兵庫県斎藤知事をめぐる分断対立を背景とする「SNS侮辱略式起訴騒ぎ」と“公文書偽造・同行使罪”の疑い

今年6月、ある「侮辱罪による略式命令」をめぐって「騒ぎ」が発生した。

発端は、阪神・淡路大震災30年の慰霊のために神戸を訪問された天皇皇后両陛下と斎藤知事との写真に、百条委員会で斎藤知事を追及した県議会議員の丸尾牧氏の名前を出して「丸尾が黒幕」などのセリフを重ね合わせた画像等が、「北海道の歩き方」と称するX(旧ツイッター)の匿名アカウントに投稿されたことだった。

それに対して、個人でYouTubeチャンネルを開設し、毎日、YouTube動画による配信を行っている元民放局アナウンサーの子守康範氏が、自身のYouTubeチャンネルで「度を過ぎた遊びとも言えないことをやっている奴らがいる。」「単なる頭おかしい奴らが書いていて」などと発言したことに対して、匿名アカウントの運用者(後述するように、被害者特定事項秘匿制度の対象とされ、告訴人氏名は刑事事件でも秘匿されている。以下、運用者を「A」という。)が刑事告訴を行い、子守氏が侮辱罪で9000円の科料の略式命令を受けた。

本来、略式手続は、公判と異なり非公開で、少額の罰金・科料を支払うことで刑事事件を決着させる手続である。14日以内に正式裁判を申立てれば略式命令は失効し、通常の公判手続に移行する。実際に、その後、子守氏は、この略式命令に対して正式裁判申立を行っており、無罪主張をする方針を明らかにしている。

ところが、この件に関して、検察が公表もしていないのに、「略式起訴」がネット上で公開され、騒ぎに発展した。それは、略式命令が出された直後、まだ子守氏に命令書が送達されていない時点で、Aが、検察官名義の告訴人A宛ての「処分通知書」を一部マスキングして添付し、起訴されたことが子守氏だとわかるような内容のX投稿を行ったことによるものだった。

それを受けて、弁護士の福永活也氏が、Xに、

「書類送検どころか、子守康範氏が起訴されたという情報が入ってきましたが、本当ですか!?」

と投稿、略式手続に対する同意書に署名しただけで、略式命令の送達も受けていなかったため、その時点では「起訴」されたとの認識がなかった子守氏は、

「デマ拡散の魚拓いただきました。裁判所で会いましょう!」

と反応した。しかし、その後、処分通知書がX上にアップされていることを知り、YouTubeで「略式起訴」されたことを認めて謝罪した。

これを受け、福永氏は、

「子守康範氏が侮辱罪で起訴され、犯罪者となります。」

と題するYouTube動画を配信し、その直後、立花孝志氏が、自身のYouTubeで

「おい、犯罪者子守康範、てんコモリスタジオの元TBS系MBSアナウンサー」

「起訴されたんやろ。略式受け入れるんやろ。犯罪者確定やないか、前科持ちやないか!」

などと、SNS上で子守氏のことを「犯罪者」「前科者」などと騒ぎたてた。

「北海道の歩き方」と称する匿名アカウントの運用者Aは、X、YouTubeなどの投稿を行っている。その投稿では、百条委員会で斎藤知事を追及した竹内英明元県議(斎藤知事再選後に県議を辞職し、今年1月に死亡)、丸尾牧県議等の「反斎藤派」を揶揄する投稿を続けており、その中で、竹内元県議や、告発文書の作者である元県民局長の写真を便器や汚物と重ね合わせるコラージュを投稿するなど、非常識な投稿を行い、「批判の炎上」により注目を集めて視聴数を稼ぐ、というやり方を繰り返している「斎藤派」の匿名投稿者である。

その「北海道の歩き方」のX投稿を批判した子守氏は、YouTube等で、兵庫県知事をめぐる問題に関して、元県民局長の告発文書に対する斎藤知事の対応等を批判してきた。反斎藤派の中心人物と目され、斎藤派からは反感を持たれている。

子守氏が侮辱罪で起訴されたことを伝えるYouTube動画を配信するなどした福永活也氏は、NHK党の立花孝志氏の支持者である。立花氏は、昨年11月の兵庫県知事選挙に「斎藤氏を応援するため」と称して立候補し、「2馬力選挙」で斎藤氏の当選に貢献したとされている「斎藤派」であり、福永氏は、2024年の衆議院議員補欠選挙東京15区にNHK党から立候補したこともあり、YouTube等で「反斎藤派」を批判する発信を行っている。

このように、「SNS上での侮辱」をめぐる科料9000円の略式命令が「騒ぎ」に発展した背景には、兵庫県斎藤元彦知事をめぐって続く「斎藤派・反斎藤派」による分断対立の構図があるのである。

この問題は、侮辱罪の法定刑引上げの刑法改正、被害者特定事項秘匿制度の導入の刑訴法改正など、最近の刑事法改正の法運用だけでなく、本来、非公開の手続である略式命令の運用にも関わるものである。この事件に対する検察庁・裁判所の判断如何では、今後、SNS上で発生する同種の問題が、刑事司法の世界に大量に持ち込まれることになりかねない。

私も、ネット上での「騒ぎ」の時点でこの問題に関心を持ち、ネット上で入手し得る限りの情報を収集した。それによって把握した事件の経過と事実関係に基づき、この事件が今後の刑事司法の運用に与える影響も含めて解説することとしたい。

「北海道の歩き方」の投稿と、子守氏の発言内容、刑事事件化の経過

令和7年1月16日、天皇皇后両陛下が、阪神・淡路大震災から30年の追悼式典に参加されるため神戸空港に到着された際に、斎藤知事が出迎えた場面の映像に、両陛下と斎藤知事の会話を重ね合わせた以下のような画像をアップした。

このX投稿へのリプライとして、「北海道の歩き方」自身が、

    天皇「竹内君は消しといたから」

    斎藤知事「有難きお言葉」

などと付け加えている。

これを見た子守氏は、同日、「てんコモリスタジオ」でのYouTube配信で、

北海道の歩き方というXアカウントがありまして炎上しております。

ふざけたことをやりよったんですね。

と述べて、そのような心ない投稿が、いかに大震災被害者の心を傷つけるものであるかを話す中で、

度を過ぎた遊びとも言えないことをやっている奴らがいる。

単なる頭おかしい奴らが書いていて、脳内麻薬が出ているのかしりませんが、薬打ってるような感じで

などの表現も使った。

前記のとおり、「北海道の歩き方」のAは、SNS上で、竹内元県議や元県民局長など故人の写真と便器・汚物を組み合わせた侮辱的な画像の投稿を繰り返すなど、度の過ぎた悪ふざけ投稿を繰り返してネット上で注目を集め、多くの視聴を獲得して利益を上げている。死者に対する侮辱罪がないことからこの点は罪に問うことはできないが、遺族の心情を思うと、その所業は凡そ許せることではない。

そして、そのAの悪質性が極端なまでに表れたのが、阪神・淡路大震災30年の慰霊のために神戸を訪問された天皇皇后両陛下と斎藤知事との会話に「黒幕」「丸尾」などの言葉を重ね合わせた画像の投稿だった。

しかも、それに天皇陛下のセリフとして、

《天皇「竹内君は消しといたから」》

などという言葉まで書き加えている。

その投稿の2日後の1月18日に、竹内元県議は自ら命を絶った。

大震災から30年、両陛下の慰霊訪問を厳粛に受け止め、6434人の犠牲の御霊に静かに祈りを捧げたいと思う兵庫県民にとって、その両陛下と斎藤知事との会話に、兵庫県の分断対立を象徴するような言葉を重ね合わせ、心をかき乱すような投稿がネット上で拡散されていることに対して、強烈な反感を抱くのは極めて自然な反応であろう。両陛下と丸尾牧議員、竹内元議員を誹謗中傷するものであり、一般人の常識からは考えられない悪質な投稿である。

子守氏が、「度を過ぎた遊びとも言えないことをやっている」「単なる頭おかしい奴らが書いていて」と表現することも、むしろ「当然の反応」と言うべきであろう。

しかも、同投稿では、天皇皇后両陛下と斎藤知事の会話として「で、結局誰が黒幕なの?」「丸尾です」「やはりですか…」「不敬罪で収監して!!」などのやり取りが記載されている。この会話の中の「丸尾が黒幕」というのは、昨年11月の兵庫県知事選挙の、選挙期間中にSNS、街頭演説等で発信し、丸尾牧氏ら斎藤知事を追及する側の県議会議員に対する批判として流布されることで選挙結果にも大きな影響を与えた「政治的発言」である。しかも、同言説はもともと極めて根拠薄弱で、後日、「デマ」であることを発言者の立花氏自身も認めている。

憲法上、「国民の象徴」であり、政治的発言を禁じられている天皇陛下が、兵庫県知事選挙で立花氏が発言したフレーズを用いて兵庫県知事と会話をしているかのような、国民にとっても到底許容できない表現を含んでいるのであり、投稿の異常性、反社会性は際立っていると言わざるを得ない。

ところが、このような非常識極まりないX投稿を批判された「北海道の歩き方」のアカウント運用者のAは、上記の子守氏の発言が名誉毀損に当たるとして、同年2月初め、兵庫県警に告訴状を提出した。

兵庫県警は、A、子守氏の聴取、YouTube発信の現場の確認等の捜査を行って、書類を神戸地方検察庁に送付、神戸地検では刑事部のT検事が担当し、子守氏を取調べた上、6月16日に、侮辱罪で神戸簡易裁判所に略式命令請求を行い、同月18日、科料9000円の納付を命ずる略式命令が出された。

Aへの処分通知書の送付と、ネット上での公開

告訴事件の場合、検察官の処分結果について、告訴人に「処分通知書」が送付される。子守氏を告訴したAに対しても、処分日の6月16日付けで、「処分区分 起訴」と記載された処分通知書が送付された(「略式請求」と、正式起訴の「公判請求」とは異なるが、処分通知書の「処分区分」としてはいずれも「起訴」となる)。

Aは、6月20日に、処理罪名を侮辱、被疑者名と検察庁の事件番号を「黒塗り」にしたT検事名義の告訴人「大森貴逸」宛ての処分通知書を、「北海道の歩き方」のXアカウントの冒頭に貼り付けて掲載し、本文に

【(祝)起訴されました(祝)】当アカウントを誹謗中傷した反斎藤派の「名前を言ってはいけないあの人」は神戸地検に【起訴】されました。

竹内嫌疑への誹謗中傷はやめるよう呼びかける一方で、斎藤知事や斎藤知事擁護派の人を誹謗中傷するダブスタはやめましょう。マスゴミもやぞ

と書いて、「起訴」されたのが子守氏であることを暗示した。

そして、福永活也氏が、同日午後9時5分に、

「書類送検どころか、子守康範氏が起訴されたという情報が入ってきましたが、本当ですか!?」

とのX投稿を行い、それを見た子守氏が、

「デマ拡散の魚拓いただきました。裁判所で会いましょう!」

とX投稿した。

こうして、「北海道の歩き方」のアカウントの運用者のAから情報や資料の提供を受けた福永氏が、SNS上で子守氏に「起訴」について質問し、それに反発した子守氏が「デマ拡散」などと投稿した。その後、福永氏は子守氏に対して名誉毀損による損害賠償請求訴訟を提起している。

福永氏は、Aから子守氏が起訴されたことが書かれた検察官名の「処分通知書」を送付され、それを根拠に、「子守氏起訴」は間違いないものと考えて、上記X投稿を行ったのであろう。

Aの目論見は、批判者の子守氏が「科料9000円を支払わされること」ではなく、「刑事罰に処せられた犯罪者、前科者として批判にさらすこと」だ。そのために、「検察官の処分通知書」が「告訴人」に対して送付されることは、格好の材料だった。しかし、その処分通知書の真正な書面をそのままネット上で公開すると、告訴人本人の氏名が記載されているので、「北海道の歩き方」のアカウント運営者Aの実名が公開されることになる。

そこでAが行ったのが、告訴人名を改ざんした「処分通知書」をX投稿で公開するという行為だった。

Aは、その日の夜に参加したXアカウントのスペースのライブ放送で、そこに参加した福永氏に、

大森さんの名前書かれていますよね、処分通知書に。だから「北海道の歩き方」さんが大森さんであることは、まあ見て分かるわけじゃないですか。

と聞かれて、

そこはボク、あの「大森」じゃないっす。これは釣りで入れました

と言って、「大森貴逸」が仮名であることを認めている。つまり、Aは、検察官名が記載され押印された処分通知書の宛先の「告訴人名」に記載された自分の実名を、仮名に改ざんして福永弁護士に送付し、ネット上で公開したのである。それによって、Aにとって、自分の実名を知られることなく、子守氏が起訴されたことをネット上で広く知らしめることが可能となった。 

しかし、以下に詳述するように、そのようなAの行為は、有印公文書偽造・同行使罪に該当する可能性が高い。つまり、Aの目論見は、「重大な犯罪行為」を行うことによって、初めて可能になるものだったのである。

Aの行為についての有印公文書偽造・同行使罪の成立

Aは、検察官作成名義の公文書である処分通知書の宛先の告訴人名欄に「大森貴逸」という文字を組合せて「別人宛の処分通知書」を作り上げた。

公文書の一部を改ざんして原本と異なる写真コピーを作成する行為については、公文書偽造罪の成立を認めるのが、最高裁判決(昭和51年4月30日)以降の確立した判例となっている。

同判決は、

原本の作成名義を不正に使用し、原本と異なる意識内容を作出して写真コピーを作成するがごときことは、作成名義人の許容するところではなく、また、そもそも公文書の原本のない場合に、公務所または公務員作成名義を一定の意識内容とともに写真コピーの上に現出させ、あたかもその作成名義人が作成した公文書の原本の写真コピーであるかのような文書を作成することについては、右写真コピーに作成名義人と表示された者の許諾のあり得ないことは当然であって、行使の目的をもってするこのような写真コピーの作成は、その意味において、公務所または公務員の作成名義を冒用して、本来公務所または公務員の作るべき公文書を偽造したものにあたるというべきである。

と判示している。

本件では、担当検察官は、告訴人のA宛てに、子守氏の「起訴」を通知する書面として送付したのであり、それをAが勝手に「大森貴逸」などと告訴人名を改ざんし、あたかも大森という人物が告訴人であるかのような内容の「処分通知書」が作成され、それがネット上で公開されることは、作成名義人である検察官の許容するところではないことは明らかだ。

また、原本に名前を貼り付けるなど、原本だけ見れば真正な文書と誤信しないような改ざんであった場合でも、それをコピーすることで、原本とは別個の文書を作り出すのであるから、文書の変造ではなくすべて偽造罪が成立するというのが判例(最決昭和61年6月27日)の立場である。

偽造公文書の「行使」とは、「偽造された公文書を真正に作成された公文書として人に認識させ、または認識可能な状態に置くこと」であり、Aが告訴人名を仮名に改ざんした担当検察官名義の「処分通知書」のコピーの画像を、真正な書面が存在するかのように他人に認識させるためにX投稿でネット上に公開する行為は「偽造公文書の行使」に当たると考えられる。 同じ「偽造公文書行使」でも、真正な文書と見分けがつかない偽造公文書の画像がSNS等で公開された場合、特定の相手に提示する場合と比較して拡散性が高く、公文書に対する信頼を失墜する程度が著しい。そういう意味で態様が極めて悪質な「偽造公文書行使」と言うべきであろう。

背景となった「被害者個人特定事項秘匿」と侮辱罪の法定刑引上げ

上記Xスペースで、Aは

「刑事だと被害者名が秘匿されるが、民事だと公開されるから、刑事告訴を選択した」

と述べている。被害者名が秘匿されることを前提に、刑事告訴を選択したようだ。

被害者の個人特定事項秘匿制度は、2024年(令和6年)2月施行の改正刑事訴訟法で導入されたもので、性犯罪等の事件について、逮捕、勾留、起訴にあたって被害者の個人特定事項(氏名及び住所その他の個人を特定させることとなる事項)を被疑者・被告人に明らかにしないまま刑事手続を進めることが可能になった。

略式請求についても、検察官の請求により、裁判所が、個人特定事項の秘匿措置をとるかどうかを判断する。

被害者の個人特定事項の秘匿制度の対象となるのは、原則として、性犯罪、児童買春、児童ポルノ関連事件など、被害者のプライバシーの保護が強く求められる事件である。その他に、「犯行の態様、被害の状況その他の事情により、被害者の個人特定事項が被告人に知られることにより」「被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれ」「被害者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれ」も対象に加えられている。

既に述べたように、「北海道の歩き方」アカウントにおけるAのSNS投稿に対しては、ネット上で大きな反発・批判が生じており、アカウントの運用者のAの氏名等が公開されると、A自身に厳しい批判が殺到することは必至だ。そういう意味では、「被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれ」に当たるとされる可能性はある。その場合、起訴状の被害者の記載は匿名化され、被害者の証人尋問が行われる場合も、性犯罪被害者のようにビデオリンク方式で、法廷外とつないで行うという措置がとられることになる可能性がある。

しかし、Aが「北海道の歩き方」と称する匿名アカウントで行ってきた所業の悪辣さからすれば、それに対して「当然の批判」を受けたことに対して法がこれ程までに「手厚い保護」を行うことが、常識をわきまえた市民として納得できることであろうか。

「北海道の歩き方」における悪辣な投稿は、法的保護に値するのか

Aが子守氏の発言に対して告訴を行うという「法的手段」をとる行動に出たのは、「被害者」の氏名が秘匿されるという個人特定事項の秘匿措置がとられることを見越し、刑事告訴という手段を選択することで、自らは実名を出さず、悪辣な投稿による批判を免れ、被告訴人の処罰だけを求めることができると考えたからだ。

このようなAの告訴を、警察、検察は、なぜかまともに取り上げ、子守氏は侮辱罪に当たるとされて、科料9000円とは言え、略式命令による刑事処罰の対象とされた。

AのX投稿の不当性、反社会性の程度からすれば、子守氏の発言は、公正な論評や公益目的の言論といえ、刑法35条の正当行為として違法性を欠くと判断する余地が十分にあり、不起訴処分にすべきだった。

検察官がその子守氏を略式請求したのは、侮辱罪の法定刑引上げで求刑処理基準が引き上げられていることに加え、非公開の略式手続で9000円の科料で決着するのであれば、子守氏が受ける不利益は極めて僅少であり、不起訴処分に対して、Aの検察審査会への申立で騒ぎが長引くより子守氏にとっても有利と考えたからであろう。

しかし、Aは、子守氏の刑事処分が非公開の略式手続で終わっただけで済ますつもりはなく、「子守氏が起訴されたこと」をネット上で拡散しようと考えていた。そのため、斎藤派の弁護士の福永氏に連絡する一方、検察官から送付された検察官の実名と押印のある処分通知書を、自分の氏名が記載された部分を改ざんして「北海道の歩き方」のXアカウントで公開することによって「子守起訴」の事実をネット上で広めようとしたのである。

少なくとも、現時点までは、Aの目論見どおりに進んでいる。 

SNS時代における「侮辱罪法定刑引上げ」「被害者個人特定事項秘匿制度」の運用

2022年7月施行の刑法改正で「侮辱罪」の法定刑が引き上げられ、それまでは「拘留・科料のみ」だったのが、改正により「1年以下の拘禁刑・30万円以下の罰金」が加わったのは、SNSやインターネット上での悪質な誹謗中傷が社会問題化し、被害者が深刻な精神的ダメージを受けたり、自殺に追い込まれたりする事件が発生したことを受け、国民の間で誹謗中傷を抑止すべきとの意識が高まったことが背景となったものだ。それにより、それまで、殆どが起訴猶予で済まされ、悪質なものでも科料で済まされていた侮辱罪が、原則として科料以上の量刑となった。

しかし、本件の「北海道の歩き方」のAのように、匿名アカウントを利用して、非常識極まりない悪辣な投稿を行うアカウントの運用者の「外部的名誉」を保護することが、侮辱罪の法定刑引き上げの趣旨・目的に沿うものとは到底思えない。

刑訴法改正による被害者個人特定事項の秘匿措置の導入も、性犯罪やストーカー犯罪などの被害者が、刑事手続きにおいて氏名や住所などの個人特定事項を容疑者や被告人に知られることで、報復や再被害、名誉毀損、社会生活の平穏を害されるリスクを軽減することを目的とするものである。Aのような非常識な投稿を繰り返しているSNS匿名アカウントの運用者を保護することは、法改正の目的から大きく逸脱している。

このような人物が、そのような投稿に対して侮辱的言辞で批判を行った人物を侮辱罪で告訴し、起訴された場合にまで、「被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれがある」との要件で個人特定事項の秘匿措置が認められるとすると、匿名アカウントの非常識な投稿に批判が殺到していることも「社会生活の平穏が著しく害される」という要件を充たすことになり、自らは匿名のまま、批判者の処罰を目論むことができることなる。

子守氏が正式裁判を申し立てた侮辱罪の刑事公判は、簡易裁判所から地方裁判所に移送され、神戸地裁に係属している。

ここで、被害者個人特定事項の秘匿措置を認めるなどということはあってはならないことである。Aの身勝手な目論見はは、決して法が許容するものではなく、告訴人として子守氏の処罰を求めたAの実名を明らかにされ法廷で公開されることを当然に覚悟させるべきだ。

略式手続で科料の略式命令を受けた子守氏を、犯罪者扱いするために、処分検察官の実名が記載された処分通知書という検察実務の根幹に関わる公文書を改ざんして、本来は非公開であるはずの略式手続の結果をネット公開したことは、検察にとって絶対に看過できない問題だ。しかも、子守氏のYouTubeでの発言は、匿名アカウントによるあまりに非常識な投稿に対するものであり、正当な意見・論評として違法性を否定する余地は十分にあった。

そのような告訴人の人物の所業や目論見がわかっていたら、侮辱罪の法定刑引上げ後であっても、検察官が「起訴」の判断を行うことはなかったはずだ。

検察官は、「北海道の歩き方」の匿名アカウントの運用者のAに騙されたとも言える。

神戸地検がまず行うことは、被害者個人特定事項の秘匿措置の適用の是非を再検討するとともに、自らが作成者である公文書が改ざんされて公開された被害者の立場でもあるAの有印公文書偽造・同行使罪に対して厳正な処分を行うことである。

その上で、そのようなAの告訴による子守氏への公訴提起を維持すべきか否かについても、検察の組織としての検討が行われるべきであろう。

「匿名アカウントに対する侮辱」を刑事処罰の対象とすることの根本的問題

この事件は、侮辱罪の法定刑引上げの刑法改正、被害者特定事項の秘匿措置導入の刑訴法改正が、SNSの社会的影響の飛躍的増大という状況の中で、法の趣旨とは大きく異なる方向に悪用されかねないことを示す事例であり、今後の法運用に関わる極めて重要な問題を提起するものと言える。

SNS上で「悪ふざけ投稿」が、面白おかしく取り上げられて、一部の人間に楽しまれる、それはそれで勝手にやればよいことだ。しかし、そのような匿名投稿が限度を超え、人の名誉や尊厳を傷つけたり、著しい不快感を生じさせたりした場合、それに対して相応の批判が行われるのは当然であり、その表現も相当程度までは許容しなければバランスが取れない。そのような「当然の批判」から匿名アカウントを保護することに司法が利用されたり、検察が手を貸したりすることなど決してあってはならない。

根本的な問題として、SNS上の「匿名アカウント」を侮辱罪による保護の対象とすべきかについて、抜本的な検討が必要なのではなかろうか。

法の穴を潜り抜ける悪辣な行為を繰り返し、一方で、それに対する攻撃を司法の力で守ってもらおうなどという発想は、健全な社会人の常識からは思いもよらないものである。このような状況が野放しになっている現状は、まさに「法と正義の危機」というべきである。

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長崎県大石知事「政治資金問題説明会見」へのコメント

長崎県大石賢吾知事検察審査会申立書で、申立書を公開しましたが、これに関して、本日10月24日、大石知事が記者会見で説明を行ったので、それについて以下のコメントをマスコミに公表しました。

~~~                       

本日(10月24日)、大石知事が行った「一連の政治資金に関する事案についての説明会見」での説明について、検察審査会に審査申し立て中の大石知事の政治資金規正法違反事件の告発人および大石健吾講演会の元職員の代理人弁護士の立場で、以下のとおりコメントします。

1.「2000万円の2重計上に気づいたのはいつなのか」との質問につ いて、大石知事が「以前、元監査人と報道されている方のご指摘を受けてのこと」と認めた件について

この点について、大石知事は、「昨年6月9日のzoom会議の音声が流出した際、3月の会見で知事は、こういった会話は記憶していると話していたが、少なくともその時点では2重計上があるっていうのは理解していたということか」と質問され、

2重計上で、どちらが誤りであること、しっかりと精査をして、弁護士も含めて精査した上で、やはりこれは間違いだということを確認したのは、ちょっと後になります。ただ、その2000万円が2つあるよということがあって、私が確かに1つしかありませんと、それが2つあるのであれば間違いですと言ったのは、かつて監査人と呼んでいた方から言われたことに対して返答はさせていただいています。

と述べ、「二重計上」を最初に認識したのが「①元監査人の指摘」であることを認め、その後、「②弁護士を交えた精査」によって適正な処理を行ったと説明した。

これまで大石知事が説明してきたように、収支報告書に記載した時点から「2000万円の後援会への貸付金は実在し、架空ではない」と認識していたのであれば、「二重計上」を最初に認識した時点でも、「収支報告書の記載の誤り」の問題と考え、「収支報告書の適正な記載」を検討することになるはずである。問題は、①の時点で、どのような問題だと認識し、どのように対応しようとしていたのかである。

この点について、記者から、「2重計上を分かっていながらその場で訂正をしなかったこと」「不正な出金という知事が言っている流れの中で、訂正をするような動きではなかったこと」について質問され、

何が適正であって、何が誤りであるのか、しっかりと精査した上で、専門家を交えて精査をした上で正確に直す事実確認のために時間がかかった」「監査人と呼んでいた人に対して、もし誤りがあるのであれば適正に直していきたい、正確なものにしていきたいとお願いしていたし、それを実際に具体的に正確にやっていただける方だという風に私は信頼をしていた。」

と答えている。

「専門家を交えて精査をした上で正確に直す事実確認のために時間がかかった」というのは②の時点のことである。

①の時点で、元監査人は、「後援会への2000万円の貸付金は架空計上」と指摘し、そのままでは重大な問題になりかねないと言って、「返金スキーム」を提案したものであることは明らかであり、少なくとも、その後の弁護士を交えての②のような政治資金収支報告書等の適正処理についての対応の検討ではない。

問題は、①の時点で「監査人と呼んでいた人に対して、もし誤りがあるのであれば適正に直していきたいとお願いしていた」のかどうかであるが、この時点の直後、大石知事も関わる形で、後援会の資金を監査人側に移動させた事実があり、それは、「不正の出金」であるかどうかは別として、大石後援会の政治資金収支報告書の記載を訂正ではなく、貸付金の返済として大石知事が後援会から受け取っていた約650万円を後援会に返金するためのものであることは明らかである。上記の記者の質問は、この点を指摘するものだが、大石知事の答は、それに対してはする説明になっていない。

2000万円の貸付金を後援会の収支報告書に記載した時点で、大石知事が、「2000万円の貸付金が架空計上ではなく、実在している」と認識していたのであれば、最初に「元監査人」から指摘された時点で、そのように説明していたはずである。「後援会への返金」の話が出てくることはあり得ない。

その時点で、元監査人に対して「後援会への貸付金は架空計上」と認めざるを得なかったのであり、それは、収支報告書の2000万円の貸付金が架空であり、その記載が虚偽であることの認識があったことを認めたことに等しい。

2 「2000万円の消費貸借契約書の日付が2日ズレている問題について

大石知事は、記者から「元職員の方が、ご自身がコンサルタントに間違いなく正確な2000万円の入金を1月14日と伝えたと主張されていて、コンサルタントが意図的に2日ずらしている。これは同一と思われないようにするためではないかと主張されている」ことについて質問を受け、

どういった主張されているのか私はわかりませんけども、それにコメントは全くありません。私の見解、認識としては、前回説明をした通り。12日のところで、通帳を見ますと、12日に入金の、別の入金の項目があり、それが一段上になってたので、おそらくそれが誤って伝わったんじゃないかなと私は思います。

と答えた。

この点は、質問が若干不正確であり、検察審査会申立についての記者会見の際に述べたとおり、元職員は、「入金日を誤って伝えることはあり得ない」「選挙コンサルタントから『知事が選挙で用意した自己資金1月14日借入の2000万と別に用意したお金で貸付けたものと認識させるため、わざと日付を令和4年1月12日にしています』との説明を受けた」旨供述しているものである。

それについて、大石知事が「コメントが全くない」ということは、選挙コンサルの説明も含め、元職員の具体的な記憶に基づく供述を否定する根拠がないということであり、1月12日の後援会への2000万円の貸付金が1月14日の実際の入金とは別個のものだったことは否定できないということである。

なお、この点に関して、大石知事は、「元職員から話を聞く必要があると思っており、後援会の方から、元職員の方に事実の確認をしたいということでお尋ねをしているが、対応していただけてない」と述べているが、9月16日に、元職員のところに大石賢吾後援会からの配達証明の郵便物が届き、大石後援会との関係は、すべて代理人の当職に対応を委任し、そのことは、後援会宛てに受任通知を送って通告しているのに、直接、後援会から配達証明で郵便物が届き、「改めて対面で話を聞かせてほしい」などと書かれていたことから、後援会側に問い質したところ、後援会の担当者の話では、後援会の代理人弁護士がそのような質問状を作成して元職員宛てに送付したとのことだった。

当職からは後援会に代理人受任通知を送付しているのに直接当事者に連絡したことについて厳重に抗議をした。その後、後援会側からは全く連絡はない。大石知事が、「元職員の方に事実の確認をしたいということでお尋ねをしているが、対応していただけてない」というのは事実に反する。

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維新の“目くらまし”の「議員定数削減」に隠された「民主主義への重大な脅威」に最大の警戒を!

2025年10月10日、自民党との連立協議で、公明党は連立離脱を表明、26年にわたって続いた自公の連立関係が終了することとなり、衆議院の議席数196と、過半数を37議席も下回っている自民党は、政権の枠組みすら見通せない事態となった。

ところが15日の高市早苗総裁と吉村洋文代表との党首会談で、自民党と日本維新の会(以下、「維新」)が連立に向けて政策協議を行うことが合意され、翌16日から開始された。16日午前には維新の両院議員総会が開かれ、自民党との協議について藤田文武共同代表に一任された。16日、17日と連日政策協議が行われた後、「大幅に前進した。最終的な詰めの段階」などと説明、藤田氏は、15日の立憲、国民、維新の3党の党首会談で始まっていた首班指名選挙に向けた野党連携の協議からの離脱を表明した。これにより、臨時国会冒頭の首班指名での高市首相指名は事実上確実になった。

連立協議開始当初、維新が、「連立合意の絶対条件」だとしていたのが「社会保障改革」と「副首都構想」だった。吉村代表は、それに加えて「議員定数改革を来る臨時国会で行うことの確約がなければ連立はない」と言い出し、その後のテレビ出演でも繰り返すなどして、「議員定数1割削減」も絶対条件に掲げた。

「企業団体献金の受け皿規制」という維新・自民の連立合意の障害

こうして維新と自民との連立に向けて政策協議が始まったが、そこで最大の問題となることが予想されたのが企業団体献金の問題だった。結党時から「身を切る改革」のコアとして企業団体献金に対して最も厳しい政策を掲げてきたのが維新だ。

高市総裁選任後の連立協議で、公明党は、「企業団体献金の受け皿を政党本部、都道府県連に限定し、政党支部への献金を禁止する規制」の受入れを強く求め、高市氏がそれに応じる姿勢を見せなかったことから、26年間にわたって続いた自民党との連立離脱を通告した。

その後、公明党、国民民主党に立憲民主党が加わり、維新に対して、この「企業団体献金の受け皿規制」の政治資金規正法改正案を国会に提出し成立させる提案が行われた。「企業団体献金の全面廃止」を掲げてきた維新も、「全面廃止」よりハードルが低い「受け皿規制」に反対する理由はなく、藤田共同代表も法案には賛成する姿勢を見せていた。

既に野党間の協力で法案成立の可能性が高まっている「企業団体献金の受け皿規制」を自民党に求めないことは、それまでの維新の企業団体献金への厳しい姿勢からすればありえないことだった。

しかし、高市自民党が公明党との連立協議で受け入れなかった「受け皿規制」を、その直後の維新との連立協議で受け入れるとは考えにくかった。この点をうやむやにしたまま自民党と連立合意を行えば、維新の要求より低いレベルの政治資金制度改革をもぶち壊してしまうことになる。他の野党から猛烈な批判を受けるだけでなく、マスコミからも世の中からも厳しい批判を受けることになり、それは、改革政党としての維新への信頼性そのものが崩壊してしまうほどのダメージにつながりかねなかった。

そのような状況で、突然、維新の吉村代表が「絶対条件」として持ち出してきたのが、「議員定数削減」であり、次の臨時国会のうちに法案を成立させることの確約まで自民党に求めるという「厳しい姿勢」を示した。

それは、あたかも、維新が自民党に「受け入れが容易ではない要求」を行って「筋を通そうとする姿勢」であるかのように見えた。

「議員定数削減」などを連立合意の絶対条件に掲げることの矛盾と困難性

しかし、「議員定数削減」を持ち出した維新の吉村代表の姿勢には、もともと大きな矛盾がある上、現実的にも、自民党に対してそのような要求を押し通すことは困難であった。

第1に、維新が大阪の地域政党として出発した時点で「身を切る改革」を掲げて議員定数削減を最初に実行し、組織改革や補助金削減などによる財政再建に成功したとしても、それは地方自治体のことであり、それがただちに国政レベルで実行できるわけではない。

国会の議員定数削減は、その国の民主主義のあり方にもつながる問題であり、特に比例区だけを大幅に削減し、小選挙区と比例代表のバランスを変えることは、現行の選挙制度の性格にも影響する問題だ。スタートアップ政党の出現など新規参入に対する障壁にもなるのであり、与野党を含めた国会での議論に加えて国民的な議論も必要となる。

逆に、バランスを維持したまま削減しようとすると、小選挙区の定数削減が地方の議席の切り捨てにつながり、地方の声が国会に届かない状況を招きかねない。

国会議員の定数削減は、地方自治体レベルで過半数を占める政党が地方議会の定数削減を強行するのとはわけが違うのである。

第2に、そのような議員定数の削減を、臨時国会までに成立させることについては、自民党内での反発も強く、党内合意を得ることも困難だ。

実際に、吉村氏が議員定数削減を「絶対条件」として掲げた直後から、自民党内からは、選挙制度調査会の会長で、前の臨時総裁選で選挙管理委員長を務めた逢沢一郎氏が、

《与野党で「衆議院選挙制度に関する協議会」で議員定数を含めて、あるべき制度を議論中。この状況のなか、自民・維新でいきなり定数削減は論外です。》

とXに投稿、山下貴司元法務大臣も、

「議員削減は国民の参政権を削るという側面がある」

とした上、「客観的なファクト」として、

「現在の衆議院議員定数465人はこの100年で最も少ないこと」

「国際的に見ても、国会議員一人あたりの人口は、日本は約27万人で、独・仏・英の2倍以上。逆に言えば、日本国民一人が国会議員を生み出す力はOECD平均の半分以下であること」

などを指摘するX投稿を行うなど、維新との連立協議の中で議員定数削減を持ち出すこと自体について、公然と反対の声が上がった。

維新が政策協議開始の時点から「絶対条件」として掲げていた「社会保障改革」、「副首都構想」といった要求を受け入れることも、自民党にとって容易なことではなかった。

社会保障改革」については、維新は、現役世代の負担軽減を目的とした社会保険料引き下げを強く主張してきた。高齢者の窓口負担増、OTC類似薬の保険適用除外などにより国民医療費を年間4兆円以上削減し、社会保険料1人あたり年間6万円の減額を目指し、手取り収入を増やして消費拡大を図るというものだが、自民党内では反対意見が強く、もう一つ維新が強く要求していた「教育無償化」の方で合意して24年度予算案への賛成を取り付けたという経緯がある。

副首都構想」の方は、副首都の基盤となる「危機管理都市」や経済特区を整備する構想と、大阪市解体による特別区設置の「大阪都構想」という維新の結党以来の看板政策の実現を目的とするものだ。これに対して自民党大阪府連は住民投票で反対を表明し、2015年・2020年の住民投票で維新とは激しく対立し、その結果、都構想は否決された。「副首都構想」は、大阪自民党にとって到底受け入れられるものではない。

自民党内での議論の体制の未整備

維新が「絶対条件」として掲げていた「社会保障改革」、「副首都構想」、「議員定数削減」は、自民党にとって、いずれも容易には応じられない事項であり、党内で十分な議論が必要なはずだった。

自民党としても政策の根幹に関わる重要事項について維新との間で合意を行うのであれば、自民党の党則に定められた手続に従い十分な検討を経て党としての決定を行うのが通常のやり方だ。

ところが、自民党内での検討の体制、意思決定手続等については、10月15日の拙稿【「党人事空白」で連立協議は困難~多党化への不適応が招いた“自民党の危機”】でも述べたように、10月4日に高市新総裁が選任され、自民党の体制は一新された後は、幹事長、総務会長、政調会長などの役員人事が決定されているだけで、それ以外の党内人事は未了だった。

しかも、政務調査会については、政調会長に小林鷹之氏が選任され、その後、会長代行・代理等が選任されているだけで、部会長も部会メンバーも空席だった。本来であれば、「社会保障改革」については厚生労働部会、「副首都構想」については国土交通部会で、従来の議論を踏まえて検討が行われるべきであるのに、部会長、副部会長は全く選任されていなかった。

昨年10月の衆院選で、裏金問題への国民の批判などから惨敗し、国民の支持を失っていた自民党の内部で、参院選後に「石破おろし」と言われる権力闘争が起こり、その末の臨時総裁選で予想に反して小泉進次郎氏を破って当選したのが高市氏だったが、執行部人事については、極端に麻生派に偏っていること、「裏金議員」萩生田光一氏の幹事長代行起用などに対し世論の反発が強まっていた。維新との連立合意を拙速に進め、それまでの党内での議論を無視した合意を行えば、党内で潜在化していた高市執行部への批判が一気に顕在化する可能性もあった。

自民党が党内手続を省略して、維新との連立合意にむけて具体的に義務を負う形の合意を行うことには、「議員定数削減」については、維新が地域政党として行った「改革の出発点」は国政レベルとは根本的に異なること、「社会保障改革」「副首都構想」も含め、自民党内での合意を得ることが困難であること、という二つの面から無理があったのである。

連立合意書の内容では「絶対条件」になっていない

上記のような経緯を経て、自民・維新の両党は、20日の夕刻に連立合意に至ったことを発表し、連立合意書も公表された。

その内容からはっきり言えることは、政策協議の際に維新の側が「絶対条件」なとど強調した「社会保障改革」「副首都構想」について、今回の連立合意書には、自民党側として、それまでの党の方針や政策に反する具体的な合意はほとんどなく、何かを具体的に義務づけられるものはほぼないことだ。

そういう意味で、「自民党内で合意の困難性」という面での問題は少ない内容だったと言える。

維新が「絶対条件」として掲げていた要求のうち、「社会保障改革」については、

「具体的な制度設計を令和七年度中に実現しつつ、社会保障全体の改革を推進することで、現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げていくことを目指す」

というかなり曖昧な表現にとどまっている。

「副首都構想」については、

「首都の危機管理機能のバックアップ体制を構築し、首都機能分散及び多極分散型経済圏を形成する観点から、令和七年臨時国会中に、両党による協議体を設置し、首都及び副首都の責務及び機能を整理した上で、早急に検討を行い、令和八年通常国会で法案を成立させる 」

とされている。この法案が、実質的に大阪を副首都とすることにつながるものかどうかが問題だが、この点については、「両党による協議体」に委ねられることになるので、この連立合意書だけでは方向性は不明だ。

最後の「一二、政治改革」の項目に、維新にとって、自民党との連立合意の最大の障害になると考えられた「企業団体献金」の問題への対応と、それを目立たなくするための「目くらまし」のために出してきたとしか思えない「議員定数削減」について記載されている。 

「企業団体献金」については、「自由民主党は禁止より公開」、日本維新の会は「完全廃止」と従来の主張は異なっていたが、「制度改革が必要であるとの課題意識は共有し」ているが「最終結論」が出ていないとし、「企業団体からの献金、政治団体からの献金、受け手の規制、金額上限規制、機関誌等による政党の事業収益及び公開の在り方」などを同列に並べて検討対象として、「協議体」「第三者委員会」などでの検討を行って、

「高市総裁の任期中に結論を得る」

とされている。企業団体献金に依存してきた自民党の論理を丸呑みし、「検討の体裁」だけ整えて結論を先送りするものである。

これは、「企業団体献金の受け皿規制」についても自民党に要求せず、他の野党が法案を提出しても反対するという意味である。

「議員定数削減」については、連立合意書の「政治改革」の項目に、

「1割を目標に衆院議員定数を削減するため、25年臨時国会において議員立法案を提出し、成立を目指す。」

と書かれている。

「25年臨時国会において議員立法案を提出」という点は、維新が自民党側に今年中に国会での法案提出をする義務を負わせるものだ。しかし、その法案の内容は「1割を目標に」と書かれているだけで、比例と小選挙区の関係についても触れられていない。そして法案の「成立」については「目指す」というだけなので、結局、吉村氏が強調する「成立」まで約束したわけではない。自民党内で議員定数削減の法案について意見集約することも容易ではないが、成立の見込みがたっていない法案を一応提出するだけであれば、それほど大きな抵抗もないだろう。

連立合意書上は、「議員定数改革を来る臨時国会で行うことの確約」などとは程遠いものであり、結局のところ、吉村代表が唐突に持ち出した「議員定数削減」が、企業団体献金の議論から逃げるための「目くらまし」だったことは否定する余地がない。

「物価高対策」にもめぼしいものはない

国民が強く求めている「物価高対策」についても、連立合意書の12項目の最初に「経済財政関連施策」があり、 7月の参院選の際も大きな争点となった物価高対策が記載されている。このうち、

「ガソリン税の暫定税率廃止法案を令和七年臨時国会中に成立させる。」

だけが即効性のある対策だが、これは既に8月に与野党間の合意ができており、政治空白がなければ11月1日に実施される予定だったものだ。

それ以外は、

「電気ガス料金補助をはじめとする物価対策」

「インフレ対応型の経済政策に移行するために必要な総合的対策」

「所得税の基礎控除等をインフレの進展に応じて見直す制度設計」

など抽象的な内容ばかりで、参院選で維新が掲げた公約についても、

「給付付き税額控除の導入につき、早急に制度設計を進めその実現を図る」

「飲食料品については二年間に限り消費税の対象としないことも視野に法制化につき検討を行う」

などのあいまいな表現にとどまり、自民党に具体的な義務を負わせるものではない。

その一方で、参院選で石破自民党が掲げた「給付金」については

「行わない」

と明言している。

維新は、自民党との連立に向けての政策協議の目的として「この機会に改革に向けての政策実現を前に進める」ということを強調してきたが、結局のところ、物価対策等、国民生活に直結するテーマについては、今回の連立合意書の内容は、自民党側に具体的な約束をさせる内容にはなっていない。

「タカ派保守的な主張」が随所で具体化

 一方、連立合意文書の、

「三、皇室・憲法改正・家族制度等」

「四、外交安全保障」

「五、インテリジェンス政策」

等の項目には、高市氏の支持の中心となった自民党の保守派の主張、或いは、それ以上にタカ派保守的な主張が具体的に書き込まれている。

敵基地攻撃能力保有、防衛費の国内総生産(GDP)比2%への引き上げなどを決めた安保関連3文書の改定の前倒しを明記しているほか、外国人問題では、受け入れ規制や在留者向け制度の悪用への対応といった規制強化策、選択的夫婦別姓制度に関しては、旧姓の通称使用の法制化法案を2026年の通常国会に提出し成立を目指すとして、制度導入に反対することなどを具体的に盛り込んでいる。改憲についても、「可及的速やかに、衆参両院の憲法審査会に条文起草委員会を常設する」と盛り込んでいる。

このような維新の保守タカ派的な性格は、日頃の「改革政党」としてのイメージとは異なる。しかし、維新は、自民党の地方政治家を中心に結成された党で、もともと、このようなタカ派保守的思想が党の中核に受け継がれており、同様にタカ派的な思想傾向を持つ高市氏から「国家観をともにする党」と評価された「本性」が、連立合意の中で具体的に表れたと見ることもできる。

維新が連立合意に至った背景としての3要素

維新は、連立合意の最大の障害となる「政治とカネ」問題から目をそらすために、見え透いた「目くらまし」としての「議員定数削減」まで持ち出し、高市政権樹立に突っ走る自民党との「連立合意」による強い結びつきを求めた。

そのような動きの背景として「改革政党志向」「地域政党志向」「右翼政党志向」の3つの要素が考えられる。

まず、「改革政党志向」は、これまで維新が支持者や国民に訴え続けてきたものであり、今回の連立合意に向けて「絶対条件」を掲げたのも、「改革政党」としてのアピールを継続するためのものだったが、少なくとも連立合意書の内容からは、ほとんど評価できるものはなかった。

しかし、自民党との連立に向けての協議開始の時点で突然登場した吉村代表は、頻繁にテレビ出演し、維新の「改革政党」としての「一丁目一番地」であることを強調し、連立合意書公表後も、「議員定数削減が出発点だ」とし、「それが実現すれば改革が一気に進む」などの発言を続けている。

実際に維新が大阪府議会・市議会で行ってきた議員定数削減によって、一人区を増やし、それによって対立政党(自民党など野党)にとって圧倒的に不利な状況を作るというやり方は、国政レベルでも強引に実行すれば、それによる与党独裁体制によって与党側の政策を次々と実行することも不可能ではない。

連立合意書の中で、唯一自民党に一応の具体的義務付けを行った形になっているのが「議員定数削減法案の通常国会での提出」だが、比例区定数の大幅削減で小選挙区の割合を高め、衆議院での与党独裁体制を構築することを目的とするのであれば、高市氏や支持者の議員達にとっても、大きな意味を持つものとなる。そのような法案を国会に提出し、自民・維新に加えて参政党などの賛成を得て法案を成立させ、解散総選挙に打って出れば、公明党、共産党などの少数政党を駆逐し、自民・維新の与党で圧倒的多数の議席を狙うことも不可能ではない。

つまり議員定数削減を、比例区だけを大幅に削減する形で実現すれば、維新の「改革政党志向」のみならず、タカ派保守政党による国会の独裁体制で「右翼政党志向」を実現することも可能になりかねないのである。

それは日本の民主主義にとって、重大な脅威となる。

日本保守党の島田洋一衆院議員が10月19日に「自民党の高市早苗総裁からの電話の内容」についてのXを投稿しているが、それなりの意味が込められているようにも思える。

「日本保守党と方向性が一致する政策も多いので、闘うなら大いに支持する旨を答えた」

とした上で、「日本維新の会」による定数削減案については、

「新興小政党を潰すことになる、維新の『衆院比例区に限った定数削減』案に、率直に異議を呈したところ、中身は控えるが、高市氏から丁寧な説明があった」

と述べている。その「丁寧な説明」というのが、上記のような「議員定数削減によってタカ派政党の国会での圧倒的多数をめざす」という趣旨なのかもしれない。

もう一つの背景として考えられる「地域政党志向」は、今回維新が企業団体献金問題への対応など説明困難な問題が多数あるにもかかわらず、拙速に連立に向けて協議をはじめた時点でも指摘されていた、大阪の地域政党から出発し、全国政党に展開しようとして、それが大きな曲がり角に来ているという、維新の「党勢」の問題である。

このところ国政選挙で、関西以外では退潮傾向が著しく、党内対立も顕在化して離党者が相次いでいるという維新の党内事情から、自民党側に「貸し」を作れるだけの議席数がある間に連立合意を行い、前回選挙で全勝した大阪の小選挙区での自民党との選挙協力によって大阪府自民党を事実上壊滅させることで関西圏の地域政党としての基盤を確保し、国政政党としては自民党に吸収される形でフェードアウトしていく方向である。

そうだとすれば、維新の現状を考えた場合の苦肉の策であり、少なくとも大阪の維新にとっては、大阪都構想の実現の可能性が高まるなどの実益があり、維新の支持者にとっても理解納得が可能な話ではある。

維新代表・大阪府知事吉村氏の「議論のすり替え、ごまかし」

維新の自民党との「連立合意」が、「地域政党志向」という、こじんまりした方向に向かうのであれば、大阪の局所的な問題にとどまる。しかし、改革の出発点だとする「議員定数削減」を強引に進めることで、「改革政党志向」のみならず「右翼政党志向」も狙おうとするのであれば、今後、その動向には、最大限の注意と警戒が必要である。

そして、維新という政党が、「地域政党」の実体に隠れて、国政政党としての実体が見えにくく、しかも説明責任を問いにくいという特殊性に留意する必要がある。

党首は大阪府知事であり、国会議員ではない。国会対応などについて具体的な事項は共同代表の藤田氏が説明し、党の方針や根本的事項は吉村代表が説明するのであろうが、その場は国会ではなく、限られた記者会見の場やテレビ出演ということになる。

その典型が、今回の連立協議が始まってからの吉村代表の「立ち回り」であり、それが今後も繰り返されることになる可能性が高い。

連立合意が公表される前日の19日の夜のフジテレビの番組「Mr.サンデー」では、その直前に出演していた国民民主党の玉木氏からの「企業団体献金の受け皿規制法案」への賛成要請に対して、

「企業団体献金は、維新だけは全く受けないが、自民党以外の他党も、労働組合や赤旗機関紙収入などの収入を得ている。」

と言って、論点をすり替えて質問に正面から答えず、はぐらかした。

問題なのは、自民党の企業団体献金が、個人の財布としての政党支部に入り、その使途が不透明であることであり、企業団体献金自体の存否とは別の問題だ。

しかも、もともと「受け皿規制」を提案している国民民主・公明の両党は、企業団体献金全面禁止を主張しているのではないので、吉村氏の話は、両党への反論にはなっていない。維新が、自民党の裏金問題発覚までは、政治資金パーティーを積極的に行い、企業から多額のパーティー券収入を得ていたことは棚に上げている。

また、安野貴博氏からの

「議員定数を比例のみ50減らすことは大政党に有利、中小政党、スタートアップ政党に不利に働き、政治の新陳代謝が働かなくなる」

との意見に対して、

「自分達も35の少数政党だ。今の比例では復活当選しているゾンビ議員が問題。実際に、過去に定数削減の約束が守られなかったのは、大政党の議員が反対するから」

などと反論していた。

しかし、維新は大阪の19を含め小選挙区選出議員が23名と大半を占めている。比例復活が問題なら重複立候補を禁止すればいいのであり、定数削減の問題ではない。また、2012年の民主党の議員定数削減要求は、当時の政権末期の特殊事情によるもので一般化すべきではない。そもそも、「既得権益を守ろうとする反対」と「選挙制度の議論の在り方論からの反対」を混同させようとする言い方は「詭弁」そのものだ。

また、杉村太蔵氏の、「大阪府知事と与党党首」という「二足のわらじ」に対する疑問をぶつけられて、

「私は万博があったので三足のわらじを履いてましたから」

などと、的外れな返しでごまかし、立場の違いからくる利益相反関係などの問題について正面から答えようとしない。

連立合意書が公表された直後の21日の昼のTBSの番組「ひるおび」に出演した吉村氏は、メインキャスターからの質問に、「議員定数削減が改革の一丁目一番地」との持論を滔々と述べた、ごく限られた時間で、政治ジャーナリストからの質問を受け、田崎史郎氏から、

「通常国会で法案が提出できなかったり、成立しなかったりしたら連立から離脱するのか」

と問われても、

「絶対成立する」

などと言ってはぐらかし、田崎氏も苦笑していた。

このような話のすり替え、ごまかしを、対面で自然に行って相手を巧妙に誤解させるのが、経済犯罪としての「詐欺師」の手口だ。吉村氏の場合は、あまりに見え透いており、対面ではとても通用しないが、テレビ出演では、一方的に自説を述べ、質問されても、すり替え、ごまかしでやり過ごし、時間の関係でそれに対する再反論がほとんどできないので、その場でバレることがない。こういうことが、これまでも大阪での記者会見やメディア出演で繰り返されてきたのであろう。

このようなことが国政に関する問題で行われれば、大阪の有権者に対する「維新による洗脳」の手口が、全国レベルに広がる可能性がある。それが、維新と高市自民党の支持拡大につながるようなことになれば、日本の政治情勢は大きく変わることになる。

今回の連立合意書の方向性からすると、そこに民主主義の重大な危機が待ち構えていると言わざるを得ない。

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「党人事空白」で連立協議は困難~多党化への不適応が招いた“自民党の危機”

10月10日の自民党高市早苗総裁と公明党斉藤鉄夫代表との会談で、公明党側から連立離脱を通告された後の記者会見で、自民党高市早苗総裁は、次のように述べた。

本日公明党からは、政治資金規正法の改正に関する公明党案について、この場で賛否を示すように求められました。私どもからは、私達の自由民主党は、ご承知の通り党内手続きが必要です。これは総裁と幹事長だけで、この場で特に議員立法の法律案の細部の内容についてまでお答えできるものではないと。この場で、私1人で判断するとか、2人だけで判断するということはできないので、党内に持ち帰って協議をして、手続きにのっとって速やかに対応したいということでお返事を申し上げました。つまり、来週にも、もう一度協議を開きたいという旨でございます。しかしながら、先方からは、それは具体的な回答ではないということで、一方的に連立政権からの離脱を伝えられました。自由民主党は、ご承知の通り党内手続きが必要です。党内に持ち帰って協議をして、手続きにのっとって速やかに対応したい

通常の自民党の意思決定の手続であれば、それは、「ご承知のとおり」という程に当然のことのはずだ。しかし、この時点での自民党には、その「党内手続」をとる体制が存在していない。

10月4日の臨時総裁選で、高市氏が新総裁に選任された。その後、党内人事は、幹事長、総務会長等の執行部人事が行われただけで、それ以外は全く行われていない。その状況では、公明党の企業団体献金の規制強化の提案に対して、党内で検討しようにも、その検討の場も、その責任者も決まっていなかった。

自民党は、党則上も、総裁選挙で選出された総裁にすべての権限が集中する「総裁ガバナンス」だ。幹事長以下の幹部人事の権限は総裁に集中している。そして、総裁は、結党以来、ほとんどの場合、そのまま総理大臣に就任し、政府と自民党両方のトップの座についてきた。 

そのため、これまでは、総裁が新たに選任されると、まず、幹事長ら党執行部の人事を行い、その後、首班指名選挙で正式に総理大臣に選任された時点で、各大臣以下の政務三役の「政府人事」と、党内の局長、本部長、政調の各部会長などの「党内人事」を併せて行うのが慣例だった。

このようなやり方が可能で、しかも合理的だったのは、自民党単独で、或いは他党との連立によって安定多数の議席を確保していたことから、総裁に選任するとほぼ自動的に総理大臣に就任し、「総理・総裁一体」だったからだ。

自民党の党内組織は基本的にボトムアップであり、部会等でメンバーの議員が具体的な検討を行い、その検討結果を上位者が了承して、党としての意思決定が行われる。

ところが、昨年10月の衆議院議員選挙で自民党・公明党が敗北し、過半数を割り込んで少数与党となった。今年7月の参院選では、参議院でも過半数を割り込み、一方で、国民民主党、参政党などの少数政党が勢力を伸ばし、「多党化」が急速に進んでいる。そのような状況では、上記のような従来の自民党の人事のやり方は通用しなくなっている。

それが端的に表れたのが、石破総裁の辞任に伴い、臨時総裁選で高市氏が総裁に選任した直後の公明党連立離脱が招いた現在の自民党の状況だ。

石破氏は、2024年9月の総裁選で選任され、任期はまだ2年以上残っていたが、参院選の敗北の責任をとる形で辞任を要求する「石破降ろし」の動きが強まり、総裁選前倒しの意思確認手続が開始され、賛成が過半数となることが必至の情勢で、党の分断回避のために総裁辞任を表明した。そして、臨時総裁選で高市新総裁が就任した直後、それまで26年間続いてきた公明党との連立が解消されることになった。

そこで冒頭の高市氏の「党内手続き」という発言があったのである。

しかし、実際には、その「党内手続き」を取ろうにも、そのための組織ができていなかった。

そこには、新総裁の選任をめぐる状況が通常とは大きく異なる状況があったのに、総裁の交代に伴う党内手続が、多党化を迎えた政治状況に適合したものになっていなかったという、自民党が抱える重大な問題がある。

政権が、国会で予算・法律を成立させ、政策を実現していくためには、そのための議席数が必要となる。昨年10月の衆院選での敗北で、自公両党合わせても衆議院過半数を15議席割り込む状況となったが、石破政権は、自公連立に加えて臨機応変に野党1党との連携を実現させ、何とか予算・法律をすべて成立させ、政権運営を行ってきた。そういう意味では、「少数与党」ではあったが、何とか、政権を維持するだけの最低限の議席数とそれを補充する野党との連携の実績を確保していた。

ところが、7月の参院選で、必達目標に掲げた自公両党での過半数を3議席下回ったことで、自民党内とそれに同調するマスコミから「石破降ろし」の動きが活発化したことから、石破首相は辞任を表明し、臨時総裁選で高市氏が新総裁に選任された。

しかし、高市新総裁就任時点での自民党の政権基盤は極めて脆弱だ。長期間にわたって続けてきた自公連立についても、公明党の地方組織や同党を支える創価学会内では、高市氏の保守的な歴史認識や外国人政策への懸念が強まり、さらに、裏金問題での自民党の不透明な対応が、連立への不信感を増幅していた。公明党の斉藤代表は、石破総理の辞任表明を受けて9月7日に、

「私達の理念に合った方でないと連立政権を組むわけにはいかない」

と、連立離脱の可能性を示唆していた。

公明党の連立離脱は、比較第一党の自民党にとって極めて大きな政治状況の変化をもたらす。衆議院で過半数の賛成を得るためには、野党2党の協力を得なければならなり、個別の予算・法律を成立させるために、野党の出方をその都度探らなければ見通しが立たない状況になる。それでは政権運営の最低限の条件を充たしていない。

つまり、高市新総裁の就任時点では、自民党が政権党であり続けるためには、公明党との連立を維持するのが「最低限の条件」であり、それにプラスして他の野党との連立ないし協力の取り付けを模索するという状況だった。これまでのように、総裁が選任されたらほぼ自動的に内閣総理大臣に就任するという状況ではなくなっていたのである。

他党との連立協議によって政権運営の基盤を確保できて初めて、政権を発足させることができ、党首である総裁が総理大臣に就任することができるという、まさに多党化の政治状況なのだから、それへの対応が必要だった。

ここで、衆議院で過半数を37議席下回る自民党が新たな政権を発足させるためには、最低でも1党との連立協議を行ない、合意文書を成立させることが必要だ。そのためには、自民党内部において連立協議のための検討を行う組織体制がなくてはならない。他党との連立交渉というのは政策・理念を異にする政党間で、その相違点について具体的に妥協の余地を探り、その結果一定の合意に結びつけるということであり、そのためには自民党内においても個別の問題についての検討を行う組織体制が必要であることは言うまでもない。

しかし、高市総裁が就任し、新体制になっても、自民党内の組織体制は、副総裁、幹事長、幹事長代行、総務会長、政調会長、組織運動本部長、広報本部長、国会対策委員長、総務会長、政務調査会長、選挙対策本部長、参議院議員会長が決まっているだけで、それ以外は白紙のまま、現時点で自民党のホームページを見ても、すべて空欄になっている。

そこで、冒頭の高市氏の発言に戻ろう。

高市氏は、「党内手続きが必要」「党内に持ち帰って協議をして、手続きにのっとって」と述べているが、この「党内手続き」というのはいったい自民党内のどの組織でどのように検討を行うことを想定しているのだろうか。

それまでの経過からすれば、政治資金規正法の改正問題を党内で検討し議論する場は「特別機関」としての「政治改革本部」だ。正式に「党内手続き」をとるのであれば、この政治改革本部で検討し、自民党としての対応を決定するというのが「党内手続き」である。

ところが、上記のとおり、高市新総裁就任後、自民党内の人事はほとんど未定のままであり、政治改革本部の本部長もメンバーも決まっていない。これでは政治資金規正法の改正に向けての検討や党内手続など、取りようがないのである。

総裁に選任されれば自動的に総理大臣に就任するという「総理・総裁一体」が当然であった自民党では、総理大臣就任直後に組閣を行い、副大臣・政務官などの人事行うことと同時に党内人事を行えばよかった。

ところが、今の自民党は、単独では政権を担える議席数を有しておらず、連立協議によって政権基盤を確保することが、総裁が総理大臣に就任するために不可欠だ。そのためには、まず連立協議のための党内での検討体制を構築することが必要となる。公明党との関係では、その最重要課題となったのが政治資金規正法改正の問題だった。他の野党との連立協議でも、それぞれ政策のすり合わせが必要な重要課題があり、党としての対応を決めるためには党内組織を構築が不可欠のはずだ。

しかし、従来からの「総理・総裁一体」を前提とする、「組閣・政府人事・党内人事一体」のやり方に未だにこだわっている自民党では、党内人事は未着手のままだ。

党内の体制の問題は、公明党との連立協議の際だけの問題ではない。

10月21日に臨時国会が召集される日程がほぼ固まり、その冒頭で首班指名選挙が行われる前提で自民党と与野党は連携協力をめぐって協議を続けている。本来、自民党が安定的に政権を担うためには、野党2党との連立が必要であり、石破政権のような野党との連携を活用していくとしても、最低限、公明党に代わる1党との連立が不可欠であり、そのためには、各党との連立協議を具体的に進めていく必要があるが、党内組織も固まっていない現在の自民党には、それは不可能に見える。

自民党が新たな政権を発足させようと考えるのであれば、まず他党との連立協議を行うための「党内体制を整えること」が最低限必要だ。従来のように組閣と同時の党人事を行うのではなく、まず、連立協議のための党内体制を確立し、それによって、政権発足の条件を整えなくてはならない。

昨日(10月14日)の自民党の両院議員懇談会で、高市氏は、

「基本政策が合致する党へ連立を申し入れるなど、政権を安定的に運営するための努力をギリギリまでやりたい」

と述べたとのことだが、ここで言っている「連立の申し入れ」というのは、単なる「連立のお願い」であって、具体的な政策の擦り合わせを行う本来の「連立協議」ではない。

今回は、衆院選に伴う特別国会ではないので、国会召集は、首班指名選挙に直結しない。石破内閣が総辞職した時点で首班指名選挙が行われるが、内閣総辞職の時期については、石破首相も執行部の意向に従うだろうから、その決断をするのは現在の自民党の高市執行部ということになる。

衆議院で過半数に37議席届かない自民党が、連立協議も行わないまま首班指名選挙に臨むのは、それによって比較多数で首班指名が得られたとしても、その後の政権運営を考えると、あまりに無謀だ。

高市政権が発足しても、早晩政権は行き詰り、最終的に解散総選挙をせざるを得ない状況に追い込まれかねない。そのような政治の混乱の長期化による不利益は、すべて国民に回ってくることになる。

それに加え、首班指名選挙での野党候補一本化の可能性について様々な不確定要因がある。今の高市執行部の方針は、あらゆる面で確たる見通しもないまま、高市総裁の総理大臣就任だけを最優先に突っ走ろうというものであり、「丁半ばくち」のようなものだ。高市氏自身が

「首班指名の瞬間までギリギリまで、あらゆる手を尽くす」

などと言って脇目も振らず首班指名選挙に突撃するというのは、戦前の「帝国陸軍」の「精神主義」を彷彿とさせる。

55年体制から始まった安定政権時代の「総理・総裁一体」というのが特異なのであり、むしろ、一つの政党の「総裁(党代表)」と一国の「総理大臣」というのは、もともと別個の存在なのである。多党化時代を迎える政治の現状に適合した政権確立のプロセスに転換していかなければならない。それに全く適応できておらず、党人事がいまだに空白状態なのが、現在の自民党である。

このような多党制の下での連立政権の在り方、連立協議のプロセスについて、唯一理解していると思えるのが、国民民主党の玉木雄一郎代表だ。

10月14日の会見で、

「仮に政権の枠組み交渉が滞ったり、なかなか着地点が見いだせないなら、いわゆる『総総分離』。我々は、内閣に(首班指名されなくても)国会召集せよと要求している。」

と発言したと報じられている。

自民党だけでは政権を担える議席がなく、連立協議が続いている間、前政権が継続し、連立協議で次の政権の枠組みが固まってから前政権が内閣総辞職を行うのが、多党制の欧州諸国では一般的だ。

今の日本政治は、まさにその状況に大きく近づいているのであり、そういう多党化の政治においては、「総裁(党代表)」と「総理」を別個のものと考えるのが当然で、いまだに「総理・総裁一体」の体制、手法にこだわる自民党は、前時代の遺物になりかねない。

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「公明連立離脱」で“高市新政権は挫折、内閣総辞職の理由は消滅、石破首相継続しかない!

10月10日の自民党高市早苗総裁と公明党斉藤鉄夫代表との会談で、連立協議が決裂し、石破政権後の日本政治の枠組みはまったく見通しがつかないカオス状態となった。

26年間続いてきた「自公政権」は、新たな政権においてもその枠組みのベースにあったはずだが、昨日の自公協議直後の高市氏の会見の言葉で完全に崩壊した。

公明党は自公政権の下での自党の支持低下の原因になった「政治とカネ」問題に対して、自民党に抜本的な対応を強く求めていた。

そのような公明党の要求に対して新総裁としてどういう姿勢で臨むのかが問われているのに

「党内手続きを経るためにこれから検討しますと答えたら、一方的に連立離脱を通告された」

などと高市氏が会見で述べた時点で、もはや自公の関係修復の余地はなくなったといえる。

ここで現在の日本の政治状況を、時間軸を現時点に合わせて客観的状況を把握することと、このような状況に至るまでの経過を、時間軸を遡って考えてみることが必要だ。

まず客観的状況であるが、自民党は衆議院の過半数の議席を40近く割り込んでおり、1党との連立では過半数を確保することができない。これまで長期間続いてきた公明党との連立関係を安全パイのように考え、連立拡大の方にばかり目を向けたために、肝心な過半数を超えるための絶対条件だった公明党との連立関係を失ってしまった。

現状では、自民党にとって、2党と連立を組んで過半数を超えることはほぼ不可能だ。

日本維新の会は実質的に関西の地域政党に近い。その関西で、自民党とはこれまで選挙で熾烈な争いを繰り返してきた。日本維新の会にとって自民党と連立を組むとすれば、その大義は「副首都構想」で合意して結党以来の目標としてきた大阪都構想を実現することしかありえない。ところが、その構想に最も強く反対してきたのが大阪自民党だ。その遺恨を乗り越えて両党が連立を組むというのは、よほど個人的な信頼関係でもなければ困難だ。今の高市総裁の体制ではまず不可能だと言っていいだろう。

国民民主党との連立も、その背後に「連合」という組織がある以上、もともと実現困難な話である上に、自民党と組んでも過半数に届かず、国民民主党が掲げる「手取りを増やす」という政策実現に結びつかないわけだから、同党にとって連立を組む意味がない。

立憲民主党との大連立など、もともと全くありえない話だ。

このような現在の客観情勢のもとでは、国会を召集して首班指名を行っても、比較第一党なのでなんとか高市新総裁を首相に指名することはできても、石破政権の時のように自公の連立に加えて他の野党とも一定の協力関係があるというわけでもないので、予算・法案を成立させる政権の基本的枠組みが全くできない。組閣をすること自体も無責任であり、そもそも内閣としての体をなしていない。

一方の野党は、立憲民主党の安住幹事長が中心になって野党協力による首班指名を各野党に呼びかけている。

しかし、仮に首班指名に持ち込んだとしても、各野党間の政策・基本理念の違いはあまりに大きく、そのような野党が協力して連立内閣を組んだとしても、国民の支持が得られると思えない。今回の日本の政治の枠組みの崩壊は、参議院選挙を契機とする自民党内の党内抗争の勃発という、完全に「自民党の大失態」であり、それによって政権が野党に転がりこんだとしても、その新政権に国民が期待することはあり得ないであろう。

自民党の臨時総裁選での高市新総裁選出を発端とする新政権の枠組みづくりは、完全に破綻し、ほとんど実現不可能な状態になったといってよいだろう。

そこでもう一つ重要なことは、時間軸を遡らせて参議院議員選挙後の経過を改めて振り返ってみることだ。その経過の中で、そもそもそのような経過に至った原因、そこで活発に動いた人たちの意図と目論見について、現在の状況から明らかになったことも多数ある。

7月の参院選で石破首相が必達目標とした「自公で過半数」に3議席届かなかったことから、自民党内と政治マスコミの側から「石破首相退陣は当然」という意見が噴出した。

自民党内で真っ先に動いたのが、石破政権下で片隅に追いやられていた旧安倍派のいわゆる裏金議員、そして非主流派の茂木派。唯一派閥として残っていた麻生派は表立った動きは見せてはいなかったものの、派閥内で何人かの議員が「石破降ろし」に向けて声を上げていた。

そして、政治マスコミの側で「石破降ろし」の中心となったのは、何といっても読売新聞である。

この時、自民党総裁の任期を2年以上も残している石破氏が首相退陣するのが当然だという論調の最大の理由は、「参議院選挙で自公政権を否定する民意が示されたのだから、その自公政権のトップである石破首相は退陣するのが当然だ」というものだった。

過半数に3議席届かなかっただけだったので、無所属議員を加えることなどでなんとか参議院過半数を維持することもできなくはなかったのに、その可能性などはほとんど論じられることなく、「歴史的惨敗」という言葉だけが強調された。実際には、第一次安倍政権時の2007年の参議院選での敗北と比較しても、今回の議席減ははるかに少なく、歴史的惨敗などではなかった。

そしてそもそも政権選択選挙ではない参議院選挙での勝ち負けを、そのまま政権の枠組みを変えることに結びつける議論自体が、現在の日本の政治の前提となっている衆議院議院内閣制の下では、本来ありえない。

では、なぜ「石破首相退陣が当然」のように言われたのか。

一つは「自民党内のガバナンス」という理由、すなわち「組織のトップとして敗北の責任を取ってけじめをつけるべき」という意見だった。

石破首相は昨年の秋の衆院選と今年7月の参議院選2回の国政選挙で敗北したのだから総裁を辞任し首相を退陣するのが当然だというのだ。「企業経営者でも3回連続赤字を出したら辞任するのが当然」「結果に対してはトップが責任を負うべき」などという声が多かった。「結果責任」を重視する考え方だ。

もう一つ言われていたのが、「石破政権は衆議院での過半数割れに加えて参議院でも過半数を失い政権運営の見通しがたたなくなったのに、野党との協力関係を作って政権運営を担う見通しが建てられていない。だから退陣が当然だ」という意見だ。

この二つの理由のうち、後者の「政権運営の見通し論」自体には、それなりの合理性がある。政権運営を行っていくことは首相にとって不可欠であり、それが見通せないのであれば退陣するしかないと言うのは当然である。しかし、参院選敗北後の石破首相にとって、政権運営の見通しが立っていなかったと言えるのだろうか。

昨年秋の衆院選で自公が少数与党となった後も、森山幹事長の人脈もあり、野党とも臨機応変な対応で予算・法案を全て成立させてきた。その政権のままであれば、参議院で過半数に3議席足りなくなったことが政権への決定的な支障になるとは思えない。参院選後、石破政権側から特に野党側に対して目立った動きがなかったからといって、政権運営への見通しが暗くなったわけではない

問題は、もう一つの自民党内で中心を占めていた「ガバナンス論」だ。

ここで重視する「結果責任」とは、「結果に対して負うべき責任」である。一方で、目標達成のために組織をまとめたり問題に対応したりするのが「遂行責任」である。

上場企業であれば、経営者は株主に対して利益を実現する責任を負う。会社に損失を与え続ければ、その株主に対する責任をとり、辞任というのも当然の対応だ。

しかし、政党の場合、トップが負う責任はそのように単純なものではない。選挙で国民の支持を得るとともに、その支持を活用して党の政策を実現する。そして、政権を担う政党であれば、国政を安定的に運営して行く責任を負う。このような複雑な責任を負う政党、とりわけ政権与党のトップの責任を、単純な「結果責任」で考えることはできない。むしろ「遂行責任」を中心に考えることの方が、政党にとっては合理的なはずだ。

昨年9月の総裁選で石破氏が自民党総裁に就任、直後の衆院選は、当時の政治資金パーティー裏金問題への批判からは当然の結果とも言える自民党敗北だった。その結果、少数与党となったものの、石破首相は、弱い党内基盤の下で何とか党内体制を維持し、野党との協力も得ながら予算、法案を可決させ、コメ大幅増産の方向への農政改革を打ち出し、参院選直後にはEUなどにも先がけてトランプ関税を25%から15%に引き下げる合意に成功した。石破政権は、今後、本格的に石破カラーを出して政権を運営していくべき時だった。遂行責任を果たすという面ではこれからが本番だったといえる。

ではなぜ、自民党内ではこの「結果責任」中心の単純な考え方がまかり通るのだろうか。そこには、組織の根幹に、勝ちと負けを峻別し、負ければ潔く腹を切って責任を取る、というような旧来の日本型組織の単純な考え方があるのだろう。上位者には、結果を出すまでのプロセスについて「言い訳」せず、表面的な潔さだけが評価される。そのような背景の下で、日本の政党の中心であった自民党で、「結果責任」中心の考え方が当然視されてきたということではなかろうか。

しかし、それは、55年体制の下で政権基盤が安定し、その政党のトップである自民党総裁選が「最大の政治上の決戦」だった状況だからこそ通用する理屈だった。 55年体制の下での安定政権だった時代は、「サル山」のような外部から遮断された環境だったからこそ、その中で「ボス猿選び」という内側の争いをする場合には、結果責任重視、「ケジメをつける」で充分だったのだ。しかしそれは、現在のように国民の要請も民意も複雑多様化し、それに応じて多党化時代を迎えた情勢の下では全く通用しない。

このような「サル山的ガバナンス論」に基づく「石破おろし」が実現し、自民党総裁に就任した高市氏は、まずその第一段階で、26年間の連立関係で「ウチ」の存在と見ていた公明党が、実は理念も政策も違う「ソト」の存在であるという「当然の現実」に直面し、政権樹立への道はただちに行き詰った。

結局、「党内ガバナンス論」は全く正当性がなく、「政権運営見通し論」に徹して考えるべきだった。そういう観点からは、「遂行責任」を中心に考え、自民党が昨年のフルスペックの総裁選で3年という任期を石破首相に委ねたのであれば、まず党内基盤、政権基盤を安定させるための期間に1年を費やし、そこから石破政権として本格的にその独自の役割を果たす段階に入る、というのが合理的な考え方であり、国民もそれを期待していたはずだ。

では、このようにして自民党が臨時総裁選で選出した高市新総裁による新政権の発足が全く巻き戻せない状況になった現状においてどうしたらよいのか。

まず何よりも重要なことは、時間軸的な経過で見た時、そもそも「石破降ろし」という自民党内の誤ったガバナンス論に基づく権力闘争によって「政権運営が見通せない重大な危機的状況」に至ったことを率直に認め、その誤りを是正することであろう。本来そのような動きから生まれた自民党党則の「総裁選前倒し規定」による賛否を問う手続を行ったこと自体が誤りであった。

しかも、そこには、「石破総理退陣へ」の号外まで出して、石破首相退陣を既成事実化しようとして失敗し、その後も石破降ろしの政治的画策を露骨に行った「読売新聞」という存在が深く関わっていた。自社の「誤報の検証」と称して、前倒し総裁選の賛否を問う手続の開始の日の朝刊で、現職総理の総裁を「虚偽説明」と批判し、前倒し賛否に決定的な影響を与えたのである(【「石破降ろし」に正当性なし。読売「現職首相ウソつき」批判“検証記事”は総裁選前倒しに重大な影響】)。それもあって、総裁選前倒し賛成意見が一気に拡大、石破総裁の辞任の決断につながった。

このような読売と結託して「石破降ろし」を画策した自民党内勢力がいたとすれば、それは「反党行為」そのものだ。このような状況で党の決定的な分裂を避けるため自ら総裁辞任を決断した石破総裁の意思表示には瑕疵があり、無効だったという考え方も可能であろう。その場合、「総裁が欠けた」との要件を欠くので、その後の臨時総裁選は無効となる。

もっとも、そのような考え方で時計の針を9月2日の時点にまで戻そうとすれば、自民党内は大混乱に陥ることになりかねない。

そこで現実的な選択肢としては、すでに選任している高市新総裁の下での新執行部を維持しつつ、現在の石破内閣を維持することである。

現状は、公明党との連立による石破政権がしっかり内閣としての役割を果たし、政府も機能している。高市新総裁による政権樹立が挫折し、新内閣発足の見通しが立っていなければ、現在の内閣と政府の体制を維持するのは当然だ。高市氏が、衆議院196議席しかない自民党の総裁だというだけでは、内閣総辞職を行う前提に疑問が生じたと言うべきであろう。石破首相としては、政権の枠組みが定まらない現状のままの内閣総辞職は、無責任との批判は免れない。

自民党内では、高市執行部の下で党内の主要人事が行われただけで、党内体制が固まるところにまでは至っていない。

極めて異例だが、石破首相は今後も旧総裁として、党内にもある程度の権限を有し高市新総裁との協調体制を作ることによって党運営を行い、その中で、野党との連立や協力を模索し、その見通しが立った時点で、内閣総辞職、もしそれが困難な見通しとなった場合には、高市総裁の方が辞任するほかないのではないか。

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公明党が“連立離脱の刃”で求める「企業団体献金の受け皿」適正化と「横浜市連会長」「片山さつき氏」問題

参院選後、1か月半にわたる「石破降ろし」の権力闘争の末、自民党は、「前倒し総裁選」で1年前のデジャブのような総裁選を、マスコミに連日報道させるなどして繰り広げた末、昨年の「高市⇒石破大逆転」の真逆の、「小泉⇒高市大逆転」が、唯一残った派閥の麻生派と旧茂木派主導で実現し、高市早苗氏はめでたく総裁に就任した。

しかし、自民党タカ派の「高市総裁」に反発した公明党からは、「連立離脱」という強烈な刃を突き付けられ、自公連立でも過半数に届かない少数与党「高市自民党」は、まさに窮地に追い込まれている。

その公明党が「政治とカネ」問題で徹底してこだわっているのが、「企業団体献金を政党本部・都道府県連のような組織的資金管理が可能なものに限定し、現行法が認めている政治家個人などが代表を務める政党支部への企業団体献金を禁止する」という提案を受け入れろという要請だ。

30年前の政治改革四法で政党助成金が導入される際、企業団体献金は廃止される方向であったことを考えれば、公明党の要請は最低限のものである。自民党がなぜそれに応じられないのか不思議に思う人も多いのではないだろうか。政党本部・都道府県連に入った企業団体献金を適切に配分すれば良いだけの話のはずだ。

しかし、実際に自民党内で、特に自民党を支える地方組織で大きな発言権を持つ地方のボス議員にとっては、自らが代表を務める政党支部への企業団体献金は、政治権力の見返りとして資金を得る手段として欠かせない場合がある。それは、そのような政治家個人が政党支部を企業団体献金の受け皿としての「個人の財布」として使っているからこそできることだ。

今回の総裁選で、自民党員票での高市圧勝に影響したと思える「地方のボス」に対して、公明党の要求を呑んだのでは顔向けができないということであろう。

東京から最も近い「横浜市」で、自民党横浜市連会長であり、過去に、裏金事件の逆風の中、当時の岸田文雄首相に退陣要求を行うなど、国会議員顔負けの発言力を有する佐藤茂市議の企業団体献金の集金構造は、まさにその典型事例である。

私が、その問題に関心を持つ契機となったのは、2017年9月から2021年5月までコンプライアンス顧問を務めていた横浜市において、今年8月に行われた横浜市長選挙だった。

山下埠頭でのIR事業の是非が最大の争点となった前回の2021年8月の市長選は、新型コロナ感染拡大の最中、「コロナの専門家」「横浜市大医学部教授」を最大限にアピールした山中竹春氏が、同様にIR反対を掲げた多くの候補者の中で、最多の投票を獲得して当選したが、選挙戦の最中から、山中氏が、「統計の専門家」であって「コロナの専門家」ではないこと、大学でのパワハラ疑惑、市長選に絡む学長への強要疑惑、経歴詐称疑惑が指摘され、市長就任後も、市議会でも自民党公明党等による追及が行われた。

それから4年、再選をめざす山中氏について、就任当初から問題にされていたパワハラ疑惑が、その後市職員に対して行われていないかなども評価の対象になることに加え、前回市長選後、山中氏を厳しく批判してきた自民党が、市長選に向けてどのような対応を行うかが注目された。

自民党市議、マスコミ等からの情報によれば、多くの自民党市議が山中市長再選に反対し、新たな候補者を模索したが、一方で、自民党横浜市連会長の佐藤茂市議が山中氏再選を強く支持しており、新たな候補者擁立を牽制しているとされていた。そして、佐藤氏は、多くの横浜市議の強い反対を押し切り、横浜市連は山中氏を支援することとなった。

この佐藤氏は、2019年11月30日、朝日新聞が政治資金規正法の問題点を追及する特集記事のなかで、「政治資金 ザル法の闇」とのタイトル記事において、「国会議員より透明性が低い地方議員の懐具合」における「『ザル法』を地でいく事例」として、国会議員も顔負けの金額を集める「『モンスター級』市議」と評され、明細なく1億4千万円もの支出を行っていることが問題視されたことがあった。しかし、マスコミの追及は続かず、その後も、佐藤氏に対する企業団体献金の額はさらに増加し、佐藤氏の政治資金を巡る不健全な状況は継続していた。

政治資金の収支の公開並びに政治団体及び公職の候補者に係る政治資金の授受の規正は、「政治団体及び公職の候補者により行われる政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするため」のものであり(政治資金規正法1条)、政治資金は収支の公開に加えて、公開された内容について、その監視と批判の材料が提供されることで、はじめて政治資金規正法の目的が達せられるものである。

自民党横浜市連の会長として、横浜市長選挙での自民党の支持候補の選定にも極めて大きな影響力を有する佐藤氏の政治資金収支が上記のとおり極めて特異であることについて、収支の推移の詳細と、寄附企業の事業の実態、横浜市の行政との関連性等についての事実が明らかにされることは、有権者にとって重要な事実だと言えた。 

そこで、政治資金収支報告書で公表されている佐藤氏の政治資金の収支と寄附企業の実態、横浜市の行政との関連性等について、独自の調査を行い、可能な範囲で公表することとした。

同調査は、私が代表を務める「日本に法と正義を取り戻す会」の政治資金調査チームにおいて調査を行ったものであり、同会ホームページにその結果を公表した。そこで明らかにしているのは、佐藤氏をめぐる「驚異の政治資金」の実態だ。詳細は、公表している調査報告書を参照して頂きたい。

佐藤氏には、自民党横浜市旭区第二支部(以下、「旭区第二支部」)、佐藤後援会、観光振興研究会のほか、新都市構想懇話会、山手政経懇話会(旧佐藤茂を育てる会)といった、代表を務める政治団体が多数あり、2023年(令和5年)度の政治資金収支報告書によると、旭区第二支部には、総額で9113万円、その内訳は、企業団体からの寄附が総額7838万円、個人からの寄附が総額1275万円、企業団体からの寄附のうち年間総額500万円を超えるものが5社、個人献金の最高額は432万円である。また、2014年から2023年までの直近10年間で見ると、寄附総額は6億3千万円を超え、そのうち企業や団体からの寄附が総額5億円以上で、個人献金の総額は約1億3千万円である。

2023年の国会議員の関連政治団体の収入総額の平均は、政治資金収支報告書データベースの集計によれば、3594万円となっている。しかし佐藤氏は、地方議員にも関わらず年間平均で6千万円を超えており、国会議員の平均を大きく超える資金を集めている。 

一方、各政治団体の政治資金収支報告書によれば、旭区第二支部の支出額(10年間で約6億6千万円)のほとんどは新都市構想懇話会、山手政経懇話会(旧佐藤茂を育てる会)、観光振興研究会、佐藤茂後援会といった佐藤氏が代表となっている4団体および佐藤氏個人への献金に支出されており、その資金の半分弱は、収支報告書上は「翌年度への繰越」として各団体に残っていることになっているが、残り半分以上の資金のほとんどは、「組織対策費」など、明細のない(一件(数回にわたる場合は合計が)5万円以下であれば内訳の記載は不要である)不透明な形で支出されている。なお、2023年末時点での上記4団体の「翌年度への繰越額」の合計は約3億2千万円である。

また、旭区第二支部への企業団体からの寄附のほとんどは、比較的小規模企業によるものであり、実質的に同一の人物が代表者或いは経営を支配していると思える複数の企業からの寄附が多く見受けられる。

佐藤氏が自民党の横浜市議会議員の中で極めて有力な政治家であり、市長選挙等における影響力も極めて強いことを考えれば、上記のような佐藤氏をめぐる政治資金の収支について、いかなる事業実態の企業から、何故にこのように多額の寄附が行われているのか、その背景に、寄附企業と横浜市の行政との関係性、それに対する佐藤氏の影響力があるのか、などの点は、横浜市政の現状を市民が知る上でも看過できない重要な事実だ。

そこで、旭区第二支部に多くの寄附を行っている企業団体の事業と横浜市の行政との関係を見ると、産業廃棄物処理や運搬に関する資源循環局、社会福祉法人の監督に関する健康福祉局との関係などがある。また、佐藤氏は、自ら社会福祉法人恵泉会の代表(理事長は2018年までで、現在登記上は理事長ではなく非常勤理事であるが、実権を持っており、本人も「代表」と名乗っているため、代表と表記)を務めており、旭区を拠点に、横浜市内にあゆみ保育園を複数経営している。

一方、佐藤氏は、上記事業に関連する横浜市議会の常任委員会の委員も務めている(環境創造・資源循環委員会は2006年および2010年度、健康福祉・医療委員会は2014年度以降ほぼ毎年度で現職)。

このような関係の下で、佐藤氏の側から直接あるいは間接に市の当局に対して何らかの要求が行われ、その見返りとして多くの企業から多額の献金が行われている可能性は否定できない。

本来、政治資金の寄附は、支持する政治家、政党の政治活動を支援するために行われるものである。国会議員とは異なり、地方議員の場合、秘書の人件費、事務所費等にかかる費用は僅少であるはずなのに、国会平均を遥かに上回る多額の政治資金の寄附を受け、大部分が不透明な支出や「翌年への繰越し」とされているのは、極めて特異な政治資金の収支である。しかも、旭区第二支部への企業団体献金には、同一人物が経営又は支配する複数の企業による寄附を合算すると、資本金10億円未満の企業の寄附額の上限750万円(年間総額)を超える寄附が行われている例も複数あり、このような多額かつ不透明な寄附が、佐藤氏側からの要請によることなく企業団体側から自主的に行われたり、佐藤氏が認識することなく一方的に行われたりすることは極めて考えにくい。

仮に佐藤氏側が寄附を要請し、それが単に、各政治団体に「翌年への繰越し」を蓄積しておくだけの目的だとすれば、それは、「政治資金の寄附」という名目の、単なる「蓄財」ということになる(将来、相続税を課税することなく、相続人に政治団体の資金を継承させることが可能。)。

もっとも、政治資金収支報告書における「翌年への繰越し」については、残高証明が義務づけられるものではないので、各年末の実際の政治団体の口座の残高は、同報告書に記載された翌年への繰越しの金額より大幅に少ない可能性もある。もし、そうであるとすれば、旭区第二支部への寄附は、佐藤氏が代表を務める政治団体を経由して「裏金化」しているということであり、その使途に重大な疑惑が生じることになる。

実際に何に使われているのかは全く闇の中であるが、一つだけ具体的に明らかになっている佐藤氏個人から現職国会議員への寄附の事実がある。

それは、自民党の環境族の有力議員である片山さつき氏に、佐藤氏個人で、2023年11月11日付けで、「会社役員」の肩書の個人名義で片山氏が代表を務める自由民主党東京都参議院比例区第二十五支部に100万円の寄附を行っている事実だ(横浜市議会議員からの寄附であることも収支報告書からは、わからない。)。

佐藤氏と片山氏の関係性について、互いに自民党の有力議員である、ということ以上に直接結びつける明確なものはない。

ただ、佐藤氏への有力な献金企業に環境関連のX社とY社があり、近時、毎年寄附を行っていて、いずれもA氏が代表取締役社長を務めている。

A氏は、2023年に片山氏とのオンライン勉強会に出席しており、また、環境に関する新法の制定に向けて参考人として意見陳述するなど、片山氏と接点がある。

さらに、A氏は企業活動の他、環境関連の公益社団法人の会長や理事も務めるなど、政治活動もかなり積極的に行っており、環境関連の政治連盟に以前から関わり、近時は理事長として、環境大臣をはじめ、様々な政界の人物に対し、業界の様々な要望を伝え、陳情を行っている。

一方で片山氏は、自民党で環境部会長を務め、その経緯で産業・資源循環議員連盟の発足人となり、現在では同連盟の幹事長を務める立場にある。同連盟は、A氏が関わる政治連盟と大臣への要望で連携するなど、密接な関係が見受けられる。

佐藤氏とA氏の関係、片山氏とA氏の関係は、それ自体が単体で問題となるようなものではないが、前記のように、地方議員への多額の献金の必要性の低さも考慮したうえで三者の関係性を全体としてみると、佐藤氏から片山氏への個人名義での100万円の寄附が、地方の有力政治家が自治体行政などへの有形無形の影響力への見返りとして得た企業団体献金は、国政政治家への還流の一端である可能性がある。

また、前記のように、佐藤氏は多額の資金を「裏金化」している疑惑もある。

仮にそうだとすれば、公明党の提案で前提とされている「企業団体献金は公正かつ適正に政党本部に提供され、それが都道府県連組織などを通じて党所属議員に適切に配分される」という政治資金の流れとは真逆の状況だということになる。

この自民党横浜市連会長の佐藤市議の事例を見ても、公明党が、連立離脱の刃とともに自民党に突き付けている「企業団体献金の適正化」の要求は、極めて根本的かつ本質的なものであり、自民党はこれに対して相当な覚悟を持って望まなければ、一層深刻な事態に追い込まれることは間違いない。

実は、私がこのような自民党の再生が図れる総裁として期待していたのが石破茂氏であった。昨年の総裁選で高市氏に逆転勝利した後ろ盾となったのが菅義偉氏、岸田文雄氏などの元首相の自民党重鎮ということで、一年程度は党内で基盤を固め、本当の意味で石破カラーが出せるのはこれからだと思っていた。

派閥政治資金パーティーをめぐる裏金問題の本質をはじめ、横浜市の実情など政治資金をめぐる問題については必要に応じて石破氏と親しいジャーナリストを通じて情報提供していた。

しかし、参院選での自民党敗北を機に、旧勢力の巻き返しの「石破降ろし」に読売新聞等が加担し、結局、総裁の座から引きずり降ろされることになった。それによって、自民党は旧来の金権体質からの脱却の「最後のチャンス」を失ったように思える。

今、自民党が置かれている状況は、まさにその金権腐敗体質が招いた「自業自得」そのものである。

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長崎県大石賢吾知事検察審査会申立書

審  査  申  立  書

2025年10月3日

長崎検察審査会 御中

審査申立人

(資格)告発人

(住居)〒106 -0032 東京都港区六本木6-2-31

六本木ヒルズノースタワー9階 

郷原総合コンプライアンス法律事務所

(電話)03-5775-0654

(氏名)弁護士 郷原 信郎  

(生年月日)1955年3月2日

(資格)告発人

(住居)

(電話)

(氏名)大学教員 上脇 博之 

(生年月日)1958年7月25日

申 立 の 趣 旨

審査申立人が2024年8月5日付告発状にて長崎地方検察庁に刑事告発した被疑事実に関し、「起訴相当」(検察は起訴すべきである)または「不起訴不当」(検察が再捜査すべきである)の議決を求めます。

申 立 の 理 由

第1 罪名

政治資金規正法違反

第2 被疑者

住  所  長崎県長崎市尾上町3−1 長崎県庁舎内

氏  名  大石 賢吾

生年月日  昭和57年7月8日

職  業  長崎県知事

第3 事件番号

第4 処分年月日

令和7年9月12日

第5 不起訴処分をした検察官

第6 被疑事実

被疑者大石賢吾は資金管理団体「大石けんご後援会」の代表者であるが、令和4年中に、「大石けんご後援会」が被疑者大石から2000万円の借入を受けていなかったにもかかわらず、「大石けんご後援会」の令和4年分政治資金収支報告書を作成する際に「大石けんご後援会」が被疑者大石から同年1月12日に2000万円の借入れを受けたと記載し、もって、同政治資金収支報告書に虚偽記入をし、令和5年3月31日に同政治資金収支報告書を長崎県選挙管理委員会に提出したものである。

7 罪名及び罰条

政治資金規正法 第12条第1項、第25条第1項第3号(政治資金収支報告書虚偽記入罪)

第8 検察官の処分

不起訴

第9 不起訴処分の不当性

1.本件嫌疑が十分であること

(1)概要

「大石賢吾後援会」の代表者である被疑者は、形式上、選挙運動費用として提供した自己資金を、貸付金の返済名目で回収しようと考え、同会に貸付をした事実はないのに、「大石けんご後援会」の政治資金収支報告書に2000万円の架空の貸付金を記載して虚偽記入を行ったものである。

令和4年の同会の政治資金収支報告書には、被疑者からの2000万円の借入金が記載されていたが、令和6年8月に訂正され削除されており、少なくとも同削除の時点においては、それが虚偽の記載であったことを認めている。

 しかし、被疑者は、同借入金の記載を自ら行ったことを認めた上、「知事選に際し、医師信用組合から借り入れた2000万円について、令和3年に提出されていた選挙運動費用収支報告書において、既に払い切りの自己資金として計上されていたにもかかわらず、そのことを認識していないままに令和5年の3月提出の後援会の令和4年分の収支報告書において、私からの借入金として計上してしまったために二重計上となってしまった」旨弁解して、虚偽記入の犯意を否認している。

 検察官の不起訴処分は、かかる被疑者の弁解を覆す証拠がなく、虚偽記入の犯意を立証できないことを理由とするものと思われるが、以下に詳述するとおり、かかる不起訴処分は明らかに不当であり、本件は、被疑者を虚偽記入罪で起訴し、有罪判決を得ることが十分に可能な事案である。

以下にその理由を詳述する。

 まず、(2)では、被疑者の弁解内容について、記者会見における被疑者の説明内容を紹介した上、(3)で、その不合理性、関連証拠との不整合を指摘する。

 (4)では、本件当時、大石賢吾後援会の職員として同会の経理処理等を担当し、同会の会計処理として2000万円の借入金の計上を行ったTの客観証拠に裏付けられた供述に基づき、被疑者に借入金の架空計上の認識があったことを明らかにする。

そして、(5)では、被疑者の弁解どおり、借入金が架空であることの認識がなく、適法と信じていた場合、誤った助言を行った選挙コンサルタント、借入金が架空であることを看過した担当税理士等の責任との関係から、被疑者の弁解とその姿勢との矛盾を指摘する。

(6)では、仮に、被疑者の弁解のとおりであったとしても、重大な過失によって政治資金収支報告書の虚偽記入を行った刑事責任を免れる余地はないことを指摘する。

さらに、(7)では、本件告発から不起訴処分に至る経緯にも、検察官の不起訴処分には極めて不可解な点が多く、適切な刑事処分が行われたとは考えられないことについて述べる。

(2)被疑者の弁解内容(令和7年3月3日の臨時記者会見:会見録「資料1」)

  本件は、被疑者が長崎県知事に就任後、代表を務める政治団体である大石賢吾後援会の政治資金収支に関して生じた問題であり、被疑者は、長崎県議会における質疑、記者会見等で、本件についての説明を行ってきた。本件ついての最終的かつ全体的説明を行った令和7年3月3日の臨時記者会見において、被疑者は、概ね以下のような弁解を行っている。

ア 2000万円の貸付の実在性

 後援会の令和4年分の収支報告書において、私からの借入金として計上した2,000万円は、知事選の際に医師信用組合から借り入れて後援会口座に入金した2,000万円と同一のもの。これとは別に存在しない架空の2,000万円の資金移動をでっち上げて計上したものではない。実在する一つの資金移動を二重に計上したもの。

イ 2000万円についての報告書や契約書などの日付のズレ

(ア) 医師信用組合から借り入れて後援会の口座に入金をした日付は1月14日選挙運動費用収支報告書の収入の部における自己資金の2,000万円の計上日が1月5日となっているのは、選挙運動費用収支報告書を作成した出納責任者に確認をしたところ、1月14日の2000万円の入金に先立って1月6日と7日に選挙事務所の借り上げのための支出が存在をしていたため、収入よりも先に支出が発生しているという記載では具合が悪いと考えて、便宜上、2000万円の入金日を支出発生前の1月5日にしたもので、1月14日が正しい。

(イ) 後援会への貸付けとする金銭消費貸借契約書の締結日が1月12日となっていたのは、契約書の日付は後援会の口座に2000万円を入金した1月14日とするべきだった。この金銭消費貸借契約書については、選挙コンサルタントがドラフトを作成したので、日付がずれた理由について選挙コンサルタントに確認したところ、正確な理由は判然とはしなかったが、少なくとも意図的に日付をずらす理由はなく、単純な記載ミスと思われるということだった。

私の推測だが、後援会の通帳で、1月14日の2000万円の入金が記載をされている行の1行上に1月12日付の後援会に対する寄附の記載があることからすると、金銭消費貸借契約書をドラフトしてもらう際に、後援会から選挙コンサルタントに誤ってその1月12日という日付が伝えられてしまったのかもしれない。

ウ 2000万円の貸付金計上の経緯

2022年5月か6月頃、選挙コンサルタントもよく覚えていないとのことだが、当時、選挙コンサルタントに一般的な悩みを聞いてもらったり、世間話もするような関係で知事選の際に借り入れた2,000万円を念頭に置きながら、選挙というのはお金もかかって大変なんですねという話の中で、選挙コンサルタントから後援会への貸付金という処理を行えば返済を受けることができる、何ら法令に抵触するものではなく、何の問題もない旨の助言がありそのような処理ができるのであればありがたいと考えて、貸付けとして処理をすることにしてしまった。

エ 重要事項の欠落(「二重計上」を認識した経緯)

   被疑者が「借り入れた2000万円について、選挙運動費用収支報告書において自己資金として計上されていたにもかかわらず、そのことを認識していないままに令和4年分の収支報告書に私からの借入金として計上してしまったために二重計上となった」と弁解するのであれば、もう一つ重要な説明事項があるはずである。

それは、その「二重計上」に、いつ、どういう経緯で気づいたのか、という点である。いつどのように「二重計上」に気づき、どのように対応したのかは、「架空計上」ではなく「二重計上」であったことを自ら明らかにする最大の根拠となるはずである。被疑者の弁解どおり、「選挙運動費用収支報告書において自己資金として計上していることを知らなかったこと」が、二重計上の原因だったとすれば、その選挙運動費用収支報告書の記載を知ったことで二重計上に気づいた、ということになるはずである。

ところが、被疑者は、この問題も含めて説明する場であった令和6年10月2日の会見でも、上記の令和7年3月3日会見でも、冒頭説明ではこの点に全く触れていない。そして、3月3日会見では、記者から、「知事が2,000万円の数字が、選挙運動費用収支報告書と後援会収支報告書、この2,000万円の数字が2つあるということに気づいたのはいつなんでしょうか。」と質問され、「2つあるということを拝見をして、それは2つある、同じものが2つあるのは間違いですということで」などと意味不明の発言を繰り返すなどしている。

これは、被疑者の弁解が虚偽であることを示す決定的な事実である。

実際には、Tが供述するとおり、被疑者は、当時、政治資金処理等について助言を受けていたKから「2000万円の借入金は架空計上、返済を受けたのは後援会からの詐取」と指摘され、それを解消するため、Kの提案で、後援会への返金スキームを実行するなどしていたものであり、Kに相談するために同人の居住地であった沖縄に、公務の合間を縫って出かけるなどしていたのである。

被疑者が、「二重計上」に気づいた経緯を説明しようとすると、上記のようなKとの関係について説明せざるを得ず、それは自らの行為についての犯罪性の認識を自白することになるのでそれができないということだと考えられる。

(3)被疑者の弁解の不合理性

 以上の被疑者の弁解内容であるが、その前提として、以下の事実がある。

被疑者は、令和4年2月3日告示の長崎県知事選挙に立候補し、20日の投票日までの選挙期間、選挙運動を行って当選し、3月7日に、出納責任者Oが選挙運動費用収支報告書を作成して選挙管理委員会に提出したものである。

被疑者の選挙に関する入出金は、令和3年12月に開設された大石けんご後援会名義の銀行口座において一元的に行われており、被疑者大石個人の選挙運動費用収支と大石けんご後援会の政治活動の収支は区別されることなく混然一体となって入出金されていた。被疑者は、医師会信用組合から令和4年1月14日借り入れた2000万円を、同日、同後援会口座に選挙資金として入金したが、同口座には、それ以外に、医療関係者、医療法人、各種団体等から3000万円余りの寄附収入が入金され、一方で、選挙費用は合計約4800万円かかっており、選挙に関する入出金が終了した後の口座の残高は300万円弱であった。

 Oが作成提出した選挙運動費用収支報告書には、収入として被疑者からの自己資金2000万円、支出として1820万円の選挙運動費用のみ記載され、それ以外の後援会口座の入出金は、選挙運動費用収支報告書には記載されず、政治団体としての大石けんご後援会の政治資金収支報告書に記載された。

被疑者の弁解は、要するに、同選挙に関しては、上記選挙運動収支報告書の内容は提出時も、全く内容を知らなかったものであり、収入としての自己資金2000万円の記載も、1820万円の支出額の記載も、「2000万円の二重計上」に気づくまで、全く知らなかったというものである。

被疑者の説明では、自ら入金した2000万円の使途も、選挙終了時に2000万円を含め収入の殆どは使い切っていたことも知らなかった、ということであり、それ以外は、選挙に関して、どれだけの費用を要するのか、自分が調達した2000万円以外に、誰からどのような寄附収入があり、どれだけの選挙費用がかかっているのか、などは何も知らなかった、ということである。

被疑者が唯一認識していたのが「自ら借り入れた2000万円を後援会名義の銀行口座に振り込んだこと」だったところ、選挙後、選挙コンサルタントが、被疑者が唯一認識していた2000万円の後援会口座への入金を、事後的に「被疑者から後援会への貸付」だったとして処理すれば、適法に後援会から返済を受けることができると助言してくれたことを受け、選挙運動費用収支報告書の内容も、選挙の全体的な収支も残高も、何も確認することなく、後援会の会計帳簿に2000万円の借入金の記載をさせ政治資金収支報告書に記載させ提出させたというのである。

仮に、被疑者の認識がその程度であったとすれば、当選後に支持者支援者に挨拶をする際も、誰からどれだけの支援・寄附を受けたのかを認識すらしておらず、仮に、被疑者の自己資金以外に寄附収入がなかった場合には、被疑者は多額の借金を負うことになっていたが、被疑者はそのようなことは全く意に介さず、選挙運動を行っていた、ということになる。そのようなことは、常識的に考えてあり得ない。

 しかも、被疑者が弁解するとおり、「自ら借り入れた2000万円を後援会名義の銀行口座に振り込んだ」という「実在する事実」が一つだけあり、それが「被疑者の後援会に対する2000万円の貸付」と事後処理することが可能な事実だというのであれば、その後援会への振込の事実と被疑者から後援会への資金の動きとは完全一致しなければならないはずであるが、その説明は、「2000万円についての報告書や契約書などの日付のズレ」に関する(2) イの弁解で完全に破綻する。

 被疑者が実際に後援会に2000万円を振り込んだ日付は1月14日であり、それ以外に資金の流れはない。ところが、金銭消費貸借契約書の貸付日は1月12日とされている。被疑者は、それについて、同契約書を作成した選挙コンサルタントに確認したところ、「意図的なものではなく形式的なミス」との説明だったと述べ、1月14日の2,000万円の入金が記載をされている行の1行上に、「1月12日付の後援会に対する寄附の記載」があるのでその日付を誤って伝えた可能性があることに言及している。

しかし、この金銭消費貸借契約書は、後援会の政治資金の会計処理のための書類として作成され、後援会に提供されたものであり、この際、その事務を担当したのは、Tである。

 Tの供述は、陳述書(資料2)のとおりであり、Tは、その際の状況について、

契約日は「令和4年1月12日」となっており、大石賢吾名義で後援会の口座に2000万円の入金があった日とは2日ずれていました。それについて、私が聞いたところ、選挙コンサルタントは、「知事が選挙で用意した自己資金(長崎県医師信用組合から令和4年1月14日借入)の2000万と別に用意したお金で貸付けたものと認識させるため、わざと日付を令和4年1月12日にしています。」と説明してくれました。

と述べている。

 そもそも、2000万円の貸付金の計上という重要な事項について、通帳の記載から明らかな「1月14日」を、「1月12日」などと誤って伝えるなどということはあり得ない。しかも、預金通帳(資料3)の記載によれば、1行上の「1月12日」の寄附というのは、医師会政治連盟の500万円の寄附であり、名義人も金額も異なる。それを誤って伝えるなどということはあり得ない( (2)イの日付のズレの理由の説明が一応合理性があるのとは全く異なる。)。

 しかも、Tの供述によれば、選挙コンサルタントは、この2日の日付のズレは、被疑者が医師会信用組合から借り入れて後援会に入金した「1月14日の2000万円」とは別個に、もう一つの「大石⇒後援会」の2000万円という金の流れが存在し、それが後援会の政治資金収支報告書に記載された「2000万円の借入」であるように装うため、意図的に、「2日のズレ」を生じさせたと説明した、というのである。

 この点は、被疑者の弁解に関連する重要な事実である。

 すなわち、被疑者は、「自ら借り入れた2000万円を後援会名義の銀行口座に振り込んだ」という「実在する事実」が一つあるだけであり、それを後援会への2000万円貸付として事後処理することを選挙コンサルタントから助言されたというのであるが、選挙コンサルタントとして被疑者の選挙に深く関わった選挙コンサルタントは、選挙全般に関する状況を認識し、被疑者が提供した2000万円も含めて、ほとんど選挙費用で使い切っていること、被疑者の自己資金が選挙運動費用収支報告書の収入欄に記載されていることも当然認識していたはずであり、選挙のプロとして仕事をしている選挙コンサルタントが、そのような状況で2000万円を被疑者の後援会に対する貸付金として処理できると助言することは考えられない。

 Tが供述するとおり、あり得るとすれば、被疑者が、医師会信用組合から借り入れた2000万円とは別に、現金で2000万円を調達し、その現金を後援会に入金して貸付けたという前提で「貸付金処理が可能」と助言したことである。Tが供述する選挙コンサルタントの「2日のズレ」についての説明は、それを裏付けるものである。実際には、被疑者が、別途2000万円の現金を調達したり、それを後援会に現金で入金した事実などないのであるから2000万円の貸付金は架空であることが前提ということになる。

 以上のとおり、上記被疑者の弁解は、全く合理性がなく、破綻しており、むしろ、それによって、被疑者が2000万円の貸付金の架空性を認識していることは明らかである。

(4)T供述と裏付け証拠により認められる事実

  本件に関するTの供述は、陳述書記載のとおりであるが、その中で、被疑者の2000万円の貸付の架空性に関するもので、裏付ける客観証拠があるものとして以下の二つがある。

  第1に、被疑者が2000万円の後援会に対する貸付金の返済に関して金利支払いのことを気にしていたことである。これに関して、令和6年2月22日、被疑者、選挙コンサルタント、Tの3人のグループLINEに被疑者が送った下記メッセージがある(T陳述書13頁、資料4)。

「気になっていることがあります。私への返済の件ですが、いつまで引き延ばして良いですか?今の残金だと返済が難しいと思いますが、金利分があるのであまり引き伸ばすと適切じゃないような気がして・・・。もし難しければ、期間は伸びますが、半額で契約し直すとか、適切に対応できる程度に修正したほうが良いように考えています。」 

  ここに書かれているように、被疑者は「金利分があるのであまり引き伸ばすと適切ではない」と言って「金利分」を気にしているが、それは、もともと被疑者から後援会に2000万円が渡った事実がなく、「金利の支払」の理由はないからである。

  このような被疑者の意向を受け、選挙コンサルタントが、前年3月末の400万円の元金返済後の元本1600万円について返済期限を、当初の5年から10年に延長する金銭消費貸借契約書を作成している。

第2に、被疑者が2000万円の架空貸付の事実を削除して、既に被疑者が後援会から受けていた返済を返金しないと詐欺の問題になりかねないとのKの指摘を受け、Kの会社と後援会との業務委託契約を締結して、その契約に基づく支払いとして460万円を支払い、それをTの個人口座に送金して被疑者に現金で渡し、それを被疑者が後援会に戻す、というスキームをKから提案され、被疑者が了承してそれを実行した事実があることである。これについては、そのスキームの実行としてKの会社に100万円の振込を完了した時点で、Tが、その後330万円を振り込む予定であることも含めて被疑者に報告しており、その際の録音記録がある(T陳述書15頁、資料5)。

  被疑者は、この出金について、上記記者会見で、

元監査人Kが、この出金について二重計上となっていた2,000万円の問題を解決するため、不正であることを承知しながら知事を助けるために実行しようとしたと、知事も不正であることを理解をして同意をしていた旨のご説明をし、元事務職員も、これに沿った説明をしたと承知をしております。しかし、当然ながら、私は、不正な出金について了承はしておりません。私が不正に加担した事実もございません。

と述べているが、実際には、Tが供述するとおり、被疑者は、上記スキームを了承し、振込を実行したことをTから報告を受けたことも、録音記録によって客観的に明らかなのである。

 被疑者は、このようなスキームを使って後援会の資金を自分の手元に還流させ、それで不正に返済を受けた分の返金の原資にしようとしたのであり、そのような不正なスキームの実行を了承したのは、もともとの2000万円の貸付金の計上が、Kが指摘するとおり架空であることを認識していたからに他ならない。

(5)T供述の信用性に関する事実

ア 後援会からの460万円の出金

 被疑者は、上記記者会見で、「不正な出金について了承はしていない」と断言し、

   私自身は、元監査人と呼んでいた人物のことを、後援会の資金管理につきまして認識できてない問題点を整理して、その問題について適正、適法に解決する方法を指導していただける方であると、そう信じておりました。

送金を実行した元事務職員がどのように関与していたのか。そもそも元監査人を総務省から特命委託を受けて県の監査を行っている人物として私に紹介をしてきた元事務職員と元監査人の関係性が判然としない状況である。そういった状況から、現時点においては、直ちに刑事告訴を行う環境ではないと判断をしています。

などと、K、Tの告訴を示唆するなどしている。

その後、上記録音記録が公開され、被疑者が上記スキームを了承していたことは明らかになったが、被疑者は、この点について記者に質問を受けても、「不正をする意図はなく、スキームを理解して了承した事実は全くない」などと述べている(2025年3月20日長崎新聞)。

被疑者は、Kについて、「総務省から特命委託を受けて県の監査を行っている人物」と信じていたと強調しているが、その点はTも同様であり、Tは、Kが自称していた海外での留学経験、弁護士資格などの経歴も信じていたが、それが全くの虚偽であることが後日判明しショックを受けたものである。かかる意味ではTも被疑者も同様に、Kに騙されていた被害者である。問題は、被疑者が、そのようなKとの間でどのようなやり取りを行い、どのような助言提案を受けて何を行ったかである。

その点について、被疑者は、「後援会の資金管理につきまして認識できてない問題点を整理して、その問題について適正、適法に解決する方法を指導してくれる方」と認識していたと述べているが、それは全く事実に反する。当時、被疑者は、Kに、警察、検察の捜査やマスコミの追及等に対する対策を相談し、様々な助言提案を受けていたものであり、6月19日には、公務の合間を縫って、Kの居住地・勤務地であった沖縄にまで赴いている。

被疑者が、2000万円の後援会への貸付が架空であり、その返済名下に後援会から約650万円の支払を受けたことが重大な問題であると認識していたからこそ、Kの知恵を借りるべく頻繁に接触していたものである。

イ 県議会総務委員会参考人質疑でのT発言について

また、被疑者は、後援会職員として、上記の後援会からの出金のことも含め、代表者である被疑者の指示にしたがって忠実に職務を行っていたTについて、その信用性を不当に貶めるような発言をしている。上記会見では、それ以外にも、Tの県議会総務委員会での参考人質疑での発言について、以下のとおり言及している。

     私の後援会の元職員の女性が総務委員会の集中審査の中で、令和5年3月下旬頃に税理士ほか1名とともに選挙コンサルタントの間で電話のスピーカー機能を使って後援会の令和4年分収支報告書の記載の内容について協議をしたと。その際に選挙コンサルタントのほうから架空の2,000万円を私から借入金として計上するという方針が伝えられたという内容の答弁がされたと承知をしております。しかし、今般、選挙コンサルタントのみならず、税理士ほか1名の方にも聞き取りを行いました。そうしたところ、3名とも、その電話協議の際に2,000万円を私からの借入金として計上するといった方針が話し合われたことは事実だと、そういう記憶はあるといったものの、架空という言葉が出たことは絶対にないというお話でございました。私自身は、その電話協議の場に居合わせておりませんでしたけれども、税理士の先生が立ち会っておられる協議の場で架空の2,000万円の借入れをでっち上げるといったような話が出たということは、おおよそ常識的に考えても非常に現実味がないのではないかというふうに思います。

      この点を、被疑者は、2000万円の貸付が架空であるとの指摘を否定する根拠であるかのように述べている。確かに、税理士が立ち会っている協議の場で架空の2000万円の借入れをでっち上げるといったような話が出ることは常識的にもあり得ないというのは被疑者も言うとおりある。

しかし、ここで問題なのは、「架空」という言葉が出たか否かではない。

      同じ会見で、記者から、「税理士、出納責任者の方もいる中で、その方たちは2000万円の自己資金が選挙収支報告書に記載済みであることに気付かなかったのか」と質問され、被疑者は、

        そのことについては確認をしておりまして、お二人とも選挙運動費用収支報告書の中に、この2,000万円が計上されていたということについては、もちろん認識はあった。ただ、選挙コンサルタントの方から後援会の収支報告書のほうに借入金の2,000万円を記載するといった方針を伝えられた際に、選挙運動費用収支報告書のほうとの整合性については、余り深く考えることはなかった。そういったことで、そのときには特に問題意識を感じることはなく、そのように貸付けと借入金として記載をしたということでした。

と述べている。

その打合せの場にいた税理士、出納責任者は、選挙運動費用収支報告書の中に2,000万円が計上されていることを認識していたのであり、そうであれば、後援会の被疑者からの2000万円の借入金の計上が架空であることは当然認識していたはずである。

Tも、その場にいた税理士が、選挙コンサルタントの話を聞いて、「架空の貸付を計上する」という意味だと十分に理解していたということを言いたかったと述べている(陳述書11頁)

(6)被疑者の弁解とその姿勢に内在する矛盾

  被疑者の弁解によれば、選挙コンサルタントから、「後援会への貸付金という処理を行えば返済を受けることができる、何ら法令に抵触するものではなく、何の問題もない」旨の助言があり、そのような処理ができるのであればありがたいと考えて、貸付けとして処理をすることにしたということであるが、かかる弁解は全く不合理で、到底信用できないことは、(3)で詳述したところである。

もし、仮に被疑者の弁解のとおりだとすると、選挙の専門家である選挙コンサルタントは、被疑者が提供した2000万円も含め、ほとんど選挙費用で使い切っており、選挙運動費用収支報告書の収入欄に被疑者の自己資金2000万円が記載されていることなどを当然認識しており、被疑者が後援会に対して2000万円を貸し付けたことにして後援会の収支報告書に借入金を記載することが虚偽記入に当たることは十分に認識していたはずである。それにもかかわらず、「後援会への貸付金という処理を行えば返済を受けることができる、何ら法令に抵触するものではない」と被疑者に助言したことになる。もし、選挙コンサルタントがそのような発言を行い、被疑者がそれを信じて、2000万円の貸付金・借入金の計上を行ったとすれば、選挙コンサルタントとしての重大な過誤であり、そのために、被疑者は、刑事告発を受けたり、県議会、マスコミからも追及されるなど甚大な損害を被ったことになる。そうであれば、選挙コンサルタントの対応を批判非難し法的責任を追及するのが当然である。ところが、被疑者は、選挙コンサルタントに対する批判非難は全く行っておらず、責任を追及する姿勢も全くない。

  また、後援会の会計を担当していた税理士についても、選挙運動費用収支報告書の中に2,000万円が計上されていたことの認識はあったが、選挙コンサルタントから後援会の収支報告書に借入の2,000万円を記載する方針を伝えられた際に、選挙運動費用収支報告書との整合性について特に問題意識を感じることはなく貸付金と借入金として記載をした旨説明しているというのが、会見での被疑者の説明である。

その通りだとすれば、報酬を得て後援会の会計処理、政治資金処理を行っている税理士としてあまりに杜撰であり、責任追及の対象になるのが当然である。

ところが、被疑者は税理士についても

私の立場で非難をするかどうかというと、それは全く考えておりません。やっぱりこれはひとえに私自身が本当に管理が行き届いてなかったと、十分にできていなかった。これは私の経験不足もありますし、時間的な制約等もありますけれども、それがひとえに原因なんだろうと思っております。

  このような被疑者の姿勢は、選挙コンサルタント、税理士、いずれの関係でも、誤った助言、杜撰な対応をされたとの認識はないということである。被疑者自身が、違法であることを十分に認識した上で貸付金の架空計上の方針を固めそれを実行したものであり、専門家の助言や対応によって、誤った判断をしたのではないが故に、このような姿勢になると考えざるを得ない。

  すなわち、被疑者の弁解は、その内容が不合理極まりないものであるだけでなく、関係者に対する姿勢との間で矛盾しているのである。

(7)被疑者の弁解を前提としても政治資金収支報告書虚偽記入罪の罪責は免れないこと

 政治資金規正法は、27条2項で、「重大な過失により、第二十四条及び第二十五条第一項の罪を犯した者も、これを処罰するものとする」と規定しており、重大な過失により、25条1項の政治資金収支報告書虚偽記入を行った場合にも、同条項の罰則により処罰される。

 被疑者の弁解のとおりであるとすると、認識していたのは、選挙の費用として医師会信用組合から2000万円を借り入れ、その2000万円を、選挙のために開設した大石賢吾後援会名義の預金口座に振り込んだことのみで、それ以外のことは、選挙に関して、どれだけの費用を要するのか、自分が調達した2000万円以外に、誰からどのような寄附収入があり、どれだけの選挙費用がかかっているのか、なども把握することなく、選挙運動を行って当選し、選挙後、2000万円の入金を「後援会への貸付金」だったことに適法に処理できるとの選挙コンサルタントの助言を受け、自らの選挙に関する収支や選挙運動費用収支報告書の記載も確認することなく、同後援会の政治資金収支報告書に、被疑者からの借入金2000万円という記載をさせたというのである。

 この場合、前提となる事実関係を全く確認せず、法律の専門家でもない選挙コンサルタントの言葉のみ信じて、政治資金収支報告書に結果的に虚偽の記載を行ったのであるから、もし、虚偽記入の犯意が認められない場合でも、注意義務懈怠の程度は著しく、重大な過失による虚偽記入罪が成立することは明らかである。

 既に述べてきたように被疑者には故意の虚偽記入罪が成立することは明らかであるが、検察官が、被疑者の弁解を覆すことができず、虚偽記入の故意が認められないと判断したのであれば、重大な過失による虚偽記入罪の立件も検討するのが当然である。

2. 検察官の不起訴処分に至る経緯に関する問題

 検察官は、被疑者の犯意を立証する十分な証拠がないとして不起訴処分を行ったものと考えられるが、既に述べたとおり、被疑者の「借り入れた2,000万円について、選挙運動費用収支報告書に既に払い切りの自己資金として計上されていたことを認識しないまま令和5年の3月提出の後援会の令和4年分の収支報告書に被疑者からの借入金として計上し二重計上となった」旨の弁解は不合理極まりないものであり、2,000万円の借入金が架空であることの認識及び虚偽記入の犯意は十分に立証可能である。

それにもかかわらず、検察官が不起訴処分を行った経緯には、下記のとおり、不自然、不可解な点が多々ある。

  • 検察官によるT供述調書作成未了と不起訴処分の時期

Tは、令和7年7月28日に、本件2000万円の件等について聴取を受け、8月22日にも聴取を受け、2000万円の件についても話を聞かれた。その時は、「大石知事に不正の認識があったことを示す事実があれば、できるだけ思い出してほしい」と言われ、可能な限り思い出して供述した。8月27日にも聴取が予定され、その日は供述調書を作成する予定だったが、その頃、7月から悪性リンパ腫で入院していたTの代理人の郷原弁護士から電話があり、同弁護士が退院後に、供述調書に署名する前に、郷原弁護士がTの供述内容を確認した上で調書を作成することを希望するよう助言を受け、27日の聴取の際に、TからK検事にその旨希望し供述調書の作成は保留となった。

その後、退院した郷原弁護士からも、K検事に連絡して、調書の作成は待ってもらうよう申し入れ、郷原弁護士が電話でTの供述内容を確認するなどして、K検事の次回聴取を待っていたところ、突然、9月12日に、大石知事の2000万円の政治資金規正法違反の件で本日不起訴を行ったことが、K検事から告発人の郷原弁護士に伝えられた。その際、T調書が作成未了のまま不起訴処分を行った理由を尋ねたところ「話は聞いたので調書は不要と判断した」との返答だった。不起訴処分を急ぐ事情の有無について尋ねたところ、「処分の機が熟しただけで特に急いだわけではない」とのことであった。

しかし、上記のとおり、Tは、K検事から「大石の不正の認識に関する事実」を思い出すように言われ、それを郷原弁護士にも話して整理した上で改めて供述し調書作成に応じる予定だった。仮に、そのような調書作成を行っていたら、T陳述書と同様に、被疑者の弁解を覆し犯意を立証するための供述が録取されていたはずである。

検察官は、なぜ、そのようなT聴取・供述調書作成を行わず、急いで不起訴処分を行ったのか、誠に不可解である。

  • 労基署関係の示談・告訴取消との関係

 Tは、460万円をKの会社に送金した件について、被疑者の了解を得て送金し報告しているにもかかわらず、大石後援会から、不正に出金した疑いをかけられ、一方的に自宅待機を命じられ、その後、解雇されたものであり、Tには、残業代等の未払賃金について、労基署に後援会の代表者の被疑者を告訴するために告訴状を提出していた。

 本年5月8日に、後援会の代理人D弁護士から、T代理人の郷原弁護士に、「T氏が主張される全額をお支払いいたしますので、支払いが必要な金額及び内訳をご教示ください。」との連絡があり、その後交渉を重ね、6月末に示談が成立し、被疑者に対するTの告訴もすべて取消を行った。Tは、後援会側がTに不正の疑いをかけ、未払分についても「一切払わない」と述べていたのに、その態度を翻して、請求額全額を支払うと言ってきたことに驚いていたが、その後、8月22日のK検事の聴取の際、労基署の件についても詳しく聞かれ、告訴取消について確認されたことから、大石後援会側の態度の変化と検察官が関係している可能性があるように感じていたところ、9月12日に、大石知事が不起訴処分となった。大石後援会のTとの示談に向けての動きは、検察庁の不起訴処分を意図したものだった可能性が高い。

  • 不起訴処分後の大石後援会側の対応

9月16日に、Tの自宅に大石賢吾後援会からの配達証明の郵便物が届いた。

大石後援会との関係は、すべて代理人の郷原弁護士に対応を委任しており、そのことは、郷原弁護士から後援会宛てに受任通知を送って通告しているのに、T本人に直接、後援会から配達証明で郵便物が届くことに不信を持ったTは郷原弁護士に連絡し、その指示により郵便物を受領し、開封せずに郷原弁護士の事務所に送付した。

その郵便物の内容は、後援会のM名義のT宛ての質問状で、Tの元に大石後援会の会計帳簿などが残っているとか、その件について、改めて対面で話を聞かせてほしいなどと書かれていた。受任通知を送っているのに、T本人宛に質問状を送付した理由を、郷原弁護士から後援会に問い質したところ、D弁護士が質問状を作成してT宛てに送付したとのことだった。郷原弁護士からは後援会に厳重に抗議をしたが、大石後援会は、従前の態度を翻して、Tに請求額全額を支払う申出を行って示談し、検察官が不起訴処分を行うや、その直後に、弁護士の受任通知を無視してT本人に質問状を送付するなど、不起訴を境にまた態度が急変しており、その背景に、大石後援会と検察官との間で不起訴処分に向けて何らかの協議が行われていた可能性が否定できない。

  • 小括

 以上のとおり、本件不起訴処分に至る経緯には、誠に不可解な点が多く、実体面で、嫌疑が十分であることに加え、手続面でも不起訴処分の不当性が窺われると言わざるを得ない。

3.本件政治資金規正法違反の悪質・重大性

被疑者は、一方では、同人の選挙運動費用報告書上、2000万円の自己資金が収入とされ、選挙運動費用の支出でその大半は、なくなっているのに、一方で、2000万円を、大石けんご後援会に対する貸付金として架空計上し、後援会の収支報告書に借入金を計上することで、提供した自己資金を回収しようとし、実際に、一部返済を受けていたものである。

後援会の代表自身が収支報告書に自己への借入金を虚偽記入することで、後援会の資金を私的に取り込む、という実質横領に近い行為である。最終的な管理者が被疑者自身であり、自身が管理する財布の中から自分が取り込んだことに関する虚偽記入の事案である。政治資金収支報告書の虚偽記入は、一般的には開示義務違反という、政治資金の公開の問題であるが、本件は、選挙運動費用収支報告書の収入欄に自己資金として記載され、選挙費用は全額候補者個人が拠出したように記載されているのに、貸付金返済の名目で、後援会からその自己資金回収を図ったという、経済的利得の実体を伴った政治資金規正法違反であり、政治資金収支報告書の虚偽記入罪としては極めて悪質・重大な事案である。

県知事の立場にありながら、かかる悪質な政治資金規正法違反を犯した被疑者については厳重処罰が必要である。

【補足】選挙コンサルタントら関係者の刑事責任について

 最後に本件の審査申立の対象とはなっていない関係者の刑事処分に言及しておきたい。

上記のとおり、本件は経済的利得の実体を伴った政治資金収支報告書虚偽記入罪という悪質・重大事案であり、虚偽記入の犯意を否認する被疑者の弁解は極めて不合理なものでありその弁解を覆して犯意を立証し得る証拠は十分と思料されるにもかかわらず、検察官は不可解な経緯で被疑者を嫌疑不十分で不起訴処分としただけでなく、本件政治資金規正法違反に関わった関係者についても、すべて不問に付している。これは全く理解しがたい刑事処分である。

 特に選挙コンサルタントについては、本件について別の告発人Kが行った審査申立の対象とされているので、本件審査と併せ、同人の刑事責任についても十分な検討が必要と思料するものである。

 被疑者の弁解によれば、選挙コンサルタントは、選挙後に、医師信用組合からの借入金の返済に窮していた被疑者に、「選挙の自己資金として提供した2000万円を後援会に貸付けたことにすれば、法令に何ら抵触することなく適法に返済を受けることができる。」との助言を行い、被疑者はそれを信じて、本件貸付金・借入金の計上を決意したというのである。選挙コンサルタントは、金銭消費貸借契約書を作成するなどして、その計上を実行したものであり、選挙コンサルタントとして公選法、政治資金規正法等について適切な助言をすべき立場にありながら、被疑者に違法行為を行わせた責任は極めて重い。被疑者の弁解どおり、選挙コンサルタントの言葉を信じたために虚偽記入の犯意がなかったとすれば、そのような被疑者に2000万円の借入金の架空計上を決意させた責任の大半は選挙コンサルタントにあることになる。それにもかかわらず、その選挙コンサルタントをも不起訴にする検察官の判断は理解し難い。

 しかも、選挙コンサルタントは長崎県議会における本件の審議において再三にわたって参考人として出頭を求められながらこれをすべて拒絶している。

 検察審査会におかれては、被疑者に加え、選挙コンサルタントについても厳正な刑事処分が行われるよう、適切な議決を行って頂きたい。

 

証拠目録(=添付書類 各1部)

資料1 会見録

資料2 陳述書

資料3 預金通帳

資料4 LINEデータ

資料5 録音記録

以上
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斎藤元彦氏公選法違反事件、代理人説明の不合理性と71万5000円支払いの買収罪該当性

【斎藤元彦氏公選法違反事件、折田氏note記事の内容と裏付け証拠を徹底分析する】で詳細に解説したように、折田氏のnote記事は、極めて信用性が高く、その内容によれば、折田氏やmerchu社が、兵庫県知事選挙で、斎藤氏のためのSNS広報戦略を主体的裁量的に実行していたことは明らかです。

このようなnote記事が2024年11月20日に公開され、その後、公選法違反の疑いが各所で指摘されたことから、11月27日の斎藤氏による兵庫県知事定例会見において、本件note記事に関する質問がなされました。

しかし斎藤氏は、

「公職選挙法には抵触しないと認識している。弁護士に説明させる」

と述べ、同会見終了後に、被告発人斎藤の代理人の奥見司弁護士による会見がおこなわれました。

その後も、警察の捜査等について報じられた際に、公選法違反について質問があっても、

「代理人弁護士に任せています。公職選挙法に抵触するようなことをしていないという認識でいます」

と繰り返し述べ、具体的な回答を拒絶しています。

一方、県議会では、2024年12月11日の総務常任委員会で、山本敏信委員が

本年11月末に、ひょうご仕事と生活のバランス企業表彰があった。これは、全議員がメールで報告をいただき、一覧表ももらっている。今回は15社が表彰された。その資料の一覧の中に、現在、知事選挙で問題になっているPR会社のmerchuも含まれている。知事は、弁護士を通して公職選挙法違反ではないということを明言されており、知事は何も発言していないことも不思議な状況である。このmerchuの代表者が表彰式には出られていない。公職選挙法の問題が生じた後に表彰を持って行かれたのか、merchuの方が辞退されたのか、状況を伺う

と質問しましたが、その場では具体的な回答は行われず、その後の県議会の質問で、斎藤知事の公選法違反の問題への言及はあっても、斎藤知事に対して公選法違反自体についての質問は行われていません。

世の中では大きな関心を集め、警察の強制捜査等も行われている事件について、斎藤知事も買収側の当事者として告発されているのですから、通常は、斎藤知事に対して県議会でもその疑惑について質問が行われ、それに対して斉藤知事が何がしかの答弁を行うか、捜査中であることを理由に答弁を差し控えるか、ということになるのが通常だと思いますが、兵庫県議会では、知事に対する質問すら行われていません。

それだけに、この斎藤知事とmerchu社、折田氏との公選法違反の問題については、斎藤氏の代理人奥見弁護士の説明がすべてと言うことになるわけです。

本稿では奥見弁護士の説明に合理性があるのか、信用性があるいのかという点について徹底検証します。

斎藤知事の説明責任と政治責任

まず、前提として重要なことは、斎藤氏は兵庫県知事として強大な権力を持つ地方自治体の首長であり、その権力の座に選ばれた知事選挙において、自らの公選法違反の疑いが生じているわけですから、斎藤氏には県民に対して説明責任があるということです。それは、merchu社への71万5000円の支払いが公選法の買収罪に当たるかどうかという刑事責任の問題だけにはとどまりません。政治的にも重大な説明責任があるということです。

同社はSNS運用や広報戦略を専門とし、兵庫県を含む、自治体における行政関連業務を得意とし、兵庫県との関係性は強いものがありました。

例えば選挙前、merchu社は斎藤県政下の兵庫県から「ひょうご・こうべ女性活躍推進企業」や「ひょうご仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)推進企業」として表彰を受けていました。また、正社員わずか数名の小規模企業ながら、県の公報誌などで折田氏の活躍が度々紹介され、県HPトップページで「優良企業」としてPRされていました(2024年11月下旬に削除)。

さらには、折田氏個人も、「兵庫県地域創生戦略会議」の委員、「兵庫県eスポーツ推進検討会」の構成員、「次世代空モビリティひょうご会議」の有識者(構成員)に任命されており、県の政策立案に関与していました。

そのうえ、広島県、高知県、広島市、藤沢市、神戸市など、複数自治体のSNS運用やイベントプロモーションでmerchu社が業務を受注しており、兵庫県とは直接の契約関係はないものの、県が運営する地域情報アプリ『ひょうごe-県民アプリ』のリニューアルについて、再委託という形で関与しています。

このように県知事の職務上、公務で一定の関係性があり、また、業務上(特に将来的に)関係がないとはいえないmerchu社に、斎藤氏が知事選挙での選挙関連業務を発注すること、自ら社長の折田氏を訪ねた上、選挙の応援を受けること、それは、仮に無償のボランティアであったとすれば、なおさら重大な問題があると言えます。その点に関して、斎藤氏には、刑事責任とは別個に、知事としての説明責任、政治責任があります。

斉藤知事から、このような重大な説明責任をすべて丸投げされたのが奥見弁護士ということになるわけですから、その説明の合理性、信用性が厳しく問われることになるのは当然です。

斎藤氏代理人弁護士による「請求書」公表と事実経過の説明

会見で奥見弁護士は、斎藤氏側からmerchu社に支払ったのは、以下の5項目であることを明らかにし、請求書を公表しました。

●公約のスライド制作 30万円

●チラシのデザイン制作 15万円

●メインビジュアルの企画・制作 10万円

●ポスターデザイン制作 5万円

●選挙公報デザイン制作 5万円

会見で奥見弁護士は以下のような事実経過の説明を行っています。

(1)斎藤氏は、本年9月末頃、支援者から、社長夫妻(折田氏夫妻)に会ってみるよう勧められた。その支援者から、「ボランティアで協力してくれる方を探している中で、社長夫妻が賛同して手を挙げてくださった」との説明を受けている。なお、社長が以前から兵庫県の委員を務めている関係で、以前から斎藤氏と社長との間に面識はあった。

(2)斎藤氏が、PR会社(merchu社)を訪れたのは、2024年9月29日で、滞在時間は17時30分から約1時間。訪問前に、斎藤氏からPR会社に事前準備について依頼したことはない。この席で社長から、斎藤氏が選挙に出るとした場合に協力しうることの説明を受けている。説明の中には、後に、実際に依頼することになったポスターデザインの制作、チラシデザインの制作、などのほか、SNSの利用についての話もあった。29日の話し合いは、斎藤氏がPR会社を訪問し、説明を聞いただけで終了している。

(3)翌日以降、PR会社から、いくつかのプランと、その見積もりが出されたと聞き及んでいる。現時点で私の手元にはないが、見積書には、今回実際注文するに至ったポスターデザイン制作などのほかに、YouTube用動画撮影などの項目があったとのこと。しかし、noteに記載されているような、広報全般をPR会社に依頼するとか、SNS戦略の策定などの項目はなく、いずれも制作物の提案であった。

(4)PR会社からの提案に対して斎藤氏サイドが依頼したのが、請求書記載の5項目。なぜこの5項目に絞ったかについては、「斎藤氏は、県民の皆様に伝えたかったことを発表する方法としての公約スライドの制作、選挙に最低限必要と考えられた選挙ポスター、チラシ、選挙公報の依頼に絞って依頼することにした」とのこと。当時は、政治活動、選挙運動を行う資金の目途も立っていない状況であったこともその理由であったことも聞いている。

(5)社長がnoteで記載されているようなSNS戦略を依頼したということや、広報全般を任せた、ということは事実ではない。

(6)個別に依頼したので、契約書は作成していない。注文は10月3日から10月9日ころにかけて、個別で依頼している。個別というのは、「チラシデザインの制作をお願いします」「わかりました」というような関係。

(7)PR会社側からの請求は、発行日が10月31日のものであり、1通のみ。内容を確認後、本件支払をしたのが11月4日。

(8)社長ご夫妻は、斎藤氏がPR会社を訪れた日以降、斎藤氏の考えに賛同し、斎藤氏の応援活動をしている。社長の活動としてこれまで確認できているのは、

・公式応援アカウントの取得

・公式応援アカウントの記載事項のチェック

・街頭演説会場などにおける動画の撮影、アップロード

など。

これらは、社長、社長の夫、斎藤氏の同級生、そのほか選挙スタッフといえるメンバーと話し合って行われている。社長はSNSのことに詳しい方なので、他のスタッフからの質問に答えたり、社長から助言などがあったことも確認している。

(9)これらはいずれもPR会社としての活動ではなく、選挙のボランティアの一員としてなされたものであり、かつ、社長が主体的裁量的に行ったというものでもない。社長個人とは何の契約もない、報酬支払の事実も、その約束もない。

つまり、斎藤氏側の説明は、斎藤氏が「merchuオフィス」を訪問し、その際に、ポスターデザイン、チラシデザインの制作、SNSの利用について「説明」を受けたが、SNS広報戦略策定についての「提案」は受けていない、その後、同社から送付された見積書の中の上記デザイン制作業務だけを依頼し、広報戦略、SNS戦略などは同社には依頼していない、さらにその後のSNS運用などは、折田氏が個人としてボランティアで行ったものであり、しかも斎藤氏側の陣営が主体的に行ったもので、折田氏が主体的に行ったものではない、というものです。

note記事の内容についての言及

そして、折田氏が投稿したnote記事について、奥見弁護士は、

「投稿には事実でない部分が記載されており、盛っていると認識している」

と述べ、具体的には、以下の点が事実と異なるとしています。

  • ◎請求書の5項目以外のものはPR会社が行った事実はない。社長個人が行った。
  • ◎プロフィール撮影は社長個人が行った。
  • ◎アカウントの立ち上げも行われているが、あくまで個人。セキュリティや公式アカウントとしての信頼感の担保も個人で行ったもの。契約内容には入っていない。
  • ◎ハッシュタグは10月に数人で決めた。
  • ◎SNS運用は社長もかかわっていたと思うが、選挙スタッフと一緒あるいはスタッフのみのこともあった。
  • ◎広報全般を任せた事実はない。

選挙運動費用収支報告書の記載

斎藤氏側は、上記のような主張にもとづき、12月2日に、兵庫県選挙管理委員会に提出した選挙運動費用収支報告書において、関連する記載を行っています。

具体的には、2024年11月4日に斎藤側からmerchu社に支払われた71万5000円のうち、「メインビジュアル企画制作 11万円」「チラシデザイン制作16万5000円」「ボスターデザイン制作5万5000円」「選挙広報デザイン 5万5000円」については、「支出の部」に、「選挙運動」の「区分」で、「さいとう元彦後援会」宛ての支払として記載されています。

一方、「公約スライド制作 30万円(税別)」については、同収支報告書に記載されていません。

この点につき、奥見弁護士はメディアの取材に対し

「公約のスライド制作は政治活動にあたり、選挙運動には含まれないため除いた。問題はないと考えている」

と説明しています。

奥見弁護士の説明は不合理、信用性なし

奥見弁護士の説明は、公選法違反ではないとする斎藤氏の見解にできるだけ沿う主張を一方的に述べ、それに反するnote記事の内容を、事実と異なると主張するだけで、その根拠は何も示していません。証拠として提示しているのは、事後的な請求書のみで、契約書や見積書など、契約時の当事者の意思表示の内容を客観的に示す証拠は何も提示されていません。

【前記ブログ】で述べたように、折田氏のnote記事については、周囲の言動など、note記事と整合し、奥見弁護士の説明に反する客観的な証拠が見られることと比較しても、斎藤氏側の主張の信用性は低いと言わざるを得ません。

斎藤氏側は、斎藤氏が9月29日に「merchuオフィス」を訪問し、その際に、ポスターデザイン、チラシデザインの制作、SNSの利用について「説明」を受けたが、SNS広報戦略についての「提案」は受けておらず、その後、同社から送付された見積書の中の5項目のデザイン制作業務だけを依頼し、広報戦略、SNS戦略などは同社には依頼していないと主張しています。

しかし、以下の点を考えればその説明の信用性はほとんどないと言えます。

9月29日の「merchuオフィス」での打ち合わせでは、安野氏の都知事選の選挙総括noteも使いながら、「広報戦略のご提案」の提案を斎藤氏本人に向けて行っていたことが、客観的なnote記事掲載写真からも明らかです。したがって、当日の話題の中心が個々のポスター、チラシなどの制作の話ではなく、確固たる「SNS運用方針」と、その方針が「SNS運用フェーズ」に従い投開票日まで貫かれること、などの広報戦略の説明にあったことも明らかで、個々の制作の話は、そうした戦略の下で一新され、統一されたコピー・メインビジュアル等をいかに制作物に落とし込むか、という、広報戦略に附随する話に過ぎず、制作だけ切り離せる話ではないことになります。

そうであれば、9月29日の打ち合わせを受けて、後日、個々のデザイン制作だけを個別に依頼したとの斎藤氏側の説明は、不自然、不合理です。また、斎藤氏側は、斎藤氏側の説明に符号する、個別の見積書すら示すことができていません

しかも、前に述べたように、K氏と神戸市議とのLINEのやりとりなどから、10月5日に、斎藤陣営で「選対会議」が開催され、merchu社に対し「SNS監修」を依頼することが決定したことは明らかです。

5項目のデザイン制作業務だけを依頼し、広報戦略、SNS戦略などは同社には依頼していないとの斎藤氏側の主張は、客観的にみておよそ根拠のない主張であり、認められないものと考えます。

「SNS運用はボランティア」との主張の不合理性

斎藤氏側は、9月29日の打ち合わせにおいてSNSの利用についての話し、すなわち「SNS運用についての提案」があったことは認めていますが、それは、merchu社に依頼した業務には含まれず、実際に折田氏が行ったSNSアカウントの立ち上げ、ハッシュタグの決定、記載事項のチェック、動画のアップロードなどのSNS運用は「個人としてのボランティア」だったと説明しています。しかも、折田氏が主体的・裁量的に行っていたものではなく、斎藤氏や斎藤陣営が主体的に運用していたとも主張していますが、以下の(a)~(d)で述べる理由により、そのような斉藤氏側の主張の不合理性は明らかです。

(a)「公式応援アカウント」の設置と「本人アカウント」との連携という発想

「応援アカウント」の設置や運用は、明らかに一連の広報戦略の下で、折田氏の発想で設置され、折田氏の考え方にもとづき運用されており、merchu社に依頼した業務には含まれないとか、斎藤氏や斎藤陣営が主体的に運用していたなどという主張に根拠はありません。

例えば、そのことは、公式の「応援アカウント」の設置、運用に如実に現れています。

通常、選挙における「応援アカウント」は勝手連的なものであり、候補者側が主体的に管理するものではない、と考えられます。実際、斎藤氏側も、2021年の前回選挙では、「応援アカウント」こそ存在するものの、公式を打ち出しているわけでもなく、「本人アカウント」との連携も行われていないように見えます。

しかし今回は、「公式」の「応援アカウント」が設置されており、その投稿内容も、「本人アカウント」との連携、連動を強く意識したものとなっています。このようなアカウントの設置や、本人アカウントとの連動などのアイデアが折田氏のものであることは、令和6年に受注した「高知県SNS公式アカウント分析等委託業務」の企画提案書で同様の「アカウント相互連携」「相乗効果」を謳っていることからも明らかであり、note記事記載の通り、折田氏の提案した「戦略」だと考えられます。

(b)「公式応援アカウント」と「本人アカウント」との相乗効果ということの意味

「応援アカウント」を候補者側が公式に設置する、ということは、「応援アカウント」が単に斎藤氏の動向・予定を告知する目的だけで設置されていたのではないことを意味します。それだけが目的なら、公式本人アカウントから淡々と情報発信すればよいためです。

より重要なのは、「本人アカウント」と「応援アカウント」を通じて発信した情報がどのように拡散し、受容されたかを分析し、次の広報戦略のアップデートに活用することです。それが「相乗効果」の意味であり、merchu社および折田氏の広報戦略なのです。

実際折田氏は、設置した「応援アカウント」の管理権限のみならず、「本人アカウント」の管理権限も有していたことが、前記の通り、折田氏note記事に掲載されている画像から推認されます。管理権限者としてXのAnalytics情報(投稿やアカウントのパフォーマンスを分析するための情報)を参照し、投稿活動を分析・可視化して、広報戦略を日々見直し、次の投稿内容の精査を行っていたものと思われ、それは業務として広報戦略を行っているプロの仕事であり、実際にnote記事記載の通りに十分な成果を上げているのであって、そのようなことを斎藤氏や斎藤陣営が成功裡に行えるとは思えません。

(c)統一的なハッシュタグによる運用

また、「ハッシュタグ」は選挙前から「#さいとう元知事がんばれ」に統一され、投開票日までその通りに運用され、当選とともに「#さいとう元彦知事がんばれ」に変化するというストーリー性まで持たせています。

「ハッシュタグ」は、note記事記載の通り、応援の流れに方向性を提供し、アルゴリズムを有利にし、また、投稿の追跡、分析も容易にするため、一本化することが非常に重要です。また、斎藤氏の「斎」の字は様々な字体がありますが、表記のゆれは投票の有効無効にも直結する極めて重大な問題です。

この「ハッシュタグ」に関しての折田氏のnote記事の記載は、その考え方、設計方法など、熟考した様が極めて具体的に書かれ、しかも当初の記事には、斎藤氏に提案した際の斎藤氏のリアクションまで書かれていて、その内容からは、折田氏が「#さいとう元知事がんばれ」との「ハッシュタグ」を考え、これへの統一を提案したものと考えるのが自然です。

しかも実際、2021年の前回選挙を含め、それまではバラバラであった「ハッシュタグ」が、10月5日に、斎藤陣営で「選対会議」が開催され、merchu社に対し「SNS監修」を依頼することが決定した直後から、「#さいとう元知事がんばれ」に変わっています。

例えば斎藤陣営の森けんと氏は、10月4日までは「#斉藤元彦がんばれ」と投稿していますが、10月5日には、

「本日も選対会議です #さいとう元知事がんばれ 皆様、このタグを覚えてて下さい」

と投稿しているのです。

こうしたことから、広報戦略上重要である「ハッシュタグ」について、折田氏が自ら考え、提案したといえ、統一的な「ハッシュタグ」による運用について、斎藤氏や斎藤陣営が主体であり、主導したとは到底いえないものと思われます。

(d)その他の運用

その他、「応援アカウント」のフォローを「本人アカウント」のみとし、偽アカウントを排除する仕組みは、素人では思いが至らない点ですが、note記事記載の通り、投開票日まで「本人アカウント」のみのフォローとなっています。

また、「応援アカウント」や「本人アカウント」に次々と投稿される、視認性の高いデザイン、綺麗なビジュアルによる演説会等の告知画像などは、必要に応じて即時に作成する必要のあるものですが、活字のバランスや配置、配色等々、全体のスタイルが統一されているものとなっており、プロの関与が強く推認される制作物です。

こうしたことからも、note記事記載の通り、折田氏が「ブランドイメージの統一」、「政策を分かりやすいビジュアルや表現で県民に届けること」や、「各SNSに適したレイアウトや内容に最適化して届けること」などの戦略の下で、折田氏が「監修者として」「責任を持って」SNS運用していたと考えるより他ありません。

結局、これらの点を総合的に考えれば、SNS運用をmerchu社および折田氏が一貫した広報戦略の下で投開票日まで行っていたことは明らかであり、折田氏がSNS運用は折田氏が主体的・裁量的に行っていないとの斎藤氏側の主張には、合理的根拠がないといえます。

斎藤氏側の主張を前提としても、公選法違反を否定できないこと

「5項目のデザイン制作業務だけを依頼した」との斎藤氏側の主張には根拠がなく、事実とは考えにくいのですが、仮に、5項目のデザイン制作業務だけを依頼したとしても、斎藤氏側の主張には不合理な点があります。

前記の通り、対価の支払いが原則として許されない「選挙運動」かどうかは、主として個々の行為が「主体的・裁量的」かどうかによって決まるのであり、それが選挙運動の「内部的準備行為」に過ぎないものかどうかや、「告示前」の行為かどうかとは無関係です。ところが、斎藤氏側は、告示前の選挙の準備である制作業務だけを切り離し、それに対して対価を支払っているのだから違法ではない、と考えているように思われます。

実際に、それぞれの制作業務の具体的な内容を見ていくと、「機械的労務」とはいえず、「主体的・裁量的」な部分があり、「選挙運動」と評価されるため、そうした制作業務に対する報酬の支払いは違法と考えられます。

「公約スライド制作」 

まずは「公約スライド制作」を「政治活動」としている点です。

斎藤氏は、10月23日に、知事選への出馬表明を行い、その際に、その記者会見で公約スライドを配布し、その後、自らの公式ホームページに、選挙期間中も掲載しています。この「知事選候補としての政策」のスライド化を折田に依頼し、note記事によれば、その内容については、斎藤氏側がワードファイルで提供したとされています。

これに対し奥見弁護士は、

「スライドは告示前の記者会見で使ったため、選挙運動ではなく、政治活動の費用として後援会が支払った」

「公約の中身ではなく、あくまでデザインの委託費だ」

と述べ、

「公選法に違反する支払いはない」

と説明したとされています。

しかし、斎藤氏は、9月19日に不信任決議案が可決されて失職した前知事であり、スライド制作を折田氏に依頼したとされる10月上旬の時点では、無所属で立候補する意思を表明していたものの、選挙では圧倒的に不利とされ、当時、当選の可能性は極めて低いと考えられていました。

公約スライドは、斎藤の公式ホームページに掲載され、斎藤が知事選挙で当選して再度知事の職に就いた後も、斎藤の政治活動にも継続して使われていることは事実ですが、少なくとも、上記10月上旬の時点では、知事選に当選しなければ、斎藤氏が公約スライドを政治活動に使用する余地はほとんどありませんでした。だからこそ、選挙運動に使用するために、少しでも効果的な公約のスライド化を、PR会社社長の折田氏というプロに頼み、30万円という費用を支出したものと考えられるのです。

このような依頼時の状況からして、斎藤氏が、ただ政治活動のためにスライドを作成しようと思ったのではなく、知事選挙で当選する目的をもって、「政策スライド作成の依頼」を行ったものと考えられます。

「スライドデザイン」の構成における有権者への訴求力の追求

スライド制作の依頼を受けた折田氏は、note記事において、

「ワードファイルの内容を読み解き、どのような方でも見やすいデザインを意識したスライドに仕上げるため、記者会見の直前まで手直しをし、何とか間に合わせた」

と述べています。そして、そのような目的に沿うよう、公約スライド全体が構造化されており、細部に至るまで様々な工夫が加えられています。

例えば1枚目(表紙)では、「兵庫の躍動を止めない!」という最重要メッセージを提示し、すべての公約内容を一文でまとめています。公約内容というよりは、政治宣伝文となっていて、最低限これだけが伝わればもう十分だという内容が簡潔に記されています。

一般的に、公約スライドを手に取って詳細に目を通す者は少ないため、この表紙が一番重要であり、これだけで万単位の人々に宣伝文が到達するものでなければなりません。表紙も、末尾の写真入りスライドも、テレビ番組の制作会社が絵を使いやすいように作られています。

また、スライド3枚目(2頁目)は、「実績」の記述です。少なくともmerchu社としてはSNS戦略上、ネット上で拡散している「98.8%」という数字の訴求力は魅力であり、強調したいところです。そして単に98.8%というだけでなく、「既得権益」「しがらみ」を頭に置いています。98.8%という数字(赤字、特大サイズの文字)。それに円グラフ(さいとうブルー)で一目見て把握できるようにする工夫しており、前半は「98.8%」、それに「127億円を超え」という2か所だけ(文字サイズも特大)、しかも、今回の赤は暗めの臙脂色。目がチカチカしない。それでいて一番重要な数字は目に飛び込んでくるようになっています。

以降のスライドにも、

  • 選挙戦を通じて一貫して用いられた「さいとうブルー」によるスライドの着色
  • 特に若年層に届きやすい未来志向の政策の掲示
  • 文字だらけにならないようイラストを交えたわかりやすいスライド構成
  • 「既得権益」「しがらみ」「兵庫の躍動を止めない!」などの重要なキーワードの反復
  • 写真を使い、極力文字を省き、「兵庫の躍動を止めない!」の文字を浮かび上がらせるとともに、それぞれの文字サイズを大きくし、文字位置をずらすことで文字通り「踊る」ような印象を与えるデザイン

等々、様々な創意工夫が見受けられます。

「ワードファイル」からこのようなスライドを制作する作業は、到底「機械的労務」とは言い難く、折田氏の主体的・裁量的な作業であったことは明らかです。

「公約達成率98.8%」が選挙運動で強調されるに至った経緯

上記のスライド全体の構成のうち、重要な事項のひとつが「公約達成率98.8%」です。

斎藤氏は、2024年8月1日に知事就任から3年を迎えるに際し、前回知事選挙での173項目の公約のうち171項目を達成か着手しており、着手・達成率は「98.8%」だと誇っていたのですが、実は、そもそも公約数自体が173ではなく、137しかなかったことを(何かの過程で137を173に取り違えたと思われる)、日本ファクトチェックセンター(JFC)や子守康範元毎日放送アナウンサーのYouTubeチャンネル等で指摘され、その点を効果的に攻撃されると命取りになってしまいかねないと考えたのか、公式ホームページから、前回公約を削除しています。

このような状況下で、斎藤氏が「公約達成率98.8%」を自ら主体的に選挙のアピール材料に使おうとしたとは思われず、実際に、10月20日に行われた「公開討論会」でも、斎藤は、「公約達成率98.8%」を自分からは持ち出していません。

一方で、ネット上では98.8%という数字が独り歩きし、驚異的に拡散していました(2024年9月21日、Xの「ツイッター速報」で「【悲報】兵庫県斎藤知事の公約実現率、脅威の98.8%」という言説が拡散し、9月25日の時点で、996万回以上の閲覧回数と6100件以上のリポストを獲得しています。)。

そして、10月20日に行われた「公開討論会」の3日後に完成した公約スライドでは、98.8%を公約の筆頭に掲げ前面に打ち出しているのです。

このような斎藤氏の態度の変遷は、SNS上での98.8%という数字の影響力に鑑み、SNS戦略を専門とする折田氏の発案で、この数字を強調しようとしたものである可能性が高く、少なくとも、斎藤氏が主体的に判断したものとは考えにくいものです。

以上のことから、スライド制作は「公約の中身ではなく、あくまでデザインの委託費」との説明に合理性はなく、実態としては、その「デザインの委託」というのは、斎藤氏が提供した公約内容のワードファイルを基に、公約スライドを作成することを折田氏に全面的に委ねたものであり、折田氏は、その構成、文字の大きさ、色使いなどにより有権者への訴求力を高めるために、様々な創意工夫を行い、また、98.8%という数字を目立たせるなどして公約スライドを完成させたのであり、同スライド制作に斎藤を当選させるための活動としての主体性・裁量性があったといえ、「選挙運動」であったといえます。

「メインビジュアルの企画・制作」

メインビジュアルとは、「ファーストビュー(最初に表示される画面領域)に含まれる大きな画像」です。

一般的には、こうした画像の撮影、制作については、候補者本人のこだわりや意向もあり、候補者の指示、もしくは候補者主導の下で協議して作成している分には「機械的労務」といえます。

しかしながら、本件では、note記事によれば、折田氏側が「コピー・メインビジュアルの一新」を提案し、実際、9月29日の折田氏側の提案資料通りのコピー・メインビジュアルの一新が行われ、斎藤氏は現在まで、その一新されたコピー、メインビジュアルを使い続けていることになります。

また、メインビジュアルを採用した理由について、折田氏は

「斎藤さんの持つ、真の強さと柔らかさをカラーで演出」

「グラフィックエレメントは須磨の海・斎藤さんご自身の人生をイメージした波線を採用」

「右斜め上に向かわせることで斎藤さんの率いる改革が進み、兵庫が躍動していく様子を表している」

などと述べており、折田氏側が考え抜いて提案しているメインビジュアルであることは明らかです。

さらに、こうしてできあがったメインビジュアルについて、折田氏は「デザインガイドブック」を作成して、全ての制作物を、それに準拠する形で制作し、選挙カーや看板を制作する業者にも配布し、折田氏により統一を図ったとの趣旨の記述もあります。

note記事を前提とすれば、折田氏の「メインビジュアルの企画・制作」業務は、「主体的・裁量的」であることは明らかであり、「選挙運動」となるため、報酬の支払いは認められないことになります。

「チラシデザイン制作」「ポスターデザイン制作」

選挙運動費用収支報告書では、「チラシデザイン制作」に16万5000円、「ポスターデザイン制作」に5万5000円の支出が計上され(支出先は「さいとう元彦後援会」)、「チラシ作成費」「ポスター作成費」については、いずれも、公費負担で「セイコープロセス株式会社」に、98万5500円、150万2550円が支払われています。

しかし、セイコープロセス株式会社同社のHPには、「チラシのデザインについて」と題して、以下の記載があります(https://www.seikoprocess.co.jp/printing/flyer/)。

《掲載したい内容がリストアップできたら、何を一番知らせたいか、の順番を決めてください。その上で、イメージしているものに近い資料や色柄、雰囲気などお伝えいただければ、弊社デザイナーが効果的なデザインに仕上げさせていただきます。》

つまり、同社にはデザイナーがいて、「弊社デザイナーが効果的なデザインに仕上げる」というのですから、斎藤氏側はポスター・選挙ビラの「デザイン」を同社に委ねることもできたはずなのです。しかも、その費用を一括して選管に請求し公費負担とすることも可能だったはずです。上記のとおりメインビジュアルが既に出来上がっており、実際に、ポスターと選挙ビラは、そのメインビジュアル画像を全面的に使用しているのであり、セイコープロセスにメインビジュアル画像を送って、あとは、同社に任せることが可能だったということになります。

note記事に書かれているように、

「紙媒体も既存の型にははめず、斎藤さんのことを分かりやすく様々な年代の県民の皆さまに届けるためにはどうしたら良いのか、仕様やサイズの異なるそれぞれの媒体でのベストをデザインチームと日夜追求した」

のであれば、セイコープロセス社に「機械的労務としてのデザイン」を含めて公費で頼むことが可能であったのに、敢えてそれを行わず、印刷だけを発注し、「ポスター」「選挙ビラ」のデザインを、別途merche社に依頼し、有権者に届ける効果的なデザインを追求したということになります。

この場合は、これらのデザインを「当選を得させる目的」をもって主体的・裁量的に行った可能性が極めて高いことになります。

斎藤氏自身の「説明」「供述」は

これまで述べきたとおり、斎藤氏の代理人奥見弁護士の説明は、公選法違反ではないとする斎藤氏の見解にできるだけ沿う主張を一方的に述べ、それに反するnote記事の内容を、事実と異なると主張するだけで、全く不合理極まりないものです。

このような代理人説明だけで、定例記者会見で質問されても、「代理人に任せている」と言って一切の説明を拒絶している斎藤氏が、被告発人として警察、検察の取調べを受けた際に、どのような供述をしているかが重要となります。

この点について、誠に不可解なのが、今年6月28日放映のTBS報道特集【問われるSNSを使った選挙運動 公職選挙法違反の分かれ目は? 斎藤氏側の説明に矛盾も…】でのTBSの取材に応じた奥見弁護士が、「知事からは全く事情を聴いていない」ことを認めていることです。

前記のとおり、昨年9月29日に、斎藤氏らがメルチュ社を訪問した際の「SNS戦略のご提案」と読める画面がスクリーンに出されているだけでなく、安野氏の都知事選の選挙総括noteも使いながら、「広報戦略のご提案」の提案が斎藤氏本人に向けて行っていたことが、客観的なnote記事掲載写真からも明らかなのですから、奥見弁護士が斎藤氏に代わって説明するのであれば、この点を含め、斎藤氏に詳しく事情を聴いた上で記者会見での説明を行うのが当然のはずです。

それらの点について斎藤氏自身は警察や検察でどのような供述を行ったのか、その点が、兵庫県知事斎藤元彦氏をめぐる公選法違反の問題の最大の焦点ということになります。

おわりに

これまで、【斎藤元彦氏公選法違反事件、「追加告発」を含め、改めて解説する】において、これまでの経緯と全体総括を行った上、【斎藤元彦氏公選法違反事件、折田氏note記事の内容と裏付け証拠を徹底分析する】で、本件の発端となった折田氏のnote記事について分析、そして、本稿で、斎藤氏側の説明・弁解を徹底分析しました。

私が7月から体調を崩し、入院中だったにもかかわらず、現時点で、今回の公選法違反の告発事件についてこのような詳細な分析記事を完成させることができたのは、冒頭の記事でも紹介したように、私の事務所の法務コンプライアンス調査室長の佐藤督が、本件に関する資料情報の取りまとめ、判例文献の収集を行い、記事の原案作成も含めて、入院中の私の活動を全面的にサポートしてくれたことによるものです。

こうして私の発信に貢献してくれている佐藤のほか、2か月にわたって代表弁護士が不在の事務所を支えてきてくれた事務所所属の弁護士である私の妻と事務所スタッフ全員に、ここで改めて謝意を述べたいと思います。

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斎藤元彦氏公選法違反事件、折田氏note記事の内容と裏付け証拠を徹底分析する

斎藤知事、merchu社の公選法違反事件の発端となった折田氏note記事

今回の告発の発端となったのは、折田氏が11月20日に公開したnote記事です(現在公開されている記事は修正されていますので、公開当時の記事をもとに、適宜修正点について言及します。なお、修正箇所についてはまとめ記事が複数存在し、また、当時の記事も魚拓サイトなどで確認できます。)。

note記事では、斎藤氏の選挙戦において、merchu社に斎藤氏が訪問し、

「ご本人は私の提案を真剣に聞いてくださり、広報全般を任せていただくことになりました。」

と、依頼があったことを明かし、その詳細な手法まで記されていました。

人の供述として何に証拠価値があり、何が信用性があると評価されるかといえば、何と言っても、自分自身の意志で書いた文章です。その内容が本人の認識・記憶と違うとすれば何らかの原因によって記憶に誤りが生じたか、或いは記憶と異なることを誰かから強制されて書かされたか、いずれかです。そういう事情がない限り、自分自身で書いた文章というのは刑事事件の証拠としては極めて証拠価値が高いものと言えます。

一方で、警察官や検察官が作成する供述調書というのは、捜査機関側の意図を持って作成され、時として本人の言ってることと全く異なったことが供述調書に書かれ、何らかの心理的な圧迫を受けて署名してしまうということが、過去には枚挙にいとまがありません。

そういう意味で、今回の公選法違反事件の発端となった折田氏のnote記事の内容を詳細に分析するとともに、折田氏が別途行っている言動や、選挙期間中に関わりがあった関係者の人たちの言動などから、note記事の信用性、証拠価値を明らかにして行きたいと思います。

まず、前提として重要なことは、一般的な公選法の理解からすれば、選挙コンサルタントや選挙広報などについて、「業務として報酬を得て関わることは原則として許されない」ということです。

有償でも許されるのは、政治活動に関する業務か、機械的労務に限られます。選挙運動に対して主体的・裁量的に企画立案を行った場合、報酬を受ければ買収罪となり、ボランティアで行うよりほかありません。(※詳しくはこちらの記事【斎藤元彦氏ら告発事件に関する公職選挙法解釈の基本的事項】をご覧ください)

しかし、政治活動と選挙運動はそう簡単に切り離せるものではなく、ここまでが業務で、ここからがボランティア、などと単純に割り切れるものではありません。そのため、選挙コンサルタントや選挙広報などを行う業者は、いままで、対価を得るのであれば、政治活動の段階にとどめ、選挙運動には加わらないことにしたり、選挙運動にも関与するとしても、グレーな面があるため、ボランティアであることをできるだけ徹底し、表に出ない形で関与して黒子に徹することが鉄則であると理解されてきました。

しかし、このnote記事は、選挙に関与し候補者を当選に導いたことを公言し、その業務内容の詳細を自ら明かすという、通常ではあり得ない、かなり異例な形となっています。

以下、note記事の内容を見ていきます。

merchu社および折田氏が斎藤氏の選挙戦に関わるきっかけ

note記事では、merchu社および折田氏が斎藤氏の選挙戦に関わるきっかけについて、

「とある日、株式会社merchuのオフィスに現れたのは、斎藤元彦さん。

それが全ての始まりでした。

ご本人が何度も口にしている通り、政党や支持母体などの支援ゼロで本当にお一人から始められた今回の知事選では、新たな広報戦略の策定、中でも、SNSなどのデジタルツールの戦略的な活用が必須でした。

兵庫県庁での複数の会議に広報PRの有識者として出席しているため、元々斎藤さんとは面識がありましたが、まさか本当に弊社オフィスにお越しくださるとは思っていなかったので、とても嬉しかったです。」

と述べられていて、自身のSNS戦略が今回の選挙で重要であること、斎藤氏からの往訪がきっかけであること、などが記載されていましたが、上記の文はその後すべて削除されています。なお、9月29日に、merchu社に斎藤氏が訪れたことについては、当事者に争いはなく、間違いのない事実です。

さらに、斎藤氏が会社往訪の際、斎藤氏にプレゼンした状況の写真も、

merchuオフィスで「#さいとう元知事がんばれ」大作戦を提案中

という説明文とともに掲載され、その説明資料である、

兵庫県知事選挙に向けた広報戦略のご提案 #さいとう元知事がんばれ

との資料表紙の画像も掲載されています。

このプレゼン状況の写真では、上記の「広報戦略のご提案」の提案資料がメイン画面に映し出されているほか、折田氏側のノートパソコン画面に、SNSの活用によって下馬評より多くの得票に成功した都知事選候補・安野貴博氏の選挙総括noteも映っており、安野氏の選挙におけるSNS戦略も補助的にプレゼンに使われ、参考にされていたことも伺えます。

なお、後日、上記画像の説明文は、

オフィスで「#さいとう元知事がんばれ」を説明中

に変更されています。

SNSにおける広報戦略の方針

note記事では「SNS運用方針」と題したスライド画像が掲載されており、

SNSを活用して「斎藤知事を応援したい」「兵庫県をよくしたい」という想いをプラットフォーム化し、ムーブメントを起こす!!!

との方針の下、Xなどの「本人アカウント」と、公式の「応援アカウント」を「県民にメッセージを投げかけ、今回の選挙を自分ごと化、さらには応援してもらう」という狙いの下で連動させ、相乗効果を目指す旨が記載されています。

さらに、選挙戦を3つに分けた「SNS運用フェーズ」というスライドも投稿されており、そこには、

10月1日~13日 フェーズ1:種まき

 立ち上げ:運用体制の整備

10月14日~31日 フェーズ2:育成

 コンテンツ強化(質)

11月1日~17日 フェーズ3:収穫

 コンテンツ強化(量)

と記載されていて、11月17日の投開票日まで、上記のSNS運用方針にもとづき、戦略的にSNS運用を行っていくことを、折田氏側が提案したことが明示されています。

 さらに、こうしたスライドによる提案に対し、

ご本人は私の提案を真剣に聞いてくださり、広報全般を任せていただくことになりました。」

と述べています。

なお、後日、「SNS運用フェーズ」のスライド画像と、「ご本人は私の提案を真剣に聞いてくださり、広報全般を任せていただくことになりました。」との一文は削除されています。

選挙戦を通じたイメージ戦略

note記事では、「まず、プロフィール写真の撮り直しからスタート」したと記載されています。

「3年前の兵庫県知事選挙の時のイメージは、今の斎藤さんのイメージと異なるため、撮り直しのご提案をしました。大阪にプライベートスタジオをお持ちの信頼できるカメラマンさんと、友人に紹介してもらったヘアメイクさんに急遽ご依頼をしました。」

とし、

「全ての告知物に使われる重要な写真なので全員で念入りにチェック」

したとも記載されています。

さらに、折田氏側が「コピー・メインビジュアルの一新」を提案し、実際、9月29日の折田氏側の提案資料通りのコピー・メインビジュアルの一新が行われ、斎藤氏は現在まで、その一新されたコピー、メインビジュアルを使い続けています

なお、折田氏側は、このコピー・メインビジュアルの理由について、

「カラーは、兵庫県旗の色を意識した「兵庫ブルー」をベースとした斎藤さんオリジナルの「さいとうブルー」に一新しました。斎藤さんの持つ、芯の強さと柔らかさを、グラデーションカラーで演出しています。グラフィックエレメントは、ご本人の出身地である須磨の海をイメージした波を採用しました。右斜め上に向かわせることで、 今回の選挙戦を突破し、斎藤さんの率いる改革が進み、兵庫が躍動していく様子を表しています。また、斎藤さんご自身の「人生」をも表しているのです。」

などと詳細に説明もしています。

さらに、

「メインビジュアルの統一を徹底するため「デザインガイドブック」の作成も合わせて行いました。選挙カーや看板を制作してくださる業者に配布し、統一したデザインで素敵に仕上げていただきました。」

とも述べており、選挙運動全般について、このコピー・メインビジュアルで統一されるような仕組みを作ったことも明記されています。

SNSアカウントの立ち上げの戦略

X公式「応援アカウント」については、note記事で

「プロフィール撮影やコピー・メインビジュアルの作成が完了したタイミングで、【公式】さいとう元彦応援アカウントを立ち上げ、ご本人のSNSアカウントとは別に、応援したい人が集えるハブとして運用を開始しました。」

と述べています。なお、「応援アカウント」としての運用開始は2024年10月7日です。

そして「セキュリティ」について

「全てのアカウントで、認証アプリを活用した2段階認証の設定を徹底し、乗っ取りやアカウントバンなどへの対策を行いました。」

と記載しています。

さらに、「公式アカウントとしての信頼感の担保」の方法として、

X本人アカウントが、この公式応援アカウントをフォローし、フォロー数を1としたことで、本人公認の公式アカウントであることが明示され、ユーザーが偽アカウントなどと混乱しないような対策を施しました

と述べています。

そのうえで、折田氏側が運用面でこだわったのが「ハッシュタグ」だと記載しています。

「斎藤さんへの世の中の見方を変えていく上で重要だったのが、ハッシュタグ「#さいとう元知事がんばれ」です。

当時、様々なアカウントで多種多様なハッシュタグが使用されており、公式としてタグを一本化して発信することで、応援の流れに方向性を提供する必要があると考えました。また、タグが統一されてポスト数が増えていくことで、アルゴリズムにも有利に働くため、急速な支援の輪の広がりも期待できます。

「#さいとう元彦がんばれ」ではなく、あえて「知事」を入れることで、「さいとうさん=知事」という視覚的な印象づけを狙いました。さらに、「元彦」さんと「元知事」を掛け合わせて、「前知事がんばれ」ではなく「元知事がんばれ」としたのも、こだわったポイントです。ここは、ご本人も気に入っていました

ハッシュタグというシンプルで簡単に見えるワードでも、それをどのように拡散してもらいたいのか、表記揺れなどを最小限にできるか、入力しやすいかなど様々な視点を考慮して設計することが大切です。」

と述べ、ハッシュタグの統一が、拡散にとっていかに重要か、また、ハッシュタグの視覚的効果などを詳細に語り、こうした緻密な戦略について、とくに「元彦」さんと「元知事」を掛け合わせた点を、斎藤氏も気に入っていたことも明記していました。

こうした戦略があって、

「2024年10月7日のX公式応援アカウント公開の翌日には、約2万件の投稿に付与されトレンド入りしました」

と、自身の広報戦略の成果を誇っていました。

なお、後日「ここは、ご本人も気に入っていました!」の一文は削除されています。

既存の選挙媒体の戦略

note記事では、ポスター・チラシ・選挙公報・政策スライドといった、既存の選挙媒体についても、折田氏側が関与していたと記載されています。具体的には、

「今回、既存のやり方は通用しないと考えていたため、紙媒体も既存の型にははめず、斎藤さんのことを分かりやすく様々な年代の県民の皆さまに届けるためにはどうしたら良いのか、仕様やサイズの異なるそれぞれの媒体でのベストをデザインチームと日夜追求しました。斎藤さんの今回の選挙におけるブランドイメージを統一すべく、全ての制作物は先述のデザインガイドブックに準拠する形で制作しています。

中でも最も作成に時間を要したのが、こちらの公約スライドです。ご本人から上がってくる文字のみのワードファイルを読み解き、どのような方でも見やすいデザインを意識したスライドに仕上げるため、2024年10月23日に行われた記者発表のギリギリまで手直しをしていました。」

「当日の発表では、公約スライドをパネルとして印刷していただき、多くの媒体に掲載されました。選挙期間中には事務所の壁にも掲示されており、県民の方に斎藤さんの政策や想いを届けることができました。

ご本人から、「1番最初に政策発表記者会見ができて良かった」という言葉を頂き、大手では出せないスピード感や小回りの利いた対応が功を奏したのではないかと振り返ります。実際、全広報活動において、「先手」を意識しておりました。」

などと述べ、斎藤氏からは「文字のみのワードファイル」だけが提供されたこと、それを読み解きスライドにするのに「最も作成に時間を要した」こと、自身が考えた「コピー・メインビジュアル」との統一にこだわったこと、他の候補に先んじて公約のアピールができ斎藤氏からも喜んでもらえたこと、選挙期間中にも事務所の壁に掲示されていたことなど、苦労した様子が詳細に記載されています。

SNSの運用戦略

 SNSの運用については、

「斎藤陣営が公式として運用していたのは、以下のX本人アカウント、X公式応援アカウント、Instagram本人アカウント、YouTubeです。TiktokやLINEなど他にも様々なSNSがあるため、リソースが潤沢に準備できる陣営であれば、全方位的な運営ができたのかもしれません。ただ、今回は本当に限られたリソース(皆さま本業もお忙しい)での運営でしたので、戦略に基づき最適な媒体を取捨選択しました。私のキャパシティとしても期間中全神経を研ぎ澄ましながら管理・監修できるアカウント数はこの4つが限界でした。」

と記載されており、折田氏個人としての限界、および斎藤陣営のボランティアのリソースの少なさが原因で、媒体を絞らざるを得なかったことが述べられています。

また、SNSの運用における戦略については、

  • ブランドイメージの統一
  • ご本人のリアルな姿や人柄が伝わるコンテンツを届けること
  • 政策を分かりやすいビジュアルや表現で県民に届けること
  • 各SNSに適したレイアウトや内容に最適化して届けること
  • できる限り配信回数を増やして多くの情報を届けること

といったポイントが挙げられており、実際、「本人アカウント」や「応援アカウント」などで、そのような戦略に沿った投稿がなされていることも確認できます。

なお、ここで紹介されている「X本人アカウントの投稿」の画像では、下欄に「ポストのエンゲージメントを表示」と記載されています。これは当該アカウントに管理権限がある者がログインした場合にしか表示されない事項であり、折田氏がX斎藤氏本人名義アカウントにログインできる権限があったものと理解できます。

さらに折田氏は、

「私が監修者として、運用戦略立案、アカウントの立ち上げ、プロフィール作成、コンテンツ企画、文章フォーマット設計、情報選定、校正・推敲フローの確立、ファクトチェック体制の強化、プライバシーへの配慮などを責任を持って行い、信頼できる少数精鋭のチームで協力しながら運用していました。写真および動画の撮影については、現地で対応してくださっているスタッフの方々にお願いすることをベースに、私自身も現場に出て撮影やライブ配信を行うこともありました。」

と述べ、写真や動画撮影など、現場作業は手伝う程度であるにしても、すくなくとも「SNS全般」について、また立ち上げだけでなく、その後の「運用フェーズ」においても、責任ある立場で任されており、戦略を考え、運用について管理・監修等を行っていたことを明らかにしています。

そして最後に、

「今回の支援期間中にフォロワー数は以下の通り急増し、注目度の高さを日々感じていました。結果、X公式応援アカウントは、東京都知事選挙で盛り上がりを見せた【公式】石丸伸二 後援会のフォロワー数54,000を超えておりました。

2024年11月19日、斎藤さんが第54代兵庫県知事に就任されたと同時に「#さいとう元知事がんばれ」から「#さいとう元彦知事がんばれ」へとハッシュタグをアップデートすることで、この物語は無事に幕を下ろしました。」

と、当選までを「支援期間」とし、選挙を通じて、SNSで盛り上がったとされる都知事選の石丸氏を超えるフォロワーを獲得したことを成果として誇示しています。

折田氏自身の思い、苦労など

折田氏は、note記事で選挙戦を振り返って、「選挙は広報の総合格闘技」であり、「質・量・スピード全てが求められ、食べる暇も寝る暇もない程で」、「脳みそを常にフル回転し続けなければならない点が、最もハード」であり、「大きな試練」であったと振り返っています。にもかかわらず、「大手広告代理店がやっている」、「都内のPRコンサルタントが手掛けている」、「400人のSNS投稿スタッフがいた」などと「デマ」が拡散しており、

「驚きを隠せないと同時に、「私の働きは400人分に見えていたんや!」と少し誇らしくもなりました。そのような仕事を、東京の大手代理店ではなく、兵庫県にある会社が手掛けたということもアピールしておきたいです。」

と、今回のnote投稿の動機のひとつであろうエピソードを話しています。

そして最後に、

「今回の知事選は、兵庫県の未来だけでなく、今後の日本、そして政治や選挙のあり方にすら大きな影響を与える重要な選挙であったと考えており、約1か月半、全身全霊で向き合ってきました。」「特定の団体・個人やものを支援する意図もなく、株式会社merchuの社長として社会に貢献できるよう日々全力で走り続けたいと思っています。」

などと語っています。

note記事の法的評価と信用性評価

note記事の記述内容が事実であるとすれば、折田氏、および折田氏が社長を務めるmerchu社が、本件知事選挙に向けた広報戦略全般を斎藤氏に提案し、提案した戦略通りに、投開票日まで、組織的かつ継続的なインターネットでの選挙運動が行なわれたことが具体的に明らかにされているといえます。

また、note記事では、折田氏はmerchu社としての業務と、折田氏個人としての活動を切り分けてはおらず、むしろすべての広報戦略について、merchu社という、兵庫の小さな会社が担っていたことを誇ってすらいます。さらにnote記事に記載のある、投開票日までのすべての「SNS運用フェーズ」で一貫したSNS戦略の構築、運用を行っていることや、「広報全般」を任されてから、投開票日までを「支援期間」と称していること、「皆さま本業もお忙しい」ためにリソースが限られるなかで、折田氏自身は「食べる暇も寝る暇もない程」の忙しさのなか、約1か月半、全身全霊で知事選に向き合ってきたことなどについても、素直に読む限りは、折田氏が、merchu社の業務として広報戦略全般を請け負い、投開票日まで全力で業務に取り組んでいた、としか理解のしようがないものとなっています。

こうしたことから、note記事を前提とすると、総務省のガイドラインでも指摘されているように、本件は「業者が主体的・裁量的に選挙運動の企画立案を行って」いる事案そのものであり、さらにはその立案にもとづいた選挙運動自体も行っているのであって、「当該業者は選挙運動の主体」であるため、当該業者への報酬の支払は買収罪となるものと考えられます。

では、note記事の信用性についてどのように評価すべきでしょうか。

折田氏が代表を務めるmerchu社は社員数名の小さな会社ですが、令和6年度の実績を見ると、広島県の「SNS運用支援業務」が約1300万円、広島市の「SNS活用プロモーション業務」「広島ピースツーリズムフォトコンテスト等実施業務」「佐伯区のプロモーション推進委託業務」が約950万円、高知県が「高知県SNS公式アカウント分析等委託業務」で約250万円、徳島県が「SNSを主軸とした徳島県新時代情報発信業務委託」で約800万円など、自治体のSNS支援業務を多く受注して、ひとつの得意分野としていました。

そうだとすれば、merchu社および折田氏は、選挙に関わるのは初めてであり、公選法に対してあまりに無知であったため、結果としては大きなマイナスプロモーションとなってしまいましたが、今回の自治体選挙での“実績アピール”のための本件note記事は、兵庫県を含めた自治体のSNS支援業務について、次の仕事につなげようという意図があったことは明らかです。

そして、自治体との業務は信用が非常に大事になります。兵庫県の知事選での実績のPRに虚偽があるのであれば、兵庫県を含め、他の自治体との信頼関係は容易に毀損すると思われ、merchu社の業務状況を客観的に見る限り、折田氏が多少実績を誇張することはあり得ても、虚偽を述べる合理的理由はかなり乏しいと言わざるを得ません

また、折田氏は、これまで指摘したように、公選法違反の指摘等を受け、斎藤氏との直接のやりとりをうかがわせる文言など、多くの点をnote記事から削除、修正しているのですが、冒頭の一文、「今回広報全般を任せていただいていた立場として、まとめを残しておきたいと思います。」との文言は変えることはありませんでした。

斎藤氏の代理人の奥見弁護士らから「盛っている」などと指摘されてもなお、「広報全般を任せていただいていた」という点は削除、修正をしないのですから、折田氏はこの点に絶対の自信を持っているか、強いこだわりを持っている、と考えるのが通常です。

少なくとも折田氏は、「広報全般を任せていただいていた」と自負していて、虚偽を述べているつもりはないものと解されます。

note記事と整合する折田氏本人の発信

また、note記事と整合する折田氏の発信が、note記事の前から、折田氏のインスタグラムに見受けられます。

まず、選挙期間中である11月14日の投稿で、note記事と同様の記述として

「そんな中、広報PRのプロとしての私のご提案を聞きに来てくださったのが全ての始まりでした。」、

「わざわざオフィスまでお越しくださったのがとても嬉しかったです」、

「斎藤さんご本人の実績、政策、お約束などは、チラシ・選挙公報・公約スライドなど紙媒体さらには以下のデジタルツールで脳みそを毎日最大限にフル回転させながら分かりやすいデザインを心がけてお届けしています」

などの記載が見受けられ、広報のプロとして、この日も選挙に主体的・裁量的に関わり続けていることが示されています。

当時勢いは感じていたとは思いますが、いまだ優勢とは言い難く、まだ結果の判らない選挙に関して、自身の仕事に関係する関わりについて虚偽を述べる合理的理由は見出しがたく、これと整合するnote記事の記載は、事実である可能性が高いと思われます。

さらに、折田氏は選挙後、note記事投稿前の11月18日に、以下のような文章を含むインスタグラム投稿を行っています(なお、現在でも閲覧可能で、修正はされていません)。

約1ヶ月半の四六時中スマホを握りしめて対応し続けたこの日々が終わってしまうのは、寂しく思いましたが、その他もやることがたくさんで、まだまだ全く落ち着く気配がありません

今回は中から見ていても、本当に様々なドラマやストーリーがあり、事実に基づいたドキュメンタリー映画を作って欲しいぐらいです!笑

というのも相変わらず事実に基づかない報道が早速出回っており、私としては非常にもどかしく思っております。

たとえば、私が関わらせていただいている広報PR周りでは、【SNS投稿を担う約400人のスタッフが原動力】という内容を各大手メディアが報道していますが、【約400人のSNS投稿スタッフは陣営内にはいません】。

公式として、世の中の情勢に鑑みて、自らが立てたフェーズごとの戦略に基づき、県民の皆さまに【事実を正しく伝える】ために1つ1つ慎重に情報を精査し、個人情報保護の配慮やファクトチェックなど、かなり神経を研ぎ澄まして本当に信頼できる少数精鋭のチームの皆さまと力を合わせて運営してきました

そのような運営を常に心がけていた側からすると、何をソースにして、どんなファクトチェックをしたら、「400人の投稿スタッフが関わっている」と受け止められるような情報をさも事実であるかのように世に出せるのかが全く理解できません

逆に有志のボランティアの発信者は400人どころではなく、4,000人も40,000人もそれ以上にたくさんいたはずです。それぐらい大きく応援の輪が広がりました

今回の一連の流れの中で、マスメディアがどれだけいい加減な情報を流布しているか身をもって知ることができました。

本当に情報が溢れる世の中だからこそ、様々な媒体からできる限りの情報を入手して、自分の目で見て、耳で聞いて、何が本質なのか追究する姿勢が何よりも大切です。

SNSですら、あくまでも一つのメディアであることを忘れてはなりません。

だからこそ、情報の発信者はより真摯に、真剣に、事実を届けることに向き合う必要があると思っています

世の中では、折田氏を“キラキラ女子”扱いし、自己顕示欲からnote記事で自己の実績を盛ったかのような話がまことしやかに流布していますが、少なくとも18日のインスタグラムの投稿では、前日の17日の日経新聞の記事に、斎藤氏の勝因の一つとして「攻勢の原動力となったのは、SNSへの投稿を担う約400人のスタッフだ」などと事実無根の記事を書かれ、自己の頑張りがなかったことにされそうになったことに怒り、ファクトを報じろ、という文脈において、「約1ヶ月半の四六時中スマホを握りしめて対応し続けた」、「公式として、世の中の情勢に鑑みて、自らが立てたフェーズごとの戦略に基づき、県民の皆さまに【事実を正しく伝える】ために1つ1つ慎重に情報を精査し、個人情報保護の配慮やファクトチェックなど、かなり神経を研ぎ澄まして本当に信頼できる少数精鋭のチームの皆さまと力を合わせて運営してきました」などと、ファクトとしての自己の業務を記載していることは明白です。

日経新聞に対してファクトを報じろと批判しつつ、自己の実績について盛って記載するということは、通常でも考え難く、また、広報を生業とする者が広報業務に関してそのようなことを行うことは、自殺行為に等しいものと思われます。

「自らが立てたフェーズごとの戦略に基づき」などの、上記投稿にある折田氏の主体的・裁量的な活動をうかがわせる記述は事実である可能性が極めて高く、これと整合するnote記事の記載は、事実であるといえます。

note記事と整合する周囲の発信

週刊文春 (1月23日号)などの報道によれば、斎藤氏の後援会事務所が入る物件のオーナーで、21年の前回選挙での選挙運動を手伝っていて、9月29日の斎藤氏のmerchu社往訪にも同席していたK氏が、10月5日に上原みなみ神戸市議(報道時は匿名)と面会した際、上原氏は斎藤氏を支援しようと名乗り出て、特にSNS戦略で協力を申し出ていたところ、明くる6日朝、この市議のもとにK氏から

「昨日の会議内容 Sns監修はメルチュさんにお願いする形になりました

として、申し出を断るLINEが届いたとしています。

上原氏も、

「SNS監修はメルチュ折田楓さんにお願いすることになりました」というLINEを受け取ったのは私です”、

と報道を認めるYouTubeを発信しており、文春の報道内容や、森けんじ氏の「選対会議」に関する発信なども合わせて考えると、10月5日に、斎藤陣営で「選対会議」が開催され、merchu社に対し「SNS監修」を依頼することが決定したことは明らかです。

斎藤氏を支援し、斎藤陣営と関わりの強い森けんと西宮市議会議員が、自身のXにおいて、メディアからSNS戦略について取材があった際、

「結論、陣営側としてSNSをお願いしていた方はお一人のみです。」

と答えたと、11月19日16時すぎに投稿しています。

また、同じ会話の流れのなかで広報担当が誰かを詮索する返信が続き、同日17時頃に

「いえ違います。ボランティアメンバーではありません。」

とも投稿しています。

さらに、前記の折田氏のnote記事が11月20日の9時過ぎに投稿されると、森氏は同日10時50分頃に

今回の選挙においてSNSや紙媒体等担当された方です!裏話?等、詳しく書いているので是非ご覧ください」

と、折田氏のnote記事を紹介する投稿をしています。

こうした投稿から、森氏としては、主要なSNS戦略を折田氏一人が担っていた、という認識をもっていたことがわかり、note記事と整合的です。

なお、森氏はのちに、自身の上記投稿が問題視されるようになり、11月19日16時頃の投稿を「SNSのボランティアが400人でなく1人」という意味だ、などと述べ、note記事を肯定しないかのような主張をするようになっていますが、それに続く「ボランティアメンバーではありません」という投稿と完全に矛盾していて、公選法違反も問題表面化後に変節した言動は信用性に欠けるものと思われます。

さらに、斎藤氏を支持する姫路市議の高見ちさき氏も、自身のXで、11月19日に、前述の折田氏の18日のインスタ投稿を紹介するため、

斎藤知事のSNS関連を全てになってくださってた折田さんの投稿です(折田氏インスタURL)メディア各社は、どうせなら400人分の働きをする折田さんのPRをしてくれ~!」

と投稿し、折田氏のnote記事への批判が高まった11月24日には、

「斎藤事務所の許可を得た記事である以上、折田さんだけが過剰にバッシングを受けるというのはいかがなものかと思います。」

とも投稿しています。

高見氏は、SNSに不適切な投稿を繰り返しているとして市議会から辞職勧告を受けている人物で、その発言の信用性には注意が必要と思われますが、斎藤氏に不利になる形で虚偽を述べる理由はなく、「斎藤知事のSNS関連を全てになってくださってた」との投稿には一定の信用性があり、折田氏のnote記事の信用性を補強するひとつの材料となり得るものと解されます。

以上述べてきたところから明らかなように、折田氏のnote記事は、今回の公選法違反事件の発端であるとともに刑事事件の証拠としても極めて重要なもので、しかもその信用性に疑問を差し挟む余地はほとんどありません。折田氏は、捜査機関の取調べを受けていると考えられますが、その供述内容は、note記事に沿った内容で、捜査機関や検察官も信用性を認めているはずです。

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斎藤元彦氏ら告発事件に関する公職選挙法解釈の基本的事項

 はじめに

斎藤元彦氏は、2024年9月19日の兵庫県議会からの不信任決議を受け、9月26日に次の兵庫県知事選への出馬を表明し、兵庫県知事の職を30日午前0時で失職。その後の10月31日告示の兵庫県知事選挙に実際に再び立候補し、11月17日に当選しました。

この知事選挙の斎藤氏陣営の選挙戦において、折田楓氏が代表取締役を務める広報・PRのコンサルティング会社の「株式会社merchu(以下「merchu社」といいます)は、斎藤氏から上記知事選挙における戦略的広報業務を受託し、インターネットによる選挙運動を含む広報全般の企画・立案してそれを実行しており、公職選挙法上、折田氏は、斎藤氏に当選を得させるための活動を行う「選挙運動者」であると考えられます。

そして選挙運動は、法律上、原則としてボランティアで活動するものとされており、「選挙運動者」への金銭支払いは、原則として交通費や弁当代の実費弁償のみが、法定の上限額までのみ認められていて、例外的に報酬の支払を行えるのは、事務員、ウグイス嬢(車上運動員)、手話通訳者への支払いのみです。それ以外の「選挙運動者」には

それにもかかわらず2024年11月4日、折田氏と、折田氏が代表である「merchu社」に対し、斎藤氏が、斎藤氏に当選を得させるための上記選挙運動をしたことの報酬として71万5000円の金銭を供与したことが、買収罪に該当するとして、12月1日、私と上脇博之神戸学院大学法学部教授が、神戸地検と県警に対し、告発を行ったものです。

その後、12月16日にこの告発は異例のスピードで受理され、2025年6月20日には県警が書類送検、7月中旬には神戸地検が斎藤氏への任意聴取を行ったと、8月7日に報じられ、9月5日には、告発事実と同じ事実について、221条1項2号の「利害誘導罪」による追加告発が行われました。

神戸地検の捜査もこれから最終段階を迎え、刑事処分ということになると思います。

そこで、本稿では、この斎藤氏の公職選挙法違反の問題を考える上で必要な公選法の解釈について、関連する判例等も引用しつつ解説を行います。 なお、この公選法違反の問題については、既にアップしている【斎藤元彦氏公選法違反事件、「追加告発」を含め、改めて解説する】でも述べたように、私の事務所「郷原総合コンプライアンス法律事務所」の法務コンプライアンス調査室長の佐藤督が、私の入院中から、証拠関係、事実関係の整理・法的検討等を行ってくれました。

公選法解釈についての本稿も、佐藤が判例、文献の収集のリサーチを行い、取りまとめたものです。そこで、本稿は、【佐藤解説】と略称し、この問題に関する記事でも引用することにしたいと思います。

1選挙に関する金銭等の支払いについての公職選挙法上の規定の整理

公職選挙法は、特定の候補者に当選を得させようとする目的をもった活動、すなわち「選挙運動」については、選挙の自由、表現の自由の保障との関係から、選挙に関する発言や表現の内容自体に対しては基本的に寛大である一方、選挙運動に関する金銭、利益のやり取りに対しては、ボランティアを原則(選挙運動無報酬の原則)とし、厳しい態度で臨んでいます。

票をお金で買う、「選挙人」に対する直接の買収を行うことはもちろん許されないことですが、それだけでなく、選挙運動を手伝った「選挙運動者」に対して金銭等を支払うことも買収罪となり、法で認められた支払い以外は認められていません(公職選挙法221条)。お金をかけた選挙運動を許すと、お金をかけることで候補者が支持されているかのような世論形成も可能となり、かけたお金の多寡で選挙の勝敗が決まってしまって、選挙の公正を害するためです。そのため、一般的に候補者本人と、その候補者を支持・支援する選挙運動者によって行われる選挙運動には、お金のかからない活動が求められます。

具体的には、選挙運動にとって不可欠なポスター、チラシの制作等が、資金力のない候補者でも立候補できるように原則として公費負担の対象とされています(143条14項、15項、142条10項、11項等)。また、「選挙運動に従事する者」(221条の「選挙運動者」と同義)のうち、日本の選挙運動に必須な事務員や、投票を呼びかける車上運動員(ウグイス嬢、手話通訳者)に対しては、所定の金額の範囲内で、所定の人数に対してのみ、しかも原則として使用前に選管に届け出た場合にのみ、報酬支払が認められていますが、それ以外の選挙運動については、交通費や弁当代の実費弁償のみが認められ、報酬の支払いは一切認められておらず、ボランティアで行う必要があります(公職選挙法197条の2、施行令129条)

一方で、選挙運動に附随する、選挙カーの運転、ポスターの掲示、郵便物の名宛記入と発送、選挙関連物資の運搬等の単純な機械的労務(指示通りの作業を行うだけの、自由裁量のない労務)は、もともと単に労務の対価(給料)を取得することを目的とした作業であることが多く、特定の候補者に当選を得させようとする目的の活動である「選挙運動」とは区別する理解が一般的です。

こうした単純な機械的労務を行うだけの労務者を、選挙運動に関して雇っていたとしても、当該労務者は「選挙運動」を行っていないためボランティアである必要はなく、当該労務者への金銭の支払いは「選挙運動」を自ら行う者である「選挙運動者」への支払いではないため買収罪の対象とはなりません「選挙運動のために使用する労務者」への支払いとして、194条の費用制限の範囲内であれば特に人数の制限等はなく、ただ、一人当たりの支出が高額になりすぎないよう、実費弁償や報酬の上限が定められているのみとなります(公職選挙法197条の2第1項、施行令129条1項、2項)

2買収罪の成否の判断に必要な、定義の理解(「選挙運動者」と「選挙運動のために使用する労務者」の区別)

(1).判例実務における「選挙運動」の定義

こうした法の規定から、本件のような場合に買収罪が成立するかどうかを考えるために、「選挙運動者」なのか(その前提として「選挙運動」なのか)、自身は「選挙運動」を行わない「選挙運動のために使用する労務者」に過ぎないのか、その定義が大きな問題となります。

まず、「選挙運動」の定義ですが、判例の見解は戦前から現在まで一貫していて、「特定の選挙の施行が予測せられ或は確定的となつた場合、特定の人がその選挙に立候補することが確定して居るときは固より、その立候補が予測せられるときにおいても、その選挙につきその人に当選を得しめるため投票を得若くは得しめる目的を以つて、直接または間接に必要かつ有利な周旋、勧誘若くは誘導その他諸般の行為をなすことをいう」などと定義しています(最判昭和38年10月22日等)。そのため、実務上、ある行為が具体的に「選挙運動」とされるための要件は、

①その行為の対象となる選挙が特定していること

②特定の候補者のためになされること

③当選を目的としてなされること

④投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為であること

と整理されています。

特に問題となるのは④の要件です。選挙演説、戸別訪問、投票の呼びかけ、票の買収といった、有権者に対する「直接」の行為はもちろんのこと、「間接」の行為も「選挙運動」とされています。例えば「聴衆の反対派と目される者からやじられて十分演説をすることができなかつたことがあつたので、・・・やじを封じ演説に効果をもたせる目的をもつて、・・・労務者として参集した者から人選した者に、立会演説会場に立入らせ、右候補者の演説中その論旨の要所要所を自らの判断によつて選定し、演説に対し拍手し声援を送らせ、その報酬として一日金三五〇円を支給すること」のように、演説を間接的に盛り上げるだけであっても、「その演説につき聴衆に感銘を与え演説の趣旨を徹底させ、その効果を強力にして投票を獲得するに有効」なので、「選挙運動」に該当し、買収罪が成立するとしています(大阪高判昭和31年11月8日)。

(2).「選挙運動」の判断要素としての「自由裁量」の有無、「機械的労務」かどうか

そのため、「間接」の要件を広く解釈し過ぎると、ポスターの掲示、郵便物の名宛記入などの「機械的労務」も、間接的には何らかの有利に働く効果は否定できず、すべて「選挙運動」に該当し得ることになります。そうすると、原則として“選挙に関連する作業”について報酬の支払いは一切認められず、買収罪の対象となるものの、法が特に一定の要件でのみ報酬の支払いを認めているとも考えられ、実際、かつてはそのような理解をしている裁判例もありました(名古屋高判昭和30年5月31日)。

しかし、既に述べている通り、指示通りの作業を行うだけの、自由裁量のない単純な「機械的労務」は、単に労務の対価を取得することを目的とした作業であり、特定の候補者に当選を得させようとする目的の活動である「選挙運動」とは区別すべきです。

条文上も、公職選挙法197条の2が「選挙運動のために使用する労務者」と「選挙運動に従事する者」を書き分けていることなどから、選挙運動に間接的に関わることすべてが「選挙運動」ではないことは明らかです。

そこで最高裁(昭和53年1月26日)は、

「投票を得又は得させる目的とは、そのために直接又は間接に必要かつ有利な行為を行うことの認識をもつて足りるものではなく、その行為の性質からみてより積極的に右の目的のもとに当該行為に出たと認められる場合をさすものと解するのが相当である。すなわち、選挙演説のような、選挙民に対する投票の直接の勧誘行為については、その行為に出ること自体をもつて右の目的があるものと認定することができるが、ポスター貼りや葉書の宛名書きのような、選挙民に対する投票の直接の勧誘を内容としない行為については、これらの行為を自らの判断に基づいて積極的に行うなどの特別の事情があるときに限り、右の目的があるものと認定することができるのである。そうしてみると、「選挙運動のために使用する労務者」とは、選挙民に対し直接に投票を勧誘する行為又は自らの判断に基づいて積極的に投票を得又は得させるために直接、関接に必要、有利なことをするような行為、すなわち公職選挙法にいう選挙運動を行うことなく、専らそれ以外の労務に従事する者をさすものと解すべきことになる。」

と判示して、行為の性質に照らし、得票に有利に働くような「間接」の行為については、自由裁量の有無も、買収罪の成立する「選挙運動」の判断要素となっているものとの理解を示しています。

つまり主体的・裁量的とはいえない、単純な「機械的労務」であれば、「選挙運動」を行う「選挙運動者」ではなく、買収罪の対象ではない「選挙運動のために使用する労務者」となる、ということです。現在の判例や実務(総務省や選挙管理委員会等の考え方)、学説上の通説(大谷実「注釈選挙犯罪」など)においても同様に理解されています。

(3).個々の行為の性質によって決まる「選挙運動」と「機械的労務」の区別

このような理解からして、ポスター貼りや葉書の宛名書きのような、一般的には機械的に作業することの多い行為が、当然に「選挙運動」に当たらないとされている訳ではありません。一見機械的な作業であっても、その行為に自由な裁量があり、「機械的労務」といえないのであれば、「選挙運動」になり、報酬の支払いが買収罪に該当することになります。

例えば、ポスター貼りについてみていくと、東京高裁昭和28年10月30日は、

「なるほど記録に現われたところから見ると被告人が本件の選挙に当つてした仕事は主として労務的なものであるといえるけれども、しかし原判決の挙示した証拠を精査すれば、必ずしも厳格にいつて労務とはいえずむしろ選挙運動に属することも行つていたものと認められる」

とし、

「労務者だけではポスターなどを貼つたりするときに家主等が承知してくれないので被告人がその交渉をしたというのであるし、・・・の検事に対する第一回供述調書には被告人にビラ貼りの差図をして貰つたという記載があるが、かかる行為が単純な機械的労務の範囲を越えるもので選挙運動に属するものと解すべきことは大審院昭和一〇年(れ)第一七二八号同一一年三月一〇日第四刑事部判決(刑事判例集一五巻二二二頁)において明らかに示されているところである」

などと判示しています。

さらに、大阪高判昭和36年10月5日では

「特定候補者のためにその宣伝用ポスターを掲示すべき地区、各地区内に割当てる枚数及び場所を自ら選定し、これにその候補者に有利と判断してその宣伝用ポスターを掲示する行為は、単なる機械的労務とはいえず、選挙運動に該当することは疑いがなく(昭和三年一〇月二九日大審院判例参照)選挙運動に従事する者に対し労務賃と称して報酬の授受されることが許されないことは、公職選挙法第一九七条の二の規定の示すところによつて明らかであるのみならず、同法の精神から考えても当然」

と判示しています。

また、広島高判平成14年9月30日においても、

「本件のアルバイトの者らが行ったような,特定の比例代表選出議員候補者のために,そのポスターを,宣伝に有効な場所,方法かどうかを自ら判断選択したうえ,その適当と認めた場所,方法で,当該場所の所有者もしくは管理者の承諾を得て貼付する行為は,単に他人に命じられた場所,方法でこれを貼付する行為と異なり,機械的労務の範囲を超越するもので,特定の候補者のため投票を得させる目的をもってこれに必要かつ有利な行為を自ら判定実行するものとして,同法にいう選挙運動に当たるというべきであり,これと同旨の原判決に事実誤認はなく,論旨は理由がない」

と述べています。

なお、あて名書きや選挙カーの運転など、一見機械的労務に見える他の業務についても同様の裁判例があります。

また、これらの裁判例からも明らかなように、判例実務において、「選挙運動」と認定するために、行為すべてが主体的・裁量的に行われる必要はなく、多少なりとも主体的・裁量的といえる部分があれば、「機械的労務」ではなく「選挙運動」と認定しています。

(4).「内部的な準備行為」であっても「選挙運動」に該当

さらに、こうした考え方は選挙運動の準備に過ぎない「内部的な準備行為」に関しても変わるものではありません。東京高判昭和28年12月10日では、演説計画を準備、実行するために雇入れた者であっても、「遊説企画係として同候補者の選挙演説日程に基いて、予定通り演説計画が円滑に進行するようトラックの借入交渉に当つたり、トラックがどの道路を通つたらよいのか、通過できない状況の地点がないかどうかなどいろいろ心を配つて計画を立て、時には人を派して道路の状況を検分させる等選挙運動の重要な一面を自ら担当していた」との事実関係の下では、「選挙運動計画を立案しその実施を円滑ならしめ・・・るが如きは、単純で且つ機械的な労務に従事するのとは異なつていること明らかである」としています。

また、大阪高判昭和36年12月20日では、会場準備などのために雇入れた者であっても、「本件選挙に際しては、候補者・・・の当選を目的としてその選挙事務に従事して会場係となり、個人演説会の日程表の作成、その会場借入れ交渉、選挙管理委員会への届出等の事務を分担したのであつて、時にはポスター張り等をしたこともあるにしても同被告人は選挙運動者として取り扱われるべきもの」と判示しています。

(5).買収罪(221条)と事前運動禁止(129条)との「選挙運動」の定義の違い

なお、以上の見解は判例、実務上の通説的な見解ですが、本件に関連し、一部の弁護士が、ポスター制作のような「選挙運動の準備行為」は「選挙運動」ではないと主張しており、確かに総務省のHP(https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/naruhodo/naruhodo18.html)などにも、「選挙運動の準備行為」は「一般的には選挙運動ではない」とする記載があります。

しかし、上記HPの記載は、その文脈から、あくまで公職選挙法129条の「事前運動の禁止」における「選挙運動」の解釈を示していることは明らかです。

これまで述べてきた通り、公職選挙法221条の買収罪の設けられた趣旨は「金銭その他不正の利益によって選挙の結果を左右しようとする一切の行為を禁止し選挙の自由・公正を確保しようとするところにある」のであって、221条の「選挙運動」の定義は広く解されるべきであると考えられています。

これに対し、選挙運動は立候補届出前に行ってはならないという129条の「事前運動」の規制との関係では、立候補予定者等が「選挙運動の準備行為」として行う行為は、それを行わなければ立候補すること自体が困難なので、「選挙運動の準備行為」を無償で行うことは原則として「選挙運動」とは解されていません。ただし、その「選挙運動の準備行為」が、「内部的な準備行為」にとどまらず、「選挙人または選挙運動者に対し積極的に働きかける対外的な行為」を伴う場合には、「選挙運動」といえ、違法となると考えられています。

一方、すでに述べたように、「内部的な準備行為」であっても、有償で行えば買収罪との関係では違法の問題が生じることになります。

つまり、129条と221条の「選挙運動」の解釈は異なります。これは学説および選挙実務を所管する総務省自治行政局選挙部の官僚が著作者である「逐条解説公職選挙法」の見解でもあり、判例も、129条の「選挙運動」の解釈については、これまでの221条の「選挙運動」の判例の解釈と異なる見解に当然のように立っていて、こうした理解を前提としているものと考えられます。

例えば最近、2021年10月の衆院選を巡り、日本維新の会の議員が衆議院議員総選挙の公示5日前に、卒業した大学の校友名簿を基に作成した名簿から、立候補予定の選挙区と概ね一致する区域の者の住所に宛てて、当該議員及び所属政党に対する投票を依頼する文言が目立つように印刷されたはがきの宛名欄に、同選挙区内の知人の住所・氏名等を書き、推薦人欄に署名等をして返送することを依頼する文書、同はがき2枚及び返信用封筒等を同封した封書を送付した、という事案がありました。

この事案における裁判では、これまで見てきた221条の判例と異なり、「選挙運動」には原則として「選挙運動の準備行為」が該当しないことを当然の前提としつつ、推薦人欄への署名(すなわち他の選挙人に対する推薦)を求める部分などが「選挙運動の準備行為」に該当し得るものの、「被送付者と被告人との間に選挙運動の準備行為を期待し得る人的関係がない」との事実関係の下では、「選挙運動の準備行為」ではなく得票目的で行われた実質的な投票依頼行為であって、129条における「選挙運動」に該当するなどと判示しています(大阪高判令和5年7月19日、その後最高裁で確定)、

つまり、「選挙運動の準備行為」であるから「選挙運動」ではないという主張は、221条の「選挙運動」との関係では誤った主張ということになります。

(6).「告示前」との関係性

また、多くの人が誤解しているように思われるのが、選挙の告示との関係です。これまで述べてきたように、特定の選挙で特定の候補者の当選を目的として行う行為は、買収罪との関係において、告示の前後に関係なく、また「選挙運動の準備行為」であっても「選挙運動」となり、違法な対価の支払いが行われれば買収罪が成立します。実際、将来の選挙に関する買収であっても、その選挙の行われることが予想され、その選挙にある特定の人が立候補することが予期できる事情が存在するのであれば、買収罪が成立するというのが判例(最判昭和30年7月22日)の立場です。

かつて、告示前の行為は、地盤培養行為などの「政治活動」との主張がし易いため、その対価を支払っても、政治資金収支報告書に記載すれば、公職選挙法上も合法、というような誤った認識を持つ人が多かったように思います。ですが、それは捜査機関側が「当選を得させる目的」の立証上の問題を考慮して「政治活動」の弁解が予想される事案の摘発に消極的だったため、結果的に見過ごされてきたに過ぎないのです。

近年、元法務大臣の河井克行氏からの受供与者の事件の判決では、政治活動であることを理由に、選挙運動であることを否定する弁解がなされた場合でも、有罪となっています。

また、元法務副大臣の柿沢未途氏や元江東区長の木村弥生氏を巡る買収事案では、木村氏の江東区長選の告示前のビラにおいても、氏名と顔写真が大きく掲載された上で、「まずは江東区初の女性区長を」との記載があり、実質的に区長選における投票を呼び掛ける内容となっていることや、告示前の街宣車での呼びかけにおいても、「開かれたクリーンな江東区政を作ります。」などと、区長選での投票を呼びかける内容となっていたことなどから、告示後はもちろん、告示前の活動も「選挙運動」であったとしています。

そしてこの江東区長選の柿沢氏の秘書による買収事案において、裁判所は、上記「選挙運動」において告示前から街宣車を運転し、ビラを配布したA、Bが報酬を受け取ったことについて、柿沢氏の秘書が、街宣車のドライバーを、両名に依頼するに際し、Aに対しては、「何か気が付いたことがあったら、自発的にやってほしい。」旨伝え、実際、タワーマンション付近では住人に音声が聞こえやすいよう音量を上げ、病院や学校付近では音量を下げるなど、臨機応変に対応したことを指摘しています。またBに対しては、告示前にビラも配るのか尋ねられた際に、どちらでもいいという態度を示してビラの配布を明示的に禁止しなかったことや、人の多いタワーマンション付近を回り、また、被告人から指示されたルートが終わっても自らの判断で異なるルートや同じルートを複数回回るなどしたことを指摘しています。つまり、A、Bが主体的、裁量的に「選挙運動」に関わったことを認定したうえで、「そうすると、被告人(注:柿沢氏の秘書)は、選挙運動に該当する活動を行うことも依頼してその対価として現金の支払を約束し、形式的には街宣車の運転という機械的労務に対する支払という名目の下、選挙運動の報酬として各現金を供与したものと認められる。」と判示しています(東京地判令和6年5月28日)。

(7).同一人に「選挙運動者」と別の地位が併存する場合の考え方「選挙運動のために使用する労務者」

ア問題点

以上のような理解からすると、折田氏の活動が「選挙運動者」といえるものであったか、自由裁量の無い、単純な「機械的労務」であったのか、という点が本件の核心的な問題となります。

しかし、斎藤氏側はその点については十分に説明することなく、折田氏側に依頼したのは、実際に折田氏側が行った行為のうち、公約のスライド制作や、チラシのデザイン制作等の5項目に限られ、それに対して対価を支払ったにすぎない、残りの行為はすべて折田氏個人のボランティアであると説明しています。つまりは、折田氏側は選挙運動を行っているかもしれないが、対価の支払いは原則無償である「選挙運動」に対してではなく、対価の支払いが許される「政治活動」、「選挙運動の準備行為」、または「選挙運動のために使用する労務者」への支払いであるとして、問題がないと主張しているものと思われます。

このような同一人の行為を切り分ける主張、つまり同一人に「選挙運動者」と別の地位が併存するとされる場合の考え方についても検討する必要があります。

イ金銭等が一括で支払われ、その趣旨が明らかでない場合の判例の考え方

こうした、行為の切り分けの主張は、買収罪等、公選法違反の被告人の反論としてよく見られるところであり、こうした主張を後付けで許せば、選挙運動について無償を原則とし、金銭支払いに厳しい態度で臨む法の趣旨を没却することになりかねません。そこでまず、“一括で金銭等が支払われ、その趣旨が明らかでないとき”は、“適法な支払いの趣旨を含むとしても、金銭全部につき買収罪が成立する”、というのが確立した判例です。

例えば、最判昭和30年5月10日は「選挙人又は選挙運動者が投票取まとめ運動の報酬たる非合法的金員とそうでない合法的金員とを一括して供与を受けしかもその両者の割合明らかでないときには、その金員全部につき公職選挙法二二一条一項四号の受供与罪が成立するものと解するを相当とする(昭和八年(れ)七三八号同年七月六日大審院第二刑事部判決参照)」と判示し、その後も様々な裁判で引用されています。

ウ「選挙運動者」と別の地位の両立を否定する裁判例

そしてさらに進んで、「選挙運動者」と「選挙運動のために使用する労務者」の関係性について、「公職選挙法第二二一条第一項第一号にいわゆる選挙運動者とは,いやしくも実際において選挙運動をし又はしようとする者すべてを含むものであつて、その者が同時に労務者たる地位を有するかどうかはこれを問わないのであるから、被告人が労務者であつた一事はいまだもつて右法条にいう選挙運動者であることを否定する理由にはならない」と述べる裁判例(前掲東京高裁昭和28年10月30日)があります。

さらに、“人による区別であり、両者は両立しない”、とする考え方を示す下記の裁判例(東京高判昭和47年3月27日)があります。ただし、「選挙運動に付随し当然これに含まれるものとみるべき」とも述べており、このような関係性がない行為まですべて両立する余地がない、ということではないとも読めます。同判例を解説した「判例タイムズ(No.278)」では「本判決の説くところは、実務上はほとんど疑義を持たれていないと思われるが、判例でこれを明言したものとしては、おそらくこれがはじめてであろう。」と評価していて、実務上当然の見解であるとしています。

◎東京高判昭和47年3月27日

「公職選挙法一九七条の二は「選挙運動に従事する者」と「選挙運動のために使用する労務者」とを区別し、前者に対しては選挙運動のために使用する事務員を別として実費弁償のみを支給することができるとし、後者に対しては実費弁償ばかりでなく報酬をも支給することができるとしているのであるが、これは、選挙運動が本来奉仕的な性質のものであるべきだとの建前から、これを原則として無報酬とし、ただ選挙運動に従事する者のうちそのために使用する事務員と選挙運動のために単なる機械的労務に服する使用人であるいわゆる労務者に対しては、無償の奉仕を期待しがたいところから、これに対し報酬を支給することを認めたものと解される。すなわち、これによれば、無報酬である選挙運動に従事する者と報酬を受けることのできる事務員、労務者とは人による区別なのであつて、この二つを同一人が兼ねることはできず、本来無報酬であるべき選挙運動に従事する者がたまたまあわせて単なる事務または労務をも行なつたからといつて、それは選挙運動に付随し当然これに含まれるものとみるべきであり、そのためにその者が同条にいう事務員または労務者となるわけではないから、これに対して報酬を支給することはできないと解するのが相当である。」

「所論の各金員については、同人らの領収証も作成され、選挙管理委員会に対し人件費の名目のもとに報告がなされていることが記録上認められるのであつて、これによればあたかも・・・・らが単なる機械的な事務または労務に従事する者であつたかのようにもみえるけれども、同人らが公職選挙法一九七条の二にいう「選挙運動に従事する者」にあたることが前示のように明らかである以上、たとえ選挙管理委員会に対する支出報告の上でどのような記載がなされていたにせよ、それによつてその実質が変ずるものではなく、そうであるとすれば、かりに同人らが選挙運動のかたわら若干労務などを行なつたとしてもこれに対して報酬を支給することができないことは前に説示したとおりであるから、右の金員は要するに同人らが被告人・・・に当選を得しめるために選挙運動をしたことの報酬であるとみるのほかなく、したがつてその供与は同法二二一条一項三号に該当するといわざるをえない。」

そして、上記東京高判の見解をさらに進め、人的属性のみで、「報酬を支給することのできる労務者と評価する余地はなく」などと、「選挙運動者」と別の地位は両立し得ない旨を述べている裁判例2つ(事案としてはひとつ。買収側と被買収側の2つの裁判。)もあります。買収した側の裁判例には「判例タイムズ(No.1140)」の解説があり、選挙運動者の行為は労務であってもすべて選挙運動になるかのような踏み込んだ判決となっているため「今後、議論を呼ぶものと思われる」と評されています。

◎東京地判平成15年8月28日(買収を受けた側の判決)

しかし、Gは、選挙カーを運転するに際して機械的な運転行為のみをしていたわけではなく、上記二(5)〔1〕のとおり、ある程度裁量的、主体的な行為をしているほか、運転の途中で選挙カーを止めてAが街頭演説をした際には、上記二(5)〔1〕及び三(1)のとおり、候補者たるA自身やその選挙運動者らとともに、選挙民に対して直接にAへの投票を勧誘する行為もしたのであるから、Gの行為は労務ではなく、選挙運動に当たると評価することができるし、その点を捨象しても、そもそも、選挙運動者であるGの種々の活動のうち選挙カーの運転行為のみを取出して報酬を支給することのできる労務に当たると論じること自体が、当を得ないものである。

すなわち、選挙運動者(選挙民に対し直接に投票を勧誘する行為又は自らの判断に基づいて積極的に投票を得又は得させるために直接、間接に必要、有利なことをするような行為を行う者)や労務者(上記括弧内の行為を行うことなく、専らそれ以外の労務に従事する者)というのは一種の人的属性であるから、選挙カーの運転行為のみを行う者が労務者であるからといって、選挙運動者が選挙運動と併せて選挙カーの運転等の労務者のなし得る行為をした場合に労務者となり、報酬の支給ができるものと解することはできない。むしろ、Gのごとく、候補者のために投票を得させる目的をもって選挙民に対して直接に投票を勧誘する行為を含む種々の選挙運動をしている選挙運動者が、これと併せて選挙カーの運転のような候補者に投票を得させるために直接、間接に必要、有利な行為をした場合には、当該行為自体に自らの判断に基づく部分がなく、他の者から指示されたとおりに機械的に行ったとしても、やはり候補者のために投票を得させる目的をもって当該行為をしたと認めるのが合理的であり、その行為は選挙運動ということができる

◎東京地判平成15年9月5日(前掲東京地判の買収した側の判決)

被告人Aの弁護人は、選挙運動期間中に選挙カーを運転したGの行為(前記第2の4(2)イ)は労務者としての行為であると主張する。

確かに、うぐいす嬢が拡声器を通じて候補者への投票を呼び掛ける選挙カーの運転をする行為は、候補者に投票を得させるのに必要、有利な行為ではあるものの、その行為自体は選挙民に対し直接投票を勧誘するものではなく、かつ、他の者の指示に従って非裁量的になし得る行為であるから、専らその運転のために雇われた者が報酬を得る目的で運転行為のみに従事する場合には、その者は労務者に当たる。

しかし、Gは、選挙カーを運転する際に機械的に運転行為のみをしていたわけではなく、前記第2の4(2)イのとおり、ある程度裁量的、主体的な行為をしていたのであるから、Gの行為は労務ではなく、選挙運動に当たるといい得るし、その点をさておくとしても、上記1(1)で示したとおり、選挙運動者や労務者は人的属性に関する概念であって、Gのように、投票獲得目的をもって種々の選挙運動をしている選挙運動者が併せて選挙カーの運転をした場合には、もはやその者について報酬を支給することのできる労務者と評価する余地はなく、その者の行為は選挙運動者による選挙運動というべきであるから、弁護人の主張は採用できない。

エ判例実務の考え方の整理

実際にはその後学説上で活発な議論が行われた形跡はなく、平成15年の東京地判に対する判例、実務上の評価は不明なところがありますが、少なくとも昭和47年の東京高判が述べているように、「選挙運動」と、その当該「選挙運動」に付随し当然これに含まれるものとみるべきような「機械的労務」を切り離し、後者について「選挙運動のために使用する労務者」と評価して、対価を支払うことは、判例実務上、認められないものと解されます。

また、そもそも契約において、金銭の趣旨が明確でない場合は、「選挙運動者」への違法な支払いと、「選挙運動のために使用する労務者」への適法な支払いが混在していたとしても、全体として買収罪となります。

(8).インターネット選挙に関する考え方

これまで述べてきたことは、インターネット選挙においてもなんら変わることはありません。

総務省はインターネット選挙に関し、「改正公職選挙法 ガイドライン」を出しており、その「買収罪」の項目において、以下のような質問と回答を設け、インターネット選挙において、業者が主体的裁量的に関与した場合、報酬の支払いは買収罪に該当する可能性が高いと警告しています。

【問31】 業者(業者の社員)に、選挙運動用ウェブサイトや選挙運動用電子メールに掲載する文案を主体的に企画作成させる場合、報酬を支払うことは買収となるか。

【答】

1 一般論としては、業者が主体的・裁量的に選挙運動の企画立案を行っており、当該業者は選挙運動の主体であると解されることから、当該業者への報酬の支払は買収となるおそれが高いものと考えられる。

2 なお、選挙運動に関していわゆるコンサルタント業者から助言を受ける場合も、一般論としては、当該業者が選挙運動に関する助言の内容を主体的・裁量的に企画作成している場合には、当該業者は選挙運動の主体であると解されることから、当該業者該業者への報酬の支払は買収となるおそれが高いものと考えられる。

【問32】 業者に、選挙運動用ウェブサイトや選挙運動用電子メールに掲載する文案を主体的に企画作成させ、その内容を候補者が確認した上で、ウェブサイトへの掲載や電子メール送信をさせる場合、報酬を支払うことは買収となるか。

【答】

一般論としては、候補者が確認した上でウェブサイトへの掲載や電子メール送信が行われているものの、業者が主体的・裁量的に選挙運動の企画立案を行っており、当該業者は選挙運動の主体であると解されることから、当該業者への報酬の支払は買収となるおそれが高いものと考えられる。

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