの利いた対応が功を奏したのではないかと振り返ります。実際、全広報活動において、「先手」を意識しておりました。」

などと述べ、斎藤氏からは「文字のみのワードファイル」だけが提供されたこと、それを読み解きスライドにするのに「最も作成に時間を要した」こと、自身が考えた「コピー・メインビジュアル」との統一にこだわったこと、他の候補に先んじて公約のアピールができ斎藤氏からも喜んでもらえたこと、選挙期間中にも事務所の壁に掲示されていたことなど、苦労した様子が詳細に記載されています。

SNSの運用戦略

 SNSの運用については、

「斎藤陣営が公式として運用していたのは、以下のX本人アカウント、X公式応援アカウント、Instagram本人アカウント、YouTubeです。TiktokやLINEなど他にも様々なSNSがあるため、リソースが潤沢に準備できる陣営であれば、全方位的な運営ができたのかもしれません。ただ、今回は本当に限られたリソース(皆さま本業もお忙しい)での運営でしたので、戦略に基づき最適な媒体を取捨選択しました。私のキャパシティとしても期間中全神経を研ぎ澄ましながら管理・監修できるアカウント数はこの4つが限界でした。」

と記載されており、折田氏個人としての限界、および斎藤陣営のボランティアのリソースの少なさが原因で、媒体を絞らざるを得なかったことが述べられています。

また、SNSの運用における戦略については、

  • ブランドイメージの統一
  • ご本人のリアルな姿や人柄が伝わるコンテンツを届けること
  • 政策を分かりやすいビジュアルや表現で県民に届けること
  • 各SNSに適したレイアウトや内容に最適化して届けること
  • できる限り配信回数を増やして多くの情報を届けること

といったポイントが挙げられており、実際、「本人アカウント」や「応援アカウント」などで、そのような戦略に沿った投稿がなされていることも確認できます。

なお、ここで紹介されている「X本人アカウントの投稿」の画像では、下欄に「ポストのエンゲージメントを表示」と記載されています。これは当該アカウントに管理権限がある者がログインした場合にしか表示されない事項であり、折田氏がX斎藤氏本人名義アカウントにログインできる権限があったものと理解できます。

さらに折田氏は、

「私が監修者として、運用戦略立案、アカウントの立ち上げ、プロフィール作成、コンテンツ企画、文章フォーマット設計、情報選定、校正・推敲フローの確立、ファクトチェック体制の強化、プライバシーへの配慮などを責任を持って行い、信頼できる少数精鋭のチームで協力しながら運用していました。写真および動画の撮影については、現地で対応してくださっているスタッフの方々にお願いすることをベースに、私自身も現場に出て撮影やライブ配信を行うこともありました。」

と述べ、写真や動画撮影など、現場作業は手伝う程度であるにしても、すくなくとも「SNS全般」について、また立ち上げだけでなく、その後の「運用フェーズ」においても、責任ある立場で任されており、戦略を考え、運用について管理・監修等を行っていたことを明らかにしています。

そして最後に、

「今回の支援期間中にフォロワー数は以下の通り急増し、注目度の高さを日々感じていました。結果、X公式応援アカウントは、東京都知事選挙で盛り上がりを見せた【公式】石丸伸二 後援会のフォロワー数54,000を超えておりました。

2024年11月19日、斎藤さんが第54代兵庫県知事に就任されたと同時に「#さいとう元知事がんばれ」から「#さいとう元彦知事がんばれ」へとハッシュタグをアップデートすることで、この物語は無事に幕を下ろしました。」

と、当選までを「支援期間」とし、選挙を通じて、SNSで盛り上がったとされる都知事選の石丸氏を超えるフォロワーを獲得したことを成果として誇示しています。

折田氏自身の思い、苦労など

折田氏は、note記事で選挙戦を振り返って、「選挙は広報の総合格闘技」であり、「質・量・スピード全てが求められ、食べる暇も寝る暇もない程で」、「脳みそを常にフル回転し続けなければならない点が、最もハード」であり、「大きな試練」であったと振り返っています。にもかかわらず、「大手広告代理店がやっている」、「都内のPRコンサルタントが手掛けている」、「400人のSNS投稿スタッフがいた」などと「デマ」が拡散しており、

「驚きを隠せないと同時に、「私の働きは400人分に見えていたんや!」と少し誇らしくもなりました。そのような仕事を、東京の大手代理店ではなく、兵庫県にある会社が手掛けたということもアピールしておきたいです。」

と、今回のnote投稿の動機のひとつであろうエピソードを話しています。

そして最後に、

「今回の知事選は、兵庫県の未来だけでなく、今後の日本、そして政治や選挙のあり方にすら大きな影響を与える重要な選挙であったと考えており、約1か月半、全身全霊で向き合ってきました。」「特定の団体・個人やものを支援する意図もなく、株式会社merchuの社長として社会に貢献できるよう日々全力で走り続けたいと思っています。」

などと語っています。

note記事の法的評価と信用性評価

note記事の記述内容が事実であるとすれば、折田氏、および折田氏が社長を務めるmerchu社が、本件知事選挙に向けた広報戦略全般を斎藤氏に提案し、提案した戦略通りに、投開票日まで、組織的かつ継続的なインターネットでの選挙運動が行なわれたことが具体的に明らかにされているといえます。

また、note記事では、折田氏はmerchu社としての業務と、折田氏個人としての活動を切り分けてはおらず、むしろすべての広報戦略について、merchu社という、兵庫の小さな会社が担っていたことを誇ってすらいます。さらにnote記事に記載のある、投開票日までのすべての「SNS運用フェーズ」で一貫したSNS戦略の構築、運用を行っていることや、「広報全般」を任されてから、投開票日までを「支援期間」と称していること、「皆さま本業もお忙しい」ためにリソースが限られるなかで、折田氏自身は「食べる暇も寝る暇もない程」の忙しさのなか、約1か月半、全身全霊で知事選に向き合ってきたことなどについても、素直に読む限りは、折田氏が、merchu社の業務として広報戦略全般を請け負い、投開票日まで全力で業務に取り組んでいた、としか理解のしようがないものとなっています。

こうしたことから、note記事を前提とすると、総務省のガイドラインでも指摘されているように、本件は「業者が主体的・裁量的に選挙運動の企画立案を行って」いる事案そのものであり、さらにはその立案にもとづいた選挙運動自体も行っているのであって、「当該業者は選挙運動の主体」であるため、当該業者への報酬の支払は買収罪となるものと考えられます。

では、note記事の信用性についてどのように評価すべきでしょうか。

折田氏が代表を務めるmerchu社は社員数名の小さな会社ですが、令和6年度の実績を見ると、広島県の「SNS運用支援業務」が約1300万円、広島市の「SNS活用プロモーション業務」「広島ピースツーリズムフォトコンテスト等実施業務」「佐伯区のプロモーション推進委託業務」が約950万円、高知県が「高知県SNS公式アカウント分析等委託業務」で約250万円、徳島県が「SNSを主軸とした徳島県新時代情報発信業務委託」で約800万円など、自治体のSNS支援業務を多く受注して、ひとつの得意分野としていました。

そうだとすれば、merchu社および折田氏は、選挙に関わるのは初めてであり、公選法に対してあまりに無知であったため、結果としては大きなマイナスプロモーションとなってしまいましたが、今回の自治体選挙での“実績アピール”のための本件note記事は、兵庫県を含めた自治体のSNS支援業務について、次の仕事につなげようという意図があったことは明らかです。

そして、自治体との業務は信用が非常に大事になります。兵庫県の知事選での実績のPRに虚偽があるのであれば、兵庫県を含め、他の自治体との信頼関係は容易に毀損すると思われ、merchu社の業務状況を客観的に見る限り、折田氏が多少実績を誇張することはあり得ても、虚偽を述べる合理的理由はかなり乏しいと言わざるを得ません

また、折田氏は、これまで指摘したように、公選法違反の指摘等を受け、斎藤氏との直接のやりとりをうかがわせる文言など、多くの点をnote記事から削除、修正しているのですが、冒頭の一文、「今回広報全般を任せていただいていた立場として、まとめを残しておきたいと思います。」との文言は変えることはありませんでした。

斎藤氏の代理人の奥見弁護士らから「盛っている」などと指摘されてもなお、「広報全般を任せていただいていた」という点は削除、修正をしないのですから、折田氏はこの点に絶対の自信を持っているか、強いこだわりを持っている、と考えるのが通常です。

少なくとも折田氏は、「広報全般を任せていただいていた」と自負していて、虚偽を述べているつもりはないものと解されます。

note記事と整合する折田氏本人の発信

また、note記事と整合する折田氏の発信が、note記事の前から、折田氏のインスタグラムに見受けられます。

まず、選挙期間中である11月14日の投稿で、note記事と同様の記述として

「そんな中、広報PRのプロとしての私のご提案を聞きに来てくださったのが全ての始まりでした。」、

「わざわざオフィスまでお越しくださったのがとても嬉しかったです」、

「斎藤さんご本人の実績、政策、お約束などは、チラシ・選挙公報・公約スライドなど紙媒体さらには以下のデジタルツールで脳みそを毎日最大限にフル回転させながら分かりやすいデザインを心がけてお届けしています」

などの記載が見受けられ、広報のプロとして、この日も選挙に主体的・裁量的に関わり続けていることが示されています。

当時勢いは感じていたとは思いますが、いまだ優勢とは言い難く、まだ結果の判らない選挙に関して、自身の仕事に関係する関わりについて虚偽を述べる合理的理由は見出しがたく、これと整合するnote記事の記載は、事実である可能性が高いと思われます。

さらに、折田氏は選挙後、note記事投稿前の11月18日に、以下のような文章を含むインスタグラム投稿を行っています(なお、現在でも閲覧可能で、修正はされていません)。

約1ヶ月半の四六時中スマホを握りしめて対応し続けたこの日々が終わってしまうのは、寂しく思いましたが、その他もやることがたくさんで、まだまだ全く落ち着く気配がありません

今回は中から見ていても、本当に様々なドラマやストーリーがあり、事実に基づいたドキュメンタリー映画を作って欲しいぐらいです!笑

というのも相変わらず事実に基づかない報道が早速出回っており、私としては非常にもどかしく思っております。

たとえば、私が関わらせていただいている広報PR周りでは、【SNS投稿を担う約400人のスタッフが原動力】という内容を各大手メディアが報道していますが、【約400人のSNS投稿スタッフは陣営内にはいません】。

公式として、世の中の情勢に鑑みて、自らが立てたフェーズごとの戦略に基づき、県民の皆さまに【事実を正しく伝える】ために1つ1つ慎重に情報を精査し、個人情報保護の配慮やファクトチェックなど、かなり神経を研ぎ澄まして本当に信頼できる少数精鋭のチームの皆さまと力を合わせて運営してきました

そのような運営を常に心がけていた側からすると、何をソースにして、どんなファクトチェックをしたら、「400人の投稿スタッフが関わっている」と受け止められるような情報をさも事実であるかのように世に出せるのかが全く理解できません

逆に有志のボランティアの発信者は400人どころではなく、4,000人も40,000人もそれ以上にたくさんいたはずです。それぐらい大きく応援の輪が広がりました

今回の一連の流れの中で、マスメディアがどれだけいい加減な情報を流布しているか身をもって知ることができました。

本当に情報が溢れる世の中だからこそ、様々な媒体からできる限りの情報を入手して、自分の目で見て、耳で聞いて、何が本質なのか追究する姿勢が何よりも大切です。

SNSですら、あくまでも一つのメディアであることを忘れてはなりません。

だからこそ、情報の発信者はより真摯に、真剣に、事実を届けることに向き合う必要があると思っています

世の中では、折田氏を“キラキラ女子”扱いし、自己顕示欲からnote記事で自己の実績を盛ったかのような話がまことしやかに流布していますが、少なくとも18日のインスタグラムの投稿では、前日の17日の日経新聞の記事に、斎藤氏の勝因の一つとして「攻勢の原動力となったのは、SNSへの投稿を担う約400人のスタッフだ」などと事実無根の記事を書かれ、自己の頑張りがなかったことにされそうになったことに怒り、ファクトを報じろ、という文脈において、「約1ヶ月半の四六時中スマホを握りしめて対応し続けた」、「公式として、世の中の情勢に鑑みて、自らが立てたフェーズごとの戦略に基づき、県民の皆さまに【事実を正しく伝える】ために1つ1つ慎重に情報を精査し、個人情報保護の配慮やファクトチェックなど、かなり神経を研ぎ澄まして本当に信頼できる少数精鋭のチームの皆さまと力を合わせて運営してきました」などと、ファクトとしての自己の業務を記載していることは明白です。

日経新聞に対してファクトを報じろと批判しつつ、自己の実績について盛って記載するということは、通常でも考え難く、また、広報を生業とする者が広報業務に関してそのようなことを行うことは、自殺行為に等しいものと思われます。

「自らが立てたフェーズごとの戦略に基づき」などの、上記投稿にある折田氏の主体的・裁量的な活動をうかがわせる記述は事実である可能性が極めて高く、これと整合するnote記事の記載は、事実であるといえます。

note記事と整合する周囲の発信

週刊文春 (1月23日号)などの報道によれば、斎藤氏の後援会事務所が入る物件のオーナーで、21年の前回選挙での選挙運動を手伝っていて、9月29日の斎藤氏のmerchu社往訪にも同席していたK氏が、10月5日に上原みなみ神戸市議(報道時は匿名)と面会した際、上原氏は斎藤氏を支援しようと名乗り出て、特にSNS戦略で協力を申し出ていたところ、明くる6日朝、この市議のもとにK氏から

「昨日の会議内容 Sns監修はメルチュさんにお願いする形になりました

として、申し出を断るLINEが届いたとしています。

上原氏も、

「SNS監修はメルチュ折田楓さんにお願いすることになりました」というLINEを受け取ったのは私です”、

と報道を認めるYouTubeを発信しており、文春の報道内容や、森けんじ氏の「選対会議」に関する発信なども合わせて考えると、10月5日に、斎藤陣営で「選対会議」が開催され、merchu社に対し「SNS監修」を依頼することが決定したことは明らかです。

斎藤氏を支援し、斎藤陣営と関わりの強い森けんと西宮市議会議員が、自身のXにおいて、メディアからSNS戦略について取材があった際、

「結論、陣営側としてSNSをお願いしていた方はお一人のみです。」

と答えたと、11月19日16時すぎに投稿しています。

また、同じ会話の流れのなかで広報担当が誰かを詮索する返信が続き、同日17時頃に

「いえ違います。ボランティアメンバーではありません。」

とも投稿しています。

さらに、前記の折田氏のnote記事が11月20日の9時過ぎに投稿されると、森氏は同日10時50分頃に

今回の選挙においてSNSや紙媒体等担当された方です!裏話?等、詳しく書いているので是非ご覧ください」

と、折田氏のnote記事を紹介する投稿をしています。

こうした投稿から、森氏としては、主要なSNS戦略を折田氏一人が担っていた、という認識をもっていたことがわかり、note記事と整合的です。

なお、森氏はのちに、自身の上記投稿が問題視されるようになり、11月19日16時頃の投稿を「SNSのボランティアが400人でなく1人」という意味だ、などと述べ、note記事を肯定しないかのような主張をするようになっていますが、それに続く「ボランティアメンバーではありません」という投稿と完全に矛盾していて、公選法違反も問題表面化後に変節した言動は信用性に欠けるものと思われます。

さらに、斎藤氏を支持する姫路市議の高見ちさき氏も、自身のXで、11月19日に、前述の折田氏の18日のインスタ投稿を紹介するため、

斎藤知事のSNS関連を全てになってくださってた折田さんの投稿です(折田氏インスタURL)メディア各社は、どうせなら400人分の働きをする折田さんのPRをしてくれ~!」

と投稿し、折田氏のnote記事への批判が高まった11月24日には、

「斎藤事務所の許可を得た記事である以上、折田さんだけが過剰にバッシングを受けるというのはいかがなものかと思います。」

とも投稿しています。

高見氏は、SNSに不適切な投稿を繰り返しているとして市議会から辞職勧告を受けている人物で、その発言の信用性には注意が必要と思われますが、斎藤氏に不利になる形で虚偽を述べる理由はなく、「斎藤知事のSNS関連を全てになってくださってた」との投稿には一定の信用性があり、折田氏のnote記事の信用性を補強するひとつの材料となり得るものと解されます。

以上述べてきたところから明らかなように、折田氏のnote記事は、今回の公選法違反事件の発端であるとともに刑事事件の証拠としても極めて重要なもので、しかもその信用性に疑問を差し挟む余地はほとんどありません。折田氏は、捜査機関の取調べを受けていると考えられますが、その供述内容は、note記事に沿った内容で、捜査機関や検察官も信用性を認めているはずです。

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斎藤元彦氏ら告発事件に関する公職選挙法解釈の基本的事項

 はじめに

斎藤元彦氏は、2024年9月19日の兵庫県議会からの不信任決議を受け、9月26日に次の兵庫県知事選への出馬を表明し、兵庫県知事の職を30日午前0時で失職。その後の10月31日告示の兵庫県知事選挙に実際に再び立候補し、11月17日に当選しました。

この知事選挙の斎藤氏陣営の選挙戦において、折田楓氏が代表取締役を務める広報・PRのコンサルティング会社の「株式会社merchu(以下「merchu社」といいます)は、斎藤氏から上記知事選挙における戦略的広報業務を受託し、インターネットによる選挙運動を含む広報全般の企画・立案してそれを実行しており、公職選挙法上、折田氏は、斎藤氏に当選を得させるための活動を行う「選挙運動者」であると考えられます。

そして選挙運動は、法律上、原則としてボランティアで活動するものとされており、「選挙運動者」への金銭支払いは、原則として交通費や弁当代の実費弁償のみが、法定の上限額までのみ認められていて、例外的に報酬の支払を行えるのは、事務員、ウグイス嬢(車上運動員)、手話通訳者への支払いのみです。それ以外の「選挙運動者」には

それにもかかわらず2024年11月4日、折田氏と、折田氏が代表である「merchu社」に対し、斎藤氏が、斎藤氏に当選を得させるための上記選挙運動をしたことの報酬として71万5000円の金銭を供与したことが、買収罪に該当するとして、12月1日、私と上脇博之神戸学院大学法学部教授が、神戸地検と県警に対し、告発を行ったものです。

その後、12月16日にこの告発は異例のスピードで受理され、2025年6月20日には県警が書類送検、7月中旬には神戸地検が斎藤氏への任意聴取を行ったと、8月7日に報じられ、9月5日には、告発事実と同じ事実について、221条1項2号の「利害誘導罪」による追加告発が行われました。

神戸地検の捜査もこれから最終段階を迎え、刑事処分ということになると思います。

そこで、本稿では、この斎藤氏の公職選挙法違反の問題を考える上で必要な公選法の解釈について、関連する判例等も引用しつつ解説を行います。 なお、この公選法違反の問題については、既にアップしている【斎藤元彦氏公選法違反事件、「追加告発」を含め、改めて解説する】でも述べたように、私の事務所「郷原総合コンプライアンス法律事務所」の法務コンプライアンス調査室長の佐藤督が、私の入院中から、証拠関係、事実関係の整理・法的検討等を行ってくれました。

公選法解釈についての本稿も、佐藤が判例、文献の収集のリサーチを行い、取りまとめたものです。そこで、本稿は、【佐藤解説】と略称し、この問題に関する記事でも引用することにしたいと思います。

1選挙に関する金銭等の支払いについての公職選挙法上の規定の整理

公職選挙法は、特定の候補者に当選を得させようとする目的をもった活動、すなわち「選挙運動」については、選挙の自由、表現の自由の保障との関係から、選挙に関する発言や表現の内容自体に対しては基本的に寛大である一方、選挙運動に関する金銭、利益のやり取りに対しては、ボランティアを原則(選挙運動無報酬の原則)とし、厳しい態度で臨んでいます。

票をお金で買う、「選挙人」に対する直接の買収を行うことはもちろん許されないことですが、それだけでなく、選挙運動を手伝った「選挙運動者」に対して金銭等を支払うことも買収罪となり、法で認められた支払い以外は認められていません(公職選挙法221条)。お金をかけた選挙運動を許すと、お金をかけることで候補者が支持されているかのような世論形成も可能となり、かけたお金の多寡で選挙の勝敗が決まってしまって、選挙の公正を害するためです。そのため、一般的に候補者本人と、その候補者を支持・支援する選挙運動者によって行われる選挙運動には、お金のかからない活動が求められます。

具体的には、選挙運動にとって不可欠なポスター、チラシの制作等が、資金力のない候補者でも立候補できるように原則として公費負担の対象とされています(143条14項、15項、142条10項、11項等)。また、「選挙運動に従事する者」(221条の「選挙運動者」と同義)のうち、日本の選挙運動に必須な事務員や、投票を呼びかける車上運動員(ウグイス嬢、手話通訳者)に対しては、所定の金額の範囲内で、所定の人数に対してのみ、しかも原則として使用前に選管に届け出た場合にのみ、報酬支払が認められていますが、それ以外の選挙運動については、交通費や弁当代の実費弁償のみが認められ、報酬の支払いは一切認められておらず、ボランティアで行う必要があります(公職選挙法197条の2、施行令129条)

一方で、選挙運動に附随する、選挙カーの運転、ポスターの掲示、郵便物の名宛記入と発送、選挙関連物資の運搬等の単純な機械的労務(指示通りの作業を行うだけの、自由裁量のない労務)は、もともと単に労務の対価(給料)を取得することを目的とした作業であることが多く、特定の候補者に当選を得させようとする目的の活動である「選挙運動」とは区別する理解が一般的です。

こうした単純な機械的労務を行うだけの労務者を、選挙運動に関して雇っていたとしても、当該労務者は「選挙運動」を行っていないためボランティアである必要はなく、当該労務者への金銭の支払いは「選挙運動」を自ら行う者である「選挙運動者」への支払いではないため買収罪の対象とはなりません「選挙運動のために使用する労務者」への支払いとして、194条の費用制限の範囲内であれば特に人数の制限等はなく、ただ、一人当たりの支出が高額になりすぎないよう、実費弁償や報酬の上限が定められているのみとなります(公職選挙法197条の2第1項、施行令129条1項、2項)

2買収罪の成否の判断に必要な、定義の理解(「選挙運動者」と「選挙運動のために使用する労務者」の区別)

(1).判例実務における「選挙運動」の定義

こうした法の規定から、本件のような場合に買収罪が成立するかどうかを考えるために、「選挙運動者」なのか(その前提として「選挙運動」なのか)、自身は「選挙運動」を行わない「選挙運動のために使用する労務者」に過ぎないのか、その定義が大きな問題となります。

まず、「選挙運動」の定義ですが、判例の見解は戦前から現在まで一貫していて、「特定の選挙の施行が予測せられ或は確定的となつた場合、特定の人がその選挙に立候補することが確定して居るときは固より、その立候補が予測せられるときにおいても、その選挙につきその人に当選を得しめるため投票を得若くは得しめる目的を以つて、直接または間接に必要かつ有利な周旋、勧誘若くは誘導その他諸般の行為をなすことをいう」などと定義しています(最判昭和38年10月22日等)。そのため、実務上、ある行為が具体的に「選挙運動」とされるための要件は、

①その行為の対象となる選挙が特定していること

②特定の候補者のためになされること

③当選を目的としてなされること

④投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為であること

と整理されています。

特に問題となるのは④の要件です。選挙演説、戸別訪問、投票の呼びかけ、票の買収といった、有権者に対する「直接」の行為はもちろんのこと、「間接」の行為も「選挙運動」とされています。例えば「聴衆の反対派と目される者からやじられて十分演説をすることができなかつたことがあつたので、・・・やじを封じ演説に効果をもたせる目的をもつて、・・・労務者として参集した者から人選した者に、立会演説会場に立入らせ、右候補者の演説中その論旨の要所要所を自らの判断によつて選定し、演説に対し拍手し声援を送らせ、その報酬として一日金三五〇円を支給すること」のように、演説を間接的に盛り上げるだけであっても、「その演説につき聴衆に感銘を与え演説の趣旨を徹底させ、その効果を強力にして投票を獲得するに有効」なので、「選挙運動」に該当し、買収罪が成立するとしています(大阪高判昭和31年11月8日)。

(2).「選挙運動」の判断要素としての「自由裁量」の有無、「機械的労務」かどうか

そのため、「間接」の要件を広く解釈し過ぎると、ポスターの掲示、郵便物の名宛記入などの「機械的労務」も、間接的には何らかの有利に働く効果は否定できず、すべて「選挙運動」に該当し得ることになります。そうすると、原則として“選挙に関連する作業”について報酬の支払いは一切認められず、買収罪の対象となるものの、法が特に一定の要件でのみ報酬の支払いを認めているとも考えられ、実際、かつてはそのような理解をしている裁判例もありました(名古屋高判昭和30年5月31日)。

しかし、既に述べている通り、指示通りの作業を行うだけの、自由裁量のない単純な「機械的労務」は、単に労務の対価を取得することを目的とした作業であり、特定の候補者に当選を得させようとする目的の活動である「選挙運動」とは区別すべきです。

条文上も、公職選挙法197条の2が「選挙運動のために使用する労務者」と「選挙運動に従事する者」を書き分けていることなどから、選挙運動に間接的に関わることすべてが「選挙運動」ではないことは明らかです。

そこで最高裁(昭和53年1月26日)は、

「投票を得又は得させる目的とは、そのために直接又は間接に必要かつ有利な行為を行うことの認識をもつて足りるものではなく、その行為の性質からみてより積極的に右の目的のもとに当該行為に出たと認められる場合をさすものと解するのが相当である。すなわち、選挙演説のような、選挙民に対する投票の直接の勧誘行為については、その行為に出ること自体をもつて右の目的があるものと認定することができるが、ポスター貼りや葉書の宛名書きのような、選挙民に対する投票の直接の勧誘を内容としない行為については、これらの行為を自らの判断に基づいて積極的に行うなどの特別の事情があるときに限り、右の目的があるものと認定することができるのである。そうしてみると、「選挙運動のために使用する労務者」とは、選挙民に対し直接に投票を勧誘する行為又は自らの判断に基づいて積極的に投票を得又は得させるために直接、関接に必要、有利なことをするような行為、すなわち公職選挙法にいう選挙運動を行うことなく、専らそれ以外の労務に従事する者をさすものと解すべきことになる。」

と判示して、行為の性質に照らし、得票に有利に働くような「間接」の行為については、自由裁量の有無も、買収罪の成立する「選挙運動」の判断要素となっているものとの理解を示しています。

つまり主体的・裁量的とはいえない、単純な「機械的労務」であれば、「選挙運動」を行う「選挙運動者」ではなく、買収罪の対象ではない「選挙運動のために使用する労務者」となる、ということです。現在の判例や実務(総務省や選挙管理委員会等の考え方)、学説上の通説(大谷実「注釈選挙犯罪」など)においても同様に理解されています。

(3).個々の行為の性質によって決まる「選挙運動」と「機械的労務」の区別

このような理解からして、ポスター貼りや葉書の宛名書きのような、一般的には機械的に作業することの多い行為が、当然に「選挙運動」に当たらないとされている訳ではありません。一見機械的な作業であっても、その行為に自由な裁量があり、「機械的労務」といえないのであれば、「選挙運動」になり、報酬の支払いが買収罪に該当することになります。

例えば、ポスター貼りについてみていくと、東京高裁昭和28年10月30日は、

「なるほど記録に現われたところから見ると被告人が本件の選挙に当つてした仕事は主として労務的なものであるといえるけれども、しかし原判決の挙示した証拠を精査すれば、必ずしも厳格にいつて労務とはいえずむしろ選挙運動に属することも行つていたものと認められる」

とし、

「労務者だけではポスターなどを貼つたりするときに家主等が承知してくれないので被告人がその交渉をしたというのであるし、・・・の検事に対する第一回供述調書には被告人にビラ貼りの差図をして貰つたという記載があるが、かかる行為が単純な機械的労務の範囲を越えるもので選挙運動に属するものと解すべきことは大審院昭和一〇年(れ)第一七二八号同一一年三月一〇日第四刑事部判決(刑事判例集一五巻二二二頁)において明らかに示されているところである」

などと判示しています。

さらに、大阪高判昭和36年10月5日では

「特定候補者のためにその宣伝用ポスターを掲示すべき地区、各地区内に割当てる枚数及び場所を自ら選定し、これにその候補者に有利と判断してその宣伝用ポスターを掲示する行為は、単なる機械的労務とはいえず、選挙運動に該当することは疑いがなく(昭和三年一〇月二九日大審院判例参照)選挙運動に従事する者に対し労務賃と称して報酬の授受されることが許されないことは、公職選挙法第一九七条の二の規定の示すところによつて明らかであるのみならず、同法の精神から考えても当然」

と判示しています。

また、広島高判平成14年9月30日においても、

「本件のアルバイトの者らが行ったような,特定の比例代表選出議員候補者のために,そのポスターを,宣伝に有効な場所,方法かどうかを自ら判断選択したうえ,その適当と認めた場所,方法で,当該場所の所有者もしくは管理者の承諾を得て貼付する行為は,単に他人に命じられた場所,方法でこれを貼付する行為と異なり,機械的労務の範囲を超越するもので,特定の候補者のため投票を得させる目的をもってこれに必要かつ有利な行為を自ら判定実行するものとして,同法にいう選挙運動に当たるというべきであり,これと同旨の原判決に事実誤認はなく,論旨は理由がない」

と述べています。

なお、あて名書きや選挙カーの運転など、一見機械的労務に見える他の業務についても同様の裁判例があります。

また、これらの裁判例からも明らかなように、判例実務において、「選挙運動」と認定するために、行為すべてが主体的・裁量的に行われる必要はなく、多少なりとも主体的・裁量的といえる部分があれば、「機械的労務」ではなく「選挙運動」と認定しています。

(4).「内部的な準備行為」であっても「選挙運動」に該当

さらに、こうした考え方は選挙運動の準備に過ぎない「内部的な準備行為」に関しても変わるものではありません。東京高判昭和28年12月10日では、演説計画を準備、実行するために雇入れた者であっても、「遊説企画係として同候補者の選挙演説日程に基いて、予定通り演説計画が円滑に進行するようトラックの借入交渉に当つたり、トラックがどの道路を通つたらよいのか、通過できない状況の地点がないかどうかなどいろいろ心を配つて計画を立て、時には人を派して道路の状況を検分させる等選挙運動の重要な一面を自ら担当していた」との事実関係の下では、「選挙運動計画を立案しその実施を円滑ならしめ・・・るが如きは、単純で且つ機械的な労務に従事するのとは異なつていること明らかである」としています。

また、大阪高判昭和36年12月20日では、会場準備などのために雇入れた者であっても、「本件選挙に際しては、候補者・・・の当選を目的としてその選挙事務に従事して会場係となり、個人演説会の日程表の作成、その会場借入れ交渉、選挙管理委員会への届出等の事務を分担したのであつて、時にはポスター張り等をしたこともあるにしても同被告人は選挙運動者として取り扱われるべきもの」と判示しています。

(5).買収罪(221条)と事前運動禁止(129条)との「選挙運動」の定義の違い

なお、以上の見解は判例、実務上の通説的な見解ですが、本件に関連し、一部の弁護士が、ポスター制作のような「選挙運動の準備行為」は「選挙運動」ではないと主張しており、確かに総務省のHP(https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/naruhodo/naruhodo18.html)などにも、「選挙運動の準備行為」は「一般的には選挙運動ではない」とする記載があります。

しかし、上記HPの記載は、その文脈から、あくまで公職選挙法129条の「事前運動の禁止」における「選挙運動」の解釈を示していることは明らかです。

これまで述べてきた通り、公職選挙法221条の買収罪の設けられた趣旨は「金銭その他不正の利益によって選挙の結果を左右しようとする一切の行為を禁止し選挙の自由・公正を確保しようとするところにある」のであって、221条の「選挙運動」の定義は広く解されるべきであると考えられています。

これに対し、選挙運動は立候補届出前に行ってはならないという129条の「事前運動」の規制との関係では、立候補予定者等が「選挙運動の準備行為」として行う行為は、それを行わなければ立候補すること自体が困難なので、「選挙運動の準備行為」を無償で行うことは原則として「選挙運動」とは解されていません。ただし、その「選挙運動の準備行為」が、「内部的な準備行為」にとどまらず、「選挙人または選挙運動者に対し積極的に働きかける対外的な行為」を伴う場合には、「選挙運動」といえ、違法となると考えられています。

一方、すでに述べたように、「内部的な準備行為」であっても、有償で行えば買収罪との関係では違法の問題が生じることになります。

つまり、129条と221条の「選挙運動」の解釈は異なります。これは学説および選挙実務を所管する総務省自治行政局選挙部の官僚が著作者である「逐条解説公職選挙法」の見解でもあり、判例も、129条の「選挙運動」の解釈については、これまでの221条の「選挙運動」の判例の解釈と異なる見解に当然のように立っていて、こうした理解を前提としているものと考えられます。

例えば最近、2021年10月の衆院選を巡り、日本維新の会の議員が衆議院議員総選挙の公示5日前に、卒業した大学の校友名簿を基に作成した名簿から、立候補予定の選挙区と概ね一致する区域の者の住所に宛てて、当該議員及び所属政党に対する投票を依頼する文言が目立つように印刷されたはがきの宛名欄に、同選挙区内の知人の住所・氏名等を書き、推薦人欄に署名等をして返送することを依頼する文書、同はがき2枚及び返信用封筒等を同封した封書を送付した、という事案がありました。

この事案における裁判では、これまで見てきた221条の判例と異なり、「選挙運動」には原則として「選挙運動の準備行為」が該当しないことを当然の前提としつつ、推薦人欄への署名(すなわち他の選挙人に対する推薦)を求める部分などが「選挙運動の準備行為」に該当し得るものの、「被送付者と被告人との間に選挙運動の準備行為を期待し得る人的関係がない」との事実関係の下では、「選挙運動の準備行為」ではなく得票目的で行われた実質的な投票依頼行為であって、129条における「選挙運動」に該当するなどと判示しています(大阪高判令和5年7月19日、その後最高裁で確定)、

つまり、「選挙運動の準備行為」であるから「選挙運動」ではないという主張は、221条の「選挙運動」との関係では誤った主張ということになります。

(6).「告示前」との関係性

また、多くの人が誤解しているように思われるのが、選挙の告示との関係です。これまで述べてきたように、特定の選挙で特定の候補者の当選を目的として行う行為は、買収罪との関係において、告示の前後に関係なく、また「選挙運動の準備行為」であっても「選挙運動」となり、違法な対価の支払いが行われれば買収罪が成立します。実際、将来の選挙に関する買収であっても、その選挙の行われることが予想され、その選挙にある特定の人が立候補することが予期できる事情が存在するのであれば、買収罪が成立するというのが判例(最判昭和30年7月22日)の立場です。

かつて、告示前の行為は、地盤培養行為などの「政治活動」との主張がし易いため、その対価を支払っても、政治資金収支報告書に記載すれば、公職選挙法上も合法、というような誤った認識を持つ人が多かったように思います。ですが、それは捜査機関側が「当選を得させる目的」の立証上の問題を考慮して「政治活動」の弁解が予想される事案の摘発に消極的だったため、結果的に見過ごされてきたに過ぎないのです。

近年、元法務大臣の河井克行氏からの受供与者の事件の判決では、政治活動であることを理由に、選挙運動であることを否定する弁解がなされた場合でも、有罪となっています。

また、元法務副大臣の柿沢未途氏や元江東区長の木村弥生氏を巡る買収事案では、木村氏の江東区長選の告示前のビラにおいても、氏名と顔写真が大きく掲載された上で、「まずは江東区初の女性区長を」との記載があり、実質的に区長選における投票を呼び掛ける内容となっていることや、告示前の街宣車での呼びかけにおいても、「開かれたクリーンな江東区政を作ります。」などと、区長選での投票を呼びかける内容となっていたことなどから、告示後はもちろん、告示前の活動も「選挙運動」であったとしています。

そしてこの江東区長選の柿沢氏の秘書による買収事案において、裁判所は、上記「選挙運動」において告示前から街宣車を運転し、ビラを配布したA、Bが報酬を受け取ったことについて、柿沢氏の秘書が、街宣車のドライバーを、両名に依頼するに際し、Aに対しては、「何か気が付いたことがあったら、自発的にやってほしい。」旨伝え、実際、タワーマンション付近では住人に音声が聞こえやすいよう音量を上げ、病院や学校付近では音量を下げるなど、臨機応変に対応したことを指摘しています。またBに対しては、告示前にビラも配るのか尋ねられた際に、どちらでもいいという態度を示してビラの配布を明示的に禁止しなかったことや、人の多いタワーマンション付近を回り、また、被告人から指示されたルートが終わっても自らの判断で異なるルートや同じルートを複数回回るなどしたことを指摘しています。つまり、A、Bが主体的、裁量的に「選挙運動」に関わったことを認定したうえで、「そうすると、被告人(注:柿沢氏の秘書)は、選挙運動に該当する活動を行うことも依頼してその対価として現金の支払を約束し、形式的には街宣車の運転という機械的労務に対する支払という名目の下、選挙運動の報酬として各現金を供与したものと認められる。」と判示しています(東京地判令和6年5月28日)。

(7).同一人に「選挙運動者」と別の地位が併存する場合の考え方「選挙運動のために使用する労務者」

ア問題点

以上のような理解からすると、折田氏の活動が「選挙運動者」といえるものであったか、自由裁量の無い、単純な「機械的労務」であったのか、という点が本件の核心的な問題となります。

しかし、斎藤氏側はその点については十分に説明することなく、折田氏側に依頼したのは、実際に折田氏側が行った行為のうち、公約のスライド制作や、チラシのデザイン制作等の5項目に限られ、それに対して対価を支払ったにすぎない、残りの行為はすべて折田氏個人のボランティアであると説明しています。つまりは、折田氏側は選挙運動を行っているかもしれないが、対価の支払いは原則無償である「選挙運動」に対してではなく、対価の支払いが許される「政治活動」、「選挙運動の準備行為」、または「選挙運動のために使用する労務者」への支払いであるとして、問題がないと主張しているものと思われます。

このような同一人の行為を切り分ける主張、つまり同一人に「選挙運動者」と別の地位が併存するとされる場合の考え方についても検討する必要があります。

イ金銭等が一括で支払われ、その趣旨が明らかでない場合の判例の考え方

こうした、行為の切り分けの主張は、買収罪等、公選法違反の被告人の反論としてよく見られるところであり、こうした主張を後付けで許せば、選挙運動について無償を原則とし、金銭支払いに厳しい態度で臨む法の趣旨を没却することになりかねません。そこでまず、“一括で金銭等が支払われ、その趣旨が明らかでないとき”は、“適法な支払いの趣旨を含むとしても、金銭全部につき買収罪が成立する”、というのが確立した判例です。

例えば、最判昭和30年5月10日は「選挙人又は選挙運動者が投票取まとめ運動の報酬たる非合法的金員とそうでない合法的金員とを一括して供与を受けしかもその両者の割合明らかでないときには、その金員全部につき公職選挙法二二一条一項四号の受供与罪が成立するものと解するを相当とする(昭和八年(れ)七三八号同年七月六日大審院第二刑事部判決参照)」と判示し、その後も様々な裁判で引用されています。

ウ「選挙運動者」と別の地位の両立を否定する裁判例

そしてさらに進んで、「選挙運動者」と「選挙運動のために使用する労務者」の関係性について、「公職選挙法第二二一条第一項第一号にいわゆる選挙運動者とは,いやしくも実際において選挙運動をし又はしようとする者すべてを含むものであつて、その者が同時に労務者たる地位を有するかどうかはこれを問わないのであるから、被告人が労務者であつた一事はいまだもつて右法条にいう選挙運動者であることを否定する理由にはならない」と述べる裁判例(前掲東京高裁昭和28年10月30日)があります。

さらに、“人による区別であり、両者は両立しない”、とする考え方を示す下記の裁判例(東京高判昭和47年3月27日)があります。ただし、「選挙運動に付随し当然これに含まれるものとみるべき」とも述べており、このような関係性がない行為まですべて両立する余地がない、ということではないとも読めます。同判例を解説した「判例タイムズ(No.278)」では「本判決の説くところは、実務上はほとんど疑義を持たれていないと思われるが、判例でこれを明言したものとしては、おそらくこれがはじめてであろう。」と評価していて、実務上当然の見解であるとしています。

◎東京高判昭和47年3月27日

「公職選挙法一九七条の二は「選挙運動に従事する者」と「選挙運動のために使用する労務者」とを区別し、前者に対しては選挙運動のために使用する事務員を別として実費弁償のみを支給することができるとし、後者に対しては実費弁償ばかりでなく報酬をも支給することができるとしているのであるが、これは、選挙運動が本来奉仕的な性質のものであるべきだとの建前から、これを原則として無報酬とし、ただ選挙運動に従事する者のうちそのために使用する事務員と選挙運動のために単なる機械的労務に服する使用人であるいわゆる労務者に対しては、無償の奉仕を期待しがたいところから、これに対し報酬を支給することを認めたものと解される。すなわち、これによれば、無報酬である選挙運動に従事する者と報酬を受けることのできる事務員、労務者とは人による区別なのであつて、この二つを同一人が兼ねることはできず、本来無報酬であるべき選挙運動に従事する者がたまたまあわせて単なる事務または労務をも行なつたからといつて、それは選挙運動に付随し当然これに含まれるものとみるべきであり、そのためにその者が同条にいう事務員または労務者となるわけではないから、これに対して報酬を支給することはできないと解するのが相当である。」

「所論の各金員については、同人らの領収証も作成され、選挙管理委員会に対し人件費の名目のもとに報告がなされていることが記録上認められるのであつて、これによればあたかも・・・・らが単なる機械的な事務または労務に従事する者であつたかのようにもみえるけれども、同人らが公職選挙法一九七条の二にいう「選挙運動に従事する者」にあたることが前示のように明らかである以上、たとえ選挙管理委員会に対する支出報告の上でどのような記載がなされていたにせよ、それによつてその実質が変ずるものではなく、そうであるとすれば、かりに同人らが選挙運動のかたわら若干労務などを行なつたとしてもこれに対して報酬を支給することができないことは前に説示したとおりであるから、右の金員は要するに同人らが被告人・・・に当選を得しめるために選挙運動をしたことの報酬であるとみるのほかなく、したがつてその供与は同法二二一条一項三号に該当するといわざるをえない。」

そして、上記東京高判の見解をさらに進め、人的属性のみで、「報酬を支給することのできる労務者と評価する余地はなく」などと、「選挙運動者」と別の地位は両立し得ない旨を述べている裁判例2つ(事案としてはひとつ。買収側と被買収側の2つの裁判。)もあります。買収した側の裁判例には「判例タイムズ(No.1140)」の解説があり、選挙運動者の行為は労務であってもすべて選挙運動になるかのような踏み込んだ判決となっているため「今後、議論を呼ぶものと思われる」と評されています。

◎東京地判平成15年8月28日(買収を受けた側の判決)

しかし、Gは、選挙カーを運転するに際して機械的な運転行為のみをしていたわけではなく、上記二(5)〔1〕のとおり、ある程度裁量的、主体的な行為をしているほか、運転の途中で選挙カーを止めてAが街頭演説をした際には、上記二(5)〔1〕及び三(1)のとおり、候補者たるA自身やその選挙運動者らとともに、選挙民に対して直接にAへの投票を勧誘する行為もしたのであるから、Gの行為は労務ではなく、選挙運動に当たると評価することができるし、その点を捨象しても、そもそも、選挙運動者であるGの種々の活動のうち選挙カーの運転行為のみを取出して報酬を支給することのできる労務に当たると論じること自体が、当を得ないものである。

すなわち、選挙運動者(選挙民に対し直接に投票を勧誘する行為又は自らの判断に基づいて積極的に投票を得又は得させるために直接、間接に必要、有利なことをするような行為を行う者)や労務者(上記括弧内の行為を行うことなく、専らそれ以外の労務に従事する者)というのは一種の人的属性であるから、選挙カーの運転行為のみを行う者が労務者であるからといって、選挙運動者が選挙運動と併せて選挙カーの運転等の労務者のなし得る行為をした場合に労務者となり、報酬の支給ができるものと解することはできない。むしろ、Gのごとく、候補者のために投票を得させる目的をもって選挙民に対して直接に投票を勧誘する行為を含む種々の選挙運動をしている選挙運動者が、これと併せて選挙カーの運転のような候補者に投票を得させるために直接、間接に必要、有利な行為をした場合には、当該行為自体に自らの判断に基づく部分がなく、他の者から指示されたとおりに機械的に行ったとしても、やはり候補者のために投票を得させる目的をもって当該行為をしたと認めるのが合理的であり、その行為は選挙運動ということができる

◎東京地判平成15年9月5日(前掲東京地判の買収した側の判決)

被告人Aの弁護人は、選挙運動期間中に選挙カーを運転したGの行為(前記第2の4(2)イ)は労務者としての行為であると主張する。

確かに、うぐいす嬢が拡声器を通じて候補者への投票を呼び掛ける選挙カーの運転をする行為は、候補者に投票を得させるのに必要、有利な行為ではあるものの、その行為自体は選挙民に対し直接投票を勧誘するものではなく、かつ、他の者の指示に従って非裁量的になし得る行為であるから、専らその運転のために雇われた者が報酬を得る目的で運転行為のみに従事する場合には、その者は労務者に当たる。

しかし、Gは、選挙カーを運転する際に機械的に運転行為のみをしていたわけではなく、前記第2の4(2)イのとおり、ある程度裁量的、主体的な行為をしていたのであるから、Gの行為は労務ではなく、選挙運動に当たるといい得るし、その点をさておくとしても、上記1(1)で示したとおり、選挙運動者や労務者は人的属性に関する概念であって、Gのように、投票獲得目的をもって種々の選挙運動をしている選挙運動者が併せて選挙カーの運転をした場合には、もはやその者について報酬を支給することのできる労務者と評価する余地はなく、その者の行為は選挙運動者による選挙運動というべきであるから、弁護人の主張は採用できない。

エ判例実務の考え方の整理

実際にはその後学説上で活発な議論が行われた形跡はなく、平成15年の東京地判に対する判例、実務上の評価は不明なところがありますが、少なくとも昭和47年の東京高判が述べているように、「選挙運動」と、その当該「選挙運動」に付随し当然これに含まれるものとみるべきような「機械的労務」を切り離し、後者について「選挙運動のために使用する労務者」と評価して、対価を支払うことは、判例実務上、認められないものと解されます。

また、そもそも契約において、金銭の趣旨が明確でない場合は、「選挙運動者」への違法な支払いと、「選挙運動のために使用する労務者」への適法な支払いが混在していたとしても、全体として買収罪となります。

(8).インターネット選挙に関する考え方

これまで述べてきたことは、インターネット選挙においてもなんら変わることはありません。

総務省はインターネット選挙に関し、「改正公職選挙法 ガイドライン」を出しており、その「買収罪」の項目において、以下のような質問と回答を設け、インターネット選挙において、業者が主体的裁量的に関与した場合、報酬の支払いは買収罪に該当する可能性が高いと警告しています。

【問31】 業者(業者の社員)に、選挙運動用ウェブサイトや選挙運動用電子メールに掲載する文案を主体的に企画作成させる場合、報酬を支払うことは買収となるか。

【答】

1 一般論としては、業者が主体的・裁量的に選挙運動の企画立案を行っており、当該業者は選挙運動の主体であると解されることから、当該業者への報酬の支払は買収となるおそれが高いものと考えられる。

2 なお、選挙運動に関していわゆるコンサルタント業者から助言を受ける場合も、一般論としては、当該業者が選挙運動に関する助言の内容を主体的・裁量的に企画作成している場合には、当該業者は選挙運動の主体であると解されることから、当該業者該業者への報酬の支払は買収となるおそれが高いものと考えられる。

【問32】 業者に、選挙運動用ウェブサイトや選挙運動用電子メールに掲載する文案を主体的に企画作成させ、その内容を候補者が確認した上で、ウェブサイトへの掲載や電子メール送信をさせる場合、報酬を支払うことは買収となるか。

【答】

一般論としては、候補者が確認した上でウェブサイトへの掲載や電子メール送信が行われているものの、業者が主体的・裁量的に選挙運動の企画立案を行っており、当該業者は選挙運動の主体であると解されることから、当該業者への報酬の支払は買収となるおそれが高いものと考えられる。

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斎藤元彦氏公選法違反事件、「追加告発」を含め、改めて解説する

2024年11月の兵庫県知事選挙をめぐる斎藤元彦知事らの公選法違反事件、刑事処分に向けた捜査は、最終段階に入っていると考えられます。そう遠くない時期に神戸地方検察庁が刑事処分を行うことになると思われます。その際、事件の社会的影響を考えれば、公選法違反事件としての内容が、世の中に、とりわけ、兵庫県民の皆さんに、正しく受け止め理解される必要があると考えられます。最近の検察庁の運用では、起訴の場合も不起訴の場合も、刑事処分の内容や理由についての説明はほとんど行われておらず、検察の説明では、事件の内容や処分の理由を理解することはできないのが実情であることを考えると、今回の公選法違反事件については、別途、事実関係や関連する公選法の解釈などについて、全体を取りまとめて、その内容を公表することが必要と考え、いくつかの記事に分けて解説を皆さんにお送りすることにしました。

昨年12月初めに私と神戸学院大学上脇博之教授が告発を行い、告発状を公表した後に、多くの兵庫県民の方々から情報資料が提供され、マスコミで報道されたものも含め、把握した資料・情報は相当な量に上っていました。それらについて、私の事務所「郷原総合コンプライアンス法律事務所」の法務コンプライアンス調査室長の佐藤督とともに逐次取りまとめを継続してきました。

関連する公選法の判例・文献などを幅広く収集し、分析検討する中で、本件は、221条1項1号よりむしろ221条1項2号の「利害誘導罪」を適用すべき事案ではないかと指摘してくれたのが佐藤で、私の入院中のことでした。退院後、私の方でも検討した結果、「斎藤氏の代理人の奥見弁護士の説明を前提としても利害誘導罪に該当することは否定する余地がない」との判断に至り、上脇教授とも協議した上、今年9月5日付けで、神戸地検に追加告発状を提出しました。

追加告発といっても新たな事実を追加したのではなく、当初の告発状では公選法221条1項1号の「買収罪」として告発事実を構成していたのを、221条1項2号の「利害誘導罪」にも該当するということで、再構成した告発事実を追加し、検察官としての起訴事実の構成の選択肢として提示したものです。

もちろん、我々告発人側としては、当初から買収罪についても嫌疑は充分だと考えており、現時点までに捜査機関が収集した証拠から、当初の買収罪で起訴の可能性も十分あります。しかし、捜査結果や収集された証拠の中身は知りようがありませんので、被疑者側の弁解を前提にしても公選法違反を免れることができないと考えられる罰則適用と事実構成がある以上、それを選択肢として提示しておくことが必要と考え、追加告発状という形で神戸地検に提出したものです。

この追加告発状提出については、まず検察庁の方で充分にその内容を把握して、刑事処分に向けての検討に活かして頂くことが必要だと考え、公表は行わず、これまで本件について問題意識を持って取材してくれていると認識している一部の記者に個別に情報・資料を提供するにとどめていました。提供したマスコミの一部で、追加告発について記事化の動きがあるようですので、私の方でも、今回、数回に分けて出す解説記事の初回の本稿の中で、追加告発状提出にも言及することにしました(追加告発状で追加した公選法221条1項2号による告発事実と、利害誘導罪の解説は、別途、個人ブログ「郷原信郎が斬る!」に掲載しています。)。

なお、私は、7月中旬に、悪性リンパ腫でICUに緊急入院し、一般病床に移った後も、治療のため入院が続いていましたが、8月29日には退院して通院治療に切り替えることになり、退院後の経過も順調で、現在では抗がん剤の副作用による免疫抑制のために感染リスクへの対応が必要となること以外は、ほぼ通常どおりの業務が行える状態になりました。ここまで短期間で奇跡的とも思える回復ができたのは、緊急入院公表以降、私を支えてくれた家族や事務所スタッフ、そして、XやYouTubeなど私の発信へのコメントなどで、本当に多くの皆様から、お見舞い、励まし、私の回復を願う心のこもったメッセージを頂いたおかげだと、心から深く感謝しています。

こうして、ほぼエンジン全開とも言える状況になりましたので、今後、体調には留意しつつ、これまで以上に「法と正義」を取り戻すための活動に取り組んでいきたいと思います。

本稿では、昨年11月の県知事選直後に公選法違反疑惑が表面化した当初からの経過を振り返り、この事件について問題となるポイントを全体的に整理したいと思います。

斎藤知事ら公選法違反事件、告発に至る経緯

2024年11月17日投開票の兵庫県知事選挙で斎藤元彦氏が当選した直後、同月20日に、広報・PRのコンサルティング会社「株式会社merchu(以下「merchu社」)の代表取締役折田楓氏が、斎藤氏からSNS広報戦略を任されたことと業務内容の詳細を自ら明かすnote記事を投稿しました。

同記事に関して、インターネット上で、同業務について斎藤陣営から報酬が支払われていれば公選法違反(買収)、無報酬だったとすると、merchu社から斎藤氏に対する寄附として公選法違反、政治資金規正法違反の問題が生じるとの指摘が相次ぎました。

11月27日の斎藤氏による兵庫県知事定例会見において、本件note記事に関する質問を受けて、同会見終了後に、斎藤氏の代理人の奥見司弁護士による会見がおこなわれ、斎藤氏側からmerchu社に支払ったのは、

(1)「公約のスライド制作 30万円」、

(2)「チラシのデザイン制作 15万円」、

(3)「メインビジュアルの企画・制作 10万円」、

(4)「ポスターデザイン制作 5万円」、

(5)「選挙公報デザイン制作 5万円」

の5項目(税込み合計71万5000円)

であることと、それらの請求書を公表し、

merchu社にはSNS広報を依頼しておらず、折田氏がボランティアとして選挙に協力したに過ぎない

との説明がありました。

そこで、note記事に記載されたmerchu社のSNS広報戦略業務と斎藤氏側からmerchu社への71万5000円の支払について、公選法上の問題について検討したところ、note記事は、その作成経過、内容自体から信用性が極めて高いと考えられる上に、斎藤陣営の幹部のX投稿等によって裏付けられていること、一方で、斎藤氏の代理人奥見弁護士による説明は不合理な点が多々あって到底信用できず、斎藤氏側からmerchu社にSNS広報を依頼し、71万5000円にはその報酬が含まれている疑いが濃厚と判断されました。

そこで、12月2日、神戸学院大学上脇教授とともに、神戸地検と兵庫県警に対して、斎藤知事と折田氏を被告発人とする公選法違反の告発状を提出しました。

告発後、県民から提供された多くの情報・資料、捜査の進展

同告発状は、同年12月16日に受理され、2025年2月7日にはmerchu社側に捜索差押の強制捜査が行われたと報じられました。6月20日には兵庫県警が捜査結果についての書類、証拠物等を検察官に送付し、現在、神戸地方検察庁で、刑事処分に向けて最終段階の捜査と検討が行われているものと思われます。

この告発については、マスコミでも斎藤知事が公選法違反で告発されたことが大きく報道され、告発の時点で告発状をネット上で公開したこともあり、その直後から様々な情報資料が告発人の私のもとに提供されました。

公選法違反の買収事案の中でも選挙人に対する投票買収などでは、当事者間における金銭等のやり取りの有無が最大の問題となりますが、本件の場合、候補者側から一定の金銭の供与があった事実は明らかであり、最大の問題は、その金銭の供与を受けた側が選挙運動を行った事実の有無でした。

今の時代は、街頭での選挙運動に関してネット上に様々な映像・音声、コメント、情報などが溢れており、まさに選挙運動の実態がネット上に晒されているとも言えます。兵庫県民等から多数提供された情報の中には、本件に関連すると思われる貴重な情報もありました。 中にはmerchu社のSNS 運用に関連する業務について、ネット上の公開情報を収集し、取引先の地方自治体に情報公開請求を行って、契約内容に関する資料を提供してくれた人もいました。

また、折田氏がnote記事に記載しているSNS 運用の内容について、関連するアカウントの情報を詳細に分析し、SNS 広報戦略 について分析・検討した結果のレポートを送付してくれた人もいました。このような資料情報については、適宜、告発に関連する追加資料情報として神戸地検担当検察官に送付をしました。また、マスコミでも、その後、関係者の取材に基づく報道が多数行われました。これらにより、告発後に告発人として把握した資料・情報について、調査室長の佐藤とともに逐次取りまとめを行ってきたことは、冒頭で述べたとおりです。

そこでまず、本件について、これまでに明らかになったことを踏まえて、公選法違反事件の刑事処分において何がポイントになるかを考えてみたいと思います。

刑事処分を考える上での2つのポイント

公選法違反事件の刑事処分との関係で、本件を全体としてみると、2つのポイントに分けて考えることができます。

第1に、兵庫県知事選挙において、折田氏とmerchu社の行為の内容、斎藤氏側から何を依頼され、何を行ったのかです。

折田氏は、自分自身で作成して投稿を続けていた個人ブログのnoteに、昨年11月20日に、merchu社が斎藤氏側からSNS運用を全面的に任せられ実行していった状況を詳細に書いた記事を投稿しました。このnote記事が、その作成経過、内容自体から信用性が極めて高いと考えられる上に、斎藤陣営の幹部のX投稿等によって裏付けられていることは、告発の時点でも、公選法違反の嫌疑の重要な根拠となりました。

それに加え、告発後に提供された様々な情報・資料により、少なくとも、告発の時点と比較して、note記事を裏付ける証拠は一層豊富になっています。

一方で、note記事を「盛っている」などとして信用性を否定し、

「merchu社にはSNS運用を委託していない。折田氏は無償のボランティアとして斎藤氏を応援し、公式応援アカウントの取得、記載事項のチェック、街頭演説会場などにおける動画の撮影、アップロードなどを行った。」

というのが斎藤氏の代理人奥見弁護士による説明であり、斎藤氏側の主張です。

告発の時点でも、このnote記事の信用性を否定する斎藤氏側の説明・主張は極めて不合理であることを指摘しましたが、その後、マスコミ報道や、告発人に提供された資料・情報によってnote記事の信用性が裏付けられたことにより、斎藤氏側の説明が不合理であることは否定し難いものになっています。

merchu社が斎藤氏側からSNS運用を全面的に任せられ実行したこと、それが主体的、裁量的に行われた選挙運動であることが一層明白になったことにより、「merchu社にはSNS運用を委託していない。折田氏は無償のボランティアとして斎藤氏を応援しただけ」という斎藤氏側の主張は強く否定されることになります。

しかし、第1の点について、兵庫県知事選挙において、折田氏とmerchu社が、斎藤氏側からSNS運用を依頼され、実行したこと、それが斎藤氏のための選挙運動に当たることが明らかになっても、それだけで、斎藤氏らの公選法違反について犯罪の立証が可能となるわけではありません。問題は、その選挙運動に対して対価が支払われたと言えるかです。

71万5000円の支払の公選法上の違法性

そこで、第2の点は、斎藤氏側からmerchu社に支払われた71万5000円の公選法上の違法性がどのように判断されるのかという問題です。

この71万5000円の支払について、斎藤氏側は、

「(1)は政治活動の費用、(2)~(5)は選挙の準備活動のための支払いであり、選挙運動の対価ではない」

と主張しています。

 一方、本件告発では、

「merchu社は、折田社長を中心に斎藤氏側から兵庫県知事選挙におけるSNS運用を任せられ選挙運動を行った。71万5000円はその選挙運動の対価に該当する」

と主張しています。

斎藤氏側が、「(1)は政治活動の費用、(2)~(5)は選挙の準備活動のための支払」だとしている71万5000円について、買収罪が成立するとすれば、以下の3つの構成が考えられます。

(ア)(上記第1の点について、「兵庫県知事選挙において、折田氏とmerchu社は、斎藤氏側からSNS運用を依頼され実行し、それは斎藤氏のための選挙運動に当たる」との前提で)71万5000円は、実際には、SNS運用等の選挙運動の報酬であったが、請求書上の名目を(1)~(5)として支払った。

(イ)斎藤氏側がmerchu社への71万5000円の支払の理由として、依頼したことを認めている(1)~(5)は選挙運動に該当し、買収罪が成立する。

(ウ)斎藤氏側が説明するとおり、折田氏がボランティアとして斎藤氏を応援していたのであれば、「選挙運動者」であり、(1)~(5)が機械的労務だとしても、いかなる名目であれ、斎藤氏側からの折田氏側への報酬支払は、買収罪に当たる。

(ア)については、いくらmerchu社側がSNS 運用を斎藤氏のために行った事実があり、71万5000円がその報酬として支払われた疑いが強いとしても、実際に他の名目で支払われている以上、それらが SNS 運用という選挙運動の対価を含む趣旨で支払われたことを立証するためには、当事者間でその旨の合意があったことの証拠が必要です。それを当事者が認めなければ、原則としてそのような認定は困難です。

(1)~(5)の業務の一部が実際には行われておらず、発注の実体がないということであれば、SNS 運用という選挙運動の対価であることが客観的に明らかですが、そうでない限り、被疑者側の自白がなければ、(ア)の構成は取りえないということになります。

(イ)については、実際に支払いの名目とされている(1)の公約スライドの作成、(2)~(5)の各種デザインなどとして行われた行為が、知事選挙で斎藤氏を当選させるための主体的・裁量的な行為であるかどうかが問題となります。

(1)については、公約スライド作成の目的が一般的な政治活動のためのものだったのか、兵庫県知事選挙での当選を目的とするものであったのかがまず重要となります。そして斎藤氏側から公約のワード文章を受け取り、それをスライド化する作業に、斎藤氏を知事選挙で当選させる目的がどれだけ強く表れているのかが重要です。

(2)~(5)については、そのうち、(2)のチラシのデザイン、(4)のポスターのデザインは、作成費用が公費負担の対象なので、デザインと印刷の両方を併せて業者に依頼すれば、すべて公費負担にすることができたはずです。それを、敢えてデザインだけmerchu社に発注したのは、斎藤氏を当選させるためデザインの統一化を図るという「主体的裁量的な行為」としてのデザインを依頼するためではないかが問題になります。

最後の(ウ)は、71万5000円について、斎藤氏側の説明の通りであっても、特定の候補者を当選させるための選挙運動を実際に行っている「選挙運動者」に対する支払いは、機械的労務の対価であっても買収罪に該当するという判例法理によれば、買収罪の成立は免れられないという考え方です。

ここで問題になるのが、斎藤氏側が認めているのは折田氏が個人のボランティアとして斎藤氏の選挙運動を行っていたことであり、一方で支払先は折田氏個人ではなくmerchu社という法人だということです。merchu社のような実質的に折田氏の個人企業のような法人に対する支払いは個人への支払いと同視できると考えるのが合理的です。買収罪と犯罪の性格、構成要件が類似している贈収賄罪では、収賄者が管理・支配する法人への支払を収賄者への賄賂と認めた例は数多くあります。最近の例では、五輪汚職事件で収賄で起訴された高橋治之氏とコモンズの関係があります。

しかし、公選法違反の買収罪は、これまでは選挙運動者が個人、その対価支払も個人というのが通常で、法人が絡んだ選挙運動や法人への支払いが問題になることは殆どありませんでした。それだけに法人への支払いを買収罪でどのように処理するかは、SNS運用等が重要な選挙運動の手段になってきたことに伴う公選法をめぐる今後の一つの課題でもあります。

その点について検討する中で、公選法221条1項2号の利害誘導罪の適用という重要な選択肢に思い至ったということです。この利害誘導罪は、会社等に対して利益を供与して、それと特殊の直接利害関係を利用して有する個人の選挙運動を誘導することで成立します。これまで、買収罪では、贈収賄のように法人を個人の財布とみなす事例が見当たらないのも、公選法には利害誘導罪があるからとも考えられます。

 

以上の第1及び第2の点について、詳細な分析検討を行っていきます。

第1の点については、次の投稿【折田氏note記事の内容と裏付け証拠、斎藤氏側説明を徹底分析する】で詳しく述べます。それに続く【斎藤氏側からmerchu社に支払われた71万5000円についての買収罪の成否】では、第2の点について詳しく論じます。

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追加告発状の「利害誘導罪」について

本稿では、斎藤元彦氏らの公選法違反の告発に関して、追加告発状を神戸提出した件について解説します。「追加告発状」と言っても、当初告発の公職選挙法221条1項1号の「買収罪」に加えて、適用すべき罰条と告発事実の構成として、2号の「利害誘導罪」を追加したもので、公選法違反事実としては同一です。

まず、追加告発状に記載した、本件を利害誘導罪として構成した告発事実を以下に示します。

被告発人斎藤は、当選を得る目的をもって、同年9月29日ころ、「株式会社merchu」事務所において被告発人折田らと面談し、その後10月5日ころまでに、被告発人斎藤のための選挙運動を依頼し、被告発人折田に応じさせるとともに、選挙準備として「株式会社merchu」に業務を発注することとし、10月3日から9日頃にかけて、被告発人斎藤が、同社に同選挙における「公約のスライド制作」、「チラシのデザイン制作」、「メインビジュアルの企画・制作」、「ポスターデザイン制作」、「選挙公報デザイン制作」の業務を発注し、11月4日、「斎藤元彦後援会」名義で、上記業務の対価として合計71万5000円を同社に支払う一方、被告訴人折田に、公式応援アカウントの取得、記載事項のチェックなどの被告発人斎藤のための選挙運動を行わせ、もって、選挙運動者に対し、特殊の直接利害関係を利用して誘導した。

この追加告発と当初告発事実は、同一の選挙における同一の選挙運動者の被告発人折田が行った選挙運動と同人が代表取締役を務める会社への同一の支払について公選法違反の嫌疑に関するもので、社会的事実としては同一です。本件については、公選法221条1項1号を適用し買収罪で起訴することも十分に考えられますが、同条項2号を適用し、利害誘導罪によって起訴を行うことは、被告発人斎藤側の主張を前提としても可能と考えられます。

両者の告発事実は択一関係、つまり、どちらかを選択できる関係にあります。

利害誘導罪とは

利害誘導罪の構成要件は、

「当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもって」

「選挙人又は選挙運動者に対し」

「その者又はその者と関係のある社寺、学校、会社、組合、市町村等に対する」

「用水、小作、債権、寄附その他特殊の直接利害関係を利用して誘導をした」

です。

利害関係が観念される場は、行為者と関係がある場合、ない場合どちらもあり、

  • (1)行為者と選挙運動者等との間、
  • (2)行為者と選挙運動者等と関係のある者との問、
  • (3)行為者以外の者と選挙運動者等との間、
  • (4)行為者以外の者と選挙運動者等と関係のある者との間

の4つと解されています。

同罪の成立には、利害関係を利用して誘導をすることが必要ですが、「誘導」とは、利害関係を利用して選挙人又は選挙運動者を特定の候補者のために当選を図り又は当選させないように誘うことであり、「相手方である選挙人又は選挙運動者の決意を促し、又は現に存する決意を確実にするため、特殊の直接利害関係をその者の利益に発生、変更、消滅させることを申し入れることをいう」と解されています。

誘導の方法は、文書か口頭かは関係がなく、また明示でも黙示でもよく、要するにその意思表示が相手方の認識に到達することをもって足りるとされています。また、相手方がそれにより意思を動かされたことや、誘導に応じたことは不要とするのが判例です。

折田氏が「選挙運動者」であること

当初告発で述べているように、本件では、note 記事の投稿通り、選挙におけるSNS 戦略全般を折田氏に依頼していたことは明らかであり、折田氏は「選挙運動者」です。

また、仮に斎藤氏の代理人弁護士の説明通り、「株式会社merchu」への依頼が5項目に限定されるとしても、少なくとも、折田氏が、「公式応援アカウント」の取得、「公式応援アカウント」の記載事項のチェック、街頭演説会場などにおける動画の撮影、アップロードについて、「ボランティア」で行っていたことは、斎藤氏側も認めています。

「応援アカウント」の実際の設置や運用は、明らかに一連の広報戦略の下で、折田氏の発想で設置され、折田氏の考え方にもとづき運用されています。

今回の選挙では、「公式」の「応援アカウント」が設置されており、その投稿内容も、「本人アカウント」との連携、連動を強く意識したものとなっています。このような「公式応援アカウント」の設置や、「本人アカウント」との連動などのアイデアが折田氏のものであることは、令和6年に受注した「高知県SNS公式アカウント分析等委託業務」の企画提案書でも同様の「アカウント相互連携」「相乗効果」を謳っていることからも明らかであり、note記事記載の通り、折田氏の提案した「戦略」といえます。

また、note記事に投稿された「X本人アカウントの投稿」の画像では、下欄に「ポストのエンゲージメントを表示」と記載されており、これは当該アカウントに管理権限がある者がログインした場合にしか表示されない事項であるため、折田氏が「応援アカウント」だけでなく、「本人アカウント」にもログインできる権限があり、両者の連携した運用を担っていた証左だといえます。

さらに、斎藤陣営の投稿する「ハッシュタグ」は、選挙前から「#さいとう元知事がんばれ」に統一され、投開票日までその通りに運用され、当選とともに「#さいとう元彦知事がんばれ」に変化するというストーリー性まで持たせています。

「ハッシュタグ」は、note記事記載の通り、応援の流れに方向性を提供し、アルゴリズムを有利にし、また、投稿の追跡・分析も容易にするため一本化することが非常に重要で、この「ハッシュタグ」に関しての折田氏のnote記事の記載は、その考え方、設計方法など、熟考したことが極めて具体的に書かれ、しかも、削除前の当初の記事には、提案した際の斎藤氏のリアクションまで書かれていて、その内容からは、折田氏が「#さいとう元知事がんばれ」との「ハッシュタグ」を考え、これへの統一を提案したものと考えられます。

公式応援アカウントの設置・運用が、折田氏によって主体的・裁量的に行われていたことは明らかで、斎藤氏側によって折田氏の「ボランティア」とされている行為だけをみても「選挙運動」であり、折田氏は「選挙運動者」です。

結局、note記事記載の通り、折田氏が「ブランドイメージの統一」、「政策を分かりやすいビジュアルや表現で県民に届けること」や、「各SNSに適したレイアウトや内容に最適化して届けること」などの戦略の下で、「監修者として」「責任を持って」SNS広報全般を運用していたもので、折田氏の行為が「主体的・裁量的」な「選挙運動」であることは明白です。

「利害関係」

本件は、法的な契約関係は明確ではありませんが、少なくとも名義上、そして金銭の流れ上は、「斎藤元彦後援会」と「株式会社merchu」の間で、選挙における「公約のスライド制作」、「チラシのデザイン制作」、「メインビジュアルの企画・制作」、「ポスターデザイン制作」、「選挙公報デザイン制作」の業務委託を内容とした契約となっているものと思われます。

そして、「斎藤元彦後援会」に対し、斎藤氏が何らかの影響力を与え得る地位にあることは明らかです。

また、折田氏は、「株式会社merchu」の代表取締役であり、会社に対する利害関係の利用が、会社の代表者たる選挙運動者の選挙に関する意思決定に影響を及ぼし得ることも明らかです。

そのうえ、「斎藤元彦後援会」と「株式会社merchu」の間の、選挙における「公約のスライド制作」等の業務委託契約が、「株式会社merchu」にとってのみ特別に、しかも直接に利害関係があることも明白です。したがって、本件において「選挙運動者に対し」「その者と関係ある会社に対する」「特殊直接利害関係」があることは明らかです。

「誘導」

斎藤氏の代理人弁護士は会見で、支援者から「ボランティアとして協力していただける方」として折田氏を紹介され、2024年9月29日には斎藤氏が会社を訪問して打ち合わせをし、ポスターやチラシのデザインの制作などのほか、SNSの利用についても話が出たこと自体は認めています。そして翌日以降、「株式会社merchu」から、いくつかのプランと、その見積もりが出され、5項目に限って、10月3日から10月9日ころにかけて、口頭で、個別で依頼したとの説明をしています。

つまり、斎藤氏側の説明を前提とすると、時系列からして、斎藤氏が、折田氏が選挙運動をする、もしくはする可能性があることを認識しつつ、その後の近接した時期に少なくとも制作業務5項目について折田氏が代表である「株式会社merchu」に発注したことになります。

「相手方である選挙運動者の決意を促し、又は現に存する決意を確実にするため、特殊の直接利害関係をその者の利益に発生させることを申し入れ」ているのであって、「誘導」が行われたことも明らかです。

したがって「直接利害関係を利用して誘導した」ことも明らかです。

「利害誘導罪」の成立は明らか

上記誘導は、2024年11月17日執行の兵庫県知事選挙に斎藤氏が立候補を決意し、その選挙戦を手伝ってもらう人員を探すなかで行われたものであり、「当選を得る目的をもって」いることも明らかです。

そのため、斎藤氏は、当選を得る目的をもって、同年9月29日ころ、「株式会社merchu」事務所において折田氏らと面談し、その後10月5日ころまでに、斎藤氏のための選挙運動を依頼し、折田氏に応じさせるとともに、選挙準備として「株式会社merchu」に業務を発注することとし、10月3日から9日頃にかけて、斎藤氏が、同社に同選挙における「公約のスライド制作」、「チラシのデザイン制作」、「メインビジュアルの企画・制作」、「ポスターデザイン制作」、「選挙公報デザイン制作」の業務を発注し、11月4日、「斎藤元彦後援会」名義で、上記業務の対価として合計71万5000円を同社に支払う一方、被告訴人折田に、公式応援アカウントの取得、記載事項のチェックなどの斎藤氏のための選挙運動を行わせ、もって、選挙運動者に対し、特殊の直接利害関係を利用して誘導した、ということになります。

この構成をとれば、71万5000円の支払先は折田氏個人ではなくmerchu社という法人であることの問題もなくなります。

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「石破降ろし」に正当性なし。読売「現職首相ウソつき」批判“検証記事”は総裁選前倒しに重大な影響

参院選後の「石破降ろし」最終的に実現

9月8日に行われる自民党総裁選の前倒しの意思確認の手続きが進み、賛成意見が過半数を超える可能性が高まる中、石破首相は辞任する意向を固め、7日午後6時から首相官邸で記者会見を行い、総理大臣辞任の意向を表明した。

自動車関税を25%から15%に引き下げる大統領令署名が実現し、アメリカの関税措置をめぐる対応に区切りがついたことを理由として挙げたが、前日の官邸での会見で、それは進退の判断に影響しないことを明言していたのであり、会見の最後で述べた

「自民党の臨時の総裁選挙を実施するかどうか意思確認を行えば、党内に決定的な分断を生みかねず、まだまだやり遂げなければならないことがあるが苦渋の決断をした。このような形での辞任について国民の皆さんにお詫びをしたい」

というのが石破首相の真意であることは明らかだ。

自民党議員、都道府県連の賛成多数による総裁選前倒しという自民党で初の手段が現実化したことで、7月の参議院選挙後から自民党内やマスコミで続いた「石破おろし」が、最終的に成功し、石破氏は、自民党総裁・総理大臣の職から引きずり降ろされることになった。

一貫して続投の意思を表明してきた石破首相が、最終的に首相の地位を失うことになった原因の一つに、読売新聞による、戦後の政治史・報道史に重大な汚点を残す最悪の「暴挙」があった。

読売新聞などが「石破首相退陣へ」の大誤報を行った直後の7月27日の【読売新聞(毎日新聞)の「石破首相退陣へ」誤報は、戦後最大の報道不祥事~自民党石破総裁は厳正な抗議を!】で述べたように、この報道は、「石破首相の意向」という内心を述べた記事なのだから、その本人が明確に否定した以上、客観的事実と異なっていたことは明白で、その根拠は失われた。

その報道を訂正し、謝罪することになるのが当然だったのに、号外と翌日の朝刊であえて大々的に報じた。しかも、その後も読売新聞は、「石破首相退陣へ」報道をそのまま維持し、それとの整合性を保てるよう、自民党内の石破おろしの動きの強まりを報じ、一方で、石破首相サイドも事実上続投は困難と判断し、退陣表明の時期を探っているかのように報じ続け、まさに、「石破おろし」を露骨にめざす報道を続けてきた。

そして、読売新聞は、9月3日の両院議員総会後に総裁選前倒しの意思確認手続が開始された直後、「石破首相退陣誤報」の「検証記事」と称して、「偽装」「捏造」に近いやり方で「石破首相退陣報道」の誤報を正当化し、《石破首相が公式には「続投の意思は全く揺れたことはない。退陣の意向について発言したことも一度もない」と一貫して述べていること》が「虚偽説明」だとして批判し、現職首相を「ウソつき」呼ばわりし、総裁選前倒しの意思確認を控えていた自民党議員や各県連にも影響を与えようとした(【読売「首相退陣誤報」“検証記事”による「虚偽説明」批判は、現職首相への重大な名誉毀損】)。

「退陣誤報」文春記事にも謝罪要求、法的措置を示唆

読売新聞の「検証記事」に対して、江川紹子氏等がXで批判しているように、社会部系の有識者、ジャーナリストの殆どは、「検証記事とは言えない単なる言い訳」と批判的だ。

一方で、政治学者の中北浩爾中央大学教授などは、この「検証記事」を報じる朝日新聞記事のコメントで

《石破総理は自民党総裁選のなかで「勇気と真心をもって真実を語る」と繰り返し述べました。読売新聞の検証記事が事実であれば、嘘を言っているということになります。》

などと、読売の偽装検証記事に完全に乗せられてしまっている。

参議院選後、石破内閣の支持率は回復し、世論調査の結果も、減税を強く求める参政党、国民民主党等の支持者は別として、それ以外の国民からは「石破氏は辞任する必要はない」との声が大きい。それにもかかわらず、自民党内では石破おろしの動きは収まらず、総裁選前倒しをめぐって各都道府県連も多くが前倒し賛成に傾くという、「国民の世論と党内世論の乖離」が生じた。

今回、「石破おろし」の最終手段となった総裁選前倒しの意思確認は、賛成の国会議員に記名した書面を提出させ、それを公表するというやり方だった。この場合、賛成を表明する判断において重要だったのは、賛成が過半数を上回り総裁選前倒しが実現されるかどうかの見通しだったはずだ。もし過半数に届かず石破総裁体制が継続した場合には、党のトップに反旗を翻したことによる人事や選挙での非公認などの不利益も懸念されるはずだ。一方、賛成が過半数を上回り前倒し総裁選が実施されて石破総裁は交代する、ということになれば不利益を受ける懸念はなくなる。

そういう意味で、日本最大の発行部数を誇る読売新聞が「石破おろし」に加担する一大キャンペーンを行い、総裁選前倒しの意思確認が始まった9月3日の直後には、石破退陣報道の「検証記事」と称して、石破首相の「虚偽説明」「ウソつき」批判を紙面で大々的に行ったことは、総裁選前倒しへの賛成の意思表明を行うかどうか悩んでいた国会議員にとって、さぞかし心強かったことであろう。

もともと、国民世論と自民党の党内世論との乖離が生じる状況に至っていたことに加えて、「退陣誤報」報道を結果的に正しいものにしようとして「石破おろし」に加担する読売新聞の「反石破報道」が、最終的に石破首相を退陣に追い込むことに大きく寄与したことは紛れもない事実である。

 

石破政権の成果・世論と乖離する自民党内世論

このような読売新聞による首相退陣に関する一連の「石破おろし」キャンペーンと、その中で行われた誤報検証記事に藉口した「虚偽説明」による石破首相批判は、重大な名誉毀行為であり法的責任は免れない。

もっとも、7月の参議院選挙後から、読売新聞に限らず他のマスコミも含めて圧倒的だった「自公過半数割れで民意が石破政権を否定したのだから、石破首相は退陣するのが当然」というような論調が、仮にその考え方が絶対的に正しく、それを受け入れない石破首相の続投は「狂気の沙汰」だと言えるのであれば、それを阻止するための読売の動きもそれなりに正当化する余地があることになる。

そこで、今回の参議院選挙の結果を受けた「石破首相退陣当然視論」の根拠と、それが果たして合理的なものであるか、という点をまず考えてみることとしたい。

「石破首相退陣当然視論」の根拠は、二つに整理できる。

一つは、「参議院選の敗北の結果で民意が示されたのだから首相退陣は当然だ」という考え方、もう一つは「組織のトップとして敗北の責任を取ってケジメをつけるのが当然だ」という考え方だ。

前者は、民主主義制度における「選挙での民意の受け止め方」の問題、後者は政党という組織のガバナンスの問題だといえよう。

参院選で「石破政権を否定する民意」が示されたのか

では、今回の参議院選挙の結果は、本当に「民意が石破政権を否定した」と受け止めるべきなのであろうか。

日本は、衆議院議員内閣制をとっており、衆議院議員の多数から支持されて総理大臣が指名され組閣を行う。その総理大臣が所属する党が選挙で敗北し、衆議院で他党の議員が多数を占めることになれば、新たな議員が首班指名され、総理大臣は地位を失う。

しかし、総理大臣が、所属する政党の総裁・代表の座を失うとは限らない。政権を失った政党が、その後誰をトップにしていくのかは、政党内部で議論して決めることだ。

衆議院選挙でも、敗北が直ちに党のトップの交代につながるとは限らない。参議院選挙の場合は、そもそも制度的には政権選択のための選挙ではなく、二院制の下で衆議院とは異なった役割を果たす参議院議員として誰がふさわしいか、どの政党の候補者がふさわしいかを選択するための選挙だ。与党過半数が必達目標とされていたとしても、それが達成できなかったという結果だけから、首相は直ちに退任すべき、ということにはならない。

もっとも、参院選といえども、極端な形の敗北で、それが、その政党の支持が決定的に失われたことを示すものであれば話は別であろう。その場合は、何らかの抜本的対策を講じない限り、その次の選挙でも同様の民意が示されることが確実だからである。

では、今回の参院選での敗北が、「石破総裁が辞任するのが当然」というべき結果であったのか。

今回の選挙後の報道は「自民党の歴史的惨敗」で埋め尽くされた。「歴史的」というのは、過去にない程の「大惨敗」という意味であろう。

しかし、歴史的には、宇野宗佑首相が1989年の参院選で69議席から36議席に「33議席減」、第一次安倍政権での2007年の参院選では、自民党は62議席から37議席に「25議席減」という過去の「大惨敗事例」があり、 52議席から39議席への「13議席減」という今回の参院選の結果は決して「歴史的惨敗」とは言えない。

2007年参院選では、それまで衆参で安定多数を占めていた自公両党が、参議院で過半数を大きく割ったことで、当時、民主党と「二大政党対立」の状況だったことから、国会のねじれによって、法案の否決、同意人事の拒否などの大きな政治的影響が生じた。

しかし、このような参院選大敗北で自民党に壊滅的な影響を及ぼした時ですら、当時の安倍晋三首相は引責辞任を拒否し、1か月半後に政権運営に行き詰まり、体調不良を理由に首相を辞任した。そしてその2年後の衆院選で自民党は大惨敗し、民主党に政権を明け渡した。

今回は、参院選の前からすでに、衆議院では少数与党となっており、参議院でも過半数を下回ったことで政権運営の難度は変わるものの、国会での野党との調整、連携が必要であることに変わりはない。

自民党総裁として掲げた「与党で過半数」の必達目標が3議席達せられなかったのは事実である。しかし、従来は組織票で安定的に議席を確保してきた公明党が「6議席減」という想定外の結果だったことが大きく影響しており、しかも、「3議席の未達」であれば、保守系無所属などを含めれば、なんとか過半数を確保できる可能性もある。

今回の参院選は、既存政党が参政党などの新興勢力に敗北したということであり、その背景に消費税減税等の積極財政を求める世論がある。財政規律を重視する既存政党の敗北は、立憲民主党・公明党等も同様であり、自民党だけが敗北したのではない。このような参院選の結果を、「歴史的惨敗で、石破政権を否定する民意が示された」というのは、あまりに短絡的であり、選挙結果を客観的にとらえたものではない。

「結果責任」重視の自民党組織のガバナンス

しかし、自民党内での「石破首相退陣当然視論」は、「参院選で民意が示された」というだけでなく、「組織のトップとして敗北の責任を取ってけじめをつけるべき」という意見の方が中心である。それは、組織のガバナンスの問題だと言える。

その点に関して聞かれたのが、

「企業経営者でも3回連続赤字を出したら辞任するのが当然」

「結果に対してはトップが責任を負うべき」

という「結果責任」を重視する声だった。

「結果責任」とは、結果に対して負うべき責任であり、それに対して、目標達成のために組織をまとめたり問題に対応したりするのが「遂行責任」である。

上場企業であれば、経営者は、株主に対して利益を実現する責任を負う。会社に損失を与え続ければ、その株主に対する責任をとり辞任というのも当然の対応だ。

しかし政党の場合、トップが負う責任はそのように単純なものではない。選挙で国民の支持を得るとともに、その支持を活用して党の政策を実現する。そして、政権を担う政党であれば、国政を安定的に運営して行く責任を負う。このような複雑な責任を負う政党、とりわけ政権与党のトップの責任を、単純な「結果責任」で考えることはできないはずだ。むしろ「遂行責任」を中心に考えることの方が政党にとっては合理的なはずだ。

昨年9月の総裁選で石破氏が自民党総裁に就任、直後の衆院選は、当時の政治資金パーティー裏金問題への批判からは当然の結果とも言える自民党敗北だった。その結果、少数与党となったものの、石破首相は、弱い党内基盤の下で何とか党内体制を維持し、野党との協力も得ながら予算、法案を可決させ、コメ大幅増産の方向への農政改革を打ち出し、参院選直後にはEUなどにも先がけてトランプ関税を25%から15%に引き下げる合意に成功した。石破政権は、今後、本格的に石破カラーを出して政権を運営していくべき時だった。遂行責任を果たすという面ではこれからが本番だったといえる。

ではなぜ、自民党内ではこの「結果責任」中心の単純な考え方がまかり通るのだろうか。そこには組織の根幹に、勝ちと負けを峻別し、負ければ潔く腹を切って責任を取る、というような旧来型日本型組織の単純な考え方があるのだろう。上位者には、結果を出すまでのプロセスについて「言い訳」せず、表面的な潔さだけが評価される。そのような背景の下で、日本の政党の中心であった自民党で、「結果責任」中心の考え方が当然視されてきたということではなかろうか。

しかし、それは、55年体制の下で政権基盤が安定し、その政党のトップである自民党総裁選が「最大の政治上の決戦」だった状況には通用しても、現在のように国民の要請も民意も複雑多様化し、それに応じて多党化時代を迎えた情勢の下では全く通用しない。そもそもここで石破おろしを実現して自民党総裁が交代したとしても、その存在は直ちに首班指名を受けるわけでもないし、野党との関係でどのような協力ができるのかも不明だ。

そのような状況において、自民党がいったん正式手続の総裁選で3年という任期を石破首相に委ねたのであれば、まず党内基盤、政権基盤を安定させるための期間に1年を費やし、そこから石破政権として本格的に「遂行責任」を果たす段階に入るというのが合理的な考え方であり、国民もそれを期待していたはずだ。

実際に連立内閣が常態化しているヨーロッパ各国では、国政選挙後の連立の枠組み協議に半年、一年を要することも珍しくないと言われている。

このように考えると、今回の参議院選挙結果を受けての「石破首相退陣当然視論」には根拠がなく、そういう誤った考え方を前提に「石破おろし」に加担し、「反石破報道」を行ってきた読売新聞には、何の正当化の余地もないと言うべきである。

「石破おろし」が実現した場合の「名誉毀損訴訟リスク」

【前掲記事】で述べたように、今回の「検証記事」での石破氏個人に対する「虚偽説明批判」が重大な名誉毀損であることは明らかだ。それについて、実際に被害者の石破氏から名誉毀損訴訟を提起された場合、読売新聞が検証記事で批判した石破氏の「虚偽説明」について真実性を証明することも、「真実であると信じることについての相当な理由」を示すことも、困難だ。

たとえ、「検証記事」で「周辺者」の話とされているのが、「石破氏と親しい記者がオフレコで聞いた話」だったなどということだったとしても、【前掲記事】で述べたように、そもそも、「石破氏の発言」の趣旨の取り違え、あるいは意図的な捻じ曲げが誤報の原因なのであり、「石破氏が虚偽説明をした」と報じる根拠になるものではない。

石破首相が、現職の総理大臣である限り、そのような権力者が報道機関に対して名誉毀損訴訟を提起することは現実には考えにくかった。しかし、読売新聞も深く関わった「石破おろし」によって、石破首相が首相の座から引きずり降ろされることになり、一政治家の立場になったのである。一国の総理大臣を「噓つき」呼ばわりして名誉を毀損したという「前代未聞の報道犯罪」について法的責任追及を行う選択肢も、石破氏にとって十分にあり得る。

文春VS読売新聞

この「石破首相退陣誤報問題」に関してはその後、週刊文春による報道と、それに対する読売新聞側の対応があった。

8月19日に【石破首相強気のウラに読売の“謝罪”があった!】(有料)と題する記事が週刊文春の電子版で配信され、20日発売の同誌に掲載された。同記事で

《グループ本社の山口寿一社長が、今月上旬、石破首相と面会し、首相の退陣報道について「謝罪の意を表明した」としたうえで、「政治部はアンタッチャブルで、自分では制御がきかなかった」と釈明した》

と述べたことに対して、読売新聞は、

「事実無根の記事で名誉が著しく毀損された」

として、抗議書を発行元の文芸春秋に送付し、謝罪と記事の取り消しを求めたとする記事(【本社、週刊文春に抗議書…退陣報道「首相に謝罪の事実ない」】)を8月19日読売新聞電子版で配信した。

さらに、上記の「検証記事」を出した直後に【本社、週刊文春に抗議書…「悪意ある虚偽の記述多数」】と題する記事を電子版に掲載し、

《(文春記事は)「全体として捏造(ねつぞう) 」と強調。特に、首相の言葉に関する報道は「取材メモの内容が社外に流出したとの誤解を強く読者に与える点で著しい名誉毀損」だと指摘した》

などと、文春への法的措置も辞さない、全面対決の姿勢を見せている。

「誤報への対応」は、読売グループ山口社長主導か

これらの文春記事への読売新聞の対応は、首相退陣報道が、明白な誤報で、ただちに訂正し、石破首相に謝罪すべきであることを真っ向から否定するものだ。文春報道の当事者は「石破首相に直接謝罪した」と書かれた山口寿一読売グループ社長自身であり、そのような方針で臨むことが山口社長の方針だからこそ、文春側に謝罪と記事の取り消しを求めるという対応を行ったのであろう。

「石破首相退陣へ」の誤報は、政治部マターであり、文春記事で書かれているように、社会部出身の山口社長にとっては、

「政治部はアンタッチャブルで、自分では制御がきかなかった」

というのは、(文春記事のとおり石破首相に直接会って謝罪した事実があったかどうかはともかく)、少なくとも山口社長の「本音」であった可能性が高い。

しかし、そのような文春記事に対して、発行元の文芸春秋に抗議書を送付し、謝罪と記事の取り消しを求め、それを自社の記事で表に出したのが、当事者の山口社長の意向に基づくものであることは明らかであり、この時点で、「石破首相退陣へ」の誤報問題も、山口社長マターになったはずだ。

それに加えて、読売新聞では、社会部でも重大な誤報問題が発生したのであり、そのことも、一連の「誤報」問題への山口社長の関与を一層強めることになったと考えられる。

8月27日朝刊1面「公設秘書給与不正受給か 維新衆院議員 東京地検捜査」の記事で、東京地検特捜部の捜査対象者を取り違え、日本維新の会の石井章参院議員ではなく、同党の池下卓衆院議員について秘書給与不正受給の疑いで捜査が進んでいるとの重大な誤報を、一面トップで掲載したのである。

「取材経緯の検証を行った結果、最初の取材で担当記者に思い込みが生じたうえ、キャップやデスクも確認取材が不十分だったことを軽視し、社内のチェック機能も働いていなかったことが誤報につながった。」

として、9月5日付で記事を訂正・謝罪し、前木理一郎専務取締役編集担当と滝鼻太郎執行役員編集局長について役員報酬・給与のそれぞれ2か月30%を返上する処分、小林篤子社会部長を罰俸とし更迭、当日の編集責任者だった編集局デスクをけん責、社会部のデスク、司法記者クラブキャップ、担当記者をいずれも出勤停止7日とするとの社内処分を発表した。

これにより、読売新聞は、ほぼ同時期に政治部と社会部という報道局内の主要な2つの部で「重大な誤報」問題が発生したことになる。読売新聞の会社組織自体の問題だ。

山口社長の本来のテリトリーである社会部でも誤報問題が発生したことによって、一連の「誤報問題」への対応は、山口社長の判断で決まる問題になったはずだ。

今回、「退陣報道は、石破首相も含めて十分な取材に基づくもので、首相本人の虚偽説明のために『騙された』結果、誤報になってしまった」という「検証記事」を出すことについても、山口社長の方針が示され、その方針に合わせたのであろう。

石破首相を「虚偽説明」「ウソつき」と批判し、自民党議員や都道府県連等の批判を高めて総裁選前倒しを実現させて石破首相の「追い落とし」の成功につながれば、「勝てば官軍」で「検証記事」の問題が深刻な事態を招くことはない、というのが山口社長の見通しだったのかもしれない。

しかし、それは、石破首相「追い落とし」が成功し、石破氏が一人の「元総理」となり、権力を失った「一政治家」となった場合には通用しない。

読売新聞による「反石破報道」と「検証記事」による「現職首相ウソつき批判」は、名誉毀損の重大な法的責任を負うリスクを孕む。日本最大の発行部数の新聞社は、なぜ「政治報道犯罪」に手を染める存在に成り下がってしまったのだろうか。

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読売「首相退陣誤報」“検証記事”による「虚偽説明」批判は、現職首相への重大な名誉毀損

石破茂首相が、自民党本部で開かれた両院議員総会で参議院選挙敗北の総括を受けて続投の意思を改めて表明した翌日の9月3日、読売新聞は、7月23日夕刊と号外、24日朝刊で、石破首相(自民党総裁)が退陣する意向を固めたと報道したことに関して、紙面で【首相「辞める」明言、読売「退陣」報道を検証…石破氏が翻意の可能性】と題する検証記事を掲載するとともに、関係者の社内処分を発表した。

「結果として誤報となり読者に深くおわびします」

と読者に陳謝しているが、報道は十分な取材に基づいた問題のないものだったということであり、関係者の処分も「首相の退陣についての重大な誤報」にしては、極めて軽微なものに過ぎない。

それに加えて、さらに徹底した批判を展開しているのが、同日午前5時2分にアップされた読売オンラインのネット記事だ。

タイトルに【進退、揺れ動く首相…石破氏が虚偽説明 読売「退陣」報道を検証】と「石破氏が虚偽説明」と明記し、2段落目で

読売新聞は、石破首相の発言をもとに退陣意向を報道したが、首相は様々な場で「自分は辞めるとは言っていない」と繰り返している。こうした虚偽の説明をされたことから、進退に関する首相の発言を詳細に報じることにした。

と述べている。

紙面の記事にあった「社内処分」「陳謝」はこのネット記事からは消えており、ネット記事だけを読む限り、要するに、「石破首相が周辺に退陣の意向を伝えていたのに、それを翻し、その後退陣の意向を固めた事実も否定する虚偽説明をしたもので、読売新聞には非がない」という内容になっている。

読売オンラインには、紙面と同じタイトルで、同じ内容の検証記事も、上記記事の1分後の5時3分にアップされている。しかし、その1分前に「虚偽説明」の記事が出されているので、ネット上では、「虚偽説明」の記事が圧倒的に広く拡散された(9月6日朝の時点での表示数は、紙面と同じ記事が10万であるのに対して「虚偽説明」記事は67万、引用ポストもほとんどが「虚偽説明」記事だ)。

つまり「虚偽説明」記事の方を、ネット上で広めようとする意図が窺われる。

読売新聞が、「現職の首相が退陣の意向を固めた事実」を「退陣へ」と号外まで出して報じ、それが「誤報」だったことについて、私は、7月27日に投稿したYahoo!記事【読売新聞(毎日新聞)の「石破首相退陣へ」誤報は、戦後最大の報道不祥事~自民党石破総裁は厳正な抗議を!】で、厳しく批判した。

この頃、私は、7月15日に悪性リンパ腫で集中治療室(ICU)に緊急入院し、同月23日ICUから一般病床に移ったものの、抗がん剤の副作用による発熱、肺炎併発や、感染症で左手が腫れていることなどもあって、従来のような執筆は困難な状況だった。

しかし、読売・毎日新聞の「石破首相退陣へ」誤報は、重大な政治報道不祥事であるにもかかわらず、SNS上の一部で問題にされていただけで、一般メディアには全く問題にする動きが見えなかった。この報道の在り方に関して、コンプライアンスの専門家としてどうしても看過できず、世の中に私の見解を伝えたいと考え、事務所スタッフに口述筆記、補助をしてもらい、病床から投稿することにしたものだった。

同記事では、

《石破首相自身の方針という内心を述べたものであり、その本人が明確に否定した以上、客観的事実と異なっていたことが明白になった。仮にそれまで推測に基づいて報じていたとしても、もうその推測の根拠が失われたのだから、その報道を訂正し、謝罪するということになるのが当然。ところが、読売新聞・毎日新聞は、そのように石破首相に明確に否定された事実を翌日の朝刊であえて大々的に報じた》

《報道の範疇を大きく逸脱した「新聞の暴走」と言わざるを得ない。》

と厳しく批判した。

この記事は、アクセス数も通常のYahoo!投稿とは桁違いで、記事を案内するX投稿のプロフィール上の固定ポスト表示数もあっという間に40万を超え、膨大な数のリプライ、引用ポストが投稿されるなど、反響は極めて大きかった。

読売新聞の「虚偽説明」ネット記事は、「石破退陣報道」の大誤報を徹底批判した私のYahoo!記事への反論を意識したものと見ることができなくもない。

しかも、現在、9月2日の両院議員総会を受けて、総裁選前倒しに向けての手続が行われている。読売新聞の「検証記事」は、誤報の原因を「石破氏の虚偽説明」だとして石破首相を強く批判するものだ。同記事で読売新聞が明記した「石破首相の虚偽説明」が十分な根拠に基づかないものだとすれば、それ自体が、総裁選前倒しの手続における自民党議員、各県連による意思表明に対して、「石破首相は信用できない」との印象による重大な影響を生じさせることとなる。まさに、「虚偽説明」と表現した検証記事自体が、正真正銘の「戦後最大の報道不祥事」となり得るのである。

幸い私の方は、8月29日、抗がん剤の効果でリンパ腫は相当程度抑えられ、今後の治療が通院で可能となったことから、ようやく退院することができた。退院後の3クール目の抗がん剤治療後の経過も順調で体調も良いので、“エンジンほぼ全開”で、読売新聞「虚偽説明記事」の中身を詳細に分析検討することとしたい。

検証記事の「前提事項」の問題

読売新聞の「検証記事」は、最初に

首相の進退は、国民生活や外交を含む国政運営に多大な影響を及ぼす。このため、政治部は、側近や首相秘書官ら周辺のみならず、首相本人の発言を確認することを最優先に取材を進めてきた。

と述べているが、これには、重大な疑問がある。

後述するように、「検証記事」に書かれている、「読売記者が石破首相に直接取材した場面」と「聞き出した話」の中身は僅かな断片的なものに過ぎない。

問題は「側近や首相秘書官ら周辺」からの取材だ。

私はYahoo!記事を書く前に、石破氏と親しく本人や首相秘書官に直接話を聞くことができるジャーナリスト2人から話を聞いている。毎日新聞が「石破首相退陣へ」と報じた直後に、石破氏の退陣意向など全くないことを確認している。また、Yahoo!記事を出した直後に石破氏本人と電話で話し、「続投意思に全く揺らぎはない」ことも確認している。毎日・読売の退陣報道後に、首相周辺から「誤報」との批判が上がったことからしても、読売新聞の取材先が「側近や首相秘書官」とは極めて考えにくい。

問題は、「(側近や首相秘書官)ら周辺」という表現である。

「検証記事」で「周辺に語った」と言っている「周辺」と言い得るのは、その範囲を広げたとしても、日頃から石破氏と接触する機会の多い自民党関係者くらいだ。

首相という立場で、参院選での敗北を受けて当面どう対応するかという話の中で、「首相辞任」が選択肢の一つとして出て来るのは当然だし、ましてや、参院選直後は、マスコミがこぞって「選挙で示された民意を受けて退陣」を当然のように論じ、それに乗じる形で自民党内からも「石破おろし」の動きが起きている状況だった。

そのような情勢も踏まえて、石破首相と接触した自民党関係者が選挙後の対応について話をする中で、「首相は当面は辞任しないが、しかるべき時期に辞任を考えているはずだ」などと、推測、憶測をまじえて話をする人間がいたとしても全く不思議ではない。

「検証記事」は、そのような状況で、記者が取材した過程で、「取材メモ」等に残されている記述を拾い集め、それを根拠に「石破首相が周辺に話した」ということを述べているのであろう。しかし、そのような石破首相の話を聞いたとするのが誰であるか明らかにされておらず、「氏名不詳者の話」に過ぎない。その話が本当に石破首相自身の言葉を聞いたということなのか、それとも聞いた話の解釈ないし推測に過ぎないのか、「検証記事」には、それらを判断する材料となる、「どのような立場で、どのような場面で、そのような話を聞いたのか」は全く書かれていない。

そうなると、最大の問題は、正体不明の「周辺者の話」をつなぎ合わせたと思える「石破首相の話」に関する「検証記事」の内容自体、そのストーリーが合理的か否かである。

そして、そのようなストーリーを前提に、石破首相に直接取材した際の実際の「発言」の内容が、「退陣の意向を固めた」と判断する根拠になり得るものかどうかである。

「検証記事」が主張する「石破首相の虚偽説明」のストーリー

読売新聞が「検証記事」で主張している「石破首相の虚偽説明」というのは、要するに、

参議院選挙の選挙結果を受けての進退についての石破首相の意向は、何度も揺れ動いた。そして、その中で何回も退陣の意向を「周辺」には発言していた。しかし石破首相は、公式には「続投の意思は全く揺れたことはない。退陣の意向について発言したことも一度もない」と一貫して述べている。それが「虚偽説明」だ。

ということだ。つまり、「続投の意思の揺れ」「退陣の意向」の二つを否定していることが「石破氏の虚偽説明」だということだ。

その二つの点についての「検証記事」のストーリーは、大まかに言えば、次のようなものだ。

(1)選挙結果が出る前、石破首相は、「道筋をつけて次の人に受け渡すということだ」と発言して、「次」へのバトンタッチ、つまり「退陣」を視野に入れた発言をしていたが、一方で、「辞めるとは明言しない」と言って、「退陣の意向」を明言しない方針だった。

(2)開票が進むなかで出演した20日夜のテレビ番組では、「40議席台後半なら、なんとかなるかもしれないと思った。できるところまでやる」と続投を明言し、選挙結果が確定した後の総裁記者会見で石破氏は続投を正式に表明したが、その間に、「辞めるとは明言しない」と周囲に語り、本音では「退陣の意向だが、それをすぐには明言しないという方針だ」と語っていた。

(3)首相は、22日夜、米国による関税措置を受けた日米協議に区切りがついた段階で退陣する意向を周囲に明言した。

(4) 「退陣への段取り」として、8月6、9日の広島、長崎の「原爆の日」、戦後80年を迎える15日の「終戦の日」は、「首相としての出席」の意向を示す一方、それに続いて、月末の8月20~22日に横浜市で予定されていた「第9回アフリカ開発会議」(TICAD9)は、「辞めると言った後に俺がやる」と語っていた。

(5) 首相は、7月23日午後には、首相経験者の岸田文雄、菅義偉、麻生太郎の3氏との会合が予定されており、首相はその場で退陣の意向を3氏に伝える考えを周囲に明かしていた。

(6) こうした取材をもとに、読売新聞は23日朝刊で「首相、近く進退判断」の見出しで、「首相は、米国の関税措置を巡る日米協議の進展状況を見極め、近く進退を判断する意向を固めた」と報じた。この朝刊を読んだ首相は23日朝、記事を肯定し、同日朝には、米国のトランプ大統領が日本との交渉妥結を表明したことを受け、読売が、首相に心境の変化がないかを改めて取材したところ、退陣の意向に変わりはないとの認識を示した。

(読売新聞は、上記の(1)~(6)の取材経過から、23日午前中、毎日新聞の「石破首相退陣へ」のネット記事に続いて、号外で「石破首相退陣へ」と報じ、翌24日の朝刊でも同趣旨の記事を一面トップで報じた。)

(7)毎日、読売の「退陣報道」の後の23日午後、石破首相は3人の首相経験者との会談後、記者団に「私の出処進退については一切、話は出ていない。一部に報道があるが、私はそのような発言をしたことは一度もない」と否定した。

「検証記事」が、(1)~(7)の中で石破首相の「続投意思の揺れ」「変遷」だと言いたいのは、以下の3点なのであろう。

(ア)選挙結果が出る前に「次へのバトンタッチ」と言って「退陣の意向」を視野に入れていたのに、開票結果を受けて「できるところまでやる」に変化した((1)⇒(2)の変遷)。

(イ)その翌日の22日夜には、「米国による関税措置を受けた日米協議に区切りがついた段階で退陣する意向」に変わった((2)⇒(3)の変遷)。

(ウ)「8月中の退陣の意向表明までの段取り」まで語り、7月23日午後には、首相経験者3氏との会合で退陣の意向を3氏に伝える考えを周囲に明かしていた。それに加え、読売新聞は、23日朝刊で「首相、近く進退判断」の見出しで、「首相は、米国の関税措置を巡る日米協議の進展状況を見極め、近く進退を判断する意向を固めた」と報じ、記事が掲載された23日朝に、米国のトランプ大統領が日本との交渉妥結を表明したことを受けて再度石破首相に直接確認したところ、「退陣の意向に変わりはない」との認識を示した。ところが、その直前に、毎日・読売新聞が「石破首相退陣へ」と報じたことに反発して続投方針に変わった((3)(4)(5)(6)⇒(7)の変遷)。

では、上記の3つの「石破首相の続投意思の揺れ」「変遷」が果たしてあったのか、(6)で読売新聞が直接確認した際の石破首相の言葉が、本当に「退陣意向を固めた」と判断できるようなものだったのか。

石破首相の続投意思に「揺れ動き」「変遷」があったのか

(ア)の変遷

まず、「(ア)の変遷」についてである。

以下は、(1)の「検証記事」の記述だ。

首相が自らの進退をほのめかしたのは、参院選投開票日の7月20日午後1時ごろだった。非改選議席を含めて与党で過半数を維持できる「自民、公明両党で50議席以上」という、自らが定めた「必達目標」に届くかどうかが危ぶまれていた。道筋をつけるという条件付きながらも、「次」へのバトンタッチを視野に入れた発言だった。

首相は、翌日に予定されていた自民党総裁としての記者会見でどう発言するかについても語り、「辞めるとは明言しない。ここで辞めると言ったほうが楽だ。俺だって言いたい。でも、政権を放り出すことで内政も外交も混乱する。この状況で次の人にバトンをつなげない」としていた。

この時点では、まだ選挙結果は出ていないものの、自民党にとって相当厳しい結果になることが予想されており、開票が始まる前の投票日午後の「出口調査」の結果では、自公両党で過半数どころか、40議席台をも割り込む大惨敗になる予想が有力だった。そういう可能性もあるということを念頭に置いた石破首相の発言であれば、それが実際にいつになるかはともかく、いつかは「次へのバトンタッチ」をしなければならないのだから、それが選挙結果如何で重要な問題になるのは当然である。

石破首相が「辞めるとは明言しない。ここで辞めると言ったほうが楽だ。俺だって言いたい。」と発言したとしても、「いずれにせよ、選挙後に辞任を明言することはしない」ということであり、内心で「辞める」ことを決めているのかどうかについては何も言っていない。

いずれにせよ、選挙結果が出る前の発言は、石破首相が自公両党で過半数という必達目標に一議席でも届かなければ首相を辞任する意向だったとする根拠にはならない。

選挙結果を受けての石破首相の(2)についての記述は以下のとおりだ。

開票が進むなかで出演した20日夜のテレビ番組では、首相は「いかにして政治空白を作らない、混乱を大きくしないかは常に考えねばならない」と述べ、続投を明言した。

参院選での各党獲得議席数が確定したのは21日午前だ。自民、公明両党は計47議席にとどまり、自民党政権で初めて衆参で少数与党となる事態に陥った。

選挙結果を受け、首相は21日午前11時ごろ、「40議席台後半なら、なんとかなるかもしれないと思った。できるところまでやる」と周囲に語った。50議席に迫る議席を確保できたことで、続投に傾いたことをうかがわせた。その後の総裁記者会見では、「ここから先はいばらの道だ。赤心報国の思いで国政にあたっていく」と表明した。   

あたかも、選挙結果が出た後に、石破首相の考えが変わったかのような印象を与える書き方だが、実際には、選挙結果が出る前の《「次」へのバトンタッチ》を実際にどうするかについて、「自公で過半数に3議席届かなかった」という直前の予想の議席数を上回る選挙結果を受けて、「できるところまでやる」と判断したということであり、特に、石破首相の考え方が変わったわけではない。

(1)と(2)についての「検証記事」の内容は、(ア)の変遷があったことの根拠にはならない。

(イ)の変遷

次に「(イ)の変遷」である。

これは、(2)で、石破首相は、選挙結果が判明しつつあった20日の夜以降、続投の方針を表明し、21日には「できるところまでやる」という意向を周囲に語っていたのに、22日の夜には、一転して、「関税交渉で合意が実現すれば辞意を表明する」という方針に変わったことを指す。

その(3)の「関税協議に区切りがついた段階での退陣の意向」についての「検証記事」の記述が以下である。

首相が、米国による関税措置を受けた日米協議に区切りがついた段階で退陣する意向を周囲に明言したのは、22日夜のことだ。赤沢経済再生相が関税を巡る閣僚協議のため訪米し、交渉は山場を迎えていた。

首相は、赤沢氏の交渉手腕に期待していると語りつつ、「関税交渉の結果が出たら、辞めていいと思っている。でも、交渉中に『辞める』なんて言えない。だから俺は続けると言っているんだ」と説明した。

関税交渉で合意が実現すれば、「記者会見を開いて辞意を表明する。辞めろという声があるのなら辞める。(参院選敗北の)責任は取る。でも、国益をかけた戦いだけは、最後まで見届けさせてほしい」とも語っていた。

ここで、石破首相の「関税交渉の結果が出たら、辞めていいと思っている。」「関税交渉で合意が実現すれば、記者会見を開いて辞意を表明する。」と発言したことになっているが、問題は、ここでの「合意実現」がいかなるものを前提にしているのかだ。

一口に「合意実現」と言っても、その内容は、石破政権の成果として評価される日本の国益につながる「合意」から、トランプ大統領に屈して、日本の産業に打撃を与えると批判される「敗北的合意」まであり得る。

実際には、23日の朝、トランプ大統領がXで「日本とは関税率15パーセントで合意」と投稿し、それまでの「25%」から「15%」をEUに先駆けて実現したことがわかり、日本側にとって関税交渉で大きな成果が上がったことが明らかになった。

このような「合意成立」の見通しは、それまで表には全く出て居なかったものの、日本政府側では、ある程度予想され、その前日の22日の夜の時点では、石破首相にも報告されていたはずだ。それを前提にすれば「交渉の成否が見え次第、記者会見を開く」というのは、それまでの「できるところまでやる」という「続投の姿勢を一層明確に打ち出す」という趣旨のはずだ。

しかし、22日の夜の時点では、そのような「日本側に有利な関税合意の見通し」については、石破首相を始めごく限られた政府関係者の中でだけ共有され、自民党関係者にも、各社の政治部記者も全く把握していなかった。

むしろ、この時点では、トランプ大統領のそれまでの強硬な姿勢から考えて、当初の25%の関税が引き下げられることはほとんど予想されておらず、むしろそれ以上に関税を吹っかけてくるという見方すらあった。マスコミ各社も「関税合意の見通し」は悲観的に見ていたはずだ。そうなると、もともと「参院選で敗北した石破首相の続投はありえない」との認識で固まっていた読売記者としては、「周辺者」との会話で、関税合意の見通しが日本側にとって不利なものとなることを前提に、「さすがの石破首相もこれで続投を断念するだろう」という見通しで話し、それが記者会見で「辞意を表明する」という勝手な憶測につながり、その旨の取材メモが残っているということだろう。

「国益をかけた戦いだけは、最後まで見届けさせてほしい」と石破首相が「周辺」に語っていたとすれば、日本側に有利な合意の見通しを念頭に、それにこぎつければ自信を持って続投表明できるが、万が一「交渉失敗が確定」したら辞任を表明せざるを得ないという趣旨にも受け取れる。

つまり、(3)は、単に読売新聞が関税合意の見通しについて正しい情報を得ていなかったために、「合意実現後の記者会見による表明」の意味を完全に取り違えていたのであり、(イ)の変遷はなかったと言わざるを得ない。

(ウ)の変遷

次に「(ウ)の変遷」である。

これは、(3)の「米国による関税措置を受けた日米協議に区切りがついた段階で退陣する意向」、(4)の8月の「退陣表明に向けての段取り」で、「退陣表明を行うこと」が前提であり、それが(5)の「首相経験者3氏との会合」で3氏に伝えられて表明される予定だったというものだ。

さらに、読売新聞にとって「最大の変遷」が、石破首相が、(6)の読売の23日朝刊の「近く進退を判断する意向を固めた」との記事を肯定し、関税合意成立の発表を受けても、「変わりはない」と答えていたにもかかわらず、「首相経験者3氏との会合」後の記者対応で退陣意向もその旨の発言をしたことも否定したことであろう。

しかし、(3)の「関税協議に区切りがついた段階での退陣する意向」が読売新聞側の誤った認識によるものであることは既に述べたとおりであり、また、(4)についても、「退陣意向」の根拠は、以下に述べるとおり、全くないに等しい。

「退陣へ段取り」の小見出しの記述で、最初に、

首相はさらに、8月6、9日の広島、長崎の「原爆の日」、戦後80年を迎える15日の「終戦の日」は、首相として臨みたい考えを示した。

と述べて「首相としての出席」の意向を示したことが書かれ、それに続いて、

8月20~22日に横浜市で予定されていた「第9回アフリカ開発会議」(TICAD9)にも触れて、「TICADは俺がやるよ。もう辞めると言った後だけど」とも語っていた。

とされている。

「首相としてやる」という趣旨の発言が続いているのに、その後に、「もう辞めると言った後だけど」という言葉が付け加えられているのは明らかに不自然だ。これが「周辺者」の話だとすると、どの時点で「辞めると言う」のか、という話がなければおかしい。仮に取材メモにそのような記述があったとしても、全く無意味なものだ。

しかし、この箇所で首相が「周囲」に語った内容の中で、「退陣の意向」に直接的に言及したのは、この「もう辞めると言った後だけど」だけである。

そして、次の(5)の「退陣の意向の説明」についての記述である。

首相は、退陣の意向をどう説明していくかの段取りも周囲に明かしていた。

7月23日午後には、首相経験者の岸田文雄、菅義偉、麻生太郎の3氏との会合が予定されており、首相はその場で自らの意向を3氏に伝える考えだった。「説明すれば、首相経験者だから気持ちは分かってくれると思う」と吐露していた。

ここでは、「自らの意向」を3氏に伝えるとしているだけで、その伝える「自らの意向」の中身が何なのかはわからない。それが「退陣の意向」だと推測する根拠は、結局のところ、その前の段落で、関税合意の中身の予測を間違った「辞意を表明する」と、「もう辞めると言った後だけど」という不自然に付け加えられた言葉だけだ。

わざわざ「首相経験者3氏との会合」を設定したのだから、そこで石破首相が何らかの重要な内容の話をしようとしていると推測するのは自然だ。そこで、読売側には、退陣の意向を示すのが当然だという「決め付け」があったと考えられる。

その背景には、前記のような「選挙で3連敗した石破首相は責任をとって退陣するのが当然」「石破首相は続投表明を覆して退陣表明をする大義名分を探っている」というような見方があったのであろう。

23日読売朝刊記事についての石破首相の反応と取材への返答

そして、読売新聞にとって最大の拠り所は、その3氏との会合が予定されている翌23日の朝刊の記事についての石破首相の反応と読売の取材に対する石破首相の返答である。しかし、そこには、重大な「ごまかし」がある。

「検証記事」では、

こうした取材をもとに、本紙は23日朝刊で「首相、近く進退判断」の見出しで、「首相は、米国の関税措置を巡る日米協議の進展状況を見極め、近く進退を判断する意向を固めた」と報じた。

と述べている。

しかし、実際の23日朝刊の記事は、「首相、近く進退判断」の見出しで報じているものの、リード文の中頃に「近く進退を判断する意向を固めた」との記述があるが、その文末では「交渉の成否が見え次第、記者会見を開き、進退を明らかにする考えだ。」と書かれており、「進退を判断した上」「記者会見を開き、進退を明らかにする考え」だというのがこの記事の趣旨だ。

「検証記事」の「意向を固めた」という言葉だけであれば、内心の問題であり、すぐに表に出すという意味ではない。「退陣の意向」を内心で固めたがしばらく表には出さないという意味であり、まさに、その後の号外、翌日の朝刊での誤報での「(退陣の)意向を固めた」という表現と同じである。読売新聞は、この23日朝刊記事の内容を前提に、石破首相に「変わりないか」と質問して確認したとしているが、「意向を固めた」だけであれば、「その意向を表に出さない」という趣旨になる。

実際の23日朝刊の記事のリード文で、「交渉の成否が見え次第」「記者会見を開き進退を明らかに」としているのは、「交渉の成否」如何で、「進退」を表に出すということである。そこで、明らかにする「進退」には、「進」も「退」もあり得るが、交渉が成功し、日本に有利な条件で合意成立の見通しとなった場合には、石破政権の評価が大きく高まるのであるから、常識的には「進」の方向に傾くはずだ。逆に、関税交渉で日本側の要求がほとんど通らず、「交渉失敗」に終わる見通しになれば、「退」となるのも致し方ないことになる。

そういう意味で、「表に出す」ことが前提であれば、「続投表明」の趣旨、「意向を固めた」だけであれば、「退陣意向を固めるだけで、それは表に出さない」という趣旨にもなるのであり、そこには大きな違いがある。

重要なことは、この時点では、8月1日の25%の関税適用開始に向けての日米交渉は日本側にとって相当厳しく、この記事での「交渉の成否」は、それまでに日本側にとって有利な形での決着は考えにくいというのが世の中の見方の大勢であり、読売新聞の認識も同様であり、23日朝刊は、そのような前提で書かれていたと考えられることだ。

しかし、実際には、23日の朝、「25%」から「15%」をEUに先駆けて実現したことがわかり、日本側にとって関税交渉で大きな成果が上がったことが明らかになった。

このような「合意成立」の見通しを認識していたはずだ。日本に有利な方向での「関税合意成立」に漕ぎつけたのであれば、それは成果をあげた石破政権継続の理由になるとともに、その後その合意を実現するために石破政権が取り組んでいかなければいけないと考えるのが当然である。

石破首相にとって、日本側にとって有利な「関税合意」が成立し、記者会見で改めて続投を表明する、という進退の「進」の方に重点があり、そのような23日朝刊の読売記事には特に違和感はなかったはずだ。

「選挙で3連敗した石破首相は責任をとって退陣するのが当然」という自民党内やマスコミの論調に支配され、石破首相は続投表明を覆して退陣表明をする大義名分を探っていると考えていた政治部記者は、「交渉結果発表」=「石破退陣表明」しか頭になかったようだ。日本に有利な方向での「関税合意成立」も、「石破退陣花道論」に強引に結び付け、「退陣意向を固めた」と判断した。それが、23日の毎日新聞、そして、読売新聞の「大誤報」につながった。

「石破首相退陣へ」記事検証の核心・読売新聞の「思い込み」

「検証記事」は、23日朝刊の「首相、近く進退判断」に対する石破首相の反応について、以下のように述べている。

この朝刊を読んだ首相は23日朝、「これで党内が静かになるといいな」と周辺に語り、記事を肯定した。同日午前9時すぎには首相官邸で記者団に、「交渉結果を受けて、どのように(進退の)判断をするかということになる」と本紙報道を認める発言をした。

記事が掲載された23日朝には、米国のトランプ大統領が日本との交渉妥結を表明した。これを受け、本紙は、首相に心境の変化がないかを改めて取材したところ、首相は「今日は発表しない」としたものの、退陣の意向については「変わりはない」との認識を示した。

こうした中、毎日新聞がニュースサイトで首相が退陣意向を固めたと報じた。22日夜と23日朝にかけて首相の意向を確認していた本紙も23日夕刊と号外で、「石破首相退陣へ」の見出しで、首相が退陣の意向を固めたことを報じた。報じるにあたり、首相側にはメールで通告した。

これが、「石破首相退陣へ」の記事の「検証」の核心部分である。

既に述べたように、23日の読売朝刊の記事本文の「交渉の成否が見え次第、記者会見を開き、進退を明らかにする考えだ。」という記述は、「交渉の成否」によって「進退を明らかにする」というものであり、「進」も「退」もあり得る。その朝刊記事が出た後に、関税交渉について、日本側に有利な「合意成立」が報じられたのであるから、「進」の可能性が高まったと考えるのが常識的な見方である。石破首相も、読売朝刊記事の「交渉の成否が見え次第、記者会見を開き、進退を明らかにする考えだ。」との本文記述には特に違和感をもたなかったはずだ。

「これで党内が静かになるといいな」というのも、「進退判断」と記事が出た後に発表になった「関税合意」が日本にとって有利なものであることがわかれば、「党内が静かになること」を期待することも当然だ。「交渉結果を受けて、どのように(進退の)判断をするかということになる」と記者団に語ったのも同趣旨である。それは確かに「本紙報道を認める」と言えるが、そこでの「進退を明らかにする」というのは、上記のような趣旨であり、決して「退陣の意向」を表明することではない。

ところが、読売新聞は、米国のトランプ大統領が日本との交渉妥結を表明したことを受けて、「首相に心境の変化がないか」を改めて取材し、「今日は発表しない」「変わりはない」という短い返答を、あろうことか、「退陣の意向の表明」と受け取ったというのだ。

それは、石破首相の「進退判断」についての発言の趣旨の誤解によるものであり、まさに、「思い込み」によって石破首相の返答の趣旨を取り違え、あるいは意図的にとらえたものだ。

そして、毎日新聞の「退陣へ」のネット記事配信で先を越されたことを受けて、読売新聞は、号外を出して「石破首相退陣へ」と報じた。

読売新聞の「検証」からは、記者ないし政治部の「思い込み」による石破首相の発言の誤解があり、それによって、「石破首相退陣へ」という見出しで、「参院選で自民、公明両党の与党が大敗した責任を取って退陣する意向を固めた。」という記事を発出するという「大誤報」を行ったことになる。

「思い込み」の構図における「池下卓事件誤報」との共通性

この誤報での「思い込み」の構図は、8月27日の「公設秘書給与不正受給か 維新衆院議員 東京地検捜査」の記事で、東京地検特捜部の捜査対象者を取り違え、日本維新の会の石井章参院議員ではなく、同党の池下卓衆院議員について秘書給与不正受給の疑いで捜査が進んでいるとの誤った報道を行ったことについて、「検証記事」で「最初の取材で担当記者に思い込みが生じたうえ、キャップやデスクも確認取材が不十分だったことを軽視し、社内のチェック機能も働いていなかったことが誤報につながった。」というのと全く同じ構図だ。

ところが、石破首相退陣記事に関する「検証記事」では、この「思い込み」を全く無視し、同日午後の総理経験者3名との会談とその後の石破首相の記者への説明について、以下のように述べて、あたかも、それまでの石破首相の発言を覆した「虚偽説明」であるかのように述べている。

本紙が退陣意向を報道した直後の23日午後、3人の首相経験者との会談が予定通り行われたが、首相は「参院選の総括をせねばならない」と話すのみで辞意は伝えなかった。麻生氏は「石破自民党では選挙に勝てない」と自発的な辞任を求めたものの、首相は返答しなかったとされる。首相は会談後、記者団に「私の出処進退については一切、話は出ていない。一部に報道があるが、私はそのような発言をしたことは一度もない」と否定した。

しかし、「辞意は伝えなかった」のは、もともと「辞意」はないのであるから、当然のことである。「石破自民党では選挙に勝てない」という麻生氏の発言は、あくまで「次の選挙」の話であり、次の参議院選挙まで3年近く、衆議院の任期も3年余ある状況では、次の選挙を「石破自民党」で戦うかどうかと、「石破首相の現時点での自発的辞任」とは関係がない。「私の出処進退については一切、話は出ていない。」という石破首相の説明には何ら間違いはない。「一部に報道があるが、私はそのような発言をしたことは一度もない」という石破首相の発言も、これまで読売の検証記事について検討してきたところからも、そこにも何ら偽りはない。

結局のところ、(ウ)の変遷も全くなかったのであり、「検証記事」を検討すると、石破首相の意向の「揺れ動き」「変遷」なるものの根拠は全くなく、読売新聞が石破氏に直接「退陣の意向」を確認したことに対する「虚偽説明」の事実も全くないということである。

「検証記事」による石破首相に対する「虚偽発言」批判は重大な名誉毀損

今回の読売新聞の「検証記事」による、現職首相に対する「虚偽発言」批判は、「周辺」による石破氏の言葉を、その立場や発言の背景も曖昧にしたまま、都合よくつなぎ合わせたものであり、「退陣の意向」に直接関係するものはほとんどなく、あっても全く信用性のないもので、まさに、「周辺者供述」の「偽装」に近いものであり、しかも、23日の朝刊についての石破首相への直接取材での石破首相の回答の趣旨を「思い込み」で取り違えているにもかかわらず、「検証記事」では、「取り違え」を棚に上げて、

退陣の意向について「変わりない」と答えた

などと、石破首相が「退陣意向」と答えたかのような「回答の捏造」まで行っている。

さらに、看過できないのは、実際の23日朝刊記事のリード文は、「記者会見を開き、進退を明らかにする考えだ。」で締めくくられているのであり、「意向を固めた」としか書いていないのではない。「検証記事」では、同記事を「近く進退を判断する意向を固めた」と記載し、「明らかにする」という文言を除外して、「退陣報道記事」と同一の文言であったかのように印象づけている。この点も、検証記事の客観性に大きな問題がある。

このような悪辣な「偽装」「歪曲」まで行って、石破首相に対する「虚偽説明」批判を行う「検証記事」が石破首相に対する重大な名誉毀損であることは明らかだ。

しかも、それを、総裁選前倒しの意思確認の手続が行われようとするタイミングで大々的に新聞記事にしたのであり、それによって、石破首相に対する批判を高め、総裁選前倒しで退陣に追い込もうとする意図も明白だ。

客観的かつ公正な報道を行うべき新聞社として到底許容できない行為であり、まさに、「新聞社による一大政治犯罪」である。

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「選挙スリーアウト」でチェンジすべきは“裏金議員”、「納税」も「総括」もない「決着」はあり得ない!

7月27日の【読売新聞(毎日新聞)の「石破首相退陣へ」誤報は、戦後最大の報道不祥事~自民党石破総裁は厳正な抗議を!】に続いて、悪性リンパ腫闘病の病床からのYahoo!記事投稿の第二弾です。

直近の病状は、ニュースレター【抗がん剤治療に伴う感染症と免疫抑制リスクについて】で書いたとおり、左手首の動脈瘤が免疫抑制のために未処置なので、右手と音声しか使えない不自由な状況です。

しかし、現在、自民党内で「石破おろし」と言われる石破首相退陣要求の党内抗争について、昨年10月の衆院選、今年6月の都議選、そして、7月の参院選の3つの選挙で、自民党が三連敗した原因と「裏金問題」との関係について、参院選の総括が行われる前の今、どうしても言っておきたいことがあります。

今年4月に公刊した【法が招いた政治不信 裏金・検察不祥事・SNS選挙問題の核心】(KADOKAWA)の中で指摘した「裏金問題の本質」、「自民党の信頼崩壊の原因」を踏まえて、可能な限り書いてみたいと思います。 

裏金問題による「自民党の政治権力の崩壊」と「納税問題」

長年にわたって「安定政権」を維持していた自民党の「政治権力の崩壊」が生じたのは、「自民党派閥政治資金パーティー裏金問題」が原因でした。パーティー券売上の一部が、所属議員に、政治資金収支報告書に記載不要の「裏金」として還流し、確認できる5年間でも数億円に上ることが明らかになりました。その裏金問題に対する国民の強烈な不満反発の原因になったのが、「課税に対する不公平感」でした。

国会議員は、政治資金パーティーの売上の中から自由に使っていい「裏金」を受け取り、それについて税金の支払も免れていることに対して、国民は激しく怒りました。国民は、事業者もサラリーマンも、汗水流して働いたお金を報酬・給与として得ます。その際、法人の事業を行って得たお金であれば「法人税」等を、個人の収入として得たお金であれば「所得税」等を支払わなければいけません。その上で、残ったお金を自由に使うことができます。

裏金事件が注目を集め、検察の捜査、刑事処分が決着した時期は、個人事業主などは、払いたくもない税金を納めるために、確定申告に向けて気の滅入るような作業を強いられている時でした。しかも、2023年10月にインボイス制度が導入され、「会計処理の透明化」の動きが中小企業や個人事業主にも及び、多くの国民が負担を強いられていました。

それなのに、政治家の世界では、自由に使えて税金もかからない「裏金」という、「領収書不要の金のやり取り」が行われていたことがわかり、派閥は大規模な政治資金パーティーで巨額の収入を得て、その一部を裏金で所属議員に分配し、彼らは税金も支払わず自由に使っている。そのことに対して国民は怒りを爆発させたのです。

ところが、この「裏金問題」について、殆どの議員が処罰も受けず、問題の中身も、責任の所在も、問題解消のための方策も、全く明らかになっていません。

このような「裏金議員の納税問題」は、国会でも野党から追及を受けました。当時の岸田文雄首相は、国会で「裏金議員は所得税を納税すべきではないか」と追及される度に、

「検察捜査の結果を踏まえて、適切に判断されるべき」

との答弁を繰り返しました。そして、実際に、検察は、「政治資金収支報告書に記載不要の金」として、議員側が受領していた「ノルマ超の売上」の還流金を、「資金管理団体又は議員が代表を務める政党支部の収支報告書に記載すべきだった政治資金」であったことにして、その旨の収支報告書の訂正を行わせ、最初から「政治資金」だったことにしてしまい、議員は、所得税の納税を全く行っていません。

しかし、世の中では、通常、表に出せない「裏金」を受領していたことがバレた時に、税務署がそのような「大甘な対応」をしてくれることはあり得ません。

「適法な政治資金」は、いずれかの団体の政治資金収支報告書に記載することで初めて、税務上の「政治資金」として取扱ってもらえるのです。受け取ったお金を収支報告書に記載しないまま受領して保管したり、領収書もとらずに使っておいて、 何年も経ってから収支報告書を訂正して「政治団体に帰属する政治資金だった」などと言い訳しても 政治資金と認めてもらえることはありえません。一般人であれば、隠していた金がみつかり、「人から預かっていたお金です。私の金ではありません」と言っても、「預かり証」でもなければ、個人所得として課税されるのが当たり前です。

検察の捜査の中で政治資金収支報告書を訂正したとしても、それは政治資金規正法上の問題であって、収支報告書を訂正して「政治資金だったことにした」からといって、遡って所得税を払わなくてよくなる訳ではないのです。

このままでは、国民が、裏金議員の納税の問題に対して納得できるわけがないし、裏金議員に対する反発不満が解消されるはずがないのです。

昨年の衆院選で、自民公明与党が少数与党に転落することになった最大の原因が、「裏金問題」であったことは明らかです。

都議選惨敗の原因も都議会自民党の「裏金問題」

それに加え、今年6月の都議選での惨敗も、都議会自民党の裏金の問題が最大の原因です。

私は、今年4月9日、東京都議会政治倫理条例検討委員会に最初の参考人として招致され、都議会自民党の裏金の問題について意見を述べました。以下は、その要約です。

個人のところに入ってきたお金であれば所得税が発生します。雑所得になるはずです。ですから、検察の指導に従って政治資金収支報告書を訂正して、政治団体に帰属したということにしなければ、原則個人の雑所得になって、何か例外的に経費が認められるということでない限り、全部税金をきっちり納めてもらうということになったはずです。ところが、残念ながら、そういう方向での処理は行われませんでした。そして、この裏金議員といわれた人たちの中で、税金を払った人はほとんどというか、全く聞いたことがありません。

こういったことが国会議員レベルで起きて、そして世の中が、処罰もされない、税金も払わない、こんなことで許せるかという思いが強烈な批判不満につながって、昨年の衆議院選では、選挙の結果にも大きな影響を与えることになり、その直後に、その問題が都議会に飛び火したというのが今回の都議会自民党の政治資金パーティーをめぐる、いわゆる裏金問題ということだと思います。

政治資金パーティー券をノルマを超えて販売した議員のところには、そのノルマを超えた分がキックバックされるとか、あるいはその分がパーティーの主催者の方に納入されないで議員側にとどまっている、いわゆる中抜きという形で議員側に帰属している。この構図も恐らく国会議員の政治資金パーティーとほぼ同じだろうと思います。

この問題について、何を突き詰めていかないといけないかというと、本当はこのお金はどこに入ったのか、どこに帰属すべきお金かということを明らかにすること。何より重要なことは、そこだと思います。

国会議員の派閥政治資金パーティーの問題に関しては、そこが十分に突き詰められることなく、全て政治団体とか政党支部に帰属したもののように扱われました。

国会議員の場合は、議員会館というのがあって、そこにも事務所があります。公設秘書が政策秘書も含めて三人もいる。それ以外にもいろいろ秘書もいて、それなりの事務所の体制も整っているわけですから、その事務所で政治資金として管理しているというような説明も一応可能だと思います。

しかし、総体的には事務所の体制が国会議員ほど整っていない地方議員の場合、個人に、そのままノルマを超えたパーティー券の収入が入ってきている、あるいはとどまっているというケースが多いのではないか。とすると、いわゆる裏金というのが個人に帰属している割合は、国会議員の場合よりも、むしろ都議会議員の政治資金パーティー問題の方が一層問題なんではないかと私は思っております。

そのように考えますと、まず今回の問題、国会議員の事件で、残念ながらきちんとした解決が図られなかった国民の不満が、非常に大きな形で残ってしまった。裏金議員に対して、都議会議員の方々は、納税の問題だけは、しっかり事実関係に基づいて適正な処理を行うことが、まずは重要なんじゃないかという気がいたします。

この参考人陳述で私が特に言いたかったのは、国会議員の裏金問題についても、結局、検察の示唆で資金管理団体や政党支部の政治資金収支報告書の記載の訂正という形で済ませてしまって、裏金が遡って政治資金であったような処理をして所得税の納税すらしていないことで、国民の反発不満が生じているんですが、都議会自民党の場合はもっとひどい。そもそも、その議員活動や事務所の実態などからして、都議会議員の場合、パーティー券の売上を中抜きしたお金は個人に帰属している場合が多い。そうであれば所得税を払うのは当たり前だということです。

それだけに、私は、都議会の参考人としてもその点を強調し、非公式に相談を受けた都議会自民党幹部にも、「信頼回復のためには納税をしっかり行うべき」と指摘しました。しかし、自民党の都議は誰ひとり、所得税の納税をしませんでした。

そこには、今さら都議が裏金の所得税を払ったりしたら、それが国会議員の裏金議員に逆流しかねない、検察の意向に反することになる、自民党本部側の懸念があったのかもしれません。

しかし、いずれにしても、それによって都議会自民党は完全に都民の信頼を失ったと言わざるを得ません。都議選で自民党が歴史的惨敗を喫したのも、まさしく裏金問題が原因です。

参院選の敗因と「納税に対する抵抗感・不満反発」

そして、今年7月の参院選です。

この選挙結果は、消費税廃止、消費税減税という国民の声が圧倒的に大きく、消費税減税に消極的な自民党・公明党・立憲民主党は支持されませんでした。

「給付」か「減税」について、圧倒的に「減税」が勝った。端的に言えば、そういう結果です。

その大きな原因となったのが、「裏金問題」だと思います。そこには、納税の負担が大きいこと、そして、徴税を行う税務当局が国会議員の「裏金」に対してあまりに寛容であることへの国民の不満・不信感があり、それが「納税することへの抵抗感」につながっていると見るべきだと思います。

国民は、給与所得者は所得税を源泉徴収され、買い物のたびに消費税をきっちり払わされる。中小企業も、消費税を厳しく取り立てられ、インボイスで苦しめられる。ところが、自民党の国会議員は、裏金を手にして、それがばれても、政治資金収支報告書を訂正して、所得税も免れる。そのような不公平に対する国民の怒り・不満が、根強く残っている状況では、減税に消極的な自民党・公明党などが、消費税減税を訴える国民民主党・参政党などに惨敗するのも、当然の結果です。

昨年秋の衆院選以来の選挙での自民党の三連敗は、間違いなく、「裏金問題」による“スリーアウト”であり、それによって「チェンジ」となるべきは、「裏金問題」にケジメをつけることができず、所得税の納税すら全くしていない「裏金議員」なのです。

「石破おろし」の中心となる「旧安倍派議員」と高市早苗氏

今、「石破おろし」の中心になっていると言われる旧安倍派国会議員の多くが総裁に担ごうとしているのが、高市早苗氏のようです。

高市早苗氏は、昨年9月の自民党総裁選の出馬会見で、裏金議員への対応について問われ、

「自民党で処分が決まっている。8段階の処分の中には『非公認』もある。非公認より厳しい処分が5名に下されている。非公認を含めて党内で積み重ねてきた議論を総裁が代わったからと言って“ちゃぶ台返し”をしたら『独裁』だ」

と、自分が新総裁に就任した場合、裏金議員への公認等の見直しについて検討する考えはないと述べました。

しかし、自民党の党紀委員会で決定された処分に対して、国民は全く納得していません。それに対して、国民から強い反発・批判が生じているからこそ、岸田内閣の支持率が低迷し、「現職首相の総裁選不出馬」という結果につながったのです。岸田総裁の下の自民党内で行われたことを、すべて「是」として見直さない、という対応は、自民党内では通用しても、国民には全く理解されません。

自民党の党紀委員会の処分では、裏金議員の側は、すべて「政治資金として保管・使用し、議員個人が懐に入れていた金はない」と説明し、自民党の側も、その弁解を丸呑みして、「裏金はすべて政治資金」との前提で、「不記載は、すべて会計責任者が行ったこと」で、議員本人は、「会計責任者に任せきりで不適正な処理としてしまった者の管理責任」だけが問題にされました。

しかし、その「前提」が完全に間違っています。裏金議員に対する自民党の従来の対応が国民から厳しい批判を受けているのは、自民党の多くの議員が、収支報告書で公開もしない「裏金」を得ていたことが発覚したのに、刑事処罰を受けないどころか、納税すらしないで済まされていることに対する、納税者としての強い不満・反発によるものです。

高市氏が、そのような国民の不満・反発を無視し、「ちゃぶ台返し」などという理屈を持ち出してまで、裏金議員の公認を維持しようとしたのは、総裁選で決選投票に残った場合に、「裏金議員からの圧倒的な支持を受けたい」との思惑があったからとしか思えません。

「石破おろし」の中心になっている旧安倍派の裏金議員たちは、おそらく「昨年9月の自民党総裁選」まで時計の針を戻し、そこで、石破氏ではなく、高市氏が総裁に選ばれていたら、という思いが頭から離れないのでしょう。

もし、高市氏が決選投票で勝利し、総裁に就任していたとしたら、「ちゃぶ台返しはしない」という旗を掲げて、裏金問題を一切不問にし、衆院選・都議選・参院選を「タカ派」路線で強引に乗り切ろうとしていたことでしょう。

そういう裏金隠し、裏金議員擁護路線の高市総裁で突っ走っていたら、自民党は、参政党に流れる票の一部は防げても、多くの国民は自民党を見放し、参院選での敗北はさらに大きなものになっていたはずです。

「裏金問題」は、長年にわたって自民党組織に深く根差してきた「政治資金の不透明性」という「自民党の本質」そのものだという認識が全く欠落してるのです。

このような 裏金議員を中心 とする「石破おろし」の動きが、総裁選の前倒しに向けての動きにつながっていることに対して、多くの国民が冷ややかな目で見ていて、世論調査で石破首相続投を望む国民が多数に上っているのは、自民党が三連敗した選挙の経過からも、その背景にある裏金問題、とりわけ「裏金議員の納税」に対する批判不満からは「当然の反応」です。

そのことを全く意に介さず、このような状況にあるのに、「裏金議員」が中心となって、「自民党の再生のためには体制の刷新が必要だ」などと言って「石破おろし」を画策し、総裁選の前倒しを議論していることに対しては、呆れ果てたという他ありません。

萩生田議員秘書の略式起訴

ちょうどこのタイミングで、「裏金議員」の代表格のように見られてきた萩生田光一衆院議員の政策秘書が、検察審査会が「起訴を見送り続ければ、いつまでたっても虚偽記載はなくならない」という理由で「起訴相当議決」を行ったことを受け、政治資金規正法違反(政治資金収支報告書虚偽記入)で検察に略式起訴されました。

不記載額は、約1900万円です。

要するに、3回の選挙の敗因となった裏金問題は、世の中にも、国民にも全く納得が得られていないということが、今回の検察審査会の議決にも現れたということなのです。

検察はこれまで、3000万円を基準として、それ以下の金額の不記載については、刑事立件しないか、立件しても起訴猶予としてきました。しかし今回、検察審査会で1900万円の不記載が「起訴相当」とされ、略式起訴したことで、今後、同程度の金額の事案があった場合は起訴せざるを得なくなります。

さらに、今後、検察審査会が、1500万円であっても1000万円であっても起訴相当と議決するかもしれません。今回の検察審査会の起訴相当議決によって、裏金議員の少なくとも秘書などの処罰は 全面的に見直すことになり、処罰の範囲が大きく拡がる可能性があります。

自民党と裏金議員が行うべきこと

つまり、自民党にとって、「裏金問題」は、刑事事件としても、まだ、今後の展開が続くことは必至で、国民の間に生じた「裏金議員が納税を免れていること」への不満・反発も大きく、決着がついているなどとは全く言えない状況なのです。

裏金問題は「政治資金の不透明性」という自民党の構造問題に起因する問題です。それがいったいどういう問題であったのかを総括すること、国民が当然だと思っている「バレてしまった裏金の納税」を行うことが、自民党の再生のためには、まず、必要です。

これまで書いてきたことは、当然のことで、裏金問題について国民の多くが思っていることです。最新の世論調査で 石破内閣の支持率が上昇傾向にあり、国民の多くが 自民党内の 「石破おろし」 に否定的な見方をしているのも、3つの選挙で自民党が敗北した原因が裏金問題に象徴される「政治資金の不透明性」などの「組織の体質」にあり、むしろ、国民はこの状況を乗り越えて自民党の組織の体質を抜本的に改革することを石破首相に期待していると見るべきです。ところが「石破おろし」「総裁選前倒し」に血道を上げている自民党議員の人たちは、国民の反応を敢えて見ないようにしているようです。

私はこれまで与党として政治権力であった自民党を様々な問題で批判してきました。

しかし、やはり、健全な保守政党としての自民党の存在は、日本の政治に必要だと思います。

政権発足後の1年間は盤固めの期間。党内基盤が薄弱な石破首相にとって、石破カラーを出し、「政治とカネ」問題も含めて思い切った対応を行うとすれば、これからが本番です。

音声と右手だけで、何とかここまで 書くことができました。このメッセージが 少しでも多くの国民に そして、自民党議員の人たちに届いてほしいと願っています。

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横浜市長選を目前に控え、横浜市民の方々に向けての病床からのメッセージ

横浜市長選を目前に控え、横浜市民の方々に向けての病床からのメッセージ

前にお知らせしたように、ICUから一般病棟に移ったのち、副作用や感染症とたたかっているところです。

まだ抗がん剤の副作用で手指の先のしびれがあり、パソコンを打つことが思うようにできませんので、今回も事務所スタッフの口述筆記でメッセージをお届けすることにします。(緊急入院のお知らせ等はニュースレターで行いましたが、今回は選挙に関する話ですので、電子メール送信にあたるニュースレターではなく、個人ブログおよびXの投稿という形で行うこととします。)

横浜市長選挙の投開票日が8月3日、2日後に迫りました。

この市長選については、4年前に山中竹春候補落選運動に全力で取り組みましたし、その山中氏が残念ながら当選して、横浜市長となり、その後の横浜市に、私が予想していたとおり、あるいはそれ以上の大変な災いをもたらしているとの認識から、今年6月14日、横浜市旭公会堂で開催した「横浜市に法と正義を取り戻す」講演会で、横浜市長選に向けての山中市長をめぐる重大な問題と、再選をなんとかして阻止しなければならないことを訴えました。

その模様は、YouTube郷原信郎の「日本の権力を斬る!」でアップしています。

その後も市長選に向けての取り組みをしようと考えていたところ、急激な体調不良に見舞われ、当面、業務や活動ができなくなることが予想されたので、その時点で考え得るパワハラによる市役所職員に対する重大な懸念を払しょくできる効果的な抑止の枠組みとして、「特別コンプライアンス条例案」を急遽検討し、私の事務所の調査室長に条例の概要を指示して具体的な条例案の取りまとめを行わせたものです。(条例案はこちらでご覧になれます。

従来、地方自治体のコンプライアンスへの取り組みとしてのパワハラ・セクハラ対策が、もっぱら一般職職員のパワハラ・セクハラを対象とするものであったのに対して、この条例案は、自治体の特別職によるパワハラや自治体職員に対する不当要求などを対象とするものです。

このところ、兵庫県、茨城県、沖縄県南城市、秋田県鹿角市など、全国の自治体で問題化しているパワハラ・セクハラの多くは、首長自身の、自治体職員に対するものであり、それが自治体組織に対して重大な悪影響を及ぼしています。

しかも、日本の地方自治制度において、大統領的な強大な権限を持つ首長に対しては、自治体執行部に設けられた公益通報制度の機能によってそのような問題を指摘して是正することは容易ではなく、当事者の首長の意向によって通報者探しが行われたり、報復的な不利益処分が行われたりすることで、さらなる重大な問題に発展しかねないことは、兵庫県の事例が示している通りです。

また、パワハラの問題が重大な問題として顕在化しても、二元代表制の下での議会からの是正や責任追及の動きは必ずしも容易ではなく、首長との間で深刻な対立が生じ、自治体行政が混乱するというような事態が最近では兵庫県、鹿角市のほか、田久保伊東市長の経歴詐称問題をめぐる市長と市議会との対立からも明らかです。

横浜市の山中市長については、4年前の前回市長選の落選運動でも指摘したように、横浜市大における重大かつ深刻なパワハラ事例の多発などからも明らかなように、山中氏のパワハラ体質には根深いものがあると考えられます。それが、4年間、市長のパワハラ問題として顕在化しなかったことは、正に横浜市のパワハラに対するコンプライアンス体制が機能していなかったことによると考えざるを得ません。

今回、作成した「特別コンプライアンス条例」は、このような自治体首長のパワハラ問題に対する実効的な措置が可能となるよう、専門性を有する独立したコンプライアンス特別顧問に、パワハラ問題等について通報を受け調査し、是正措置をとることなどについて十分な権限を付与し、特別職によるパワハラや不当要求などから、自治体の一般職員を守ろうとするものです。

この条例案は、私がICUに緊急入院した直後で市長選告示直前の7月16日に《日本に法と正義を取り戻す会》のウエブサイトに掲載して公開するとともに、その時点での全立候補予定者に条例案を送付し、市長選での公約に取り入れることを要望しました。

この条例案を市長として実現することに取り組むというのであれば、それ自体が市長によるパワハラの懸念を自ら払拭することになることは、言うまでもありません。

それは、パワハラが懸念される山中氏においても同様のことが言えます。

このような当方の特別コンプライアンス条例の全立候補予定者への送付に対して、7月19日に、

今回の「日本に法と正義を取り戻す会」の提案は、極めて鋭く、深く、これまで国政・地方行政の選挙で議論されなかった事自体、小生を含めて反省すべき点です。

横浜市選挙管理委員会の事前審査を経て、既に選挙運動用ビラ「市政刷新20の約束」は印刷済みですが、選挙期間中の街頭演説で、今回の提案に賛同する旨、お伝えしていきます。

として、この条例案に賛同してくれたのが田中康夫候補です。

当方の問題意識、条例案の趣旨目的を十分に理解していただいたうえでの対応だと考えています。

現職の山中氏を含め、他の候補からの反応は今のところありません。

このような各候補者の反応を受け、私は今回の横浜市長選で、田中康夫氏を全面的に支持したいと考えています。

パワハラの重大な懸念がある山中市長を打ち破り、ぜひ田中氏の掲げる横浜市のビジョンと共にコンプライアンス市政を実現していただきたいと強く願っています。

このような経過で今回の横浜市長選挙については、特別コンプライアンス条例案の策定、公表、全立候補予定者への送付、を行ったことが、私としての選挙に向けての最後の対応ということになりました。

長年にわたりコンプライアンス外部委員として、そして2017年から2021年まではコンプライアンス顧問として、私が様々な案件を通じてお付き合いをした横浜市の各部局の職員の皆さんは、大変有能で、熱意をもって市民のために取り組む地方公務員です。

この条例案には、横浜市民にとって貴重な財産である横浜市役所の組織、市役所職員を理不尽な市長によるパワハラや市議からの不当要求などから守りたいという思いが込められています。

8月3日の投票日には、私のメッセージを踏まえ、横浜市のため、その将来のために正しい選択が行われるよう期待しています。

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読売新聞(毎日新聞)の「石破首相退陣へ」誤報は、戦後最大の報道不祥事~自民党石破総裁は厳正な抗議を!

今般、悪性リンパ腫で集中治療室ICUに緊急入院となったことを7月16日、事務所からのニュースレターで公表し、その後7月23日に、なんとかICUから一般病棟に移れたことを同様に事務所からお知らせしました。

一般病棟に移ってからも、抗がん剤の副作用による発熱、肺炎併発や、感染症で左手が腫れているなどこともあって、まだ従来のような執筆は困難な状況です。

ただ、ICUで迎えることになった今回の参議院選挙、ICUで多くの管につながれながらも、テレビだけは見ることができたので、開票速報、選挙特番やその後の報道を視聴していましたが、政党のガバナンスや報道の問題に関して、コンプライアンスの専門家としてどうしても皆さんにお伝えしたいことがあり、事務所スタッフに口述筆記、補助してもらい、投稿することにしました。

一方的に話すだけなので、まとまった文章にはならないと思いますが、ご容赦ください。

今回の参院選での自公両党の敗北後も石破首相が続投を表明したことに関して、自民党内から「石破おろし」の動きが強まりました。そして、7月23日午前、毎日新聞がネット記事で『石破首相、退陣へ』と題して、

「石破首相は23日、自民党が8月にまとめる参院選の総括を踏まえ、同月までに退陣を表明する意向を固め、周辺に伝えた。」

と報じました。

同日午後、読売新聞も、『石破首相退陣へ』の号外を発行し、

「石破首相(自民党総裁)は23日、参院選で自民、公明両党の与党が大敗した責任を取って退陣する意向を固めた。」

と報じました。

ところが、石破首相は、同日午後2時から自民党本部で麻生太郎、岸田文雄、菅義偉の3首相経験者と1時間以上にわたって会談し、その終了後のマスコミ各社への対応で、

「私の出処進退については一切話に出ていない。一部に報道があるが、私はそのような発言をしたことは一度もない」

と、退陣の意向を固めたことも、それを周辺に伝えたことも明確に否定しました。

それにもかかわらず、読売新聞・毎日新聞両紙は、翌日の朝刊で、『石破首相退陣へ』と一面トップ記事で報じました。

朝刊記事の内容は、毎日新聞が、

「石破首相は23日、自民党が8月にまとめる参院選の総括を踏まえ、同月末までに退陣を表明する意向を固め、周辺に伝えた。」

読売新聞が、

「石破首相(自民党総裁)は23日、参院選で自民、公明両党が惨敗した責任を取り、退陣する意向を固めた。」

というもので、いずれも、「意向を固めた」のも「周辺に伝えた」のも、その主語は「石破首相」です。

その石破首相本人が、「退陣の意向を固めたこと」も「それを周辺に伝えていたこと」も明確に否定したわけですから、両紙の「石破首相退陣へ」のスクープ記事が誤報であったことは明らかです。

ところが、このような石破首相の明確な否定にもかかわらず、両紙は翌日の朝刊でも大スクープのような見出しで「石破首相退陣へ」を報じたのです。

報道とは、事実を正しく伝えることです。その事実に関する根拠の程度は様々で、推測に基づく報道が行われることもあります。その場合、その推測が誤っていたのであれば、報道の内容を事後的に訂正、修正しなければいけないことは、言うまでもありません。

今回の、「石破首相退陣報道」は、石破首相自身の方針という内心を述べたものであり、その本人が明確に否定した以上、客観的事実と異なっていたことが明白になったわけです。

仮にそれまで推測に基づいて報じていたとしても、もうその推測の根拠が失われたわけですから、その報道を訂正し、謝罪するということになるのが当然です。

ところが、読売新聞・毎日新聞は、そのように石破首相に明確に否定された事実を翌日の朝刊であえて大々的に報じたのです。

これは、報道の範疇を大きく逸脱した「新聞の暴走」と言わざるを得ません。

しかも、当初の記事に書かれていた「石破首相が退陣の意向を周辺に伝えた」という事実が石破首相自身への確認ではなく、その周辺者への取材によるものであったかどうかも、極めて怪しく、そもそも両紙の記事は、石破首相本人が意向を伝える可能性がある「周辺者」の取材に基づかず、全くの憶測による記事であった可能性が高いということになります。

もっとも、その後の対応は、読売新聞と毎日新聞では、かなり異なっているようです。

毎日新聞は、25日の社説で

「石破茂首相の退陣が避けられない情勢となった。」

との表現にとどめており、「退陣の意向を固めた」ということは社説でも記事でも書いていません。

毎日新聞は、「石破首相退陣へ」報道が事実上誤りであったことを認めざるを得ないことから、修正を図ったのだと思います。もちろん、誤報であったことを認めるのであれば、明確な訂正、謝罪をすべきであり、毎日新聞の姿勢は新聞社として到底許容できるものではありません。

しかし、読売新聞のその後の対応と比較すれば、まだ「まし」という評価もできます。

25日の読売社説は、

「参院選で惨敗後、いったんは続投する考えを示していた石破首相が、退陣する意向を固めた。」

と述べ、読売新聞としての見解を示す社説においても、改めて「退陣する意向を固めた」という事実を述べているのです。

それにより、少なくとも読売新聞の「石破首相退陣へ」報道は、政治部の現場レベルではなく、新聞社として組織的なものになったと断ぜざるを得ません。

その後の読売新聞の石破首相の進退に関連する報道は、社として「石破首相退陣へ」報道をそのまま維持し、それとの整合性を保てるような報道になっています。

自民党内の石破降ろしの動きが一層強まっていることを報じ、一方で、石破首相サイドも事実上、続投は困難と判断し、退陣表明の時期を探っているかのような内容になっています。

これらの報道が、すでに号外まで出して報じてしまった「石破首相退陣へ」報道を、訂正、謝罪もせず、いまだに維持しているためであることは明らかです。

その後も、石破首相は続投の意思を繰り返し示していますが、少なくとも読売新聞は、それを正面から取り上げた記事を出していません。

このような報道が今後も続くとすると、読売新聞は、石破首相を退陣に追い込もうとする自民党内の政治勢力と結託して、その政治的目的を実現するための報道を継続的に行っていくことになります。

もともと「石破首相退陣へ」の記事自体が、石破首相の周辺者などへの十分な取材もなく、退陣の意向を固めていない石破首相に対して、「退陣へ」などと断定する見出しの記事を出し、号外まで出して、世の中に、石破首相が退陣することが既定事実となったという認識を与えて、政治の流れを一気にその方向に向けようという意図で行った報道としか考えられません。

このような読売新聞の報道は、これまで長い歴史の中で新聞・テレビなどマスメディアが築き上げてきた報道倫理に対する重大な挑戦です。

私は、2017年、加計学園問題に関連して、読売新聞が前川喜平元文科事務次官の問題を取り上げた記事について、【読売新聞は死んだに等しい】とするブログ記事を出して読売新聞を厳しく批判し、ハフィントンポストにも転載され、当時大きな反響を呼びました。

その記事で、

今回、読売新聞が行ったことは、安倍政権を擁護する政治的目的で、政権に打撃を与える発言をすることが予想される個人の人格非難のため、証言をでっち上げたか、事実に反することを認識しつつ印象操作を行ったか、いずれにしても、政治権力と報道・言論機関の関係についての最低限のモラルを逸脱した到底許容できない行為である。しかも、そのような記事掲載は、上層部が関与して組織的に決定された疑いが強く、まさに、読売新聞社という組織の重大な不祥事である。

と指摘し、

今回の問題に対して、真摯な反省・謝罪と再発防止の努力が行われない限り、“読売新聞は死んだに等しい”と言わざるを得ない。

と締めくくりました。

しかし、読売新聞は、原口隆則社会部長の「次官時代の不適切な行動 報道すべき公共の関心事」と題するコメントを掲載したのみで、記事の内容に関する問題については一切触れることなく、そのままやり過ごしました。

私に言わせれば、「死んだに等しい」読売新聞が、その8年後に起こした今回の「石破首相退陣へ」報道の問題は、前川喜平氏に関連する記事の問題をはるかに超える「重大な報道不祥事」です。

前川氏に関する記事の時のような、時の政権側の意向に沿い、忖度し、協力するというようなものではなく、与党自民党内部での政治的対立から石破氏の参院選敗北後の進退の判断が注目されている場面において、石破氏を政権から排除しようとする特定の政治勢力と結託して意図的な捏造に近い報道が行われた可能性もあります。

日本で最大の発行部数を誇る読売新聞が、このような形で露骨に特定の政治勢力と結託することがいかに不健全なことか、戦前の新聞の歴史からも、明らかだと思います。

このような状況の中で、私にとって不可解極まりないのが、読売新聞・毎日新聞以外の、他社のこの問題に対する反応です。

いまのところ、誤報だとする指摘は全くなく、他紙の政治部長経験者などは、テレビに出演して、「石破氏が続投の方針を貫いていることは予測できなかった」などと、読売新聞・毎日新聞の報道に一部理解を示すかのような発言もあります。

政治部の報道は、社会部の報道とは異なり、事実ベースというよりも、政治動向、政局の見通しについての予測が中心だという考え方があります。

今回の参院選後の石破首相の続投の方針維持は、従来の日本の政治の世界の常識からは考えられない異常な行動であり、そのようなことは読売・毎日のみならず、取材していた政治記者全体が認識を共有していた、ということで、読売・毎日の「石破首相退陣へ」報道に対して、同情的ということかもしれません。

しかし、政治記者として「予測」をすることと、当事者本人の意向という事実を捻じ曲げることは、全く異なる問題です。

政治記者にその区別がつけられないとすると、それは日本の政治ジャーナリズムの世界の根本的な欠陥といわざるを得ないと思います。

このことに関連して、「そもそも、今回の参院選敗北後の石破首相の続投宣言がそれほど異常で常識を逸脱したものなのか」ということを、改めて考えてみる必要があります。

結論から言えば、私は、今回の参院選の結果を受けての石破首相の続投というのは、十分に理解できるもので、それが「全くありえないこと」と考えた読売・毎日をはじめ政治部の感覚の方がおかしいと思います。

まず、「選挙で負ければ、時の権力者はその座から降りるのが当然」という考え方の是非です。

日本は、衆議院議員内閣制をとっており、衆議院議員の多数から支持されて総理大臣が指名され、組閣を行います。

その総理大臣が、選挙で敗北し、他の議員の方が多数の議員の支持を集めることになれば、当然のことながらその総理大臣は地位を失うことになります。

総理大臣が所属する政党の総裁・代表を務めているとき、直ちにその総裁・代表の座を失うとは限りません。

政権を失った政党が、その後誰をトップにしていくのかは、政党内部で議論して決めることです。

衆議院でも、選挙での敗北が直ちに党のトップの交代につながるとは限らないわけですが、参議院選挙の場合は、そもそも法制度的には政権選択のための選挙ではなく、二院制の下で衆議院とは異なった役割を果たす参議院議員として誰がふさわしいか、どの政党の候補者がふさわしいかを選択するための選挙です。

そのため選挙結果「だけ」から、自公で過半数の目標が達せられなかった石破首相は直ちに退任すべき、ということにはならないと思います。

今回の選挙の結果を受けて、石破首相が退陣すべきかどうかというのは、結局のところ、石破氏が自民党総裁の座にとどまるのか、総裁辞任で新総裁を選ぶかというまさに自民党組織としての判断の問題ということになると思います。

では、「今回の参院選での敗北が、石破総裁が辞任するのが当然というべき結果であったのか」ということです。

同じ「目標未達」という結果であっても、その程度によって、問われるべき責任の程度は異なります。

最近、自民党が参院選で大敗北を喫し、結果的に首相・総裁が辞任に至った例として、2007年7月の参議院選挙における安倍晋三首相・総裁の例があります。

このとき、石破氏が、「安倍首相は参院選敗北の責任を取って辞任すべき」と述べたことが、今回、ブーメランとなって帰ってくる、という人がいますが、この2007年の参院選では、自民党は62議席から37議席と、実に25議席も減らし、参議院での過半数を失いました。

52議席から39議席と、13議席減らした今回の選挙とは大きな差があります。

しかも、2007年参院選は、それまで衆参で安定多数を占めていた自公両党が、参議院で過半数を失ったことによって国会のねじれが生じ、法案が成立しない、同意人事が拒否される、などの大きな政治的影響を生じさせました。

そしてその2年後の衆院選で自民党は大惨敗し、民主党に政権を明け渡したのです。

今回は、参院選の前からすでに、衆議院では自公両党は少数与党となっており、参議院でも過半数を下回ったことで、もちろんその対策の難度は変わってきますが、国会での野党との調整、連携が必要であることに変わりはありません。

このような2007年参院選で大敗北し、自民党にも壊滅的な影響を及ぼした時ですら、当時の安倍晋三首相は辞任せず、1か月半後に体調不良を理由に首相・総裁を辞任しました。

今回、石破首相は、「自公で過半数」という目標を掲げて参議院選挙を戦い、結果的には自公両党で併せて3議席、過半数に達しないという結果になりました。

ただこれは、公明党が14議席から8議席と、6議席減の大惨敗したことも大きな要因になりました。

この点は、自民党石破総裁の責任ではありません。公明党の議席減が半数にとどまっていたら、自公で過半数を確保できたことになります。

この結果が、「選挙で負けたのだから、首相・総裁辞任が当然」というべきものなのかどうか、さまざまな見方があり得ると思います。

最も重要なことは、今回の参院選で自民党の敗北の主たる原因が何か、ということです。参院選敗北の検証・総括は、自民党青年局など、石破首相退陣を求める党内勢力も強く要求しているもので、最終的にはその検証結果を見極める必要がありますが、現時点での認識を示しておきます。

主たる原因として想定できることは2つあります。

一つは、今、石破首相退陣を強く求める党内勢力がおそらく理由と考えている

「石破首相はリベラル派に偏りすぎており、従来の自民党内の保守層からの支持が失われた」

というものです。

この考え方によれば、自民党が一人区、二人区の多くで敗北した原因は、自民党支持の保守層の票が参政党に流れ、それによって立憲民主党などの候補に僅差で敗れた、ということになろうかと思います。

しかし私は、そのような見方は、これまで自民党を支えてきた健全な保守派支持者に対して失礼な見方だと思います。

今回の参政党の躍進は、「日本人ファースト」という、今の日本において適切な政策目標と言えるか多分に疑問がある(そもそも参政党が外国人優遇・日本人冷遇の現行制度として何を挙げているのかもよくわかりません)「ワンフレーズ」を掲げてお祭り騒ぎをし、それがSNSと街頭で異常に盛り上がったことによるものであり、およそ法的に論理性があるとすら思えない憲法草案などを見ても、党としての正体も全く不明です。

いくら保守派自民党支持者が石破リベラルを嫌ったといっても、参政党に投票するという人は極めて限られているのではないでしょうか。

もう一つ想定される参院選の敗因は、衆院選、都議選から続く、裏金問題による自民党支持者の自民党への失望が、自民党の党勢を失わせたことです。

今回、参院選比例区で「奇跡の当選」を果たした鈴木宗男氏が、

「行く先々で言われたことは『裏金問題のけじめが甘い』『だれも国会議員は責任を取っていない』ということだった」

「党執行部の責任を問う前に、裏金問題のけじめをしっかりつけないと自民党の再生はないと思っている。1000万円も2000万円も3000万円も不記載がある(議員がいる)中で、何の罰も受けていないということに、国民は怒っていた」

「党内で、特に裏金をもらった議員が何もなかったことのように振る舞い、執行部批判をしている。こういうのを許したら、逆に党がもたない」

と述べていますが、選挙直前に23年ぶりに復党し、選挙期間、全国を駆け回った鈴木氏が直接感じた「裏金問題にけじめがついていないこと」の重さは、自民党の真の敗因を的確に言い当てているとみるべきだと思います。

しかも、鈴木宗男氏は、その当選を心から喜んでくれた娘の貴子衆議院議員が石破総裁退陣を求めているのと真反対の見方をあえて示しているのであり、その発言には、魂がこもっていると思います。

長年にわたって派閥から裏金を得ていながら処罰もされず、税金すら全く払っていないという「裏金議員」に対する国民の不満、反発は極めて重く、それが昨年の衆院選、今年の都議選、参院選と、自民党にとってボディブローのように効いていることは、否定しようのない事実だと思います。

このような敗北の責任の程度、敗北の原因などを踏まえ、参院選後にアメリカとの関税合意がまとまり、30%のEUにも先駆けて15%への関税引き下げを実現した成果、そしてこれから関税合意を、日本の国益を最大限に図るため、これまでの交渉経過に基づいてアメリカとの交渉を継続していく政権の責任なども考え、自民党としての今後の体制が決められていくべきだと思います。

ということで、今回の参院選の敗北後に石破首相が続投しようとすること自体が予測不能であったかのような政治記者の人たちの認識は、どこか根本的に間違っているのではないかと考えています。

最後に、石破首相・総裁に私から提案したいことです。

今回の戦後最大の報道不祥事というべき読売新聞(もちろん毎日新聞の問題も放置できませんが、ここではより問題が重大な読売新聞に絞ります)の「石破首相退陣へ」大誤報に対して、自民党総裁として、正式に抗議し、訂正・謝罪・検証などの対応を要求することです。

首相自身の意向に関する事実無根の報道ですから、それに対する抗議、訂正要求の意思を明確に示すことは、続投の意思が確固たるゆるぎないものであることを示すことにもなります。

このようなことが野放しになってきたことが、派閥の領袖などの意向で党の人事が左右されるのが当然であるかのような自民党の旧来の悪しき体質を温存してきたのではないでしょうか。

読売新聞に対する厳正な対応は、そのような自民党の体質の一掃にもつながるものであり、今、それを行ったうえ、石破政権として国民のために果たすべき役割をしっかり果たしてもらいたいと思います。

問わず語りがいつの間にか長くなってしまいましたが、参院選以降の「石破降ろし」が吹き荒れる今の政治状況、報道の惨状に対して、病床で考えたことを率直にお伝えしました。

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