「裏金議員の不処罰」で期待裏切った検察、五輪談合事件では「裁判所を抱き込んで暴走」

「検察・裁判所の暴走」が続く、東京五輪談合事件公判

東京五輪談合事件については、昨年2月、テストイベント計画立案業務を受託した6社と各社担当者、組織委員会元次長の森泰夫氏が独禁法違反で一括起訴された後に、それぞれの被告会社ごとに裁判が分離され、公訴事実を全面的に認め昨年12月に有罪判決を受けた森氏以外は、全者が公訴事実を争って公判が続いている。

各社の裁判の中で、この事件での検察、裁判所の対応について重大な問題が次々と明らかになっている(FACTA2024年7月号【「認めないと部下を逮捕する!」/「五輪談合事件」衝撃の告白/検察官と裁判官が「暴走」】)。

自民党派閥パーティーをめぐる事件で、裏金議員に対する処罰で国民を失望させた検察が、普通に働く市民に対しては、裁判所を抱き込んで、謂れのない「独禁法違反事件」を仕立て上げ、逮捕・起訴して「人質司法」で自白を迫る、そういうやり方が、当たり前のように罷り通っているのである。

イベント制作会社株式会社セレスポ(以下、「セレスポ」という。)の専務取締役鎌田義次氏(今年6月の株主総会で退任し、現在は顧問)は、昨年8月、196日間の「人質司法」に耐え抜いて保釈され【東京五輪談合、セレスポ鎌田氏”196日の死闘”で明らかになった「人質司法」の構造問題】、その後、東京地裁で公判が行われてきた。

第4回公判の被告人質問では検察官が取調べで発した信じ難い発言が明らかになった【「小学校で宿題やらなかったでしょう!」上場企業役員の被疑者に女性検事が浴びせた言葉】

7月12日の第7回公判で、弁護人最終弁論を行い、結審した。公判終了後、鎌田氏と主任弁護人の私とで、司法クラブで会見を行った。

昨年2月8日、独禁法違反で逮捕されたこと自体が、全く謂れのないものだったが、それ以上に、鎌田氏に対してその後検察・裁判所が行ってきたことは、異常というほかないものだった。それを知れば、多くの人が、「これが日本の刑事裁判か」と愕然とするであろう。しかし、それは、日本の経済社会で活動する国民すべてに、いつ降りかかるかもしれない「刑事処罰のリスク」そのものなのである。

「東京五輪談合事件」とは何だったのか

多くの人が、元電通の高橋治之氏やスポンサー企業経営者が逮捕・起訴された「東京五輪汚職事件」と混同しているが、「東京五輪談合事件」は、それとは全く異なる事件だ。

本件は、東京オリンッピク・パラリンピック競技大会(東京オリパラ大会)組織委員会が、東京オリパラ大会の会場・競技ごとに総合評価方式の一般競争入札で発注したテストイベント計画立案業務に関して、入札参加事業者6社とその担当者、組織委員会大会準備運営第一局次長として同業務の発注を総括していた森泰夫氏を、独占禁止法3条後段の「不当な取引制限」の罪で起訴した事案である。

 要するに、東京オリパラ大会のテストイベント計画立案業務の入札で、独禁法違反に当たる談合を行ったとして起訴されたのである。

 しかし、実際は、一般人が想像する「公共工事をめぐる談合」のような、単純なものではなかった。

 組織委員会の発注は、法的には「民間発注」であり、刑法や官製談合防止法は適用されない。適用されるのは、独占禁止法だけだ。そして、民間である以上、どのような方式で発注するかは、発注者が自由に選択できる。

東京五輪大会は、60もの競技がほぼ同じ時期に行われる世界最大のスポーツイベントであり、その26の会場で行われる競技すべてについて、穴を空けることなく、それぞれの競技についての過去の実績や競技団体との関係などに基づいて、実施能力のある事業者を選定する必要があった。人気のあるメジャーな競技に応札が集まり、マイナーな競技にはどこも応札しない事態になる懸念があり、国内のスポーツイベントに関わる業務リソースをバランスよく配分して、業務に対応しなければ、大会を実施することができない。

しかも、スポーツイベントの大会運営は専門的な業務の組み合わせによって成り立つため、1社でやり切ることは難しく、各業務に精通したスタッフを揃える必要がある。そこで、普段は競合する企業間でも、「協業」することが必要になる。

組織委員会のテストイベント計画立案業務の入札では、国際大会の運営実績などが「入札参加要件」とされており、複数の競技を組み合わせた会場ごとに入札が行われたので、各競技に実績のある複数事業者が協業することで初めて入札資格を充たせる場合も多かった。

そこで、発注者の組織委員会側で発注を統括する森氏が、各社の実績や意向に基づいて、全競技について、責任をもって業務を実施できる最低一つの事業者を確保できるよう、「入札前の調整」を、東京オリパラ大会のマーケティング専任代理店であったD社の協力を得て行ったものだった。

「公の入札」であれば、発注者が特定の事業者に入札参加や受注を依頼する行為自体が犯罪であり、それに関わった事業者も共犯の責任を問われることになる。ところが、組織委員会の発注は、法的には「民間発注」であり、発注者側の担当者が、特定の事業者と接触すること、入札参加、受注を依頼することは、内部的な責任を問われることはあり得ても、犯罪に問われることはない。

発注者の組織委員会の側が、事業者に対して受注の「割り振り」を行ったとしても、それ自体には犯罪性はなく、事業者が、発注者から受注案件の「割り振り」を受けてそれに応じたとしても、それ自体は独禁法上問題になるものではない。

事業者間の意思連絡がなく、単に「他の事業者も同様と認識していた」に過ぎない場合は、独禁法上問題となるものではない。

通常、入札談合であれば、競争が回避されるため、落札率(落札価格/予定価格)が高くなり、100%に近い数字になることも珍しくないが、本件入札での落札率は、何と約65%であった。組織委員会側の意向は尊重しつつ、事業者は、何らの制約もなく、自由に競争行動を行っていたのだった。

鎌田氏が逮捕以降一貫して行ってきた主張と森氏の供述

鎌田氏は、逮捕後の弁解録取において、

「森から『入札参加の依頼』を受け、これに応じたもので、『発注者の組織委員会側との入札参加についての合意』が成立したに過ぎない」

「入札参加依頼を受けなかった会場・競技への入札参加については何ら制約を受けていない」

と供述し、その後も一貫して同趣旨の供述を行ってきた。

その鎌田氏にとって、本件について、自社以外の唯一の接触の相手方だったのが組織委員会の森氏だった。森氏は、取調べの録音録画記録の中では、

「応札を依頼しただけ、依頼していない競技の入札を制約していない。事業者間で受注予定者の決定はしていない」

と何回も述べていた。鎌田氏の主張とも一致するものだった。

そもそも、「入札前の調整」の目的は、各社の実績や意向に基づいて、全競技について、責任をもって業務を実施できる最低一社の事業者に応札してもらうよう、適切な「協業」の組み合わせを確保することだった。入札は「総合評価方式」で行われ、実績や能力も審査される。依頼した事業者以外が入札に参加してきても、その中から、組織委員会が最適な業者を選定すればよいのであり、依頼した事業者以外の入札を制限する必要は全くなかった。

しかし、森氏の供述調書では、そのようなことは記載されていなかった。

逆に、勾留満期前日(2月27日)に作成された検察官調書では、

《各事業者とも、入札前に、私やD社側との間で、特定の競技に入札し、委託先となることを相互に確認し合い、合意しましたので、基本的に、合意したその競技だけに入札して、それ以外の競技には入札しないこととなっていました。》

とされていたが、森氏の取調べ録音録画記録全体を見ると、同調書作成の経過に重大な問題があることは明らかだった。

森氏は、A社がアーバンスポーツの入札について、「割り振り」に反して応札してきたのに対して、A社の落札を阻止するため、同社の企画提案書をD社に横流しするという、弁解の余地のない不正行為を行った事実があった。その案件だけ、他の競技とは異なり、D社の受注に強くこだわっていた。

検察官は、森氏の勾留満期の前日に、その事実を持ち出して森氏を追及し、反省を求め、その勢いで「反省の前提としての事実確認」だとして、本件全体について認める内容の調書を目の前で読んで聞かせパソコン入力して、印刷して閲読させ、署名を求めた。その内容の中には、上記の供述のように、それまでの取調べで供述していない内容が含まれていたが、森氏は、全く抵抗することなく署名した。

翌日に決まる自らの刑事処分や保釈の可否に集中していたと思われる森氏は、抵抗困難な心理状態に追い込まれ、署名したことは明らかだった。

検察官は、このような不当な方法まで用いて、森氏から、鎌田氏の主張に反する供述を調書にとっていた。それは、上記の鎌田氏の主張が最大の争点であることを検察官も認識していることを示していた。

森氏の録音録画媒体と証人尋問請求の採用を拒み続けた裁判所

弁護人は、「人質司法」で長期勾留が続く鎌田氏の保釈のために、森氏の検察官調書は全部同意していたが、上記の勾留満期前日の調書は信用性を強く争っていた。

取調べ録音録画によれば、森氏の真の供述は、

「入札参加の依頼を受けて応じたもので、組織委員会側との入札参加についての合意が成立したに過ぎない」

「入札参加依頼を受けなかった会場・競技への入札参加については何ら制約を受けていない」

との鎌田氏の主張と一致していることは明らかであるのに、調書化されていない。「森氏の真の供述によって、弁護人の主張が裏付けられる」として、公判前整理手続の段階から、森氏の取調べ録音録画記録媒体を証拠請求し、同氏の証人尋問も請求していた。

ところが、裁判所(安永健次裁判長)は、昨年10月17日の第一回公判で、上記の証拠取調べ・証人尋問の採否の決定を留保したまま、第2回期日を4か月以上も先の2月28日に指定し、その間に、公訴事実を争わなかった森氏の公判の有罪判決を先行させた。

そして、第2回公判以降、他の証人尋問や被告人質問を行って、森氏の録音録画媒体・証人尋問の採否は先送りした上、結局、被告人質問後の5月中旬、期日外で、いずれの請求もすべて却下する決定を出した。

結局、鎌田氏の主張を裏付ける最大の証拠である森氏の証人尋問、取調べの録音録画媒体の証拠採用がなされないまま、セレスポ・鎌田氏の公判は結審することになった。

ちょうど、その頃、セレスポなどと一括して在宅起訴され、公判が分離されて、同じ安永裁判長が担当して別々に審理されていたT社の公判で、森氏の供述調書が一部不同意とされたことを受けて、検察官申請で証人尋問が行われることがわかった。

6月13日の証人尋問公判を傍聴したところ、森氏は、弁護人の反対尋問に答えて、まさに、セレスポ公判の証人尋問で証言してもらいたかった

「入札参加を依頼したものであり、受注予定者の決定などはしていない」

「入札参加依頼をしなかった案件への入札参加は制約していない」

との鎌田氏の主張と完全に一致する証言を行った。

この森氏の証言の証人尋問調書が完成したら、セレスポ公判で証人尋問調書の証拠請求を行おうと考え、裁判所書記官に、証人尋問調書作成の進捗状況を何回も尋ねたが、セレスポ公判の論告期日の前日の7月2日の時点ではまだ完成していないということであり「裁判体の決裁で何日かかるかわからない」とのことだった。

7月3日の第7回公判で検察官の論告が行われ、弁護人の最終弁論は、論告の9日後の7月12日の第8回公判で行うこととされていた。

「証拠に基づかない検察官論告」に対する異議と裁判所の対応

検察官が行った論告では、弁護人が信用性を強く争った勾留満期前日の供述調書は、事実立証の根拠となる証拠から明示的に除外されていた。検察官は、「応札の依頼なのか、依頼されていない競技の入札が制限されていたか」について主張すらしていなかった。

論告では、証拠がほとんど引用されておらず、事実の記載も多くが抽象的で、証拠上の根拠も不明だった。「証拠に基づかない論告の記載」と思えるものも複数あった。

そのうちの一つがセレスポ取締役会での2名の役員の発言の記載だった。検察は、

鎌田氏の「アタック」という発言が、それらの役員の発言を受けてのものだから、「割り振り」に対して自社の希望競技を主張していくという意味だ

と論告で主張したが、そのような2名の役員の発言とそれに基づく主張は、検察官の証明予定事実記載書にも、冒頭陳述にも記載されておらず、論告において唐突に持ち出してきた主張だった。しかも、証拠上の根拠が不明だった。発言者のO氏の調書や添付書類には見当たらず、もう一人の役員に至っては、供述調書すら作成されていなかった。

弁護人は、このような論告の記載について、「証拠に基づかない論告」だとして異議を述べたが、裁判所は棄却した。検察官に同記載の証拠上の根拠を尋ねたところ、「被告人質問における検察官の質問が証拠である」旨の説明だった。

そこで、第8回公判では、弁論に先立って、弁護人から、裁判所に確認を求めた。

「検察官が説明するように質問が証拠になるなどということを前提に、このまま弁論を行ってよいのでしょうか。裁判所は、そのような前提で、異議を棄却したのでしょうか」

しかし、安永裁判長は、

「弁護人から出された異議については既に裁判所は棄却の決定を出しており、その理由について説明はしません」

と述べた。その直後、検察官が立ち上がり、

「弁護人に期日外で説明したことについて不正確に述べないでもらいたい。検察官の質問だけではなく、そのやり取り全体を証拠としているものである」

などと発言した。

その後、弁護人が弁論を行い、終わった直後、検察官は、弁論で検察官の取調べの問題について指摘している箇所について、

「被告人質問での弁護人の質問を証拠としているのではないか」

と発言した。

弁護人が「証拠に基づかない論告」と指摘した部分は、検察官が、証拠とされてない録音記録に基づいて質問し「~という発言は記憶にありますか」と聞かれて、鎌田氏は「覚えてません」と答えており、質問部分は全く証拠になりえない。

一方、検察官が指摘した弁護人の弁論の記述の方は、取調べの録音録画の内容に基づいて質問したのに対して鎌田氏が「はい」と認めているのであり、録音録画の内容についての被告人供述という「証拠」に基づいている。全く的外れの検察官の指摘だった。

弁護人はあえて、

「それなら、その部分は、特に重要な箇所ではないので削除する。そちらの方の記載も検討してもらいたい」

と述べた。当然、検察官の論告の記載も削除せざるを得ないだろうと思ったからだ。

しかし、安永裁判長は、弁護人が削除すると述べた部分だけ確認し、検察官の「証拠に基づかない論告」については、何の対応もしないまま、公判手続を終了した。それによって、検察官の「証拠に基づかない論告の記載」だけが、そのまま残ったのである。

「適法な証拠に基づく裁判」というのが刑事裁判の大原則である。検察官が、被告人質問で「・・・の事実があったのではないか」と質問し、被告人が「記憶にありません」と答えていても、その「・・・の事実があった」とする資料が証拠になり、検察官はそれに基づく主張ができる、というのであれば、検察官は、どのような証拠でも、証拠のルールを無視して、自由自在に都合のいい事実を証拠にして、自らの主張の根拠とすることができる。

これが「証拠に基づく裁判」と言えるだろうか。

T社公判での森証人尋問調書についての弁護人の質問と安永裁判長の対応

安永裁判長は、「これで審理を終える。判決は12月18日」と言ったが、その直後に、弁護人が立ち上がって、次のとおり述べた。

「T社の公判での森氏の尋問調書が作成されたかどうかを、書記官に何回も確認し、昨日も確認しましたが作成未了とのことでした。現時点でも未了ということでしょうか」

安永裁判長は露骨に不愉快そうな顔をして

「事件当事者でもない人に、そのようなことを答えることはしません」

と述べた。

もともと、T社と担当者は、鎌田氏と共犯関係にあるとして一括起訴されたものであり、セレスポ・鎌田氏の弁護人は、T社の公判の事件について「当事者ではない」とは決して言えない。第7回公判終了後の打合せの際にも、「T社の公判での森氏の尋問調書は、作成完了次第、証拠請求の予定。もし、間に合わなければ弁論再開請求の予定」と予告していた。

書記官に、論告直前に調書が完成する予定を確認した時点では、速記録はできているようだった。それから10日経過した時点で、いまだに「決裁中」ということは、安永裁判体が10日近くも証人尋問調書を完成させずに抱え込んでいたことになる。

森氏の証人尋問調書を証拠請求する方針を示しているセレスポ弁護人が証拠請求できないよう、「証人尋問調書作成の意図的な遅延行為」を行っているとしか思えない。

「ノットリリースザボール」の反則

「ボールを前に投げてはならない」「タックルされて倒されたらボールを離さなければならない」というのがラグビーの基本ルールであり、後者に違反する反則が「ノットリリースザボール」だ。倒されても、そのままボールを抱え込んでいたのではラグビーにならない。

安永裁判長の森氏の証人尋問調書の作成遅延行為は、ノットリリースザボールの反則そのものだ。公訴事実を認めて有罪判決を受けた森氏の公判で昨年7月に行われた被告人質問調書は、作成完了後、すぐに弁護人から証拠請求し、検察官も証拠請求して証拠採用されている。その森氏がT社公判で、被告人質問とは異なり、宣誓の上証人として証言したのであれば、その証言内容も、速やかに証拠化され、セレスポ公判で証拠とするのは、当然のことだ。

速記録が完成しているのに「決裁中」と称して裁判長が抱え込んでいるとすれば、重要な証拠を証拠採用するという刑事裁判の基本的なルールに反するノットリリースザボールの反則そのものだ。

セレスポ・鎌田氏の行為のどこがどうして犯罪なのか

セレスポも、鎌田氏も、東京オリパラ大会のテストイベント計画立案業務の入札について、対象競技への自社の大会運営実績・対応能力について社内で検討し、会社としての判断で、各競技に入札するか否かを判断した。その際、組織委員会側から入札参加の要請を受けた案件については、可能な限り応じられるよう努力した。入札参加依頼を受けなかった会場競技についても実績と能力がある競技については、積極的に入札参加した。組織委員会側の依頼の有無で何ら制約を受けてはいない。

スポーツ大会で豊富な実績があるイベント制作会社として、国際的行事である東京オリパラ大会に対して当然の対応をして貢献した鎌田氏はじめセレスポ社員達が、なぜ「犯罪者」の汚名を着せられなければならないのか、絶対に納得できない、という思いから、鎌田氏は、検察官の2か月半にわたる取調べで可能な限り説明を尽くし、その後逮捕・勾留されても、196日にわたって、健康上の問題もあって筆舌に尽くし難い身柄拘束の苦痛にも耐え抜いた。

森氏の検察官調書には、「心理的強制の下で作成された勾留満期前日調書」以外に、鎌田氏の主張に関することはほとんどとられていない。その検察官調書を不同意にすれば、さらに半年程度保釈許可が遅れることは必至だった。「人質司法」から逃れるために、検察官請求証拠は全部同意した上で信用性を争い、取調べ録音録画等で弁護人の主張の証拠として「調書化されていない森供述」を活用する方針で臨むことにした(もっとも、検察官調書をすべて同意しても、検察官はなおも保釈に猛反対し続け、3回にわたって保釈請求は却下され続けた)。

しかし、弁護人の森氏の取調べ録音録画媒体の請求も、証人尋問請求も、安永裁判長にことごとく却下され、審理は終結した。被告人最終陳述で、鎌田氏は、

「森さんの話を聞いてもらえれば、私が主張するとおりだとわかってもらえるはずだと思っていました。残念です」

と述べた。

驚愕のH社有罪判決の判決理由

セレスポ・鎌田氏の弁論期日の前日の7月11日、同じ安永裁判長の裁判体で審理されたH社とその担当者の公判での判決言い渡しがあった。その判決要旨を入手して読んだ私は、腰を抜かさんばかりに驚いた。

「こんなものが独禁法違反の刑事事件の判決であるわけがない!」

9万字に上る弁論の作成の最終段階だった私は、その判決のことは、何とか頭から取り払おうと努めた。

H社は、D社に次ぐ広告代理店業界の大手企業、D社とは、もともと激しい競争を展開していた。個別の入札案件でも、森氏側の「割り振り」には従わず、依頼されない競技にも入札参加し、しかも、企画提案と入札価格の設定で落札の可能性を高めるため、全力を挙げていた。まさに、競争そのものというべきH社が、独禁法違反とされることはあり得ないと思われた。

ところが、判決では独禁法違反の成立を認めた。その理由として、次のように書かれている。

《被告人や他の事業者の従業者らは、森やD社の従業者らとの面談等を通じて、会場案件に応じて、森において受注が適切と考えている他の事業者の存在を認識したと認められ、さらに、同面談の内容等に照らし、森は、それら事業者の従業者らとも面談等を行って、その意向を示すなどしているであろうことを認識ないし予測していたことも認められる。そして、そもそも、東京2020大会は、世界的なスポーツイベントであり、従前からスポーツの競技大会の運営等を行っていた事業者にとって、他の同種事業者も、各競技団体との関係性を維持等するため、東京2020大会に関連する競技大会の運営等の業務を受注したいと考えていることは、当然想定し得た。そうすると、前記の認識を有するに至っていた被告人や他の事業者の従業者らはそのような業務の受注に関し、発注者である組織委員会の幹部職員として当該業務の発注について中心的な役割を果たしていた森からその意向を示されるなどした他の同種事業者らが、受注の可能性を高めるため、森の意向に沿って入札等に向けた行動をとることを相当程度の確実性をもって相互に予測していたと認めることができる。》

《このような事実関係に照らすと、被告会社等関係事業者7社は凝りを介するなどして、相互に他の事業者の入札行動等に関する行為を認識し、暗黙の裡に認容したと評価することができ、他の事業者との間で意思連絡をしたと認めることができる》

このような理屈で、不当な取引制限の成立を認めるなどということは、経済社会の常識からも考えらえない。

民間発注であれば、発注者側から、実績・経験を認められ、入札に参加してくれと依頼されれば、「受注の可能性が高まった」と思って喜んで入札参加するのが当然だろう。他の事業者も同じように、別の案件で入札参加を依頼され、従っているだろうと予測するのも当然のことだ。それが、なぜ談合なのか、独禁法違反なのか、なぜ「犯罪」になるのか。

セレスポ・鎌田氏の独禁法違反事件の公判前整理手続が始まったのが昨年6月、その後、公判が始まり、今回の弁論で結審するまでの1年余の間を振り返ると、安永裁判長が、検察官の意見に反した決定・対応をしたことは殆ど無く、すべて検察官の言いなりだ。

検察は「裏金議員」に対しては、全く的外れの捜査しかせず、国民の期待を裏切った(【「裏金議員・納税拒否」、「岸田首相・開き直り」は、「検察の捜査処分の誤り」が根本原因!】など)。

一方で、日々懸命に働いている企業人に対しては、凡そ常識はずれの「刑事処罰の刃」を向ける。そういう検察に寄り添っているのが刑事裁判所であり、安永裁判長に至っては、検察と共に「暴走」を続けている。

それ程までに裁判所が寄り添ってくれるのであれば、国会議員であろうが、派閥幹部だろうが、躊躇することなく起訴してしまえばよいではないか。なぜ、権力者であるか否かで、これほどまでの違いが生じるのだろうか。

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小泉法務大臣「検事総長に対する指揮権」自体を否定する“驚くべき答弁”

昨年12月19日、東京地検特捜部が、自民党「政治資金パーティー裏金事件」で、政治資金規正法違反の疑いで強制捜査に乗り出し、安倍派(清和政策研究会)と二階派(志帥会)の事務所を捜索した時点で、二階派に所属する小泉龍司法務大臣は、

「検事総長への捜査の指揮権を持つことから、今後の捜査に誤解を生じさせたくない」

として、20日、二階派に退会届を提出して受理され、派閥を離脱した。

その時に出した記事【指揮権に対応できない小泉法務大臣は速やかに辞任し、後任は民間閣僚任命を】でも述べたように、検察庁法14条の「法務大臣の指揮権」というのは、検察と法務省との関係に関する規定であり、法務省は、検察官の権限行使について報告を受け、監督する立場にある。一定の範囲の特異・重大事件については、「三長官報告」が行われ、事件の内容・捜査の方針等についても知り得る。その報告に基づいて14条但し書きの検事総長に対する指揮を行うことも可能である。

第十四条 法務大臣は、第四条及び第六条に規定する検察官の事務に関し、検察官を一般に指揮監督することができる。但し、個々の事件の取調又は処分については、検事総長のみを指揮することができる。

今回の政治資金パーティー裏金問題についても、遅くとも安倍派・二階派の事務所に対する強制捜査着手までには「三長官報告」が行われ、基本的な捜査方針等についても知り得る立場にある小泉氏が、二階派も捜査の対象となっている現状において法務大臣の職を継続することには問題があった。

しかし、小泉氏は、二階派を離脱しただけで、法務大臣の職にとどまり、岸田文雄首相も、そのまま、小泉氏を解任することもせず、現在も、法務大臣の職にとどまっている。

小泉法務大臣の参議院法務委員会での答弁

その小泉法務大臣が、6月11日の参議院法務委員会で、鈴木宗男議員の質問に答えて。驚くべき答弁を行った。

それまでにも、鈴木議員は、大阪地検特捜部のプレサンスコーポレーション事件などで、最近多発している検察官の取調べをめぐる問題について、同委員会での質問を続けており、11日の質疑は、その締めくくりとして、検察官の取調べをめぐる不祥事についての法務大臣の姿勢を質したものだった。

小泉法務大臣は、検察官の法的地位について

検察官は、一人一人が検察官庁としての法的地位を持っています。最終決定者です。一人一人の検察官が実は国家権力の最終行使者になっています、その案件については。ですから、法務大臣といえども、そこへ入ってはいけない、入ってはいけない、個別の問題については入れない、それが検察庁法の14条の趣旨であります。独立性を持っているわけです。

と説明し、それに対して、鈴木議員から

14条の但し書には、法務大臣は検事総長を通じて物を言えるんですよ。大臣、ただし書を読んでみてください。

と言われ、次のように答弁した。

個別的な指揮権は個々の検察官には行使できない、ただし検事総長に対してはできる、それはそう書いてございますよ。それはそう書いてありますが、それは、検事総長が法務大臣をなだめるためにそういう規定を置いているんです、これは講学上。検事総長が、一対一で、ちょっと冷静になってくださいと、介入しないでくださいという政治家を止めるための装備としてそのただし書が入っていると、講学上はそのように解釈されています。

小泉法務大臣は、14条但し書の検事総長に対する指揮権の規定について、「検察に介入しようとする法務大臣に対して、検事総長が法務大臣をなだめるための規定、介入しないでくださいと政治家(の法務大臣)を止めるための規定」と断言し、「法務大臣といえども、個別の問題については入れないというのが検察庁法の14条の趣旨」と答弁したのである。

これは明らかな誤りである。

検察庁法14条の「正しい解釈」

法務大臣は、検察庁法14条本文の「一般的指揮権」で、検察事務の処理方法に関する一般的基準を指示したり,犯罪防止のために一般的方針を訓示したり,法令の行政解釈を示したり,個々の具体的事件について報告を求めたりすることができるが、同条但し書の「個々の事件の取調又は処分については、検事総長のみを指揮することができる。」との規定により、具体的事件に関しては,法務大臣は検事総長のみを指揮し、検事総長が部下検察官に対して有する指揮監督権(検察庁法7条1項)を媒介としてのみ,個々の検察官の行う検察事務に干渉しうるとされている(新版検察庁法逐条解説85頁参照)。

検事総長の上司である法務大臣が具体的事件について検事総長に対して指揮をした場合には,重大かつ明白な瑕疵がない限り,国家公務員法98条1項に基づき,検事総長は法務大臣の指揮に従うべきこととなる。

この「検事総長のみを指揮することができる」という規定について、以下のように解説されている。(【弁護士山中理司のブログ「検察庁法14条に基づく法務大臣の指揮権」】

検察庁法制定当時の検察内部の意見は「検察庁は内閣の外に立つ独立機関たるべしという意見が圧倒的だった」(出射義夫『検察の面でみた刑事訴訟法の25年』―『ジュリスト』昭49・1・1 )。彼らは、昭和戦前期の「検察権の独立」の観念に強く支配されていたので、戦後憲法のもとで政党内閣が常態化し、政党出身の司法大臣が検察組織に君臨することを病的に警戒していた。
他方において、在野には戦前の検察ファッショ復活への警戒感が根強く、また何よりGHQ(占領軍最高司令部)が検察の民主的統制に強い関心を持っている以上、統帥権の独立にも似た検察権の独立を表立って維持することは難しいという判断も、司法省内にはあった。
そうした政治状況の中で、実際に出来上がった「検察庁法」は、政党出身の司法大臣を容認する代わりに、検事総長の任命には国会の関与を排除し、また司法大臣の監督権限を制限する条項(現14条)を設けて、検察への「一般」的指揮権を認める一方、個々の捜査については検事総長を通じてのみ指揮できる、という妥協案に落ち着いたのだ。

この点については、過去に、法務大臣の答弁が行われている。

【平成元年3月27日参議院本会議における高辻正巳法務大臣答弁】

指揮権の発動と申しますのは、検察庁法14条ただし書きの検事総長に対する法務大臣の指揮を指して言われるものと思いますが、この検察庁法十四条の趣旨は、一般に、国の検察事務を分担管理し、その機関の事務を統括する法務大臣の行政責任と、司法権と密接不可分の関係にある検察権の独立性の確保の要請との調和を図る点にあるものと考えられております。
そういうことからしますと、法務大臣がいわゆる指揮権を発動する場合は、検察権が不偏不党、厳正公平の立場を逸脱し、その他、検察事務を所掌し遂行する法務大臣がその責任を全うし得る限度を超えて運営されるというような特殊例外的な場合に限られるべきものであり、そのような特殊例外的な場合においては、法務大臣はその行政責任を全うするためにその指揮権を行使して正すべきものは正さなければなりませんが、そのような場合でないのに法務大臣がいわゆる指揮権を発動することはなすべきでないと考えております。その意味で、法務大臣は検察庁法第14条ただし書きの検事総長に対する指揮権をむやみに放棄するわけにはまいりません。
しかし私は、検察が今後ともよくその職責を果たし、法務大臣が指揮権を発動したりその他これに制肘を加えなければならないような事態が生じることはないものと信じております。

小泉法務大臣の「指揮権答弁」は前代未聞の重大な誤り

要するに、検察庁法14条但し書による指揮権は、「法務大臣が検事総長に対して具体的事件について指揮しうる権限」であり、司法権と密接不可分の関係にある検察権の独立性の確保の要請との調和を図るために、個々の検察官に対してではなく、検事総長のみを指揮の対象にすることにしているが、それは、検察官の権限行使に対する法務大臣の指揮権自体を否定するものではない。

小泉法務大臣が答弁で述べた「(検察庁法14条但し書は)検事総長が法務大臣をなだめるための規定」「ちょっと冷静になってくださいと、介入しないでください」と止めるための規定などというのは全くの珍説である。

このような「検察官との関係を規定する検察庁法14条について誤った解釈による答弁」が、法務官僚が事前に用意していたものとは思えない。おそらく、小泉法務大臣個人の考えを述べたものであろう。しかし、そうであれば、法務大臣の横にいた松下裕子刑事局長は、その誤りを是正しなければならなかった。全く何の反応もしなかった松下刑事局長も、その職責を果たしたとは言えない。    

しかも、この法務大臣としての「指揮権についての誤った答弁」には、昨年12月から問題となってきた「自民党派閥政治資金パーティー裏金問題」とも関連するし、それまでの参議院法務委員会での検察をめぐる問題に対する答弁とも関連する。

「自民党派閥裏金事件」と小泉法務大臣

冒頭で述べたように、昨年12月、小泉法務大臣は、

「検事総長への捜査の指揮権を持つことから、今後の捜査に誤解を生じさせたくない」

と述べて、二階派から離脱した。

その時点では、法務大臣として検事総長への捜査の指揮権を持つことを前提にしていたのであり、上記の参議院法務委員会での答弁とは明らかに前提が異なる。

なぜ、そのように前提を変える必要があったのか、それは、二階派を離脱したとは言え、捜査の対象になる可能性が否定できなかったことから、敢えて自分が法務大臣として個別事件についても検事総長を指揮できる立場であることを否定したかったからとしか思えない。

それは、法務大臣としての自分の地位を守るために、自らの権限について法律上誤った考え方をとり、その考え方で国会答弁を行ったということであり、法務大臣として到底許されることではない。

検察官の取調べをめぐる問題についての法務大臣答弁との関係

前記の小泉法務大臣の答弁は、それまで数回にわたって、参議院法務委員会で鈴木宗男議員が、最近多発している検察官の取調べをめぐる問題について法務大臣としての対応を質してきたことを踏まえ、締めくくりとして、法務大臣指揮権について改めて確認したのに対する答弁だった。

それまでの鈴木議員の質問では、

  • 弁解録取の手続で、被疑者が被疑事実は自分の認識と違うということを言っているのに、それをそのまま弁解録取書に取らないで、あたかも被疑事実を自白しているような弁解録取書を作成して署名させたということで最高検監察指導部に調査要請された事例
  • 在宅の被疑者に対する特捜部の検察官の取調べについて録音、録画されていない、被疑者が言ってもいないことを調書に取ったり、一部を切り取って事実を歪曲して調書に取ったということで弁護人から抗議を受け、弁護人が最高検に抗議したのに対し、特捜部側が、その被疑者の会社の社長を呼び付け、書面を撤回しろとか、わび状を出せというような要求をして、実際にわび状を出させたことが、刑事裁判での被告人の最終陳述で明らかにされた事例
  • 女性検事が、不当なやり方で自白を迫り、それに応じないとなると、延々と説教して『中学生でも悪いことをすれば反省する。あなたには反省がない。小学校で宿題をやらなかったでしょう』などと発言した事例

など、最近発生した問題について事実確認し、法務大臣に見解を求めたほか、既に公になっている、プレサンスコーポレーションの事件で恫喝まがいの取り調べの実態が問題になったこと、大川原化工機の事件では、人質司法のため被告人が胃癌が悪化して死亡した後に公訴取消しになったこと、河井元法務大臣の買収事件では、東京地検特捜部の検事が不起訴を示唆して供述を誘導したことなどについても、法務大臣として、調査を指示したり、是正のための措置をとる必要があるのではないかと質した。

このような鈴木議員の質問に対して、小泉法務大臣は、

個別事案に対する指揮権と境を接する問題

だと述べて、そのような事案に対して法務大臣として対応することを全て否定した。そのような小泉法務大臣の答弁が、すべて、前記の

「検察庁法14条但し書の指揮権は、検事総長が法務大臣をなだめるための規定」

という解釈を前提にしていたとすると、すべての答弁に重大な問題があったことになる。

少なくとも、検察に関する問題について、小泉法務大臣は、全く職責を果たしていなかったということなのである。

【前掲記事】でも指摘したように、検察庁法上は、指揮権の行使の範囲についての制約はないが、通常の犯罪に対しては、証拠を収集・評価して事実を認定し、情状に応じた処罰を求めるだけで足りるので、ほとんどの刑事事件の捜査・処分については、法務大臣が介入する必要はないし、敢えて介入した場合には、政治的意図による不当な干渉だと批判されることになるので適切ではない。しかし、例外的に、「法務大臣が指揮権の発動を検討すべき場合」もある。それは刑事事件の捜査・処分について、検察だけで判断を行うことが適切ではない場合、その責任を負えない場合である。そのような事件については、法務大臣に報告して、その判断を求めることが必要となる。

「外交上の判断」が必要な刑事事件の捜査・処分

その典型が、事件が外交問題に密接に関連し、捜査・処分によって外交上の影響が生じる場合である。

検察には外交の専門家はいないし、外交関係に関する情報もない。その判断が適切ではなかった場合の責任を検察が負うことはできない。外交上の判断は、外務省を所管官庁として、内閣が国民に対して責任を持って行うべきであり、個別事件の捜査・処分においてそのような外交上の判断が必要な場合には、内閣の一員である法務大臣が総理大臣との協議の上で、検察に対して指揮を行うことが必要となる。

その例が、2010年9月に起きた尖閣列島沖での中国船の公務執行妨害事件である。中国船船長の釈放を決定した際の会見で、那覇地検次席検事が「最高検と協議の上」と述べた上で、「日中関係への配慮」が釈放の理由の一つであることを明らかにしたが、これは、指揮権発動により、内閣が責任をもって判断すべき事案であった。

検察不祥事と法務大臣の指揮権

また、問題の性格上、検察内部だけで判断するのが適切ではなく、法務大臣が指揮権に基づく介入を積極的に行うことが求められる場合の典型が、検察官の職務上の犯罪が検察の組織自体の不祥事に発展した場合である。

検察官による刑事事件が発生した場合、人事管理権者として、その事実を把握し、懲戒処分を行うことについての最終的な責任を負うのは法務大臣である。

定型的に処理可能な刑事事件の場合には、検察の組織内で「法と証拠に基づいて適切に処理する」ことに委ねれば済むであろう。しかし、検察官の権限行使としての職務に関して重大な犯罪の嫌疑が表面化した場合、他の検察官・上司が共犯者となることもあり、また、背景・原因に組織自体の問題が存在することも考えられる。このような事件を「検察の組織としての独立性の枠組み」で処理することには限界がある。

2011年に、東京地検特捜部が小沢一郎衆議院議員に対する陸山会事件の捜査の過程で、石川知裕氏(陸山会事件当時の小沢氏の秘書・捜査当時衆議院議員)の取調べ内容に関して特捜部所属の検事が作成して検察審査会に提出した捜査報告書に、事実に反する記載が行われていた問題で、2012年6月27日、最高検察庁は、虚偽有印公文書作成罪で告発されていた担当検事、特捜部長(当時)など全員を、「不起訴」とした。

この事件は、検察が組織として決定した小沢一郎氏の不起訴を、東京地検特捜部が、虚偽の捜査報告書を検察審査会に提出し、検察審査会を騙してまで「起訴すべき」との議決に誘導した「前代未聞の事件」だった。

これに対して、当時の小川敏夫法務大臣は、不起訴処分の前に、検事総長に対して指揮権を発動して厳正な対応を求めようとしたが、野田佳彦総理大臣に止められたと、退任時の記者会見で明らかにしている。

このような「検察不祥事」に対する対応は、法務大臣の指揮権に基づく対応を検討すべき典型的事例と言うべきであろう。

小泉法務大臣と任命権者の岸田首相の重大な責任

小泉法務大臣の検事総長に対する指揮権に関する誤った国会答弁の問題は、極めて重大である。このままこの答弁を議事録に残すことなどあってはならない。法務大臣答弁の撤回は不可欠である。刑事局長から、改めて、検察庁法14条但し書について、これまでの政府見解に基づく正確な説明が行われるべきである。

そして、【前掲記事】でも指摘したように、政治情勢に重大な影響を及ぼす検察捜査について、「検察の暴走」という事態も、決してあり得なくはない。その場合、「検察の暴走」を止めることができるのは法務大臣の指揮権しかない。しかし、かつての造船疑獄のときの犬養法務大臣の指揮権発動のように、法務大臣の指揮権が検察の意向に反した形で行使された場合には、「検察捜査への介入」が世論の強い批判を浴び、法務大臣の責任のみならず、内閣自体の責任にも発展することになる。

法務大臣がこのように検察捜査に対して介入するとすれば、「政治家としての立場」というより、法務省のトップとして、法務省の組織としての検討に基づき、客観的中立的な立場で行うものであることが強く求められる。その法務大臣が、捜査の対象となっている派閥、自民党の政治家であれば、法務大臣が指揮権について判断するのは利益相反そのものであり、そのような状況においても公正で客観的な判断が可能で国民が信頼できる人物でなければ、法務大臣の職責を果たすことはできない。このような場合には、十分な法律の素養があり、これまで法務・検察とも、政治とも関係が希薄であった民間人が適切である。

法務大臣にとって検事総長に対する指揮権は、外交に関する問題や検察に関する問題などの例外的な刑事事件に関して、極めて重要な権限であるのに、それについて全く誤った認識・理解をしている小泉氏が、昨年9月の大臣就任以来、「自民党派閥政治資金パーティー裏金問題」という、政治的影響の極めて大きい事件の捜査・処分が行われた期間も含め、10か月にわたって法務大臣の職にあることは、重大な問題だ。

岸田文雄首相の任命責任も含め、厳しく責任が問われるべきである。

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トヨタ「認証不正」、豊田章男会長に重大な責任

「認証不正」に揺れるトヨタ

「型式指定」をめぐる認証不正問題で、国交省は、道路運送車両法に基づき、4日のトヨタ本社に続いて、5日以降、ヤマハ発動機、スズキ、マツダ、ホンダの各本社に立ち入り検査に入った。この問題では、わが国の自動車業界のトップに君臨してきたトヨタ自動車の豊田章男会長のこれまでの対応が問題になっている。

6月18日には、同社の定時株主総会が開かれるが、米議決権行使助言会社のインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)と米グラスルイスは、株主総会で諮る豊田会長の取締役再任議案について、株主に反対を推奨しており、同議案に対する賛否が株主総会での焦点になる。

私は、日本で初めてのコンプライアンスの研究拠点として「桐蔭横浜大学コンプライアンス研究センター」を設立した20年前から、

コンプライアンスとは、「定められた法令や規則に違反しないように行動すること」を意味する「法令遵守」ではなく、「組織が社会の要請に応えること」である

とする独自の立場から、活動を続けてきた(【「法令遵守」が日本を滅ぼす】新潮新書:2007年)。

数々の企業で講演を行ってきたが、2017年2月には、トヨタグループの法務担当役員会でコンプライアンス講演を行い、その後、同グループの主要企業の多くでコンプライアンス講演に招かれ、同グループのコンプライアンスには、少なからず関わってきた。

そういう私のコンプライアンス論の観点から、今回の「型式指定」をめぐる認証不正をどう考えるべきか、豊田会長の対応をどう評価すべきかを述べてみることにしたい。

「法令と実態との乖離」への取組みは、コンプライアンスの重要な要素

なぜコンプライアンスを「法令遵守」ととらえるべきではないのか、最大の理由は、その「法令」が実態との乖離が生じるからだ。とりわけ、司法が社会と密接に関係していて判例が法として重視され、法令が実態に即して柔軟に見直される米国などとは異なり、日本の法令は、それ自体もその運用も硬直的であり、経済社会の実態との間に深刻な乖離が生じているのに長期間にわたって放置されていることも珍しくはない。

その典型例が、かつての日本の公共調達制度だ。会計法等によって、予定価格の範囲内で最も低い価格で入札した者が落札する「予定価格上限拘束」「最低価格自動落札」の発注制度が頑なに維持されていた。本来であれば、公共工事の受注者を選定する際に必要な品質・技術の評価をすべきであったが、行い得ない制度であったために、公共調達全体において、談合という違法行為が「非公式システム」として定着していた。

1990年代以降、談合批判の高まりを受けて、個別に談合が摘発されていたが、ようやく公共調達制度に価格だけではなく品質・技術の評価を取り入れる「総合評価方式」が導入されることで法が改められ、一方で、スーパーゼネコントップによる「過去のしきたりとの訣別宣言」が出されたことを契機として、抜本的に改められた(【前掲拙著】第1章)。

「法令に基づく制度と実態の乖離」が長らく放置され、非公式な談合システムが継続していたこと、その後の公共工事発注をめぐって環境激変が繰り返されたことで、1990年代以降、人材流出などの面で公共調達にも建設業界にも様々な負の影響が生じ、今なお、技術者、労務者不足、人件費高騰などの負の影響が継続している。

それ以外にも、JIS規格と実態との乖離を原因とするステンレス鋼管データ捏造問題、契約上の仕様で要求される基準と実態との乖離が、多くのBtoBの事業者でデータ改ざん問題につながるなど、「制度と実態の乖離」は、多くの重大な不祥事の背景となってきた。

「法令と実態との乖離の是正」の重要性

このように、法令自体や法令に基づく制度の運用などが社会や経済の実態と乖離している場合に、「法令遵守」ばかりを振りかざす対応をすることは、かえって大きな弊害を生じさせてしまう。そのような場合には、「法令が機能するための環境」自体に問題があるのである。

そこで、重要なことは、法令と実態との乖離を直視し、それによって生じている不正の実態を調査した上、その是正に取り組むことである。それは、事業、業務を直接担当している役職員個人でなし得るものではない。制度の改善是正は、経営トップ自身が、問題を正しく認識し、必要に応じて業界を巻き込みつつ、取り組んでいかなければならない。とりわけ法令上による制度の是正は決して容易なことではないが、各業界で様々な取組みが行われてきたのである。

6月3日、国土交通省に不正の報告を行ったことを受けての記者会見で、豊田会長は、

「(認証制度と実態に)ギャップがある」

と語った。認証制度で定められた基準や試験方法と、自動車メーカーでの製造の実態との間に乖離があるという趣旨であろう。トヨタの宮本眞志・カスタマーファースト推進本部長も、上記会見で、「より厳しい条件の試験」をしていたと繰り返した。「認証不正」という不祥事の背景に、法律に基づく制度と実態との乖離がある、ということであり、経営者が主導する「法令と実態との乖離の是正」が求められる局面である。

「型式認証」と「国際基準」「北米基準」をめぐる問題

しかし、この問題の背景にある「法令と実態との乖離」は単純なものではない。

自動車の型式認証とは、最低限度の法規・技術要件・安全性を満たした製品に与えられる認証である。型式認証されると、メーカーが大量生産した自動車を、1台1台個別に車検を受けることなく販売することが可能となる。

型式認証は特定の国で製品の販売許可を得る際に要求されるものだが、「国連自動車基準調和世界フォーラム」(通称、WP29)で、自動車部品の安全や環境に関する国際的な基準の統一が進められている。61カ国・1地域(EU)で「相互承認」が認められており、日本で認証されれば、世界でも認められる仕組みになっている。ただ、アメリカには、国際基準とは異なる北米基準があり、「相互承認」の枠組みには入っていない。

日本はタイヤやシートベルトなど主要項目で国連基準と同じであり、宮本氏が会見で述べていたのは、より厳しい北米基準に基づく試験を行っていたことが、日本の型式認証には適合していないと判断されたということだろう。

例えば、トヨタの六つの不正のうちの一つ「後面衝突試験」は、車の追突事故を想定した試験で、日本を含む国連基準では重さ1100キロの台車を衝突させるルールになっていたが、トヨタは、北米基準に基づき、開発段階の1800キロの台車を用いて衝突させたデータを提出していた。国交省サイドは、日本や欧州は小型車が多く、アメリカは大型車が多いなど各国の実情に沿った基準になっており、重い台車で試験した場合の試験結果で代替できるものではないという見解のようだ。

国連中心の国際基準と北米基準のいずれが、日本の自動車の安全に関する基準として合理的なのか、形式上、国が定めた認証基準を充足していなかったことが、実質的にみて、自動車の安全上、環境基準上、どれだけ問題があったのかという点に関しては、自動車メーカーの技術者の側にも、それぞれ「言い分」があるのであろう。上記の宮本氏の説明からすれば、その点について、トヨタの技術陣の側には相応の確信があるように思える。

経営者として放置できない「コンプライアンス問題」

しかし、いかに合理的な理由があったとしても、国の法律に基づく認証基準に反しているのであれば「違法」であることは間違いない。「コンプライアンス問題」として、決して放置できない問題であった。

トヨタにとって「認証不正」は、型式認証の基準の国際的な相違の中で起こった問題であり、日本の自動車メーカーのトップとして、監督官庁の国交省に対して誠意をもって問題提起を行い、制度の是正を求めるべきではなかったのか、という問題である。

トヨタの経営トップの豊田会長にとって、今回の問題は、他社のみならず自社グループのダイハツでの認証不正問題もあったことからして、十分想定可能だったはずであり、少なくとも、調査をすれば容易にその事実が把握できたはずだ。まさに、制度と実際の乖離を把握し、それを埋める対策が求められる状況だった。日本最大の企業のトップである豊田会長こそが、制度と実態の是正に声を上げる発言力がある人物だったはずだ。

しかし、今回、国交省から要請を受けるまで、トヨタにおいて、それを自主的に調査して、「法令と実態の乖離」を把握することも、その問題を明らかにして解決をしようとする努力も、行われた形跡はない。

冒頭で述べたトヨタグループ法務役員会での講演でも、その後のトヨタグループ企業での講演でも、「法令と実態の乖離」を原因として生じることの多い「カビ型不正」のような潜在化した不正を発見する有効な方法としての「問題発掘型アンケート調査」(日経ビズゲイト【「カビ型行為」対策の切り札、”問題発掘型アンケート調査”】)を紹介するなどしたが、そのような手法も含め、潜在化した不正の発見のための積極的な取組みが行われたようには思えない。

豊田会長の信じ難い「記者会見での発言」

6月3日の記者会見での豊田会長の発言は、日本の自動車産業のトップ企業の最高責任者として、「法令・制度と実態とのギャップ」を積極的に明らかにし、問題を提起して解決を図る「環境整備コンプライアンス」を行い得る力を有する立場にありながら全く行ってこなかったことについての反省が全くないことを示すものであった。

豊田会長は、「(認証制度と実態に)ギャップがある」と述べる際、次のような発言を行った。   

①このタイミングで私の口から言えないのだが、ギャップはあると思う。今回のことをきっかけに、国と自動車会社がすり合わせをして、何がお客さまと日本の自動車業界の競争力向上につながるか、制度自体をどうするのかという議論になっていくといいと思う

そして、「グループ各社で不正が相次ぐなか、今回トヨタでも起きた。会長はどう受け止めたか?」との質問に対して、

②正直、残念な気持ちと、ブルータスお前もかという感じだ。トヨタは完璧な会社ではない。問題が出てきたことは、ある意味、ありがたいことだと思っている。間違いをしたときには一度立ち止まり、何が起きたかを確認することで我々にはまだ改善の余地があると気づきを得ることができたと思う

と発言した。

そして、「どうしたら不正を撲滅できるか?」との質問に対して、

③撲滅はね、ぼく無理だと思います。故意で間違いをやろうという人はゼロにしなければいけないが、問題が起こったら事実を確認し、しっかり直すことを繰り返すことが必要なのではないかと思う

(以上、【トヨタ・豊田会長は会見で何を語ったか 「ブルータスお前もか」】から抜粋)

これらの豊田会長の発言から明らかなのは、「法令と実態のギャップ」について、経営者自らが問題意識をもって、積極的のその事実を把握し、そのギャップを埋めるために、経営トップとして、場合によっては業界を巻き込んで、法令を司る行政と話し合う、という姿勢が全くないことだ。

そして、このような「法令と実態とのギャップから生まれる不正」というのは、個人の責任ではなく、組織自体の問題であるという認識もない。このことは、あたかも、不正を行った個人が悪いというかのごとき②、③の発言から明らかだ。とりわけ、「ブルータスお前もか」の発言に至っては、一般的には、自身の暗殺に腹心のブルータスが加担していた事を知ったカエサルが「ブルータス、お前も私を裏切っていたのか」と非難した言葉だとされている。本件が、豊田会長が言うように「認証制度と実態とのギャップ」によるものだとすれば「個人としては避けがたい不正」に手を染めざるを得なかった技術者に対して、組織のトップとして責任を感じるべきところであって、「裏切り」などと冗談であっても決して口にしていい言葉ではない。

そして、肝心の「認証制度と実態のギャップ」については、①で、「このタイミングで私の口から言えない」と言い、「今回のことをきっかけに、国と自動車会社がすり合わせをして、何がお客さまと日本の自動車業界の競争力向上につながるか、制度自体をどうするのかという議論」を期待しているなどと、まさに「他力本願」の姿勢である。本当に、「認証制度と実態のギャップ」があって、むしろ「制度」の方を是正すべき、というのであれば、本来であれば上記の通り自ら事実確認をしたうえで国交省に主張すべきであったが、それをしてこなかったのであるから、もはや、その指摘を行う効果的なタイミングはない。

結局のところ、豊田会長にとっての「コンプライアンス」は、法令遵守を呼び掛け、意図的な不正を行う社員はいないはずだとの単純な思い込みに過ぎなかったのではないかと思える。

「認証不正」がトヨタに、そして日本に与える影響 

トヨタは、日本企業の中で時価総額が1位、世界での自動車販売ランキングも4年連続で1位である。そのトヨタに長年君臨してきた経営トップであるにもかかわらず、「コンプライアンス」に対して全く主体性のない言動には、愕然としたというのが率直なところである。

「認証不正」による影響は、国交省からの対象車種の出荷停止指示、行政処分による販売減という直接の影響だけではない。トヨタという自動車メーカーの国際的なレピュテーションにも大きなマイナスとなる。不正の発表以降、5日間で、既にトヨタの株価は3.8%下落している。

「型式認証」をめぐる「制度と実態とのギャップ」に対して適切な対応が行われず、「法令遵守」に偏った対応が行われた場合、かつての公共調達をめぐる談合問題と同様、関連業界のみならず日本経済にもマイナスの影響を生じさせかねない。

トヨタが、これからも日本企業のトップとしての地位を維持し、世界に冠たる自動車メーカーとして成長していくためには、ここで、一度、創業家の豊田章男氏による経営支配をリセットすべきではなかろうか。

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袴田事件再審「証拠捏造の可能性」を徹底分析~「無罪判決」でも事実解明は終わらない

昨年10月から、静岡地方裁判所で行われてきた袴田事件の再審が、5月22日の公判期日に、検察官の論告、弁護人の弁論が行われて結審する。

1966年に静岡県清水市の民家で味噌製造会社の専務一家4人が殺害されて集金袋が奪われ、この民家が放火された強盗殺人・放火事件で、袴田巌氏が逮捕・起訴されて以降、半世紀を超えて争われてきた袴田事件の刑事裁判は、「裁判所の再度の有罪無罪の判断が行われる最終局面」を迎える。

裁判では一貫して無罪を訴えた袴田氏に対して、1980年に死刑判決が確定、翌年に第一次再審請求が申立てられ、2008年、最高裁の棄却決定で確定したが、同年に申立てられた第2次再審請求について、2014年3月、静岡地裁(村山浩昭裁判長)が再審開始を決定(以下、「村山決定」)、袴田氏の死刑および勾留の執行を停止し、袴田氏は釈放された。即時抗告審の東京高裁(大島隆明裁判長)は2018年に再審開始決定を取り消し、再審請求を棄却する決定を出した(以下、「大島決定」)が、弁護人が特別抗告、最高裁は2020年12月に、棄却決定を取り消し、審理を東京高裁に差し戻す決定(以下、「最高裁決定」)を行い、2023年3月、東京高裁(大善文男裁判長)で再審開始決定(以下、「大善決定」)が出された。

第2次再審請求審では、袴田氏が逮捕・起訴され公判審理が行われていた最中に味噌樽の底から発見され、袴田氏が犯人であることを裏付ける有力な証拠とされた「5点の衣類」についての「DNA鑑定」と「味噌漬け実験報告書」を「新証拠」とし、それらが、再審開始の要件である「無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見した」(刑訴法435条6号)に該当するかどうかが争点となり、上記の各決定で判断が分かれてきた。

「5点の衣類」を袴田氏が犯行時に着用し、袴田氏がそれを味噌樽の底に隠蔽したというのが確定判決の事実認定だが、上記の二つの「新証拠」は、その事実認定を否定する方向に働く。DNA鑑定により、着衣の一つに付着していた血痕のDNA型が袴田氏のDNA型とは一致しないという鑑定が正しいのであれば、確定判決の認定に反することになり、袴田氏は犯人ではないことになるし、「味噌漬け実験報告書」の結果、5点の衣類には付着した血痕の色の赤みが残っており、それが1年以上味噌に浸かっていたとは考えられないことが実験によって証明されたということであれば、5点の衣類を味噌樽の底に隠匿したのは、その時点で勾留中であった袴田氏ではない、ということになる。

静岡地裁の村山決定は、上記の二つを「無罪を言い渡すべき新証拠に当たる」としたが、東京高裁の大島決定は、「いずれも当たらない」とした。そして、「味噌漬け実験報告書」について、大島決定の判断を取り消して差し戻した最高裁決定を受けて出された大善決定は、「味噌漬け実験報告書」の証拠評価について、大島決定の判断を覆し、「新証拠」と認めて再審開始を決定した。

各決定の判断の違いは、主として、上記の二つの証拠が「無罪を言い渡すべき新規・明白な証拠」に当たるか否かの評価をめぐるものだった。

しかし、袴田事件には、もう一つ極めて重要な論点があることを看過してはならない。新証拠と認められた「味噌漬け実験報告書」の証拠評価と表裏一体の関係にある「捜査機関による証拠の組織的捏造の可能性」である。

上記の大善決定の結論のとおり、袴田氏が犯人であることが否定された場合、味噌樽の底から発見された5点の衣類は、袴田氏以外の何者かが、血痕が大量に付着した5点の衣類を、味噌樽の底に入れたことになる。「味噌漬け実験報告書」が正しいとすると、5点の衣類が味噌樽の底に入れられたのは、事件直後ではなく、発見時に近い時期ということになるので、それを行う動機があり、実際に行うとすれば、袴田氏を犯人だと断定し、有罪判決を受けさせようとしていた警察しか考えられない。

つまり、大善決定の認定のとおりで「無罪判決」になるとすれば、それは、必然的に、「静岡県警が、血痕の付着した5点の衣類を味噌樽の底に沈めるという証拠捏造行為を行った」、という判断につながることになる。本件捜査を行っていた当時の静岡県警が、果たして、そのような行為を行ったのか、本当に、その可能性があるのか、という点が、本件のもう一つの極めて重要な論点なのである。

「捜査機関による証拠の捏造・改ざん」の一般的可能性

刑事事件の捜査を担当した警察官が、捜査の過程で誤りを犯し、それを隠すために捜査書類を捏造・改ざんした、という事例は過去にもあるし、捜査の現場で、捜査結果の辻褄を合わせるため、捜査書類が意図的に改ざんされたこともある。大阪地検特捜部の「証拠改ざん事件」は、主任検察官が、検察が立証を予定しているストーリーに合わせるためフロッピーディスクのプロパティを改ざんしたものであった。このような証拠の改ざん・捏造は、ほとんどが、捜査の担当官が個人的に行ったものであり、また、行為の内容も、書面の書替え等の単純な手口だった。

一方、「陸山会事件の虚偽捜査報告書事件」は、捜査のターゲットにした小沢一郎氏に対して検察組織としては「不起訴」という決定に至ったため、それを、検察審査会の議決で覆そうとして、当時の「東京地検特捜部」によって組織的に行われた可能性がある異例の証拠捏造事件だった。もっとも、これも、その証拠捏造の手口は、取調べの状況、供述内容についての捜査報告書に、実際の供述内容とは異なる内容を記載する、という極めて単純なものであり、検察官がそのような証拠捏造を意図的に行ったとはにわかに信じ難いことではあるが、その気になりさえすれば、証拠捏造の実行自体は比較的容易である。

しかし、袴田事件で弁護人が主張している捜査・公判の各段階での「警察による証拠捏造」の多くは、そのような過去に発覚した刑事事件に関する証拠捏造・改ざん等の行為とは質的に異なる。

本件で弁護側が主張する「証拠の捏造」

弁護人が主張する「警察による証拠捏造」は、大きく3つのステージに分かれる。第1が、事件発生直後から袴田氏逮捕に至るまでの間に、犯人を味噌製造会社内部者と特定するために行われたとされる現場の遺留物等に関する証拠捏造、第2が、袴田氏が警察の連日の長時間にわたる人権無視の不当な取調べによって自白した後、その自白の裏付けとなるような証拠の捏造、そして、第3が上記の「血痕の付着した5点の衣類を味噌樽の底に沈める行為」である。

第2ステージの証拠捏造は、過去に実際にあった捜査機関による「証拠の捏造・改ざん」と、それ程大きくかけ離れたものではない。自白に基づいて犯罪事実を立証しようとしていた警察が、その自白の信用性が争われ、苦し紛れに証拠を捏造・改ざんする、というケースは、担当警察官個人レベルや捜査担当チームによる行為として考えられないわけではない。

しかし、第1ステージの捏造は、それとはかなり性格が異なる。事件直後の初動捜査、早いものは事件発生の数時間後の現場の遺留物等について証拠を捏造したということであれば、当時の警察が、事件発生当初から味噌製造会社の内部者の犯行であるかのように見せかけようとしたということになる。それは、警察が、事件発生の直後、或いは、その直前から、捜査の方向性を決めていた、それによって真犯人を隠蔽しようとしていた、ということだ。それは、当時の静岡県警について、組織的な犯罪行為の疑いを生じさせることになる。

第3ステージの証拠捏造の「血痕の付着した5点の衣類を味噌樽の底に沈める行為」の方は、第2ステージの捏造のように、それ自体が、事件発生当初からの警察と事件或いは真犯人との関係を疑わせるものではないが、少なくとも、組織的に多数の捜査員によって行われた大がかりな証拠捏造としか考えられない。その実行のためには、警察が、袴田氏が事件前に着用していた衣類を把握し、それに見合う衣類を調達し、一方で大量の血液を入手して衣類に付着させて「血痕が付着した5点の衣類」を準備し、味噌樽の底に何かを沈める作業をすることについて、味噌製造会社側の協力を得て、実際に味噌工場に立ち入って、それを実行することが必要になる。それが「証拠捏造」であることを認識しつつ、その実行に関与した警察官は相当多数に上ることになる。

当時の静岡県警が、このような「証拠捏造」を、冤罪の袴田氏を死刑にするため敢えて組織的に行ったとすると、その「警察」というのは、我々が、通常認識している「日本の警察」とは、全く異なる、むしろ中国や北朝鮮の警察のような権力機関だったことになる。

このような警察による組織的証拠捏造があったと認めることと表裏一体の関係にあることから、検察にとっても、「味噌漬け実験報告書」が、「無罪を言い渡すべき新規性、明白性を充たす証拠」に当たるとされた再審開始決定が出され、特別抗告を断念した後においても、再審で、再審開始決定の認定をそのまま受け入れて、有罪立証を断念するということができないのは致し方ないと言える。

「再審無罪判決」では、証拠捏造の事実解明は終わらない

刑訴法の解釈としては、再審での事実認定は、再審開始決定の認定に拘束されないというのが、通説・判例であり、再審において新旧証拠を総合評価した結果、異なった結論に至る可能性はある。

しかし、最高裁決定の破棄差戻し決定を受けた大善決定が、多くの専門家の証言等も踏まえて、「味噌漬け実験報告書」が「無罪を言い渡すべき証拠」に当たると判断した事実は極めて重く、一般的には、検察官が、「付着した血痕の色の赤みが残っていた5点の衣類が、1年以上味噌に浸かっていたとは考えられない」との大善決定の判断を否定する立証ができたということでない限り、再審の判決も「無罪」とされる可能性が相当程度高いように思える。

しかし、既に述べたように、大善決定の認定の方向で無罪判決が出された場合、必然的に、警察の組織的かつ大規模な証拠捏造があったことが認定されることになる。

再審無罪判決が確定すれば、それによって半世紀以上にわたった袴田氏の刑事裁判の終了が確定する。一方で、それに伴って、警察の組織的証拠捏造によって34年間にわたって死刑囚として身柄を拘束され死刑執行の恐怖に晒され続けた袴田氏の甚大な損害について国家賠償請求訴訟が提起されることになり、また、警察の組織的証拠捏造が認定された以上、それについて事実を解明し、原因究明し、再発防止のための第三者機関による検証が強く求められることになる。

そういう意味で、袴田事件での「警察による証拠捏造」をめぐる事実解明は、無罪判決が出て確定しても、それで終わる問題では決してないのである。

これまで再審請求審、再審の経過の中で、主として争点となってきた「5点の衣類」についての「DNA鑑定」と「味噌漬け実験報告書」の信用性、証拠価値の問題とは別に、上記の「警察による証拠捏造」、とりわけ、大善決定が「無罪を言い渡すべき新証拠」と認定した「味噌漬け実験報告書」の結論から当然に導かれる第3ステージの証拠捏造について、村山決定、大島決定、最高裁決定、大善決定がどのような判断を行ってきたかを改めて整理し、さらに直前に迫っている再審での検察、弁護側の論告、弁論での主張立証のポイント、それを受けての、再審判決の重要論点についても、改めて考えてみたいと思う。

第2次再審請求審の各決定の「証拠捏造」についての判断

村山決定では、「5点の衣類」についての「味噌漬け実験報告書」が「無罪を言い渡すべき新規明白な証拠」とされる一方、「5点の衣類」が捜査機関によって捏造された可能性について次のように判示した。

警察は、人権を顧みることなく、袴田を犯人として厳しく追及する姿勢が顕著であるから、5点の衣類のねつ造が行われたとしても特段不自然とはいえず、公判において袴田が否認に転じたことを受けて、新たに証拠を作り上げたとしても、全く想像できないことではなく、もはや可能性としては否定できない。

これに対して、検察官が即時抗告し、3年半にわたる審理において、弁護人は、村山決定が、「無罪を言い渡すべき明らかな新証拠」と認めた「DNA鑑定」と「味噌漬け実験報告書」のほかに多数の「新証拠」の主張を行った。その多くは、5点の衣類について「被告人が事件直後に味噌樽の底に隠匿した可能性」(この可能性の否定は袴田氏の犯人性の否定につながる)、「捜査機関が捏造した可能性」(その可能性の否定は、袴田氏の犯人性の肯定につながる)に関連するものであった。大島決定は、網羅的に判断を行い、これらのすべてについて「無罪を言い渡すべき新証拠」に当たらないとの判断を示した。その中に、「捜査機関による証拠捏造」の可能性についても重要な事実が含まれている。

特に重要なのが、確定判決において5点の衣類の中の「鉄紺色のズボン」が被告人のものであることを裏付け、「捜査機関が捏造した可能性」を否定する有力な証拠とされた「ズボンの端布」についての判断である。弁護人はいくつかの「新証拠」を提出し、端布を警察官がねつ造した可能性を主張していたが,大島決定は、「端布がねつ造されたとの指摘は抽象的な可能性の域を超えない」と判示した。

そして、自白追及の厳しさと証拠のねつ造の可能性の関係について、

これまでしばしば刑事裁判で自白の任意性が問題となってきたように、否認している被疑者に対して厳しく自白を迫ることは往々にしてあることであって、それが、捜査手法として許される範囲を超えるようなことがあったとしても、他にねつ造をしたことをうかがわせるような具体的な根拠もないのに、そのような被疑者の取調方法を用いる捜査当局は、それ自体犯罪行為となるような証拠のねつ造をも行う傾向があるなどということはできず、そのような経験則があるとも認め難い。しかも、そのねつ造したとされる証拠が、捜査当局が押し付けたと主張されている自白のストーリーにはそぐわないものであれば、なおさらである。

として、「自白追及の厳しさ」と「証拠の捏造の可能性」を結びつけることは相当ではないとした。

そして、さらに、「5点の衣類のねつ造可能性についての新旧証拠の総合評価」について

第1次再審,第2次再審で提出された個別には証明力の弱い新証拠を旧証拠に加えて総合的に評価した場合に,5点の衣類は,犯人の着衣であり,かつ,袴田のものであることについて合理的な疑いを生じさせ,ひいては,袴田が犯人であるとした確定判決の認定に合理的な疑いが生じる余地が全くないかを念のため検討することとする。

と述べて、まず、捜査機関による5点の衣類のねつ造が行われたとした場合の時期について,「1号タンクに大量の味噌が仕込まれている昭和41年7月20日から昭和42年7月25日までの間」については、

捜査機関が,1号タンクの味噌を掘り出した上で底部から約3.5cmの場所に5点の衣類が入った麻袋を隠匿することは,ほぼ物理的に不可能であり、事件が発生した昭和41年6月30日から同年7月20日までの間は,捜査機関は,未だ袴田を逮捕しておらず,血痕が付着した袴田のパジャマを押収して解析を進めるなどして,犯行着衣としてはパジャマを想定していたことがうかがわれるのであるから,同時期に,5点の衣類を犯行着衣としてねつ造する可能性を想定することもおよそ非現実的である

として、捏造が行われた可能性は「昭和42年7月25日に1号タンクから味噌の取り出しが始まった後」に限定されるとし、この期間に5点の衣類をねつ造した可能性を検討している。

その検討の結果について,以下のように判示している。

袴田の衣類は,昭和41年9月下旬にはA商店の寮から実家にすべて送り返されているため,捜査機関が,袴田の衣類を入手してねつ造工作を行うことは想定し難い。また,袴田の衣類に類似した衣類を入手してねつ造するにしても,〔1〕鉄紺色ズボンについては,B洋服店で2年近く在庫として存在し(第2次再審で弁護人から提出された新証拠によれば,同ズボンは,Cが,昭和39年に製造し,同社からB洋服店に対して,昭和39年12月21日から昭和40年9月10日までに出荷したものであると認められる。),同店で裾上げをしてもらったものを入手し,〔2〕緑色パンツについては,昭和41年8月8日以前にDで製造されたものを入手し,〔3〕昭和42年7月25日から同年8月31日までの間に,E商店に赴き,麻袋に入れて1号タンクに埋めた上,〔4〕鉄紺色ズボンの端布を袴田の実家に隠匿することが必要となるはずである。
しかし,〔1〕及び〔2〕については,このようなことが可能となるような条件がたまたま揃うという事態は相当稀であって現実性が乏しいというべきである。また,〔3〕については,E商店側の協力を得ないまま,捜査機関のみでE商店工場内の1号タンクに赴き,勝手に味噌を掘り返して5点の衣類を隠匿するのは極めて困難である上,E商店側の協力者を想定すると,協力者が自社の製造する味噌の中に人血の浸み込んだ衣類を隠匿することになるところ,本件が稀に見る凶悪,重大な事件であることからすれば,犯行に関係ある着衣がタンクの中から新たに発見されたことが明らかになれば,味噌の売上減少等によるE商店の経済的な打撃は計り知れず,そうである以上,予めE商店側の者の協力を得ることも相当に困難というべきである(5点の衣類がいつの時点で発見されるかも正確には分からず,これを発見したE商店の従業員が営業への影響を考えてこっそり廃棄する可能性もあることからすれば,衣類の隠匿のみならず,発見時の通報についても事前に味噌の取出しを担当する者等の協力の約束をも得ておく必要があろう。)。加えて,〔4〕については,これをねつ造することが想定し難いことは,既に示したとおりである(前記の「端布を警察官がねつ造した可能性」についての判示[筆者注])。そうすると,そもそも,捜査機関が,5点の衣類をねつ造すること自体が極めて困難であるというべきである。

次に、捜査機関が5点の衣類のねつ造を行う動機について,

捜査機関は,袴田を逮捕した上で長時間に及ぶ取調べを行い,犯行時の着衣はパジャマであるとの自白を得たものであり,検察官も,第1審の第1回公判期日以降,犯行時の着衣がパジャマであるとする袴田の自白を立証の柱に据えて公判活動をしていたことが認められる。そのような中で,捜査機関が,自白に沿うような物証をねつ造する動機を有するというのであればともかく,袴田の自白に矛盾し,かつ,捜査機関の当初の見立てや,検察官の立証活動に反するような5点の衣類をわざわざねつ造するような動機は見出し難く,このような可能性を想定することはおよそ非現実的というほかない。
5点の衣類が発見されるまでの1審の審理経過に照らせば,ほぼ検察官の予定したどおりに立証活動が進められており,予想外の主張や証拠が出るなど,立証活動が難航していたという事情は見当たらない。仮に,そのまま検察官の立証を進めても,合理的な疑いを超える程度の立証ができるか不安があったとしても,立証の主要部分を占める自白のうち,決して軽視できない部分と明らかに矛盾する証拠をねつ造することは,自白の信用性に対する影響や協力者の側から事実が漏れる可能性を考えれば(所論のいうように,端布を生地のサンプルから作成したとしたら,その縫製についても協力者を必要とする。),メリットと比較してリスクが余りに大きく,証拠ねつ造の動機があったとはいい難い。

などと判示して,

5点の衣類が捜査機関によってねつ造された可能性をいう弁護人の所論は,現時点でも,特に根拠のない想像的,抽象的可能性の域にとどまっているというべき

と結論づけている。

大島決定に対して、弁護人が、最高裁に特別抗告し、2020年12月、最高裁は大島決定を取消し、東京高裁に差し戻した。

最高裁決定は、「村山決定はDNA鑑定の証拠価値の評価を誤った違法があるとした大島決定は、結論において正当である」としたが、「味噌漬け実験報告書」に関して、「メイラード反応の影響」についての審理不尽を指摘し、東京高裁に差し戻した。

そして、東京高裁に差し戻された袴田氏の再審請求について、2023年3月13日に出されたのが大善決定だった。同決定では、

5点の衣類が1年以上みそ漬けされていたことに合理的な疑いが生じており、5点の衣類については、事件から相当期間経過した後に、袴田以外の第三者が1号タンク内に隠匿してみそ漬けにした可能性が否定できず(この第三者には捜査機関も含まれ、事実上捜査機関の者による可能性が極めて高いと思われる。)、袴田の犯人性の認定に重大な影響を及ぼす以上、到底袴田を本件の犯人と認定することはできず、それ以外の旧証拠で袴田の犯人性を認定できるものは見当たらない。

として、静岡地裁の再審開始決定に対する検察官の即時抗告を棄却し、袴田氏に対する再審開始を決定した。

「味噌漬け実験報告書」と警察の証拠捏造との関係

前述したように、「味噌漬け実験報告書」によって、1年以上味噌漬けされた5点の衣類の血痕の赤みが残ることが否定され、味噌樽の底に入れられたのは、事件直後ではなく、発見時に近い時期だったことになると、5点の衣類を味噌樽の底に沈める行為を実際に行うのは、袴田氏を犯人だと断定し、有罪判決を受けさせようとしていた静岡県警しか考えられない。

つまり、大善決定の認定のとおりの「無罪判決」は、必然的に、捜査機関が、「血痕の付着した5点の衣類を味噌樽の底に沈める」という証拠捏造行為を行った、という判断につながることになる。

大島決定は、弁護人が主張した捏造の根拠について詳細に検討を加え、無関係の衣類を袴田氏の着衣のように偽って味噌樽の中から発見するという行為は、「過酷な取調べの末に得られていた袴田氏の自白とは全く矛盾する証拠を、発覚のリスクを冒して敢えてねつ造する」という、全く合理的ではない行動を警察組織が行ったことになる、として警察による証拠捏造の可能性を否定した。それは、「味噌漬け実験報告書」の証拠価値を事実上否定する意味もあったと思われる。

これに対して、最高裁決定は、このような「捜査機関による捏造の可能性」についての大島決定の判断には全く触れず、「メイラード反応の影響」についての審理不尽だけを指摘して審理を東京高裁に差戻し、大善決定は、5点の衣類については、「味噌漬け実験報告書」を「無罪を言い渡すべき新証拠」と判断し、事件から相当期間経過した後に、袴田以外の第三者が1号タンク内に隠匿してみそ漬けにした可能性が否定できないとし、これについて「この第三者には捜査機関も含まれ、事実上捜査機関の者による可能性が極めて高いと思われる。」との判断を示した。

しかし、最高裁決定も大善決定も、大島決定の「5点の衣類の証拠捏造の可能性」を否定する判断に対しては、全く検討も判断も行っていない。

結局、捜査機関による証拠捏造の可能性については、村山決定の判断を覆し、証拠捏造を否定した大島決定が、現時点では裁判所としての最終的な判示になっている。

今回の再審でも、この点について、大島決定で示された判断をベースにしている検察官の主張立証と、弁護人の主張立証が対立する構図となっている。

再審裁判所の判断は、まずは、検察側が、「付着した血痕の色の赤みが残っていた5点の衣類が、1年以上味噌に浸かっていたとは考えられない」とした大善決定の判断を覆す立証ができるかどうかが、最大のポイントになる。しかし、一方で、それと表裏一体の関係となる「警察による5点の衣類の捏造の可能性」も重要である。その可能性を否定する大島決定の判断を、弁護側が覆す主張立証ができるのかも、極めて重要な論点なのである。

大島決定でも言及した袴田氏の取調べの録音テープ

前述したとおり、大島決定においては、「5点の衣類のねつ造可能性についての新旧証拠の総合評価」以外に、弁護人の「その他の新証拠」に対して個別に判断している。その中にも、「捜査機関による5点の衣類の捏造の可能性」に関する重要な事実が含まれている。

そのうちの一つが、村山決定後に検察官が弁護人に証拠開示した袴田氏の取調べの録音テープ及び同反訳書に基づいて弁護人が「新証拠」として提出した供述心理学鑑定書に関する以下の大島決定の記述である。

自白の初期段階で,犯行着衣がパジャマであると信じている捜査官に対し,袴田が,被害者宅に侵入する際,最初は,雨合羽を着て,その下はシャツと黒色のズボンを着用していて(ちなみに,5点の衣類が発見された当日に鉄紺色ズボンを見分した警察官は,それを「黒色ようズボン」と表現している。),パジャマに着替えたのは後である旨供述していること等の評価についても何ら触れるところはない。

これは、供述心理鑑定の信用性を否定することに関する判示であるが、ここで言及している録音テープに記録されている袴田供述は、「警察による5点の衣類の捏造の可能性」を判断する上で極めて重要な事実である。

マスコミの取材を受けた関係で入手した今回の再審での検察官の冒頭陳述の中の【弁護人の主張に対する反論】の《第1「被告人の自白から被告人の無実が証明される」との弁護人の主張が誤りであること》の中で、上記の袴田氏の供述が、次のように引用されている(引用表記等は省略)。

被告人は、Bさんから、 強盗に見せ掛けた放火を依頼され、Aさん方に赴いた際、Bさんが被告人のためにテーブル上に置いておいた5万円入りの袋を持ち去ったと供述していました。
被告人は、Yから、その袋をどこのポケットに入れたのか尋ねられ、「ズボンです。」と返答し、Yから、パジャマではなかったのかと確認されると、「パジャマ、後です。」と供述しました。
被告人は、さらに、雨合羽を着てAさん方に行ったことを供述した後、Yから、雨合羽の下に何を着ていたかを尋ねられると、「シャツです。」と供述しました。
その後も被告人は、Yからの犯行着衣に関する質問に対し、「ズボンです。」と、改めてズボンを履いていたことを供述し、Yから、「どういうふうなズボン。」と尋ねられると、「黒の。」と供述しました。なお、鉄紺色ズボンの色も、黒に近い色であり、被告人の母は、自宅から発見された共布について「黒っぽい色」と供述していました。   

録音テープという「袴田氏の生の音声」の中で、犯行着衣がパジャマであると信じている捜査官に対し,《被害者宅に侵入する際,最初は,雨合羽を着て,その下はシャツと黒色のズボンを着用していて,パジャマに着替えたのは後である》旨述べており、その供述は、その約1年後に味噌樽の底から5点の衣類が発見されたことに伴って検察官が立証方針を変更した後の「ストーリー」と一致していたことになる。

その袴田供述が、供述時点以降、警察内部でどのように認識され、その情報が取り扱われていたかによって、この袴田供述の意味は大きく異なる。

もし、捜査官が、袴田供述は警察のストーリーには合わないと考えて、そのまま、「黙殺し、無視していた」のであれば、その1年後に味噌樽の底から5点の衣類が発見され、それが袴田供述と符合するというのは、偶然とは考えられない。袴田氏の自白が真実であったことを裏付ける重要な証拠ということになる。

一方、もし、「雨合羽、シャツ、黒色ズボンを着用」という袴田供述の内容には何らかの意味があると考えていたとすると、それが警察による5点の衣類の捏造の「元情報」となり、それに合わせて5点の衣類が捏造された可能性も否定はできないことになる(ただ、その場合、なぜ、その録音テープが証拠として使われなかったのか、という疑問は残る)。

大島決定が、「5点の衣類のねつ造可能性についての新旧証拠の総合評価」のほか「その他の新証拠」についての評価の中で、5点の衣類のねつ造可能性について、相当詳細で緻密な検討を行っていることに加え、上記の録音テープの「雨合羽、シャツ、黒色ズボンを着用」の袴田供述も含めると、「5点の衣類の捏造の可能性」が否定される方向に傾く可能性が高いように思える。

再審での弁護人の「事件の内容」自体についての主張 

一方で、これまでの再審請求審ではあまり争点にならなかった、そもそもの「事件の内容」について、弁護側が、再審第2回公判での「全体冒頭陳述」で主張した内容には相当な説得力がある。

弁護人は、本件は、検察官が主張する「住居侵入、被害者4人の強盗殺人、放火事件」ではなく、「犯人は一人ではなく複数の外部の者であって、動機は強盗ではなく怨恨でした。また、犯人たちは、午前1時過ぎの深夜侵入したのではなく、被害者らが起きていたときから被害者宅に入り込んでいたのです。そして、4人を殺害して放火した後、表シャッターから逃げて行った」と主張している。

その理由として、以下のような指摘を行っている。

  • 互いに隣の家の中の物音も聞こえるような状況だった。隣から悲鳴があがれば、寝ていてもすぐにわかったはず
  • 犯人が1人であったとすれば、凶器は刃物なので、4人を1人1人順に殺害していったことになる。しかも、一突きで殺された被害者はおらず、全員に多数の刃物による傷があった。藤雄さんは柔道2段の屈強な男性だった。簡単に4人を殺害できたとは思えない
  • 犯人が一人であれば、4人の悲鳴や叫び声や逃げまどう声が飛び交い、物を投げたり物を使って反撃するような大混乱が,しかも相当の時間続いたはずであり、そうであれば、隣人たちは、すぐに気が付くはずだが、逃げ出した人はいなかったし、被害者宅からは、まったく物音が聞こえなかった。
  • 各被害者らの傷は、4人とも胸、右胸あるいは背中など一定範囲のところにほとんど集中しており、被害者らは刃物で傷つけられても誰も動かず逃げ回ったりしておらず、被害者らの手足や腕には刃物による傷がほとんどない。被害者らは、4人とも声も上げられない状況で、もちろん逃げることも反撃することもできないような状況で殺害された。犯人が4人の被害者と同数以上いたか、それとも、犯人が複数で、被害者らを動けないようにし、声も上げられないようにした状況下で、殺害行為が行われた
  • 検察官は、被害者4人が寝静まった深夜1時過ぎに犯人が侵入してきたと主張しているが、被害者宅に入ったとき、被害者らが起きていたことは、わずかに焼け残った被害者の所持品等から裏付けられる。
  • 事件前、被害者宅の店舗部分の土間の机の上に、電話機が置かれていたが、電話機は、接続端子ごとコードが引き抜かれており、通話ができなくなっていた。これは、被害者宅に入り込んだ犯人らが被害者らに外部との連絡を取らせないようにしたものと考えられる。

検察官は、冒頭陳述で、再審請求審での弁護人の主張を踏まえて、弁護人の主張を想定した反論を行っているが、上記のような「事件の内容」自体についての弁護人の主張に対する具体的な反論は、少なくとも冒頭陳述では行われていない。

間もなく行われる論告の中で、その点について詳細な反論が行われることになるのであろうが、もし、この点についての弁護人の主張に有効な反論ができないとすると、前記の「第1ステージの証拠捏造の可能性」を浮上させることになる。

事件発生の数時間後に現場の遺留物等について証拠を捏造したというのは、犯人像もわからない警察の初動捜査の時点の行動としてあり得ない、というのが検察官の主張だが、上記のように「事件の内容」自体が弁護人の主張のとおりであったとすると、警察が、事件発生当初から味噌製造会社の内部者の犯行であるかのように見せかけて、内部者犯行に限定する捜査の方向性を決めていて、それによって真犯人を隠蔽しようとしたということになる。そうであれば、警察は、事件の発生自体を事前に認識していた可能性もあり、警察による組織的な犯罪への関わりの疑いも否定できないということになる。

そのような警察の犯罪や真犯人隠蔽が行われたこと前提に考えると、第2ステージでの袴田氏の自白の裏付けとしての証拠捏造はもちろん、第3ステージの「5点の衣類についての組織的かつ大規模な証拠捏造」もあり得ないわけではないということになる。

「失われた半世紀以上の時間」と日本の刑事再審制度の欠陥

袴田事件の再審は最終段階に来ており、半世紀以上にもわたる刑事裁判が終わろうとしている。しかし、ここに至っても、その最終的な着地点がどうなるのか、全く予想がつかない。

「5点の衣類の捏造の可能性」を否定した大島決定に加え、録音テープに残された袴田供述から、袴田氏が犯人であったとの判断に傾く可能性もあるが、一方で、「事件の内容」自体についての弁護人の主張に対して、検察官が有効な反論ができなければ、事件自体にも警察が関わっており、組織的かつ大規模な証拠捏造を「日本の警察」が行ったという、我々の想像を超えた事件であった可能性もある。

いずれにせよ、「付着した血痕の色の赤みが残っていた5点の衣類が、1年以上味噌に浸かっていたとは考えられない」という大善決定の「味噌漬け実験報告書」の証拠評価の当否を判断することだけで結論が決まるような単純な話では全くないのである。

いずれにせよ、事件発生から57年という年月はあまりに長かった。

前記のとおり、この事件の真相解明のためには、前記の袴田供述の録音テープが、どのように警察内部で認識され、どのように保管され、それが捜査方針とどのように関係していたのかを明らかにする必要がある。それ如何では、警察組織による5点の衣類の捏造の可能性が完全に否定される可能性もあれば、逆に捏造が裏付けられる可能性もある。

また、そもそも、本件が強盗殺人・放火事件なのか、怨恨等の動機による組織的な殺人事件なのか、「事件の内容」自体については、警察の初動捜査や、当時の警察内部での動きを詳細に解明する必要がある。

それらについて真相を解明するためには、あまりに時間が経過し過ぎている。当時の捜査関係者の多くは高齢で、捜査幹部は殆どが故人となっている今、それらについて真相を解明することは極めて困難だ。本件で再審無罪判決が出た場合、警察の組織的かつ大規模な証拠捏造について検証が必要となるが、それにも大きな限界があることは否定できない。

このような事態を招いたのは、日本の再審請求審が「無罪を言い渡すべき新証拠」が要件となっていることによって、「開かずの扉」となり、そのハードルが著しく高い一方で、一度再審開始決定が出れば、再審では殆どは無罪判決となる、という従来の日本の再審制度に原因があるように思える。

もちろん、刑事事件全般について、確定判決がさしたる理由もなく再審に持ち込まれ、裁判がやり直されるということは許容し難いであろう。しかし、一家四人殺しの強盗殺人、放火事件という稀に見る凶悪事件で死刑を言い渡されたという事件で、死刑囚が一貫して無実を訴えている場合、再審に向けてのハードルはもっと低くてもよいのではなかろうか。

第一次再審請求の申立てから最高裁での棄却決定確定まで28年、村山決定から大善決定による再審開始決定の確定までも9年、その間、「無罪を言い渡すべき新証拠」についての審理は行われていたが、袴田事件をめぐる多くの謎は未解明のままだ。

再審開始のハードルがもっと低く、再審で、改めて徹底した事実審理が行われ、有罪判決もあり得るということであれば、袴田事件は全く異なった展開になっていたであろう。

そして徹底した証拠開示が行われ、「犯人性についての証拠」と「警察による組織的な証拠捏造」の両面から徹底した審理が行われていれば、静岡県警による組織的な権力犯罪が明らかになったかもしれないし、元ボクサーが凶悪強盗殺人事件の犯人だった、ということが一層明白な事実だと確認されたかもしれない。いずれの方向にせよ、再度の事実審理により、有罪、無罪いずれの方向にも確信をもった判断ができたのではないか。

今後、袴田事件が、どういう形で決着することになっても、日本の再審制度の大きな欠陥が表れた事件であることには間違いないように思う。

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後半国会の焦点・政治資金規正法改正、“裏金根絶”のための決定打は?

「自民党派閥政治資金パーティー裏金問題」表面化後、最初の国政選挙となった4月28日の3つの衆議院補欠選挙は、自民党全敗(2つは、公認・推薦もできず不戦敗)、立憲民主党全勝、日本維新の会全敗(いずれもダブルスコアの惨敗)という結果となり、連休明けからの今後の国会の最大の焦点は、政治資金規正法改正めぐる議論となる。

立憲民主党は、「補選全勝」の余勢を駆って、法改正をめぐる国会論議を主導したいところであろう。

私は、立憲民主党の「国対ヒアリング」に、昨年12月18日、26日、今年1月20日と3回出席し、「政治資金規正法の『大穴』問題」(政治家には政治献金を受け入れる複数の「財布」があるので、政治家側が裏金を受領した場合に、その帰属が特定できず処罰が困難であるという問題)について説明し、今回の「裏金問題」を受けての政治資金規正法改正についても提案を行った。

4月23日に公表された立憲民主党の【政治資金規正法改正案骨子】(「本気の政治改革」実現に向けた法制上の措置 骨子(全体像))では、これまで「政治とカネ」問題を生む原因及び背景となってきた政治資金規正法の根本問題に関して、企業団体献金の禁止、政治資金パーティーの全面禁止、政策活動費による不透明な寄附・支出の是正、収支報告書のデジタル化など、抜本的な是正策が概ね網羅されており、全体としては評価できる内容と言える。

しかし、自民党は、「抜本改正」は今後の検討課題とし、派閥政治資金パーティーをめぐる問題の「再発防止策」を当面の国会審議の対象にしようとしており、会計責任者だけではなく政治家本人に責任を負わせる「連座制の導入」などの再発防止策が、当面の国会での議論の主戦場になると考えられる。

自民党案の「議員本人の確認書」提出に意味があるのか

今回の政治資金パーティーをめぐる問題で、政治資金規正法違反による捜査の対象とされたのは、政治資金パーティーを主催した派閥側の問題と、「裏金」を受領した議員の側の問題だった。このうち、国民の怒りが集中しているのは、「裏金受領議員」がほとんど処罰されず、所得税の課税・納税すら行われていないことだ。

そこで、当面の国会での「再発防止策」の議論は、「裏金議員」の大半が処罰を免れている現状について、処罰が可能となるような法改正を行うことが主眼になると考えられる。

その「再発防止策」として、自民党は、議員本人に収支報告書の「確認書」の作成を義務づけたうえで、会計責任者が虚偽の記載などで処罰された場合、内容を確かめずに作成していれば公民権を停止する、という措置を「連座制」と称して提案している。

しかし、そもそも、政治資金規正法に違反している場合であっても、収支報告書の「外形」は整っているのであり、それを会計責任者から説明させて「確認」しただけでは、何もわからない。「内容を確かめずに作成」した場合に公民権停止と言っても、どの程度に確かめたらよいのかが不明確であれば、実際に適用される可能性はほとんどないことになる。

立憲民主党改正案の「連座制」の疑問点

これに対して、立憲民主党の【政治資金規正法改正案骨子】では、

「第1 政治資金収支報告に関する処罰の強化」の《1 収支報告書の不記載、虚偽記入等に係る「連座制」》とする項目で、

政治団体の収支報告書について、会計責任者に加え、代表者にもその記載及び提出を義務付けること。
※ 代表者において、収支報告書の不記載や虚偽記入等に故意・重過失がある場合に処罰されることになる(⇒ 公民権停止の対象となる。)。

とされている。

この「代表者にも収支報告書の記載及び提出の義務付けをする」というのは、どういう意味なのであろうか。政治資金規正法の基本構造、収支報告書の記載実務の観点からすると、理解が困難だ。

会計責任者は、政治資金の収支について会計帳簿を備え作成する(政治資金規正法9条1項1号)、また、「政治団体の代表者若しくは会計責任者と意思を通じて当該政治団体のために寄附を受けた者」は、「寄附を受けた日から七日以内」に、「寄附をした者の氏名、住所及び職業並びに当該寄附の金額及び年月日を記載した明細書」を会計責任者に提出しなければならない、とされている(10条1項)

このような形で会計責任者に政治資金の収支に関する情報が集中することになっているからこそ、会計責任者は、その情報に基づいて正確に政治資金収支報告書を作成し提出する義務を負うのである。

一方、代表者には、そのような「情報を得る仕組み」がないので、独自に「収支報告書の記載及び提出」を行うこと自体が不可能である。

立憲民主党案で、「代表者にも収支報告書の記載及び提出の義務付けをする」と言っていながら、代表者が処罰されるのが「収支報告書の不記載や虚偽記入等に故意・重過失がある場合」に限定されているという点も問題がある。

結局、「裏金」「不記載」等が問題となった場合に、代表者が、そのような収入について認識していた場合だけが処罰の対象になるということであろう。その「認識」の根拠となる事実がなければ処罰できないのであり、「確認書」の提出を求める自民党案と、ほとんど変わらない。むしろ、確認書の提出に際して会計責任者とのコミュニケーションを求める自民党案の方がまだまし、ということになる。

立憲民主党の国対ヒアリングで、私は「政治家個人に収支報告書作成・提出義務を課すこと」の提案も行った。立憲民主党の【政治資金規正法改正案骨子】で「連座制」と称している「代表者の収支報告書作成提出義務」は、私が提案した「政治家個人の収支報告書作成・提出義務」とは似て非なるものであり、一見「厳しい対案」のように見えるが、「裏金問題」の再発防止策としての実効性が期待できるものではない。

このような「対案」で国会審議に臨んでも、「自民党案批判のパフォーマンスを狙っただけのもの」であることを露呈することになりかねない。それによって、政治資金規正法改正に向けての議論で勢いを失ってしまえば、結局、「抜本改正に向けての議論」にはたどり着けないことになってしまう。

「連座制」に関して、早急に再検討を行う必要があると考えられる。

「政治資金規正法の『大穴』」を無視した捜査・処分とその結末

今回の問題では、「裏金議員」に対する政治資金規正法による処罰がほとんど行われず、所得税の課税・納税すら行われていない。そのような事態に至ったことに関して、検察の捜査・処分に疑問があることは、これまでも再三指摘してきた(【「裏金議員・納税拒否」、「岸田首相・開き直り」は、「検察の捜査処分の誤り」が根本原因!】など)。

政治資金収支報告書というのは、個別の政党、政党支部、政治団体ごとに、それぞれの会計責任者が提出するものである。国会議員の場合、政治団体である「資金管理団体」のほかに、自身が代表を務める「政党支部」があり、そのほかにも複数の国会議員関係団体があるのが一般的だ。つまり、一人の国会議員に「財布」が複数ある。

議員個人が「裏金」として政治資金を受け取った場合、それは、その議員に関係する政治団体・政党支部のどこの収支報告書にも記載しない、という前提でやり取りする。議員の側は、「どの政治団体の収支報告書にも記載しない前提で「裏金」として受け取った」ということである。

その場合、検察が政治資金収支報告書の虚偽記入・不記載の事件にしようとしても、そのお金を、どの政治団体又は政党支部の収支報告書に記載すべきだったのかが特定できない。犯罪事実が特定できない以上、政治団体等の収支報告書の不記載・虚偽記入罪での処罰は困難なのである。 

このような、政治家個人に渡った「裏金」について政治資金規正法での処罰が困難であるという「政治資金規正法の大穴」問題について、私は、Yahoo!ニュースの投稿や、著書【歪んだ法に壊される日本 事件・事故の裏側にある「闇」】(KADOKAWA:2023年)等で取り上げ、今回の問題についても、その「大穴」によって裏金議員の処罰が困難であることを指摘してきた(【日本の法律は「政治家の裏金」を黙認している…「令和のリクルート事件」でも自民党議員が逮捕されない理由】など)。 

もし、検察が「政治資金規正法の『大穴』」の問題があることを踏まえて検察捜査を行うとすると、政治資金収支報告書の虚偽記入・不記載罪より、むしろ、政治資金規正法21条の2第1項の「政治家個人宛の政治資金の寄附」の禁止規定を適用する方が、実態に即していたといえる。

ノルマ超の売上の「還流」あるいは、パーティー券の売上の一部を議員側に留保する「中抜き」によって議員側に提供された「裏金」は、「収支報告書に記載しない前提の金である以上、資金管理団体、政党支部などに宛てた政治資金ではく、収支報告書の記載対象ではない政治家個人宛の寄附」というのが自然な見方だ。

収支報告書を提出しない前提の金なのだから「政治家個人宛の寄附」であったことを、授受の当事者双方に認めさせる方向で捜査を行えば、少なくとも「裏金」を議員個人の口座で保管していたり、議員個人から政治団体への貸付で処理していたケースなど、「政治家個人への帰属」が客観的に認められる議員については、21条の2第1項違反で処罰することが可能であり、「裏金」を、原則として議員の個人所得として認定し、課税することも可能になったはずだ。

しかし、実際の検察の捜査は、それとは真逆の方向で行われた。

還流金・中抜きが資金管理団体などの政治団体に帰属していることを認めさせ、それを、資金管理団体、政党支部の政治資金収支報告書に記載しなかった問題としてとらえ、その方向で、政治資金収支報告書の訂正を行うことで、検察捜査は決着した(下村博文氏など一部所属議員は、この収支報告書の訂正が、検察側の示唆によるものと説明している)。

その結果、政治資金規正法違反で起訴された国会議員は、「取引的決着」としての略式命令に応じた谷川弥一氏のほか、池田佳隆及び大野泰正の2名のみであり、公判で「政治資金の帰属」の問題が争われれば、有罪判決となるのかもわからない(【「裏金」事件の捜査・処分からすれば、連座制導入は「民主主義への脅威」になりかねない】)。

そして、これらの「裏金」について、個人所得としての課税は全く行われなかった。

このような捜査・処分の結末に対して、国民は大きな不満を持っている。それは、「現行の政治資金規正法が、会計責任者に、収支報告書の作成・提出に関する義務を集中させているために、代表者たる国会議員が処罰を免れている」という単純な問題によるものではないのである。

「政治家個人宛の寄附の禁止規定」はなぜ適用されなかったのか

今回の「裏金問題」については、「政治家個人宛の寄附の禁止規定」を適用するのが、最も実態に即した罰則適用であり、それによって、ある程度、政治資金の帰属に関する「政治資金規正法の『大穴』問題」をクリアすることが可能だった(この点を早くから指摘していたのが、元総務省で政治資金規正法の立法経験もある立憲民主党の小西洋之参議院議員だった)。

検察捜査は、なぜそういう方向で行われなかったのか。

そもそも、現在の検察・法務省の側に上記の「大穴」問題に対する認識が希薄であったことが考えられるが、それに加えて、従来、検察の政治資金規正法の罰則適用のほとんどは、罰則が最も重い収支報告書の「虚偽記入罪」の適用であり、それ以外の罰則適用の事例が過去にほとんどなかったため、「政治家個人に宛てた政治資金の寄附」の禁止規定の適用という発想自体がなかったのではないだろうか。虚偽記入罪の罰則適用を当然の前提として捜査を進めたということであろう。

これに関するもう一つの要因は、政治家個人への寄附の禁止についての罰則が、「禁錮1年以下・罰金50万円以下」と極めて軽いことである。

検察独自捜査は、全ての犯罪をカバーするものではない。強制捜査を含む本格的捜査の対象となるのは、一般的には相応に重い犯罪であり、少なくとも、略式罰金ではなく公判請求相当な事案であることが前提だというのが、かつて私がいたころの「検察の常識」であり、それからすると、禁錮1年以下・罰金50万円以下は、通常、略式罰金相当であり、あまりに軽い。

しかも、仮に、「政治家個人宛の政治資金の寄附」禁止違反の刑事事件を前提として、今回の裏金問題をとらえた場合、公訴時効が3年となる。虚偽記入の場合の公訴時効が5年で、5年分の政治資金パーティーの分を「刑事立件の可能性のある裏金」ととらえることができるのと比較して、立件の対象も「裏金総額」も相当少額にとどまることになる。

このようなことから、検察捜査において、「政治家個人宛の寄附」禁止既定の適用は、ほとんど検討されなかったものと考えられる。

政治家個人宛寄附の禁止の罰則を重くするのはどうか

このような、「裏金議員」に対する処罰がほとんど行われず、所得税の課税・納税すら行われていないという事態が今後生じないようにする「再発防止策」として、まず考えられるのは、禁錮1年以下・罰金50万円以下という「政治家個人に対する寄附の禁止」の罰則を大幅に引き上げることである。

しかし、それは、同様の行為に対する罰則との比較から、現実には難しい。

例えば国会議員が、職務に関して、賄賂を収受した場合、(請託を伴わない)単純収賄であれば、「5年以下の懲役」、国会議員が、行政庁や自治体の行政処分に関して口利きをした謝礼として金銭等を受け取る「斡旋利得」については、「3年以下の懲役」という法定刑が定められている。

これらは、「公務員の職務に関する賄賂」「口利きの謝礼」という実質を伴う犯罪であり、それらと比較すれば、単に、国会議員が違法に個人で政治資金の寄附を受けたことだけに対する罰則の重さには限界がある。

「政治家個人に対する寄附の禁止」の罰則を引き上げるとしても、「斡旋利得行為」の法定刑を超えることは困難であり、「3年以下の禁錮」が限度であろう。そうなると、公訴時効期間は3年であり、現行法とあまり変わらないことになる。

「政治資金の収支の公開」を中心とする政治資金規正法の趣旨に照らして、政治資金収支報告書の不記載・虚偽記入罪が最も重い犯罪とされているのであり、「政治家個人宛の違法寄附」に対する罰則が相対的に軽いのは致し方ないと言えるのである。

政治家個人の政治資金収支報告書復活によって政治資金の不透明性を解消

そこで、私の提案は、「政治家個人への寄附の禁止」の規定を廃止し、政治家個人への寄附も敢えて禁止はしない代わりに、政治家個人について、徹底した「政治資金収支の透明化」を図ることである。

具体的には、政治家個人にも政治資金収支報告書の作成・提出を義務づけることである。

現行の政治資金規正法の制度の源流となったのは、ロッキード、ダグラス・グラマン事件等を受けて、政治倫理確立が当時の大平内閣の重要な政治課題になり、民間有識者及び関係閣僚からなる首相諮問機関「航空機疑惑問題等防止対策に関する協議会」が設置され、「政治家個人の政治資金の明朗化」が提言されたことだった。

1980年に成立した政治資金規正法改正案では、政治家個人の政治資金の公開のための「指定団体制度」「保有金制度」等が導入され、政治家個人にも政治資金収支報告書の作成・提出が義務づけられた。しかし、これらの制度には多くの「抜け穴」が設けられており、実効性がないものだった。

そして、1980年代末、リクルート事件で「政治とカネ」の問題への批判が高まったことを受け、1994年、細川内閣の連立与党と自民党の合意で「政治改革四法」が成立、選挙制度改革・政党助成制度の導入に伴い政治資金規正法の大幅改正が行われた。企業・団体からの寄附の対象を政党(政党支部を含む)に限り、政治家個人が政治資金の拠出を受けるべき政治団体として「資金管理団体」が指定されることになった。それに伴って、「政治家個人宛の政治資金の寄附」が禁止され、保有金制度は廃止された。法違反に関する罰則が強化され、有罪確定時の公民権停止規定が導入された。

こうして、現行の政治資金制度の枠組みが作られたのであるが、その中で、政治家個人を代表とする「政党支部」が企業・団体献金の受け皿となることが認められたため、個人あての寄附が禁止されていても、政党支部で受け取れることから、企業団体献金禁止の意味はほとんどなくなった。

一方、ほとんどの国会議員に「政党支部」と「資金管理団体」という2つの「財布」が存在することになり、それ以外にも「国会議員関係政治団体」という「別の財布」の存在も認められ、それが、「政治家個人が受領した裏金」についての「政治資金の帰属」が判然とせず収支報告書の虚偽記入罪で処罰できないという「大穴」問題につながっている。

この法改正で、政治家個人への寄附が禁止されたことに伴い、政治家個人の収支報告書の作成・提出義務がなくなったのであるが、実際に、過去に、「政治家個人への寄附禁止」違反で処罰されたことはなく、今回の裏金議員の中で「政治家個人への寄附」が疑われる事例もあったが、全く刑事立件されていない。

また、「政治家個人への寄附の禁止」については、政党からの寄附が除外されている(21条の2第2項)ため、政策活動費等として政治家個人が政党から合法的に政治資金を受領することができ、それについて政治資金収支報告書への記載義務はない。

結局、「政治家個人への寄附」は、禁止されていても実際に処罰されることはなく、ほとんど野放しであり、一方で、収支報告書の作成提出の義務がないので、政治家個人をめぐって不透明な金のやり取りが横行しているのである。

このような「政治家個人をめぐる不透明な金の動き」こそが、まさに今回の「裏金問題」の根本原因と言うべきであり、それを抜本的に改めることが、今回の「裏金問題」を受けての「再発防止策」に他ならない。そのための最も効果的な方法が、1994年改正で廃止された政治家個人の収支報告書の作成・提出義務を復活させることである。しかも、「抜け道」だらけであった「保有金制度」のようなものを前提にするのではなく、当該政治家に関する政治資金の収支について、政治団体や政党支部の収支報告書に記載されているもの以外は、個人の収支報告書にすべて記載することを義務づけるのである。

具体的には、政治家は、自らの資金管理団体のほか、自身が代表を務める政党支部、国会議員であれば国会議員関係団体について、会計責任者が政治資金収支報告書を提出した後、ただちに会計責任者から収支報告書の写しの交付を受け、それらの収支報告書の内容を確認し、自身に関係する政治資金の収支で、それらの収支報告書に記載されていないものを記載した「政治家個人の政治資金収支報告書」を作成し、提出する。その期限は政治団体の提出期限の30日後くらいとする。

この場合、政治家が、自身の収支報告書の正確性について直接的に義務を負うことになり(秘書等に作成の補助をさせたとしても責任を負うのは政治家個人である)、不記載・虚偽記入があれば、政治家個人が処罰されることになる。その場合の収支報告書の作成提出に関する責任の程度は会計責任者と同程度になるので、法定刑も、会計責任者と同じ、「禁錮5年以下または罰金100万円以下」とすべきである。

このようにすれば、それぞれの政治家に関する政治資金の動きは、個人の収支報告書と関連団体の収支報告書ですべて明らかになり、政治資金の不透明性を解消できる。

「政策活動費」「旧文通費」も、政治家個人の収支報告書によって全面公開・透明化を

今回の「裏金問題」を受けての政治資金規正法改正のもう一つのポイントが、派閥側から裏金が渡された際に、収支報告書への記載が不要な理由ともされた「政策活動費」の問題である。自民党から党幹部に渡されてきた巨額の「政策活動費」は、不透明な政治資金のやり取りの温床になってきたと指摘されている。

政策活動費は、当初は、政治資金規正法21条の2第2項によって禁止から除外されている「政党から政治家個人への寄附」と認識されていたが、その後、岸田首相の国会答弁等で「寄附ではなく支出である」とされ、令和臨調の【信頼される政治のインフラとしての政治資金制度の構築】と題する解説などでは、「政党が役職者に渡切りで支出している裁量経費」などと説明されている。

これを受け、前記の立憲民主党の【政治資金規正法改正案骨子】には、

「政治団体の経費の支出は、当該政治団体の役職員・構成員に対する渡切りの方法によっては、することができないものとすること」

が盛り込まれている。しかし、「渡切りの方法」というのは法律の文言として不明確である上、そもそも、そのような支出の具体的な方法は、政治資金の処理の運用上の問題であり、法律で規定することになじまないのではないかと思われる。

この点についても、国会議員個人に政治資金収支報告書の作成提出を義務づけることで解決できる。これまで「政策活動費」として政党から議員個人にわたっていた資金についても、「寄附」あっても「渡切り」として支出を受けた経費であっても、その国会議員の政治資金の収支に当然に含まれるので、収入として政治家個人の収支報告書に記載され、使途も記載されることなる。これにより、政党から政治家個人に渡る政策活動費は全面的に公開・透明化される。

さらに、「調査研究広報滞在費(旧文通費)」についても、これまでは政治資金収支報告書には記載されてこなかった。立憲民主党の【政治資金規正法改正案骨子】では、

「毎年一回、調査研究広報滞在費の収支報告書を、その議院の議長に提出しなければならない」
「各議院の議長が収支報告書を公開しなければならない」

との提案がなされているが、この「旧文通費」も、政治家個人に関する政治資金の収入であるから、当然、政治資金収支報告書の記載の対象となるのであり、その使途が公開されることになる。

立憲民主党は、今後本格化する国会での議論の当面の主戦場となる「裏金問題」の再発防止策について、【政治資金規正法改正案骨子】で掲げている「連座制」について早急に見直しを行い、政治家個人に政治資金収支報告書の作成提出を義務づけることも含めて再検討すべきである。

自民党の裏金問題を批判することで、にわかに国民の支持を拡大しつつある立憲民主党だが、政治資金規正法改正への対応で、その真価が問われていることは間違いない。

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島根1区補選は、候補者ではなく岸田首相の“惨敗”、立民党も「勝利」と誤解してはならない

 4月28日投開票の衆議院補欠選挙は、自民党派閥政治資金パーティー裏金問題表面化以降、初めての国政選挙であり、そのうち唯一、自民党と野党の対決となった島根1区は、自民党岸田文雄首相の今後の解散戦略にも影響を及ぼし、政権の命運を握るものと言われた。

 私は、検察捜査実務経験も踏まえ、政治資金規正法の制度論を展開してきた立場から、【「ザル法の真ん中に空いた大穴」で処罰を免れた“裏金受領議員”は議員辞職!民間主導で政治資金改革を!】をはじめ、本欄でも多くの記事を投稿し、今回の「裏金問題」の本質と政治資金規正法の改革の方向性を論じてきた。

 今回の選挙結果が、そのような政治資金制度論にも大きな影響を与えることは必至だと思えた。

 選挙結果は、立憲民主党公認の亀井亜紀子氏が 8万2691票、自民党公認の錦織功政氏が5万7897票であり、錦織氏の惜敗率(57897÷82691)は70.0%だった。亀井氏が自民党公認の故細田博之氏と戦って敗れ、比例復活できなかった前回の2021年総選挙での惜敗率73.75%をも下回る、“壊滅的敗北”だといえる。

 「保守王国島根で、初めて立憲民主党候補が自民党候補を破った」という点に注目が集まっているが、私は、今回の結果は、次のようにとらえるべきと考えている。

(1)自民党公認の「候補者」が負けたのではなく、「岸田首相」の惨敗である
(2)岸田自民の「敗北」であり、立憲民主党の「勝利」ではない

この2つの点を踏まえて、今後の国会での政治資金規正法改革をめぐる論争の行方を考える必要がある。

島根1区をめぐる情勢と私自身の関与

 私は、島根県の松江市生まれ、県立松江南高校卒業であり、島根1区は私の郷里の選挙区であることもあり、3月22日には、YouTube《郷原信郎の「日本の権力を斬る!」》で亀井氏をゲストに招いて対談を行いアップする(【岸田政権の命運がかかる「島根の戦い」、挑む亀井亜紀子氏と「政治と金」を語る】)など、この選挙での岸田政権と野党との「島根の戦い」には当初から注目してきた。

 補欠選挙の告示後、各社の情勢調査で「亀井氏先行、錦織氏追う」と報じられていたが、過去に自民党が小選挙区で負けたことがない圧倒的な保守地盤だけに、過去の当選実績もある亀井氏と比較して知名度がない自民党新人の錦織氏が出遅れているだけで、終盤での逆転の可能性も十分にあると考えていた。

 選挙戦後半に入り、島根県の知人、友人等から情報収集すると、

「裏金問題での自民党批判は強く、自民党には投票したくないが、野党にはアレルギーがあり、投票に行かないと言っている人も多い」

という話だった。最終盤で自民党が組織を固めてきた場合には、自民錦織候補の逆転もあり得るとの危機感から、島根1区の安来市と松江市で亀井氏応援の街頭演説に赴くことにした。

安来市での街頭演説後、岸田首相、選挙戦最終日再度の島根入り知らせ

 4月26日金曜日の夕方、私の母の実家がある安来市での街頭演説に臨んだ。

【島根1区での岸田自民との戦い、4月26日安来市で応援演説!】

 その夜、選挙戦最終日の翌27日に、岸田首相が2回目の応援に入るとの情報が入った。現職総理が、特定の小選挙区への2回目の応援、しかも投票日前日、というのは異例であり、相応の「勝算」があるからだろうと思えた。期日前の投票率は前回をかなり下回っているとされており、低投票率になると、自民党の組織固めの選挙戦術が功を奏してくる可能性は十分にある。

 私は、SNS(X:旧ツイッター)で、

《現状は「自民劣勢」ではない。期日前投票率等から、低投票率で「勝てる」と考え、投票日直前の応援に入るのだろう。私は、今日、その松江市で、島根人を舐めている岸田首相を迎え撃つ》
《「島根の戦い」本番は、明日の選挙戦最終日午前11時半~、松江・みしまや上乃木店前です。上乃木は、私が幼少期、中高生時代を過ごした地です。明日は、岸田首相も2回目の自民候補応援に松江市に入るとのこと、私がこれまで続けてきた「岸田氏猛批判」の街頭演説で迎え撃ちます。》

と投稿し、翌27日の松江市での街頭演説に臨んだ。

 街頭演説を直接聞いてもらえる数はせいぜい100名程度だが、その街頭演説をただちにYouTubeにアップし、松江市、安来市の市民に向けて拡散を図れば、相当な数の有権者に視聴しもらうことも可能だと思った。

「本番」と位置付けた松江市での街頭演説

 翌日の街頭演説では、「みしまや上乃木店」前で亀井氏本人と辻元清美立憲民主党代表代行と合流し、私が最初に演説を行った。私の持ち時間は10分だった。

最初に、

明日の島根1区の補欠選挙は、岸田首相が国民に判断を仰ぐとしている「唯一の選挙」であり全国民が注目する審判。その投票券はドジャース大谷翔平の開幕戦同様のプレミアムチケット。ゆめゆめ無駄にしてはいけません。必ず投票を!

と話した後、審判を受ける岸田首相について、

安倍元首相の国葬の強行、旧統一教会と自民党との関係について十分な調査も行なわなかった。長男翔太郎氏を秘書官にするなど権力を私物化し、「首相公邸忘年会問題」でも国民に謝罪もしていない。「裏金問題」、自民党による実態解明をほとんど行わず、裏金議員は税金すら払わないのに、岸田首相は、「検察の厳正な捜査を踏まえて議員個人が納税を考えるべき」と言うだけ、自分への処分も行わない、などとこのようなデタラメな対応を続けた末に、全く意味のない政治資金規正法の改正案を出した直後に行われるのが島根1区補選、これまでの岸田首相の所業全体に対して国民を代表して判断を下す場がこの島根1区の補欠選挙。

と、その「所業」を徹底批判した後、候補者本人について、

亀井亜紀子氏は、決して単なる「世襲政治家」ではない。世襲政治家というのは、親から地盤と政治資金等の政治基盤をぬくぬくと受け継いできた安倍氏や岸田氏のような政治家のことを言う。亀井亜紀子さんは、郵政民営化など新自由主義と戦ってきた亀井久興氏から使命を受け継ぎ、地方を大切にする真の保守政治家、自民党と島根で戦ってきた人。
そういう亀井亜紀子さんに、岸田自民党を倒してもらいたい。島根1区の皆さんに、自民党に強烈なノーを突き付けてもらいたい。小泉進次郎氏が来て、動画で「逆転の錦織」などと言っている。しかも、岸田首相は、選挙運動最終日にも島根入りし、間違いなく「勝ちに来ている」、もし万が一、ここで岸田自民を勝たせるようなことになれば、島根県の歴史に残る恥になる。島根県に生まれた者としてそのようなことには絶対になってほしくない。今回の投票を、「亀井亜紀子」で埋め尽くし、岸田自民に圧倒的な「NO!」を。

と述べた。

 すると、ちょうど「岸田首相批判」の最中に、最前列にいた高齢の男性の、

「亀井にしゃべらせろ!」

と叫ぶ声が聞こえた。その声の主を見ると、こちらを敵意のこもった表情でにらみつけていた。

 私の隣に立っていた亀井氏は、とっさに、「後で話します」と言ったが、明らかに動揺していた。私は、構わず演説を続けたが、「亀井にしゃべらせろ」という声に亀井氏が動揺している様子を見て、その後の話を当初の予定より短くして終えた。

 次に応援演説を行った辻元氏は、自分が優勢と報じられた選挙で落選した経験を踏まえ、

「最後の最後まで、知り合いに声をかける等の応援をお願いしたい」

という「選挙応援のお願い」が中心で、本来の持ち味の「政権批判」は殆ど聞かれなかった。

 そして、最後にマイクを握った亀井亜紀子氏、前日の安来では、裏金問題への批判も含め切れ味があり、裏金問題への不満を募らせている聴衆の反応も良好だったが、この時は「批判的なトーン」は殆どなく、全体的に地味な内容だった。

 「亀井にしゃべらせろ!」の影響は相当大きかったように思えた。

2021年衆院選の際の「かめいあきこ」事件

 その日の街頭演説は、亀井氏側が、時間と場所、そこで私と辻元代表代行が演説することを事前に公表している。当然亀井氏本人も演説するので、「亀井にしゃべらせろ」と言われる筋合いはない。しかも、その声の主は、どう見ても、亀井氏の話を聞きに来ているようには思えない、反亀井の立場の人間だと思えた。しかし、それでも、聴衆のど真ん中で、そのようなことを大声で言われると演説する側への心理的影響は大きい。

 反対陣営の嫌がらせと思える事態に、私は、前回の2021年衆院選で亀井氏が受けた「かめいあきこ」立候補による妨害のことを思い出した。

 この選挙には、「亀井彰子」(かめいあきこ)氏が突然立候補し、氏名の読みが同じになる候補の出現に、亀井亜紀子陣営は、投票日直前になって選挙ポスターを全部変更することを余儀なくされるなど、大きな不利益を被った。

 この「亀井彰子氏」は、選挙運動を全く行わなかったばかりか、公職選挙法上提出が義務付けられている選挙運動費用収支報告書も提出しなかったため、公選法違反で告発され、供託金300万円を誰が拠出したのかも未だに不明である。

 2021年の選挙では、2017年の衆院選で亀井亜紀子氏に比例復活された細田氏が、衆議院議長に向けて選挙結果を自民党内でアピールするため、対立候補の亀井亜紀子氏が比例復活できないような「完全勝利」をめざしていると言われていた。

 実際に、細田氏は圧勝し、亀井亜紀子氏を比例復活できない落選に追い込み、その後、衆議院議長に就任した。「亀井彰子」氏を立候補させるという明らかな選挙妨害行為が、自民党・細田陣営側から、或いは細田氏を支持する宗教団体等によるものなのかはわからない。しかし、細田氏の対立候補だった亀井亜紀子氏が、そのような卑劣なやり方で妨害を受けた過去があることは事実である。

 今回、自民党候補の陣営は、どのような手段で亀井氏の当選を阻もうとしているか、想像がつかなかった。

岸田首相、投票日前日再度の応援演説を迎え撃つ

 みしまや上乃木店前で11時半からの街頭演説の模様は、その後すぐに編集し、午後3時にアップした。

【島根1区、松江市での戦い 岸田自民を”討つ”!!】

 そして、以下のようにSNS投稿で拡散した。

《故郷島根の人達への私の心からの訴えです。今日の夜12時まで、SNSでの拡散が可能です。島根1区の方々の間で、そして、他地域でも島根1区にお知り合いがいる方、是非、拡散をお願いします。この「島根の戦い」に岸田政権の命運がかかっています。》

 この街頭演説では「亀井にしゃべらせろ」の大声もあって、割愛した部分があった。それを、投稿に、以下のように付け加えた。

 時間の関係で少し割愛しました。一回目の島根1区の応援演説で、岸田首相は「私は出身がお隣の広島県でして、小さい頃よく連れてきてもらった思い出の場所です」と言いました。岸田首相は、東京生まれ、東京育ち、広島には居住していません。通常は、「広島を選挙区とする」と言い、「広島出身」とは決して言わないのに、島根では、こういうことを平然と言ってのける。それこそ、「岸田首相が、島根を舐めている」端的な証拠です。今回も、「島根人なら自分に勝たせてくれる」と甘いことを考えている。そういう岸田首相が、今日、2回目の島根入り。厚かましく「勝ちに来ている」、島根人として絶対に「ノー」を突き付けてほしい!

 岸田氏が「広島出身」というのは、明らかにウソだった。そのウソ話から始まって、「島根を思い出の場所」「偉大な政治家を輩出した地」というような形で組み立てた岸田首相の演説は、あまりに島根人を舐めている、ということを、私の街頭演説の真ん中当たりで強調し、岸田首相に対する不満・反発を一層高めようと考えていた。それを、SNS投稿で追加する程度にせざるを得なかったのは残念だった。

岸田首相、錦織候補の「最終演説会」で最後の演説

 その日、錦織陣営がSNSで公表していた街頭演説スケジュールによれば、錦織候補は、午後に、岸田首相とともに2か所で街頭演説を行った後、午後6時半から、松江市の中心部の宍道湖温泉駅のロータリーで最後の演説での訴えに臨むことになっていた。

 私が宿泊していたホテルがすぐ近くだったので、「最後の街頭演説」の様子を見に行った。

 岸田首相来訪ということで、スーツ姿の男性らが数十人かそれ以上いて、会場に集まった市民を誘導したり、歩道での立ち見を制限したり、演説中も鋭い目つきで市民の方を見渡すなど、演説会場の管理を徹底していた。大きな警察犬2頭が会場を歩き回るなど、ものものしい警戒態勢が敷かれていて、聴衆は少なくとも数百人に上っていた。

 自民党島根県連会長をはじめ、支援する政治家が次々と挨拶を行っている最中に、岸田首相が黒塗りの車で到着し、大型街宣車の車上に上った。しかし、すぐには講演せず、錦織候補の横に立って手を振っていた。

 錦織候補本人の「最後の訴え」は、日に焼けた顔で、声をからし、「郷土のために働きたい」と必死に訴え、立候補表明から日がないなかで、多くの人に支えられて戦い続けてこれたことへの心からの感謝を述べるもので、好印象だった。地元松江北高出身者の錦織氏だけに、島根人の心をとらえる演説だった。

 その後に、岸田首相の演説が始まった。普通、選挙戦の最後の演説は候補者本人がやるものだと思うが、現職首相、自民党総裁の応援だからか、「大トリ」は岸田首相、どんな演説をするのか注目したが、全くダメだった。

 その直前に私がSNSで投稿していたように、「私は隣の広島の出身」から始まり、「島根は偉大な政治家を輩出してきた地」につなぐというワンパターンだった。内容がなく、集まった聴衆の心に響くものではなかった。岸田首相の2回目の選挙応援での島根入りは、全く逆効果で、錦織氏の票を減らすものでしかなかったように思えた。

 翌日の投票日、私は、島根の知人、友人、親戚などの話を聞いたが、さすがの岩盤保守も、今回ばかりは、「裏金問題」による自民党への反発はすさまじく、特に、岸田首相に対するイメージが最悪だと感じた。親戚の一人は、「岸田さんが出てくるとテレビを消す」とまで言っていた。

 補選での亀井氏の圧勝を確信したところで午後8時開票速報が始まり、同時に亀井氏に当選確実が出た。

島根1区補選での「惨敗」をどう見るべきか

 今回の選挙の最終盤、現地にいて強く感じたのは、この選挙で「惨敗」したのは、「錦織候補」でも、「島根の自民党」でもなく、自民党総裁の「岸田首相」だということだ。

 ところが、岸田首相には、選挙後の言動を見る限り、その「自覚」は全くないように思える。

 現職首相が、公務の合間に特定の選挙区に2回も応援に入る、しかも、最終日の最後の訴えに加わる、通常は、選挙結果に相当な自信がなければ行い得ないことだ。しかし、岸田首相は、それを敢えて行い、結果は惨敗だった。そこに、岸田首相の状況判断能力、戦略的センスの欠如が露骨に表れている。

 国内経済情勢、国際情勢も厳しさを増す中、こういう人物が国のトップの首相を務めているという「恐ろしい現実」を、国民全体が共有する必要がある。一日も早く、岸田首相には退陣してもらいたい。

 一方の立憲民主党も、今回の島根1区補選の結果を、「立民勝利」と勘違いしてはならない。

 島根1区の有権者は、立民の政策を支持したわけでも、その政権獲得に期待したわけでもない。岸田自民に怒り、その自民党と戦ってきた「保守政治家」の亀井亜紀子氏の「自民党との戦い」に期待しただけだ。この点を立民幹部が勘違いすると、次の選挙で「惨敗」するのは立民党ということになりかねない。

 それは、今回の補選全体に言えることだ。「立民3勝」というのは、所詮「裏金問題への国民の怒り」という「風頼み」だった。

 2021年夏、横浜市長選挙から秋の衆議院総選挙までの流れを想起すべきであろう。

 当時、菅義偉首相は、東京五輪優先で、感染拡大のための抜本的な対策を何一つ講ずることができず、神奈川県の一日の新型コロナ新規感染者数が3000人に迫るという感染爆発を引き起こし、提供されるべき医療も提供されない膨大な数の「自宅放置」を生じさせていた。国民の命を危険に晒している菅政権への批判が、横浜市長選挙で、菅首相が全面支援する小此木八郎候補に「強烈な逆風」となり、小此木陣営は、開票を待つまでもなく、選挙での勝利をほとんど諦めざるを得ない状況に追い込まれた。

 一方で、立憲民主党が、江田憲司代表代行中心に強引に擁立した山中竹春氏は、横浜市立大学医学部教授であったこと、新型コロナの中和抗体の研究成果の発表を行ったことから、「コロナの専門家」であるとして前面に打ち出す選挙戦略で臨み(山中氏は医師ではなく、臨床研究等の統計処理の専門家であって、コロナ医療あるいは感染症の専門家でもない。)、新型コロナ感染急拡大による自民党・菅政権への「逆風」が、そのまま山中氏への「追い風」につながった。「横浜IR反対」で共産党とも共闘した選挙結果は、8時に「山中氏当確」が出る圧勝だった。

 地元横浜での市長選挙惨敗は、菅氏にとって強烈な打撃となり、結局、菅首相は、その直後の9月の総裁選への出馬を断念、岸田氏が総裁に選出された。

 そして、10月に行われた衆議院総選挙の時点では、山中市長が実は医師ではなかったとわかり、他の経歴詐称等も問題化していた。立憲民主党は、横浜市の小選挙区で一転して逆風に見舞われた。総選挙の結果全体でも大きく議席を減らした結果、枝野幸男代表、福山哲郎幹事長が辞任に追い込まれた。

 「風頼み」の選挙で勝ったことを、有権者に支持されて勝ったと勘違いしたことによる咎めは大きなものだった。

 今後の国会の最大の焦点は、政治資金規正法改正である。

 「派閥政治資金パーティーをめぐる問題の再発防止策」を強調する自民党案が全く評価できないことは言うまでもない。そもそも、今回の「裏金問題」、検察は裏金の実態を何一つ解明せず、すべて「政治資金収支報告書不記載事件」で片づけてしまい、自民党の調査でも裏金の実態は何一つ明らかになっていない。事件の中身も不明のまま「再発防止策」など論じても意味がない。

 自民党案では、議員本人に収支報告書の「確認書」の作成を義務づけたうえで、会計責任者が虚偽の記載などで処罰された場合、内容を確かめずに作成していれば公民権を停止する、という措置を「連座制」と称しているが、そもそも、政治資金規正法違反の問題が生じる場合も、収支報告書の外形は整っているのであり、それを会計責任者から説明させて「確認」しただけでは何もわからない。「内容を確かめずに作成」の場合に公民権停止と言っても、どの程度に確かめたらよいのかが不明確であれば実効性はない。

 

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「小学校で宿題やらなかったでしょう!」上場企業役員の被疑者に女性検事が浴びせた言葉

東京五輪談合(独禁法違反)事件での「人質司法」に耐え抜き、昨年8月に196日ぶりに保釈された株式会社セレスポ専務取締役鎌田義次氏の公判で、昨日(4月22日)、被告人質問が行われ、多くの重要な事実が明らかになった。

一つは、検察が談合の対象と主張した業務の範囲に関して、重要な資料の存在が明らかになったことだ。

検察は、東京オリパラ大会のテストイベント計画立案業務の総合評価方式一般競争入札での「事業者間の合意」が独禁法違反(不当な取引制限)に当たるとし、しかも、その合意は、テストイベント計画立案業務(発注総額5.8億円)だけではなく、その業務を受注した事業者が、その後のテストイベント実施業務、本大会運営業務を随意契約で受注することを前提にしていて、それらの業務全体についても「不当な取引制限」が成立するとして、対象となる取引の総額は470億円だと主張している。

問題は、テストイベント計画立案業務の入札の際に、テストイベント実施業務、本大会運営業務の発注について、組織委員会内部でどのように議論され、どのように決定されていたかだ。

この点について、検察官冒頭陳述では

(2018年)3月15日に開催された経営会議において、テストイベント計画立案等業務の委託先事業者に対し、当該競技・会場におけるテストイベント実施等業務及び本大会運営等業務を特命随意契約により委託するとの方針が了承された。

と主張しているが、犯罪の成立自体は争っていない事業者も含め、すべての事業者が、公判で、「テストイベント計画立案業務の入札の段階では、テストイベント実施業務、本大会運営業務の発注は未定であり、随意契約で発注される認識はなかった」として、この点を争っている。

昨日の被告人質問で、この点に関して、その日の組織委員会の経営会議の資料の「決定稿」の存在が明らかになった。

検察は、2017年12月にテストイベント担当部局が作成した資料に、「計画業務」「実施業務」「本大会一部業務」などの記載に、「随意契約」「随意契約?」などと付記されていることから、その方向が組織委員会内部で議論されていたとして上記のような主張をしていた。

ところが、この「決定稿」の資料では、同じ形式で「計画業務」「実施業務」と書かれているが、12月の資料にあった「随意契約」の記載はすべて削除されている。しかも、本大会に関する業務委託については「本大会に関する事業委託についてはテストイベントの状況を考慮し、別途検討を行う」と書いてある。

テストイベント担当部局は、計画立案業務の受注業者にテストイベント実施業務と本大会運営業務を随意契約で発注したいと考えていたが、経営会議で了承が得られる見込みがなかったので、2018年3月15日の経営会議では、テストイベント実施業務、本大会運営業務の発注方法については全く議題にされなかったことの「決定的証拠」である。

しかも、このような「決定稿」は、その経営会議に出席した組織委員会の関係者の調書には一切添付されていない。つまり、検察は、テストイベント計画立案業務の入札の段階では、テストイベント実施業務、本大会運営業務の発注が未定であったことを示す「都合の悪い証拠」を隠していたということなのである。

その「決定稿」は、組織委員会に出向中だったある広告代理店の社員の調書に添付されていた。その出向社員が、重要な機密情報を出向元の会社に持ち込んで情報を漏洩していたことを追及するために、機密情報の一つとして取調べで示され添付されたものだった。

鎌田氏は保釈後も、保釈条件として会社関係者との接触が全面禁止されている。「検察官立証も終わっているので接触禁止を解除してほしい」と何回も条件変更を申請したが、検察官の強い反対のために認められず、会社業務に一切関わることができない状況が続いている。そのため、保釈後は毎日我々弁護人の事務所で、検察官請求証拠などを読み込むことに時間を使ってきた。今回、その鎌田氏が、出向社員の調書に添付されている経営会議の「決定稿」を発見した。

重要証拠の姑息な隠蔽が行われていたのが発覚したのは、検察の「自業自得」とも言えるのである。

もう一つの重要事実は、鎌田氏の取り調べでの検察官の不当な対応である。

2017年12月26日のセレスポの取締役会の議事録にある「1月中におおまかな競技の振り分けが内定する予定」との鎌田氏の発言の記載について、検察は、「テストイベント関連業務の入札においては、電通と組織委員会がどの競技・会場をどの事業者が担当するかの割り振りを決めていることを前提に、一覧表を配布して、それに基づいて平成30年1月中に大まかな割り振りが決まると説明した」という意味だとしていた。

しかし、鎌田氏の発言での「振り分け」とは、発注する会場と競技の組み合わせ、つまり発注のパッケージのことであり、その時の配布資料をすべて示してもらえればすぐに説明できるはずだった。

ところが、鎌田氏の取調べ担当の増田統子検事は、実際にその取締役会での発言の際に鎌田氏が持っていた資料を鎌田氏に示さず、一つの資料だけを示し、それが取締役会での発言の際に示していた資料だと決めつけて追及した。鎌田氏に、検察にとって都合のいい「自白」をさせるために、騙そうとしたのである。

5年も前の発言である。鎌田氏は、全く説明ができず困惑し、長時間沈黙せざるを得なかった。発言の際に示したとされている資料が実際のものとは違うのだから、説明できないのも当然である。それに対して、増田検事は、「こんな当然のことをなぜ認めないのか」と追及する。その状況が取調べの録音録画に残されている。

そして、翌日の取り調べでは、増田検事が鎌田氏に対して、40分にもわたって延々と説教を行っている。その中で、

「人間は、中学生にもなったら、悪いことをやったら反省するようになるのが普通。あなたにはそれがない」

「自分は悪くない、全部他人のせいだと言っている」

「あなたは、小学校で宿題をやらなかったでしょう」

などと理由のない人格非難まで始める。

このような取調べの状況が、昨日の被告人質問で明らかになったのである。

取調べで被疑者の主張に沿う証拠を隠して虚偽の自白をさせようとする、そういう不当な取調べを行っていることを棚に上げて、年上の上場企業の専務取締役に説教をし、人格非難まで行う。それが、現在の特捜捜査での取調べの実態なのである。

小泉龍司法務大臣は、4月18日の参議院法務委員会で

《検察は公平公正に、権力の行使については、謙虚に内省をして謙虚にやるべきだという「検察の理念」に従ってやってもらいたいということは繰り返し督励をしている》

と述べている。しかし、実際の特捜部の捜査がそういう「検察の理念」に沿って行われているとは到底思えないのである。

 

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小池氏は政治生命の危機!元側近「爆弾告白」で学歴詐称疑惑は最終局面に

7月の東京都知事選挙まで3か月余りに迫った本日(4月10日)発売の月刊文藝春秋に、小池百合子東京都知事の元側近の小島敏郎氏による【「私は学歴詐称工作に加担してしまった」小池百合子都知事元側近の爆弾告発】と題する記事が掲載され、衝撃が広がっている。

前回都知事選挙の告示が迫っていた2020年6月、小池氏の「カイロ大学卒業」の学歴詐称疑惑を告発する元同居人の女性の証言を含むジャーナリスト石井妙子氏の著書【女帝 小池百合子】が発売されて話題となり、2期目の都知事選出馬表明に向けて大きな障害となりつつあった時期、駐日エジプト大使館のフェイスブックに小池氏の卒業を認める内容の「カイロ大学声明」が出され、疑惑追及は急速に沈静化した。小島氏は、自身が、そのような声明を出させることを小池氏に提案したこと、その声明文が、実は小池氏に頼まれたジャーナリストが書いたものであること、結果的に自分が学歴詐称疑惑の“隠蔽工作”に手を貸してしまったことを告白し、小池氏の学歴詐称の事実があったとの認識も示している。

小池氏は、都知事選に3期目出馬すれば圧勝は確実と言われ、「裏金問題」等で支持率が低迷している岸田政権が危機的状況にあり、国政復帰、日本初の女性首相の有力候補とまで言われている。そうした状況における元側近の爆弾告発が形勢を激変させる可能性がある。

同記事の中で、「日本外国特派員協会で行われた、黒木亮さんと元検事の郷原信郎さんによる、小池さんの学歴詐称疑惑を追及する記者会見」のことが出てくる。(写真は2020.6.9 FCCJでの記者会見(オンラインで黒木亮氏、通訳セス・リームス氏、郷原信郎、司会神保哲生氏))

2016年の都知事選挙で自民党候補を破って都知事に初当選した小池氏の「劇場型都政」を厳しく批判してきた私は、【女帝 小池百合子】発売直後から、Yahoo!ニュース記事【都知事選、小池百合子氏は「学歴詐称疑惑」を“強行突破”できるか】で、小池氏が、同書の公刊で学歴詐称疑惑が一層深まったにもかかわらず、2期目出馬を強行した場合に公選法の「虚偽事項公表罪」に該当する可能性があることを指摘した。そして、かねてから小池氏の学歴詐称疑惑追及を続けていたロンドン在住のジャーナリスト黒木亮氏に連絡をとり、協力して小池氏の「卒業証明書」偽造と学歴詐称についての疑惑究明に取り組んでいた。海外メディアの記者を集めて行われる「外国特派員協会での会見」は、小池氏の3期目出馬に向けて大打撃を与えることになるはずだった。まさに、その会見の直前にエジプト大使館のフェイスブックで公表されたのが、「カイロ大学声明」だった。

「カイロ大学学長声明」によって小池氏学歴詐称疑惑は一気に沈静化

小島氏の記事は、「相談したいことがあるの」と小池氏に呼び出され、都民ファーストの事務所に足を運び、憔悴し、途方に暮れた表情をしていた小池氏を見て非常に驚いた場面から始まる。

その場で、小池氏から、「カイロ大学学長からの、同大学を卒業した小池氏へのイベントへの招待状」を見せられ、学歴詐称疑惑を払拭する方法について相談された小島氏は、「カイロ大学から、声明文を出してもらえばいいのではないですか」と提案した。

6月9日の午後4時から外国特派員協会で、私と、オンライン参加の黒木氏との記者会見を予定していたが、そのわずか2時間前の午後2時過ぎ、カイロ大学学長の署名入りの「声明:カイロ大学」と題する文書が、突然、駐日エジプト大使館のフェイスブックに掲載された。

小島氏も、

9日の午後4時から日本外国特派員協会(FCCJ)で行われた、黒木亮さんと元検事の郷原信郎さんによる、小池さんの学歴詐称疑惑を追及する記者会見も勢いを失いました。

と述べているが、実際、記者会見での外国記者の反応は冷ややかなものだった。記者の質問の多くは、小池氏を擁護し、卒業証明書が偽造だとする黒木氏の見解に疑問を呈するものだった。会見の内容を報じた外国メディアはなかった。

直前に出されたカイロ大学声明の効果は甚大だった。

私は、小池氏の前記の二つのYahoo!記事に、【追記】として、以下の記述を追加し、私が記事で追及した小池氏の学歴詐称疑惑についてカイロ大学の声明が出たことを紹介した上、以下のように述べた。

このようなカイロ大学側のコメントは、石井氏の著書や黒木氏の記事で紹介されていたものとほぼ同趣旨である。「卒業した」と述べているだけで、それを具体的に裏付ける事実は全く含まれていない。
むしろ、今回の声明で、注目すべきは、カイロ大学の声明が、エジプト大使館のフェイスブックに掲載されたことである。この声明にエジプト大使館が公式に関わっているとすれば、なぜ、小池氏の個人的な問題に、エジプト大使館が関わるのかという疑問、しかも、本来、大学卒業の有無は、卒業生に交付された卒業証書や卒業証明書によって証明されるべきものであるのに、なぜ、カイロ大学が、小池氏を特別扱いするのかという疑問が生じる。
不可解なのは、小池氏の学歴詐称問題が再び注目を集めたのは、石井妙子氏の著書【女帝 小池百合子】が5月31日に発売されたのが契機であり、まだ一週間余りしか経っていないことだ。しかも、日本の一般メディアでは、その問題は殆ど報じられてもいない。それなのに、なぜ、エジプト大使館やカイロ大学が、「学歴詐称」や卒業証書の信憑性が問題になっていると知ったのか。小池氏側から何らかの働きかけがあったのではないか。日本は、エジプトに多額のODAを供与している。そういうエジプトとの関係を背景に、小池氏が個人的な問題に関して、エジプト大使館を通じてカイロ大学への働きかけをしたとすると、日本とエジプトとの外交関係に影響する問題にもなりかねない。

しかし、カイロ大学声明が出された後、メディアは、小池氏の学歴詐称疑惑を取り上げることは全くなく、小池氏は、2期目への出馬を表明、7月の都知事選挙では、366万票を獲得、次点と281万票もの大差で圧勝し、再選を果たした。

小島氏も、以下のように述べている。

この声明文の効果は絶大でした。新聞やテレビなど大手メディアが、一斉に「カイロ大学が声明を発表した」などと報じたからです。燃え広がっていた学歴詐称疑惑は、一気に沈静化しました。
私はこの時「大手メディアは、大使館のフェイスブックに載っただけで信じるんだ。大学ホームページを調べたり、アラビア語の原文はどう書いてあるかとか、学長への取材などもしないのだろうか。それで済むんだ」と正直、不思議に思いました。

提案から僅か2日でカイロ大学声明が出た経緯

小島氏は、当時は、小池さんの「卒業はしている」という言葉を信じていた。しかし、小池氏にカイロ大学に声明を出してもらうことを提案したのが6日の夕方、それなのに、わずか2日で学長のサインのついた「声明文」が大使館のフェイスブックに掲載されたことに疑問を持ち、その後、「本当は大学を卒業していないのではないか。だとしたら、私は疑惑の“隠蔽工作”に手を貸してしまったのではないか。」と不安に苛まれるようになる。

そして、元ジャーナリストで小池氏のブレーンの一人のA氏から、「カイロ大学声明は、文案を小池さんに頼まれ、私が書いたんです」という話を聞かされ、自分が提案してから、声明が出されるまでの、以下のような経緯を知ることになる。

2020年6月7日、午後2時4分、当時小池氏の側近で現千代田区長の樋口高顕氏からA氏へ、メールで、カイロ大やエジプトから声明を出させるため、急ぎ文案を作りたいので指導協力を求めてきた。
これに対してA氏は、カイロ大学の声明文だけでは追及は止まらないと考え、直ちに、小池氏本人にメールで
〈まず、カイロ大なりから声明を出させる。明日にでも。「法的対応も辞さず」くらいの強いのがいい。卒業証明書もカイロ大から出してもらう。そして、間髪入れず二階氏からカイロ大声明を理由に都連、都議会自民の動きを潰してもらう〉
と伝えた。
 すると2分後、樋口氏からA氏のスマホにショートメールが来た。
〈大学ないし国からの、望ましい声明文面案、作っていただけないでしょうか。すいません 本人から声明文案、作っていただけないかと依頼ありました。かなりつかれてました〉
この依頼を受けて7日午後2時51分、A氏はカイロ大学声明案を書き、メールで小池さんと樋口さんに送り、A氏が、
〈カイロ大学が大使館に託した声明文を、まず、大使館がホームページに掲載する。大使館は、小池氏に対しても、同文書を掲載したこと、日本外務省に通知したことと合わせ、通知する〉
という案を送ってメールを送信し、電話をして、口頭でも説明したところ、翌8日の午後8時34分、小池氏からA氏に、翌日、大使館のフェイスブックに掲載される英文のカイロ大学声明文の画像が送られてきた。
そして午後9時20分、再び小池氏からA氏に、
〈明日の4時から 郷原と黒木亮が外国記者クラブで記者会見とのこと。その前に全部済ませます〉

というものだった。

小池氏の「天敵」としての「郷原と黒木亮」

小島氏は、「全部済ませます」という言葉から、声明文作成と発出の真の主役が小池氏であり、それですべてを封じるという強い意志の表れだと述べている。

それに加え、この小池氏のメールの文面は、この私や黒木氏との関係で、極めて重要な内容を含んでいる。

私が、小池氏が2期目出馬を強行した場合に、公選法の経歴詐称が「虚偽事項公表罪」に該当する可能性があることを指摘した前記記事に続き、偽造の卒業証明書をテレビ番組で提示した「偽造私文書行使罪」の成立の可能性もあることを指摘した【小池百合子氏「卒業証明書」提示、偽造私文書行使罪の可能性】をアップしたのが6月6日の午前11時11分、憔悴し、途方に暮れた表情をしていた小池氏が小島氏に学歴詐称疑惑を払拭する方法について相談し、小池氏にカイロ大学から声明文を出してもらうことを提案されたのは、この日の夕刻、私の記事のアップの半日後のことだった。

都知事就任後の小池氏が「豊洲市場移転延期」等で人気の絶頂にあった2016年11月に出した【小池都知事「豊洲市場問題対応」をコンプライアンス的に考える】から、2017年7月の【“自民歴史的惨敗”の副産物「小池王国」の重大な危険 ~代表辞任は「都民への裏切り」】まで7本の記事を出し、2017年6月には、元総務大臣の片山善博氏との対談本【偽りの都民ファースト】で、小池都政を徹底批判していた。

さらに、2017年の衆院選に際して、小池氏が「希望の党」を設立して国政に進出しようとした動きについて、【希望の党は反安倍の受け皿としての「壮大な空箱」】などと、それがいかに「空虚」なものかを指摘し、衆院選挙後の2017年10月の【平成「緑のタヌキ」の変 ~衆院選で起きた“民意と選挙結果とのかい離”】【“幻”に終わった「党規約による小池氏独裁」の企み】などで、小池氏の政治家としての姿勢を厳しく徹底批判していた。エジプトでの取材の経験もある黒木氏は、小池氏の卒業証明書の偽造の疑惑を、緻密な分析で指摘していた。

それだけに、A氏宛てのメールで「郷原と黒木亮」と呼び捨てで表現した「郷原」と黒木氏は、小池氏にとってまさに「天敵」とも言うべき存在であり、その私が学歴詐称追及第2弾として出した【小池百合子氏「卒業証明書」提示、偽造私文書行使罪の可能性】は、すぐに読んだはずだ。

小池氏は、当時、反小池で批判を強めていた都議会自民党も、自民党の実力者の二階俊博幹事長から都連の有力者を通じて働きかけてもらえば、その批判を抑え込むことは可能だと思っていたはずだ。また、マスコミも、日ごろから手懐けており、実際に、少なくとも都政クラブ加盟の新聞やテレビは、それまでも「小池批判」はほとんど行っておらず、正面切って批判しないようにする自信は十分にあったはずだ。

しかし、私が指摘していた「司法リスク」は、それらとは性格が異なるものだった。

私は、学歴詐称疑惑について説明をすることなく、2期目出馬を強行した場合、公選法の「虚偽事項公表罪」だけでなく、エジプトで偽造された疑いのある卒業証明書を日本のテレビ局で提示したことについての「偽造私文書行使」という新たな犯罪の嫌疑を指摘していた。その有力な根拠を提示していたのが黒木氏だった。

そのまま2期目の出馬を強行し、私が指摘するような「犯罪リスク」が顕在化すれば、小池氏の政治生命の終焉を意味するだけでなく、それまでの政治家としての名声は完全に失われることになる。小池氏は、出馬を強行するか、何らかの理由をつけて回避するか、ギリギリの決断を迫られていた。

そのような「天敵」の私と黒木氏が、FCCJで外国人記者を集めて記者会見を行えば、小池氏に対して無批判の日本のメディアとは異なり、海外メディアで大きく取り上げられる可能性がある。小池氏は、絶体絶命の状況に追い込まれていた。

小島氏から「カイロ大学に声明を出してもらう」という案を聞き、それが危機の打開の唯一の方法だと考えた小池氏は、早速、当時ブレーンだったA氏に協力を求めた。そして、僅か2日で、カイロ大学の学長名の声明をエジプト大使館のフェイスブックに掲載してもらえる目途がついた。その時点で、メールに書いたのが、郷原・黒木のFCCJでの会見の前に「全部済ませる」という強い意志を表現した言葉だった。

「大学を卒業していない小池氏」と結論づけた小島氏

小島氏は、A氏が書いた声明文の原案と実際の「カイロ大学声明」と比較し、文章の構造で、日本語の訳文では「精査」「看過」「適切な対応」など、同じ文言も多いことから、A氏の文案を土台に使ったのは明白だが、変更された部分として、

①A氏案の〈カイロ大学の卒業名簿にその記載がある〉〈卒業の判定は大学としての公正な審理と手続きを経てなされたものである〉が削除され、〈卒業証書はカイロ大学の正式な手続きにより発行された〉と変更されていること
②A氏案の〈日本、エジプト双方の法令に基づき適切な対応を検討している〉が〈エジプトの法令に則り、適切な対応策を講じることを検討している〉と変更されていること

があり、これらのことから、本来この疑惑は、卒業名簿に名前があるのならば、カイロ大学がそれを出せば済むことに、これを削除したことから、卒業名簿に名前がないことを推測している。

また、〈公正な審理と手続きを経てなされた〉も削除されたのは、実際には審理も手続きもしていないから、カイロ大学を刺激することを懸念したものと推測している。

さらに、「日本の法令」で裁くという部分が削除されたのは、仮に日本で裁く場合、裁判所から小池氏が証言を求められたりする可能性があり、それは避けたかったと推測している。

これらを踏まえ、小島氏は、

いずれにせよ声明文は、図らずも、私が発案して、A氏が文案を作成した。それに小池さん自身が修正を加えた。そして、ここからは推測になりますが、彼女側から大使館へ依頼して掲載された。これがカイロ大学声明発出の内実だ、というのが私とA氏の結論です。
私とA氏が果たした役割を鑑みれば、カイロ大学が自発的に小池さんの疑惑を懸念して声明文を作成した、ましてやエジプト政府が関わったなどということは、ほぼあり得ません。大学を卒業していない小池さんは、声明文を自ら作成し、疑惑を隠蔽しようとしたのです。

 と結論づけている。

都知事選の3期目の出馬が注目される中で、小池氏の学歴詐称疑惑は、【女帝 小池百合子】に匿名で登場していた小池氏とエジプトで同居していた北原百代さんが、同書の文庫本発売時の昨年11月に実名を明らかにしたこと、カイロ大学声明による学歴詐称疑惑の隠蔽工作に関わった小島氏が、その経緯を告白したこと、という二つの有力事実が出てきたことで、もはや否定しようのない「学歴詐称」になったと言うべきであろう。

エジプト大使館を巻き込む隠蔽工作まで行って学歴詐称疑惑をはねのけて2期目の出馬を強行したが、元側近の告白で発覚して絶体絶命の状況にある小池氏は、今度はどのような奇策を弄するのだろうか。

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「この愚か者めが!」丸川珠代議員への「政治家個人宛寄附」告発の“重大な意味”

令和6年3月28日、上脇博之神戸学院大学教授と私が告発人となり、参議院議員丸川珠代氏及び清和政策研究会代表者・会計責任者松本淳一郎氏の政治資金規正法(公職の候補者の政治活動に関する寄附の禁止」)違反等についての告発状を、東京地方検察庁に提出した。

翌29日、上脇教授と私は、司法記者クラブ加盟記者、平河町クラブ加盟記者に案内状を送り、上記告発に関するオンライン記者会見を行った。

会見の模様は、YouTube《郷原信郎の「日本の権力を斬る!」》で公開している。【丸川珠代参議院議員等の 政治資金規正法違反の告発について オンライン会見】

YouTubeには、1日で4万を超える多数の視聴があり、コメントは、告発への共感・賛辞であふれている。丸川議員への「愚か者めが!」とのコメントも目立っている(民主党政権期の子ども手当法案の採決時に「愚か者めが!、このくだらん選択をしたバカ者ども絶対忘れん!」と大声でヤジったことが、その後、国会でも問題にされ、岸田首相も「議論を行う際の態度発言等において節度を超えていた」と陳謝している)。

清和政策研究会(安倍派)の政治資金パーティー裏金問題については、既に、派閥のほうは、所属議員の資金管理団体・政党支部への寄附だったが、政治資金収支報告書に記載されていなかったとして訂正を行っている。

今回の「政治資金パーティーの売上のノルマ超過分の「還流」ないし、「中抜き」(売上のノルマ超過分を議員側が派閥に入金せず留保することによって取得する方法)は、「収支報告書に記載しない」との前提で議員側にわたったものなのであるから、議員個人に帰属するものであり、それは、政治家個人への違法寄附(政治資金規正法21条の2第1項違反)又は個人所得であると、昨年末から再三にわたって指摘してきた(【政治資金パーティー裏金は「個人所得」、脱税処理で決着を!~検察は何を反省すべきか。】)。

議員個人の違法寄附が立件され起訴されていれば、違法寄附は全額没収され(政治資金規正法28条の2)、議員の手元に「裏金」が残ることはなかったはずだ。

ところが、検察は、所属議員の資金管理団体・政党支部の収支報告書の虚偽記入だけを立件し、松本氏を起訴し、安倍派がそれと平仄を合わせた収支報告書の訂正を行って、「捜査の終結」とされてしまったために、ほとんどの議員は処罰を免れ、しかも、納税すらせず、「単なる不記載」などと開き直る態度に終始しているのである。

当然のことだが、国民からは激しい怒りが沸き上がり、折しも、昨年秋のインボイス制度導入で、耐え難い負担をさせられ、しかも、確定申告にも苦しめられている時期であったこともあって、「自民党裏金議員」に対する怒りは炎上・爆発した。それらの「国民の怒り」を受けて、野党が国会で、裏金議員に対する「政治家個人に対する違法寄附」での処罰や所得税の課税について質問しても、岸田文雄首相は、「検察捜査の結果を踏まえて適切に判断するものと承知している」との答弁を繰り返してきた。

岸田首相自らが、安倍派幹部の聴取を行うという「異常な事態」となり、この混乱が収まる気配はない。根本的な問題は、検察が、個人あての寄附として捜査処分しなかったことが、「強力なディフェンス」となって、「裏金議員」の処罰・納税を免れさせてきたからなのである(【「裏金議員・納税拒否」、「岸田首相・開き直り」は、「検察の捜査処分の誤り」が根本原因!】)。

丸川議員も、「中抜き」の方法でパーティー券売上のノルマ超過分を得た「裏金議員」の一人だ。

しかし、他の議員とは異なり、その裏金が「政治家個人宛の寄附」であったことについての、弁解しようのない「決定的な根拠」がある。

一つは、「派閥からノルマ超過分は持ってこなくていいと言われた。資金は(自分の)口座で管理していた」と記者に説明していることだ。(「丸川珠代元五輪相、不記載822万円 『超過分は口座で管理』」毎日新聞2024/2/1 )この説明は、資金が個人に帰属するものと認識していたことを認めているに等しい。

そして、もう一つは、丸川氏に供与した資金について、清和政策研究会側が、今年1月31日に、同丸川が代表である「都参議院選挙区第4支部」への寄附であった旨の訂正記載を行っているのに、一方の丸川議員の側は、上記寄附を受けた旨の同支部の政治資金収支報告書の訂正を行っていないことである。

「清和政策研究会」の2020年分~2022年分の各収支報告書は、今年1月31日付で一斉に訂正され、そこでは被告発人丸川珠代が支部長である「都参議院選挙区第4支部」にそれぞれ寄附していた(2020年:100万円、2021年;195万円、2022年:217万円)と訂正されている。

ところが、「都参議院選挙区第4支部」の側では、2020年分~2022年分の各収支報告書で、「清和政策研究会」からの寄附を受領したとの訂正を行なっていない。

それは、その資金供与が、「都参議院選挙区第4支部」に対して行われたものではなく、丸川氏個人宛の寄附であり、同支部宛の寄附として記載することは虚偽記入に当たることを、丸川氏自身が認識しているからとしか考えられない。

ノルマ超過分を所属議員に供与するに際して、清和政策研究会側から「政策活動費なので収支報告書に記載しないでよい」と説明されていたことを、宮澤博行衆議院議員が防衛副大臣辞任の際の記者会見で明らかにしている。そのほか、自民党の調査に対する回答の中にもその旨の説明がある。

このような説明は、所属議員へのノルマ超過分の供与は、収入について収支報告書への記載が義務づけられている資金管理団体・政党支部・国会議員関係団体等に対する寄附ではなく、収支報告書への記載義務がない議員本人に対する寄附であることの根拠だと言える。

上脇教授は、今回の「裏金問題」の発端となる自民党派閥政治資金パーティーをめぐる政治資金規正法違反の告発を行った人であり、その後も、マスコミ報道で明らかになった事実等について告発を行ってきた。安倍派からの所属議員への「裏金」が、政治家個人宛の違法寄附であることについて、上脇教授と私は同様の問題意識を持ち、検察の捜査・処分に疑問をもってきた。そこで、上脇教授と私とで、政治家個人宛の違法寄附としての告発の対象とすべき議員について検討を重ねた末、前記の2つの「決定的根拠」がある丸川氏について、起訴されることへの「確信」をもって、違法寄附を受けた事実で丸川氏を、その違法寄附を行った事実で清和政策研究会側の松本氏を告発したのである。

上脇教授と私とは、2022年5月にも、同年2月に行われた長崎県知事選挙における選挙コンサルタントに対する約400万円の買収の事実について、大石陣営の出納責任者を長崎地検に告発した。

通常、現職知事の当選無効につながる公選法違反事件の告発があれば、「百日裁判」を求める公選法の趣旨からしても、早期に捜査・処分が行われるのが通例だが、長崎地検は、2年近く経過した今も処分を行っていない。政治的影響を懸念して起訴はしづらいが、不起訴にしても検察審査会の申立が行われたら覆る可能性が高いので、不起訴にもできないということで、処分が先送りされているとしか考えられない。

しかし、今回の丸川氏と松本氏の政治資金規正法違反の告発については、早急に捜査して処分をせざるを得ないであろう。2021年分の195万円の違法寄附の実行の日が、安倍派の政治資金パーティーが行われた同年5月以降と考えられ、3年で公訴時効が完成してしまうからである(寄附の日は公表されていないが、検察の捜査で当然特定されているはずだ)。長崎地検の公選法違反事件のように、処分を先延ばしすることはできない。

もし、この違法寄附について、検察が不起訴にしたとすれば、当然、検察審査会に審査申立を行うことになるし、既に述べたように「政治家個人宛の寄附」であることは否定しようのない事実なので、起訴相当議決が出る可能性が高い。

この事件は、これまで「裏金事件」で、「政治家個人宛の違法寄附」に目を背けて裏金議員の処罰と納税を免れさせてきた検察の捜査処分全体を揺るがす「蟻の一穴」になり、それによって、今回の「裏金事件」をめぐる構図が激変する可能性がある。

そもそも、安倍派で所属議員に渡った政治資金パーティーの「裏金」について、裏金議員が処罰されず、課税すらも免れていることが、国民の怒りが炎上し、政治、そして、国会が、ここまで混乱することにつながった。

今回の告発が、このように極めて重要な意味を持つことは、【上記オンライン会見】での私と上脇教授の説明からも、容易に理解できるはずだ。会見に参加した社の中で、実際に会見の記事を出したのは、共同通信と時事通信の配信だけだが、今後も、検察の告発受理、検察の処分、検察審査会への申立など、事態が進展すれば、今回の告発が裏金事件の核心に関わるものと認識されることになるはずだ。

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「裏金議員・納税拒否」、「岸田首相・開き直り」は、「検察の捜査処分の誤り」が根本原因! 

予算審議の舞台が衆議院から参議院に移った国会では、「派閥政治資金パーティー裏金問題」での追及が続いている。

問題は、二つに絞られてきている。第一に、2022年に安倍元首相によりいったん還流が中止されることになったのに、安倍氏の死後に還流を実行することになったのは、誰がどのように決めたのか、第二に、政治資金パーティー売上の還流の裏金を受領した議員に対する所得税課税の問題だ。

第一の問題については、衆議院の政治倫理審査会で3人の元安倍派幹部が出席して弁明を行ったが、22年8月上旬の幹部の話合いの際、還流の継続が決まったか否かについて、西村康稔氏と塩谷立氏との間で話が食い違うなど、ますます疑惑が深まった。

参議院の政倫審では、その話合いに加わっていた世耕氏が「知らぬ存ぜぬ」の弁明に終始したことに対して、その後、政倫審に出席した西田昌司氏からも、世耕氏に対して厳しい批判が行われるなど、安倍派幹部に対する「風当り」は一層厳しいものになっている。

昨日(3月18日)、下村博文氏が政倫審に出席した。安倍氏の死亡後、安倍派内部で中心から遠ざけられていた下村氏が、それまでの幹部とは異なる発言を行うのではないかが注目されたが、結局、新たな話はなかった。

本来の事実解明の場とは言い難い国会の政倫審で、疑惑への弁明と質疑による事実解明に期待が集中していること自体が、極めて異例であり、まさに混乱を象徴している。

「異例の事態」に至った理由

このような異常な事態になっているのはなぜか。

昨年12月から年初にかけて、地方から50人もの検事を動員し、膨大な国費をかけて行われた検察捜査が、政治資金パーティーによる裏金に対する国民の怒りに火をつけ、検察リークとしか思えない報道で裏金問題が炎上拡大したのに、捜査の結果明らかになった事実は、「各年の不記載の金額」以外全く表に出ないまま、既に起訴から2か月が経過していることに根本的な原因がある。

裏金還流の経緯を直接知っているはずの派閥会計責任者については、1月下旬に起訴されて以降、公判に向けての動きもなく、その供述内容について何の情報もない。そうした中で、「知らぬ存ぜぬ」を繰り返す安倍派幹部に質問を繰り返しても意味がない。

裏金議員への課税を阻んでいるのも「検察の捜査処分」

第二の点については、キックバックを「政治資金収支報告書に記載しない」前提で受領し、そのまま議員個人が保管していた事例もあることが、自民党のアンケート調査で明らかになっており、明らかに個人所得だと思えるのに、議員側には納税に向けての動きはなく、国税当局の税務調査も行われている気配はない。

昨年秋、インボイス制度が導入され、国民の多くがそれによる負担の増加に苦しんでいる。しかも、国会での追及が、確定申告の時期と重なったこともあって、「裏金議員が所得税を免れていること」に対する国民の不満が一層強烈なものとなった。

裏金議員の所得税納税の問題について、岸田首相は、国会で「裏金議員は所得税を納税すべきではないか」と追及される度に、「検察捜査の結果を踏まえて、適切に判断されるべき」との答弁を繰り返している。

裏金議員も、「政治家個人に対する寄附禁止規定が適用されるべきではないか」との指摘に対しても、「検察当局が厳正な捜査をした結果、そのような罰則適用は行われていない」として、同規定違反を否定する答弁を繰り返している。

検察捜査の方向性に重大な問題があった

岸田首相が、野党の追及をかわす最大の拠り所としているのが「検察の捜査処分」だが、そこには、重大な疑問がある。

最大の問題は、検察の捜査処分が、「政治資金規正法の『大穴』」の問題を無視したものであったことだ。

私は、この問題について、Yahoo!ニュースの当欄への投稿や、著書【歪んだ法に壊される日本 事件・事故の裏側にある「闇」】(KADOKAWA:2023年)等で、政治家個人にわたった「裏金」について、政治資金規正法での処罰が困難であること、この「大穴」を塞ぐ法改正が必要であることを訴えてきた。

今回の裏金受領議員についても、その「大穴」によって処罰が困難であることを、私自身の発信や様々なメディアへの出演で指摘してきた(【日本の法律は「政治家の裏金」を黙認している…「令和のリクルート事件」でも自民党議員が逮捕されない理由】など)。 

政治資金収支報告書というのは、個別の政党、政党支部、政治団体ごとに会計責任者が提出するものである。国会議員の場合、政治団体である「資金管理団体」のほかに、自身が代表を務める「政党支部」があり、そのほかにも複数の国会議員関係団体があるのが一般的だ。つまり、一人の国会議員に「財布」が複数ある。

政治資金規正法で、政治資金の収支の公開の問題として罰則の適用の対象になるのは、どこか特定の政治団体や政党支部に収入があったのにそれを記載しなかったとか、それに関連して虚偽の記入をしたことである。

議員個人が「裏金」として政治資金を受け取った場合、それは、その議員に関係する政治団体・政党支部のどこの収支報告書にも記載しない、という前提で領収書も渡さずやり取りする。ノルマを超えたパーティー券収入の還流は銀行口座ではなく現金でやり取りされ、収支報告書に記載しないよう派閥側から指示されていたとされており、議員の側は、どの政治団体の収支報告書にも記載しない前提で「裏金」として受け取り、そのまま、どの収支報告書にも記載しなかった、ということである。

その場合、その還流金をどの収支報告書に記載すべきだったのかが特定できないので、政治団体等の収支報告書の不記載・虚偽記入罪は成立しないのである。 

検察捜査は、この「政治資金規正法の『大穴』」の問題があることを踏まえて行われるべきだった。

政治資金規正法21条の2第1項は、「政治家個人宛の政治資金の寄附」を禁止している。

会計責任者、議員本人に、「収支報告書に記載しない前提の金である以上、資金管理団体、政党支部などに宛てた政治資金ではない」として、収支報告書を提出不要の「政治家個人宛の寄附」として受け取ったことを認めさせる方向で捜査を行うべきだった。それによって「政治家個人宛の寄附」であることの立証が可能になり、同時に、それを議員の個人所得としての課税することにもつながったはずだ。

しかし、実際の検察の捜査は、それとは真逆の方向で、還流金が資金管理団体などの政治団体に帰属していることを認めさせ、それをその政治団体の政治資金収支報告書に記載しなかった問題としてとらえようとした。

その結果、検察捜査は、裏金議員の殆どが刑事立件すらできず、僅かに正式起訴した池田佳隆及び大野泰正の2名の国会議員についても、果たして有罪立証ができるのかすら疑わしい(【「裏金」事件の捜査・処分からすれば、連座制導入は「民主主義への脅威」になりかねない】)という惨憺たる結末に終わった。

裏金議員が所得税申告をしたら「検察に喧嘩を売る」ことになる

この問題に関して、3月14日のBSフジ「プライムニュース」に出演した元検事の高井康行弁護士が、興味深い発言を行った。

これまでにも特捜捜査が社会の耳目を集める度に、検察実務に詳しい識者としてテレビ等に出演し、検察・特捜部の代弁者のような「解説」を行っている高井氏だが、今回も、まさに「検察の論理」から、「裏金議員への所得税課税」を全面的に否定した。

高井氏は、

今回の事件は、派閥から政治団体にキックバックされている案件。派閥から議員個人にキックバックされているわけではない。当然検察も、派閥から政治団体にキックバックされた、だからキックバックされた金は政治団体に帰属するもの、だから収支報告書に書かなければいけない、という論理で起訴している。

政治活動費として受け取った金から政治活動として現に使ったものを差し引いた残りがあれば、雑所得として課税されるが、東京地検特捜部の捜査で政治団体に帰属すると認定されているのだから、これはその、所得税法の問題は生じない。

などと説明した上、

仮に、キックバックされた、政治団体にキックバックされたものを私はこれ個人的に全部雑所得として申告しますなんていうことをやったら、検察に喧嘩を売るのかと。検察は、政治団体に帰属していると言っているにもかかわらず、これは個人所得だということだから検察の認定を争うことになる。おまけに、仮にそうだとすると、政党以外からは議員個人は寄附を受けてはいけないことになっているから、不記載罪、虚偽記載罪にはならないかもしれないけれども、個人で寄附を受けてはいけない、政党以外からは受けてはいけないという規定に引っかかって懲役(ママ、正しくは「禁錮」)1年以下あるいは罰金50万円以下になるんです。ですから、仮に今回受け取ったもの、政治団体にキックバックされたものを全部私の所得でございます、と申告したら、とんでもないことが起きる。

と発言した。

裏金議員への課税問題について、検察が説明をするとすれば、高井氏の発言のとおりだろう。しかし、さすがに、そのような説明では検察の処分に対して世の中の理解は全く得られない。しばしば記事上に出現する「匿名の検察幹部」ですら、そのような解説はしてこなかった。

高井氏の発言は、今回の事件で、裏金受領議員が所得税の納税を免れている根本的な原因が検察の捜査処分にあること、検察の捜査の方向が根本的に誤っており、その「やり損ない」によって、裏金議員が処罰も納税も免れる現在の状況に至っていることを端的に示すものである。

検察の捜査・処分は正しかったのか

高井氏の発言は、法的、実務的な観点からの一般論としては間違ってはいない。しかし、「裏金議員には納税義務はない」との結論は、すべて「検察の処分が正しい」ということを前提にしており、検察の捜査処分の問題はすべて度外視している。そもそも、いかなる根拠で、「裏金の帰属」が政治団体だと認定したのか、その点についての重大な疑問を完全に無視している。

「検察の論理」からすれば、裏金議員が所得税の納税を行うことは、検察の認定と矛盾することになるので、「検察に喧嘩を売る」ということになるというのは、確かにその通りだ。つまり、国民の多くが当然だと思い、税の専門家も当然視している「裏金議員への課税」を免れさせているのは、今回の「裏金事件」に対する検察の捜査処分そのものなのである。

高井氏は、「今回の事件は、派閥から政治団体にキックバックされている案件、だからキックバックされた金は政治団体に帰属するもの」と断言している。しかし、なぜ「政治団体に帰属する」と言えるのだろうか。政治団体の銀行口座にでも入っていればそうかもしれないが、事務所に現金のまま保管していた議員も複数いる。だとすると、そもそも「政治団体」に帰属するものなのかははっきりしないし、帰属するとしても、その「帰属する政治団体」が、資金管理団体なのか、政党支部なのか、それとも国会議員関係団体なのかわからない。少なくとも「収支報告書に記載しない前提」で渡された金なのだから、授受の段階では、どこの団体に帰属するということは、決まっていなかったはずだ。

検察はどうするべきだったのか

政治資金規正法上、政治団体、政党支部への政治資金の寄附であれば、その団体の収支報告書に収入として記載しなければならない。一方、政治家「個人」への政治資金の寄附であれば収支報告書の提出義務自体がない。常識的に考えれば、今回の事件で安倍派から所属議員にわたった裏金は、議員個人宛ということになるはずだ。

議員個人宛だということになると、高井氏が指摘するように、政治資金規正法21条の2第1項違反となり、禁錮1年以下・罰金の罰則の対象となる。

この場合、個人の雑所得となるが、議員個人の政治活動に使った分は所得から控除される。

一方、政治資金の寄附ではなく、「個人所得」(パーティー券の販売の報酬として「自由に使ってよい金」として渡った場合)であれば、全額が所得税の課税の対象となる。

裏金議員が、そのように個人宛であったことを認めて、所得税の納税を行うことが、「検察に喧嘩を売る」ことになることは確かだ。しかし、それは、捜査の方向性を誤った検察にとって「とんでもないこと」であっても、裏金の実態に即した問題解決という面では当然なのである。

高井氏が言うように、「個人所得だということだとすると、政党以外からは議員個人は寄附を受けてはいけないことになっているから、個人で寄附を受けてはいけない、政党以外からは受けてはいけないという規定に引っかかる」のであるから、検察はその罰則適用を真剣に検討すべきだったのではないか。禁錮刑が比較的軽いとは言え、同規定は議員個人にかかるものであり、処罰されれば、公民権停止で議員失職となる。「政治家個人宛の寄附の禁止規定違反」で立件可能であれば、捜査がその方向に向けられるのが当然だ。

しかし、検察が、この「政治家個人宛の寄附の禁止規定違反」の立件を想定して捜査を行ったという話は全くない。裏金議員の所得税の課税の問題で世の中の不満が高まっている大きな原因が、本件裏金事件についての検察の捜査の方向性の誤りにある。 

野党は国会ではどう追及するべきなのか

こう考えると、国民の疑問や不満の前に、「検察の捜査処分」が立ちはだかり、真相を覆い隠し、裏金議員に納税を免れさせる構図が、この問題をめぐる混乱につながっているといえる。野党の国会での追及も、そのような構図を踏まえ、裏金議員の「検察捜査に依拠した言い訳」を取り払うことに向けられるべきであろう。

私は、昨年12月から今年1月にかけて、立憲民主党の国対ヒアリングに3回出席し、「政治資金規正法の『大穴』」の問題について解説し、法務大臣に「指揮権」を根拠に法務・検察当局へ説明させるよう求めていくこと(【指揮権に対応できない小泉法相は速やかに辞任し、後任は民間閣僚任命を】)についても自説を述べた。

しかし、残念ながら、それが、その後の国会質問に十分に活用されているとは思えない。

まずは、今回の裏金事件の根本にある「政治資金規正法の『大穴』」の問題に関して、法務省に、「収支報告書に記載しない前提で政治家側に渡された『裏金』」の帰属先をどう判断するのかを問い質すべきであろう。検察が「裏金は政治団体に帰属した」と判断したことの根拠がないこと、それが議員個人に帰属していることが自ずと明らかになるはずであり、裏金議員に当然の所得税納税義務を果たさせることにもつながるはずだ。  

そして、自己に不利な真実を語るはずもない安倍派幹部を政倫審の場に引き出して問い質すことより、検察に被告人の権利を害することなく、公判への影響が生じない範囲で捜査結果を公表させることを、法務省に求めるべきだ。検察が応じないのであれば、検事総長に対する指揮権(検察庁法14条)に基づいて、捜査結果についての説明を求めることも可能だ。今回のように、日本の政治そのものに重大な影響を与える事件で、検察に可能な限り国民への説明を尽くさせるようにすることも、法務大臣の重要な職責と言うべきだ。

このような「法務大臣に対する追及」によって、「検察の捜査処分」は言い訳にはならず、裏金を受領した議員に所得税の納税義務があることは自ずと明らかになるはずだ。

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