長崎県大石知事宛て公開質問状

                               2025年12月22日

長崎県知事 大石 賢吾 殿

                     郷原総合コンプライアンス法律事務所

                            代表弁護士 郷原 信郎

                  公 開 質 問 状    

(1)選挙コンサルタントO氏の会社J社に支払われた約402万円の使途の詳細を明らかにすること。そのうち約100万円をJ社が収入として得ている事実の有無を明らかにすること

(2)前回知事選挙における「選挙に関する収入」の詳細を、後援会の政治資金収支報告書に記載されたものも含めて明らかにすること

(3)「2000万円貸付金」問題について、選挙コンサルタントO氏及び後援会の担当税理士M氏に対する責任追及について方針を明らかにすること

(4)後援会元職員に対する名誉毀損等の人権侵害について謝罪・名誉回復の措置等について方針を明らかにすること。「山口知宏」なる人物がインターネット上等で行っている不当・違法行為に対する対処方針を明らかにすること

1週間後の12月29日までに、当職宛に回答を送付して頂くようお願いします(公開質問状ですので、回答は、そのまま公開します)。

《公開質問の理由》

長崎県知事の大石賢吾氏に関する前回2022年2月の長崎県知事選挙における選挙運動費用収支報告書及び関連する政治資金収支報告書に関連する公職選挙法、政治資金規正法違反の各事件については、12月17日の長崎検察審査会の「2000万円政治資金規正法違反事件」の不起訴相当議決をもって、刑事手続がすべて終了しました(「402万円問題」「286万円問題」の公選法違反については既に公訴時効完成)。

これにより、一連の問題は、新たなステージに入ったと言えます。

一連の問題は、大石知事が当選して現職に就くに至った前回選挙での選挙資金収支をめぐる疑惑であり、その大石知事は、来年2月投開票の知事選挙に再選をめざして立候補することを表明しているのですから、前回選挙をめぐる政治資金収支等について疑念が生じ、法律違反の指摘を受けたことについて信頼再選をめざす候補者たる現職知事として、改めて十分な説明責任を果たすことが求められるのは当然だと言えます。

もとより、政治家、公職の候補者にとって、政治資金等の問題についての政治的な説明責任は固有のものであり、刑事手続が起訴に至らない形で決着したとしても、それによって説明責任を免れるものでは決してありません。

刑事手続においては、被疑者に黙秘権があり、関係者の捜査への協力も任意であり、刑事訴追に至るか否かは被疑者側の対応によるところが大きく、とりわけ、政治資金収支報告書、選挙運動費用収支報告書等の虚偽記入の事案については、客観的な違法事実があっても、意図的な虚偽記入の犯意に関する証拠上の問題で起訴には至らない結果に終わることが多いのが実情です。後述するとおり、一連の事案については、それぞれ、不起訴処分に至った理由として、主として被疑者側の対応によると思える事情が想定されます。刑事手続が起訴に至らない形で決着したことは、むしろ、刑事事件に関連する制約がなくなることで、説明責任が改めて問われる局面になったものと言えます。

そこで、【402万円問題】【286万円問題】【2000万円問題】について、事案の内容とこれまでの経過から想定される不起訴処分の理由について述べた上、それらに関連して現在発生している問題も含め、現時点において果たすべき説明責任に関し、大石知事に対し、標記事項について公開質問を行うものです。

1.【402万円問題】について

  この問題は、前回2022年知事選において大石陣営のインターネットによる選挙活動の企画、SNS選挙の専任者手配など、選挙期間中も選挙運動に「選挙参謀」的に関わり大石陣営の選挙運動全般を統括していたことをネット番組等で認めていた選挙コンサルタントO氏の会社J社に対する「電話代約402万円」が、選挙運動費用収支報告書の支出欄に記載されており、添付された領収書の記載により、O氏側への報酬が含まれている疑いが生じたことから、O氏の選挙運動に対する報酬支払の買収罪の疑いで長崎地検に告発を行ったものです。

この件については、長崎県警にも別途告発が行われており、公訴時効完成前の2024年10月に不起訴処分(嫌疑不十分)となりましたが、捜査担当者側からの説明や取材した記者の情報を総合すると、O氏など関係者が捜査に対して極めて非協力的で、家宅捜索まで行った結果、「約100万円が使途不明でO氏の会社の収入になっていた」との事実が明らかになったものの、O氏などの黙秘のために、O氏側への支払の趣旨についての証拠が得られず、起訴には至らなかったということであったと考えられます。そういう意味では、捜査により明らかになった客観的な事実関係は告発人の見立てどおりだったとことになります。

この約402万円のO氏側への支出について、大石知事は、県議会での質問に対して、「知事選挙における選挙運動費用収支報告書の記載等に関する告発状が関係当局に受理されているので、今後の捜査に影響を与える可能性があるため差し控える」と述べて答弁を拒否していました。既に、刑事事件の手続が決着している以上、答弁を拒否する理由はなくなっており、しかも、【2000万円問題】について、後述するとおり、O氏は、同選挙後も、大石氏の事務所や、県の知事部局と深い関係を持ち、選挙資金収支の事後処理や政治資金の処理に関わり、2000万円の貸付金の架空性と大石知事の認識に関して重要人物です。大石知事は、O氏の会社に「電話代」の名目で支払われた約402万円の使途について説明を受け、それを明らかにすることが不可欠と考えられます。

2.【286万円問題】

県内の医療法人が知事選挙での大石候補の支援のために行った寄附286万円が、大石陣営の選対本部長を務めた自民党県議の政党支部を迂回して後援会の口座に入金され、選挙資金に充てられていたことについて、選挙運動費用収支報告書に記載すべき収入であるのに、それが記載されていないことについて、公選法違反(選挙運動費用収支報告書虚偽記入)で長崎地検に告発したものです。

 この件については、医療法人側の寄附の目的が、大石氏の選挙資金の提供であったことを、県議会総務委員会等で長崎県医師会会長も認めており、虚偽記入罪の成立は明らかであるように思えますが、それが起訴に至らなかったのは、選挙費用と後援会との収支の混同が原因だと考えられます。

大石知事は、【2000万円問題】についての2025年10月24日の説明会見の際に、この点について、《本来個人の口座で管理をすべき選挙費用ですね、それと政治団体である後援会、そして確認団体、この3つの資金管理を同一の1つの口座で行っておりました。このため、煩雑となってしまって、結果として県民の皆様に疑念を抱かせてしまう不正確な資金管理の状況となってしまいました。》と述べています。

 つまり、候補者個人としての選挙費用の収支と後援会等の政治団体の収支が同一の口座で混然一体となって管理されていた、つまり、選挙資金の収支の管理があまりに杜撰だったことを認めており、そのために、同口座への入金のうち、どれを「選挙運動費用収支報告書の収入」として記載すべきなのか出納責任者の認識の立証が困難だったことが不起訴になった理由だと考えられます。

 一方、実際の大石陣営の選挙運動費用収支報告書の収入欄には、「大石賢吾 自己資金2000万円」だけしか記載されておらず、しかも、大石知事は、【2000万円問題】に関して、その「自己資金2000万円」の収入欄への計上すら知らなかったと弁解しています。医療法人からの286万円も含め、実際には、選挙資金の寄附をトータルで3000万円以上受けており、知事からの2000万円を合わせると5000万円を超えます。大石知事の選挙のために行われた多くの寄附が、収支報告書の収入欄に全く記載されていません(同年の後援会収支報告書に「一般的な政治活動の寄附」として記載)。

大石知事が述べている「選挙収支と後援会収支が同一口座で混然一体となって管理されていた」という杜撰な処理によって、【286万円問題】について選挙運動費用収支報告書虚偽記入の刑事責任は免れたものの、一方で、選挙に関して医療関係者など多くの個人、団体から受けた寄附が、同報告書で明らかにされていないという「極めて不透明な選挙収支報告」になっています。

次回県知事選に立候補を表明している大石知事にとって、前回知事選挙において、後援会の政治資金収支報告書に記載したものも含め、「どのような団体、個人から選挙資金の寄附を受けたのか」を、県民に対して改めて明確に説明することが不可欠です。

3.【2000万円問題】

  大石賢吾後援会の令和5年分政治資金収支報告書に記載された「大石賢吾 借入金2000万円」の削除訂正が行われ、それについて、大石知事は、《選挙コンサルタントのO氏から「(a)医師会信用組合から選挙資金として借り入れて入金した2000万円を後援会に貸付けたことにすれば適法に返済を受けることができる」と助言され、遡って金銭消費貸借契約書を作成し、約650万円の返済を受けた。その後、「(b)選挙運動費用収支報告書の収入欄に大石氏からの2000万円の自己資金が計上され、ほぼ全額が選挙運動費用に支出されていること」がわかり、2000万円の貸付金を削除訂正した。2000万円の金の流れが一本しかないのに二重に計上されていたことに気付かなかった》と説明しました。

候補者が、選挙の全体的な収支も残高も全く確認することなく、誰からどれだけの支援・寄附を受けたのかも認識しないまま、選挙運動を行っていたというのは常識的にも考難いものです。(b)の事実を知らなかったとする大石知事の説明はあまりに不合理であり、(a)の助言だけで2000万円の貸付金を計上することはあり得ず、架空計上の虚偽記入の認識があった疑いが濃厚と判断されたことが刑事告発を行った理由です。

 しかし、不合理極まりない説明であっても、大石知事が(a)(b)の弁解を言いとおし、O氏もそれに沿う供述をすれば、2000万円の貸付金が架空であることの認識、虚偽記入の犯意を立証するに足る証拠がない、ということで、刑事処分としては「嫌疑不十分」という結論にならざるを得ないということになります。

 しかし、そのような形で、刑事責任を免れたとしても、それによって、O氏の対応には重大な疑問が生じることになり、大石知事には、その対応に関して極めて重大な説明責任を負うことになります。

選挙の専門家である選挙コンサルタントは、選挙運動費用収支報告書の収入欄に自己資金2000万円が記載され、ほとんど選挙費用で使い切った記載になっていることを認識していたことは大石知事も説明会見等で認めています。上記(a)(b)の大石知事の弁解のとおりだとすると、後援会に対して2000万円を貸し付けたことにして後援会の収支報告書に借入金を計上することが虚偽記入に当たることは十分に認識していたO氏が選挙コンサルタントとして誤った助言をしたために、大石知事は、実際には実体のない架空の2000万円の貸付金を、違法と知らずに計上し、それによって刑事告発を受け、県議会、マスコミからも追及されるなど甚大な損害を被ったことになります。そうであれば、O氏の対応を問題視し法的責任を追及するのが当然です。ところが、大石知事は、O氏を全く批判しておらず、責任を追及する姿勢も示していません。

 それがなぜなのか。その理由は、これまでの刑事事件の手続で、O氏が大石知事の不合理極まりない①②の弁解に合わせてくれており、それをO氏が覆すと大石知事にとって致命的なことになるからとしか考えられません。

 しかし、今回の不起訴処分と検察審査会の議決で、刑事事件は最終的に決着し、O氏がどのようなことを言おうと刑事責任を問われる可能性はなくなりました。大石知事は、今こそ、「2000万円架空貸付金問題」によって重大な不利益を被ったことについて、O氏の誤った助言に対する法的責任を追及するか否か方針を明確にすべきです。

 さらに、最終的に、後援会の令和4年分の政治資金収支報告書に借入金2000万円を計上したことについて、当時、同後援会から報酬を得て会計処理を行っていた税理士のM氏に重大な責任があることは明らかです。M氏は、選挙運動費用収支報告書の収入欄に被疑者の自己資金2000万円が記載され、ほとんど選挙費用で支出していることを認識した上で、2000万円の借入金を計上したのであり、もし、大石知事がその違法性を認識していなかったとすれば、それを実行したM氏に、上記のO氏と同様に、政治資金収支報告書虚偽記入について重大な責任があります。

ところが、大石知事は、その点についても責任を追及する姿勢を全く見せず、「政治や会計処理に詳しくない職員に後援会の会計処理を任せてしまっていたということでございます。この任命責任につきましては、代表者を務めていた私にあるものと自覚をし、反省をする次第でございます。」などと、あたかも元職員個人の問題のように述べています。

 大石知事の弁解のとおりなのであれば、O氏と同様にM氏に対しても、責任を追及するのが当然であり、その方針について明確に説明すべきです。

4 「大石賢吾後援会元職員」に対する人権侵害と「山口知宏」問題

 大石知事は、元監査人からの業務終了通知の直後に、後援会元職員に、何の根拠もなく、元監査人と結託して後援会の資金を不正に出金したかのように疑って元職員を事務所から排除し自宅待機させた上、不当解雇したことに加え、【2000万円問題】の説明に関して、再三にわたって、元職員と元監査人が「親密な関係」にあるかのような発言を行い、今年10月24日の説明会見の場では、「後援会の元職員の方に事実確認の申し入れをしているが対応して頂けていない」などと事実に反する発言を行うなど(これに対して、当職から、「元職員に事実確認を求めるのであれば、代理人同席の上で応じる」旨の連絡を後援会事務局長に行ったのに対して非常識な対応が行われたことについて、添付資料「令和7年11月11日付け「ご連絡」参照)、元職員に対する重大な人権侵害を繰り返しています。

後援会において大石知事のために誠実に職務を行っていた元職員も、当然のことながら長崎県民の一人です。自らの後援会で雇用していた長崎県民に対して非道な人権侵害を繰り返している大石知事の対応は、県知事として到底許容できないものであり、刑事手続が決着した現時点において、人権侵害解消のために速やかに適切な対応を行うことを強く求めます。

 さらに、最近になって、大石知事に知事選への出馬要請を行ったと称する「山口知宏」なる人物が、「大石知事の政治とカネ疑惑は、すべて元監査人という「詐欺師」に陥れられたことによるものであり、大石知事は何ら悪くない」などという誤った言説をYouTube動画等で拡散するなどしており、一連の問題についての刑事事件の決着を受けて、そのような動きを一層活発化させてています。大石知事をめぐる前回知事選挙に関する公選法、政治資金規正法違反の問題については、既に述べたとおり、当職らが相応の嫌疑を持って告発を行うなどしたものであり、一時期大石知事が、政治資金問題について相談する立場にあった「元監査人」の行為や、どのような人物であるかとは全く無関係です。「山口」なる人物がネット上で引き起こしている「騒ぎ」は知事選に向けて長崎県民に誤解を与えかねないもので、それ自体看過できない事態です。

しかも、「山口」なる人物は、上記YouTubeチャンネルの動画中で、詐欺師の元監査人と元職員とが結託して、大石知事の後援会から資金を不正に出金したかのように述べて元職員の名誉を毀損する発言を繰り返していましたことに加え、前記の選挙コンサルタントO氏の令和7年2月8日付け「長崎県議会全員協議会質問書への回答について」と題する長崎県議会議長及び全議員宛ての書面をYouTube動画で公開しました。その中で、O氏は「一連の事案は、元監査人と元後援会事務局職員と共謀の上、自らの経歴や資格を偽って知事に近づき知事を信用させ、後援会預金口座から不正に出金を得しめた詐欺事案だと確信しています」述べています。これにより、上記のとおり、【2000万円問題】について重大な疑惑があるO氏が、同議会での参考人招致を拒絶する理由を述べた県議会議員全員宛ての回答書において、後援会元職員が元監査人と共謀した後援会口座から不正出金を行ったとの虚偽の事実を流布したことが明らかになったものです。かかるO氏の行為も、それをYouTube動画で公開した行為も到底看過できないものです。

「山口」なる人物が引き起こしている一連の問題は、「知事選に向けての大石知事支持者の暴走」であり、立候補を表明している大石知事としても、何らかの対応をとることが不可欠な状況となっています。

  なお、当職は、大石知事及び後援会との関係について元職員の代理人に立場にあり、上記4の問題については、特に強く対応を求めます。

【添付資料】

                                 令和7年11月11日

大石賢吾後援会 事務所長 A 様

                    郷原総合コンプライアンス法律事務所

                             代表弁護士 郷原信郎

                   ご連絡

令和7年11月10日付けファックスの「ご連絡」と題する文書を受信しました。

その文面に、私が「大石知事が記者会見を開かれた際、Aさんが連絡先として示されていた携帯電話番号をマスコの方に教えてもらった」と言ったかのように書かれていますが、私は、「大石知事の記者会見の連絡先となっているAさんの携帯に連絡した」と言っただけです。

後援会元職員から、説明会見の中での「後援会の元職員の方に事実確認の申し入れをしているが対応して頂けていない」との事実に反する発言が行われたことについて、訂正を求めるとともに、もし、事実確認を求めたいとの希望があるのであれば、代理人の私同席で応じることを検討したいということをお伝えすることになり、会見の担当の人に連絡をどなたにとったらよいかを知っているかを元職員に聞いたところ、「Aさんが連絡先と聞いている」とのことでした。A様の携帯番号も、元職員から教えてもらいました。元職員がA様の携帯番号をどのように知ったのかは、私は知りません。

後援会の電話にもかけましたが出られませんでしたし、以前も、何回かけても出られず、ようやく出た方も要領を得ない対応だったので、元職員に聞いていたAさんの携帯電話にかけたものです。

当方としては、ショートメールでも書いたように、上記の訂正要求を直接大石知事に正式にすると公表前提の話になるので、むしろ、会見の担当のA様に直接連絡をした方が、事実確認の話が進みやすいだろうと考えたものです。

私から携帯電話に連絡した際も、「Aさんが会見の連絡先になっているとのことなので」と言ったことに対して、特に異議もありませんでした。書かれているように、電話は30分にも及んでおり、その間、こちらの考え方をお伝えし、A様から、「郷原弁護士の受任は労基署関係だけだと思っていた」などと言われたので、もともとB会長から元職員への連絡に対して「元職員から後援会との関係についての受任通知」をお送りしたこと、その後、後援会のC弁護士から元職員の請求額を全額支払いたいとの連絡があったもので、受任範囲が限定されているなどという誤解は生じる余地がないことをお話ししました。

また、大石知事の側に、いまだに元職員と「元監査人」とが関係があるかのような誤解をされている可能性があることについて、当職が大石後援会との関係で代理人を受任しているだけでなく、元職員から「元監査人」との法的問題についても受任しており、今年3月以降、元職員と「元監査人」とは完全に接触を断っていることも説明しました。A様の方からも「近く弁護士の体制を一新するので、その体制で元職員への事実確認についても検討することになるとの話もありました。

そのような会話が続いていた間、A様からは、「携帯電話の個人情報をなぜ知ったのか」などという抗議は全くなく、私の話の趣旨をご理解の上、「来週木曜日までに返答をする」と言われたので、その電話連絡を待っていたものです。

週明けの月曜日になって、携帯電話への連絡に対して抗議をしてこられるとは思ってもいませんでした。

大石知事には、改めて正式に抗議文をお送りすることになりますが、それにしても、大石後援会のこれまでの度重なる不誠実な対応には呆れているところです。

私は、今回の件で、会見の案内を受けたマスコミ関係者から情報を得た事実は全くありません。記者クラブに厳重に抗議をされるとのことですが、まったくの事実無根なので、記者クラブの方に私にA様の個人情報を漏らしたなどと思い当たる人がいるわけがなく、迷惑極まりないと思います。誤解が生じないよう、この文面を、県政クラブの幹事社に送付しておくことにします。

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大石知事2000万円問題オンライン会見

                               

 昨日(12月16日)行った【大石知事「2000万円問題」オンライン会見】の資料を全文掲載します(会見には、「大石賢吾後援会元職員」も音声のみで参加しました。資料末尾に元職員の発言要旨も添付します)。

大石知事「2000万円問題」に関する直近の動きについて                      

                        弁護士 郷 原 信 郎

                        (大石賢吾後援会「元職員」代理人)

大石賢吾長崎県知事の「政治とカネ」問題について、「山口知宏」なる人物が、「長崎県の闇 を暴く」などと称して、YouTube、X上で、「『元監査人』の正体は『詐欺師』だった」、「大石知事は、詐欺師に騙された被害者に過ぎない」、「選挙コンサルタントは悪くなかった」などと投稿しており、その中で、「大石賢吾後援会元職員(以下、「元職員」)は、元監査人と結託して大石知事を陥れようとしたかのような事実無根の話を拡散されたことで、著しい精神的打撃を受けています。

上記人物は、来年2月の長崎県知事選挙への出馬要請を行うなど、大石知事の支持者であること、上記投稿も大石知事を当選させる目的であることを公言しており、一連の投稿が、大石知事の「政治とカネ」問題について長崎県民に誤った認識を与え、大石知事の選挙を有利に導こうとしていることは明らかです。

元職員が、上記投稿に対する法的措置等の準備のため、資料を改めて確認していたところ、検察審査会において審査中の「2000万円政治資金規正法違反問題」についての大石知事と元監査人とのやり取りに関する記録が発見され、重要な事実が明らかになりました。

そこで、元監査人と元職員、大石知事との各関係、元監査人が大石知事の「政治とカネ」問題に関与した経緯等について、上記投稿の内容との関係を整理した上、新たに把握した「大石知事と元監査人のやり取り」に関する証拠の内容を明らかにします。

1 元監査人と元職員との関係について

まず、最初に明確にしておかなければならないのは、「経歴・職業」について元監査人のウソを、元職員も、その話を元職員から聞いた大石知事も、同様に信じていたものだということです。

そのウソを信じていた元職員が元監査人に短期間の約束で貸付けた金が全く返済されておらず、それについて、当職が代理人として法的措置を受任しているものです。つまり、大石知事が、元監査人に「騙されていた」のであれば、それは元職員も全く同じであり、「財産上の被害者」だということです。

「山口知宏」チャンネルでの最新の投稿の中で、令和7年2月8日付け「長崎県議会全員協議会質問書への回答について」と題する、長崎県議会議長及び全議員宛ての書面が公開され、その中で、選挙コンサルタントが「一連の事案は、元監査人と元後援会事務局職員と共謀の上、自らの経歴や資格を偽って知事に近づき知事を信用させ、後援会預金口座から不正に出金を得しめた詐欺事案だと確信しています」と述べていることが明らかになりました。

元職員が「知事に元監査人の素性を隠そうと意図していたこと」の確信の根拠とされているのは、元職員が元監査人を大石知事に紹介した際に「弁護士資格がある」としていたことについて、「弁護士資格を調査確認することが十分可能だった」という理由です。しかし、この時の3者のやり取りはLINEで、「弁護士資格」というのは「外国の弁護士資格」のことであり、容易に確認できるものではありません(そのような単純な話であれば誰も騙されたりはしません)。

元職員が元監査人と「共謀の上」「知事を信用させ」「後援会口座から不正に出金した詐欺事案」など、全く事実無根であり、元職員に対する重大な名誉毀損です。かかる内容の書面を全長崎県議宛てに送付した選挙コンサル及び書面をネット上で公開した「山口知宏」なる人物については、刑事、民事の重大な法的責任が生じます。かかる書面の公開を作成者の選挙コンサルが了承したのか否かなど事実確認の上、法的措置を検討します。

2 元監査人の位置づけについて

実際の資金移動の実体のない後援会への「2000万円の貸付金」を計上して、信用組合からの借入金返済の資金を得ようとしたのは、上記の選挙コンサルの提案によるものであり、その1年以上後のことで大石知事と関わるようになった「元監査人」は、2000万円貸付金計上や返済を受けたこととは無関係です。

大石知事は、当初、自ら「二重計上」に気づき政治資金収支報告書の訂正を行ったかのような説明をしていましたが、今年10月24日の「説明会見」で記者からの質問を受け、その問題の指摘を受けたのが「元監査人」だったことを認めざるを得なくなりました。

「2000万円問題」について「二重計上」の事実に気付かなかった主張しながら、それに気づいた時期について説明していなかったのは、元監査人に問題を指摘され、「マスコミに発覚したら大変なことになる」と言われて、対応を相談していた事実を知られたくなかったからとしか考えられません。

大石知事が、元監査人と関わりを持つようになった2024年5月以降、大石知事は、元監査人に、自らの選挙資金や政治資金をめぐる問題について相談し、「284万円迂回献金問題」については、田中愛国県議の議会質問を回避することまで相談していました。それに「2000万円問題」が加わり、それをどのようにして切り抜けるかということを相談し、6月19日には、多忙な知事の公務の合間に、元監査人の居住地の沖縄にまで赴いて相談を重ねました。この間、元職員は、元監査人の助言に従って政治資金問題に対応しようとする大石知事の指示に忠実に従って対応しました。

3 オンラインミーティングでの大石知事の発言

今回、元職員は、山口氏にYouTube等で、「詐欺師と結託して大石知事を騙して、不正出金を行った」というようなことを言われ、深く傷つきました。当時の資料を探す中で、スマートフォンに残されたデータの中から、2024年6月9日に、元監査人と大石知事と元職員の3人で、隠蔽の工作について話し合ったオンラインミーティングの記録を発見し、その中で、大石知事が、元監査人に「2000万円」問題の指摘を受け、隠蔽を相談していることが明らかになりました。

当職も、元職員から、この録音記録の該当部分の提出を受け、内容を確認しました。

確かに、大石知事が、1月14日の信用組合からの借入金の流れとは別の12日の2000万円の貸付金に対応する金の流れがなく架空だったことを認めた上で、対応を相談する発言をしています。

以下が、そのやり取りです。

大石知事:聞いてもよろしいですか

元監査人:はい

大石知事:二つあるんですけれども。まず一つは何か、こんなこんなこと聞いたら怒られるかもしれませんが、2000万の貸付の方の1月12日のこの2000万ですね。

元監査人:はい

大石知事:先ほど無くさない方がいいという話あったじゃないですか。

元監査人:はい

大石知事:そこがですね、なんか僕の性格上がないものができてしまうのが非常に不安で…

元監査人:でも知事これね、例えばね、2000万円をね、ないものとして消したとき、これ集中砲火ありますよ。おそらく全国民長崎県民が全員知るわけですよ。

大石知事:はい

元監査人:報道をされるじゃないですか訂正したっていう。そのときに何を訂正した知事が貸し付けたものを貸付なかったということで訂正したっていうことですね。例えば支払いを受けていた。いうようなことを報道されたり、県議が知ったりとかした方が、そっちの方がリスクが高いと思います。

大石知事:なんかもうそこ勘違いでした。最初2000万のつもりでしたっていうのをやっぱ無理で?

元監査人:それじゃ全然通らないですよ。あなた何を考えてるのってなるでしょ。普通は。

大石知事:うん。そうですか。わかりました。その時点でちょっとその心配なのは1月12日に振り込むお金の流れがないっていうところですね。

元監査人:はい

大石知事:私から2000万振り込んだのは事実それは選挙資金、選挙会計で使っているということなんですよね

元監査人:そうです。

大石知事:その分の2000万は多分もう明らかで、医師信用組合からそのまま入ってますと。2000万貸し付けたというところの2000万のお金の動きはどうにかできるんですか? 

元監査人:それを何とかせないかんうん。それをなんとかしてしないと

大石知事:うん

元監査人:それを何とかして。何とかしないと

大石知事は、「後援会の令和4年分の収支報告書において、私からの借入金として計上した2,000万円は、知事選の際に医師信用組合から借り入れて後援会口座に入金した2,000万円と同一のものと考えていた。これとは別に存在しない架空の2,000万円の資金移動をでっち上げて計上したものではない。後援会への貸付けとする金銭消費貸借契約書の締結日が後援会の口座に2,000万円を入金した1月14日ではなく、1月12日となっていたのは、単純な記載ミスであり、後援会から選挙コンサルタントに誤ってその1月12日という日付が伝えられた可能性がある」などと主張していたものです。

しかし、上記の元監査人とのやり取りから、大石知事が、1月12日に振り込むお金の流れがないことを認めた上、医師信用組合からそのまま入っている2000万円とは別に、「貸し付けたというところの2000万のお金の動きはどうにかできるんですか?」と、「金の動き」を事後的に作出することを元監査人に相談していたことは明らかです。

そのような元監査人との話合いの結果行われたのが、架空貸付金の返済の名目で大石知事が受け取っていた約460万円に対応する後援会資金の元監査人側への出金です。これは、2000万円の架空貸付の問題が表面化して追及を受けることを免れるために、実際には存在しない貸付金の返済として後援会から受領した460万円を大石知事が後援会に返金して、それを事後的に解消しようとしたものです。2000万のお金の動きを作ることは実際には行われないまま、元監査人との関係が終了しています。

いずれにしても、大石知事が、「元監査人の提案」にしたがって、「2000万円問題」の隠蔽工作を行おうとしたこと、元職員が、大石知事の指示に従って、後援会の口座からの出金を行ったことは明らかです。

大石知事は、元監査人と呼んでいた人物について、「後援会の資金管理につきまして認識できてない問題点を整理をして、その問題について適正、適法に解決する方法の指導を受けていた」などと説明してきましたが、大石知事と元監査人の関係は、そのようなものではなく、政治資金の問題について隠蔽行為の助言・指導を受けていたことは明らかです。

4 元監査人の「業務終了」の経緯

ところが、その後、大石知事が沖縄に赴くなどして、この重大な政治資金問題について、元監査人に相談を行うなどした後、公選法違反事件への対応のために元監査人から紹介を受けた弁護士との面談を、直前になって大石知事の側からキャンセルしましたが、その直前に、元監査人が大石知事に「業務終了の連絡」を行いました。

この時点で、大石知事は、元監査人に相談するようになって以降疎遠になっていた選挙コンサルや山本啓介議員側と話をして、元監査人と絶縁するように求められたことが原因だと考えられます。「業務終了の連絡」の書面に、「この後はO氏やってもらってください。」「Oは、知事と私に責任を被せようとする供述、都合が悪くなったら黙秘しているから注意して下さい。」などの記載があり、大石知事は、この元監査人からの連絡が、選挙コンサルのO氏に関係していることは認識したはずで、「寝耳に水」だったとは、考えられません。

この点について、同年10月28日の県議会総務員会での集中審議に参考人質疑において、元監査人は、《令和6年6月24日,田中愛国県議に対する答弁終了直後,選挙コンサルタントから後援会関係者に電話があり,答弁で自分のことを「悪く言われた」と激怒していたと聞きました。翌日,25日午後4時14分から18分間,知事から電話があり,「先ほど山本先生から電話があり,昨日の議会答弁のこと,なぜ選挙コンサルタントのことを出すのか,「適正に処理しています」の一言でいいだろうと激怒された。選挙コンサルタントも激怒されているらしく,山本先生から今夜8時半ころに選挙コンサルタントに電話をしてくれと言われました。被告発人同士ですが電話しても大丈夫ですかね?」旨,憔悴しきった声で電話がありました。参考人は、その声を聞いて、せっかく選挙コンサルタントや参議院議員の呪縛という牢獄参考人はその声を聞いて,せっかく選挙コンサルタントや山本参議の呪縛という牢獄から解き放たれたと思った矢先であったが,また元の木阿弥となったことを確信しました。このようなことから、この先、泥船とかに乗るようなことは、これ以上私はできないと判断し、同日午後9時10分、知事からの任務は終了する旨の内容を送信しました。》と述べています。

そして,6月26日午後、元職員は、その日のうちに、「元監査人と結託して後援会の資金を不正出金した」などという、全く事実無根の疑いをかけられ、後援会事務所に出入を禁止され、その後自宅待機を正式に命じられた末に、不当解雇されました。

大石知事は、「政治資金監査」を依頼していた元監査人から、突然「業務終了」を言い渡されたと言っていますが、もし、元監査人側から一方的に言い渡されたのであれば、その直後に、元職員に自宅待機を命じたり、不正の疑いをかけられることはあり得ません。

5 「2000万円」問題の処理について大石知事の元監査人への言動

この「2000万円問題」というのは、大石知事が、選挙コンサルの助言に安易に従って後援会への2000万円の貸付金があったことにして、信用組合への返済原資を得ようとしたことが根本的な原因であり、大石知事の返済金取得と政治資金収支報告書虚偽記入についての責任の有無と、元監査人が「詐欺師」であるか否かとは全く関係ありません。

長崎地検の不当な不起訴処分後の検察審査会への審査申立で、政治資金規正法違反の嫌疑の根拠としているのは、その後援会元職員の供述であり、元監査人の話ではありません。

「山口」なる人物が、「大石知事は被害者」だという話を作り上げるために、元職員が元監査人と結託して不正を行ったかのようなことを公言するに至っていることは、元職員として、断じて許せることではありません。

来年2月の県知事選に向けて出馬表明を行っている大石知事は、大石知事に再選出馬要請を行うなど、大石知事再選支持を明言している同人物が、ネット上で発信を行っていることについて、県議会本会議で、小林克敏県議から質問を受けて十分に認識しているはずです。発信内容が事実に反するものであることを最もよく認識しているはずの大石知事自身が、このまま同人物の発信を放置することは、来年2月の県知事選挙に向け、自らの「政治とカネ」問題について、虚偽の内容を流布しているに等しいと批判されてもやむを得ないと思います。

2期目の選挙での再選をめざす現職知事として良識ある対応を求めるものです。

なお、上記「2000万円」政治資金規正法違反事件については、2025年9月12日に長崎地方検察庁検察官が不起訴処分を行い、10月4日に、長崎検察審査会に審査申立を行っています。上記録音記録は、検察官の事情聴取において、元職員が提出した資料に含まれていますが、本書面も含め、長崎検察審査会に補充資料として提出します。

【元職員 発言要旨】 

 山口氏がYouTubeで発言している件について

~長崎県の闇 元監査人編~より

・元監査人は元職員が紹介と記録に残っている。 画面上のテロップには私から「知事、紹介させてください。国の仕事をしているとても信頼できる方です。」と♡マークをつけて表しています。

→事実は知事が「ご助言いただいている方はどのような方なのでしょうか?」と興味を示し、私は元監査人から聞いていた通りの肩書「海外での生活が長く、今は総務省より特別委託を受けて○○県とかの会計監査をされておられる方です」と伝え、私(元職員)を介しての伝言では伝わりにくいところを整理するために直接二人で初めて通話しています(2024/05/26)。通話終了後に「お繋ぎいただいて感謝申し上げます」とLINEで伝えてきました。この知事と私との一連のやりとりはLINEに残っています。

・その際、元監査人は『総務省匿名委託契約書』を持ってきた。 その頃は、当選直後でバタバタしていた。

その頃は、当選直後でバタバタしていたとの言い分は全く時期が異なる。

『総務省匿名委託契約書』などは持参しておりませんし知事へ渡してもいません。

事実は、

私の後援会の事務職員の方の机の中から、総務省と元監査人を当事者といたします「匿名委託契約書」というタイトルの不自然な契約書が出てきたりもしております。

と令和6年10月2日 臨時記者会見にて発言されておられます。

この私の執務机の中から出てきたとされる元監査人に関する匿名委託契約書は、R6年総務委員会集中審査の際に県議会議長宛ての「抗議文」を書いた人物から大石知事側が提供を受けたものと考えられます。この文書を私は見たこともありません。R6年10月11日付の出口弁護士より質問状に添付されていたのを拝見したのが初めてです。その私の執務机の中から出てきた書面に私の指紋はついていないと断言します。

また、県議会の総務委員会の集中審査の時に、県議会に対する抗議書として、この人物から出ています。抗議書が送られてきたのは10月29日付けとなっております。

大石氏はR6.11月22日の定例記者会見にて(議事録に残っています)、1回目の総務委員会の集中審査の日(9月)にそれを見ていた人物が私(大石知事)宛に直接連絡をいただいたと述べています。がしかし、直接大石知事に連絡をできるダイレクトメールなどはありません。事実はYouTubeで配信中にチャットでつぶやいたその人物に大石知事自身或いは周辺者がコンタクトをとったものと考えられます。

・元職員が「知事から了承を得た」と460万を元監査人に送金している。「知事はそういった指示は全くしていない」と述べている。そもそもこの2人信用できるの?普通に考えて信用できないですよね。なので、それ捜査すれば分かるんですよ。

この件については令和7年3月19日 記者会見においてこのようにのべておられます。

この元職員に関しましては、元監査人を私に紹介をしてきた方でもございます。二人は親しい、恐らく親しい間柄でもあるように思いますので、元監査人の意を受けて、私に改めてお金の流れといったことを説明してきたのではないかなというふうには思います。
 ただ、私はですね、その当時、そのスキームの内容はよく理解できていませんでしたし、適正な方法なのか、まず疑問を感じたところがあります。なので、私は自分で借りようとしていたところもありますし、説明については聞きおきはしたものの、これまで申し上げているとおり、実行について了解をしたことは全くありませんので、そのことは改めて申し上げておきます。

→この送金は知事より指示を受けて行ったものです。

R6/6/9のZOOM会議では、スキームの内容までは決まらなかった。

実際には翌日(R6/6/10午前中)、元監査人と大石知事が2人で話し合いこのスキームの詳しい内容を決めた。その後、各々から私へ電話があり内容を確認し指示に従いその日に100万送金した。後日送付されてくる業務委託契約書へ押印するようにとも口頭で指示されました。

私はその日の夕方知事室に出向き、この件と286万の件を知事へ報告しています。

この時に説明している音声は元監査人がXで発信したもの(郷原弁護士より削除依頼していただきました)が流出したのです。

当時、知事は私どもに 「全力でお支えいただいていること、感謝してもしきれない気持ちでいます。また、元監査人のことは、大変心強い方。お話しさせていただく前から学ぶべきことが多くあると感じています。お話しできる機会を心待ちにしています。」と元監査人に対して全幅の信頼をお持ちでした。ラインにその会話は残っています。

・何が厄介かって、辞める時にこの職員もね、クビになってるのかと思います。この時に要は事務所のデータを全部抜いているんですよ。 ブログに公開とか勝手にしているので、明らかに事務所のデータを抜いてるんですよね。なので、要は好き放題良い感じに編集できるじゃないですか 

 →一方的な自宅待機命令であり、書類等の持ち出しを防ぐために事務所への出入りを禁止しました。データは監査に必要なものは小橋川へ提供したもので、他は私のスマホ内に保存していたものです。小橋川がブログで発信しているもの(LINE等も全く編集はしておらずありのまま)です。

 元職員の勢力の皆さんと動画で言われていますが、私はだれとも組んでいないですし郷原弁護士に代理人となっていただき粛々と真実を述べているだけです。

 山口氏は、大石知事が記者会見等で述べていること全てが真実で嘘偽りがないという前提で話をしています。それこそが根本的な誤りです。真相を知らずに自らが傷口を広げていることに気が付いていません。

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兵庫県情報漏洩問題、斎藤知事「起訴」の可能性と「政治上の説明責任」を考える

2024年3月、当時の西播磨県民局長が、斎藤元彦知事や県幹部を告発する文書を匿名で複数の機関に送付した。知事らを告発する文書が県議会議員、マスコミ等に送付されたことに端を発し、告発者の私的情報を県職員が漏洩したことから、これが県庁の内部告発問題に発展した。

この兵庫県の秘密漏洩問題については、2025年5月の「秘密漏洩疑いに関する第三者委員会」(以下、「第三者委員会」)報告書で、E元総務部長が県議会議員に元県民局長の私的情報を漏洩したと認定し、知事らが指示した可能性が高いとも指摘した。

これを受け、上脇博之神戸学院大教授が、

「斎藤元彦氏は昨年4月上旬ごろ、疑惑告発文書を作った元県西播磨県民局長の男性の私的情報について、議会側に知らせておくようE氏に命じたか、そそのかし、当時の総務部長のE氏が県議3人に文書や口頭で漏らした」

との地方公務員法(以下「地公法」)違反容疑の告発状を神戸地検に提出し、8月20日に受理されている。

当初、漏洩の事実を否定していたE氏は、その後、

「知事や元副知事の指示に基づき職責として正当業務を行った」

と主張し、副知事であった片山氏も、斎藤氏指示の報告を受け

「必要やな」

と容認したなどとしている。一方、斎藤知事はE氏への指示を否定している。

兵庫県の斎藤知事をめぐる事件については、今年11月12日に、いくつかの告発事件について同時に不起訴処分が行われたが(私が上脇教授とともに告発を行った公選法違反事件については、不起訴処分に対して検察審査会に審査申立中)、上記地公法違反の告発事件についての刑事処分は未了である。秘密漏洩の外形的事実を一応認めた上で「正当業務を行った」とするE氏の主張の当否、第三者委員会報告書が「可能性が高い」とした斎藤氏の指示の有無など、事実認定上、法律適用上の問題があり、これらを中心に、神戸地検の捜査と処分に向けての検討が行われていると思われる。

この元県民局長の私的情報の漏洩問題について、刑事事件としてどのような点が問題となるのか、神戸地検の判断はどうなると予想されるのか、刑事実務家の立場から、私なりの分析を行ってみたい。

懲戒処分と刑事処分の違い

最初に指摘しておきたいのは、第三者委員会報告書は基本的に県に対しての指摘であり、地公法違反の秘密漏洩問題への対応も、県として行い得る懲戒処分を念頭に置いたものと考えられることである。

同報告書では、

《地方公務員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならないとされており(地公法34条1項第1文)、この義務に違反して秘密を洩らした者は1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金刑に処せられるとされている(同法60条2号)。》

と秘密漏洩罪に対する罰則を引用した上、

「秘密」とは、 「一般的に了知されていない事実であって、それを了知せしめることが一定の利益の侵害になると客観的に考えられるもの」であるとされている(行実昭和30年2月18日自丁公発第23号)。また、それは、単に本人が主観的に秘密とすることを欲する事実であれば足りるものではなく、客観的に見て本人の秘密として保護に値するものでなければならないとされている。

としている。

ここで引用されている「秘密」の定義は、行政実務に関するものであり、犯罪としての秘密漏洩罪における「秘密」の解釈ではない。同報告書は、秘密漏洩行為が地公法違反の犯罪に該当するとして県に告発を行うことを求めているものではない。

つまり、第三者委員会報告書の認定事実は、そのまま、地公法違反の犯罪の嫌疑に直結するものではないということである。刑事事件として考える場合には、事実認定のレベルと法適用のレベルの両方から別途の検討が必要になる。

事実認定に関しては、そもそも第三者委員会の認定事実の中に、E氏が県議会議員に漏洩した情報の「内容」が含まれていない。3名の県議会議員は、いずれも

「E氏から、元県民局長の私的情報について口頭での説明を受け、紙に印刷された資料を提示等された」

と供述しているが、その中身を見たとは述べておらず、報告書の認定事実には「漏洩した情報の内容」は含まれていない。

刑事事件としての秘密漏洩は、その内容が特定されて初めて「漏洩罪」の成否を論じることができる。

国家公務員法違反の秘密漏洩の刑事事件について、過去の判例等で問題となってきたのは、行政機密の保護の必要性と国民の「知る権利」「報道の自由」との相関関係を背景に、報道機関が取材・報道目的で行政情報を入手した行為についての秘密漏洩罪の成否についての「形式秘説」と「実質秘説」の対立であった。漏洩の対象となる「秘密」とは、行政機関が秘扱等の表示により一般に知られることを禁ずる旨を示した事項を指すのか、それとも、内容的にみて秘密として刑罰による保護に値する実質を持つ事項を指すのかという点だった。外務省機密漏洩事件(「西山事件」)等の判例で、「形式秘」であるだけでなく、「実質秘」であることも犯罪としての秘密漏洩の要件になるとの見解がほぼ確定的なものとなっている。

少なくとも、漏洩した情報の内容が特定されることで初めて「実質秘」か否かを論じることができるのであり、単に「県が秘密として保持している情報を県職員が外部に漏洩しようとして提示した」というだけで秘密漏洩の犯罪が成立するわけではないことは明らかだ。

県の懲戒処分としては、そのような県として秘匿すべき個人のプライバシーを含む情報を漏洩しようとする「県職員の行い」自体で、「公務の運営に重大な障害を生じさせた」と評価することも可能であろうが、犯罪としての地公法違反とは決定的に違う。

第三者委員会報告書において、

当委員会としては、E氏の漏えい行為は、知事及び元副知事の指示のもとに行われた可能性が高いことに加え、口頭でその概要を抽象的表現で述べるとともに、紙に打ち出された資料の一部を提示するにとどまっており、これを実際に交付するなどのことはしておらず、しかも、開示を受けた3議員側が目を背けるなどして消極的に対応したことから、その私的情報の概要は把握できても、具体的内容を現実に認識したとまでいえるものではないことは留意されるべきである。

と述べているのも、E氏の漏洩行為の地公法違反についての事実認定の限界、とりわけ、犯罪としての違反認定とは異なることの注意喚起を含む趣旨であろう。

ということで、この秘密漏洩問題については、少なくとも、第三者委員会報告書の認定事実だけでは、実行行為者のE氏についても地公法違反の秘密漏洩罪を認めることは困難だ。

告発後の捜査による漏洩内容の特定の可能性

もっとも、告発を受けての捜査によって、E氏が、県議に、単に提示しただけでなく、私的情報の中身をある程度知らせた事実や、他の人にその私的情報の中身を漏洩したなどの事実が明らかになれば、秘密漏洩の犯罪を認める余地も出てくる。

E総務部長による元県民局長の私的情報の漏洩について報じた週刊文春(令和6年7月25日号)記事では、

「人事課を管轄する総務部長が、大きなカバンを持ち歩くようになった。中には大きな二つのリングファイルに綴じられた文書が入っており、県職員や県議らにその中身を見せて回っていたようです」

「リングファイルの中身は、押収したPCの中にあったX氏の私的な文章。どうやらその文章は、四人組によって、県議や県職員の間に漏れていたようです。事実、私もこの四月に産業労働部長から文章の内容を聞かされました」

「六月ごろから、今度は維新会派の県議たちの間にも私的文章が流出したようだ。すると、維新の岸口実県議と増山誠県議が、百条委員会の場でX氏(元県民局長)のPCに入っていた全てのファイルを公開するよう強く主張し始めた」

などとされており、告発を受けての神戸地検の捜査によって、県議等に私的情報の中身を提供した事実が明らかになる可能性もないとは言えない。

仮に、E氏が元県民局長の私的情報を県議に漏洩した事実及びその情報の中身が特定できたとすれば、地公法違反の秘密漏洩の犯罪の外形的行為は認められることになる。

E氏は、知事に対し、「元県民局長の公用パソコン内に、元県民局長の私的情報にかかる大量の文書等があることが分かった」などと報告したところ、知事から

「そのような文書があることを、議員に情報共有しといたら」

と指示されたと主張しており、片山氏の供述とも整合している。

斎藤氏は、そのような指示はしていないと述べているが、E氏、片山氏と斎藤氏との関係性からしても、この点についてのE氏の供述の信用性は高いと考えられる。

「斎藤知事の指示」はあったと認められる可能性が高く、E氏の秘密漏洩の外形的事実と漏洩した秘密の内容が一定程度明らかになれば、「命じたか、そそのかした」と認められる可能性が高いようにも思える。

秘密漏洩罪の対象としての「秘密」該当性

しかし、この場合、漏洩した「情報」が、秘密漏洩罪の対象となる「秘密」に該当するのか否かが問題になる。

前記のとおり、判例上、秘密漏洩罪の対象となる「秘密」は、「形式秘」であるだけでなく、「実質秘」であることが必要と解されているが、「実質秘」に該当するかを論じる上でも、「行政機関が秘扱等の表示により一般に知られることを禁ずる旨を示した事項」という「形式秘」の要件を充たすこと、つまり、行政機関側が「秘密」として取り扱っていることが前提となる。それについて、秘密指定が権限ある者によりなされているか、指定が明示的であるか、あるいは適切な取扱いや管理が行われているかなどから判断されることになる。

もっとも、法律の規定により当然に秘密として秘匿されるべきとされているものである場合は、「実質秘」性を論じる必要もなく、「行政機関による明示的な秘密指定」は不要である。例えば、国家公務員である検察官や、地方公務員である警察官が、刑訴法上の権限によって収集した証拠の内容は、法律が当然に「秘密」としているのであり、行政機関の長による秘密指定がなくても、秘密漏洩罪の対象としての「秘密」である。

では、E氏が漏洩した可能性がある元県民局長の「私的情報」が、秘密漏洩罪の「秘密」の前提条件を充たしているといえるか。

第三者委員会報告書において、E氏による漏洩の対象とされているのは、この元県民局長の公用パソコン内にあった私的情報を人事課担当者が県庁に持ち帰り、そのうちの一部のファイルを印刷して保管したいわゆる「緑ファイル」だ。

報告書によると、E氏は、総務部職員に、私的な文書の内容が分かる資料の作成を指示し、職員の一人が自らの判断でフォルダから適宜抜粋し、会談室で、勤務時間外に、マスター用1部を片面印刷で、その他の4部は両面印刷で計5部印刷し、これらをいずれも緑色の厚綴じフラットファイルに綴ったうえで、E氏のほか総務部幹部4名に両面印刷のファイル各1部を手渡し、残りのマスター用1部を人事課内の鍵付きロッカー内に保管したとされている。

このような経緯からは、この「緑ファイル」は、E総務部長の指示により総務部内でごく僅かの人間が所持していたものであるが、組織として秘密事項として指定した上で管理していたと言えるかは疑問だ。

「緑ファイル」は秘密漏洩罪の「秘密」か

では、この「緑ファイル」が、秘密漏洩罪の対象としての「秘密」の前提条件を充たすのか。

そもそも、この元県民局長の公用パソコン内にあったデータを、県の人事課担当者が持ち帰ることになった「調査」は、斎藤知事の指示により、県議やマスコミに送付された告発文書の犯人探索のために人事担当部局で行われたものであり、そのような「告発者の探索」を行うこと自体の適法性についても問題が指摘されている。

少なくとも、刑訴法の権限に基づく犯罪捜査のような定型的業務や手続ではなく、収集した資料が法律上当然に「秘密」とされるとは考え難い。個人のプライバシー情報を公的権限によって取得したものであることから「秘匿すべき要保護性」は高い。しかし、「緑ファイル」については、総務部長によって秘密指定や適切な取扱い、管理が行われていたとは言い難い。秘密漏洩罪の対象としての「秘密」の前提条件を充たしているかどうかには疑問がある。

「斉藤知事の指示」と秘密漏洩罪の成立との関係

前記のとおり、E氏の漏洩行為は「斎藤知事の指示」によるものであったと認められる可能性が高い。しかし、仮にそのように認定できる場合、秘密漏洩罪の成否について、困難な問題が生じることになる。

国公法、地公法が規定する「秘密漏洩罪」は、当該行政機関が「秘密」としている情報を漏洩する行為であり、その行政機関の長が「漏洩」を指示したり容認したりしたのであれば、それは、「形式秘」に該当せず、秘密漏洩罪の対象としての「秘密」に該当しないと考える余地がある。

なぜなら、従来の判例において問題にされてきたのは、「形式秘」であっても「実質秘」に該当しない「秘密としての保護に値しないもの」があると言えるか否かであり、「形式秘」の指定権者が、「実質秘」に当たる情報を開示することは想定されていなかったためである。

前記のとおり、E氏が漏洩した可能性がある「緑ファイル」は、要保護性が高い個人情報であるが、秘密としての指定や管理状況からは、秘密漏洩罪の対象としての「秘密」に該当するか否か疑問がある。

それに加え、その漏洩行為について、秘密指定の権限を有する行政機関の長である知事自身が、「そのような文書があることを議員に情報共有するように」との指示を行っていたとすれば、行政機関の長として漏洩を指示ないし容認し、議員との情報共有に関して「秘密の指定」を解除したことになる。

行政機関としての「形式秘」を重視する考え方を徹底すれば、その「秘密指定解除」が法律の規定に違反し、或いは裁量権を逸脱するものでない限り、秘密漏洩罪は成立しないことになる。

一方、秘密漏洩罪の「実質秘」該当性は裁判所の判断によるべきとの考え方に立つと、行政の長が「形式秘」の指定を解除して漏洩する行為についても、秘密漏洩罪の成立が肯定される余地があることになる。

斉藤知事の裁量権の逸脱の有無

そこで問題となるのが、行政機関の長が「漏洩」を指示したり容認したりしていた場合、それが法律の規定に違反し、又は裁量権を逸脱すると言えるか、或いは、「形式秘解除の指定」によって「実質秘」を漏洩したものと評価し得るかである。

E氏が漏洩した可能性がある「緑ファイル」は、要保護性が高い個人情報であり、それは、県として秘匿すべき情報として指定し、適切な管理を行うべきであった。しかも、その情報は斎藤知事の指示により、県議やマスコミに送付された告発文書の犯人探索のために人事担当部局の調査で収集されたものである。そのような「告発者の探索」を行うこと自体の適法性自体にも問題がある。それは、「斎藤知事の指示」による行政機関の長としての「形式秘」からの除外が、裁量権の逸脱、無効とみる理由にもなり得る。

しかし、このような「告発者の探索」について、「文書問題に関する第三者調査委員会」(以下、「文書問題第三者委員会」)の違法の指摘にもかかわらず、斎藤知事は、「誹謗中傷性の高い文書」への対応として適切・適法だったと主張しており、その結果収集された元県民局長の私的情報についても、告発者に関する情報開示の必要性を強調するであろう。

このような斎藤氏の主張を否定して、「秘密指定の解除」が裁量権の逸脱であって無効とし、或いは「実質秘」の漏洩に該当するとして、行政機関の長の行為を秘密漏洩罪で起訴し、裁判所の判断に委ねるというのは、検察当局にとっても著しく困難である。

結局のところ、告発の根拠とされた第三者委員会報告書の認定事実には「漏洩した情報の内容」が含まれておらず、それだけでは秘密漏洩罪に当たるとは言えない上、刑事事件の捜査で漏洩した私的情報の内容が特定できたとしても、県が入手していたその元県民局長の私的情報を内容とする「緑ファイル」が秘密漏洩罪の対象としての「秘密」に該当するか否か疑問であること、仮に、漏洩について斎藤知事の指示があったとすると、それが「秘密指定の解除」として秘密漏洩罪の成立を否定する事由にもなり得ること、という2つのハードルがあり、E氏も含めて、秘密漏洩罪での起訴の可能性は極めて低いと言わざるを得ない。

公選法違反の告発事件との比較

この秘密漏洩の告発に対して、検察が不起訴処分をした場合、上記の通り、それは秘密漏洩罪の成否についての根本的な問題によるものであり、検察審査会に申立てても覆ることはないと考えられる。

一方、既に検察の不起訴処分が出されている斎藤知事の公選法違反については、検察の判断によって告発の根拠となった嫌疑が否定されたとは考え難く、検察審査会への申立に対する判断が注目される。

比較の対象としての公選法違反事件について付言すると、この告発において公選法違反の嫌疑の根拠としたのは、①折田note投稿の内容から、折田氏ないしmerchu社が斎藤氏の当選のためにSNS広報戦略を主体的裁量的に行ったと認められること、②知事選のボランティアでの選挙運動をしてくれる人を探す中で、斎藤氏自身がmerchu社を訪れ、そこで、SNSによる広報戦略についてのプレゼン提案を受けたが、その後、折田氏にはボランティアで選挙運動をやってもらうことにする一方で(実際に、折田氏は、動画撮影・編集、SNSアカウント開設・運用等を行っている)、merchu社には「ポスター、チラシデザイン制作」「公約スライド制作」等の5項目のみ71万5千円で発注したとの代理人説明が不合理であること、③上記の①②から、71万5千円は、折田氏ないしSNS運用等のmerchu社が行った選挙運動の対価である疑いが強いこと、④71万5千円の対価支払の対象業務とされた「ポスター、チラシデザイン制作」「公約スライド制作」も、実際に行った業務の内容が「選挙運動」であり、その対価の支払は買収罪に当たること、の4点であった。

検察の不起訴処分の理由は、③について「71万5千円は、選挙運動以外の対価である可能性が否定できないこと」と説明されただけで、①②④についての説明はなかった。逆に、①については、その後の報道等で、折田noteの信用性を裏付ける事実が出てきている。

検察審査会への申立では、少なくとも④について公選法違反の成立は明らかであり、不起訴処分後の産経新聞による「merchu社が斎藤氏側に送付した見積書」の内容から、③の疑いが一層強まった上、④についても、merchu社側の「兵庫県知事選挙に向けたブランディング・広報」という明らかに選挙目的の業務に含まれる提案の一部を5項目として切り出している「ポスター、チラシデザイン制作」「公約スライド制作」等が斎藤氏に当選を得させるための選挙運動であることを一層強く根拠づけると主張した。

検察の不起訴処分には行政組織の関係が影響している可能性があり、検察審査会の「市民の常識」によって判断が覆ることが期待される案件である。その点において、上記のように犯罪事実の認定や法律適用の判断に関して多くの困難な問題がある秘密漏洩罪の地公法違反の事件とは大きな相違がある。

「兵庫県斎藤知事問題」をめぐる「司法判断」と「政治責任」

以上のとおり、秘密漏洩問題では、斎藤知事が刑事責任を問われる可能性は極めて低いと言わざるを得ない。しかし、そのことは、決して、この問題について斎藤知事の責任全般を否定するものではない。

秘密漏洩罪の成立を否定する理由の一つとなる「秘密」に該当しない可能性という問題は、元県民局長の個人のプライバシーを含む要保護性の高い情報を内容とする「緑ファイル」の管理を適切に行わなかっただけでなく、それを県議会議員と情報共有することを指示することで、本人の了解もなく第三者への開示を指示するという県の情報管理の最高責任者としての義務に著しく反する行為によるものである。しかも、それは、斎藤知事自身が指示した「告発者の探索」や「記者会見での公務員失格批判」等の告発文書への対応を正当化するという「私的目的」によるものであることが強く疑われる。

かかる事情を考慮すれば、秘密漏洩罪の告発事件について検察の不起訴処分が行われたとしても、それを機に、刑事責任とは別個に、斎藤知事の政治責任が厳しく問われるべきであろう。

一方、公選法違反事件については、上記のとおり、検察審査会の申立において、実質的な判断が期待される状況にあるが、不起訴処分で刑事事件につい決着がついたかのように述べている斎藤知事には、告発の嫌疑の根拠となった上記①~④のうち、少なくとも斎藤氏自身が直接関わっている②については重大な説明責任がある。

ところが、斎藤知事は、刑事処分が出されるまでは、「代理人に任せている」として一切の説明を拒絶し、刑事事件の取調べでいかなる説明を行ったのかも不明で、不起訴処分後も全く説明を行っていない。

斎藤氏は強大な権力を持つ地方自治体の首長であり、その権力者としての地位を得た知事選挙における公選法違反の疑いの発端となったのが、斎藤氏が県知事の職務の中で深い関わりがある折田氏のmerchu社を自ら訪問し、SNS運用等について話し合ったことである。斎藤氏が、告発事件について検察の不起訴処分で「決着がついた」と考えるのであれば、それを前提に、少なくとも②についての説明をするべきではないか。

merchu社はSNS運用や広報戦略を専門とし、兵庫県を含む、自治体における行政関連業務を得意とし、兵庫県とも関係性があった。例えば選挙前、merchu社は斎藤県政下の兵庫県から「ひょうご・こうべ女性活躍推進企業」や「ひょうご仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)推進企業」として表彰を受けており、正社員わずか数名の小規模企業ながら、県の公報誌などで折田氏の活躍が度々紹介され、県HPトップページで「優良企業」としてPRされていた(2024年11月下旬に削除)。そして、同社は、兵庫県とは直接の契約関係はないものの、県が運営する地域情報アプリ『ひょうごe-県民アプリ』のリニューアルについて、再委託という形で関与している。

折田氏個人も、「兵庫県地域創生戦略会議」の委員、「兵庫県eスポーツ推進検討会」の構成員、「次世代空モビリティひょうご会議」の有識者(構成員)に任命されており、県の政策立案に関与していた。

このように県知事の職務上、公務で一定の関係性があり、また、業務上(特に将来的に)関係がないとはいえないmerchu社を、斎藤氏自らが訪問し、知事選挙での選挙関連業務を発注し、一方で選挙の応援を受けること、それは、仮に無償のボランティアであったとすれば、なおさら重大な問題があると言える。その点に関して、斎藤氏には、刑事責任とは別個に重大な政治的説明責任がある。

司法判断への関心集中と「分断対立」の激化、政治的説明責任による解消を

斎藤知事の問題をめぐる兵庫県の「分断対立」は、知事選での斎藤氏再選後1年を経過しても、一層激しさを増している。

発端となった元県民局長の告発文書への対応の問題については、文書問題第三者委員会報告書において、公益通報者保護法違反の指摘のほかに、原因・背景分析等として、斎藤県政下におけるパワハラの背景になった構造的問題についても掘り下げた分析が行われ、極めて示唆に富む指摘が行われているが、斎藤知事は、報告書について「真摯に受け止める」と述べるだけで具体的には言及せず、同委員会の公益通報者保護法違反の指摘についても「他の見解もある」と述べて受け入れない。

これについては、罰則が適用される問題ではなく、「司法判断」に訴える術がないため、消費者庁の見解や国会答弁等を根拠とする「公益通報者保護法違反を受け入れない知事」との批判だけがエスカレートしている。

知事定例記者会見では、実質的には何も答えない斎藤知事に対してフリーランスの記者等からのエキサイトした質問追及が繰り返され、庁舎の周辺では「斎藤知事辞めろ」デモの騒音で近隣にも迷惑が生じるという異常な事態になっている。

斎藤知事側、追及する側双方の姿勢に問題があり、相互不信による対立の激化が、外部の「司法判断」による解決を期待することにつながっているのであるが、本来、兵庫県という地方自治体組織の長たる県知事の信頼に関する問題なのであり、県民の負担により設置された第三者委員会報告書の記述、指摘等に基づいて、兵庫県としての議論が尽くされ、解決が図られるべき問題である。しかし、これまでの経過を見る限り、それが十分に行われてきたとは考えられない。問題の追及、議論が不十分なまま外部の「司法判断」に委ねようとしても、そこには限界がある。

マスコミや県議会が、斎藤知事に対して、明らかになっている事実に基づいて政治的説明責任を適切に追及し、斎藤知事が正面から説明・答弁することを通して、良識ある県民の問題意識と理解を深めていくことが必要である。それなくして、「兵庫県の分断対立」が解消に向かうことは期待できない。

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兵庫県斎藤知事をめぐる分断対立を背景とする「SNS侮辱略式起訴騒ぎ」と“公文書偽造・同行使罪”の疑い

今年6月、ある「侮辱罪による略式命令」をめぐって「騒ぎ」が発生した。

発端は、阪神・淡路大震災30年の慰霊のために神戸を訪問された天皇皇后両陛下と斎藤知事との写真に、百条委員会で斎藤知事を追及した県議会議員の丸尾牧氏の名前を出して「丸尾が黒幕」などのセリフを重ね合わせた画像等が、「北海道の歩き方」と称するX(旧ツイッター)の匿名アカウントに投稿されたことだった。

それに対して、個人でYouTubeチャンネルを開設し、毎日、YouTube動画による配信を行っている元民放局アナウンサーの子守康範氏が、自身のYouTubeチャンネルで「度を過ぎた遊びとも言えないことをやっている奴らがいる。」「単なる頭おかしい奴らが書いていて」などと発言したことに対して、匿名アカウントの運用者(後述するように、被害者特定事項秘匿制度の対象とされ、告訴人氏名は刑事事件でも秘匿されている。以下、運用者を「A」という。)が刑事告訴を行い、子守氏が侮辱罪で9000円の科料の略式命令を受けた。

本来、略式手続は、公判と異なり非公開で、少額の罰金・科料を支払うことで刑事事件を決着させる手続である。14日以内に正式裁判を申立てれば略式命令は失効し、通常の公判手続に移行する。実際に、その後、子守氏は、この略式命令に対して正式裁判申立を行っており、無罪主張をする方針を明らかにしている。

ところが、この件に関して、検察が公表もしていないのに、「略式起訴」がネット上で公開され、騒ぎに発展した。それは、略式命令が出された直後、まだ子守氏に命令書が送達されていない時点で、Aが、検察官名義の告訴人A宛ての「処分通知書」を一部マスキングして添付し、起訴されたことが子守氏だとわかるような内容のX投稿を行ったことによるものだった。

それを受けて、弁護士の福永活也氏が、Xに、

「書類送検どころか、子守康範氏が起訴されたという情報が入ってきましたが、本当ですか!?」

と投稿、略式手続に対する同意書に署名しただけで、略式命令の送達も受けていなかったため、その時点では「起訴」されたとの認識がなかった子守氏は、

「デマ拡散の魚拓いただきました。裁判所で会いましょう!」

と反応した。しかし、その後、処分通知書がX上にアップされていることを知り、YouTubeで「略式起訴」されたことを認めて謝罪した。

これを受け、福永氏は、

「子守康範氏が侮辱罪で起訴され、犯罪者となります。」

と題するYouTube動画を配信し、その直後、立花孝志氏が、自身のYouTubeで

「おい、犯罪者子守康範、てんコモリスタジオの元TBS系MBSアナウンサー」

「起訴されたんやろ。略式受け入れるんやろ。犯罪者確定やないか、前科持ちやないか!」

などと、SNS上で子守氏のことを「犯罪者」「前科者」などと騒ぎたてた。

「北海道の歩き方」と称する匿名アカウントの運用者Aは、X、YouTubeなどの投稿を行っている。その投稿では、百条委員会で斎藤知事を追及した竹内英明元県議(斎藤知事再選後に県議を辞職し、今年1月に死亡)、丸尾牧県議等の「反斎藤派」を揶揄する投稿を続けており、その中で、竹内元県議や、告発文書の作者である元県民局長の写真を便器や汚物と重ね合わせるコラージュを投稿するなど、非常識な投稿を行い、「批判の炎上」により注目を集めて視聴数を稼ぐ、というやり方を繰り返している「斎藤派」の匿名投稿者である。

その「北海道の歩き方」のX投稿を批判した子守氏は、YouTube等で、兵庫県知事をめぐる問題に関して、元県民局長の告発文書に対する斎藤知事の対応等を批判してきた。反斎藤派の中心人物と目され、斎藤派からは反感を持たれている。

子守氏が侮辱罪で起訴されたことを伝えるYouTube動画を配信するなどした福永活也氏は、NHK党の立花孝志氏の支持者である。立花氏は、昨年11月の兵庫県知事選挙に「斎藤氏を応援するため」と称して立候補し、「2馬力選挙」で斎藤氏の当選に貢献したとされている「斎藤派」であり、福永氏は、2024年の衆議院議員補欠選挙東京15区にNHK党から立候補したこともあり、YouTube等で「反斎藤派」を批判する発信を行っている。

このように、「SNS上での侮辱」をめぐる科料9000円の略式命令が「騒ぎ」に発展した背景には、兵庫県斎藤元彦知事をめぐって続く「斎藤派・反斎藤派」による分断対立の構図があるのである。

この問題は、侮辱罪の法定刑引上げの刑法改正、被害者特定事項秘匿制度の導入の刑訴法改正など、最近の刑事法改正の法運用だけでなく、本来、非公開の手続である略式命令の運用にも関わるものである。この事件に対する検察庁・裁判所の判断如何では、今後、SNS上で発生する同種の問題が、刑事司法の世界に大量に持ち込まれることになりかねない。

私も、ネット上での「騒ぎ」の時点でこの問題に関心を持ち、ネット上で入手し得る限りの情報を収集した。それによって把握した事件の経過と事実関係に基づき、この事件が今後の刑事司法の運用に与える影響も含めて解説することとしたい。

「北海道の歩き方」の投稿と、子守氏の発言内容、刑事事件化の経過

令和7年1月16日、天皇皇后両陛下が、阪神・淡路大震災から30年の追悼式典に参加されるため神戸空港に到着された際に、斎藤知事が出迎えた場面の映像に、両陛下と斎藤知事の会話を重ね合わせた以下のような画像をアップした。

このX投稿へのリプライとして、「北海道の歩き方」自身が、

    天皇「竹内君は消しといたから」

    斎藤知事「有難きお言葉」

などと付け加えている。

これを見た子守氏は、同日、「てんコモリスタジオ」でのYouTube配信で、

北海道の歩き方というXアカウントがありまして炎上しております。

ふざけたことをやりよったんですね。

と述べて、そのような心ない投稿が、いかに大震災被害者の心を傷つけるものであるかを話す中で、

度を過ぎた遊びとも言えないことをやっている奴らがいる。

単なる頭おかしい奴らが書いていて、脳内麻薬が出ているのかしりませんが、薬打ってるような感じで

などの表現も使った。

前記のとおり、「北海道の歩き方」のAは、SNS上で、竹内元県議や元県民局長など故人の写真と便器・汚物を組み合わせた侮辱的な画像の投稿を繰り返すなど、度の過ぎた悪ふざけ投稿を繰り返してネット上で注目を集め、多くの視聴を獲得して利益を上げている。死者に対する侮辱罪がないことからこの点は罪に問うことはできないが、遺族の心情を思うと、その所業は凡そ許せることではない。

そして、そのAの悪質性が極端なまでに表れたのが、阪神・淡路大震災30年の慰霊のために神戸を訪問された天皇皇后両陛下と斎藤知事との会話に「黒幕」「丸尾」などの言葉を重ね合わせた画像の投稿だった。

しかも、それに天皇陛下のセリフとして、

《天皇「竹内君は消しといたから」》

などという言葉まで書き加えている。

その投稿の2日後の1月18日に、竹内元県議は自ら命を絶った。

大震災から30年、両陛下の慰霊訪問を厳粛に受け止め、6434人の犠牲の御霊に静かに祈りを捧げたいと思う兵庫県民にとって、その両陛下と斎藤知事との会話に、兵庫県の分断対立を象徴するような言葉を重ね合わせ、心をかき乱すような投稿がネット上で拡散されていることに対して、強烈な反感を抱くのは極めて自然な反応であろう。両陛下と丸尾牧議員、竹内元議員を誹謗中傷するものであり、一般人の常識からは考えられない悪質な投稿である。

子守氏が、「度を過ぎた遊びとも言えないことをやっている」「単なる頭おかしい奴らが書いていて」と表現することも、むしろ「当然の反応」と言うべきであろう。

しかも、同投稿では、天皇皇后両陛下と斎藤知事の会話として「で、結局誰が黒幕なの?」「丸尾です」「やはりですか…」「不敬罪で収監して!!」などのやり取りが記載されている。この会話の中の「丸尾が黒幕」というのは、昨年11月の兵庫県知事選挙の、選挙期間中にSNS、街頭演説等で発信し、丸尾牧氏ら斎藤知事を追及する側の県議会議員に対する批判として流布されることで選挙結果にも大きな影響を与えた「政治的発言」である。しかも、同言説はもともと極めて根拠薄弱で、後日、「デマ」であることを発言者の立花氏自身も認めている。

憲法上、「国民の象徴」であり、政治的発言を禁じられている天皇陛下が、兵庫県知事選挙で立花氏が発言したフレーズを用いて兵庫県知事と会話をしているかのような、国民にとっても到底許容できない表現を含んでいるのであり、投稿の異常性、反社会性は際立っていると言わざるを得ない。

ところが、このような非常識極まりないX投稿を批判された「北海道の歩き方」のアカウント運用者のAは、上記の子守氏の発言が名誉毀損に当たるとして、同年2月初め、兵庫県警に告訴状を提出した。

兵庫県警は、A、子守氏の聴取、YouTube発信の現場の確認等の捜査を行って、書類を神戸地方検察庁に送付、神戸地検では刑事部のT検事が担当し、子守氏を取調べた上、6月16日に、侮辱罪で神戸簡易裁判所に略式命令請求を行い、同月18日、科料9000円の納付を命ずる略式命令が出された。

Aへの処分通知書の送付と、ネット上での公開

告訴事件の場合、検察官の処分結果について、告訴人に「処分通知書」が送付される。子守氏を告訴したAに対しても、処分日の6月16日付けで、「処分区分 起訴」と記載された処分通知書が送付された(「略式請求」と、正式起訴の「公判請求」とは異なるが、処分通知書の「処分区分」としてはいずれも「起訴」となる)。

Aは、6月20日に、処理罪名を侮辱、被疑者名と検察庁の事件番号を「黒塗り」にしたT検事名義の告訴人「大森貴逸」宛ての処分通知書を、「北海道の歩き方」のXアカウントの冒頭に貼り付けて掲載し、本文に

【(祝)起訴されました(祝)】当アカウントを誹謗中傷した反斎藤派の「名前を言ってはいけないあの人」は神戸地検に【起訴】されました。

竹内嫌疑への誹謗中傷はやめるよう呼びかける一方で、斎藤知事や斎藤知事擁護派の人を誹謗中傷するダブスタはやめましょう。マスゴミもやぞ

と書いて、「起訴」されたのが子守氏であることを暗示した。

そして、福永活也氏が、同日午後9時5分に、

「書類送検どころか、子守康範氏が起訴されたという情報が入ってきましたが、本当ですか!?」

とのX投稿を行い、それを見た子守氏が、

「デマ拡散の魚拓いただきました。裁判所で会いましょう!」

とX投稿した。

こうして、「北海道の歩き方」のアカウントの運用者のAから情報や資料の提供を受けた福永氏が、SNS上で子守氏に「起訴」について質問し、それに反発した子守氏が「デマ拡散」などと投稿した。その後、福永氏は子守氏に対して名誉毀損による損害賠償請求訴訟を提起している。

福永氏は、Aから子守氏が起訴されたことが書かれた検察官名の「処分通知書」を送付され、それを根拠に、「子守氏起訴」は間違いないものと考えて、上記X投稿を行ったのであろう。

Aの目論見は、批判者の子守氏が「科料9000円を支払わされること」ではなく、「刑事罰に処せられた犯罪者、前科者として批判にさらすこと」だ。そのために、「検察官の処分通知書」が「告訴人」に対して送付されることは、格好の材料だった。しかし、その処分通知書の真正な書面をそのままネット上で公開すると、告訴人本人の氏名が記載されているので、「北海道の歩き方」のアカウント運営者Aの実名が公開されることになる。

そこでAが行ったのが、告訴人名を改ざんした「処分通知書」をX投稿で公開するという行為だった。

Aは、その日の夜に参加したXアカウントのスペースのライブ放送で、そこに参加した福永氏に、

大森さんの名前書かれていますよね、処分通知書に。だから「北海道の歩き方」さんが大森さんであることは、まあ見て分かるわけじゃないですか。

と聞かれて、

そこはボク、あの「大森」じゃないっす。これは釣りで入れました

と言って、「大森貴逸」が仮名であることを認めている。つまり、Aは、検察官名が記載され押印された処分通知書の宛先の「告訴人名」に記載された自分の実名を、仮名に改ざんして福永弁護士に送付し、ネット上で公開したのである。それによって、Aにとって、自分の実名を知られることなく、子守氏が起訴されたことをネット上で広く知らしめることが可能となった。 

しかし、以下に詳述するように、そのようなAの行為は、有印公文書偽造・同行使罪に該当する可能性が高い。つまり、Aの目論見は、「重大な犯罪行為」を行うことによって、初めて可能になるものだったのである。

Aの行為についての有印公文書偽造・同行使罪の成立

Aは、検察官作成名義の公文書である処分通知書の宛先の告訴人名欄に「大森貴逸」という文字を組合せて「別人宛の処分通知書」を作り上げた。

公文書の一部を改ざんして原本と異なる写真コピーを作成する行為については、公文書偽造罪の成立を認めるのが、最高裁判決(昭和51年4月30日)以降の確立した判例となっている。

同判決は、

原本の作成名義を不正に使用し、原本と異なる意識内容を作出して写真コピーを作成するがごときことは、作成名義人の許容するところではなく、また、そもそも公文書の原本のない場合に、公務所または公務員作成名義を一定の意識内容とともに写真コピーの上に現出させ、あたかもその作成名義人が作成した公文書の原本の写真コピーであるかのような文書を作成することについては、右写真コピーに作成名義人と表示された者の許諾のあり得ないことは当然であって、行使の目的をもってするこのような写真コピーの作成は、その意味において、公務所または公務員の作成名義を冒用して、本来公務所または公務員の作るべき公文書を偽造したものにあたるというべきである。

と判示している。

本件では、担当検察官は、告訴人のA宛てに、子守氏の「起訴」を通知する書面として送付したのであり、それをAが勝手に「大森貴逸」などと告訴人名を改ざんし、あたかも大森という人物が告訴人であるかのような内容の「処分通知書」が作成され、それがネット上で公開されることは、作成名義人である検察官の許容するところではないことは明らかだ。

また、原本に名前を貼り付けるなど、原本だけ見れば真正な文書と誤信しないような改ざんであった場合でも、それをコピーすることで、原本とは別個の文書を作り出すのであるから、文書の変造ではなくすべて偽造罪が成立するというのが判例(最決昭和61年6月27日)の立場である。

偽造公文書の「行使」とは、「偽造された公文書を真正に作成された公文書として人に認識させ、または認識可能な状態に置くこと」であり、Aが告訴人名を仮名に改ざんした担当検察官名義の「処分通知書」のコピーの画像を、真正な書面が存在するかのように他人に認識させるためにX投稿でネット上に公開する行為は「偽造公文書の行使」に当たると考えられる。 同じ「偽造公文書行使」でも、真正な文書と見分けがつかない偽造公文書の画像がSNS等で公開された場合、特定の相手に提示する場合と比較して拡散性が高く、公文書に対する信頼を失墜する程度が著しい。そういう意味で態様が極めて悪質な「偽造公文書行使」と言うべきであろう。

背景となった「被害者個人特定事項秘匿」と侮辱罪の法定刑引上げ

上記Xスペースで、Aは

「刑事だと被害者名が秘匿されるが、民事だと公開されるから、刑事告訴を選択した」

と述べている。被害者名が秘匿されることを前提に、刑事告訴を選択したようだ。

被害者の個人特定事項秘匿制度は、2024年(令和6年)2月施行の改正刑事訴訟法で導入されたもので、性犯罪等の事件について、逮捕、勾留、起訴にあたって被害者の個人特定事項(氏名及び住所その他の個人を特定させることとなる事項)を被疑者・被告人に明らかにしないまま刑事手続を進めることが可能になった。

略式請求についても、検察官の請求により、裁判所が、個人特定事項の秘匿措置をとるかどうかを判断する。

被害者の個人特定事項の秘匿制度の対象となるのは、原則として、性犯罪、児童買春、児童ポルノ関連事件など、被害者のプライバシーの保護が強く求められる事件である。その他に、「犯行の態様、被害の状況その他の事情により、被害者の個人特定事項が被告人に知られることにより」「被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれ」「被害者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれ」も対象に加えられている。

既に述べたように、「北海道の歩き方」アカウントにおけるAのSNS投稿に対しては、ネット上で大きな反発・批判が生じており、アカウントの運用者のAの氏名等が公開されると、A自身に厳しい批判が殺到することは必至だ。そういう意味では、「被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれ」に当たるとされる可能性はある。その場合、起訴状の被害者の記載は匿名化され、被害者の証人尋問が行われる場合も、性犯罪被害者のようにビデオリンク方式で、法廷外とつないで行うという措置がとられることになる可能性がある。

しかし、Aが「北海道の歩き方」と称する匿名アカウントで行ってきた所業の悪辣さからすれば、それに対して「当然の批判」を受けたことに対して法がこれ程までに「手厚い保護」を行うことが、常識をわきまえた市民として納得できることであろうか。

「北海道の歩き方」における悪辣な投稿は、法的保護に値するのか

Aが子守氏の発言に対して告訴を行うという「法的手段」をとる行動に出たのは、「被害者」の氏名が秘匿されるという個人特定事項の秘匿措置がとられることを見越し、刑事告訴という手段を選択することで、自らは実名を出さず、悪辣な投稿による批判を免れ、被告訴人の処罰だけを求めることができると考えたからだ。

このようなAの告訴を、警察、検察は、なぜかまともに取り上げ、子守氏は侮辱罪に当たるとされて、科料9000円とは言え、略式命令による刑事処罰の対象とされた。

AのX投稿の不当性、反社会性の程度からすれば、子守氏の発言は、公正な論評や公益目的の言論といえ、刑法35条の正当行為として違法性を欠くと判断する余地が十分にあり、不起訴処分にすべきだった。

検察官がその子守氏を略式請求したのは、侮辱罪の法定刑引上げで求刑処理基準が引き上げられていることに加え、非公開の略式手続で9000円の科料で決着するのであれば、子守氏が受ける不利益は極めて僅少であり、不起訴処分に対して、Aの検察審査会への申立で騒ぎが長引くより子守氏にとっても有利と考えたからであろう。

しかし、Aは、子守氏の刑事処分が非公開の略式手続で終わっただけで済ますつもりはなく、「子守氏が起訴されたこと」をネット上で拡散しようと考えていた。そのため、斎藤派の弁護士の福永氏に連絡する一方、検察官から送付された検察官の実名と押印のある処分通知書を、自分の氏名が記載された部分を改ざんして「北海道の歩き方」のXアカウントで公開することによって「子守起訴」の事実をネット上で広めようとしたのである。

少なくとも、現時点までは、Aの目論見どおりに進んでいる。 

SNS時代における「侮辱罪法定刑引上げ」「被害者個人特定事項秘匿制度」の運用

2022年7月施行の刑法改正で「侮辱罪」の法定刑が引き上げられ、それまでは「拘留・科料のみ」だったのが、改正により「1年以下の拘禁刑・30万円以下の罰金」が加わったのは、SNSやインターネット上での悪質な誹謗中傷が社会問題化し、被害者が深刻な精神的ダメージを受けたり、自殺に追い込まれたりする事件が発生したことを受け、国民の間で誹謗中傷を抑止すべきとの意識が高まったことが背景となったものだ。それにより、それまで、殆どが起訴猶予で済まされ、悪質なものでも科料で済まされていた侮辱罪が、原則として科料以上の量刑となった。

しかし、本件の「北海道の歩き方」のAのように、匿名アカウントを利用して、非常識極まりない悪辣な投稿を行うアカウントの運用者の「外部的名誉」を保護することが、侮辱罪の法定刑引き上げの趣旨・目的に沿うものとは到底思えない。

刑訴法改正による被害者個人特定事項の秘匿措置の導入も、性犯罪やストーカー犯罪などの被害者が、刑事手続きにおいて氏名や住所などの個人特定事項を容疑者や被告人に知られることで、報復や再被害、名誉毀損、社会生活の平穏を害されるリスクを軽減することを目的とするものである。Aのような非常識な投稿を繰り返しているSNS匿名アカウントの運用者を保護することは、法改正の目的から大きく逸脱している。

このような人物が、そのような投稿に対して侮辱的言辞で批判を行った人物を侮辱罪で告訴し、起訴された場合にまで、「被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれがある」との要件で個人特定事項の秘匿措置が認められるとすると、匿名アカウントの非常識な投稿に批判が殺到していることも「社会生活の平穏が著しく害される」という要件を充たすことになり、自らは匿名のまま、批判者の処罰を目論むことができることなる。

子守氏が正式裁判を申し立てた侮辱罪の刑事公判は、簡易裁判所から地方裁判所に移送され、神戸地裁に係属している。

ここで、被害者個人特定事項の秘匿措置を認めるなどということはあってはならないことである。Aの身勝手な目論見はは、決して法が許容するものではなく、告訴人として子守氏の処罰を求めたAの実名を明らかにされ法廷で公開されることを当然に覚悟させるべきだ。

略式手続で科料の略式命令を受けた子守氏を、犯罪者扱いするために、処分検察官の実名が記載された処分通知書という検察実務の根幹に関わる公文書を改ざんして、本来は非公開であるはずの略式手続の結果をネット公開したことは、検察にとって絶対に看過できない問題だ。しかも、子守氏のYouTubeでの発言は、匿名アカウントによるあまりに非常識な投稿に対するものであり、正当な意見・論評として違法性を否定する余地は十分にあった。

そのような告訴人の人物の所業や目論見がわかっていたら、侮辱罪の法定刑引上げ後であっても、検察官が「起訴」の判断を行うことはなかったはずだ。

検察官は、「北海道の歩き方」の匿名アカウントの運用者のAに騙されたとも言える。

神戸地検がまず行うことは、被害者個人特定事項の秘匿措置の適用の是非を再検討するとともに、自らが作成者である公文書が改ざんされて公開された被害者の立場でもあるAの有印公文書偽造・同行使罪に対して厳正な処分を行うことである。

その上で、そのようなAの告訴による子守氏への公訴提起を維持すべきか否かについても、検察の組織としての検討が行われるべきであろう。

「匿名アカウントに対する侮辱」を刑事処罰の対象とすることの根本的問題

この事件は、侮辱罪の法定刑引上げの刑法改正、被害者特定事項の秘匿措置導入の刑訴法改正が、SNSの社会的影響の飛躍的増大という状況の中で、法の趣旨とは大きく異なる方向に悪用されかねないことを示す事例であり、今後の法運用に関わる極めて重要な問題を提起するものと言える。

SNS上で「悪ふざけ投稿」が、面白おかしく取り上げられて、一部の人間に楽しまれる、それはそれで勝手にやればよいことだ。しかし、そのような匿名投稿が限度を超え、人の名誉や尊厳を傷つけたり、著しい不快感を生じさせたりした場合、それに対して相応の批判が行われるのは当然であり、その表現も相当程度までは許容しなければバランスが取れない。そのような「当然の批判」から匿名アカウントを保護することに司法が利用されたり、検察が手を貸したりすることなど決してあってはならない。

根本的な問題として、SNS上の「匿名アカウント」を侮辱罪による保護の対象とすべきかについて、抜本的な検討が必要なのではなかろうか。

法の穴を潜り抜ける悪辣な行為を繰り返し、一方で、それに対する攻撃を司法の力で守ってもらおうなどという発想は、健全な社会人の常識からは思いもよらないものである。このような状況が野放しになっている現状は、まさに「法と正義の危機」というべきである。

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長崎県大石知事「政治資金問題説明会見」へのコメント

長崎県大石賢吾知事検察審査会申立書で、申立書を公開しましたが、これに関して、本日10月24日、大石知事が記者会見で説明を行ったので、それについて以下のコメントをマスコミに公表しました。

~~~                       

本日(10月24日)、大石知事が行った「一連の政治資金に関する事案についての説明会見」での説明について、検察審査会に審査申し立て中の大石知事の政治資金規正法違反事件の告発人および大石健吾講演会の元職員の代理人弁護士の立場で、以下のとおりコメントします。

1.「2000万円の2重計上に気づいたのはいつなのか」との質問につ いて、大石知事が「以前、元監査人と報道されている方のご指摘を受けてのこと」と認めた件について

この点について、大石知事は、「昨年6月9日のzoom会議の音声が流出した際、3月の会見で知事は、こういった会話は記憶していると話していたが、少なくともその時点では2重計上があるっていうのは理解していたということか」と質問され、

2重計上で、どちらが誤りであること、しっかりと精査をして、弁護士も含めて精査した上で、やはりこれは間違いだということを確認したのは、ちょっと後になります。ただ、その2000万円が2つあるよということがあって、私が確かに1つしかありませんと、それが2つあるのであれば間違いですと言ったのは、かつて監査人と呼んでいた方から言われたことに対して返答はさせていただいています。

と述べ、「二重計上」を最初に認識したのが「①元監査人の指摘」であることを認め、その後、「②弁護士を交えた精査」によって適正な処理を行ったと説明した。

これまで大石知事が説明してきたように、収支報告書に記載した時点から「2000万円の後援会への貸付金は実在し、架空ではない」と認識していたのであれば、「二重計上」を最初に認識した時点でも、「収支報告書の記載の誤り」の問題と考え、「収支報告書の適正な記載」を検討することになるはずである。問題は、①の時点で、どのような問題だと認識し、どのように対応しようとしていたのかである。

この点について、記者から、「2重計上を分かっていながらその場で訂正をしなかったこと」「不正な出金という知事が言っている流れの中で、訂正をするような動きではなかったこと」について質問され、

何が適正であって、何が誤りであるのか、しっかりと精査した上で、専門家を交えて精査をした上で正確に直す事実確認のために時間がかかった」「監査人と呼んでいた人に対して、もし誤りがあるのであれば適正に直していきたい、正確なものにしていきたいとお願いしていたし、それを実際に具体的に正確にやっていただける方だという風に私は信頼をしていた。」

と答えている。

「専門家を交えて精査をした上で正確に直す事実確認のために時間がかかった」というのは②の時点のことである。

①の時点で、元監査人は、「後援会への2000万円の貸付金は架空計上」と指摘し、そのままでは重大な問題になりかねないと言って、「返金スキーム」を提案したものであることは明らかであり、少なくとも、その後の弁護士を交えての②のような政治資金収支報告書等の適正処理についての対応の検討ではない。

問題は、①の時点で「監査人と呼んでいた人に対して、もし誤りがあるのであれば適正に直していきたいとお願いしていた」のかどうかであるが、この時点の直後、大石知事も関わる形で、後援会の資金を監査人側に移動させた事実があり、それは、「不正の出金」であるかどうかは別として、大石後援会の政治資金収支報告書の記載を訂正ではなく、貸付金の返済として大石知事が後援会から受け取っていた約650万円を後援会に返金するためのものであることは明らかである。上記の記者の質問は、この点を指摘するものだが、大石知事の答は、それに対してはする説明になっていない。

2000万円の貸付金を後援会の収支報告書に記載した時点で、大石知事が、「2000万円の貸付金が架空計上ではなく、実在している」と認識していたのであれば、最初に「元監査人」から指摘された時点で、そのように説明していたはずである。「後援会への返金」の話が出てくることはあり得ない。

その時点で、元監査人に対して「後援会への貸付金は架空計上」と認めざるを得なかったのであり、それは、収支報告書の2000万円の貸付金が架空であり、その記載が虚偽であることの認識があったことを認めたことに等しい。

2 「2000万円の消費貸借契約書の日付が2日ズレている問題について

大石知事は、記者から「元職員の方が、ご自身がコンサルタントに間違いなく正確な2000万円の入金を1月14日と伝えたと主張されていて、コンサルタントが意図的に2日ずらしている。これは同一と思われないようにするためではないかと主張されている」ことについて質問を受け、

どういった主張されているのか私はわかりませんけども、それにコメントは全くありません。私の見解、認識としては、前回説明をした通り。12日のところで、通帳を見ますと、12日に入金の、別の入金の項目があり、それが一段上になってたので、おそらくそれが誤って伝わったんじゃないかなと私は思います。

と答えた。

この点は、質問が若干不正確であり、検察審査会申立についての記者会見の際に述べたとおり、元職員は、「入金日を誤って伝えることはあり得ない」「選挙コンサルタントから『知事が選挙で用意した自己資金1月14日借入の2000万と別に用意したお金で貸付けたものと認識させるため、わざと日付を令和4年1月12日にしています』との説明を受けた」旨供述しているものである。

それについて、大石知事が「コメントが全くない」ということは、選挙コンサルの説明も含め、元職員の具体的な記憶に基づく供述を否定する根拠がないということであり、1月12日の後援会への2000万円の貸付金が1月14日の実際の入金とは別個のものだったことは否定できないということである。

なお、この点に関して、大石知事は、「元職員から話を聞く必要があると思っており、後援会の方から、元職員の方に事実の確認をしたいということでお尋ねをしているが、対応していただけてない」と述べているが、9月16日に、元職員のところに大石賢吾後援会からの配達証明の郵便物が届き、大石後援会との関係は、すべて代理人の当職に対応を委任し、そのことは、後援会宛てに受任通知を送って通告しているのに、直接、後援会から配達証明で郵便物が届き、「改めて対面で話を聞かせてほしい」などと書かれていたことから、後援会側に問い質したところ、後援会の担当者の話では、後援会の代理人弁護士がそのような質問状を作成して元職員宛てに送付したとのことだった。

当職からは後援会に代理人受任通知を送付しているのに直接当事者に連絡したことについて厳重に抗議をした。その後、後援会側からは全く連絡はない。大石知事が、「元職員の方に事実の確認をしたいということでお尋ねをしているが、対応していただけてない」というのは事実に反する。

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維新の“目くらまし”の「議員定数削減」に隠された「民主主義への重大な脅威」に最大の警戒を!

2025年10月10日、自民党との連立協議で、公明党は連立離脱を表明、26年にわたって続いた自公の連立関係が終了することとなり、衆議院の議席数196と、過半数を37議席も下回っている自民党は、政権の枠組みすら見通せない事態となった。

ところが15日の高市早苗総裁と吉村洋文代表との党首会談で、自民党と日本維新の会(以下、「維新」)が連立に向けて政策協議を行うことが合意され、翌16日から開始された。16日午前には維新の両院議員総会が開かれ、自民党との協議について藤田文武共同代表に一任された。16日、17日と連日政策協議が行われた後、「大幅に前進した。最終的な詰めの段階」などと説明、藤田氏は、15日の立憲、国民、維新の3党の党首会談で始まっていた首班指名選挙に向けた野党連携の協議からの離脱を表明した。これにより、臨時国会冒頭の首班指名での高市首相指名は事実上確実になった。

連立協議開始当初、維新が、「連立合意の絶対条件」だとしていたのが「社会保障改革」と「副首都構想」だった。吉村代表は、それに加えて「議員定数改革を来る臨時国会で行うことの確約がなければ連立はない」と言い出し、その後のテレビ出演でも繰り返すなどして、「議員定数1割削減」も絶対条件に掲げた。

「企業団体献金の受け皿規制」という維新・自民の連立合意の障害

こうして維新と自民との連立に向けて政策協議が始まったが、そこで最大の問題となることが予想されたのが企業団体献金の問題だった。結党時から「身を切る改革」のコアとして企業団体献金に対して最も厳しい政策を掲げてきたのが維新だ。

高市総裁選任後の連立協議で、公明党は、「企業団体献金の受け皿を政党本部、都道府県連に限定し、政党支部への献金を禁止する規制」の受入れを強く求め、高市氏がそれに応じる姿勢を見せなかったことから、26年間にわたって続いた自民党との連立離脱を通告した。

その後、公明党、国民民主党に立憲民主党が加わり、維新に対して、この「企業団体献金の受け皿規制」の政治資金規正法改正案を国会に提出し成立させる提案が行われた。「企業団体献金の全面廃止」を掲げてきた維新も、「全面廃止」よりハードルが低い「受け皿規制」に反対する理由はなく、藤田共同代表も法案には賛成する姿勢を見せていた。

既に野党間の協力で法案成立の可能性が高まっている「企業団体献金の受け皿規制」を自民党に求めないことは、それまでの維新の企業団体献金への厳しい姿勢からすればありえないことだった。

しかし、高市自民党が公明党との連立協議で受け入れなかった「受け皿規制」を、その直後の維新との連立協議で受け入れるとは考えにくかった。この点をうやむやにしたまま自民党と連立合意を行えば、維新の要求より低いレベルの政治資金制度改革をもぶち壊してしまうことになる。他の野党から猛烈な批判を受けるだけでなく、マスコミからも世の中からも厳しい批判を受けることになり、それは、改革政党としての維新への信頼性そのものが崩壊してしまうほどのダメージにつながりかねなかった。

そのような状況で、突然、維新の吉村代表が「絶対条件」として持ち出してきたのが、「議員定数削減」であり、次の臨時国会のうちに法案を成立させることの確約まで自民党に求めるという「厳しい姿勢」を示した。

それは、あたかも、維新が自民党に「受け入れが容易ではない要求」を行って「筋を通そうとする姿勢」であるかのように見えた。

「議員定数削減」などを連立合意の絶対条件に掲げることの矛盾と困難性

しかし、「議員定数削減」を持ち出した維新の吉村代表の姿勢には、もともと大きな矛盾がある上、現実的にも、自民党に対してそのような要求を押し通すことは困難であった。

第1に、維新が大阪の地域政党として出発した時点で「身を切る改革」を掲げて議員定数削減を最初に実行し、組織改革や補助金削減などによる財政再建に成功したとしても、それは地方自治体のことであり、それがただちに国政レベルで実行できるわけではない。

国会の議員定数削減は、その国の民主主義のあり方にもつながる問題であり、特に比例区だけを大幅に削減し、小選挙区と比例代表のバランスを変えることは、現行の選挙制度の性格にも影響する問題だ。スタートアップ政党の出現など新規参入に対する障壁にもなるのであり、与野党を含めた国会での議論に加えて国民的な議論も必要となる。

逆に、バランスを維持したまま削減しようとすると、小選挙区の定数削減が地方の議席の切り捨てにつながり、地方の声が国会に届かない状況を招きかねない。

国会議員の定数削減は、地方自治体レベルで過半数を占める政党が地方議会の定数削減を強行するのとはわけが違うのである。

第2に、そのような議員定数の削減を、臨時国会までに成立させることについては、自民党内での反発も強く、党内合意を得ることも困難だ。

実際に、吉村氏が議員定数削減を「絶対条件」として掲げた直後から、自民党内からは、選挙制度調査会の会長で、前の臨時総裁選で選挙管理委員長を務めた逢沢一郎氏が、

《与野党で「衆議院選挙制度に関する協議会」で議員定数を含めて、あるべき制度を議論中。この状況のなか、自民・維新でいきなり定数削減は論外です。》

とXに投稿、山下貴司元法務大臣も、

「議員削減は国民の参政権を削るという側面がある」

とした上、「客観的なファクト」として、

「現在の衆議院議員定数465人はこの100年で最も少ないこと」

「国際的に見ても、国会議員一人あたりの人口は、日本は約27万人で、独・仏・英の2倍以上。逆に言えば、日本国民一人が国会議員を生み出す力はOECD平均の半分以下であること」

などを指摘するX投稿を行うなど、維新との連立協議の中で議員定数削減を持ち出すこと自体について、公然と反対の声が上がった。

維新が政策協議開始の時点から「絶対条件」として掲げていた「社会保障改革」、「副首都構想」といった要求を受け入れることも、自民党にとって容易なことではなかった。

社会保障改革」については、維新は、現役世代の負担軽減を目的とした社会保険料引き下げを強く主張してきた。高齢者の窓口負担増、OTC類似薬の保険適用除外などにより国民医療費を年間4兆円以上削減し、社会保険料1人あたり年間6万円の減額を目指し、手取り収入を増やして消費拡大を図るというものだが、自民党内では反対意見が強く、もう一つ維新が強く要求していた「教育無償化」の方で合意して24年度予算案への賛成を取り付けたという経緯がある。

副首都構想」の方は、副首都の基盤となる「危機管理都市」や経済特区を整備する構想と、大阪市解体による特別区設置の「大阪都構想」という維新の結党以来の看板政策の実現を目的とするものだ。これに対して自民党大阪府連は住民投票で反対を表明し、2015年・2020年の住民投票で維新とは激しく対立し、その結果、都構想は否決された。「副首都構想」は、大阪自民党にとって到底受け入れられるものではない。

自民党内での議論の体制の未整備

維新が「絶対条件」として掲げていた「社会保障改革」、「副首都構想」、「議員定数削減」は、自民党にとって、いずれも容易には応じられない事項であり、党内で十分な議論が必要なはずだった。

自民党としても政策の根幹に関わる重要事項について維新との間で合意を行うのであれば、自民党の党則に定められた手続に従い十分な検討を経て党としての決定を行うのが通常のやり方だ。

ところが、自民党内での検討の体制、意思決定手続等については、10月15日の拙稿【「党人事空白」で連立協議は困難~多党化への不適応が招いた“自民党の危機”】でも述べたように、10月4日に高市新総裁が選任され、自民党の体制は一新された後は、幹事長、総務会長、政調会長などの役員人事が決定されているだけで、それ以外の党内人事は未了だった。

しかも、政務調査会については、政調会長に小林鷹之氏が選任され、その後、会長代行・代理等が選任されているだけで、部会長も部会メンバーも空席だった。本来であれば、「社会保障改革」については厚生労働部会、「副首都構想」については国土交通部会で、従来の議論を踏まえて検討が行われるべきであるのに、部会長、副部会長は全く選任されていなかった。

昨年10月の衆院選で、裏金問題への国民の批判などから惨敗し、国民の支持を失っていた自民党の内部で、参院選後に「石破おろし」と言われる権力闘争が起こり、その末の臨時総裁選で予想に反して小泉進次郎氏を破って当選したのが高市氏だったが、執行部人事については、極端に麻生派に偏っていること、「裏金議員」萩生田光一氏の幹事長代行起用などに対し世論の反発が強まっていた。維新との連立合意を拙速に進め、それまでの党内での議論を無視した合意を行えば、党内で潜在化していた高市執行部への批判が一気に顕在化する可能性もあった。

自民党が党内手続を省略して、維新との連立合意にむけて具体的に義務を負う形の合意を行うことには、「議員定数削減」については、維新が地域政党として行った「改革の出発点」は国政レベルとは根本的に異なること、「社会保障改革」「副首都構想」も含め、自民党内での合意を得ることが困難であること、という二つの面から無理があったのである。

連立合意書の内容では「絶対条件」になっていない

上記のような経緯を経て、自民・維新の両党は、20日の夕刻に連立合意に至ったことを発表し、連立合意書も公表された。

その内容からはっきり言えることは、政策協議の際に維新の側が「絶対条件」なとど強調した「社会保障改革」「副首都構想」について、今回の連立合意書には、自民党側として、それまでの党の方針や政策に反する具体的な合意はほとんどなく、何かを具体的に義務づけられるものはほぼないことだ。

そういう意味で、「自民党内で合意の困難性」という面での問題は少ない内容だったと言える。

維新が「絶対条件」として掲げていた要求のうち、「社会保障改革」については、

「具体的な制度設計を令和七年度中に実現しつつ、社会保障全体の改革を推進することで、現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げていくことを目指す」

というかなり曖昧な表現にとどまっている。

「副首都構想」については、

「首都の危機管理機能のバックアップ体制を構築し、首都機能分散及び多極分散型経済圏を形成する観点から、令和七年臨時国会中に、両党による協議体を設置し、首都及び副首都の責務及び機能を整理した上で、早急に検討を行い、令和八年通常国会で法案を成立させる 」

とされている。この法案が、実質的に大阪を副首都とすることにつながるものかどうかが問題だが、この点については、「両党による協議体」に委ねられることになるので、この連立合意書だけでは方向性は不明だ。

最後の「一二、政治改革」の項目に、維新にとって、自民党との連立合意の最大の障害になると考えられた「企業団体献金」の問題への対応と、それを目立たなくするための「目くらまし」のために出してきたとしか思えない「議員定数削減」について記載されている。 

「企業団体献金」については、「自由民主党は禁止より公開」、日本維新の会は「完全廃止」と従来の主張は異なっていたが、「制度改革が必要であるとの課題意識は共有し」ているが「最終結論」が出ていないとし、「企業団体からの献金、政治団体からの献金、受け手の規制、金額上限規制、機関誌等による政党の事業収益及び公開の在り方」などを同列に並べて検討対象として、「協議体」「第三者委員会」などでの検討を行って、

「高市総裁の任期中に結論を得る」

とされている。企業団体献金に依存してきた自民党の論理を丸呑みし、「検討の体裁」だけ整えて結論を先送りするものである。

これは、「企業団体献金の受け皿規制」についても自民党に要求せず、他の野党が法案を提出しても反対するという意味である。

「議員定数削減」については、連立合意書の「政治改革」の項目に、

「1割を目標に衆院議員定数を削減するため、25年臨時国会において議員立法案を提出し、成立を目指す。」

と書かれている。

「25年臨時国会において議員立法案を提出」という点は、維新が自民党側に今年中に国会での法案提出をする義務を負わせるものだ。しかし、その法案の内容は「1割を目標に」と書かれているだけで、比例と小選挙区の関係についても触れられていない。そして法案の「成立」については「目指す」というだけなので、結局、吉村氏が強調する「成立」まで約束したわけではない。自民党内で議員定数削減の法案について意見集約することも容易ではないが、成立の見込みがたっていない法案を一応提出するだけであれば、それほど大きな抵抗もないだろう。

連立合意書上は、「議員定数改革を来る臨時国会で行うことの確約」などとは程遠いものであり、結局のところ、吉村代表が唐突に持ち出した「議員定数削減」が、企業団体献金の議論から逃げるための「目くらまし」だったことは否定する余地がない。

「物価高対策」にもめぼしいものはない

国民が強く求めている「物価高対策」についても、連立合意書の12項目の最初に「経済財政関連施策」があり、 7月の参院選の際も大きな争点となった物価高対策が記載されている。このうち、

「ガソリン税の暫定税率廃止法案を令和七年臨時国会中に成立させる。」

だけが即効性のある対策だが、これは既に8月に与野党間の合意ができており、政治空白がなければ11月1日に実施される予定だったものだ。

それ以外は、

「電気ガス料金補助をはじめとする物価対策」

「インフレ対応型の経済政策に移行するために必要な総合的対策」

「所得税の基礎控除等をインフレの進展に応じて見直す制度設計」

など抽象的な内容ばかりで、参院選で維新が掲げた公約についても、

「給付付き税額控除の導入につき、早急に制度設計を進めその実現を図る」

「飲食料品については二年間に限り消費税の対象としないことも視野に法制化につき検討を行う」

などのあいまいな表現にとどまり、自民党に具体的な義務を負わせるものではない。

その一方で、参院選で石破自民党が掲げた「給付金」については

「行わない」

と明言している。

維新は、自民党との連立に向けての政策協議の目的として「この機会に改革に向けての政策実現を前に進める」ということを強調してきたが、結局のところ、物価対策等、国民生活に直結するテーマについては、今回の連立合意書の内容は、自民党側に具体的な約束をさせる内容にはなっていない。

「タカ派保守的な主張」が随所で具体化

 一方、連立合意文書の、

「三、皇室・憲法改正・家族制度等」

「四、外交安全保障」

「五、インテリジェンス政策」

等の項目には、高市氏の支持の中心となった自民党の保守派の主張、或いは、それ以上にタカ派保守的な主張が具体的に書き込まれている。

敵基地攻撃能力保有、防衛費の国内総生産(GDP)比2%への引き上げなどを決めた安保関連3文書の改定の前倒しを明記しているほか、外国人問題では、受け入れ規制や在留者向け制度の悪用への対応といった規制強化策、選択的夫婦別姓制度に関しては、旧姓の通称使用の法制化法案を2026年の通常国会に提出し成立を目指すとして、制度導入に反対することなどを具体的に盛り込んでいる。改憲についても、「可及的速やかに、衆参両院の憲法審査会に条文起草委員会を常設する」と盛り込んでいる。

このような維新の保守タカ派的な性格は、日頃の「改革政党」としてのイメージとは異なる。しかし、維新は、自民党の地方政治家を中心に結成された党で、もともと、このようなタカ派保守的思想が党の中核に受け継がれており、同様にタカ派的な思想傾向を持つ高市氏から「国家観をともにする党」と評価された「本性」が、連立合意の中で具体的に表れたと見ることもできる。

維新が連立合意に至った背景としての3要素

維新は、連立合意の最大の障害となる「政治とカネ」問題から目をそらすために、見え透いた「目くらまし」としての「議員定数削減」まで持ち出し、高市政権樹立に突っ走る自民党との「連立合意」による強い結びつきを求めた。

そのような動きの背景として「改革政党志向」「地域政党志向」「右翼政党志向」の3つの要素が考えられる。

まず、「改革政党志向」は、これまで維新が支持者や国民に訴え続けてきたものであり、今回の連立合意に向けて「絶対条件」を掲げたのも、「改革政党」としてのアピールを継続するためのものだったが、少なくとも連立合意書の内容からは、ほとんど評価できるものはなかった。

しかし、自民党との連立に向けての協議開始の時点で突然登場した吉村代表は、頻繁にテレビ出演し、維新の「改革政党」としての「一丁目一番地」であることを強調し、連立合意書公表後も、「議員定数削減が出発点だ」とし、「それが実現すれば改革が一気に進む」などの発言を続けている。

実際に維新が大阪府議会・市議会で行ってきた議員定数削減によって、一人区を増やし、それによって対立政党(自民党など野党)にとって圧倒的に不利な状況を作るというやり方は、国政レベルでも強引に実行すれば、それによる与党独裁体制によって与党側の政策を次々と実行することも不可能ではない。

連立合意書の中で、唯一自民党に一応の具体的義務付けを行った形になっているのが「議員定数削減法案の通常国会での提出」だが、比例区定数の大幅削減で小選挙区の割合を高め、衆議院での与党独裁体制を構築することを目的とするのであれば、高市氏や支持者の議員達にとっても、大きな意味を持つものとなる。そのような法案を国会に提出し、自民・維新に加えて参政党などの賛成を得て法案を成立させ、解散総選挙に打って出れば、公明党、共産党などの少数政党を駆逐し、自民・維新の与党で圧倒的多数の議席を狙うことも不可能ではない。

つまり議員定数削減を、比例区だけを大幅に削減する形で実現すれば、維新の「改革政党志向」のみならず、タカ派保守政党による国会の独裁体制で「右翼政党志向」を実現することも可能になりかねないのである。

それは日本の民主主義にとって、重大な脅威となる。

日本保守党の島田洋一衆院議員が10月19日に「自民党の高市早苗総裁からの電話の内容」についてのXを投稿しているが、それなりの意味が込められているようにも思える。

「日本保守党と方向性が一致する政策も多いので、闘うなら大いに支持する旨を答えた」

とした上で、「日本維新の会」による定数削減案については、

「新興小政党を潰すことになる、維新の『衆院比例区に限った定数削減』案に、率直に異議を呈したところ、中身は控えるが、高市氏から丁寧な説明があった」

と述べている。その「丁寧な説明」というのが、上記のような「議員定数削減によってタカ派政党の国会での圧倒的多数をめざす」という趣旨なのかもしれない。

もう一つの背景として考えられる「地域政党志向」は、今回維新が企業団体献金問題への対応など説明困難な問題が多数あるにもかかわらず、拙速に連立に向けて協議をはじめた時点でも指摘されていた、大阪の地域政党から出発し、全国政党に展開しようとして、それが大きな曲がり角に来ているという、維新の「党勢」の問題である。

このところ国政選挙で、関西以外では退潮傾向が著しく、党内対立も顕在化して離党者が相次いでいるという維新の党内事情から、自民党側に「貸し」を作れるだけの議席数がある間に連立合意を行い、前回選挙で全勝した大阪の小選挙区での自民党との選挙協力によって大阪府自民党を事実上壊滅させることで関西圏の地域政党としての基盤を確保し、国政政党としては自民党に吸収される形でフェードアウトしていく方向である。

そうだとすれば、維新の現状を考えた場合の苦肉の策であり、少なくとも大阪の維新にとっては、大阪都構想の実現の可能性が高まるなどの実益があり、維新の支持者にとっても理解納得が可能な話ではある。

維新代表・大阪府知事吉村氏の「議論のすり替え、ごまかし」

維新の自民党との「連立合意」が、「地域政党志向」という、こじんまりした方向に向かうのであれば、大阪の局所的な問題にとどまる。しかし、改革の出発点だとする「議員定数削減」を強引に進めることで、「改革政党志向」のみならず「右翼政党志向」も狙おうとするのであれば、今後、その動向には、最大限の注意と警戒が必要である。

そして、維新という政党が、「地域政党」の実体に隠れて、国政政党としての実体が見えにくく、しかも説明責任を問いにくいという特殊性に留意する必要がある。

党首は大阪府知事であり、国会議員ではない。国会対応などについて具体的な事項は共同代表の藤田氏が説明し、党の方針や根本的事項は吉村代表が説明するのであろうが、その場は国会ではなく、限られた記者会見の場やテレビ出演ということになる。

その典型が、今回の連立協議が始まってからの吉村代表の「立ち回り」であり、それが今後も繰り返されることになる可能性が高い。

連立合意が公表される前日の19日の夜のフジテレビの番組「Mr.サンデー」では、その直前に出演していた国民民主党の玉木氏からの「企業団体献金の受け皿規制法案」への賛成要請に対して、

「企業団体献金は、維新だけは全く受けないが、自民党以外の他党も、労働組合や赤旗機関紙収入などの収入を得ている。」

と言って、論点をすり替えて質問に正面から答えず、はぐらかした。

問題なのは、自民党の企業団体献金が、個人の財布としての政党支部に入り、その使途が不透明であることであり、企業団体献金自体の存否とは別の問題だ。

しかも、もともと「受け皿規制」を提案している国民民主・公明の両党は、企業団体献金全面禁止を主張しているのではないので、吉村氏の話は、両党への反論にはなっていない。維新が、自民党の裏金問題発覚までは、政治資金パーティーを積極的に行い、企業から多額のパーティー券収入を得ていたことは棚に上げている。

また、安野貴博氏からの

「議員定数を比例のみ50減らすことは大政党に有利、中小政党、スタートアップ政党に不利に働き、政治の新陳代謝が働かなくなる」

との意見に対して、

「自分達も35の少数政党だ。今の比例では復活当選しているゾンビ議員が問題。実際に、過去に定数削減の約束が守られなかったのは、大政党の議員が反対するから」

などと反論していた。

しかし、維新は大阪の19を含め小選挙区選出議員が23名と大半を占めている。比例復活が問題なら重複立候補を禁止すればいいのであり、定数削減の問題ではない。また、2012年の民主党の議員定数削減要求は、当時の政権末期の特殊事情によるもので一般化すべきではない。そもそも、「既得権益を守ろうとする反対」と「選挙制度の議論の在り方論からの反対」を混同させようとする言い方は「詭弁」そのものだ。

また、杉村太蔵氏の、「大阪府知事と与党党首」という「二足のわらじ」に対する疑問をぶつけられて、

「私は万博があったので三足のわらじを履いてましたから」

などと、的外れな返しでごまかし、立場の違いからくる利益相反関係などの問題について正面から答えようとしない。

連立合意書が公表された直後の21日の昼のTBSの番組「ひるおび」に出演した吉村氏は、メインキャスターからの質問に、「議員定数削減が改革の一丁目一番地」との持論を滔々と述べた、ごく限られた時間で、政治ジャーナリストからの質問を受け、田崎史郎氏から、

「通常国会で法案が提出できなかったり、成立しなかったりしたら連立から離脱するのか」

と問われても、

「絶対成立する」

などと言ってはぐらかし、田崎氏も苦笑していた。

このような話のすり替え、ごまかしを、対面で自然に行って相手を巧妙に誤解させるのが、経済犯罪としての「詐欺師」の手口だ。吉村氏の場合は、あまりに見え透いており、対面ではとても通用しないが、テレビ出演では、一方的に自説を述べ、質問されても、すり替え、ごまかしでやり過ごし、時間の関係でそれに対する再反論がほとんどできないので、その場でバレることがない。こういうことが、これまでも大阪での記者会見やメディア出演で繰り返されてきたのであろう。

このようなことが国政に関する問題で行われれば、大阪の有権者に対する「維新による洗脳」の手口が、全国レベルに広がる可能性がある。それが、維新と高市自民党の支持拡大につながるようなことになれば、日本の政治情勢は大きく変わることになる。

今回の連立合意書の方向性からすると、そこに民主主義の重大な危機が待ち構えていると言わざるを得ない。

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「党人事空白」で連立協議は困難~多党化への不適応が招いた“自民党の危機”

10月10日の自民党高市早苗総裁と公明党斉藤鉄夫代表との会談で、公明党側から連立離脱を通告された後の記者会見で、自民党高市早苗総裁は、次のように述べた。

本日公明党からは、政治資金規正法の改正に関する公明党案について、この場で賛否を示すように求められました。私どもからは、私達の自由民主党は、ご承知の通り党内手続きが必要です。これは総裁と幹事長だけで、この場で特に議員立法の法律案の細部の内容についてまでお答えできるものではないと。この場で、私1人で判断するとか、2人だけで判断するということはできないので、党内に持ち帰って協議をして、手続きにのっとって速やかに対応したいということでお返事を申し上げました。つまり、来週にも、もう一度協議を開きたいという旨でございます。しかしながら、先方からは、それは具体的な回答ではないということで、一方的に連立政権からの離脱を伝えられました。自由民主党は、ご承知の通り党内手続きが必要です。党内に持ち帰って協議をして、手続きにのっとって速やかに対応したい

通常の自民党の意思決定の手続であれば、それは、「ご承知のとおり」という程に当然のことのはずだ。しかし、この時点での自民党には、その「党内手続」をとる体制が存在していない。

10月4日の臨時総裁選で、高市氏が新総裁に選任された。その後、党内人事は、幹事長、総務会長等の執行部人事が行われただけで、それ以外は全く行われていない。その状況では、公明党の企業団体献金の規制強化の提案に対して、党内で検討しようにも、その検討の場も、その責任者も決まっていなかった。

自民党は、党則上も、総裁選挙で選出された総裁にすべての権限が集中する「総裁ガバナンス」だ。幹事長以下の幹部人事の権限は総裁に集中している。そして、総裁は、結党以来、ほとんどの場合、そのまま総理大臣に就任し、政府と自民党両方のトップの座についてきた。 

そのため、これまでは、総裁が新たに選任されると、まず、幹事長ら党執行部の人事を行い、その後、首班指名選挙で正式に総理大臣に選任された時点で、各大臣以下の政務三役の「政府人事」と、党内の局長、本部長、政調の各部会長などの「党内人事」を併せて行うのが慣例だった。

このようなやり方が可能で、しかも合理的だったのは、自民党単独で、或いは他党との連立によって安定多数の議席を確保していたことから、総裁に選任するとほぼ自動的に総理大臣に就任し、「総理・総裁一体」だったからだ。

自民党の党内組織は基本的にボトムアップであり、部会等でメンバーの議員が具体的な検討を行い、その検討結果を上位者が了承して、党としての意思決定が行われる。

ところが、昨年10月の衆議院議員選挙で自民党・公明党が敗北し、過半数を割り込んで少数与党となった。今年7月の参院選では、参議院でも過半数を割り込み、一方で、国民民主党、参政党などの少数政党が勢力を伸ばし、「多党化」が急速に進んでいる。そのような状況では、上記のような従来の自民党の人事のやり方は通用しなくなっている。

それが端的に表れたのが、石破総裁の辞任に伴い、臨時総裁選で高市氏が総裁に選任した直後の公明党連立離脱が招いた現在の自民党の状況だ。

石破氏は、2024年9月の総裁選で選任され、任期はまだ2年以上残っていたが、参院選の敗北の責任をとる形で辞任を要求する「石破降ろし」の動きが強まり、総裁選前倒しの意思確認手続が開始され、賛成が過半数となることが必至の情勢で、党の分断回避のために総裁辞任を表明した。そして、臨時総裁選で高市新総裁が就任した直後、それまで26年間続いてきた公明党との連立が解消されることになった。

そこで冒頭の高市氏の「党内手続き」という発言があったのである。

しかし、実際には、その「党内手続き」を取ろうにも、そのための組織ができていなかった。

そこには、新総裁の選任をめぐる状況が通常とは大きく異なる状況があったのに、総裁の交代に伴う党内手続が、多党化を迎えた政治状況に適合したものになっていなかったという、自民党が抱える重大な問題がある。

政権が、国会で予算・法律を成立させ、政策を実現していくためには、そのための議席数が必要となる。昨年10月の衆院選での敗北で、自公両党合わせても衆議院過半数を15議席割り込む状況となったが、石破政権は、自公連立に加えて臨機応変に野党1党との連携を実現させ、何とか予算・法律をすべて成立させ、政権運営を行ってきた。そういう意味では、「少数与党」ではあったが、何とか、政権を維持するだけの最低限の議席数とそれを補充する野党との連携の実績を確保していた。

ところが、7月の参院選で、必達目標に掲げた自公両党での過半数を3議席下回ったことで、自民党内とそれに同調するマスコミから「石破降ろし」の動きが活発化したことから、石破首相は辞任を表明し、臨時総裁選で高市氏が新総裁に選任された。

しかし、高市新総裁就任時点での自民党の政権基盤は極めて脆弱だ。長期間にわたって続けてきた自公連立についても、公明党の地方組織や同党を支える創価学会内では、高市氏の保守的な歴史認識や外国人政策への懸念が強まり、さらに、裏金問題での自民党の不透明な対応が、連立への不信感を増幅していた。公明党の斉藤代表は、石破総理の辞任表明を受けて9月7日に、

「私達の理念に合った方でないと連立政権を組むわけにはいかない」

と、連立離脱の可能性を示唆していた。

公明党の連立離脱は、比較第一党の自民党にとって極めて大きな政治状況の変化をもたらす。衆議院で過半数の賛成を得るためには、野党2党の協力を得なければならなり、個別の予算・法律を成立させるために、野党の出方をその都度探らなければ見通しが立たない状況になる。それでは政権運営の最低限の条件を充たしていない。

つまり、高市新総裁の就任時点では、自民党が政権党であり続けるためには、公明党との連立を維持するのが「最低限の条件」であり、それにプラスして他の野党との連立ないし協力の取り付けを模索するという状況だった。これまでのように、総裁が選任されたらほぼ自動的に内閣総理大臣に就任するという状況ではなくなっていたのである。

他党との連立協議によって政権運営の基盤を確保できて初めて、政権を発足させることができ、党首である総裁が総理大臣に就任することができるという、まさに多党化の政治状況なのだから、それへの対応が必要だった。

ここで、衆議院で過半数を37議席下回る自民党が新たな政権を発足させるためには、最低でも1党との連立協議を行ない、合意文書を成立させることが必要だ。そのためには、自民党内部において連立協議のための検討を行う組織体制がなくてはならない。他党との連立交渉というのは政策・理念を異にする政党間で、その相違点について具体的に妥協の余地を探り、その結果一定の合意に結びつけるということであり、そのためには自民党内においても個別の問題についての検討を行う組織体制が必要であることは言うまでもない。

しかし、高市総裁が就任し、新体制になっても、自民党内の組織体制は、副総裁、幹事長、幹事長代行、総務会長、政調会長、組織運動本部長、広報本部長、国会対策委員長、総務会長、政務調査会長、選挙対策本部長、参議院議員会長が決まっているだけで、それ以外は白紙のまま、現時点で自民党のホームページを見ても、すべて空欄になっている。

そこで、冒頭の高市氏の発言に戻ろう。

高市氏は、「党内手続きが必要」「党内に持ち帰って協議をして、手続きにのっとって」と述べているが、この「党内手続き」というのはいったい自民党内のどの組織でどのように検討を行うことを想定しているのだろうか。

それまでの経過からすれば、政治資金規正法の改正問題を党内で検討し議論する場は「特別機関」としての「政治改革本部」だ。正式に「党内手続き」をとるのであれば、この政治改革本部で検討し、自民党としての対応を決定するというのが「党内手続き」である。

ところが、上記のとおり、高市新総裁就任後、自民党内の人事はほとんど未定のままであり、政治改革本部の本部長もメンバーも決まっていない。これでは政治資金規正法の改正に向けての検討や党内手続など、取りようがないのである。

総裁に選任されれば自動的に総理大臣に就任するという「総理・総裁一体」が当然であった自民党では、総理大臣就任直後に組閣を行い、副大臣・政務官などの人事行うことと同時に党内人事を行えばよかった。

ところが、今の自民党は、単独では政権を担える議席数を有しておらず、連立協議によって政権基盤を確保することが、総裁が総理大臣に就任するために不可欠だ。そのためには、まず連立協議のための党内での検討体制を構築することが必要となる。公明党との関係では、その最重要課題となったのが政治資金規正法改正の問題だった。他の野党との連立協議でも、それぞれ政策のすり合わせが必要な重要課題があり、党としての対応を決めるためには党内組織を構築が不可欠のはずだ。

しかし、従来からの「総理・総裁一体」を前提とする、「組閣・政府人事・党内人事一体」のやり方に未だにこだわっている自民党では、党内人事は未着手のままだ。

党内の体制の問題は、公明党との連立協議の際だけの問題ではない。

10月21日に臨時国会が召集される日程がほぼ固まり、その冒頭で首班指名選挙が行われる前提で自民党と与野党は連携協力をめぐって協議を続けている。本来、自民党が安定的に政権を担うためには、野党2党との連立が必要であり、石破政権のような野党との連携を活用していくとしても、最低限、公明党に代わる1党との連立が不可欠であり、そのためには、各党との連立協議を具体的に進めていく必要があるが、党内組織も固まっていない現在の自民党には、それは不可能に見える。

自民党が新たな政権を発足させようと考えるのであれば、まず他党との連立協議を行うための「党内体制を整えること」が最低限必要だ。従来のように組閣と同時の党人事を行うのではなく、まず、連立協議のための党内体制を確立し、それによって、政権発足の条件を整えなくてはならない。

昨日(10月14日)の自民党の両院議員懇談会で、高市氏は、

「基本政策が合致する党へ連立を申し入れるなど、政権を安定的に運営するための努力をギリギリまでやりたい」

と述べたとのことだが、ここで言っている「連立の申し入れ」というのは、単なる「連立のお願い」であって、具体的な政策の擦り合わせを行う本来の「連立協議」ではない。

今回は、衆院選に伴う特別国会ではないので、国会召集は、首班指名選挙に直結しない。石破内閣が総辞職した時点で首班指名選挙が行われるが、内閣総辞職の時期については、石破首相も執行部の意向に従うだろうから、その決断をするのは現在の自民党の高市執行部ということになる。

衆議院で過半数に37議席届かない自民党が、連立協議も行わないまま首班指名選挙に臨むのは、それによって比較多数で首班指名が得られたとしても、その後の政権運営を考えると、あまりに無謀だ。

高市政権が発足しても、早晩政権は行き詰り、最終的に解散総選挙をせざるを得ない状況に追い込まれかねない。そのような政治の混乱の長期化による不利益は、すべて国民に回ってくることになる。

それに加え、首班指名選挙での野党候補一本化の可能性について様々な不確定要因がある。今の高市執行部の方針は、あらゆる面で確たる見通しもないまま、高市総裁の総理大臣就任だけを最優先に突っ走ろうというものであり、「丁半ばくち」のようなものだ。高市氏自身が

「首班指名の瞬間までギリギリまで、あらゆる手を尽くす」

などと言って脇目も振らず首班指名選挙に突撃するというのは、戦前の「帝国陸軍」の「精神主義」を彷彿とさせる。

55年体制から始まった安定政権時代の「総理・総裁一体」というのが特異なのであり、むしろ、一つの政党の「総裁(党代表)」と一国の「総理大臣」というのは、もともと別個の存在なのである。多党化時代を迎える政治の現状に適合した政権確立のプロセスに転換していかなければならない。それに全く適応できておらず、党人事がいまだに空白状態なのが、現在の自民党である。

このような多党制の下での連立政権の在り方、連立協議のプロセスについて、唯一理解していると思えるのが、国民民主党の玉木雄一郎代表だ。

10月14日の会見で、

「仮に政権の枠組み交渉が滞ったり、なかなか着地点が見いだせないなら、いわゆる『総総分離』。我々は、内閣に(首班指名されなくても)国会召集せよと要求している。」

と発言したと報じられている。

自民党だけでは政権を担える議席がなく、連立協議が続いている間、前政権が継続し、連立協議で次の政権の枠組みが固まってから前政権が内閣総辞職を行うのが、多党制の欧州諸国では一般的だ。

今の日本政治は、まさにその状況に大きく近づいているのであり、そういう多党化の政治においては、「総裁(党代表)」と「総理」を別個のものと考えるのが当然で、いまだに「総理・総裁一体」の体制、手法にこだわる自民党は、前時代の遺物になりかねない。

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「公明連立離脱」で“高市新政権は挫折、内閣総辞職の理由は消滅、石破首相継続しかない!

10月10日の自民党高市早苗総裁と公明党斉藤鉄夫代表との会談で、連立協議が決裂し、石破政権後の日本政治の枠組みはまったく見通しがつかないカオス状態となった。

26年間続いてきた「自公政権」は、新たな政権においてもその枠組みのベースにあったはずだが、昨日の自公協議直後の高市氏の会見の言葉で完全に崩壊した。

公明党は自公政権の下での自党の支持低下の原因になった「政治とカネ」問題に対して、自民党に抜本的な対応を強く求めていた。

そのような公明党の要求に対して新総裁としてどういう姿勢で臨むのかが問われているのに

「党内手続きを経るためにこれから検討しますと答えたら、一方的に連立離脱を通告された」

などと高市氏が会見で述べた時点で、もはや自公の関係修復の余地はなくなったといえる。

ここで現在の日本の政治状況を、時間軸を現時点に合わせて客観的状況を把握することと、このような状況に至るまでの経過を、時間軸を遡って考えてみることが必要だ。

まず客観的状況であるが、自民党は衆議院の過半数の議席を40近く割り込んでおり、1党との連立では過半数を確保することができない。これまで長期間続いてきた公明党との連立関係を安全パイのように考え、連立拡大の方にばかり目を向けたために、肝心な過半数を超えるための絶対条件だった公明党との連立関係を失ってしまった。

現状では、自民党にとって、2党と連立を組んで過半数を超えることはほぼ不可能だ。

日本維新の会は実質的に関西の地域政党に近い。その関西で、自民党とはこれまで選挙で熾烈な争いを繰り返してきた。日本維新の会にとって自民党と連立を組むとすれば、その大義は「副首都構想」で合意して結党以来の目標としてきた大阪都構想を実現することしかありえない。ところが、その構想に最も強く反対してきたのが大阪自民党だ。その遺恨を乗り越えて両党が連立を組むというのは、よほど個人的な信頼関係でもなければ困難だ。今の高市総裁の体制ではまず不可能だと言っていいだろう。

国民民主党との連立も、その背後に「連合」という組織がある以上、もともと実現困難な話である上に、自民党と組んでも過半数に届かず、国民民主党が掲げる「手取りを増やす」という政策実現に結びつかないわけだから、同党にとって連立を組む意味がない。

立憲民主党との大連立など、もともと全くありえない話だ。

このような現在の客観情勢のもとでは、国会を召集して首班指名を行っても、比較第一党なのでなんとか高市新総裁を首相に指名することはできても、石破政権の時のように自公の連立に加えて他の野党とも一定の協力関係があるというわけでもないので、予算・法案を成立させる政権の基本的枠組みが全くできない。組閣をすること自体も無責任であり、そもそも内閣としての体をなしていない。

一方の野党は、立憲民主党の安住幹事長が中心になって野党協力による首班指名を各野党に呼びかけている。

しかし、仮に首班指名に持ち込んだとしても、各野党間の政策・基本理念の違いはあまりに大きく、そのような野党が協力して連立内閣を組んだとしても、国民の支持が得られると思えない。今回の日本の政治の枠組みの崩壊は、参議院選挙を契機とする自民党内の党内抗争の勃発という、完全に「自民党の大失態」であり、それによって政権が野党に転がりこんだとしても、その新政権に国民が期待することはあり得ないであろう。

自民党の臨時総裁選での高市新総裁選出を発端とする新政権の枠組みづくりは、完全に破綻し、ほとんど実現不可能な状態になったといってよいだろう。

そこでもう一つ重要なことは、時間軸を遡らせて参議院議員選挙後の経過を改めて振り返ってみることだ。その経過の中で、そもそもそのような経過に至った原因、そこで活発に動いた人たちの意図と目論見について、現在の状況から明らかになったことも多数ある。

7月の参院選で石破首相が必達目標とした「自公で過半数」に3議席届かなかったことから、自民党内と政治マスコミの側から「石破首相退陣は当然」という意見が噴出した。

自民党内で真っ先に動いたのが、石破政権下で片隅に追いやられていた旧安倍派のいわゆる裏金議員、そして非主流派の茂木派。唯一派閥として残っていた麻生派は表立った動きは見せてはいなかったものの、派閥内で何人かの議員が「石破降ろし」に向けて声を上げていた。

そして、政治マスコミの側で「石破降ろし」の中心となったのは、何といっても読売新聞である。

この時、自民党総裁の任期を2年以上も残している石破氏が首相退陣するのが当然だという論調の最大の理由は、「参議院選挙で自公政権を否定する民意が示されたのだから、その自公政権のトップである石破首相は退陣するのが当然だ」というものだった。

過半数に3議席届かなかっただけだったので、無所属議員を加えることなどでなんとか参議院過半数を維持することもできなくはなかったのに、その可能性などはほとんど論じられることなく、「歴史的惨敗」という言葉だけが強調された。実際には、第一次安倍政権時の2007年の参議院選での敗北と比較しても、今回の議席減ははるかに少なく、歴史的惨敗などではなかった。

そしてそもそも政権選択選挙ではない参議院選挙での勝ち負けを、そのまま政権の枠組みを変えることに結びつける議論自体が、現在の日本の政治の前提となっている衆議院議院内閣制の下では、本来ありえない。

では、なぜ「石破首相退陣が当然」のように言われたのか。

一つは「自民党内のガバナンス」という理由、すなわち「組織のトップとして敗北の責任を取ってけじめをつけるべき」という意見だった。

石破首相は昨年の秋の衆院選と今年7月の参議院選2回の国政選挙で敗北したのだから総裁を辞任し首相を退陣するのが当然だというのだ。「企業経営者でも3回連続赤字を出したら辞任するのが当然」「結果に対してはトップが責任を負うべき」などという声が多かった。「結果責任」を重視する考え方だ。

もう一つ言われていたのが、「石破政権は衆議院での過半数割れに加えて参議院でも過半数を失い政権運営の見通しがたたなくなったのに、野党との協力関係を作って政権運営を担う見通しが建てられていない。だから退陣が当然だ」という意見だ。

この二つの理由のうち、後者の「政権運営の見通し論」自体には、それなりの合理性がある。政権運営を行っていくことは首相にとって不可欠であり、それが見通せないのであれば退陣するしかないと言うのは当然である。しかし、参院選敗北後の石破首相にとって、政権運営の見通しが立っていなかったと言えるのだろうか。

昨年秋の衆院選で自公が少数与党となった後も、森山幹事長の人脈もあり、野党とも臨機応変な対応で予算・法案を全て成立させてきた。その政権のままであれば、参議院で過半数に3議席足りなくなったことが政権への決定的な支障になるとは思えない。参院選後、石破政権側から特に野党側に対して目立った動きがなかったからといって、政権運営への見通しが暗くなったわけではない

問題は、もう一つの自民党内で中心を占めていた「ガバナンス論」だ。

ここで重視する「結果責任」とは、「結果に対して負うべき責任」である。一方で、目標達成のために組織をまとめたり問題に対応したりするのが「遂行責任」である。

上場企業であれば、経営者は株主に対して利益を実現する責任を負う。会社に損失を与え続ければ、その株主に対する責任をとり、辞任というのも当然の対応だ。

しかし、政党の場合、トップが負う責任はそのように単純なものではない。選挙で国民の支持を得るとともに、その支持を活用して党の政策を実現する。そして、政権を担う政党であれば、国政を安定的に運営して行く責任を負う。このような複雑な責任を負う政党、とりわけ政権与党のトップの責任を、単純な「結果責任」で考えることはできない。むしろ「遂行責任」を中心に考えることの方が、政党にとっては合理的なはずだ。

昨年9月の総裁選で石破氏が自民党総裁に就任、直後の衆院選は、当時の政治資金パーティー裏金問題への批判からは当然の結果とも言える自民党敗北だった。その結果、少数与党となったものの、石破首相は、弱い党内基盤の下で何とか党内体制を維持し、野党との協力も得ながら予算、法案を可決させ、コメ大幅増産の方向への農政改革を打ち出し、参院選直後にはEUなどにも先がけてトランプ関税を25%から15%に引き下げる合意に成功した。石破政権は、今後、本格的に石破カラーを出して政権を運営していくべき時だった。遂行責任を果たすという面ではこれからが本番だったといえる。

ではなぜ、自民党内ではこの「結果責任」中心の単純な考え方がまかり通るのだろうか。そこには、組織の根幹に、勝ちと負けを峻別し、負ければ潔く腹を切って責任を取る、というような旧来の日本型組織の単純な考え方があるのだろう。上位者には、結果を出すまでのプロセスについて「言い訳」せず、表面的な潔さだけが評価される。そのような背景の下で、日本の政党の中心であった自民党で、「結果責任」中心の考え方が当然視されてきたということではなかろうか。

しかし、それは、55年体制の下で政権基盤が安定し、その政党のトップである自民党総裁選が「最大の政治上の決戦」だった状況だからこそ通用する理屈だった。 55年体制の下での安定政権だった時代は、「サル山」のような外部から遮断された環境だったからこそ、その中で「ボス猿選び」という内側の争いをする場合には、結果責任重視、「ケジメをつける」で充分だったのだ。しかしそれは、現在のように国民の要請も民意も複雑多様化し、それに応じて多党化時代を迎えた情勢の下では全く通用しない。

このような「サル山的ガバナンス論」に基づく「石破おろし」が実現し、自民党総裁に就任した高市氏は、まずその第一段階で、26年間の連立関係で「ウチ」の存在と見ていた公明党が、実は理念も政策も違う「ソト」の存在であるという「当然の現実」に直面し、政権樹立への道はただちに行き詰った。

結局、「党内ガバナンス論」は全く正当性がなく、「政権運営見通し論」に徹して考えるべきだった。そういう観点からは、「遂行責任」を中心に考え、自民党が昨年のフルスペックの総裁選で3年という任期を石破首相に委ねたのであれば、まず党内基盤、政権基盤を安定させるための期間に1年を費やし、そこから石破政権として本格的にその独自の役割を果たす段階に入る、というのが合理的な考え方であり、国民もそれを期待していたはずだ。

では、このようにして自民党が臨時総裁選で選出した高市新総裁による新政権の発足が全く巻き戻せない状況になった現状においてどうしたらよいのか。

まず何よりも重要なことは、時間軸的な経過で見た時、そもそも「石破降ろし」という自民党内の誤ったガバナンス論に基づく権力闘争によって「政権運営が見通せない重大な危機的状況」に至ったことを率直に認め、その誤りを是正することであろう。本来そのような動きから生まれた自民党党則の「総裁選前倒し規定」による賛否を問う手続を行ったこと自体が誤りであった。

しかも、そこには、「石破総理退陣へ」の号外まで出して、石破首相退陣を既成事実化しようとして失敗し、その後も石破降ろしの政治的画策を露骨に行った「読売新聞」という存在が深く関わっていた。自社の「誤報の検証」と称して、前倒し総裁選の賛否を問う手続の開始の日の朝刊で、現職総理の総裁を「虚偽説明」と批判し、前倒し賛否に決定的な影響を与えたのである(【「石破降ろし」に正当性なし。読売「現職首相ウソつき」批判“検証記事”は総裁選前倒しに重大な影響】)。それもあって、総裁選前倒し賛成意見が一気に拡大、石破総裁の辞任の決断につながった。

このような読売と結託して「石破降ろし」を画策した自民党内勢力がいたとすれば、それは「反党行為」そのものだ。このような状況で党の決定的な分裂を避けるため自ら総裁辞任を決断した石破総裁の意思表示には瑕疵があり、無効だったという考え方も可能であろう。その場合、「総裁が欠けた」との要件を欠くので、その後の臨時総裁選は無効となる。

もっとも、そのような考え方で時計の針を9月2日の時点にまで戻そうとすれば、自民党内は大混乱に陥ることになりかねない。

そこで現実的な選択肢としては、すでに選任している高市新総裁の下での新執行部を維持しつつ、現在の石破内閣を維持することである。

現状は、公明党との連立による石破政権がしっかり内閣としての役割を果たし、政府も機能している。高市新総裁による政権樹立が挫折し、新内閣発足の見通しが立っていなければ、現在の内閣と政府の体制を維持するのは当然だ。高市氏が、衆議院196議席しかない自民党の総裁だというだけでは、内閣総辞職を行う前提に疑問が生じたと言うべきであろう。石破首相としては、政権の枠組みが定まらない現状のままの内閣総辞職は、無責任との批判は免れない。

自民党内では、高市執行部の下で党内の主要人事が行われただけで、党内体制が固まるところにまでは至っていない。

極めて異例だが、石破首相は今後も旧総裁として、党内にもある程度の権限を有し高市新総裁との協調体制を作ることによって党運営を行い、その中で、野党との連立や協力を模索し、その見通しが立った時点で、内閣総辞職、もしそれが困難な見通しとなった場合には、高市総裁の方が辞任するほかないのではないか。

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公明党が“連立離脱の刃”で求める「企業団体献金の受け皿」適正化と「横浜市連会長」「片山さつき氏」問題

参院選後、1か月半にわたる「石破降ろし」の権力闘争の末、自民党は、「前倒し総裁選」で1年前のデジャブのような総裁選を、マスコミに連日報道させるなどして繰り広げた末、昨年の「高市⇒石破大逆転」の真逆の、「小泉⇒高市大逆転」が、唯一残った派閥の麻生派と旧茂木派主導で実現し、高市早苗氏はめでたく総裁に就任した。

しかし、自民党タカ派の「高市総裁」に反発した公明党からは、「連立離脱」という強烈な刃を突き付けられ、自公連立でも過半数に届かない少数与党「高市自民党」は、まさに窮地に追い込まれている。

その公明党が「政治とカネ」問題で徹底してこだわっているのが、「企業団体献金を政党本部・都道府県連のような組織的資金管理が可能なものに限定し、現行法が認めている政治家個人などが代表を務める政党支部への企業団体献金を禁止する」という提案を受け入れろという要請だ。

30年前の政治改革四法で政党助成金が導入される際、企業団体献金は廃止される方向であったことを考えれば、公明党の要請は最低限のものである。自民党がなぜそれに応じられないのか不思議に思う人も多いのではないだろうか。政党本部・都道府県連に入った企業団体献金を適切に配分すれば良いだけの話のはずだ。

しかし、実際に自民党内で、特に自民党を支える地方組織で大きな発言権を持つ地方のボス議員にとっては、自らが代表を務める政党支部への企業団体献金は、政治権力の見返りとして資金を得る手段として欠かせない場合がある。それは、そのような政治家個人が政党支部を企業団体献金の受け皿としての「個人の財布」として使っているからこそできることだ。

今回の総裁選で、自民党員票での高市圧勝に影響したと思える「地方のボス」に対して、公明党の要求を呑んだのでは顔向けができないということであろう。

東京から最も近い「横浜市」で、自民党横浜市連会長であり、過去に、裏金事件の逆風の中、当時の岸田文雄首相に退陣要求を行うなど、国会議員顔負けの発言力を有する佐藤茂市議の企業団体献金の集金構造は、まさにその典型事例である。

私が、その問題に関心を持つ契機となったのは、2017年9月から2021年5月までコンプライアンス顧問を務めていた横浜市において、今年8月に行われた横浜市長選挙だった。

山下埠頭でのIR事業の是非が最大の争点となった前回の2021年8月の市長選は、新型コロナ感染拡大の最中、「コロナの専門家」「横浜市大医学部教授」を最大限にアピールした山中竹春氏が、同様にIR反対を掲げた多くの候補者の中で、最多の投票を獲得して当選したが、選挙戦の最中から、山中氏が、「統計の専門家」であって「コロナの専門家」ではないこと、大学でのパワハラ疑惑、市長選に絡む学長への強要疑惑、経歴詐称疑惑が指摘され、市長就任後も、市議会でも自民党公明党等による追及が行われた。

それから4年、再選をめざす山中氏について、就任当初から問題にされていたパワハラ疑惑が、その後市職員に対して行われていないかなども評価の対象になることに加え、前回市長選後、山中氏を厳しく批判してきた自民党が、市長選に向けてどのような対応を行うかが注目された。

自民党市議、マスコミ等からの情報によれば、多くの自民党市議が山中市長再選に反対し、新たな候補者を模索したが、一方で、自民党横浜市連会長の佐藤茂市議が山中氏再選を強く支持しており、新たな候補者擁立を牽制しているとされていた。そして、佐藤氏は、多くの横浜市議の強い反対を押し切り、横浜市連は山中氏を支援することとなった。

この佐藤氏は、2019年11月30日、朝日新聞が政治資金規正法の問題点を追及する特集記事のなかで、「政治資金 ザル法の闇」とのタイトル記事において、「国会議員より透明性が低い地方議員の懐具合」における「『ザル法』を地でいく事例」として、国会議員も顔負けの金額を集める「『モンスター級』市議」と評され、明細なく1億4千万円もの支出を行っていることが問題視されたことがあった。しかし、マスコミの追及は続かず、その後も、佐藤氏に対する企業団体献金の額はさらに増加し、佐藤氏の政治資金を巡る不健全な状況は継続していた。

政治資金の収支の公開並びに政治団体及び公職の候補者に係る政治資金の授受の規正は、「政治団体及び公職の候補者により行われる政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするため」のものであり(政治資金規正法1条)、政治資金は収支の公開に加えて、公開された内容について、その監視と批判の材料が提供されることで、はじめて政治資金規正法の目的が達せられるものである。

自民党横浜市連の会長として、横浜市長選挙での自民党の支持候補の選定にも極めて大きな影響力を有する佐藤氏の政治資金収支が上記のとおり極めて特異であることについて、収支の推移の詳細と、寄附企業の事業の実態、横浜市の行政との関連性等についての事実が明らかにされることは、有権者にとって重要な事実だと言えた。 

そこで、政治資金収支報告書で公表されている佐藤氏の政治資金の収支と寄附企業の実態、横浜市の行政との関連性等について、独自の調査を行い、可能な範囲で公表することとした。

同調査は、私が代表を務める「日本に法と正義を取り戻す会」の政治資金調査チームにおいて調査を行ったものであり、同会ホームページにその結果を公表した。そこで明らかにしているのは、佐藤氏をめぐる「驚異の政治資金」の実態だ。詳細は、公表している調査報告書を参照して頂きたい。

佐藤氏には、自民党横浜市旭区第二支部(以下、「旭区第二支部」)、佐藤後援会、観光振興研究会のほか、新都市構想懇話会、山手政経懇話会(旧佐藤茂を育てる会)といった、代表を務める政治団体が多数あり、2023年(令和5年)度の政治資金収支報告書によると、旭区第二支部には、総額で9113万円、その内訳は、企業団体からの寄附が総額7838万円、個人からの寄附が総額1275万円、企業団体からの寄附のうち年間総額500万円を超えるものが5社、個人献金の最高額は432万円である。また、2014年から2023年までの直近10年間で見ると、寄附総額は6億3千万円を超え、そのうち企業や団体からの寄附が総額5億円以上で、個人献金の総額は約1億3千万円である。

2023年の国会議員の関連政治団体の収入総額の平均は、政治資金収支報告書データベースの集計によれば、3594万円となっている。しかし佐藤氏は、地方議員にも関わらず年間平均で6千万円を超えており、国会議員の平均を大きく超える資金を集めている。 

一方、各政治団体の政治資金収支報告書によれば、旭区第二支部の支出額(10年間で約6億6千万円)のほとんどは新都市構想懇話会、山手政経懇話会(旧佐藤茂を育てる会)、観光振興研究会、佐藤茂後援会といった佐藤氏が代表となっている4団体および佐藤氏個人への献金に支出されており、その資金の半分弱は、収支報告書上は「翌年度への繰越」として各団体に残っていることになっているが、残り半分以上の資金のほとんどは、「組織対策費」など、明細のない(一件(数回にわたる場合は合計が)5万円以下であれば内訳の記載は不要である)不透明な形で支出されている。なお、2023年末時点での上記4団体の「翌年度への繰越額」の合計は約3億2千万円である。

また、旭区第二支部への企業団体からの寄附のほとんどは、比較的小規模企業によるものであり、実質的に同一の人物が代表者或いは経営を支配していると思える複数の企業からの寄附が多く見受けられる。

佐藤氏が自民党の横浜市議会議員の中で極めて有力な政治家であり、市長選挙等における影響力も極めて強いことを考えれば、上記のような佐藤氏をめぐる政治資金の収支について、いかなる事業実態の企業から、何故にこのように多額の寄附が行われているのか、その背景に、寄附企業と横浜市の行政との関係性、それに対する佐藤氏の影響力があるのか、などの点は、横浜市政の現状を市民が知る上でも看過できない重要な事実だ。

そこで、旭区第二支部に多くの寄附を行っている企業団体の事業と横浜市の行政との関係を見ると、産業廃棄物処理や運搬に関する資源循環局、社会福祉法人の監督に関する健康福祉局との関係などがある。また、佐藤氏は、自ら社会福祉法人恵泉会の代表(理事長は2018年までで、現在登記上は理事長ではなく非常勤理事であるが、実権を持っており、本人も「代表」と名乗っているため、代表と表記)を務めており、旭区を拠点に、横浜市内にあゆみ保育園を複数経営している。

一方、佐藤氏は、上記事業に関連する横浜市議会の常任委員会の委員も務めている(環境創造・資源循環委員会は2006年および2010年度、健康福祉・医療委員会は2014年度以降ほぼ毎年度で現職)。

このような関係の下で、佐藤氏の側から直接あるいは間接に市の当局に対して何らかの要求が行われ、その見返りとして多くの企業から多額の献金が行われている可能性は否定できない。

本来、政治資金の寄附は、支持する政治家、政党の政治活動を支援するために行われるものである。国会議員とは異なり、地方議員の場合、秘書の人件費、事務所費等にかかる費用は僅少であるはずなのに、国会平均を遥かに上回る多額の政治資金の寄附を受け、大部分が不透明な支出や「翌年への繰越し」とされているのは、極めて特異な政治資金の収支である。しかも、旭区第二支部への企業団体献金には、同一人物が経営又は支配する複数の企業による寄附を合算すると、資本金10億円未満の企業の寄附額の上限750万円(年間総額)を超える寄附が行われている例も複数あり、このような多額かつ不透明な寄附が、佐藤氏側からの要請によることなく企業団体側から自主的に行われたり、佐藤氏が認識することなく一方的に行われたりすることは極めて考えにくい。

仮に佐藤氏側が寄附を要請し、それが単に、各政治団体に「翌年への繰越し」を蓄積しておくだけの目的だとすれば、それは、「政治資金の寄附」という名目の、単なる「蓄財」ということになる(将来、相続税を課税することなく、相続人に政治団体の資金を継承させることが可能。)。

もっとも、政治資金収支報告書における「翌年への繰越し」については、残高証明が義務づけられるものではないので、各年末の実際の政治団体の口座の残高は、同報告書に記載された翌年への繰越しの金額より大幅に少ない可能性もある。もし、そうであるとすれば、旭区第二支部への寄附は、佐藤氏が代表を務める政治団体を経由して「裏金化」しているということであり、その使途に重大な疑惑が生じることになる。

実際に何に使われているのかは全く闇の中であるが、一つだけ具体的に明らかになっている佐藤氏個人から現職国会議員への寄附の事実がある。

それは、自民党の環境族の有力議員である片山さつき氏に、佐藤氏個人で、2023年11月11日付けで、「会社役員」の肩書の個人名義で片山氏が代表を務める自由民主党東京都参議院比例区第二十五支部に100万円の寄附を行っている事実だ(横浜市議会議員からの寄附であることも収支報告書からは、わからない。)。

佐藤氏と片山氏の関係性について、互いに自民党の有力議員である、ということ以上に直接結びつける明確なものはない。

ただ、佐藤氏への有力な献金企業に環境関連のX社とY社があり、近時、毎年寄附を行っていて、いずれもA氏が代表取締役社長を務めている。

A氏は、2023年に片山氏とのオンライン勉強会に出席しており、また、環境に関する新法の制定に向けて参考人として意見陳述するなど、片山氏と接点がある。

さらに、A氏は企業活動の他、環境関連の公益社団法人の会長や理事も務めるなど、政治活動もかなり積極的に行っており、環境関連の政治連盟に以前から関わり、近時は理事長として、環境大臣をはじめ、様々な政界の人物に対し、業界の様々な要望を伝え、陳情を行っている。

一方で片山氏は、自民党で環境部会長を務め、その経緯で産業・資源循環議員連盟の発足人となり、現在では同連盟の幹事長を務める立場にある。同連盟は、A氏が関わる政治連盟と大臣への要望で連携するなど、密接な関係が見受けられる。

佐藤氏とA氏の関係、片山氏とA氏の関係は、それ自体が単体で問題となるようなものではないが、前記のように、地方議員への多額の献金の必要性の低さも考慮したうえで三者の関係性を全体としてみると、佐藤氏から片山氏への個人名義での100万円の寄附が、地方の有力政治家が自治体行政などへの有形無形の影響力への見返りとして得た企業団体献金は、国政政治家への還流の一端である可能性がある。

また、前記のように、佐藤氏は多額の資金を「裏金化」している疑惑もある。

仮にそうだとすれば、公明党の提案で前提とされている「企業団体献金は公正かつ適正に政党本部に提供され、それが都道府県連組織などを通じて党所属議員に適切に配分される」という政治資金の流れとは真逆の状況だということになる。

この自民党横浜市連会長の佐藤市議の事例を見ても、公明党が、連立離脱の刃とともに自民党に突き付けている「企業団体献金の適正化」の要求は、極めて根本的かつ本質的なものであり、自民党はこれに対して相当な覚悟を持って望まなければ、一層深刻な事態に追い込まれることは間違いない。

実は、私がこのような自民党の再生が図れる総裁として期待していたのが石破茂氏であった。昨年の総裁選で高市氏に逆転勝利した後ろ盾となったのが菅義偉氏、岸田文雄氏などの元首相の自民党重鎮ということで、一年程度は党内で基盤を固め、本当の意味で石破カラーが出せるのはこれからだと思っていた。

派閥政治資金パーティーをめぐる裏金問題の本質をはじめ、横浜市の実情など政治資金をめぐる問題については必要に応じて石破氏と親しいジャーナリストを通じて情報提供していた。

しかし、参院選での自民党敗北を機に、旧勢力の巻き返しの「石破降ろし」に読売新聞等が加担し、結局、総裁の座から引きずり降ろされることになった。それによって、自民党は旧来の金権体質からの脱却の「最後のチャンス」を失ったように思える。

今、自民党が置かれている状況は、まさにその金権腐敗体質が招いた「自業自得」そのものである。

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長崎県大石賢吾知事検察審査会申立書

審  査  申  立  書

2025年10月3日

長崎検察審査会 御中

審査申立人

(資格)告発人

(住居)〒106 -0032 東京都港区六本木6-2-31

六本木ヒルズノースタワー9階 

郷原総合コンプライアンス法律事務所

(電話)03-5775-0654

(氏名)弁護士 郷原 信郎  

(生年月日)1955年3月2日

(資格)告発人

(住居)

(電話)

(氏名)大学教員 上脇 博之 

(生年月日)1958年7月25日

申 立 の 趣 旨

審査申立人が2024年8月5日付告発状にて長崎地方検察庁に刑事告発した被疑事実に関し、「起訴相当」(検察は起訴すべきである)または「不起訴不当」(検察が再捜査すべきである)の議決を求めます。

申 立 の 理 由

第1 罪名

政治資金規正法違反

第2 被疑者

住  所  長崎県長崎市尾上町3−1 長崎県庁舎内

氏  名  大石 賢吾

生年月日  昭和57年7月8日

職  業  長崎県知事

第3 事件番号

第4 処分年月日

令和7年9月12日

第5 不起訴処分をした検察官

第6 被疑事実

被疑者大石賢吾は資金管理団体「大石けんご後援会」の代表者であるが、令和4年中に、「大石けんご後援会」が被疑者大石から2000万円の借入を受けていなかったにもかかわらず、「大石けんご後援会」の令和4年分政治資金収支報告書を作成する際に「大石けんご後援会」が被疑者大石から同年1月12日に2000万円の借入れを受けたと記載し、もって、同政治資金収支報告書に虚偽記入をし、令和5年3月31日に同政治資金収支報告書を長崎県選挙管理委員会に提出したものである。

7 罪名及び罰条

政治資金規正法 第12条第1項、第25条第1項第3号(政治資金収支報告書虚偽記入罪)

第8 検察官の処分

不起訴

第9 不起訴処分の不当性

1.本件嫌疑が十分であること

(1)概要

「大石賢吾後援会」の代表者である被疑者は、形式上、選挙運動費用として提供した自己資金を、貸付金の返済名目で回収しようと考え、同会に貸付をした事実はないのに、「大石けんご後援会」の政治資金収支報告書に2000万円の架空の貸付金を記載して虚偽記入を行ったものである。

令和4年の同会の政治資金収支報告書には、被疑者からの2000万円の借入金が記載されていたが、令和6年8月に訂正され削除されており、少なくとも同削除の時点においては、それが虚偽の記載であったことを認めている。

 しかし、被疑者は、同借入金の記載を自ら行ったことを認めた上、「知事選に際し、医師信用組合から借り入れた2000万円について、令和3年に提出されていた選挙運動費用収支報告書において、既に払い切りの自己資金として計上されていたにもかかわらず、そのことを認識していないままに令和5年の3月提出の後援会の令和4年分の収支報告書において、私からの借入金として計上してしまったために二重計上となってしまった」旨弁解して、虚偽記入の犯意を否認している。

 検察官の不起訴処分は、かかる被疑者の弁解を覆す証拠がなく、虚偽記入の犯意を立証できないことを理由とするものと思われるが、以下に詳述するとおり、かかる不起訴処分は明らかに不当であり、本件は、被疑者を虚偽記入罪で起訴し、有罪判決を得ることが十分に可能な事案である。

以下にその理由を詳述する。

 まず、(2)では、被疑者の弁解内容について、記者会見における被疑者の説明内容を紹介した上、(3)で、その不合理性、関連証拠との不整合を指摘する。

 (4)では、本件当時、大石賢吾後援会の職員として同会の経理処理等を担当し、同会の会計処理として2000万円の借入金の計上を行ったTの客観証拠に裏付けられた供述に基づき、被疑者に借入金の架空計上の認識があったことを明らかにする。

そして、(5)では、被疑者の弁解どおり、借入金が架空であることの認識がなく、適法と信じていた場合、誤った助言を行った選挙コンサルタント、借入金が架空であることを看過した担当税理士等の責任との関係から、被疑者の弁解とその姿勢との矛盾を指摘する。

(6)では、仮に、被疑者の弁解のとおりであったとしても、重大な過失によって政治資金収支報告書の虚偽記入を行った刑事責任を免れる余地はないことを指摘する。

さらに、(7)では、本件告発から不起訴処分に至る経緯にも、検察官の不起訴処分には極めて不可解な点が多く、適切な刑事処分が行われたとは考えられないことについて述べる。

(2)被疑者の弁解内容(令和7年3月3日の臨時記者会見:会見録「資料1」)

  本件は、被疑者が長崎県知事に就任後、代表を務める政治団体である大石賢吾後援会の政治資金収支に関して生じた問題であり、被疑者は、長崎県議会における質疑、記者会見等で、本件についての説明を行ってきた。本件ついての最終的かつ全体的説明を行った令和7年3月3日の臨時記者会見において、被疑者は、概ね以下のような弁解を行っている。

ア 2000万円の貸付の実在性

 後援会の令和4年分の収支報告書において、私からの借入金として計上した2,000万円は、知事選の際に医師信用組合から借り入れて後援会口座に入金した2,000万円と同一のもの。これとは別に存在しない架空の2,000万円の資金移動をでっち上げて計上したものではない。実在する一つの資金移動を二重に計上したもの。

イ 2000万円についての報告書や契約書などの日付のズレ

(ア) 医師信用組合から借り入れて後援会の口座に入金をした日付は1月14日選挙運動費用収支報告書の収入の部における自己資金の2,000万円の計上日が1月5日となっているのは、選挙運動費用収支報告書を作成した出納責任者に確認をしたところ、1月14日の2000万円の入金に先立って1月6日と7日に選挙事務所の借り上げのための支出が存在をしていたため、収入よりも先に支出が発生しているという記載では具合が悪いと考えて、便宜上、2000万円の入金日を支出発生前の1月5日にしたもので、1月14日が正しい。

(イ) 後援会への貸付けとする金銭消費貸借契約書の締結日が1月12日となっていたのは、契約書の日付は後援会の口座に2000万円を入金した1月14日とするべきだった。この金銭消費貸借契約書については、選挙コンサルタントがドラフトを作成したので、日付がずれた理由について選挙コンサルタントに確認したところ、正確な理由は判然とはしなかったが、少なくとも意図的に日付をずらす理由はなく、単純な記載ミスと思われるということだった。

私の推測だが、後援会の通帳で、1月14日の2000万円の入金が記載をされている行の1行上に1月12日付の後援会に対する寄附の記載があることからすると、金銭消費貸借契約書をドラフトしてもらう際に、後援会から選挙コンサルタントに誤ってその1月12日という日付が伝えられてしまったのかもしれない。

ウ 2000万円の貸付金計上の経緯

2022年5月か6月頃、選挙コンサルタントもよく覚えていないとのことだが、当時、選挙コンサルタントに一般的な悩みを聞いてもらったり、世間話もするような関係で知事選の際に借り入れた2,000万円を念頭に置きながら、選挙というのはお金もかかって大変なんですねという話の中で、選挙コンサルタントから後援会への貸付金という処理を行えば返済を受けることができる、何ら法令に抵触するものではなく、何の問題もない旨の助言がありそのような処理ができるのであればありがたいと考えて、貸付けとして処理をすることにしてしまった。

エ 重要事項の欠落(「二重計上」を認識した経緯)

   被疑者が「借り入れた2000万円について、選挙運動費用収支報告書において自己資金として計上されていたにもかかわらず、そのことを認識していないままに令和4年分の収支報告書に私からの借入金として計上してしまったために二重計上となった」と弁解するのであれば、もう一つ重要な説明事項があるはずである。

それは、その「二重計上」に、いつ、どういう経緯で気づいたのか、という点である。いつどのように「二重計上」に気づき、どのように対応したのかは、「架空計上」ではなく「二重計上」であったことを自ら明らかにする最大の根拠となるはずである。被疑者の弁解どおり、「選挙運動費用収支報告書において自己資金として計上していることを知らなかったこと」が、二重計上の原因だったとすれば、その選挙運動費用収支報告書の記載を知ったことで二重計上に気づいた、ということになるはずである。

ところが、被疑者は、この問題も含めて説明する場であった令和6年10月2日の会見でも、上記の令和7年3月3日会見でも、冒頭説明ではこの点に全く触れていない。そして、3月3日会見では、記者から、「知事が2,000万円の数字が、選挙運動費用収支報告書と後援会収支報告書、この2,000万円の数字が2つあるということに気づいたのはいつなんでしょうか。」と質問され、「2つあるということを拝見をして、それは2つある、同じものが2つあるのは間違いですということで」などと意味不明の発言を繰り返すなどしている。

これは、被疑者の弁解が虚偽であることを示す決定的な事実である。

実際には、Tが供述するとおり、被疑者は、当時、政治資金処理等について助言を受けていたKから「2000万円の借入金は架空計上、返済を受けたのは後援会からの詐取」と指摘され、それを解消するため、Kの提案で、後援会への返金スキームを実行するなどしていたものであり、Kに相談するために同人の居住地であった沖縄に、公務の合間を縫って出かけるなどしていたのである。

被疑者が、「二重計上」に気づいた経緯を説明しようとすると、上記のようなKとの関係について説明せざるを得ず、それは自らの行為についての犯罪性の認識を自白することになるのでそれができないということだと考えられる。

(3)被疑者の弁解の不合理性

 以上の被疑者の弁解内容であるが、その前提として、以下の事実がある。

被疑者は、令和4年2月3日告示の長崎県知事選挙に立候補し、20日の投票日までの選挙期間、選挙運動を行って当選し、3月7日に、出納責任者Oが選挙運動費用収支報告書を作成して選挙管理委員会に提出したものである。

被疑者の選挙に関する入出金は、令和3年12月に開設された大石けんご後援会名義の銀行口座において一元的に行われており、被疑者大石個人の選挙運動費用収支と大石けんご後援会の政治活動の収支は区別されることなく混然一体となって入出金されていた。被疑者は、医師会信用組合から令和4年1月14日借り入れた2000万円を、同日、同後援会口座に選挙資金として入金したが、同口座には、それ以外に、医療関係者、医療法人、各種団体等から3000万円余りの寄附収入が入金され、一方で、選挙費用は合計約4800万円かかっており、選挙に関する入出金が終了した後の口座の残高は300万円弱であった。

 Oが作成提出した選挙運動費用収支報告書には、収入として被疑者からの自己資金2000万円、支出として1820万円の選挙運動費用のみ記載され、それ以外の後援会口座の入出金は、選挙運動費用収支報告書には記載されず、政治団体としての大石けんご後援会の政治資金収支報告書に記載された。

被疑者の弁解は、要するに、同選挙に関しては、上記選挙運動収支報告書の内容は提出時も、全く内容を知らなかったものであり、収入としての自己資金2000万円の記載も、1820万円の支出額の記載も、「2000万円の二重計上」に気づくまで、全く知らなかったというものである。

被疑者の説明では、自ら入金した2000万円の使途も、選挙終了時に2000万円を含め収入の殆どは使い切っていたことも知らなかった、ということであり、それ以外は、選挙に関して、どれだけの費用を要するのか、自分が調達した2000万円以外に、誰からどのような寄附収入があり、どれだけの選挙費用がかかっているのか、などは何も知らなかった、ということである。

被疑者が唯一認識していたのが「自ら借り入れた2000万円を後援会名義の銀行口座に振り込んだこと」だったところ、選挙後、選挙コンサルタントが、被疑者が唯一認識していた2000万円の後援会口座への入金を、事後的に「被疑者から後援会への貸付」だったとして処理すれば、適法に後援会から返済を受けることができると助言してくれたことを受け、選挙運動費用収支報告書の内容も、選挙の全体的な収支も残高も、何も確認することなく、後援会の会計帳簿に2000万円の借入金の記載をさせ政治資金収支報告書に記載させ提出させたというのである。

仮に、被疑者の認識がその程度であったとすれば、当選後に支持者支援者に挨拶をする際も、誰からどれだけの支援・寄附を受けたのかを認識すらしておらず、仮に、被疑者の自己資金以外に寄附収入がなかった場合には、被疑者は多額の借金を負うことになっていたが、被疑者はそのようなことは全く意に介さず、選挙運動を行っていた、ということになる。そのようなことは、常識的に考えてあり得ない。

 しかも、被疑者が弁解するとおり、「自ら借り入れた2000万円を後援会名義の銀行口座に振り込んだ」という「実在する事実」が一つだけあり、それが「被疑者の後援会に対する2000万円の貸付」と事後処理することが可能な事実だというのであれば、その後援会への振込の事実と被疑者から後援会への資金の動きとは完全一致しなければならないはずであるが、その説明は、「2000万円についての報告書や契約書などの日付のズレ」に関する(2) イの弁解で完全に破綻する。

 被疑者が実際に後援会に2000万円を振り込んだ日付は1月14日であり、それ以外に資金の流れはない。ところが、金銭消費貸借契約書の貸付日は1月12日とされている。被疑者は、それについて、同契約書を作成した選挙コンサルタントに確認したところ、「意図的なものではなく形式的なミス」との説明だったと述べ、1月14日の2,000万円の入金が記載をされている行の1行上に、「1月12日付の後援会に対する寄附の記載」があるのでその日付を誤って伝えた可能性があることに言及している。

しかし、この金銭消費貸借契約書は、後援会の政治資金の会計処理のための書類として作成され、後援会に提供されたものであり、この際、その事務を担当したのは、Tである。

 Tの供述は、陳述書(資料2)のとおりであり、Tは、その際の状況について、

契約日は「令和4年1月12日」となっており、大石賢吾名義で後援会の口座に2000万円の入金があった日とは2日ずれていました。それについて、私が聞いたところ、選挙コンサルタントは、「知事が選挙で用意した自己資金(長崎県医師信用組合から令和4年1月14日借入)の2000万と別に用意したお金で貸付けたものと認識させるため、わざと日付を令和4年1月12日にしています。」と説明してくれました。

と述べている。

 そもそも、2000万円の貸付金の計上という重要な事項について、通帳の記載から明らかな「1月14日」を、「1月12日」などと誤って伝えるなどということはあり得ない。しかも、預金通帳(資料3)の記載によれば、1行上の「1月12日」の寄附というのは、医師会政治連盟の500万円の寄附であり、名義人も金額も異なる。それを誤って伝えるなどということはあり得ない( (2)イの日付のズレの理由の説明が一応合理性があるのとは全く異なる。)。

 しかも、Tの供述によれば、選挙コンサルタントは、この2日の日付のズレは、被疑者が医師会信用組合から借り入れて後援会に入金した「1月14日の2000万円」とは別個に、もう一つの「大石⇒後援会」の2000万円という金の流れが存在し、それが後援会の政治資金収支報告書に記載された「2000万円の借入」であるように装うため、意図的に、「2日のズレ」を生じさせたと説明した、というのである。

 この点は、被疑者の弁解に関連する重要な事実である。

 すなわち、被疑者は、「自ら借り入れた2000万円を後援会名義の銀行口座に振り込んだ」という「実在する事実」が一つあるだけであり、それを後援会への2000万円貸付として事後処理することを選挙コンサルタントから助言されたというのであるが、選挙コンサルタントとして被疑者の選挙に深く関わった選挙コンサルタントは、選挙全般に関する状況を認識し、被疑者が提供した2000万円も含めて、ほとんど選挙費用で使い切っていること、被疑者の自己資金が選挙運動費用収支報告書の収入欄に記載されていることも当然認識していたはずであり、選挙のプロとして仕事をしている選挙コンサルタントが、そのような状況で2000万円を被疑者の後援会に対する貸付金として処理できると助言することは考えられない。

 Tが供述するとおり、あり得るとすれば、被疑者が、医師会信用組合から借り入れた2000万円とは別に、現金で2000万円を調達し、その現金を後援会に入金して貸付けたという前提で「貸付金処理が可能」と助言したことである。Tが供述する選挙コンサルタントの「2日のズレ」についての説明は、それを裏付けるものである。実際には、被疑者が、別途2000万円の現金を調達したり、それを後援会に現金で入金した事実などないのであるから2000万円の貸付金は架空であることが前提ということになる。

 以上のとおり、上記被疑者の弁解は、全く合理性がなく、破綻しており、むしろ、それによって、被疑者が2000万円の貸付金の架空性を認識していることは明らかである。

(4)T供述と裏付け証拠により認められる事実

  本件に関するTの供述は、陳述書記載のとおりであるが、その中で、被疑者の2000万円の貸付の架空性に関するもので、裏付ける客観証拠があるものとして以下の二つがある。

  第1に、被疑者が2000万円の後援会に対する貸付金の返済に関して金利支払いのことを気にしていたことである。これに関して、令和6年2月22日、被疑者、選挙コンサルタント、Tの3人のグループLINEに被疑者が送った下記メッセージがある(T陳述書13頁、資料4)。

「気になっていることがあります。私への返済の件ですが、いつまで引き延ばして良いですか?今の残金だと返済が難しいと思いますが、金利分があるのであまり引き伸ばすと適切じゃないような気がして・・・。もし難しければ、期間は伸びますが、半額で契約し直すとか、適切に対応できる程度に修正したほうが良いように考えています。」 

  ここに書かれているように、被疑者は「金利分があるのであまり引き伸ばすと適切ではない」と言って「金利分」を気にしているが、それは、もともと被疑者から後援会に2000万円が渡った事実がなく、「金利の支払」の理由はないからである。

  このような被疑者の意向を受け、選挙コンサルタントが、前年3月末の400万円の元金返済後の元本1600万円について返済期限を、当初の5年から10年に延長する金銭消費貸借契約書を作成している。

第2に、被疑者が2000万円の架空貸付の事実を削除して、既に被疑者が後援会から受けていた返済を返金しないと詐欺の問題になりかねないとのKの指摘を受け、Kの会社と後援会との業務委託契約を締結して、その契約に基づく支払いとして460万円を支払い、それをTの個人口座に送金して被疑者に現金で渡し、それを被疑者が後援会に戻す、というスキームをKから提案され、被疑者が了承してそれを実行した事実があることである。これについては、そのスキームの実行としてKの会社に100万円の振込を完了した時点で、Tが、その後330万円を振り込む予定であることも含めて被疑者に報告しており、その際の録音記録がある(T陳述書15頁、資料5)。

  被疑者は、この出金について、上記記者会見で、

元監査人Kが、この出金について二重計上となっていた2,000万円の問題を解決するため、不正であることを承知しながら知事を助けるために実行しようとしたと、知事も不正であることを理解をして同意をしていた旨のご説明をし、元事務職員も、これに沿った説明をしたと承知をしております。しかし、当然ながら、私は、不正な出金について了承はしておりません。私が不正に加担した事実もございません。

と述べているが、実際には、Tが供述するとおり、被疑者は、上記スキームを了承し、振込を実行したことをTから報告を受けたことも、録音記録によって客観的に明らかなのである。

 被疑者は、このようなスキームを使って後援会の資金を自分の手元に還流させ、それで不正に返済を受けた分の返金の原資にしようとしたのであり、そのような不正なスキームの実行を了承したのは、もともとの2000万円の貸付金の計上が、Kが指摘するとおり架空であることを認識していたからに他ならない。

(5)T供述の信用性に関する事実

ア 後援会からの460万円の出金

 被疑者は、上記記者会見で、「不正な出金について了承はしていない」と断言し、

   私自身は、元監査人と呼んでいた人物のことを、後援会の資金管理につきまして認識できてない問題点を整理して、その問題について適正、適法に解決する方法を指導していただける方であると、そう信じておりました。

送金を実行した元事務職員がどのように関与していたのか。そもそも元監査人を総務省から特命委託を受けて県の監査を行っている人物として私に紹介をしてきた元事務職員と元監査人の関係性が判然としない状況である。そういった状況から、現時点においては、直ちに刑事告訴を行う環境ではないと判断をしています。

などと、K、Tの告訴を示唆するなどしている。

その後、上記録音記録が公開され、被疑者が上記スキームを了承していたことは明らかになったが、被疑者は、この点について記者に質問を受けても、「不正をする意図はなく、スキームを理解して了承した事実は全くない」などと述べている(2025年3月20日長崎新聞)。

被疑者は、Kについて、「総務省から特命委託を受けて県の監査を行っている人物」と信じていたと強調しているが、その点はTも同様であり、Tは、Kが自称していた海外での留学経験、弁護士資格などの経歴も信じていたが、それが全くの虚偽であることが後日判明しショックを受けたものである。かかる意味ではTも被疑者も同様に、Kに騙されていた被害者である。問題は、被疑者が、そのようなKとの間でどのようなやり取りを行い、どのような助言提案を受けて何を行ったかである。

その点について、被疑者は、「後援会の資金管理につきまして認識できてない問題点を整理して、その問題について適正、適法に解決する方法を指導してくれる方」と認識していたと述べているが、それは全く事実に反する。当時、被疑者は、Kに、警察、検察の捜査やマスコミの追及等に対する対策を相談し、様々な助言提案を受けていたものであり、6月19日には、公務の合間を縫って、Kの居住地・勤務地であった沖縄にまで赴いている。

被疑者が、2000万円の後援会への貸付が架空であり、その返済名下に後援会から約650万円の支払を受けたことが重大な問題であると認識していたからこそ、Kの知恵を借りるべく頻繁に接触していたものである。

イ 県議会総務委員会参考人質疑でのT発言について

また、被疑者は、後援会職員として、上記の後援会からの出金のことも含め、代表者である被疑者の指示にしたがって忠実に職務を行っていたTについて、その信用性を不当に貶めるような発言をしている。上記会見では、それ以外にも、Tの県議会総務委員会での参考人質疑での発言について、以下のとおり言及している。

     私の後援会の元職員の女性が総務委員会の集中審査の中で、令和5年3月下旬頃に税理士ほか1名とともに選挙コンサルタントの間で電話のスピーカー機能を使って後援会の令和4年分収支報告書の記載の内容について協議をしたと。その際に選挙コンサルタントのほうから架空の2,000万円を私から借入金として計上するという方針が伝えられたという内容の答弁がされたと承知をしております。しかし、今般、選挙コンサルタントのみならず、税理士ほか1名の方にも聞き取りを行いました。そうしたところ、3名とも、その電話協議の際に2,000万円を私からの借入金として計上するといった方針が話し合われたことは事実だと、そういう記憶はあるといったものの、架空という言葉が出たことは絶対にないというお話でございました。私自身は、その電話協議の場に居合わせておりませんでしたけれども、税理士の先生が立ち会っておられる協議の場で架空の2,000万円の借入れをでっち上げるといったような話が出たということは、おおよそ常識的に考えても非常に現実味がないのではないかというふうに思います。

      この点を、被疑者は、2000万円の貸付が架空であるとの指摘を否定する根拠であるかのように述べている。確かに、税理士が立ち会っている協議の場で架空の2000万円の借入れをでっち上げるといったような話が出ることは常識的にもあり得ないというのは被疑者も言うとおりある。

しかし、ここで問題なのは、「架空」という言葉が出たか否かではない。

      同じ会見で、記者から、「税理士、出納責任者の方もいる中で、その方たちは2000万円の自己資金が選挙収支報告書に記載済みであることに気付かなかったのか」と質問され、被疑者は、

        そのことについては確認をしておりまして、お二人とも選挙運動費用収支報告書の中に、この2,000万円が計上されていたということについては、もちろん認識はあった。ただ、選挙コンサルタントの方から後援会の収支報告書のほうに借入金の2,000万円を記載するといった方針を伝えられた際に、選挙運動費用収支報告書のほうとの整合性については、余り深く考えることはなかった。そういったことで、そのときには特に問題意識を感じることはなく、そのように貸付けと借入金として記載をしたということでした。

と述べている。

その打合せの場にいた税理士、出納責任者は、選挙運動費用収支報告書の中に2,000万円が計上されていることを認識していたのであり、そうであれば、後援会の被疑者からの2000万円の借入金の計上が架空であることは当然認識していたはずである。

Tも、その場にいた税理士が、選挙コンサルタントの話を聞いて、「架空の貸付を計上する」という意味だと十分に理解していたということを言いたかったと述べている(陳述書11頁)

(6)被疑者の弁解とその姿勢に内在する矛盾

  被疑者の弁解によれば、選挙コンサルタントから、「後援会への貸付金という処理を行えば返済を受けることができる、何ら法令に抵触するものではなく、何の問題もない」旨の助言があり、そのような処理ができるのであればありがたいと考えて、貸付けとして処理をすることにしたということであるが、かかる弁解は全く不合理で、到底信用できないことは、(3)で詳述したところである。

もし、仮に被疑者の弁解のとおりだとすると、選挙の専門家である選挙コンサルタントは、被疑者が提供した2000万円も含め、ほとんど選挙費用で使い切っており、選挙運動費用収支報告書の収入欄に被疑者の自己資金2000万円が記載されていることなどを当然認識しており、被疑者が後援会に対して2000万円を貸し付けたことにして後援会の収支報告書に借入金を記載することが虚偽記入に当たることは十分に認識していたはずである。それにもかかわらず、「後援会への貸付金という処理を行えば返済を受けることができる、何ら法令に抵触するものではない」と被疑者に助言したことになる。もし、選挙コンサルタントがそのような発言を行い、被疑者がそれを信じて、2000万円の貸付金・借入金の計上を行ったとすれば、選挙コンサルタントとしての重大な過誤であり、そのために、被疑者は、刑事告発を受けたり、県議会、マスコミからも追及されるなど甚大な損害を被ったことになる。そうであれば、選挙コンサルタントの対応を批判非難し法的責任を追及するのが当然である。ところが、被疑者は、選挙コンサルタントに対する批判非難は全く行っておらず、責任を追及する姿勢も全くない。

  また、後援会の会計を担当していた税理士についても、選挙運動費用収支報告書の中に2,000万円が計上されていたことの認識はあったが、選挙コンサルタントから後援会の収支報告書に借入の2,000万円を記載する方針を伝えられた際に、選挙運動費用収支報告書との整合性について特に問題意識を感じることはなく貸付金と借入金として記載をした旨説明しているというのが、会見での被疑者の説明である。

その通りだとすれば、報酬を得て後援会の会計処理、政治資金処理を行っている税理士としてあまりに杜撰であり、責任追及の対象になるのが当然である。

ところが、被疑者は税理士についても

私の立場で非難をするかどうかというと、それは全く考えておりません。やっぱりこれはひとえに私自身が本当に管理が行き届いてなかったと、十分にできていなかった。これは私の経験不足もありますし、時間的な制約等もありますけれども、それがひとえに原因なんだろうと思っております。

  このような被疑者の姿勢は、選挙コンサルタント、税理士、いずれの関係でも、誤った助言、杜撰な対応をされたとの認識はないということである。被疑者自身が、違法であることを十分に認識した上で貸付金の架空計上の方針を固めそれを実行したものであり、専門家の助言や対応によって、誤った判断をしたのではないが故に、このような姿勢になると考えざるを得ない。

  すなわち、被疑者の弁解は、その内容が不合理極まりないものであるだけでなく、関係者に対する姿勢との間で矛盾しているのである。

(7)被疑者の弁解を前提としても政治資金収支報告書虚偽記入罪の罪責は免れないこと

 政治資金規正法は、27条2項で、「重大な過失により、第二十四条及び第二十五条第一項の罪を犯した者も、これを処罰するものとする」と規定しており、重大な過失により、25条1項の政治資金収支報告書虚偽記入を行った場合にも、同条項の罰則により処罰される。

 被疑者の弁解のとおりであるとすると、認識していたのは、選挙の費用として医師会信用組合から2000万円を借り入れ、その2000万円を、選挙のために開設した大石賢吾後援会名義の預金口座に振り込んだことのみで、それ以外のことは、選挙に関して、どれだけの費用を要するのか、自分が調達した2000万円以外に、誰からどのような寄附収入があり、どれだけの選挙費用がかかっているのか、なども把握することなく、選挙運動を行って当選し、選挙後、2000万円の入金を「後援会への貸付金」だったことに適法に処理できるとの選挙コンサルタントの助言を受け、自らの選挙に関する収支や選挙運動費用収支報告書の記載も確認することなく、同後援会の政治資金収支報告書に、被疑者からの借入金2000万円という記載をさせたというのである。

 この場合、前提となる事実関係を全く確認せず、法律の専門家でもない選挙コンサルタントの言葉のみ信じて、政治資金収支報告書に結果的に虚偽の記載を行ったのであるから、もし、虚偽記入の犯意が認められない場合でも、注意義務懈怠の程度は著しく、重大な過失による虚偽記入罪が成立することは明らかである。

 既に述べてきたように被疑者には故意の虚偽記入罪が成立することは明らかであるが、検察官が、被疑者の弁解を覆すことができず、虚偽記入の故意が認められないと判断したのであれば、重大な過失による虚偽記入罪の立件も検討するのが当然である。

2. 検察官の不起訴処分に至る経緯に関する問題

 検察官は、被疑者の犯意を立証する十分な証拠がないとして不起訴処分を行ったものと考えられるが、既に述べたとおり、被疑者の「借り入れた2,000万円について、選挙運動費用収支報告書に既に払い切りの自己資金として計上されていたことを認識しないまま令和5年の3月提出の後援会の令和4年分の収支報告書に被疑者からの借入金として計上し二重計上となった」旨の弁解は不合理極まりないものであり、2,000万円の借入金が架空であることの認識及び虚偽記入の犯意は十分に立証可能である。

それにもかかわらず、検察官が不起訴処分を行った経緯には、下記のとおり、不自然、不可解な点が多々ある。

  • 検察官によるT供述調書作成未了と不起訴処分の時期

Tは、令和7年7月28日に、本件2000万円の件等について聴取を受け、8月22日にも聴取を受け、2000万円の件についても話を聞かれた。その時は、「大石知事に不正の認識があったことを示す事実があれば、できるだけ思い出してほしい」と言われ、可能な限り思い出して供述した。8月27日にも聴取が予定され、その日は供述調書を作成する予定だったが、その頃、7月から悪性リンパ腫で入院していたTの代理人の郷原弁護士から電話があり、同弁護士が退院後に、供述調書に署名する前に、郷原弁護士がTの供述内容を確認した上で調書を作成することを希望するよう助言を受け、27日の聴取の際に、TからK検事にその旨希望し供述調書の作成は保留となった。

その後、退院した郷原弁護士からも、K検事に連絡して、調書の作成は待ってもらうよう申し入れ、郷原弁護士が電話でTの供述内容を確認するなどして、K検事の次回聴取を待っていたところ、突然、9月12日に、大石知事の2000万円の政治資金規正法違反の件で本日不起訴を行ったことが、K検事から告発人の郷原弁護士に伝えられた。その際、T調書が作成未了のまま不起訴処分を行った理由を尋ねたところ「話は聞いたので調書は不要と判断した」との返答だった。不起訴処分を急ぐ事情の有無について尋ねたところ、「処分の機が熟しただけで特に急いだわけではない」とのことであった。

しかし、上記のとおり、Tは、K検事から「大石の不正の認識に関する事実」を思い出すように言われ、それを郷原弁護士にも話して整理した上で改めて供述し調書作成に応じる予定だった。仮に、そのような調書作成を行っていたら、T陳述書と同様に、被疑者の弁解を覆し犯意を立証するための供述が録取されていたはずである。

検察官は、なぜ、そのようなT聴取・供述調書作成を行わず、急いで不起訴処分を行ったのか、誠に不可解である。

  • 労基署関係の示談・告訴取消との関係

 Tは、460万円をKの会社に送金した件について、被疑者の了解を得て送金し報告しているにもかかわらず、大石後援会から、不正に出金した疑いをかけられ、一方的に自宅待機を命じられ、その後、解雇されたものであり、Tには、残業代等の未払賃金について、労基署に後援会の代表者の被疑者を告訴するために告訴状を提出していた。

 本年5月8日に、後援会の代理人D弁護士から、T代理人の郷原弁護士に、「T氏が主張される全額をお支払いいたしますので、支払いが必要な金額及び内訳をご教示ください。」との連絡があり、その後交渉を重ね、6月末に示談が成立し、被疑者に対するTの告訴もすべて取消を行った。Tは、後援会側がTに不正の疑いをかけ、未払分についても「一切払わない」と述べていたのに、その態度を翻して、請求額全額を支払うと言ってきたことに驚いていたが、その後、8月22日のK検事の聴取の際、労基署の件についても詳しく聞かれ、告訴取消について確認されたことから、大石後援会側の態度の変化と検察官が関係している可能性があるように感じていたところ、9月12日に、大石知事が不起訴処分となった。大石後援会のTとの示談に向けての動きは、検察庁の不起訴処分を意図したものだった可能性が高い。

  • 不起訴処分後の大石後援会側の対応

9月16日に、Tの自宅に大石賢吾後援会からの配達証明の郵便物が届いた。

大石後援会との関係は、すべて代理人の郷原弁護士に対応を委任しており、そのことは、郷原弁護士から後援会宛てに受任通知を送って通告しているのに、T本人に直接、後援会から配達証明で郵便物が届くことに不信を持ったTは郷原弁護士に連絡し、その指示により郵便物を受領し、開封せずに郷原弁護士の事務所に送付した。

その郵便物の内容は、後援会のM名義のT宛ての質問状で、Tの元に大石後援会の会計帳簿などが残っているとか、その件について、改めて対面で話を聞かせてほしいなどと書かれていた。受任通知を送っているのに、T本人宛に質問状を送付した理由を、郷原弁護士から後援会に問い質したところ、D弁護士が質問状を作成してT宛てに送付したとのことだった。郷原弁護士からは後援会に厳重に抗議をしたが、大石後援会は、従前の態度を翻して、Tに請求額全額を支払う申出を行って示談し、検察官が不起訴処分を行うや、その直後に、弁護士の受任通知を無視してT本人に質問状を送付するなど、不起訴を境にまた態度が急変しており、その背景に、大石後援会と検察官との間で不起訴処分に向けて何らかの協議が行われていた可能性が否定できない。

  • 小括

 以上のとおり、本件不起訴処分に至る経緯には、誠に不可解な点が多く、実体面で、嫌疑が十分であることに加え、手続面でも不起訴処分の不当性が窺われると言わざるを得ない。

3.本件政治資金規正法違反の悪質・重大性

被疑者は、一方では、同人の選挙運動費用報告書上、2000万円の自己資金が収入とされ、選挙運動費用の支出でその大半は、なくなっているのに、一方で、2000万円を、大石けんご後援会に対する貸付金として架空計上し、後援会の収支報告書に借入金を計上することで、提供した自己資金を回収しようとし、実際に、一部返済を受けていたものである。

後援会の代表自身が収支報告書に自己への借入金を虚偽記入することで、後援会の資金を私的に取り込む、という実質横領に近い行為である。最終的な管理者が被疑者自身であり、自身が管理する財布の中から自分が取り込んだことに関する虚偽記入の事案である。政治資金収支報告書の虚偽記入は、一般的には開示義務違反という、政治資金の公開の問題であるが、本件は、選挙運動費用収支報告書の収入欄に自己資金として記載され、選挙費用は全額候補者個人が拠出したように記載されているのに、貸付金返済の名目で、後援会からその自己資金回収を図ったという、経済的利得の実体を伴った政治資金規正法違反であり、政治資金収支報告書の虚偽記入罪としては極めて悪質・重大な事案である。

県知事の立場にありながら、かかる悪質な政治資金規正法違反を犯した被疑者については厳重処罰が必要である。

【補足】選挙コンサルタントら関係者の刑事責任について

 最後に本件の審査申立の対象とはなっていない関係者の刑事処分に言及しておきたい。

上記のとおり、本件は経済的利得の実体を伴った政治資金収支報告書虚偽記入罪という悪質・重大事案であり、虚偽記入の犯意を否認する被疑者の弁解は極めて不合理なものでありその弁解を覆して犯意を立証し得る証拠は十分と思料されるにもかかわらず、検察官は不可解な経緯で被疑者を嫌疑不十分で不起訴処分としただけでなく、本件政治資金規正法違反に関わった関係者についても、すべて不問に付している。これは全く理解しがたい刑事処分である。

 特に選挙コンサルタントについては、本件について別の告発人Kが行った審査申立の対象とされているので、本件審査と併せ、同人の刑事責任についても十分な検討が必要と思料するものである。

 被疑者の弁解によれば、選挙コンサルタントは、選挙後に、医師信用組合からの借入金の返済に窮していた被疑者に、「選挙の自己資金として提供した2000万円を後援会に貸付けたことにすれば、法令に何ら抵触することなく適法に返済を受けることができる。」との助言を行い、被疑者はそれを信じて、本件貸付金・借入金の計上を決意したというのである。選挙コンサルタントは、金銭消費貸借契約書を作成するなどして、その計上を実行したものであり、選挙コンサルタントとして公選法、政治資金規正法等について適切な助言をすべき立場にありながら、被疑者に違法行為を行わせた責任は極めて重い。被疑者の弁解どおり、選挙コンサルタントの言葉を信じたために虚偽記入の犯意がなかったとすれば、そのような被疑者に2000万円の借入金の架空計上を決意させた責任の大半は選挙コンサルタントにあることになる。それにもかかわらず、その選挙コンサルタントをも不起訴にする検察官の判断は理解し難い。

 しかも、選挙コンサルタントは長崎県議会における本件の審議において再三にわたって参考人として出頭を求められながらこれをすべて拒絶している。

 検察審査会におかれては、被疑者に加え、選挙コンサルタントについても厳正な刑事処分が行われるよう、適切な議決を行って頂きたい。

 

証拠目録(=添付書類 各1部)

資料1 会見録

資料2 陳述書

資料3 預金通帳

資料4 LINEデータ

資料5 録音記録

以上
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